Coolier - 新生・東方創想話

CHILLY BLUES

2008/06/27 22:35:02
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この作品にはシリアスな(?)展開が含まれております。チルノはバカのままで良いと言う人はご注意ください







 馬鹿であろうと、愚かであろうと、生き方を間違えなければいい
 最後に泣くのが誰なのかは、明確なのだから


 CHILLY BLUES


 湖に波紋が広がって行く。午後から降り出した雨は、勢いを強めるわけでも衰えるわけでもなく、しとしとと振り続けていた。雨を望んでいたのか否か、蛙たちがいっせいに鳴き声をあげる。私はそれが鬱陶しくてたまらなかった
 人が考え事をしていると言うのに、ここの蛙共ときたら・・・
「・・・・・・・・・」
 掌をそっと開き、ぎゅっと握りしめる。それだけの行動で、蛙たちの鳴き声は止んだ。鳴き声を凍らせる事もできるけれど、それよりは本体を凍らせた方がよほどいい
「・・・また、やっちゃった」
 いとも簡単に、私は蛙を凍りつかせたのだ。そのための動作は手を開いて握るだけ。誰がどう言おうとも、忌むべき能力であることは間違いない
「またお前か・・・! 一体いつになれば懲りるんだ!」
 どうやら厄介な存在を目覚めさせてしまったらしい。この池に住む大蝦蟇の妖怪である。腐っても妖怪、とてもではないが妖精に相手が務まるような存在ではない。そもそも、妖精ではこの妖怪を怒らせるほどの事すら適わないだろう
 普通の妖精なら、である
「うるさいなぁ・・・」
 私は周囲に誰も居ないことを確認すると、片腕を振るった。降り注ぐ雨が、氷の刃へと変化する。それを見てとった蝦蟇妖怪が慌てたように湖に潜行しようとして
「――え?」
 表情を凍らせる。なるほど、相手の思惑を外してやれば、表情を凍らせる事も出来るのか。私の能力は冷気を操ること、凍らせるのがその全てではないが、また一つ自分の能力を知った気がした
「湖の中に居て、私に敵うと思っているの?」
 そう、前回は相手を直接凍らせようとしたから敵わなかったのだ。湖そのものを凍らせてしまえば、相手は動くことすらままならず、その結果
「・・・! 妖精如きに・・・!」
「あぁ・・・それは言っちゃ駄目だよ」
 妖精のくせに、妖精の身分で、妖精の分際で。それを口に出してはいけない。少なくとも、今の私の前ででは。何故なら、私はそのことについて考えていたのだから
 たとえその言葉を紡がなかったとしても、蝦蟇妖怪の結末は変わらなかっただろう。冷気に覆われた空間に降り注ぐ雨は、それを氷の弾幕へと変化させる。私は気だるいのを隠そうともせず、宣言をした
「氷符・アイシクルフォール・・・」
「ちょっと待・・・っ」
 無駄だ。流石に降り注ぐ雨は私にも止められない。まぁ、暫くすれば冷気も治まるだろう。大事には至らない筈である。私は驚愕のまま意識を失った蝦蟇妖怪を放って湖を抜け出した

「妖精如きに・・・ねぇ」
 どこが妖精だと言うのだろうか。氷の羽根、冷気を操る能力、そしてなによりも、思考回路。私は自分が妖精であることが信じられなかった
 そもそも妖精とは複数で集って生きているものだろう。私は生まれてからずっと、独りで生きている。集う相手も、程度の低い妖怪である。私は妖精と言う存在から逸脱していた
『貴女は少し力を持ちすぎている』
「そんなこと・・・言われる前からわかってるわよ」
 誰かに言われたわけではない。誰かにそそのかされたわけではない。それでも、私は自分が妖精として異端であることを確かに知っていた。だからせめて、たち振る舞いだけは妖精らしく生きてみようと思ったのだ
 そうしなければ、私のような存在はすぐに消えてしまうだろうから
「だけど、言われるとまた利くもんねー・・・」
 言われるまでもない言葉は、それでも言われれば確かに響いた。あの閻魔は直接こう言ったのだ『貴女は妖精として異端である』と
 わかっていた。私は妖精として生まれたことが間違っていたのだと。私は間違った存在であると。だから閻魔は私に釘を刺したのだ。これ以上その力を使い続ければ、私は消滅してしまうだろうと
「だからって、どうすればいいのよ・・・」
 ならば妖怪になりたかった。そうでなくても、人間なら許されたのだろうか? 私自身、どうして自分が妖精なのか、わからないのだから
「馬鹿なら良かった・・・。愚かなら良かった・・・。そのことに気付かないくらい、脳がなければよかったのに・・・」
 自らが異端だと気付かなければ、自らが異常だと気付かなければ、苦しむことはなかっただろうに。私は気付いてしまった。だから、演じなければならない。馬鹿で愚かな、妖精の役を
 馬鹿だと言われてもいい。愚かだと呆れられてもいい。ただ一つ、妖精として異常だと気付かれなければ、それでいい
 指をさして笑われようと、呆れ離れられようと、それでいいのだ
「笑いたければ笑えば良いわ・・・。だけど私は、笑えないのよ・・・」
 あの閻魔は、私を救おうとしたのだろう。妖精らしい生き方をしていないと、危険だと。だけど、既に手遅れだったのだ
「消えたくない・・・」
 妖精とは、自然の具現である。だから、消えることに恐怖など抱かないのだ。そもそも、自分が消える事はないと思い込んでるが故に。私の様な、異端でなければ
「消えたくないよ・・・!」
 私は居ても立ってもいられず、上空へと飛びあがる。私は妖精だ。妖精でなければならないのだ。演じていることに気付かれず、演じ続けなければならない

