Coolier - 新生・東方創想話

I WAS HORN TO LOVE YOU

2008/06/25 02:07:24
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 ある満月の夜、妹紅は慧音の家に立ち寄った。
しばらく談笑が盛り上がったこともあり、妹紅が気付いた時にはすっかり夜も更けていた。

「どうだ、妹紅。もう遅いし今日は泊まっていかないか」
 
 わさわさと慧音が尻尾を揺らした。

「いや、今日は帰るよ」

「どうしたんだ、妹紅。いつもなら喜んで泊まるはずじゃないか」

「気分の問題だ」

 ぱしん、と尻尾が畳を打ち
慧音がにわかに妹紅の手首を掴んだ。

「さては輝夜と殺し合い、それも夜通しか」

「関係ないだろう」

「いつもの私ならいざ知らず、満月の夜となれば行かせない」

じろじろ睨まれて妹紅は一瞬目をそらした。

「いつものことだろう、どうせ死にはしないんだ」

「お前が血だらけで転がるのを見るのは忍びない」
 
 一歩も動かんとばかりに手首を握る力が強まり
妹紅は溜息を吐くと、すかさず慧音に足払いを掛けた。

「おわ」

 慧音はこの時運悪く、妹紅の方に近付こうと体重移動を始めた所であった。
そのため本来なら怯ませて手を振り払うだけのつもりの足払いは妹紅の予想を外れ
慧音の軸足を完璧に掬い、勢いの付いた慧音の体は畳を離れ前方に吹っ飛んだ。

「あ」

 派手にすっ転んだ慧音が頭から壁にぶつかったのを見て、妹紅は駆け寄った。

「痛っ」

 何かを踏みつけた妹紅が足下を見ると、円錐をねじ曲げた様な形のベージュ色の
物体が落ちていた。妹紅は首を傾げた。

「痛いじゃないか」

「すまない」

 顔を上げた慧音を見て違和感を覚えた。


 こいつ、角が短くなってないか。


 ふと、先程の物体が気になり手に取る。


 これは角ではないのか。


「痛いぞ、妹紅」

「あ、ああ、すまない」

 残った方の角と比べて約八割、左の角が生え際やや上からぽっきり折れている。
 妹紅は狼狽した。

「お前、何を持っているんだ。」

「これは」

「見せてみろ」

「止めろ、あっ」

「ん、これは、…あっ、あああっ」

 ぱん、と自分の頭の上を押さえた慧音は洗面所に駆け込んだ。

 そして現在、居間でしょんぼり落ち込んでいる。

「慧音。その、悪かったよ」

 尻尾が力無く揺れた。

「あんなに脆いとは思わなかったんだ…あれは、そんなに大事なものなのかい」

 頷く慧音の目に涙が溜まっていた。

「痛いのかい」

「痛くはない…」

「私は生まれつき角が無いから、どうすればいいのかよく分からないんだ。
ごめんな。ごめんな」

 妹紅が、短くなった角を撫でるとすすり泣く声が大きくなった。

「ずっと、ずっと」
「ずっと? 」

「ずっと、自慢だったんだ。満月のたびに長さを測ってそれで」
「それで?」

「少しでも伸びるたびに喜んで、形を整えるのが楽しみだったんだ」

「すまない、出来る限りのことはする」

「新しい角」

「え」

「新しい角が欲しいんだ」
 
 冗談かと思ったが、ぼろぼろ涙をこぼしているからには違うらしい。

「歴史をいじって何とかならないかい」

「自分の体をいじると後が怖い」

 妹紅は頭を抱えた。

「ボン」

 ボンドでくっ付けてやるよ、と言いかけたが止めた。

「医者の所に行こう」


 妹紅が永遠亭の扉を叩いたのは、真夜中の事だった。
そのためか、輝夜との約束をすっぽかしたためか、定かではなかったが
いきり立った永遠亭メンバーは今にも襲いかからんばかりの形相で妹紅を睨んだ。
もしも、慧音がいなかったら戦争である。

