Coolier - 新生・東方創想話

スカーレット兄妹~七転八倒~

2008/06/15 23:16:48
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-諸注意

・オリキャラ物
・シリアス気味
・流血あり(弾幕勝負)

 以上を踏まえてからどうぞ

















 じめじめとした個室には光も何もなく、光源の通り道の窓も、光源を生み出す電灯も、そして、あらゆるものの通り道である扉もない。ごつごつとした石壁、湿気のせいでドロドロになっている土の床。密室のため、生物一つなく、塵一つない。真っ暗な個室、いや、地下にある物置には誰も入ってはならない。入ることが出来ない、と言うべきか。
 その物置には氷のような冷たさを保ちながら、ひっそりとたたずむ棺桶がある。大人が二人入っても充分すぎる程の大きさがある。所々には銀製の十字架が装飾され、錆びた銀製のナイフが無造作に散らばっている。棺桶には茶色い汚れ、棺桶とは違う別の鉄の匂いが漂う。そして、木で作られた簡易な十字架は棺桶の周囲をぐるりと一周し、その数およそ七十。この異様な光景を部屋の環境が後押しし、不気味さを彩らせる。
 ここは墓場のようなものだ。
 墓場といっても、普段目にするものとは明らかに違う。質素な墓石を置いただけのものでもなく、お偉方の大古墳でもない。忌々しく、嫌み拒まれていた者の墓。棺桶に入れられ、そのまま誰の目にも付かないような場所。それが、紅魔館の地下室だった。
 唐突に、棺桶が揺れた。
 棺桶の中には死人がいるのだから、地震や見間違い聞き間違いと考えるのが妥当な線だろう。しかし、棺桶は再び音を鳴らし、その有力な線を切り離した。暗い部屋では何も見えないが、棺桶が動く音だけは静かに部屋に響く。棺桶が地面を擦る音はだんだんと変化していき、次第に棺桶を叩くような音になっていた。がんがんと音が響き、がたがたと棺桶が揺れる。まるで、中から何かが這い出てくるように。
 音が鳴り止んだ次の瞬間、一際大きい金属音が鳴り響いたかと思うと、金属質の何かが床に叩きつけられる音が響いた。同時に、何者かの息遣いも小さくこだましていた。


                   *                    *                                   

 その日はいつも通りの健やかな晴天だった。青い空とは正にこのことに違いないと、レミリアは部屋から窓越しに空を見上げた。静かなティータイムを、偶には一人で過ごすのも悪くはない。紅茶を啜り、もう一度青空を見上げる。一時は自ら異変を起こしたとはいうものの、平和が良いことに変りはない。無意識に笑みが零れ、また紅茶を啜った。
 一週間の内、三日は紅魔館で過ごす。友人と他愛無い会話をしたり、その友人の腫瘍を追い掛け回したりと、割と暇な一日ではない。勿論、今日は例外だ。白黒魔法使いの来ない一日ほど、平和な日はないのではないか、と思えるほどだ。
 残りの四日の内、三日は博麗神社で一日を過ごす。大好きな友人と、ただぼーっと過ごすだけなのだが、それがまた少々変っていると、自分でも思う。無言の中にある心の言葉の駆け引きが、面倒ながらもなかなか面白みがある。出されるお茶も美味しいということだし、何より、退屈が潰れることが良い。
 余った一日は香霖堂、雑貨店へ向かう。そこにいる店主はなかなか珍しいものを取り扱っていて、なかなか飽きない。名前も分からないような珍品も少なくない。勿論、毎日品物を仕入れているわけでもないので、こうして週一回と決めているのだ。
 カップの底に沈む粉状の茶葉を、僅かに残った紅茶でかき回して遊ぶ。こんなくだらないことでも暇つぶしになるのだから、案外馬鹿には出来ない。そのまま一気に紅茶を飲み干し、椅子から飛び降りる。長時間座ると腰や背中が痛む。両手を組み、頭上に上げて大きく身体を伸ばす、指先を反らし、背伸びをしてつま先も綺麗に伸ばす。腕に結ばれていた糸が切られたように、両手をだらんと下ろす。今度は羽を思い切り伸ばす。蝙蝠風の羽を体の両端まで伸ばし、もうこれ以上は千切れる、というところで羽から力を抜いた。

「お嬢様、片付けさせていただきますよ」

 レミリアは小さく頷き、窓に腕を掛けた。咲夜はカップとクッキーが用意してあった皿を手に取り、隣の台所に消えていった。再び窓から外を見ても、空は綺麗な青色に染まっている。ただ、一つだけ小さな雲が漂っているのが不快だった。握り潰せばそのまま跡形もなく消えてしまいそうな小ささだったが、色は生粋の白ではなく、黒味を帯びたどろりとした灰色だったので、 恨事は不快へと姿を変えざるを得なかった。
 椅子へ腰を下ろし、落ち着いて深呼吸をしてからゆっくり目を閉ざす。
 暗い空間に、無数の糸が見える。糸の先は見えないほど遠い天から垂れ下がっていて、その糸はレミリアの手元まで伸びている。どれも色鮮やかで、それぞれの糸は赤、青、黄、緑、紫、白、黒の七色に彩られ、それぞれが絡み合い、二色や三色の太い糸となる。
 それら一本一本の糸は、レミリアにしか見ることが出来ない。他の誰が同じ真似をしてみても、目の前に空想の糸は映ったとしても、実体の糸は現れない。それもそのはず、それはレミリアの持つ能力、運命を操ることが出来る能力を持っている他ならない。
 それらは運命の糸。レミリアが糸を引けば、それに見合った運命に出会うことが出来る。勿論、操ることが出来るのだから、その糸も見ることが出来るのも当たり前だ。色が分かれているのはちゃんと理由がある。
 赤は友情、恋愛全般、簡単に言えば人間関係である。
 青は時間に関与、これだけは特殊で、色合いで見方が変る。
 黄は金銭、所有物に対応、お金や物に関係する事柄。
 緑は自然や生き物を指し、天候や生き物の生死に関与している。
 白は吉事、幸運を伝達、透けてしまいそうな汚れのない色。
 黒は凶事、不吉を意味、暗い色に相応しい役割だ。
 それら七色の糸が絡み合い、捻れ、レミリアの手元に来るときには必ず二色以上の色が合わさっている。その七色の中で、青はどんなときでも必ず入っている。その糸が紺色の時は、今その運命が下されている。藍色の場合は、近いうちに運命が控えているということ。生粋の青色であれば、三日は猶予がある。蒼色である場合は、殆ど気にする必要はない。そして、青系統の糸を中心に白か黒の糸のどちらかが合わさり、吉報か凶報かが決まる。後は残りの四色がそれぞれ混ざり、レミリアに運命を知らせる。しかし、今レミリアの手元にあるその糸は、まるで互いを欲するように複雑に交差し、それがあまりにも細かく絡んでいるので、手元の塊では判断できず、天を仰いだ。
 毒々しい真っ黒な糸、黒に侵された紺色の糸、乾燥した血のようなどす黒い赤い糸、光を放たない黄色の糸、消えて無くなりそうな翠の糸、そして、暗黒に満たされた禍々しい墨色の糸。それら全てが奇怪な色の塊を創造し、レミリアに運命を告げる。
 思わず目を反らずばかりか、目を見開いてしまった。傍では、咲夜が心配そうに見つめている。咄嗟に笑顔を作ったのは良いものの、咲夜はそんなことお見通しだった。

「ご機嫌でも悪いのでしょうか。それとも、体調を崩されましたか?」
「あぁ、いえ……ちょっと、嫌気が差してね」
「私に、でしょうか。……何なりとお申し付けください。ここで死してみろとでも、目の前から消えろとでも、それがお嬢様の命ならば」

 咲夜はたまに変なことを口走る。深く考えすぎているから、このような発言をするのだ。勿論、咲夜の忠誠の強さには主人であるレミリアも、十二分に満足している。だが、そこが欠点なのだ。紅魔館の主人である以上、ある程度の威厳を持ち合わせなければ、従者の忠誠を損ない、周囲からは理にそぐわない汚名を着せられるだろう。だが、レミリアはあまり堅苦しいのは苦手で、もう少し咲夜には砕けてもらわないと困る。
 それにしても、先程の糸。思い出したくもないが、青い糸は紺そのものだったはずだ。つまり、近いうちに何かが起こる。それが何かは分からない。唯一分かるのは、運命が悪い方向へ転ぶこと。レミリアは重く溜息を吐き、もう一度目を瞑った。


                   *                   *       


 大きな音が轟き、蹴りつけた棺桶の蓋は無残にも変形し、床に倒れこんでいた。今度はその蓋を踏みつける金属音、足音が静かに空気を振動させ、土の床をぺたぺたと鳴らす。左胸に違和感を覚え、慎重に手を当てた。直径六センチほどの何かが、食い込んでいる。明らかに木製の物。男は力強く木片を掴み、一気に引き抜いた。痛みはなかった。それよりも、先の尖った木の杭を胸に打ち込むとは面白い。まさか、本気でこんな木片で自分を殺せると思っていたのだろうか。俺は吸血鬼ではないことを、知ってのことだろうか。
 いや、それはともかくここは何処だ? 暗くて何も見えない――地下室か?
 そう考えながら両手を前に置き、壁を探す。盲目とは聞いたことがあるが、正にこのような状態なのだろう。途中、地面に刺してある何かに足を掴まれつつも、何とか壁に手が届いた。でこぼこした粗末な造り。石と石の間には土のようなものが詰められ、爪に食い込む。不快になりながらも、壁伝いにゆっくりと歩いていく。すると、再び壁にぶつかった。どうやら部屋の隅まで来たようで、今度はその壁を伝っていく。三回その作業を繰り返し、再び壁にぶつかった。これは明らかな密室だと、彼は判断した。もしかすると、襖のようになっていて、取手が分かりにくいようになっているのかもしれない。
 彼はもう一度探しなおそうとも考えたが、このじめじめとした部屋では、元気など湧いてくるはずもなかった。しばし悩み、彼は目を瞑った。
 ぼんやりと、この部屋の様子が見える。八畳ほどの狭い部屋に、自分が一人。扉や落ちているものは判断できないほどぼやけてはいるが、少なくとも自分は何者かに閉じ込められていると感じた。そうでなければ、このような場所にいるはずがない。
 少し視野を広げると、大きな部屋があった。ここと同じく、地下にある部屋。そこは立派な一つの部屋になっているようで、人影が三人見受けられる。その部屋は運良くこの部屋の近くに在り、部屋間はおよそ三尺。生身の手で掘り進めるのは相当の根気と精力を要し、果てしない苦労と絶望を味わうこととなるだろう。
 だが、俺は違う。
 彼は目を見開き、隣の部屋のある方向の壁に近寄る。静かに深呼吸を繰り返し、精神を集中させる。両手を足に当て、精神を研ぎ澄ます。十秒後、彼はゆっくりと立ち上がり、もう一度深呼吸をする。そして、彼は右足を目の前に持ち上げた。
 刹那、途轍もない轟音と共に、目の前の石壁は破られた。瞬間、外からは電灯の光が差し込み、一気に彼の居た部屋を照らした。どうやら、石があったのは部屋の内側だけだったようで、あとは全て土だった。蹴りつけた石は粉々に砕け、上部からはパラパラと土が零れている。これだったら、わざわざ念力を注ぐ必要もなかったかもしれない。
 隣の部屋からは驚く女性の声と、何か細身な物が空間を切る音が聞こえた。背後を振り返ると、自分は棺桶に入れられていたことを悟った。周りには何かの儀式のように十字架が地面に刺さり、棺桶には銀製品の装飾が施されていた。彼は自分が死人扱いされていることも悟った。そして、銀と十字架を見て、自分を埋葬した人物の憎悪を受け取ることが出来た。先程の木の杭を心臓めがけて打ちつける行動も含め、少し苛立った。同時に、彼はその人物を嘲笑いたくもあった。吸血鬼は銀製品や十字架には弱いとはいえ、俺に弊害は何もない。それだけのものをわざわざ用意して、ご苦労さん、と言いたくなる。
 暫らく思い立っていると、女性の悲鳴と共に、背後で発火音が聞こえた。三人のうち、二人は早々に視界から消え、扉を開ける音と同時に足音が途絶えた。もう一人の女性、いや、少女は何やら物騒な目付きでこちらを睨んでいる。手にはその体格に不釣合いなほど大きな剣、レーヴァティン。紅い炎をまとい、部屋全体を焼き尽くすと言わんばかりに、炎は強大さを増している。背後にある七色の宝石は目の眩みそうなほど眩く光り、大きく膨れ上がっている。帽子は吹き飛び、長い髪を結んでいたリボンは解け、金髪が大きくなびく。表情は変らず、目は血の色に淡く光り、明らかな敵意を感じる。
 それも当然だろう、いかなる理由があるとはいえ、兄に自室を破壊されたのだから。

「おぉ、フランか。悪かったな、なんか閉じ込められ――」

 彼がそう言い掛けた瞬間、少女は背後から無数の弾を飛ばした。とても全てを避けるのには無理があった。十四の宝石の内、紅色の石が割れた風船のように砕け散っていた。

「……あんた、誰」
「フラン……随分と冗談きついな。セイクリッド・スカーレット、お前のお兄様だぜ?」

 セイクリッドは静止させていた無数の弾を念力から開放させた。あと少し反応が遅ければ、被弾は免れなかっただろう。部屋全体に飛び散った弾は壁に深い穴を開け、直撃したぬいぐるみやベッドはその一瞬でズタズタに引き裂かれ、風穴を開け、その威力を物語っていた。フランは相変わらずの形相で、こちらを睨み続ける。

「ふぅん……じゃあ、いつものように遊んでくれるんだ……」

 もう一つ、今度は逆側の紅い石が砕け散った。今度は集中的にこちらを狙ってきたので、大きくフランを飛び越え、そのまま宙に留まった。フランの『遊ぶ』の一言。意味も理解せずに一緒に遊べば、間違いなく自分の血を見る。いや、血を見る暇もないかもしれない。あの時と同じく、部屋は呆れるほど広い。久しぶりに弾幕を飛ばすことになるが、大丈夫だろうか、超能力もまだ完全に取り戻してはいないというのに。おまけに、スペルカードもない。最悪、血祭りに。しかし、フランとの力量差を、セイクリッドは知っている。

