Coolier - 新生・東方創想話

うどんげがうどん作る話は閑話

2008/06/19 19:49:27
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 「あぁ……最近姫様がお暗い……」
 「いや、ひきこもってるだけじゃ」
 「というわけでてゐに頼んで姫様を外に放り出しました」
 「雨、降ってるんですけど」
 「ウドンゲ!うどんを作りなさい!」
 「ししょー?」
 「ウドンゲがうどんを作って姫様のもとへ持っていく。
  このハイセンスな笑いなら姫様の顔もきっとほころぶわ!」
 「今時うどんを作る私なんてどこでも見かけますけど。
  凄い所では私がうどんになっちゃったり」
 「まぁ、ウドンゲ!あなたうどんになれるの!?」
 「なれません」



 タン、タン、タン。
 雨が唐傘を打つ。

 「何で雨の日に姫様を外に連れ出せなんて言うんだろう」
 「隠し事でもあるんじゃない?」
 輝夜とてゐ、二人は竹林の中を歩いていた。寄り添った笹達が屋根になっている
とはいえ、雨漏りは止むことがない。てゐは傘も持たずに少し前を歩く。輝夜は唐傘を
持ってその後を続く。
 入ったら、と輝夜は誘う。
 兎は木の根元を掘って雨宿りするものです、とてゐはやんわり断った。
 枯れ落ちた笹が雨に濡れ、滑って歩き辛い。なかなか主想いの従者だと思う。
 タン、タン、タン。
 輝夜は普段が閉じこもりがちなので、新鮮な話題が見当たらない。なので、
てゐにばかり喋って貰っていた。
 とあるイナバが反抗期になって、若いイナバを引き連れてグレ始めた。
 年寄りイナバが腰を痛めて温泉に行った。土産の温泉ニンジンはクリーミーだった。
 子供のイナバが言葉を喋り始めた。
 「初めて相手と話す、ていうのはホント楽しいんです。私達は目や雰囲気だけでも
 大体のことは分かり合えるんですけど、やっぱりヒトそれぞれの声色って違うじゃないですか。
 若い兎の舌っ足らずな口から『こんにちわ』って言葉がこぼれるだけで嬉しくなっちゃいますね」
 「騙し甲斐があるって続くんじゃない?」
 てゐは悪そうに口元を歪める。



 「ウドンゲ、その動きは……!小林サッカーを見た人なら誰でも知ってる陰陽のこねこね!」
 「ホイチョー!宇宙を表す太極拳の前には小麦粉など玩具も同然!」
 「ていうか、食べ物で粘土遊びしないの」
 「どこぞの門番の出番を奪っちゃいたい年頃でして」
  うわーん!



 「姫様も何かお話して下さいよ」
 とてゐは言ってくる。と言われても、と輝夜は辺りを見回した。一面、竹が生い茂る。
 そうね、と言葉を紡ぎ始めた。
 「私を育ててくれた人達の仕事はね、竹を工夫して日常品にすることだったの。
 竹筒、竹椀、竹籠……私が来るまでは日々生きることに精いっぱいで、
 毎日忙しかったみたい……。でも私が来てからは、竹に砂金を詰めるなんて
 バカな事をする従者がいてくれたおかげで、暮らしに余裕ができた」
 それは良かったことかもしれない、と輝夜は言う。てゐは何も言わない。
 「それからおじいさんは私とよく遊んでくれてね。玩具ばっかり作ってたわ。
 竹馬を作って、競争したりね。私の方が速いんだけど、おじいさんは負ける度に
 『もう一回』って、凄い時には昼餉から夕餉までずっとやってたわ。
 竹トンボが一番楽しかったな。これはおじいさんの方が上手くて、私はいつも
 悔しくてよく『もう一回』ってせがんだわ。何度も飛ばしっこして、おじいさんを
 抜いたと思うと、おばあさんがすっと入ってきてね。ニコニコしながら、私達の
 竹トンボよりもっと遠くに飛ばすの」
 輝夜は微笑んでいる。負けず嫌いな家族ですね、とてゐも笑った。
 「おばあさんからは、こんな事も教わったわ」
 輝夜は若々しく落ちた笹の葉を拾う。少し土がついていたが、構わずに口元に当てる。
 息を細く、奏でる。