「その、ほっかむりは何? 馬鹿にしてるの? 」

 永琳は寝ぼけ眼をこすりながらも、こめかみにくっきりと青筋を立てていた。

「実は」
 
 妹紅が慧音の頭に巻いた手拭いを取るなり、薬師は大爆笑した。

「この真夜中に何かと思えば…、角がっ角がっ」
 ブハハハハハハハハハハハ。

「先生、真面目に見てください」

「折れた角は? 」
 
 妹紅が、折れた角を永琳に渡した。

「どれどれ、うーん。ボンドでくっ付ければ」
 
 今度は妹紅が噴き出した。やはり、考えることは同じである。

 慧音が泣き出した。

「慧音、泣かないでくれ。私まで悲しくなる」
 
 妹紅は先程の発言がツボに入ったらしく腿をつねり上げて笑いをこらえていた。

「ほら、いつもみたいに、おっけーね、ってやってくれよ」
 
 脇にいた優曇華も噴き出した。

 人間(彼らは人間ではないが)というのは誠に不謹慎な生き物で、笑ってはいけないと念ずると
普段なら何でも無いような事がとてつもなく愉快に見えてしまい、毛ほどの衝撃にも耐えきれず爆笑する。
慧音の苦しみは半ば理解出来ても、第一彼女の角には神経が通っていないし、血が出ているわけでもなく
それを持たぬ身からすれば「角が折れた」などというのは単なるコメディにしか見えなかった。