「分かった……ふぅ、今回は『ごっこ遊び』じゃ済まなさそうだな――」

 また一つ、今度は橙色の宝石が小爆発を起こした。


                   *                   *


 再び目を瞑ってみると、やはりあの糸は紺色だった。それも、今までに見たことのない程の黒さを帯びて。何かがもうすぐ起きようとしている、しかし、それが何なのか……。
 勿論、こんな不安は自分で運命を変えてしまえば良い。宝の持ち腐れである。しかし、レミリアはそれを嫌った。自分の手で運命を変える、もっともな言い分だ。例えば、自分は生まれつき目が見えず、苦難という運命を下されたとしよう。そんな時、その人はどうするか。絶望して自ら命を絶つか? それもまた一つの選択肢だろう。仮に、目が見えずとも人一倍みに努力し、何かを得たとしよう。その時に幸せの一つでも感じれば、その人はもう苦難という運命を幸福で上塗りしている。確かに、目が見えないというのは先天的なもの故、努力してもどうにもならないかもしれないが。
 もし自分が盲目で、運命を操って覆したとしよう。盲目という苦しみからは逃れられるだろう。だが、盲目のときに得られた喜びは、二度と手に入れることは出来なくなるだろう。目が見えなかったために発達した聴覚や嗅覚は衰え、色鮮やかな眩しい世界に目は眩み、困惑するだろう。不老不死の力を得れば、同時に死以上の苦しみを得る。
 運命は勝手に決めてはいけないのだ。世の中、良いことだけでは成り立たない。悪いことも、少なからず必要なのだ。苦悩があるからこそ、人は考える能力を得たのだ。
 この禍々しい糸の塊も、避けるつもりはない。避けたと事で何になる。つまらない日常が口を開いて待っているだけだ。そこへこの糸を持ち込み、厄日にしてみようではないか。
 再び目を瞑ろうとした瞬間、激しく地面が揺れ動いた。シャンデリアは大きく揺れ、食器棚はガッと音を立て扉が開き、中に置いてあった食器は床に落下し、殆どの食器が無残にも割れてしまった。すぐに揺れが収まったかと思うと、再び大きな揺れが室内を襲った。いや、きっと室内だけではなく、紅魔館全体が揺れていると、レミリアは察知した。何故なら、フランの狂気がじわじわと身体に染み込んでいるからだ。弾幕ごっこなんて可愛らしいものではない。
 紛れもない、フランの暴走。
 これが先程の、自分に与えられた運命なのか。もしそうだとしたら、あの禍々しい見かけによらず、随分と楽な試練だ、とレミリアは内心安心した。とはいえ、今の状況が危険であることに変りはない。このまま暴走を止めなければ、紅魔館を飛び出て、幻想郷全体を破壊しに回るに違いない。出会った人妖は、一部を除いて灰と化すだろう。いや、それならまだ良い。最悪、原型を留めないほどぐちゃぐちゃに遊ばれる可能性もある。
 咲夜はレミリアに指示されるよりも早く、銀のナイフを構え、スペルカードを用意していた。レミリアも急いでスペルカードを手に取り、咲夜に声を掛けて自室を飛び出る。廊下を駆け、地下室へと向かう。館内への被害はそれほどでもなく、主戦場はいつものように地下室のようだ。
しかし、レミリアは途中で言葉では表現しきれないほどの寒気に襲われた。背筋が凍り、鳥肌が立った。冷気? 殺気? 分からない。それは鼻先から入り込み、ゆっくりと喉に侵食してくる。それは次第に心臓に届き、指先、つま先まで侵攻を進める。

「お嬢様! 何を立ち止まって……お嬢様?」
「……はは、まさか……まさか……ね」

 これは冷気でも殺気でもない。この気には覚えがある。
 義理の兄、セイクリッド。この異質な気、間違いない。
 おかしい。何故、何故この気がフランの部屋から? あの日、私は心臓に杭を打ち込んだはず。心臓まで達していなかったのか? いや、それで一年間も目を覚まさなかったのだ、あれは永眠に他ならなかったはずだ。きちんと棺桶に埋葬し、銀製品をばら撒いておいた、十字架も嫌になるほど立てておいた。そして、きちんと止めも刺した。
 それなのに、何故?
 これが運命? 兄からの……復讐? それに耐えろというのか? 無理に決まっている。レミリアは壊れたように笑いながら、ただただ咲夜に身を委ねていた。


                   *                   *


 部屋全体が熱気に包まれ、もうまともに物が見えない。歪んで見えないものがないくらい、この部屋は激しい炎に包まれていた。
あの時と変らず、フランの攻撃は破壊力と数で押し切る、典型的な力任せの弾幕だ。力任せといっても、それぞれの弾の密度が激しく、少しでも動き方を間違えれば四肢は一瞬で吹き飛ぶだろう。掠っただけでも皮膚からは血が滲み、当たり所が悪ければ、肉はえぐり取られ、骨は削られる。何通りもの弾が飛んでくるが、その中の一つに、とんでもないものがある。それが握りこぶし程の卍型をした弾だ。数ある弾の中でも、これほどまで凶暴性を持ったものは他にない。球というほど丸くはなく、卍そのものが鋭利な刃物となっていて、触れた瞬間血が吹き出るほどの切れ味を誇っている。それだけならまだ可愛いもので、比較的誰でも撃てるタイプだ。ところが、フランのその弾は先端がこれまた鋭い鉤爪状になっていて、被弾した瞬間鉤爪は深く食い込み、がっちりと肉を捉える。フランの弾はどれも相当な力が込められていて、食いついた鉤爪は生きているかのように回転を続けて体内へと食い込んでいく。過去に一度、被弾しているのだから、その凶悪な弾については詳しい。あの時は脇腹に引っかかり、がりがりと内臓をえぐられた。血に塗れた自分の腹部を最後に、その時の記憶はあまりない。
 とことん殺傷能力を追求しているフランの弾は一つ一つが立派な凶器、いや、フラン自体が、狂気に侵された生きる凶器なのだ。
 今回もあの時と同じように、卍弾が休みなく飛んでくる。それの回避を最優先に考え、何とか重傷は避けている。しかし、久しぶりに弾幕を避けているため、感覚が戻らずに先程鉄球に被弾した。鉄球そのものの殺傷能力は大したことはないが、衝撃は相当なものだ。そのまま身体を持っていかれて、連続して左腕に被弾してしまった。程好く血が溢れ出し、服と顔を汚した。腕で防がなかったら、顔を潰されていたに違いない。
 狂気に満ちたフランの弾幕は超能力といっても、完全に制御するのは難しい。下手に意識を集中させ、数えるほどの弾を相殺して他の弾に被弾するくらいなら、始めから避けに徹底するほうが懸命である。勿論、こちらも弾幕を張っての相殺は忘れない。
 フランと弾幕ごっこをするときはいつもお互いにルールを決めていた。スペルは双方不使用、小さく衝撃の少ない弾のみを使う。それが、二人の間に出来たルールだった。しかし、今は『ごっこ遊び』ではない。フランは今、確実に俺を壊そうとしている。それは目を見れば分かる。怪しげに輝くどす黒い血の色の目、命の宿っていない瞳孔、目そのものは大きく見開かれ、今にでも眼球が飛び出しそうなほどである。
 フランが狂気に身体を支配されるのは定期的なもので、紅魔館では最早恒例のイベントでもあった。スカーレット姉妹は満月の日になると、身体能力が飛躍的に上昇する。その満月の日に、フランは必ず暴走を始める。理由は分からない。だが、驚異的な身体能力を手に入れ、今なら誰にも負けない、何だってできる。そういった自分を過信した衝動が、フランの内に隠れている狂気を刺激し、一気に増幅させているのだろう。
 フランの背中の宝石は次第に少なくなっていた。左右に七個ずつあった綺麗な輝きは、強すぎる閃光と化し、その数たった三つ。フランの背中にある宝石の数の減少には意味がある。あれはフランのエネルギー、もとい狂気の源の様なものだ。満月の翌日は潮をつまり、宝石が尽きた瞬間、フランは正気を取り戻し、我に返る。十四の宝石が全て割れるまで、およそ五十分。狂気のフランとのお遊戯は、言わば耐久デスマッチである。
 フランの攻撃は次第に激しさを増していった。降り注ぐ卍弾の雨、溶解しながら散らばる鉄弾、いつの間にか現れる鉄球。それらに加え、フランはとうとう剣を大きく振りかざした。周囲の炎はレーヴァティンに吸い込まれ、剣は赤みを帯びた。剣からは気体が発生しており、僅かながらに溶解が始まっている。フランは身長の二倍はあろうかという剣を片手で振り上げ、彼の方めがけて切り払った。
 剣から放たれた炎は大きなカーテンとなり、彼を大きく囲った。行動範囲を狭められただけでなく、炎の壁はゆっくりと幅を狭め、セイクリッドを食らおうとゆらゆらと揺れている。次々と飛んでくる弾幕を避けながら、彼は左胸の内ポケットに手を突っ込んだ。もし、あれがあれば……確実に助かる。

 一瞬にして正面の炎は絶たれ、隣接していた弾幕も一瞬で消え去った。いや、叩き斬られた、と言うべきか。証拠に、真っ二つになった鉄の塊が床に転がっている。明らかに、あれは何かに切断された跡だった。
 セイクリッドはもう一度右の炎を絶つと、そちらの方へと移動し、逃げ道を確保した。

「ふぅ、相変わらず頼りになるな、こいつは……おっと」

 セイクリッドが手にしているのは大きな剣。丁度背丈と同じくらいの六尺程の長さ。刀身は白く、非常に細身、柄は紅玉や青玉で彩られていて、観賞用のような気品を漂わせている。セイクリッドは飛んでくる弾を避け、その剣で弾を相殺する。
 セイクリッドの持つ剣はノートゥング。槍のグングニル、剣のレーヴァティン同様、神々の武器である。破壊力はそれらに劣らず、その大きさとは裏腹に、赤子が持てるほどに軽量。任意で小さくしてしまうことも出来、普段はノートゥングを左の内ポケットへしまっていた。左胸に杭が刺さっていたので、万が一、という可能性もあったが、幸運にもそのままポケットにしまってあった。セイクリッドは剣を構えなおし、再び応戦する。
 フランは顔色一つ変えずになおも弾幕を張り続ける。狂気のフランに情が存在するはずもなく、ますます目を光らせるばかりだった。
 宝石がまた一つ弾け飛んだのと同時に、フランは両手で剣を握り締めた。いつも通りだった。弾幕は止み、今度はフラン自身が直接攻撃を仕掛けてくる合図だ。背負い投げの要領で剣を振り下ろす。炎剣は鈍い音と共に、セイクリッドの剣に押さえつけられた。
 ノートゥングは切れ味こそ非の打ち所がないものの、デリケートで非常に脆い。その証拠に、伝承ではノートゥングはグングニルによって見事に折られてしまう。もっとも、ノートゥングはグングニルの使い手、オーディンによって渡された物だったのだが。
 フランは一端剣を引き、もう一度斬りつける。しかし、これも剣に抑えられてしまう。
ここまで来て、やっと二人の力量差が見えてきた。身体的にも精神的にも、大人のセイクリッドが子供のフランに勝るのは当然のことだった。弾幕ごっこをする時、セイクリッドは連勝しないためにわざと被弾することもあった。壊れたフランを止める際も、傷を負うことは極めて稀だった。セイクリッドとレミリアとの勝負にも、明確な力量差が存在していた。互角だったのは、レミリアとフラン同士の時のみだった。
 更に宝石は割れ、とうとう残りは一つ、時間にして五分。後はこのまま攻撃を防げば良いだけ。だんだんと、あの頃の感覚が戻ってきていた。フランの攻撃はだんだん雑になり、それに合わせてセイクリッドの動きはだんだんと調子を取り戻していった。
 その時だった。左脇腹に何かが刺さった。ちくちくとした痛み、針が刺さったような、差し当たりのない傷だった。一寸程食い込んでいる気はしたが、フランの凶暴な弾幕と比べれば大したことはない。
 再びフランの剣を抑えていると、フランの表情が歪み、急に力が弱まったのが分かった。狂気の終了のお知らせだろうか、いや違う、普段は魂が抜けたように、突然フッと気を失うはずだ。それでは一体、何故――。
セイクリッドは我が目を疑った。顔を洗う暇があれば今すぐにでも洗いたかった。フランの右腕に、無数のナイフが刺さっているではないか。しかも、いずれも銀製のナイフ。それを、フランが吸血鬼と知っての行為だとするならば、セイクリッドは今すぐにでもナイフを刺した張本人を締め上げているだろう。
 セイクリッドは今まで一度も誰かを傷つけたことはない。特に、妹たちに対して弾幕ごっこは殆ど衝撃無しの状態で当て、狂ったフランに対してはただ避けるだけで気を失うのを待った。何があっても、妹たちは傷つけたくなかった。
 それが、第三者の手によって破られた。誰かは分からない。自分にもナイフを刺したことから、どちらかの味方ではないのかもしれない。しかし、許せなかった。彼はフランの剣を受け止めながら、念力でナイフを全て引き抜いた。その間にも、槌を握る手にもナイフは繰り返し刺さり、セイクリッドの邪魔をした。
 そして、フランは意識を失い、収縮した剣は重力に抗う事は出来ずに地面に落下した。剣とナイフの金属音が響き、部屋は静けさを取り戻した。フランは糸に吊るされるようにだらりと四肢を投げ出し、ぷつりと糸が切れて落下した。
 セイクリッドは真っ先に落下するフランを抱き上げ、ベッドに寝かせつけた。とてもベッドといえるほどの柔らかさは失ってはいたものの、安静にさせる分には床の上よりいくらかマシだろう。フランは眠るように静かに呼吸し、見慣れた安らかな表情だったので、セイクリッドはとりあえず安心した。右腕には無数のナイフの傷跡が残り、鮮やかな血がトクトクと流れ出ている。この程度で命に別状はないはずだが、傍に落ちている銀のナイフを見て、セイクリッドは歯を食いしばりながら、槌で思い切り叩き潰した。
 しかし、彼の心はまだ収まってはいなかった。一体誰が、誰がフランを傷つけたのか。レミリアか? そんなはずはない、二人は一日中一緒にいるほどの仲だった。フランが我を失ったときも、決して攻撃は仕掛けなかったはずだ。辺りを見回しても、人影はない。犯人は姿を消すような能力を持っているのだろうか。
 すると再び、背後からナイフが飛んできて、ベッドの傍の壁に突き刺さった。彼は大きく溜息を吐き、ゆっくりと振り返った。
 驚いた。十寸ほど離れた位置に、メイド姿の女性が立ちすくんでいたからだ。銀の髪、銀のナイフ、余裕を浮かべた笑み。間違いない、フランに傷を負わせたのはこいつだ。