    …― ―――… …――……。

 タン、タン、タン。唐傘が拍子を取る。



 「ししょー、その液体なんですか?」
 「出汁よ」
 「何で緑色してるんですか。コンブ?」
 「スライムよ」
 「出てけ」
    うどんげはバシルーラをとなえた!
    やごころにはこうかがなかった。



 輝夜が笹笛を奏で始めてから少しして。
 今度は別の、はっきりした明るい音色が響き始めた。
 区切りがついてから、演奏を止め、てゐに聞く。
 「それ、何の唄?」
 「人間が作ってくれた、兎の為の唄ですよ」
 てゐはそう言って、再び口笛を奏でる。
 輝夜の笹笛が間延びした音を奏で、口笛の下に潜り込む。
 てゐの唄は笹笛に乗って、踊りだす。
 拍子が変わる度に慌ただしく、けれどつまづくことのない兎の唄。
 雨足も強くなり、唐傘を打つ音はばらばらと。
 即興で生まれた、下手くそな合奏。
                             『お宇佐さまの素い幡』



 「おネギに、あげ玉、カマボコ、油揚げ、あ、ニンジンも」
 「アスパルテーム、フェニルアラニン化合物、アセスルファムK、スクラロース……。
 うん、薬味もばっちりね!」
 「ししょー、それダイエットコークの甘味料ですよ」
 「あらあら、体に悪そうで嫌ねぇ」
 「そうですね。そう思いますから、ちょっとの間死んでて下さい」
     メメタァ!



 輝夜達が散歩から帰ってくると、頭から血を流している永琳と、すさんだ目をした
鈴仙が玄関で出迎えた。いつものことなので気にしない。輝夜は自室へ戻り、人心地つく。
 今度は月の楽器で演奏会でもしましょうか。イナバ達に音楽を教えて。
 そんなことを考えていると、戸を叩く音が聞こえた。
 「鈴仙です」
 といって、仏頂面の鈴仙が入ってくる。後ろには永琳もいた。鈴仙は、美味しそうな湯気を
立てた丼を置いた膳を胸高々に持ち上げている。
 「姫様に、元気になって頂きたいと思いまして」
 永琳が言う。丼が私の前に置かれる。うどんだった。
 はぁ。
 輝夜が反応に困っていると、永琳がガタガタと震えだした。
 「しまったわ……!冷やしうどんにすればレイセンうどんになったじゃないの!」
 そんな永琳を鈴仙は屋外へ吹き飛ばす。
 何事も無かったかのように、どうぞ、と箸を進めてくる。
 そんな二人がおかしくて、輝夜の顔はほころんだ。
 「ねぇ、今度また、うどんを作ってくれない?永琳の言うとおりに冷やして、
 竹笊に盛って、竹のお椀におツユを注いで、皆で竹箸で頂くの。
 食器は私が作るから」
 鈴仙は呆気にとられた顔をして、いいですけど、と頷いた。
 「まぁ、元気になって良かったです。まさかホントに私がうどん作った位で
 元気になるとは思わなかったので。
 姫様、センスないですね」

   ズルルル……。くすん、イナバがいじめる。


   ※皆様から温かいお言葉や評価を頂くことで、先日バク転ができる夢を
   見ることができました。楽しかったです。ありがとうございました。

     )煉獄様
     初コメントありがとうございます。『竹取物語』の解釈によっては、
     姫を五人の貴族に会わせようとする二人に出世欲が見えたり、
     かぐや姫を仏の化身と思って育てることでその恩恵を得ようとする
     打算的な意図が見える、とも読めるらしいです。一度そこから
     長くて独りよがりでややこしい輝夜の話を作ろうかとも思ったのですが、
     やっぱり子供の頃に聞いた昔話の老夫婦は良い人が良いですよね。
     良いなんて言って頂いて、ありがたやありがたや。