「ご、ごめんなさい。ちょっと外に出てくれる? 治療のことを妹紅と話し合うから」
 
 てゐに慧音の案内を頼み、待合室まで戻させると永琳と優曇華がもんどり打った。

 笑っても許されよう雰囲気に安心したのか妹紅も爆笑し、笑いの渦に包まれた部屋がびりびりと振動した。

「あ、あ、あれはないわ」

「どうして、あんなことに」
 
 そこで妹紅が今までの経緯を大まかに説明すると二人はばりばりと畳をかきむしった。

「壁に」

「つ、角が」

「く、苦しい」ヒーーッ、ヒィィ

 一通り笑い転げ、ある種の悟りを開いた三人は前後策について話し合うことにした。

「蓬莱の禁薬とかで何とかならないかい」

「普通の牛の角などを生やすのは訳もないけれど、ハクタクのあの」
 
 永琳は少し言葉に詰まった。

「可動式の角はどうしようもありません」
 
 そして、言い終わるや否や再び全員が畳の上を転げ回った。

「どうして、どうして師匠はそうやって笑かそうとするんですか」


 しばらくして慧音が部屋に呼ばれた。

「妹紅、あなたから説明して」

「慧音。落ち着いて聞いてくれ」
 
 狭い部屋が静まりかえった。

「折れた角は、接着剤でくっつける」

「大丈夫よ。最初は気になるかも知れないけど多分一体化するから」

「綺麗にぽっきり折れてたのが救いです」

 慧音は赤く腫れた目で妹紅を見ていたが、やがてゆっくり頷いた。

「すまない、慧音」

 永琳は小さなチューブを取り出すと、白い接着剤を絞り出して折れた角に塗り器用に修復した。

「やはり。少し痕が残るな」

「時間が経てば…、消える、かも」


 帰り際になって、優曇華が慧音に紙袋を手渡した。

「薬です」

「何の薬だ」

「カルシウムですよ、もしくっついても前より折れやすいんで気を付けてください」


 家に戻ってからも慧音は浮かぬ顔で角のつなぎ目を触っていた。

「慧音、あんまり触らない方がいいんじゃないか。その、ずれてしまったり」

「ほっといてくれ」
 
 気まずくなって、妹紅は下を向いてしまった。

「じゃあ、これをやるよ」

 少しして妹紅は自分のリボンを解くと、角のヒビが残った部分に結びつけた。

「もし、いやなら取ってくれ。それか気にならなくなったら外せばいい。大丈夫、全然目立たないよ」

 慧音の尻尾が微かに揺れた。

「気休めにしかならないだろうけど」







「まだ、リボン取らないのか」

 縁側で酒を煽っていた妹紅が慧音のリボンを指さした。

「ああ」

「あれから何度目の満月か数えてないが、もう治ったんじゃないのか」

「いいんだ、きっとまだ治ってないさ。それに気に入っている」

 笑って慧音は立ち上がった。

「代わりの酒を取ってくる」

「酔っぱらってるんだから、気をつけろよ。」

 ふらふらとした足取りを見た妹紅が心配した。

「大丈夫、大丈夫。そういやお前に言われて思い出したが、確かあの時の事件はここら辺で起こったっけな、おっと」

「気を付けろっ、危ない。」

「ああっ」

 自らの尻尾を踏み、つまずいた慧音は妹紅が止める間もなく再び頭から固い壁に吸い込まれていった。
こちらでは初めて書かせていただきます。
タイトルは「角まで愛して」ってことです。
慧音のリボンの内側にはこんな事情があるのかも。
yuz
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コメント



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1.70名前が無い程度の能力削除
そ、そんな馬鹿なっ!
5.100名前が無い程度の能力削除
な、なんだってー!
6.80名前が無い程度の能力削除
はて、尻尾に目がいってたので気づきませんでしたが、何かありました?
7.100名前が無い程度の能力削除
なんか噴いてしまったw
8.100名前が無い程度の能力削除
腹いてぇ
13.60名前が無い程度の能力削除
バッファローマンの絵面しか浮かばないww
20.100なまえをいれてください削除
なんか俺のツボにも入った
賢人のようなけーねが多い中
こういうけーねは珍しい気もします
25.80名前が無い程度の能力削除
いかん「ずれる」で腹がよじれたwwwww
26.90名前が無い程度の能力削除
不覚にも、おっけーね、で噴いたw
28.90名前が無い程度の能力削除
ドジなけーねもおっけーね
30.100名前が無い程度の能力削除
久しぶりに良い作品に出会えた気がする
33.80名前が無い程度の能力削除
まずい、なんか面白い!
乏しい語彙では上手く言い表せないですが……とにかく読んでて愉快。
37.100名前が無い程度の能力削除
前の方も書いている通り愉快な作品で楽しめた。
39.100名前が無い程度の能力削除
破壊力満点

角が折れたりしたけれど
なにはともあれ、おっけーね!
40.100名前が無い程度の能力削除
ゆで絵で脳内再生されて盛大に噴出した
42.100名前が無い程度の能力削除
転ぶなよ!絶対転ぶなよ!!


アッー
55.100名前が無い程度の能力削除
慧音の可愛さと妹紅の優しさが素晴らしいです。
それがブラックな笑いをさらに引き立てていると思います。
62.100名前が無い程度の能力削除
やべえおもすれえw
「ボン」

自分も昔、自転車でこけて歯折った時歯医者に行ったら強引にくっつけられたっけなw
あの時の痛みを思い出してしまった。
65.80名前が無い程度の能力削除
永遠組ひどいなww
68.90名前が無い程度の能力削除
このタイトルがQUEENの曲名だとコメントするひとがいないのかwww
75.100名前が無い程度の能力削除
おっけーね
77.80名前が無い程度の能力削除
すごい不思議な雰囲気。変な笑いがこみ上げてくる。
81.100名前が無い程度の能力削除
噴いた。
何が、とは言いません。
82.100名前が無い程度の能力削除
丁度元の曲を聞いてるときに見つけて、爆笑しながら読んでましたw
面白かったですw
87.90Admiral削除
いい話だと思ったのにw
オチがw
92.100ナル削除
笑かそうとするんですか
が一番笑ったwwwwwww