「そこの男、名乗りなさい」
「……名乗れ、だと?」

 女性は脅迫のつもりか、セイクリッドの左腕にナイフを投げつけた。ナイフは見事に手首を切ったが、セイクリッドはものともせずにゆっくりと立ち上がった。無反応の男に、女性は多少驚いたようだったが、すぐに目つきを戻した。

「今のは警告よ。貴方、銀製品が効かないのかしら」
「そうか、随分と面白い話だな――」

 セイクリッドはゆっくりと右手を女性にかざした。女性は一瞬身構えたが、それも無駄な行為だった。セイクリッドはゆっくりと指を折り曲げ、女性が収まるように手の平を移動させ、握りつぶした。女性は声を上げ、そのまま宙へ運ばれた。セイクリッドの手をかざす方向へ女性は漂い、宙を彷徨う。女性の方も抵抗はするも、指一本動かすことが出来ない。唯一意識して動かせるのは目と鼻、口だけである。セイクリッドは適当に壁を見、そこへ向かって腕を振り下ろした。当然女性は壁に叩きつけられることとなる。ドンッと鈍い音が鳴り、女性は強く咳き込んだ。セイクリッドはゆっくりと歩み寄り、女性の目の前にたたずんだ。
 セイクリッドは首を掴み、片手で持ち上げた。女性は苦しそうに足をばたつかせ、両腕をセイクリッドの腕に置く。女性の首根っこを離し、質問をする。名を名乗れ、と。それでも女性は口を割らなかった。相当強い意思を持っているようだ。

「質問を変える。何故フランに手を出した」
「フランお嬢様の暴走の時にはいつもこうする……。見ず知らずの貴様が、フランドールお嬢様のことを呼び捨てにする……な」

 女性は今、フランのことを様付けで呼んでいた。どういうことだ、さっぱり分からない。フランの従者、あるいは新人のメイドだろうか。 

「大体、ああしたほうが被害も少ないし、被害も大したことはない」

 苦しさが引いたためか、女性は再び強気な口を利いた。目つきは一丁前に、しかし大した強さではない。セイクリッドはそんなことよりも、今の発言のないように腹を立てた。「ああしたほうが」とは、間違いなくナイフのことだ。セイクリッドは女性に激しい険悪感と殺意を覚えた。そして、女性の左手首を取り、力強く握った。

「そうだよな。それならこれも、大したことないよな」
「――ぐあっ! うっ……ぐぅ……」

 セイクリッドは女性の手首を片手で思い切り捻った。骨が折れ曲がり、関節が外れた音が鳴った。女性はその一瞬で心拍数を上げ、唇を震わせていた。セイクリッドが念力を解くと、女性はばたりと横に倒れてしまった。
 セイクリッドは剣をしまい、ベッドに戻ってフランを抱き上げた。途中、散らばったナイフを何度も力強く踏みつけながら、荒れた部屋を後にした。

 随分と久しぶりに館内を見た気がする。物の配置や色こそ何一つ変わってはいないものの、顔見知りがフラン以外に誰もいないことには驚いた。勿論、まだ見ていないこともあるだろうが、出会うメイドが全員顔見知りでない。彼女らは妖精だ、そう簡単に容姿が変わるとは思えない。彼にそれほどの年月が流れていたとしても、誰も話しかけてこないのはおかしい。一体どういうことだろうか。
 とりあえず、今はパチュリーのいる治療室へ向かうのが先決だ。いくら自分に力があるとはいえ、医療技術は何も会得していない。魔法の扱いに長けたパチュリーなら、このくらいの傷を治すことくらいわけないだろう。治療室は図書館をまたいだ先にある。治療室は別名、パチュリーの寝室だ。
 図書館の扉を開け、静かに室内へと入った。扉を閉めるのと同じにして、どさっと本特有の落下音が聞こえた。振り返ると、長い赤髪の、翼を生やした少女が口元に手を当て、目を丸くしていた。すると、隣に座っていた女性も少女の様子に気がつき、こちらを振り向いた。

「セ、セイクリッド様? どうして……?」
「パチュリー、フランの傷を治してやってくれないか……メイド服来た変な奴にやられちまったのだよ……頼む」
「え、えぇ……それは勿論……子悪魔」

 子悪魔と呼ばれた少女はビクッと跳ね、パチュリーに何やら目で合図された。
 長い赤髪、頭と背中の両端には小さな翼が生えている。少女の名はココア、セイクリッドがが勝手に名づけた名前である。いくらパチュリーの使い魔とはいえ、名前がないのは不憫に思い、適当にココアと名づけた。自分でも最初はどうかと思ったが、本人は嫌がっていないようで、すっかりこの名称が定着している。

「セ、セセセイクリッド様……で、ですよね?」
「あぁ……落ち着け、どうした」
「は、はい……。いえ……三十年ほど以前に亡くなったとばかり……」

 ココアは苦笑いをしながらぺこりと頭を下げた。確かに、勝手に死人扱いされるのは気持ちのいい話ではない。それにしても、三十年か。これくらいではフランに成長が見られないのも当然だ。逆に言えば、三十年間も俺は一体何をしていたのだ? ずっと眠り続けていたのだろうか。もしそうだとしたら、不思議な話だ。生まれておよそ千五百年、これほど長い睡眠時間は体験したことはない。冬眠だってかなりの時間眠るというのに、これでは半永眠状態だったのだろう。死人扱いされても文句は言えまい。
 暫らく考え込んでいると、ココアが何やらジロジロと俺の顔を見てくることに気がついた。少し笑って顔の表面を触ると、自分の異変に気が付いた。先程までは忙しくて気にも留めなかったが、髭と髪がこれでもかと言わんばかりに伸びきってしまっている。無理もない話しだ。三十年も放っておいたら、誰だか分からないくらい毛も伸びるだろう。ココアが見つめるのも、それが原因だと悟った。
 セイクリッドは指ではさみの形を作り、自分の髪を切るそぶりを示す。ココアはにっこりと笑ってポケットからはさみを取り出した。いつも携帯しているのだろうか、随分と準備が良い。はさみをチョキチョキと鳴らし、セイクリッドの背後へと回り込んだ。長く雑に伸びた紅い髪はパサリと音を立て、床に落ちる。床は絨毯だというのに、こんなことをして怒られないだろうか。暫らくして、ココアは手鏡を持ってきたので、セイクリッドは自分の髪型を確認した。いつも通りの髪型だ。所々雑に切られている場所もあるが、特に違和感はなく、ココアに感謝した。世話を焼いて髭を剃ろうとココアは目の前に座ったが、流石に遠慮しておいた。
 すると、ココアは急に、あっ、と声をあげた。視線をたどると、明らかに絨毯に生えた紅い髪を見ている。やはりここで髪を切るのは不味かったようで、おろおろとしている。どうしようもなく、ココアは髪の毛を少しずつ拾ってゴミ箱に捨てていった。その光景が実にまどろっこしく、髪をまとめてゴミ箱へ飛ばした。勿論、念力を使って。尚もおろおろするココアを捕まえ、宙に放り出した。ゆっくりと回転しながらスカートを押さえつけている。額目掛けて小さな弾を飛ばし、床の上に優しく降ろした。ココアはわざとらしく額を押さえ、痛みを堪える振りをしている。
 奥の扉の開く音がし、パチュリーが溜息を吐いて戻ってきた。どうやら、治療は終ったようだ。セイクリッドが駆け寄ると、顔を逸らして口を開いた。

「そんな顔しなくても大丈夫。久しぶりに貴方を見て少し興奮していたみたい。それが狂気に触れちゃって、反動がいつもより大きいの。二刻半ほどで意識は戻ると思うけど」

 何も言わずとも相手の心を読み取る。鳥目でも、パチュリーの観察眼は相変わらずのようだ。大事ではないと分かってはいたものの、まさか妹の血を見ることになるとは思いもしなかった。自分の血は幾度となく見てきたし、見慣れている。そういえば、服のあちこちが赤い。自分の血が固まったものだろうが、どこも殆ど痛みはない。
 すると、ココア同様にパチュリーもこちらを凝視している。顔ではなく、身体全体に。今度は自分の傷を見ているのだと分かったが、もう一つ、ボロボロに破けた服にも目を向けていることも分かった。破れている箇所は全てかすった跡、破けた箇所の大半は傷口が出来、辺りを血色で染めている。

「貴方も服を脱いで、手当てするから」
「おいおい、どさくさに紛れて何を――」

 五月蝿い、と言わんばかりに口に魔法を掛けられた。唇同士がチャックのようにくっ付き、なかなか開かず、鼻声以外に声を発することが出来ない。ただ、冗談が効かないのも相変わらずだな、とセイクリッドは笑みを零した。ココアはパチュリーに命じられたとおりに俺の服を取りにいき、小さな足取りで図書館を出ていった。
 服を脱いで下着一枚になり、パチュリーは傷の深い左腕から治療を始めていった。フランの相手をしている時、顔を庇った際に出来た傷だった。切り口がどこだか分からないほど辺りは血で乾き、見るのも嫌になる。パチュリーは両手で傷口を覆うと、そこから淡い翠色の光が漏れ出した。奇妙な音と共にだんだんと傷口は塞がり、辺りに飛び散っていた血も綺麗に消えていた。切れた痕跡は一切なく、パチュリーの腕の良さを再確認させられた。パチュリーは途中、下腹部の辺りで顔を止めたが、何事もなかったかのように足の治療に移ってしまった。
 治療が終るまで、僅か十分の一刻。深い外傷はなかったとはいえ、早業である。

「ところで貴方、さっきメイドがどうだか言っていたわね」

 思い出したくもない。生意気そうな目付き、口調、そして何より、フランを狙ったということが汚くて仕方がない。ここのメイドでなければ、両腕を頂戴していたところだ。

「あぁ。銀髪で、目は紅くて、態度の割には弱かった。フランをお嬢様って呼んでいたな」
「……まさか殺してなんかいないでしょうね?」
「左腕を折っただけだ。壁にぶつけた衝撃で肋骨が逝ったかもしれないけどな」

 そう言った瞬間、パチュリーは図書館を飛び出した。走ることなどせずに、宙を浮いたまま。紫髪がなびき、帽子が落ちたことも気にせず。扉を開けた瞬間、ゴンッと鈍い音が鳴り、隙間から見える廊下には自分のものだと思われる服が散らかっていた。不運にも、ココアが帰ってきたときのようだ。
 案の定、廊下にはココアがうずくまっていた。額を抑えながらぎゅっと丸まり、弱々しく唸り声を上げている。服を取り、いつものものだと確認する。図書館で破れた服を脱ぎ、いつものスーツに着替える。ココアは図書館に戻ってすぐに力なく倒れこんでしまった。


                   *                   *


 地下室に着いたときにはもう遅かった。奥の壁には大きな穴が開き、辺りには土が散らばっている。壁はボロボロに崩れ、紅い染み、独特の鉄の匂いが脳に伝わり、フランの凶暴さを物語っている。間違いない、あの部屋にしっかりと埋葬したはずだ。だが、一体どうやって? フランが暴れた所為で偶然開けてしまったのか。いや、いくらなんでもあの距離の穴を開けるには狙って当てる他ない。それとも、セイクリッドが自ら開けた穴だというのか。兄は真っ先に目の前の暗闇に戸惑ったはず。そして、胸の杭に気が付き、部屋を出た瞬間、自分が棺桶にいたことを悟ったに違いない。ベッドの傍、大穴の隣には咲夜が倒れていた。すぐに傍まで飛んでいき、声を掛ける。意識が朦朧としているのか、レミリアは咲夜の頬を何度か叩いた。

「……お嬢様?」
「咲夜、ごめんなさい……何があったの、フランは何処?」

 セイクリッドの気に怯えたレミリアは暫らく立ちすくむことしか出来なかった。もし、運命の糸がこのことを指しているとするならば、あの禍々しい色も納得がゆく。兄が起きれば、確実に怨まれる。最悪、殺されてしまうかもしれない。そんな恐怖に支配され、咲夜に一人で行かせたのが間違いだった。一対一ではフランに勝つことなど不可能なのに、そんなことは分かりきっていたのに、自分を優先して咲夜を危険な目に合わせてしまった。