     )からなくらな様
     コメントありがとうございます。冒頭に輝夜が家を出る原因を載せたのなら
     ちゃんと話を膨らませれば良かったですね。勿体ないことをしたなぁ……。
     ご指摘ありがとうございました。
     鈴仙永琳大好きなんすよ。ただ好き過ぎるとしばしばこういう
     愛情表現をしてしまうというか……。お目に合わなかったら申し訳ありません。

     )名無し22番様
     コメントありがとうございます。両話を同じ時期に思いついた自分の頭を疑いたい。
     キャラは自分設定極まりないですが、お目に合えば幸いです。
     ウドンゲ「今時ウサ耳ブレザーだけじゃやっていけないんですよ」
       てゐ「鈴仙グレないでー!」

     )名無し23番様
     コメントありがとうございます。「テンポが良い」と感じて頂けたのなら自分の文章も
     もう本望です。割にオチはまとまった……ですよね?永琳にもうちょっと良い役を
     して貰った方が良かったかなぁとも。嬉し嬉しや☆

     )名無し24番様
     コメントありがとうございます。誤字報告ありがとうございました。修正させて頂きました。
     弱えーりん分もたまには必要だと思うんです。というか、二次設定の数々を見てると
     個人的にうどんげはいつか爆発するんだろうな、という印象が強く、しかしただキレさせる
     のもということで、えーりんがワリを喰う形となりました。
     ギャグは描写が苦手な分類なんですが、テンポを誉めて頂いて少し自信が持てました。
     喜ばしや喜ばしや。

     )名無し30番様
     コメントありがとうございます。天才の考えていることはよくわかりません。
     宇宙人など地球の民には到底理解できないのです。天才的な宇宙人である
     E氏の頭の中身とは一体なんぞやと。
     天秤がどちらかに傾いている文章ですが、読みやすいと感じて頂けたのであれば
     幸いです。褒めて頂いてホクホク。

     )名無し33番様
     コメントありがとうございます。もうそんな褒め言葉どう伝えれば自分の喜びが
     伝わるのか……!爽やかだなんて……!
     ただ本文章ではてゐが最後出てこないんですよね。彼女だけは雨に打たれていた
     んで、何故傘に入らなかったのか、帰ってから体冷やしてないか、なんか。ともすれば
     えーりんと絡ませてもっと上手く仕上げられたかなぁと、後に読み返して後悔しました。
     愚痴になってしまって申し訳ありません。ホント嬉しいです。

   ※やさぐれウドンゲが超お気に入り。
    今一度、ありがとうございました。


   ◎以前投稿させて頂いた「これが俺のすいマリ」になりますが、どうも
    既存のネタであったらしく、それを不快に感じる方がいらしたことを考慮し、
    削除しました。他にもそのように不快に感じられた方がいたのであれば、
    とても申し訳なく思います。
    また、皆様から頂いたコメントの数々はいつもとても喜んで拝読させて頂いて
    おります。そのようなお言葉の数々まで削除してしまうことは
    とにかく頭を下げるばかりです。
    せめてものと、ここに返信を残させて頂きます。

  ※皆様から温かいお言葉を頂き、もうなんと喜んでいいか……。ありがとうございます。

     )名無し1番様
      コメントありがとうございます。また、誤字報告ありがとうございました。
      修正させて頂きました。朝のテンションのお供になれたのであれば、
      もう、ウッハウハです。

     )名無し2番様
      コメントありがとうございます。
      魔理沙「ダメなんだぜ!霊夢のお茶は緑茶なんだぜ!」
         紫「これも幻想郷名物なのよ」

     )名無し5盤様
      コメントありがとうございます。自分はほうじ茶はアリだって書いちゃったんですが、
      色的にどうなんでしょうかねぇ……。笑って頂けて幸いわいわいです。

     )名無し9番様
      コメントありがとうございます。い、息切れてなん、か、ないんだから、ね……!
      いえきっと茶葉持参です。或いは主様が飲ませません!

