Coolier - 新生・東方創想話

喜劇と悲劇~後~

2008/06/10 05:12:18
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―――自動自律人形

それはアリスの夢であり、目標だった。

私はその礎の一つ。彼女の為に在り、彼女の為にこの心は存在する。


私は、アリスの笑顔を見れれば満足だった。
私に笑いかけるアリス。
彼女の手となり、足となる。

それが、私がここに在る理由。
私だけじゃない、アリスに作られた人形は、きっと皆そう思っている。
私達に囲まれ暮らすアリスの姿はいつ見ても幸せそうだった。

私は、そんな姿を、ずっと見られればよかったんだ。
なのに、アリスを悲しませる奴が現れた。
アリスと同じ魔法使い。

アリスを困らせ、アリスを怒らせ、アリスを悲しませる魔法使い。
人形を引き裂いてアリスを泣かせた時、私はあの魔法使いが憎かった。
アリスは、お前の事が好きなのに。

どうして、そんな事をするんだ。
私に心があるのなら、身体よ動けと叫び続けた。
アリスを悲しませる奴をいなくさせる為に。

アリスを惑わす奴をいなくさせる為に。
けれど身体は動かない。どうやっても動かない。
自分の身体に嘆き、呪い、憎しみは一度地に沈んだ。

あいつは、人形を引き裂いてからずっと来なかった。
私は喜んだ。アリスを悲しませる奴がいなくなったと。
けれど、当のアリスは人形も作らず、時折りあいつの名前を呼んで悲しんだまま。

私はそれを見て歯痒くなった。
どうしてあいつの事ばかり気にかけるのか。
私達がいるのに、なんでいなくなったあいつを思って悲しむのか。

沸々と憎しみは溜まり続ける。
そして、私は気づいたのだ。
あいつが、ちゃんといなくならないからアリスは悲しむんだって。

きっとちゃんと消えたら、アリスはもう悲しまない。
私はその解答に辿り着いて、動かない身体は打ち震えた。
そして、その時は来た。

あいつは再びアリスの元に現れた。
身体よ動けとずっと叫び続けた。
あいつを殺す為に。

あいつをアリスのもとからいなくさせる為に。
憎しみが自分に火を灯らせる。
感情があり、命令されれば動ける身体があるのなら。

動かない筈がないと。
ふわりと、命令された時のように身体は動く。
そこからは電光石火の如く、無防備なあいつの背中に向けて剣を突き刺すのに、造作もなかった。

初めて自分で動いたせいか、少しふらついて腰の方に刺さってしまった事だけが悔やまれる。
だけど、自分の手であいつは倒れた。
ああ、これでアリスはもう悲しまない。

私は、そう思ってアイツの血がついた剣を振って、床にびちゃりと叩きつけた。
















アリスの夢はここに叶う。
最悪の形によって。
“自動自律〟人形は、憎しみと狂気によって動いた。

「……しゃん、はい?」

魔理沙の返り血を浴びて紅く染まる上海を見て、アリスは放心したままだった。
何で命令してもいないのに動いているのか?
どうして上海が魔理沙を刺したのか?