「……フランお嬢様は……男に連れて行かれました……」
「男って誰! 髪は? 背丈は? 何か言っていた?」

 レミリアは咲夜の言う男に過敏に反応した。冷静さを失っていることも知らず、レミリアの心拍数はどんどん上がり、身体が震えている。

「紅い髪……紅い目……背丈は丁度六尺……。大きな槌を担いでおりました……フランお嬢様を呼び捨て……。男は不思議な能力を持ち、灰色の両翼もありました」

 咲夜は少しずつ呼吸を整え、上体を起こした。赤く腫れた左手首を睨みつけながら、自分の二の腕を強く握り締める。
 咲夜に反比例するように、レミリアの呼吸は荒くなっていた。咲夜の証言が正しければ、男は間違いなくセイクリッド・スカーレット。自分との血の繋がりはないが、事実上、自分とフランの兄だった。自分の三倍ほどは長く生きているセイクリッドは背が高く、幼い頃から面倒を見てもらったこともあり、親のような存在でもあった。そんな事は何百年も前の話。パチェや咲夜に出会うよりも前、この館に住むよりも昔のことだ。兄の出生を聞いたことはなかったが、大きな翼を持ち、にんにくを嫌うことでから吸血鬼と判断出来た。セイクリッドは並外れた身体能力を有し、幻想郷内では相当恐れられた。恐れられた理由はそれだけではない。セイクリッドは物理的能力だけでなく、心理的能力も兼ねそろえていた。能力を超越したもの、超能力。念動、浮遊、透視、念写……その能力さえも誰もが羨み、妬み、恐れた。自分も、その気持ちは少なからずあった。スペルカードも保持し、ミョルニルという武器を掲げ、数多くの従者をそろえていた。幻想郷内で一番強いのではないか、当時はそう言われることもあった。これだけの噂を聞けば、普通の人妖は誰も近づこうとはしないだろう。しかし、恐れおののく人妖はいざ兄と話すと皆口を揃えてこう言った。
 噂ほど恐ろしい方ではない、と。
 兄は従者からの忠誠も高かった。私達姉妹も、兄を信頼していた。誰にでも気さくに接し、紅魔館の主とは思えないほど冗談好きで、その姿に惹かれるものも多かった。自分から異変や事件を起こすといったことはなく、誰の眼の敵になることもなかった。少し前の博麗の巫女も、セイクリッドのことは気に留めていなかった。物心付いたときからあったフランの暴走も難なく止め、紅魔館に攻め入る愚かな妖怪は一人残らず追い返した。誰も殺さないというのが、兄の決め事のようなものだった。
 しかし、そんな兄も一生に一度のミスを犯した。よりによって、大事にしてきた妹に殺されることになろうとは思いもしなかったに違いない。

「咲夜!」

 大声と共に、ガタンと扉が開いた。パチュリーは息を切らし、大きく咳き込んだ。喘息持ちだというのに、無理をして急ぐほどの理由があったのだろうか。パチェは呼吸を整え、こちらへ飛んできた。パチュリーは咲夜の左手に視線を向け、手に取った。咲夜は痛みで顔を歪めたが、パチュリーはすぐに治療を始めた。腫れた手首はどんどんと萎み、妙な腕の捻りもすぐに元通りとなった。次にパチュリーは肋骨に手を当てたが、怪我をしていたのは手首だけだったようだ。パチュリーは一息吐くと、深刻そうな表情で口を開いた。

「レミィ……セイクリッド様が……」
「知っているわ」
「……何があったのかしら」

 二人の会話を、咲夜はいまいち飲み込めないようでいた。それも当然、咲夜がレミリアに仕えているのは僅か十年間。三十年前から眠り続けていたのだから無理もない。セイクリッドは今図書館にいるとパチュリーに知らされた。あの時と同じような振る舞いだったが、咲夜に対して憤りを感じだった、とも。
 レミリアは咲夜にセイクリッドのことを全て話すと、咲夜は申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。まさか自分の主人に兄がいるとは思わなかったのだろう。その兄に傷を負わせてしまったのだから、ご法度もいいところである。
 レミリアの腕を取り、パチュリーは彼に会うように催促した。しかし、図書館にはフランがいる。今は気を失っている、その間なら大丈夫。そう言われ、レミリアと咲夜は図書館へと向かった。はたして、昔のままの兄でいてくれているのだろうか。レミリアはパチュリーに腕を引かれながら、目を瞑った。
 禍々しい塊は未だに手の平の上。すると、もう一つ別の糸が絡み合う。運命の糸は一本だけではなく、常に七束用意されている。その内の一本の束が解け、再び別の束を作る。そこに見える色は赤、青、白。生粋の青色をしていて、時間に直すと大体二、三日ほどだろう。兄の復活という予想外の出来事の後に、この吉報はありがたい。気休めに過ぎないかもしれないが、気持ちが楽になることに変りはなかった。

 いつのまにか、図書館の見える直線の廊下までやって来た。無意識に、足が震えているのが分かった。会いたくないわけではない。自分も兄のことは好きだった、いや、愛していたのかもしれない。ただ、隠せない事実が裏にある。
 私が兄の心臓に木の杭を打ち、棺桶に入れ、銀を散満させ、十字架を無数に配置し、密室に閉じ込めたことに偽りはない。紛れもない事実だ。
 パチュリーはいつものように扉を開け、咲夜はやや肩を下ろしている。図書館内では子悪魔と、義理の兄、セイクリッドが親しそうに話していた。こちらに気が付いたようで、セイクリッドと子悪魔はこちらを振り返った。

「おうパチュリー、慌ててどこ行って――まだいたのか、お前」

 セイクリッドは一瞬で目つきを変え、こちらをギロリと睨みつけた。兄のあの目付きは激怒している証拠。目の色を真紅色に染め、漆黒色の瞳孔はまるで金縛りを掛けているような錯覚を与える。やはり、ばれていたのだろうか。自分の行いに対し、憤りを感じているのだろうか。同じく無意識に、足が一歩後退したのが分かった。咲夜の腕に当たったが、咲夜は動じることもなく、自分の体を支えてくれた。
 咲夜に体を寄り掛けた瞬間、咲夜の体ががくがく震えていることに気がついた。振り返って見上げると、唇は震え、瞬き一つしていなかった。セイクリッドの威圧に耐えられなくなったのだろう、無理もない話だ。

「待って、セイクリッド様。彼女は咲夜、正式なレミィの従者よ」
「ほぅ……今の従者は主人の妹には容赦ないようだな、咲夜」

 最後に名前を呼ばれ、咲夜はビクッと跳ね、体の震えはより一層激しくなった。セイクリッドの内容からして、咲夜はいつも通りフランの腕を狙ったのだろう。被害を最小限に抑えた、力なきものなりの答えだ。勿論、自分もそうだ。しかし、セイクリッドにはそれを話しても許しはしないだろう。セイクリッドが手を出すときは、決まって私達姉妹に手を出した者にたいしてのみだった。その内容によっては半殺しにされた物もいた。そんなセイクリッドの性分、手首を折られただけと言うのは相当運が良い。
 私が咲夜から体を離すと、ほぼ反射的に咲夜は口を開けた。

「申し訳……ござ……い……ません……」

 この一言を言うのに、相当の勇気が必要だったのは良く分かる。セイクリッドは相変わらずの形相で、重い口を開いた。

「レミリアの従者だから今回は大目に見てやる。お前は俺の従者というわけでもないから、俺の命令を何でも聞けとは言わん。ただな、次レミリアやフランに同じようなことをしてみろよ。その時はその細い四肢、根元から消えていると思え」

 その言葉を聞いて、咲夜はがくがくと頷いた。子悪魔は口を開いたままセイクリッドの顔を見つめ、パチュリーもぼーっと彼を見つめていた。セイクリッドの真紅色の瞳は水増しした絵の具のように薄まり、小さく溜息を吐いてテーブルをバンと叩いた。

「さてさて、殺伐とした話は止めて、お茶でもするか。咲夜、紅茶の用意くらい出来るだろ? しっかり五人分用意してくれよ」

 咲夜は弾かれたように動き出し、すぐに近くの簡易台所まで駆けていった。セイクリッドのこんな性格に、私は安心感を抱く。驚くべきほどの強さを誇っていながら、力を見せ付けず、濫用せず。パチュリーも子悪魔も安心したようで、深呼吸を始めていた。深呼吸を終えるよりも早く、咲夜は五人分の紅茶を用意してきた。セイクリッドの傍まで寄り、手を震わせながら紅茶をテーブルの上に並べていった。当然、セイクリッドはあまりの速さに驚いていたが、紅茶の香りを楽しむと、こちらに手招きをした。勿論、紅茶を作る間は時を止めていたに違いない。咲夜なりのお詫びの仕方なのだろう。きちんと五人分の椅子が用意され、それぞれは腰を掛けたが、咲夜だけは遠慮していた。空いている椅子がセイクリッドの隣だということも関係していたとは思うが。自分から遠のく咲夜を、セイクリッドはクイッと引き寄せ、座らせた。咲夜は驚いていたが、セイクリッドが背中を叩くと、背中を丸め込んで俯いてしまった。彼は咲夜の反動っぷりに後ろ髪を掻き、自分自己紹介を始めた。自分はレミリアとフランドールの義理の兄ということ、超能力を操れること、スペルも弾幕も扱えることなど、先程レミリアが咲夜に教えたことも多かったが、咲夜の態度の変化は目に見えて明るくなっていった。

「まぁ、なんだ。そういう態度は止めてくれ、どうも苦手なんだよな」
「申し訳ありません……。ところで……お坊ちゃ――」

 咲夜の一言で、紅茶を飲んでいたセイクリッドは吹き出し、大きく咳き込んだ。パチュリーも子悪魔も、可笑しそうにクスクスと笑う。当の本人は状況が理解できないようで、不安そうな目付きで首を傾げている。セイクリッドは呼吸を整え、紅茶を置いた。

「馬鹿、旦那様とかセイクリッド様とか、色々と言い方があるだろ」
「は、はい……いえ、そのことでお話をしようと……」
「何とでも呼んでくれ。こいつらみたいに様なんて付けなくてもいいぞ。わざわざ畏まる必要もない。ただ、お坊ちゃんとかは止してくれよ、違和感があって仕方がない」

 結局、咲夜の彼に対する呼び方は、セイクリッド様で落ち着いた。
 セイクリッドは咲夜のことについて色々と聞き始めた。どのような経緯で紅魔館へ来たのか、どのような能力を持っているのか、年齢、趣味、処女なのか等、途中パチュリーに蹴られるような質問もあったが、咲夜は事細かに答えた。セイクリッドが咲夜に好意を示したのかどうかは分からないが、彼の冗談好きは周知の事実だったため、本気なのかどうかは判断しかねた。
咲夜のセイクリッドに対しての怯えがすっかり薄れた頃、セイクリッドは他の三人とも会話を始めた。自分が寝ている間に何があったか、何か大きく変ったことがあったのかを訊いた。パチュリーは本で顔を覆い、子悪魔は何も知らないかというように窓から外を眺めた。咲夜は噛み付きたくとも噛み付けないので、ただ会話を聞くことしか出来ない。

「……特に何も。強いて言うなら、博麗の巫女の代が替わったことくらいかしら」
「ほぅ……それじゃあ、俺の従者たちはどこに行ったんだろうな」
「兄上が死んだと思って……皆出て行ったわ。自殺した者もいたわね」

 そう告げた瞬間、セイクリッドは表情を曇らせた。

「死んだ奴らの墓はあるか」
「……食料庫の傍にあるわ。かなり粗末に作っちゃったけど」

 セイクリッドは深く溜息を吐き、立ち上がった。レミリアのみならず、他の三人も驚いたようで、セイクリッドを見つめた。

「墓参りに出かけてくる。勝手なことして悪いな」

 セイクリッドはそう言い残し、静かに部屋を後にした。彼の紅茶は僅かに残り、飲みかけのカップが妙に寂しく見えた。レミリアはパチュリーと顔を見合わせ、子悪魔も残念そうに俯いた。レミリアは更に表情を曇らせながら、ゆっくりと紅茶を口にした。


                   *                   *


 どうして死のうと考えたんだ? 死後もお供すると、馬鹿なことでも考えたのか?
 セイクリッドは館を出て、中庭から食料庫へ向かった。食料庫は日が当たらないため、一日中湿気が高く、薄暗い雰囲気は墓場に最適だったのだろうと考えたのだろう。もっとも、そんなところに食料庫があるのも可笑しな話だが。食料庫のすぐ隣に、大きめの石が置かれていた。不器用に何かで名前が彫られ、その数十人。最も自分に忠を尽くしてくれた十人だった。胸の底からは怒りと悲しみ、彼らへの哀れみがどんどんと湧いて出た。何故主人の後を追おうとするのか、それが理解できない。しかも、自分は今こうしてピンピン生きている。あいつらに申し訳なくて仕方がない。
 セイクリッドは墓石の前にしゃがみ込み、静かに合掌した。彼らの冥福を祈り、自分への憎悪の感情を静めた。線香も花も供えることは出来ないが、これがせめてもの罪滅ぼしになれば幸いだろう。一分ほど合掌を続けていると、大きな物音がセイクリッドの耳を貫き、振り返った。門の方角だった。セイクリッドはもう一度合掌し、門へと飛んでいった。
 ここの門番といえば、真っ先に彼女を思い出す。まさか、彼女が死んでいるとは思えないが、万が一と言う可能性もある。館への侵攻に身を捧げたという考え方も出来ないことはない。だが、それはないだろう。現に、ここの館はきちんと昔のままだ。
 中庭から外壁を飛び越え、門の様子を見るとそこには何者かが倒れていた。黒く、右腕には斧を持っていて、立派に生えた翼は萎れ、体は力なくその場に伏している。
 突如、風が体を取り巻いた。突風ではなく、何かが目前を通り過ぎたかのような風。土埃が舞い、煙幕を撒かれたかのように視界は急激に狭められた。誰かの気配がしたかと思うと、喉元に何か温かいものが触れていることに気がついた。視線を下に向けると、煙の中からは一本の細い腕が首元へ伸びていた。自分が気配を感じ取るまでにここまで詰め寄ったのは大した物だ。だが、レミリアの速さと比べれば、月とすっぽん、提灯に釣り鐘である。この程度の速さなら、逃げようと思えば、すぐに逃げられる。
 土煙からは薄らと人影が見えてきた。長い髪と帽子を確認し、セイクリッドはにやりと笑った。喉元に指を突き立てている張本人は彼女しかいない。

「……美鈴だろ?」

 押し当てられた指に力が入り、少し息苦しくなった。恐らく、相手がセイクリッドだとは思っていないのだろう。これだけ警戒されても不思議ではない。土煙がようやく巻き上げ、シルエットが実像と化した瞬間、美鈴は大きく跳ね上がった。

「で、でで出たー!」
「幽霊なら他を当たってくれ、中国」

 がくがくと体を震わせ、そのまま地べたにへたり込んでしまった。彼女らしくないといえば彼女らしくない光景だ。というのも、敬語がかなり砕けていて、話しやすいのが理由だ。生前――と言うのも可笑しいが――気楽に話せる相手の一人であったというのに、今は力なくその場で頭を下げている。心が痛い。念動で無理矢理起こすと、美鈴はさも驚いた様子でがたがた震えていた。何とか美鈴を落ち着かせ、知っている限りのことを話した。セイクリッドの口調や態度を見て安心したのか、美鈴はいつものように両手を後ろで組み、門に寄り掛かった。