     )名無し11番様
      コメントありがとうございます。紅い緑茶だって探せばありますよ!
      お酒は…… 魔理沙「来週、討論を行います」
      VENI氏のドクダミ一連の作品ですね。あの方の文はホント凄いですよね。
      ドクダ巫女「誰が私を否定できると言うの?」

     )名無し12番様
      コメントありがとうございます。大妖精の可愛らしさは何者にも代え難い。
      そう、例え世界中の金銀財宝を積まれようとも、大妖精の控え目な
      笑顔で俺の薄汚いハートはマッシヴマッシヴ!!!!
      すいません、調子に乗りました。

     )名無し13番様
      コメントありがとうございます。ホント紅魔館の面々には申し訳ないことを
      したなぁと……。やられてしまうにしてももっとかっこよく書けば良かった
      なぁと思っております。不快になりましたらお詫び申し上げます。

     )名無し18番様
      コメントありがとうございます。忍耐が足りん!廊下に立っとれ!スイマセン。
      俺の心の大妖精ははにかみ笑顔でマッシヴマッシヴ!
      すいません、廊下に立ってます。

     )名無し20番様
      コメントありがとうございます。いえね、ホント自分何書いてんだって感じで。
      あれ、ボクはだれですか?お褒め頂きありがとうございます。

     )名無し23番様
      コメントありがとうございます。
      ペルリ「こめんと、シテクダサイヨォ~」

     )名無し25番様
      コメントありがとうございます。イヤッホォォォォォォィッッッッ!!!!!!!!
      ヒュウウウゥゥウゥゥゥゥウゥウィイエアッッッ!!!!!
      ドンブリパスタァァァァ!!!!!!!!!!
      寒いっすね……すいません。

     )名無し27番様
      コメントありがとうございます。また、ご指摘ありがとうございました。
      既出のネタでしたら、誠に申し訳なく思います。
      この文章の掲示に問題があるとお考えになりましたら、
      お手数ではありますが、今一度、ご連絡を頂けないでしょうか。
      削除させて頂きます。
      あなた様に不快な思いをさせてしまったのであれば、
      ここに深くお詫びさせて頂きます。

     )名無し38番様
      コメントありがとうございます。その時、全世界に戦慄が走る……。
      笑って頂けたら超超幸いです。

   ※ホントあたたけぇ……。ありがとうございました。

 
       
 
 
 このような処まで読んで頂いて有難う御座います。
 休みだったので、珍しく夜更新になりますね。
 皆様のご意見・ご感想を筆者は心よりお待ちしております。宜しければどうぞ、
 お言葉を一言、残していって下さいませ。
 では今一度、有難う御座いました。
慶賀
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コメント



0.1510簡易評価
1.90煉獄削除
いい!とっても良い!
輝夜とてゐの話の場面が素敵です! 特に輝夜の昔の話がいいですね。
こんな過去もあったのかなぁ…。
しかし、その話にでてくる御爺さんと御婆さんは負けず嫌いというか綺麗な心をしているのですね。
21.70からなくらな削除
永琳がバカな人に見える・・
ひとつ申し上げるなら、輝夜が暗くなった理由を組み込むと、もっと深い作品になるかもしれません
22.80名前が無い程度の能力削除
えーりんとうどんげのギャグ、輝夜とてゐの真面目とある意味珍しい取り合わせですね。
弱えーりんと強うどんげは新鮮ですなw
>輝夜が暗くなった理由
ひきこもってるだけ
23.90名前が無い程度の能力削除
カラリとしたテンポがたまらないです。すぅっとした気持ち良さのある話でした。
24.90名前が無い程度の能力削除
誤字:やんやり断った →やんわり断った
えーりんが壊れてる…しかも弱いし。でもえーりんが弱くても鈴仙は苦労人ですね。
ギャグのテンポの良さと竹林の場面の綺麗さの落差がいいです。
30.90名前が無い程度の能力削除
ゆるーいうどんげ、永琳とちょっと真面目な輝夜とてゐの対比が
話にメリハリがついててテンポ良くスラスラ読めました。

永琳の思考回路がまさに宇宙人wwwww
33.90名前が無い程度の能力削除
とても純粋で綺麗で無垢なお話と、ダメで終わってるギャグの話。同居しているのが凄いですw
そして姫=てゐ組の爽やかさだけが読後感として残るので、素晴らしいとしか言いようがないです。