「・・・っと、危ないな。なんだ、どこぞの氷精じゃないか」
 私は背後からかけられた声に振り返る。霧雨魔理沙が箒に乗ったままこちらを見ていた。そうだ、それでいいんだ
「出たわね、白黒! 今日こそは決着を付けてやるんだから!」
 相手の言い分などお構いなしに、私はいきなり弾幕を展開する。それを見た魔理沙は呆れたように距離を取った
「ったく・・・お前も懲りないな? 仕方ない、少しは利口になるように相手してやるか」
 こちらの弾幕を器用にかわしながら、魔法で出来たミサイルを展開していく。毎度のことながら、脳のない奴だ。同じ手法を何回も使われては、流石に避け方くらいは把握してしまうと言うのに。だから巫女に勝てないんだお前は
「うわわわっ!」
 それを回避することなく、私は被弾する。魔法に込められた魔力を冷気で弱くしてあるので、大したダメージにはなっていない。しかし、相手から見れば完全に被弾したように見えるだろう
「このぉ・・・! 氷符!アイシクルフォール!」
 続けざまにミサイルを連射する魔理沙に、先ほど蝦蟇妖怪に浴びせたのと同じスペルを宣言する。降り注ぐ雨の軌道を無理矢理変えながら、相手へと放つ。ここで相手の後方に回りこめば、2方向からの弾幕となるのだが
「相変わらず隙間だらけだな!」
 1方向からの弾幕をいとも容易く魔理沙はかわす。そうだ、それでいいんだ。これはあくまで妖精の悪戯にすぎないんだから
「ちょっとー! そんなにひゅんひゅん避けるなんてずるいわよー!」
「おいおい・・・そう言うことはもう少しまともな弾幕を張れるようになってから言ってくれよな」
 私の言葉を、魔理沙は笑って否定する。それはそうだ、私の言っていることが無茶苦茶なのだから。だけど、こうでなくてはいけない
「これならどうだぁ!」
「おっと・・・甘い甘い!」
 私の放つ弾幕を魔理沙は次々と回避していく。きっと相手から見る私は、とても弱く映っているだろう。そうでいいんだ・・・
「お次は何をしてくれるんだ?」
「ふん! そんな減らず口を叩けるのも今のうちよ!」
 私は馬鹿でなければならない。私は愚かでなければならない。私はちっぽけでなければならない
 馬鹿だと笑われていいんだ。愚かだと嘆かれてもいいんだ。ちっぽけな存在であればいいんだ
 その生き方が、私を私で居させてくれるのだから・・・
「あたいってば最強ね!」




――End
 花映塚のチルノの会話がさりげなく頭良さそうだったんで
 映姫との会話とかも応用しつつ、こんなチルノの出来上がり
 思ったより暗い話になってしまったね 反省

「あたいってば最強ね!」
「はいはい・・・」

 08’06/23
DawN
http://plaza.rakuten.co.jp/DawnofeasterN/
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コメント



0.260簡易評価
1.無評価シリアス大好き削除
このチルノも新鮮味があって、中々でしたGJ!

後、思ったんだけど...チルノ、妖精→氷の精霊に進化すれば良い様な気がするんだけど...無理か
3.無評価名前が無い程度の能力削除
長編の連投はまだわかるんですけれど、
短編の発表はまた日を改めて行った方が
良かったように思いました。