「てっきり死んじゃったのかと思いましたよ」
「そう考えるのが普通だろうな。悪いな、驚かせて」
「いえいえ……あれ、あの指輪と首飾りはどうしたんですか?」
「……気が付かなかった。レミリアが保管しているといいんだが」

 指輪のドラウプニルと首飾りのブリーシンガメン。ノートゥングと同じ、神々の遺産である。ドラウプニルは満月の夜、同じ形の指輪を八つ生み出す。勿論、満月が訪れるたびに八つも同じ物が生み出されても仕方がないので、その能力は毎回抑えつけていたが。ノートゥングは女神フレイヤが肌身離さず身に着けていたものだ。彼女が身に着ければ、その魅力を最大限に引き出し、何人もその魅力に抗うことが出来なくなるという。無論、男性であるセイクリッドが身に着けていても、魅力は引き出されないのだが。指輪はレミリアとフランドールにあげたことを覚えている。二人とも大事にしてくれていると良いのだが。
 ふと、美鈴の服の汚れに気がついた。先程の妖怪を倒した際の返り血だろう。身体の所々が砂を被っていて、茶色く服をも汚していた。

「それにしても、毎日ここの警備、ご苦労なことだな」
「はは、紅魔館も昔ほど襲われませんよ」
「紅魔館? この館の名前――」

 そう言いながら、セイクリッドは館を振り返った。館全体が赤、紅、血。他の色といえば、白と黒が所々に顔を覗かせている程度だった。おかしい、少なくとも昔は真っ白だったはず。その外見から、『白妖城』と呼ばれていたほどだった。館内は昔のままだったというのに、外見がここまで変化しているとは思いもしなかった。目を擦ってみても、少し色がぼやけるばかりで、白に戻ることはなかった。誰かが塗ったとすれば、レミリア以外に思い当たる節がない。兄が消え、ここの主人となった際に真っ赤に染めたのであろう。
 口を半開きにしたまま紅魔館を見るセイクリッドに、美鈴は声を掛けた。

「『白妖城』の面影もないですね……やっぱり、納得がいきませんか」
「いや、俺はもうここの主じゃないんだ。今の主に任せるさ」
「昔のままですね、セイクリッド様」

 セイクリッドは小さく笑い、壁に寄りかかった。そのまま美鈴と暫らく雑談を続け、フランドールが目を覚ますまでの時間を潰した。

 パチュリーの報告から二刻半程した頃、セイクリッドは美鈴に礼を言って再び館内に戻っていった。真っ赤な館を直視しないようにしながら。パチュリーは相変わらず図書館で本を読んでいた。ココアは絶えず本の整理と主人の紅茶を忘れず、暇なときには自分も本を読んでいる。セイクリッドはパチュリーに部屋へ入る許可を求めたが、返事は返ってこなかった。本に集中していると周りの声が聞こえなくなるのは知っていたので、セイクリッドは静かにフランドールの眠る部屋へと足を踏み入れた。
 毎回、フランドールの発狂後はパチュリーの寝室へ来ていたため、ここへ入るのは初めてではないが、部屋の様子はそれなりに変っていた。家具の位置や種類が変っているのが目に見えて分かる。誰が縫ったのかも分からない、レミリアやパチュリーをかたどった人形がクローゼットの上に置いてあることも変っている。
 フランドールはベッドの上で仰向けに眠っていた。掛け布団からは顔を出し、優しそうな表情で安静にしている。この様子なら、もう大した怪我もないはずだろう。セイクリッドは宙に腰を置き、そのまま妹が起きるのを待った。
 暫らくしないうちに、フランドールはもぞもぞと動き、ゆっくりと目を開いた。天井に目を向けた後、フランドールは眠そうな表情でこちらをゆっくりと振り向いた。セイクリッドが笑顔を作ると、フランドールはビクッと体を跳ねさせ、目を丸くした。
 フランドールは強く目を擦り、もう一度セイクリッドを見上げた。それも仕方のないことだと、セイクリッドは思った。回りの大人も同じような反応を示したのに、小さな子が驚かないはずがない。フランドールは更に目を擦った。一回目の二倍の時間を要して目を擦り、再びセイクリッドを見つめた。

「おにい……さま?」
「よっ、久しぶりだなフラ――うおっ!」
「お兄様!」

 フランは陸に上げられた魚のように、セイクリッド目掛けて飛び跳ねた。体当たりを受けたような衝撃が走ったが、セイクリッドは何とか受け止めた。腰に腕を回して抱きつき、腹部に顔を埋めた。セイクリッドは宙に浮いているため、フランは全体重を彼に掛けていたが、その体重も大した物ではなかった。フランは顔を胸に擦り付け、頭を撫でるようにセイクリッドに催促し、彼はそれに応えて髪を撫でた。――つもりだった。

「痛いっ!」

 優しくフランの髪を撫でたつもりが、予想に反してフランは声を張り上げた。顔を離し、頬を膨らませてセイクリッドの顔を睨んだ。セイクリッドは軽く謝り、なるべく髪を撫でないようにくしゃくしゃと頭を撫でた。それだけで、フランは機嫌を直して小さく笑った。セイクリッドはフランの後ろ髪を手に取り、もう一度指で優しく撫でた。くしで髪を解くことが出来ないほど髪は固くなり、綺麗だった毛先は殆どが枝分かれしていた。フランの髪は変化していた。昔の、あの艶やかな柔らかい髪はどこへ行ってしまったのだろうか。
 フランが顔を擦り付けなくなったかと思うと、今度は固まったまま顔を動かさなくなってしまった。すると、急に鼻を啜る音が耳に聞こえてきた。同時に、胸の辺りが湿っぽくなっていることも分かった。セイクリッドはもう一度、フランの頭を優しく撫でた。フランは小さく頷きながら、何度も何度も「お兄様」と言っていた。

 フランはようやく泣き止み、セイクリッドの袖を借りて涙を拭った。セイクリッドの服はしわと涙で随分と乱れてしまったが、フランの心の乱れに比べれば大したことはなかった。フランは涙を拭き終え、泣き顔の変わりに、太陽のような明るい笑顔を見せてくれた。

「お兄様……死んじゃったんじゃないの?」
「ずっと眠っていたみたいなんだ。ごめんな、心配掛けて」
「うん……じゃあ、これからもずっと一緒にいてねっ」

 フランはそう言うと、もう一度胸元に顔を擦り付けた。昔からこんなに甘えんぼだっただろうか、とも思ったが、死人が実は生きていたと知らされれば、誰だってこんな反応を示すだろう。特に、まだ幼いフランなら、思いのまま態度に表れるのも当然だ。髪が乱れているのにも納得がいった。セイクリッドはフランドールにとっては親同然、いや、それ以上の関係を、そして、憧れのような感情を抱いていたのだろう。そんな人が突然死んでしまった。悲しみに暮れてしまうのも当然だ。悲しみはやがて不安となり、ストレスへと姿を変えていったのだろう。その結果がこれだ。フランドールの魅力的な髪は失われてしまった。少々被害が大きすぎる感じもあるが、相当なストレスだったに違いない。
 フランを抱き上げ、身体から引き離すと、フランは足をばたつかせながら笑みを零す。セイクリッドは床に立ち、フランも床の上に立たせた。とりあえず、風呂に入って疲れをとることにした。フランは何度も一緒に入るとせがんだが、今日一日は一人で入浴を済ませたかった。色々なことがありすぎて体がだるい。フランは口を尖らせて俯いたが、頭を撫でるとすぐに機嫌を取り戻した。分かりやすい性格だな、とセイクリッドはクスリと笑った。フランを部屋まで送り、風呂へと向かった。

 浴場は大きく二つに分かれていて、メイドたちが入る大浴場、レミリア、フランドール、パチュリーの三人が使用している浴室。昔はセイクリッドもレミリアたちと同じ浴室に入っていたが、何しろ今はもう昔ではない。いまや、周りのメイドは全員顔知らず。執事は一人もおらず、勝手に浴室に入ろうとするならば、間違いなく誰かに止められるだろう。仮にそうなったとしても、問題ないのだが。
 既に大浴場の方では数人のメイドたちが出入りを繰り返していた。その度に、セイクリッドの姿を疑いの目で見ていた。セイクリッドがいつもの浴室の前でメイドたちの顔を覚えていると、数人のメイドがこちらへと歩み寄ってきた。こちらを警戒してのことだろう、見たことのない人が、しかも男性が、女性ばかりの浴室の前でたたずんでいるのだから無理もない。威勢の良さそうなメイドがセイクリッドに注意を促し、えらそうに腰に手を当てた。両隣にいる二人のメイドは濡れたタオルで髪を拭いたり、こちらを睨んだりしているが、あまり関心のなさそうな様子だった。セイクリッドは適当に返事を返し、にやりと笑って一人のメイドを宙に放り投げた。他の二人のメイドはビクッと跳ねてそそくさと逃げ出してしまった。放り投げたメイドを暫らく宙に浮かせたまま、再びメイドたちの顔を覚えていった。
 一刻が過ぎようとしていたとき、メイドの出入りが途絶えたので、そのメイドを解放して床に降ろした。怯えた表情で後ずさりし、早足に廊下の角に隠れていった。
 浴室に入ろうとすると、後ろから誰かに声を掛けられた。

「セイクリッド様、今から入るところ?」
「ん、先に入ってきてもいいぞ」

 パチュリーは首を振って手元にあった本を開き、その場で宙に腰掛けて本に目を走らせてしまった。やたらと分厚い本で、あまり本を読まないセイクリッドにとっては物凄いことのように思えた。
 既に乾いた服を脱ぎ、浴室に足を踏み入れる。よくよく考えてみれば、三十年間も体を洗っていないわけだから、念入りに洗わなくてはならない。髪も同様だ。よく見てみると、石鹸もシャンプーも見たことのないものに変っていた。特に、シャンプーは香りの変り具合が良く分かり、果物の甘い香りが鼻をくすぐった。湯船に浸かり、顔を擦る。
 風呂から出たらまず夕食、いや、その前に自室へ向かおうか。地下室への階段のすぐ傍にあったはず。今はメイドたちの寝室になっているか、ただの物置と化しているかは分からないが。洗面所の方で会話が聞こえてきたので、そろそろ出ないとパチュリーにも迷惑だろうと思いつつ、おもりの外れた体を持ち上げた。
 外の話し声はパチュリーとレミリアだった。どうも声に元気がなく、何度もわざとらしい溜息が聞こえた。髪を拭きながら、ドアの方へと耳をそばだてた。

「レミィ、いいの?」
「何が?」
「妹様の事。セイクリッド様はすぐに気がつくと思うけれど……」
「……幸せには何かしらの犠牲が必要なのよ」
「あまり一人で抱えようとしないでね、レミィ」

 レミリアの溜息を最後に、足音はゆっくりと遠ざかっていった。セイクリッド様はすぐに気が付く。何に? 犠牲が必要。何の? 抱えないようにしないで。何を? 様々な疑問が脳内を飛び交ったが、考えるだけ無駄だった。直接話を聞くしか方法はないだろう。
 服を着て廊下へ出ると、パチュリーは再び本の世界へ旅立っていた。声を掛けると、本を閉じ、首を回してのろのろと浴室へと入っていった。話は後でレミリアから直接聞こうと考え、先に自室でくつろぐことにした。

 館を歩き、自室へ向かっていると、どうも館内が広く感じられた。窓の間隔が妙に広く、廊下の幅も、更には以前はなかった扉までもがあった。外から見たときは紅く塗りつぶされていること以外に変りはなかったというのに、どうもおかしい。増築されたとは考えにくく、記憶違いが最も有力な答えだった。勿論、それで正しいのだろうが。
 自室の位置は変わりなかったが、代わりにメイドたちの会話が耳を貫いた。どう考えても、もうここは自分の部屋ではないことが分かる。仕方無しに、地下室への階段へ足を進めた。フランの部屋はセイクリッドの部屋よりも広く、何より歓迎されるだろう。セイクリッドの部屋が地下室の傍にあるのには訳がある。フランの暴走を逸早く抑えるため。それだけの目的だったのだが、まさかこんな形でこの配置が役に立つとは思いもしなかった。
 ドアを叩き、セイクリッドと名乗ると、ドアの奥から走る足音が響き、フランは厚いドアを勢いよく押し開けた。フランは万遍の笑みを浮かべながら、羽をぱたつかせ、辺りをぴょんぴょんと跳ね回った。ベッドに腰掛けると、お約束と言わんばかりに体に飛びついてきた。顔を擦り付けると、上目線でセイクリッドに笑顔を振舞った。

「お兄様、一緒に御飯食べよっ」
「ん? いつも一緒に食べていただろ?」

 フランは照れ隠しのように笑い、再び顔を埋めた。フランをあやすように背中を叩き、もう一度フランの髪に目を向けた。
 ドアきしむ音と、あっと驚く声に気がつき、ドアの方へ目をやると、咲夜がドアの向こうで立ちすくんでいた。まさかとは思ったが、万が一のためだ。

「あー、勘違いするな。これは兄妹のふれあいであってだな――」
「はい、分かっておりますが……。それはともかく、フランドールお嬢様、お食事です」

 弁解は必要だったのか、むしろ逆効果だったのではないかと、後悔の念が強かった。腰に絡みつくフランを引き離すと、フランはぱたぱたと出口に向かって走っていった。セイクリッドも後を追おうとしたのだが、それよりも早く、フランはテーブルの傍へと戻ってきた。
 テーブルの上にはパンやスープ、サラダなどがフランの手によって運ばれてきた。セイクリッドは口を半開きにしたままその様子を見ていたが、フランに裾を引っ張られて我に返った。状況が理解できない。ただ、今日の夕食を、フランはここで済ますつもりだということは充分理解できた。咲夜が立ち去るよりも早く、セイクリッドは声を掛けた。

「咲夜、俺の夕食はもう出来ているのか?」
「は、はい……」
「今夜はここで食べる。悪いが、持ってきてくれ」

 そう伝えると同時に、フランと同じ料理がテーブルの上に並べられていた。咲夜の時間操作は便利ではあるが、どうも驚きが隠せない。
 フランはクロワッサンにかぶり付き、パンクズでテーブルの上を汚した。トマトスープも美味しそうに飲み、口の周りを紅く染めた。独特の赤い色は血が混じっていることを証明した。サラダも野菜一つ残さずに平らげ、丁寧に食器を一つに重ねた。セイクリッドも食事を終え、一息ついて頭の中を整理した。
 先程フランが声を掛けた理由は合点がいった。だが、何故わざわざ自室で食べるのだろう。今日だけ特別な日とは思えないし、こういった習慣があったわけでもない。フランが自主的に行動を起こしたのだとしても、本人には何のメリットもない。フランの独立を意識した物とは到底思えず、疑問は風船のように膨らんでいくばかりだった。
 やはり、本人に直接聞くしかない。

「なぁフラン」

 フランはテーブル越しにセイクリッドの手を握り、小さく首を傾げた。

「どうしてここで食べているんだ?」

 ぎゅっと、セイクリッドの手を握る力が加わった。自分の膝元に目を向け、フランは暫らく黙り込んでしまった。不味いことを訊いてしまったかもしれない。だが、引き下がるつもりはない。

「いつもは皆一緒だったろ? レミリアとも一緒に――」
「止めて!」

 フランは一際大きな声を上げると、セイクリッドの手を離した。セイクリッドの驚いた表情を見て、フランは表情を歪めた。

「あ……そ、その……ごめんなさい」
「いや、俺こそ悪かった。何か理由があるのか? 教えてくれ」
「……あの人と一緒に居たくない」
「あの人? ……お姉さんのことか?」

 フランはこくんと頷き、目を擦った。相変わらず俯いたまま、体はカタカタと震えていた。何か喧嘩でもしたのだろうか。レミリアをあの人と置き換え、名前を聞くのも嫌がっていた。相当な嫌悪感を抱いているのだろうか。

「嫌でなければ教えてくれ。何があった?」
「……あの人が……お兄様を殺したの。……それだけ」

 レミリアがセイクリッドを殺したというのならば、フランが怒るのも、敵視するのも不思議なことではない。それに、誰も止めようとはしなかったのだろうか。あの頃はパチュリーも子悪魔も、美鈴もいたはずだ。レミリアの肩を持ったのか、ただ黙認していただけなのか。
 頭が痛い。フランの許可を得て、ベッドの上に仰向けに倒れこむ。フランはそんなセイクリッドを他所に、胸の上に飛び込んだ。突然の衝撃に咳き込み、フランを払いのける。申し訳なさそうな表情でセイクリッドの顔を覗きこむが、彼から離れる気配は微塵ともなかった。フランの頭を撫で、自分の額に手を当てた。
 頭痛がする。明日になったら、レミリアに話を聞こう。本当のことを聞き出して、何とか仲直りまで持っていかせる。脳内で明日の予定を想定し、呼吸を整え、目を閉じた。明かりが点いていて寝付けない。念動を使い明かりを消すと、フランは左腕をぎゅっと握り締めてきた。右腕でフランの背中を擦っているうちに、いつの間にか寝入ってしまっていた。

 朝だというのに、光がない。窓もない、真っ暗な部屋。自分の眠っていた部屋が真っ暗だった理由もよく分かる。左腕には未だにフランの肌の感触が伝わっていた。手の甲がフランの腹部に触れている。静かな呼吸音が聞こえ、何かの夢を見ているのか、寝言をぶつぶつと言っている。明かりをつけるとフランは小さく唸り、体をもぞもぞと動かすが、左腕を離す様子はない。柔らかい頬を何度か叩くと、唸り声と同時に微笑を見せた。夢の続きでも見ているに違いない。
 嫌気が差し、宙に浮かばせると、フランはゆっくりと目を開いて大きく欠伸をした。状況が分かっているのかそうでないのか、フランはにっこりと笑って、おはよう、と声を掛けた。ベッドの上に降ろし、セイクリッドも大きな欠伸を済ませ、適当に体を反らす。頭痛はすっかり治っている。体調不良でもなく、いつも通りに過ごすことができそうだ。
 気が付けば、テーブルの上にはコーンフレークとミルクが二人分置いてあった。フランを呼び、椅子に腰掛けた。フランはミルクを注ぎ、おぼつかない手取りでコーンフレークを食べ始めた。セイクリッドはこれからどこへ何をしに行くかを伝えた。まずはレミリアに話を聞くから、暫らくの間構ってやることは出来ないと、何とか融通を利かせることに成功した。目を瞑れば、レミリアがまだ寝ていることが確認できる。レミリアが朝食を終えるまで、フランの傍に居ると約束すると、フランは柔らかな表情を見せた。甘いはずのコーンフレークが、不思議と苦味を含んでいるように感じられた。

 
                   *                   *


 朝から気分が悪い。ベッドから上体を起こす気にもなれない。溜息一つ吐くのに溜息が出そうなほど、体がだるい。死んだはずのセイクリッドの生還。昨日の出来事はたった一つだったというのに、それが鉛の重荷となって心に圧し掛かる。このままでは心が押し潰される。
 首を振り、ベッドから飛び跳ねた。スプリングがきしんで嫌な音を発し、思わず耳を塞いでしまった。咲夜、と声を掛けると、彼女は瞬時に目の前に現れてくれた。寝巻きを脱ぎ、咲夜の腕にあるいつもの服を着る。咲夜は天を仰いでいたが、一息つくとすぐに視線を戻し、寝巻きを畳んでベッドの上に置いた。
 今日はセイクリッドが何かを聞きに来る。館のことは必ず訊きに来るはずだが、そのことはあまり気にならない。淡々と事実を述べれば良いだけだ。問題はフランのことだ。
 事実を知れば、必ず仲介に入る……それが兄、セイクリッドの性分だ。

「お嬢様、どうかなさいましたか」

 咲夜が心配そうに尋ねてくる。いつもの抑揚付いた感情の塊の声は、冷淡な棒読みのようにしか聞き取れなかった。適当に首を振って受け流した。咲夜には事情が分からない。相談するだけ無駄。頭の中で、その言葉が虚しく響く。
 コーンフレークにミルクと血を注ぐと、器とフレークは双方を吸い込み、綺麗なピンク色に染まっていった。僅かな鉄の匂いが鼻を突き、食欲を消失させた。

「咲夜、血の管理、少し適当なんじゃないの?」
「いえ、そんなはずは――いつも通りだと思いますが」

 咲夜は血の匂いを嗅ぐと、そう主張した。不安が妙な錯覚を生み出しているのだろう、そう自分に言い聞かせ、フレークをすくっていった。先程のはただの思い過ごしと言うように、鉄の匂いはすっかりと消えていた。
 食事を済ませ、レミリアは暫らく考え込んだ。あまり長い時間ここに居てはいけない。セイクリッドが諦めるまで、どこかで身を隠したい。
 博麗神社へ行けば、あるいは身をかくまってもらえるかもしれない。今日一日だけでもいい、ここから離れよう。咲夜を呼び、神社へ出かける準備を命じた。この時間帯、紅魔館で起きているのはレミリアと咲夜、パチュリー程度しか居ない。誰も見ているものは居ないはず。慎重に外へ出れば、今日一日は安泰だ。
 椅子から腰を上げると同時に、部屋をノックする音が響いた。一瞬の沈黙。レミリアも咲夜も、ドアの方を見つめているばかりだった。レミリアは息を呑み、沈黙を守り続けた。もう一度、ドアをノックする音が乾いた部屋に伝わってきた。

「レミリア? 朝早くから悪いが、話したいことがあるんだ。いるんだろう?」

 それでも、レミリアは息を殺し続けた。考え込む時間は無いと自分に言い聞かせていたのに、今この瞬間が無駄だということも分かっているのに、体は動こうとはしなかった。咲夜はレミリアの顔をうかがったが、レミリアは首を横に振った。

「居るのは分かっているんだ、都合が悪いなら時間を改める。返事をしてくれ」
「――入って」

 喉が渇いている。何とか声を絞り出したが、その声も痙攣を起こしていた。姿を見せたのは他ならぬセイクリッドだった。フランが居ないことを確認し、息を吐いた。心臓が波打っている。下手をしたら血液が逆流してしまうのではないかと思えるくらい、鼓動は速まっていた。セイクリッドはあまり気分の良さそうな表情ではない。何か話しにくいことを打ち明けようとしている。表面では笑顔を作っていても、その様子は表情に浮き彫りになっていた。セイクリッドの口が動いている。上手く聞き取れない。とりあえず、何か話さなくてはならない。やっとの思いで、唇が動き出した。

「……座って」

 自分の口から発せられた言葉は、主語も無い、たった三文字の一音節に過ぎなかった。横板の雨垂れもいいところだった。身体は何とか言うことを聞いてくれるが、足の震えは止まらなかった。朝食をとったテーブルの椅子に腰掛け、セイクリッドを招いた。
 予想に反して、セイクリッドは正面ではなく、隣に腰掛けてきた。何か企みがあってのことか、何の意味も無いのか。その二択を想定するだけでも、頭がはち切れそうだった。

「レミリア? 具合でも悪いのか?」


 大袈裟に首を振ってしまった。口が思うように動いてくれない。視界の外に居る咲夜はどのような表情をしているのだろう。怯えている、情けない主人を白い目で見ているのだろうか。しかし、その考えも台風のように過ぎ去っていった。

「お前は変に強がる所があるからな。何かあったらすぐ言えよ」

 今すぐにでも言いたい。貴方が、兄が、セイクリッドが怖いと。
 足の震えを両手で必死に押さえていると、セイクリッドは鼻で小さく笑いかけてきた。俯いたまま足の震えを見つめていると、帽子越しに何かで頭を抑えられた。
 恐る恐る隣を見ると、セイクリッドが微笑んでいた。頭を撫でられていると気が付くのに、数秒掛かった。セイクリッドの意外な行動に、口が固まった。

「はは、もう子どもじゃないって?」
「う、ううん……」

 自然と、流れるように声が出た。セイクリッドはレミリアの頭を撫で続け、髪も帽子もくしゃくしゃにしていった。レミリアの手が帽子を取ると、セイクリッドはもう一度笑い、今度は髪を撫で始めた。
 心臓の鼓動が落ち着いていくのが分かった。足の震えも、いつの間にか止まっていた。途セイクリッドに対する怯えも消えていった。頭を撫でられたのは久しぶりかもしれない。途端に顔が火照り、再び心臓が暴れだした。
 かなり長い間、頭を撫でられていた気がする。どのくらいかは分からない。急激な気持ちの変化で、時間間隔も狂ってしまった。セイクリッドは溜息を吐くのと同時に、両手をテーブルの上で組んだ。心臓の鼓動も治まった。

「悪い、本題に移る。実は……フランのことなんだけどな」
「……待って。咲夜、席を外して頂戴」

 咲夜は無言のまま、部屋を後にした。足音が聞こえなくなった頃、口を開いた。

「私が兄上に止めを刺したの。間違いないわ」

 言い逃れするつもりは無かった。もともと、捕まったら打ち明けるつもりだった。質問の内容も、大方分かっていた。セイクリッドは苦笑いをしながら、頭を掻いた。

「……そこら辺の記憶が無いんだ。……もう少し、詳しく教えてくれ」
「兄上はいつものようにフランの暴走を止めに行ったわ。勿論、私とパチュリーもね。いつもなら、少なくとも兄上は手傷一つ負わずに暴走を鎮めていたわよね」
「あぁ、そうだな……それで?」
「けれど、その日は違った。理由は分からないけれど……兄上は見事に被弾したのよ、あの卍弾にね。兄上の血なんて始めて見た。凄く怖かったのを覚えている。兄上はそのまま倒れて……何とか二人で兄上を守ったわ。けど……兄上は意識がなかった」

 先程のもどかしさが嘘のように、次々と言葉が零れて来た。立て板に水の状態が続き、レミリアは自分でも驚き、安心していた。セイクリッドは合点がいったかのように、大きく頷いた。

「……一週間も目を覚まさないんだもの、もう死んじゃったんだと、私は思った。それで……貴方の従者も死を選んだ。……兄上が一番気がかりなのは、多分この後かしら」

 レミリアは呼吸を整えた。

「……今なら、私がここの主になれる……兄上を殺すのも、赤子の手を捻るより簡単……。杭を打って、十字架を立てて、銀を撒いて、棺桶に入れて……地下に閉じ込めた」

 自分でも、恐ろしかった。これほどまで、自分は舌が回っただろうか。セイクリッドは黙り込んだまま、小さく溜息を吐いた。

「パチュリーも止めたけど、振り切ったわ。どう? これでいいかしら」

 セイクリッドは黙ったまま俯いた。レミリアは内心不安になりながらも、セイクリッドの反応を待った。今なら、多少の沈黙に耐えられる。久しく、いつもの兄と会うことが出来たから。
大 きく息を吐いた後、セイクリッドはにやりと笑った。

「ははぁ、なるほどな……それで、その願いは叶ったのか?」
「その願いも昨日破られたわ。けど、残念とは思わない」

 一瞬の沈黙。何か不味いことをいってしまったと思い、手汗が滲み出てきた。

「……そのことに関しては全てお前の独断なんだな?」
「そうよ」
「フランとの仲を取り戻したいとは思うか?」
「いいえ」

 セイクリッドの目が一瞬だけ光ったところを見逃さなかった。全身の毛穴から冷や汗が吹き出そうになった。口をつぐむと、セイクリッドの方から口を開いた。

「……分かった。悪いが、最後の発言は許せないな。……朝早くから変な話を持ち出して悪かった。また何か聞きにくるかもしれない」
「分かったわ。……それじゃあ」

 セイクリッドは最後にレミリアの髪を撫で、微笑みかけた。ドアへ向かって歩くセイクリッドの背中が妙に広く、遠く感じられた。一息つこうと肩の力を抜いた瞬間、ドアのノック音と同時に、セイクリッドの声が通った。ブリーシンガメンとドラウプニルと聞いて、鏡台の引き出しを漁った。セイクリッドの首飾りと指輪のことだ。死人に持たせるのも惜しいと思い、保管したのは良かったが、どうしても使う気に慣れなかったものだ。燃えるような真紅色のオーラをまとった首飾りと、純金で出来た細かい装飾の施された指輪。どこで手に入れたか聞いたことはないが、自分もどこでグングニルを得たのかは覚えていない。そういう意味では同じようなものだろう。
 セイクリッドはその場で首飾りと指輪を着け始めた。その様子を始終ずっと見つめていることに、セイクリッドに浮かされるまで気がつかなかった。もう一度頭を撫でられた。純金の硬い指輪が頭を擦り、少し気が立った。
 今度こそセイクリッドが立ち去ったことを確認し、ベッドの上に飛び込んだ。寝巻きが跳ね、スプリングがきしむ。やはり、あまり良い音ではない。大きく深呼吸すると、胸が痛んだ。痛い。胸に手を当て、身体を丸め込む。
 心臓に穴が開き、全身に冷たい何かが流れ出した。色は分からない。凍えるような冷たさもない。信頼を奪われた人に対する目ような冷たさ。ひんやりとした、身の毛がよだつ冷たさ。冷水が流れるのは血液中だけではない。冷水は心臓の穴から体内に溢れ、ゆっくりと身体を侵食していく。自分の真っ赤な血液も冷水に薄められ、体の内部から肌寒い。冷水は頭部へと侵攻を進めた。冷水は脳を包み込み、じわじわと隙間に入り込んでくる。胸の痛みと同時に、今度は頭痛に襲われた。ベッドの上でうずくまるしかなかった。呼吸が乱れ、息苦しい。このままでは体中が冷えきって凍死してしまう。苦しい。
 苦しいのは呼吸だけではない。
 私は嘘を吐いた。胸が痛い、苦しい。やり場のない怒りがふつふつと湧き上がってきた。
 一週間も目を覚まさなかった……嘘、兄は一年間眠り続けた。
 従者が死を選んだ……嘘、私の手で全員殺した。
 今なら私がここの主になれる。

 ――嘘、本当は館の主なんてなりたくもなかった。


                   *         *         *


「ねぇ、お姉様……お兄様はいつ起きるの?」
「……もう少ししたら起きるわよ。……そうよね、パチェ?」
「え、えぇ……」

 パチュリーの答えは適当もいいところだった。目は泳ぎ、嘘を吐いているのは表情からもばればれだった。嘘を吐く相手がフランだったから助かった。レミリアはフランを慰め、安静にしなければいけないと言ってフランを退室させた。
 フランの足音が聞こえなくなった頃、パチュリーはレミリアに視線を移した。

「もう……無理よ。これ以上は……流石にばれるわ」
「分かっているわ。……だから、わざわざ手を汚す道を行くのよ」

 あの日、セイクリッドはまたとない失態を侵した。あのフランの弾幕に、しかも、よりによって一番強力な弾に直撃した。瀕死だった。レミリアとパチュリーで何とか暴走を静めたものの、セイクリッドが動く気配はなかった。セイクリッドが目を見開いていたなら、とても直視はできなかっただろう。パチュリーはすぐに手当てを施した。直撃した部分の臓器は殆どが抉り取られ、背骨も綺麗に折れていた。あふれ出るセイクリッドの血は大半が固まっていた。セイクリッドは普通より血小板が多く、深い切り傷でも出血は殆どなかった。が、内側から抉られてしまってはその効果も無意味だった。
 治療そのものは一刻で済んだ。引き裂かれた衣服と意識以外、全て元の通りだった。セイクリッドが抱えられている姿を見て誰もが驚いた。セイクリッドの従者は次々と集まり、皆が皆、セイクリッドの顔を見るや否や、手の平に深い爪痕や涙を残した。
夜が、月が、季節が、年が変わろうとも、セイクリッドは目を覚まさなかった。誰もが悲嘆に暮れていた。レミリアも、その内の一人だった。
 白妖城の主は死んだ。誰もが否応なく確信した。ただ、フラン一人を除いては。フランは毎日、意識のないセイクリッドに話しかけていた。同じベッドに腰掛け、本当にセイクリッドと会話をしているようにさえ見えた。だが、それはフランの妄想に過ぎなかった。次第にフランは宙で何かを手で追いかけ始めたり、死人に対して怒るようにもなった。明るく無邪気なフランの精神も、幻覚を見るほどまで衰弱していた。
 一体誰がセイクリッドに引導を渡したのか、それを本人は知らない。もし、その事実を知れば、一生塞ぎ込み、自責と後悔、痛嘆の念に殺されてしまう。何があっても、その事実をフランに知られるわけにはいかなかった。
 フランはまだ兄が生きていると思い込んでいる。しかし、兄の死因はフラン。
 誰かがセイクリッドを殺した、そうしなければ、フランは救われない。そう考えた。

「本当に実行するの?」
「……フランが助かるのなら、本望よ」
「貴女はどうするのよ。ただじゃ済まないと思うけど?」
「今のメイドと執事を消して、新しく雇うわ」
「そうじゃなくて。妹様」
「……五月蝿いわね。協力してくれるんでしょ、フランを眠らせてきて頂戴」

 パチュリーは険しい表情でセイクリッドの部屋を出た。胸が痛む。
フランが眠ったと聞いて、レミリアは従者を次々と殺していった。小さな館に住んでいた三十人は悲鳴を上げる間もなく、死んでいった。セイクリッドのように、一瞬で死が訪れた。主人の居ない従者を殺すのは簡単だった。返り血で服が汚れたこと以外、損害はなかった。従者の血と購入したあった人間の血を使って、白妖城を紅く染め、紅魔館とした。
 最後、兄に杭を打ったのはほんの演出のつもりだった。いかにも、誰かが殺したという痕跡を残す意味では最高の手段だった。
 始めは軽く打ち込むつもりだった。尖った木の杭を左胸に突き立てた。ここまで来て、万が一にでも生き返れば洒落にならない。もう、後には引き下がれなかった。一回、二回と金槌を振り下ろすたびに、杭はセイクリッドの胸にゆっくりと沈み込んでいった。目を反らしながら行っていると、次第にある感覚に気がついた。そして、力を込めて、思い切り杭を打ちつけた。白と青のコントラストが綺麗な衣服は、じわじわとどす黒い血色に染まっていった。次第に、腕に力が入ってきた。杭はどんどんと食い込む一方だった。
 やり場のないストレスを、全てセイクリッドに向けて爆ぜた。兄の血を見る恐怖感も、後悔の念も一切感じなかった。昔から、ずっと兄の期待に応えてきた。フランの姉として、威厳を保った。セイクリッドに甘えることなど、殆どしなかった。いや、出来なかった。
 息が荒くなっていることに気がついて、深呼吸を繰り返した。金槌を捨て、いかにも誰かが殺したかのように見せかけた。椅子に腰掛け、背もたれに背中を任せた。そのまま、私はどろりとした眠りについてしまった。
 翌日、フランの大きな暴走が起こった。原因は勿論、セイクリッドの死だった。フランは理性を失いつつも、涙を流し続けていた。破裂した怒りは、すぐに治まった。
 仕込みは終った。後はセイクリッドを処理するだけ。棺桶に詰め、地下室に大きな穴を開け、そこへ放り込んだ。銀や十字架は、パチュリーに協力を得て用意してもらった。
 私は兄と妹を同時に失ってしまった。パチュリーが居なかったらと思うと、恐ろしくなってきた。これで、作業は一通り終了した。次は新しいメイドを雇うことだ――。


                   *         *         *


 頭が痛い。胸も痛い。助けて――切な願い。誰でも良い、助けてほしい。
願わくは、兄、セイクリッドの手によって救われたい。


                   *                   *


 レミリアの告白には心底驚いた。違う、悲しかった。フランと仲直りするつもりがない……胃が痛くなる。原因は間違いなく俺にある。あの日の記憶がフラッシュバックとなって脳裏に甦る。あの日はひどく調子が悪かったのだ。今まで、周りに調子が悪いことを感ずかれないようにはしていた。誰にも心配を掛けないように。だが、それが裏目に出た。誰にも頼らなかった結果、思わぬ事故を生み出してしまった。責任は俺にある。
 鉛の足でフランの部屋へと向かった。倒れこむようにしてドアをノックした。ドアはすぐに開かれ、フランが笑顔で迎え入れてくれた。僅かに癒されたが、気休めでしかなかった。椅子に座るように言うと、フランは素直に従ってくれた。

「フラン、大事な話がある」
「えへへ、なぁに?」

 無邪気に笑みを浮かべ、足をぶらぶらさせている。

「……レミリアとのことだけどな」

 フランの表情が強張り、笑顔が消える。俺は深刻な表情を変えなかった。変えたら最後、フランは必ず甘え、話を反らそうとする。

「フラン……レミリアと仲直りするつもりはないか?」
「ないよ」

 きっぱりと、はきはきした声だった。何故こんな質問をするのか、と言わんばかりに、フランは怪訝な表情を見せる。いつもの無邪気な面影は微塵ともない。

「なぁ、フラン……俺はお前のことも、レミリアのことも好きだ。お前らが喧嘩しているところなんか見たくない。……頼む」
「……お兄様を殺した人だよ? 怨んだり、怒ったりしないの?」

 声ははっきりとしていたが、目の奥は震えている。フランは唾を飲んで俯き、ちらちらと上目遣いでこちらの返事を待っている。

「さっきも言っただろ、お前らのことが好きだ、って。それに、お前の暴走はいつものことなのに、いつも通り避けられなかった俺が悪い。フランは何もしてないから安心しろ」
「……お兄様」
「何だ?」
「……本当に怒らないの?」
「? あぁ……」

 不自然な問いに首を傾げた。フランは重く頭を垂れ、自分の膝元を覗いている。フランが俯いたまま沈黙が流れる。部屋中の空気の代わりに、フランの体から沈黙が発せられているような気さえする。沈黙は大きな一本の手となって俺に向かってくる。手は俺を包み込み、ゆっくりと迫ってくる。首を振るう。ガス状の実体のない手が消える。沈黙には今日の朝で慣れた、辛くはない。だが、相手がフランである時は例外だ。沈黙が恐ろしい怪物となり、俺を飲み込もうとしているようにさえ思えてくる。

「お兄……様……」

 フランは弱々しく、震えた声でそう言った。沈黙の塊が一気に蒸発した。身体はかたかた震えていて、肩に力が入っているのが分かる。俯いているために表情は分からない。

「ごめ……な、さい……ヒック……」
「お、おいフラン? どうしたんだ?」
「だって……お姉様は……ん、クスン……あっ……」

 フランの泣き顔は昨日も見たが、あまり気持ちの良いものではない。椅子から立ち上がり、フランをこちらへ引き寄せる。いきなり浮かされて驚いたのか、フランは泣くのを止めて目を丸くしていた。フランを目の前に立たせると、目に涙を浮かべながら鼻を啜っていた。俺はフランの目線に顔を合わせ、優しく抱き締めた。身体に触れた瞬間、フランはピクンと跳ねたが、途端に大声で泣き出してしまった。背中を擦り、髪を撫でる。昨日の髪とは打って変わって、いつもの艶やかな髪が再生されかけていた。よく見ると枝毛も減り、指が髪に引っかからない。安堵のあまり、無意識に笑みが出た。泣き止んだ後でも、話を聞くことは出来る。フランが安心出来るように努めても、罰は当たらないだろう。

 フランは案外すぐに泣き止んでくれた。フランの一声で、俺はフランを離した。しゃがみ込んだまま、もう一度フランの頭を撫でる。フランは涙を拭きながら、恥ずかしそうに笑みを零した。俺が微笑みかけると、フランはゆっくりと口を開いた。

「お姉様は何も悪くなくて……悪いのは私なの……」
「……だから、お前らは悪くな――」
「違うのっ! ……お兄様を殺したのは……私……」

 フランは一際大きな声を出したかと思うと、すぐに声をしぼめた。
 しかし、それではレミリアの証言と完全に矛盾してしまう。レミリアは自分が兄を殺したと、躊躇いも無く告白してきた。それに対し、フランはおどおどしながら一言一言ゆっくり話す。どちらも嘘を吐いているとは思えない。だが、どちらかが嘘を吐いている。

「詳しく教えてくれ。分かる限りでいいから、な?」
「うん……。お兄様がずっと起きなくて……凄く怖かったの。お姉様もパチュリーも……お兄様はすぐに起きるって、いつも言っていたの。でもね……分かっていたの。本当は……本当は私がお兄様を殺したんだって……」
「……けど、レミリアは自分が俺を殺したって言っていたぞ?」
「……お姉様は私を庇ったの……。私……お兄様を殺しちゃって……怖くて……」

 フランのレミリア嫌いも、不安を解消する一つの手段だったのだろう。怒りの矛先を自分以外に向けることで、自分は守られる。本能的な自己防衛能力が働いた結果なのだろう。逆を言えば、レミリアは三十年もの間、フランの攻撃対象になっていたわけだ。

「それじゃあ、レミリアのことは嫌いじゃないんだな?」
「うん……お兄様と同じくらい……大好き」

 立ち上がって、フランを撫でた。髪がくしゃくしゃになるほど、何度も撫でる。フランは終始、俯いたまま紅潮していた。
 レミリアと話をしてくると、フランに伝えた。フランが仲直りしたがっている、と伝えるために。フランの表情に、不安と戦慄の面影は跡形もなくなっていた。

 心は晴れていた。これでやっと一段落がつく。フランも心底からレミリアを嫌っていたわけでもないようで、本当に良かった。後はレミリアと話の方をつけて、終了だ。
レミリアの部屋は相変わらず静かだった。中で何をしているかは分からない。透視をしようとは思わない。レミリアと直接会って話がしたい。ドアをノックしても、レミリアの返事はない。何度か声も掛けたが、返事はない。自分の言葉が、虚しく館内に響くだけだった。寝ているのか、出かけているのかは分からない。

「セイクリッド様、レミィに何か用?」

 パチュリーの声だった。振り返ると、両手に本を持ったまま宙に浮いていた。

「ちょっとな。レミリア、出かけたのか?」
「いいえ。寝ているんじゃないかしら」

 それを聞いて、苦笑いをしてしまった。仕方なく、ドアの前で待つことにした。パチュリーは俺に用があるかのようにその場に立ち尽くす。じっとこちらを睨んでくるので、誤魔化し気味に頭を掻く。

「……セイクリッド様、妹様に贔屓していない?」
「随分と急な質問だな」

 贔屓。言葉の響きが悪い。だが、他に言葉も思いつかない。ちょっとした冗談を言ったつもりなのだろうと思ったのだが、パチュリーの表情はいつもと違う。真剣な表情だった。

「レミリアに比べて、フランはまだ幼い。そう映るのも当然かもしれないな」
「……貴方、この三十年間レミィがなんて言っていたか知っている?」

 俺は首を横に振った。
 
「寂しいって言ってたわよ」
「寂しい?」
「いつも一人で寂しい、フランが羨ましい、って」

 パチュリーの発言に、俺は首を傾げるばかりだった。この三十年間だって、パチュリーや咲夜がいたはずだ。それに、フランの何を羨ましがっているのだろうか。パチュリーはわざとらしく大きな溜息を吐き、背を向けて窓の外を眺めた。

「その様子じゃ、レミィの性分も知らないし、本音に耳を傾けたこともないでしょう」
「……回りくどい言い方は止めろ。言いたいことがあるならはっきりと言え」
「……レミィはね、ずっと耐えてきたの。姉という立場に縛られて、貴方の偏見に堪えて。貴方、レミィはもう大人だと勘違いしているのでしょう? 聞かなくても分かる」

 口が動かない。パチュリーの声を、ただただ聞くことしか出来なかった。

「大人びて見えるのはね、貴方の期待に応えようとしているから。表面だけを取り繕って、ただ自分を塗装しているに過ぎないの。兄上に自分を見せたことなんてない。パチェや咲夜が居なかったら寂しくて狂いそう……そう洩らしているの、知らないでしょう?」
「それは――」
「貴方がいないから私や咲夜が傍にいるの。……貴方自身、よく考えてみることね」

 返す言葉がなかった。呆然と立ち尽くす俺を、冷淡な視線が貫く。パチュリーは哀れみの表情を浮かべ、立ち去ってしまった。
 信じられない。信じたくもない。レミリアへの配慮が足りない? その分、フランの擁護に回してしまったのか? 頭が痛み出す。ずきずきと、その場にへたり込み、頭に手を当てる。周りから誰かの声が聞こえる。メイド達がこちらを見て何かを話しているが、よく聞き取れない。
 ――兄妹仲は良いって咲夜から聞いたけど、実際大したことないのね
 ――なんであんな人が居るのかしら。居なくても同じよ
 そんな風に聞こえる。その一言一言が、幻聴のように何度も頭の中でこだまする。頭の痛みもどんどんと増していく。メイドたちを見上げると、彼女らは一目散に逃げ出してしまった。俺は痛みに顔を歪めていた。どんな形相だったのだろう。ドアの前から、這うようにして傍の壁に寄り掛かる。
 自分に対する憤激と後悔の念が体中から溢れ出している。もし、パチュリーの言っていたことが本当だとしたら、レミリアの本音だとしたら……いっそのこと、死んでしまいたい。だが、死ぬわけにはいかない。逃げるわけにはいかない。誰かが必要としている。寿命はまだまだ有り余っている。こんなところで死んで何になる。二人を悲しませるだけだ。
 しかし、頭痛は一向に治まる気配を見せない。普段の頭痛ならフランの暴走もわけないというのに、今回の頭痛は半端ではない。首を刎ねられたらどれだけ楽になるだろうか。パチュリーは魔法で制裁を下し、レミリアは不安を神槍に乗せて貫き、フランは怒りを炎剣に注ぎ、振り下ろす。――頭が痛い。頭を押さえる腕も痙攣を始める。体までずきずきと痛み出す。すぐ傍に、別の誰かが居る。
 レミリアとフラン、そして俺だった。目の前にいるレミリアは椅子に腰掛け、俺と楽しそうに会話をしている。そこで、フランが俺の腕を引っ張り始める。俺が頭を掻いていると、レミリアは微笑みながら頷いた。俺は椅子から立ち上がると、フランの行くままに引っ張られた。視界から俺とフランが消える。辺りを見回しても姿はない。ただそこにはレミリアがただ一人俯いているだけだった。
 レミリアは遠慮してばかりだ。言うことをきくばかりだ。特に、フランが絡むことでは一度も意見したことはなかった。俺が何かを提案したときも、反対の意見も反抗の仕草も見せたことはなかった。
 頭の痛みが引いていく。その代わりに、今度は眠気が襲ってきた。意識が遠のく。レミリアの歪んだ表情を最後に、目の前は真っ暗になってしまった。


                   *                   *


 天井が目に映る。見上げたことのない紅い天井。背中には弾みのある感触、全身には柔らかな感触。廊下ではないことはすぐに分かった。随分と大きなベッド。俺の部屋にあったベッドにそっくりの大きさ。と言うことはここは俺の部屋? いや、今はメイドたちのねぐらとなっているはずだ。

「……起きたかしら?」

 レミリアの声だった。仰向けに寝る俺を覗き込み、息を吐く。レミリアはすぐに視界から消え、椅子のきしむ音が聞こえた。体は動く、上体を起こし、目を擦る。レミリアの寝室、レミリアのベッド。何度も目を擦ったが、目の前にいるのは本物のレミリアだった。戸惑いを隠せず、とりあえずベッドから出る。テーブルには二人分の紅茶が用意されていた。レミリアが笑いかけて手招きをする。あの時の、歪んだ表情ではなかった。紅茶を口に付けるよりも先に、酸味の効いた香りが鼻を突いた。目の前の紅茶には薄く輪切りにされたレモンが浮いていた。

「風邪の時にはビタミンCがお勧めよ」
「……普通の紅茶が飲みたいんだが」
「そう? ……飲みかけでよかったらどうぞ」

 レミリアは自分の飲んでいた紅茶をゆっくりと差し出し、レモンティーを持っていった。
 まただ。レミリアはまたも断らなかった。レミリアは紅茶の本質的な味を誰よりも好んでいる。ミルクや砂糖を入れた光景は今までに見たことがない。何故遠慮ばかりを繰り返す? 何故自分を押し殺す?

「レミリア……パチュリーから聞いたぞ」
「何を?」
「まず始めに謝る、悪かった。――どうしてお前は自分を閉じ込めるんだ?」
「何が言いたいの? 抽象的過ぎて理解できないわ」

 レミリアの目付きが妙に鋭く感じられる。言葉も刺々しく空気を貫く。

「……甘えたかったらもっと甘えてくれ。……誰にも遠慮なんかしなくていいから」
「……私が甘える? 兄上に? ……止めてよ。私はフランとは違――」
「レミリア!」

 大声と同時に部屋全体が揺れ、レミリアは飛び跳ねた。大声を出したのは久しぶりだった。おかげで、喉が熱くなり、ざらざらと痛み出した。レミリアは驚いたのか、蝙蝠風の羽をピクンと縮めた。瞳は一心に俺の顔を見上げている。

「……寂しい思いをさせて悪かった。フランばっかりに目が行って……お前に構ってやれなかった。お前の容姿、威厳、能力、流れる血……全てに期待していた。だが……それはお前にとって、抱えきれない圧力になっちまった。お前が成長するにつれて、三人で遊ぶ機械も減っていった。それも全部、俺の独断が生み出した結果だ」

 レミリアは溜息を吐き、俯いた。表情が一切見えず、蒼い髪だけが光沢を発する。

「レミリア……俺はお前を過信しすぎていた。もう立派な大人になったんだと、勝手に思い込んでいた。だが……お前は昔のままだ。何も変っちゃいない。それはただ、我慢と遠慮を覚えただけだ。……俺が悪かった、本当に済まない……」

 ひたすら沈黙が部屋を支配する。今はもう迷いはない。この沈黙にも耐えられる。レミリアの苦痛に比べれば、天と地の差。ただ、レミリアの返答を待つ。

「……兄上」

 蚊の羽音のように小さな声で、レミリアは確かに俺を呼んだ。俯いたままではあったが、気に留めずにレミリアの話に耳を傾けた。レミリアの手招きを見て、テーブルを回り込み、レミリアの傍まで寄った。体を震わせながら、レミリアは体の向きをこちらへ向けた。膝に乗った右手を持ち上げ、ゆっくりと俺の方へと向けた。

「レミリア?」
「……兄……上。もう、一人にしないで……」

 右腕は震えながらも、服の裾を強く握り締めていた。レミリアの膝の上に、ぽたぽたと雫が零れ落ちている。鳴き声は必死に堪えてはいるが、涙を流しているのは目からも耳からも確認できた。
 俺はフランのときと同じようにしゃがみ込み、レミリアを抱き締めた。そのまま椅子から抱き上げ、もう一度強く抱き締めた。レミリアは声を漏らしながら泣き続けた。レミリアの鳴き声など、何百年ぶりだろう。それくらいの長い間、レミリアには苦痛を与え続けていた。万死に値するとは正にこのことだろう。

「当たり前だ。大好きな妹を放っておくような奴はろくでなしだ」
「それじゃあ……兄上はろくでなしだね……」
「そうだな……ごめんな、レミリア」
「ううん……嬉しい。兄上……」

 フランと同じようにして、レミリアも強く抱き返してきた。今のレミリアには威厳の欠片もなかった。だが、そんな物は必要ない。ありのままのレミリアを受け止めなければ、レミリアが救われるはずがない。レミリアは鼻を啜り、泣き続ける。抱き上げたレミリアを一端下ろすと、笑みを浮かべて頬を染めた。

「フランに会いに行くか」
「え……けど……」
「大丈夫だ。フランはお前と仲直りしたいって言っていたぞ」

 レミリアは涙を拭い、もう一度笑顔を見せた。部屋を出ようとドアへ向かうと、レミリアは俺の手を取った。俯いたまま俺の手を握り、ぴったりと密着している。フランと比べて照れ気味だが、幼さは負けず劣らずだった。

 レミリアは地下への階段を降りるのに戸惑っていた。階段の降り方も忘れてしまっていたのだろう。抱き上げて連れて行くと、レミリアは紅潮して手の平を胸に押し付けた。扉を叩くと、すぐに扉は開かれた。レミリアは俺の後ろに隠れるようにしているが、フランはすぐさまそれに気がついた。
 フランは目を丸め、少しの間立ちすくんだ。俺は部屋へと足を踏み込み、レミリアを引っ張った。レミリアの足は固まっていて、小さな段差に突っかかった。レミリアも目を丸くし、フランと見つめ合った。

「悪かったな、二人とも。仲直りしてくれるか?」
「うん……悪いのはフランだから……」
「そんなことない……私だって非があるわ……」

 妹たちは互いに遠慮しあう。その光景を見て、不思議な気分になった。互いに俯いたまま頭をくっ付けるような形になっている。互いに潤んだ目を見せ、微動だにしない。俺が声を掛けると、レミリアはゆっくりとフランの手を取った。フランは驚きを隠せていないが、余った片方の手で、レミリアの手を握り締めた。

「よし、流石は自慢の妹だ。……フランは我慢と遠慮を覚えること、レミリアは強がり過ぎないこと。いいな?」

 そう言って二人の髪をくしゃくしゃに掻き回す。二人とも目を瞑ったまま、口元を緩ませた。二人はもういつも通りだった。また、平和な時が過ごせる。たった二日間の苦悩だったが、実に多くのことを学び、自分を見つめ直すことが出来た。それも、第三者の客観的なものの見方があったおかげだった。パチュリーにはしっかりとお礼を言っておこう。
 今日はお祝いをしよう。二人の仲の再建を祝って。紅魔館の全員で盛大なパーティを開こう。知らないメイドたちと話す機会にもなる。二人にそう提案すると、妹たちは冷静に、今日は間に合わないと言われてしまった。思わず笑いが零れ、頭を掻いていると、二人はもう一度抱き着いてきた。


「お兄様……大好き。お姉さまも……」
「私も……好きよ。フラン……兄上」
「ありがとな。……俺もお前らが大好きだよ」

 目線を合わせ、レミリアとフランを優しく抱き締めた。二人は幸せそうに笑みを零していた。
反省点がいくつもあります。
オリキャラが厨設定・なるべくキャラを確立させようとして、詰め込みが過ぎました。過去形の多用・おかげですらすら読みにくい。後半の会話文の多さ・どう考えても技術不足です、精進します。咲夜、子悪魔、美鈴が中途半端・全員出したらこのような結果に。中途半端は厳禁ですね。糸の存在が中盤から空気・すっかり忘れていた。かなり痛いミス。後半の展開が無理矢理・レミリアがいきなり本音ぶちまけるとかもうね。他にあげると、きりがなくなるのでここら辺で。

因みに、最後で主語が「俺」になっているのは使用です。
まぁ、主人公の厨設定は後々話を作るうえで使いますが、需要がなければ自慰用としてちまちま打ち込みます。

他のSSと比べて改行はかなり減らしたつもりですが、一体何文字くらいあるのでしょう。いつか一時間以上を要する長編小説を書きたいものです。

余談ですが、SSを書くに当たって『黒冷水』の影響を強く受けています。途中、それっぽいシーンがあるのはその所為です。全体的に暗い話になってしまったのも同じく。

それはともかく、ここまでのお付き合いありがとうございました。
CO2
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コメント



0.1040簡易評価
2.70煉獄削除
ふむ・・・? オリキャラですか。
いえ、決して悪いものではなかったです。 むしろ良かったかと。
でも、そうですね・・・確かに他のキャラの出し方が中途半端だったかもしれないです。
でも、面白かったです。

これって、続きますよね?
楽しみにしています。
10.80名前が無い程度の能力削除
後書きのように展開に強引なところもありますが、好感のもてるオリキャラだと感じました。
いっそ連載にしてキャラをもっと練りこんでみてはどうでしょう。
13.70ピラニア削除
個人的にオリキャラは嫌いでは無いので
それなりに楽しめる作品でした

若干厨過ぎやしないかと感じる点
誤字、読み易さなどを考慮して大体でこの点数です

蛇足ですがレヴァティンは杖です。
18.80愚痴を聞かされた人削除
結構好きな話でしたよ
房設定でも、それなりに好きになれる感じはしました

これからも、もっと続けて欲しい話です。
26.80名前が無い程度の能力削除
いい作品だと思います