「………ぅ」

苦しげな声が聞こえ、ハッと放心していた思考は正常に戻る。

「魔理沙!? 魔理沙!!」

倒れた魔理沙にしゃがみこみ、身体を起こすようにして傷口を見て、息を呑んだ。
腰の方から、ドレスを破るようにして、血が溢れるように、深い傷口が出来ている。

「……シンデナイ?」

上から聞こえてきた声にバッと振り向き、上海が紅く染まったまま首を傾げてるのを見て戦慄が走った。
あれは、何だ? と。
あれが、自分の求めた物なのかと。

「上海! 貴方、一体何をしたかわかってるの!?」
「……アリス? ドウシテ、オコッテルノ?」

聞こえてくる言葉に、私はギリッと歯を噛み締めるが、今は上海を相手にしている場合じゃない。
血は止まる気配がない。
手当てをしなければ、本当に死んでしまう。

「魔理沙、魔理沙! くっ……! 傷口だけでも止めないと……!」

立ち上がり、傷口を塞ぐ為に道具を取りに行こうとした。

「……ダメダヨアリス」

だが、ひゅんっと、剣を自分に向ける上海が私を止める。

「マリサヲ、コロサナイト」
「……何を、何を言っているのよ? 上海」

自分に剣を向ける上海の口から出た言葉に、顔から血の気が引いていく。

「ココデ、コロサナイト、アリスハカナシンダママダヨ」

片言の言葉で喋る上海から出た言葉に、耳を疑った。

「……」
「マッテテ、コンドハチャント、コロスカラ」

向けられた剣はもう片方の手を添えて、大上段に構えられ。

「……! 駄目!」

未だ、血の池に沈む魔理沙に振り下ろされようとしているのを見て、咄嗟に身を挺して庇う。
そんなアリスごと、上海の凶剣は止まらず。

「エ?」

ガキィンと、魔理沙を抱きしめて庇ったアリスの頭上で、金属と金属がぶつかる音がした。
上海は目を疑った。
同じ自動人形である筈の存在。

「……ヤラセナイ」

アリスは、頭上で聞こえた言葉に、顔を向ける。

「……ほう、らい?」

そこには、銀の槍と盾を持つ、可愛らしい人形の姿があった。
ひゅんっと切り返した槍は上海に放たれるも、空を切る。

「……ドウシテ?」

上海は、そんな蓬莱の姿を見て疑問を投げかける。

「……アリス、マリサヲツレテニゲテ」

だが、上海の疑問には答えない。蓬莱は、飛び込むように上海に突撃した。

「クッ……!」

上海は、蓬莱の突撃を避け、剣を叩きつけるも、再び盾に塞がれる。
人形と人形の剣戟は、部屋を壊しながら始まった。

「……どうして」

アリスは、そんな光景を見ながらも、蓬莱が言った言葉通りに魔理沙を抱える。
逃げないと魔理沙が殺されると、一種の恐怖観念のおかげで。

「う、ぐ……」
「魔理沙、ごめんなさい。ちょっと、我慢して」

苦しいうめき声を上げ、嫌な汗を掻いている魔理沙の肩に手を回して、ズルズルと外へと連れて行く。

「……! ニガサナイ!」

上海は外に出ようとするアリスと魔理沙を見て、飛ぶようにそちらに向かう、が。

「……」

突き出すように槍を放つ蓬莱に止められ、出て行くのを止められない。

「ナンデ……ナンデトメルノ! アナタダッテミテキタハズジャナイ!」

悠然と構える蓬莱に、激昂するように上海は吼える。
だが、それを見ても蓬莱は顔色一つ変えなかった。

「……アリスヲコロソウトシタオマエヲ、ワタシハトメタイダケダ」

静かに構える蓬莱は、それだけ言い放ち、再び槍を上海に放った。

「……ワタシガ? アリスヲ?」

だが、剣によってそれは払われ、返す刃で盾とぶつかりあう。

「ワタシハ、アリスノカナシムカオガ、ミタクナイダケ」

ぶつかりあい、拮抗する剣と盾は。

「……ナ!」
「ジャマヲスルナラ、アナタモコワス!」

押し切る剣戟によって、盾ごと腕を破壊された。

「グッ……!」

蓬莱は退く様に後ろに下がるも、上海の凶剣は止まらない。

「……」

蓬莱は槍で払うも、自分の身体のぎこちなさに歯痒い思いをした。
徐々に、身体は動かなくなってきている。
アリスに向けられた凶剣によって、護る機能が働いただけの身体では、以て数分しか保たないだろう。
数分で、自分より遥かに早く動く上海を止められるか?

「……トメナイト」

脳裏に映るは、アリスと、魔理沙が笑い合う姿。
どちらとも、失いたくない。
私が、ここで止めないと。上海はきっと二人を殺してしまう。

「………ワタシガ、トメナイト!」


蓬莱が吼えると同時に、槍は上海に向けて全力で放たれた―――




















闇夜の魔法の森は、昼の暖かさを消すように、暗闇に閉ざされていた。

「……ハァ……ハァ……ハァ」

魔理沙に肩を貸し、必死に逃げるアリスは住まい慣れた森だというのに、逃げている恐怖故か何度も後ろを振り返り、周りを見渡しながら歩いていく。
飛べば直ぐに出られる筈の森は、怪我を負っている魔理沙に肩を貸しているおかげで、出来ないでいる。

「……ハァ……」

思考は何度も何故? と疑問を叩きつけていた。
どうして上海があんな事になってしまったのか。

「………ハァ」

解答なんて今の頭では出やしない。今はそれよりも。

「……う、ア、アリス……?」

それよりも、魔理沙をどうにかしないと。
後ろを再び振り返り、地面に続く、紅い染みに眉を寄せる。
もし、蓬莱が上海に負ければ、確実に追ってくる。
その時、何を目印にして追ってくるか。

「…………」

肩を貸す魔理沙を、手近な大樹に背中を預けさせ、しゃがんでエプロンドレスを捲くった。

「……」

未だに出血している傷口を見て、アリスは苦々しく、魔理沙に顔を向ける。
苦しそうな顔をして、魔理沙は痛みに耐えていた。

「………魔理沙、意識は、あるわね?」

震えそうな声を必死に隠し、あくまで私は真剣な表情のまま魔理沙に聞いた。

「………あ……ああ。ある、ぜ」

くぐもった声。
目を開けて、苦しそうな表情のまま、私を見返す魔理沙がいる。

「……今のまま血を流し続ければ、魔理沙。貴方は、死んでしまう」

胸が痛む。一秒でも、こんな苦しむ表情を見たくないのに。
直ぐにでも治療しないと、魔理沙は死んでしまうのに。

「………そう、みたいだな………ハハ、バチが、当たったの、かな」
「…………」

ポタリと、頬から水滴が落ちるが、腕で拭う。

「出血を止めないと……」
「……いや、アリ、ス」

魔理沙は首を横に振る。

「その前に………アイツを止めないと……」
「……無理よ」

だが、アリスはそんな魔理沙を見て首を横に振った。

「人形も無くて、貴方も重症の状態じゃ……」
「………私が、いるから、飛べないんだろ?」

魔理沙は苦笑しながらも、目は笑っていなかった。

「……私を置いて、助けを呼べば……どうにか、なるかもしれない」
「……! な、何を馬鹿な事言ってるのよ!! 狙われてるのは貴方なのよ!? もし、上海が来たら……」

間違いなく殺される。
その言葉を呑み込むが、魔理沙は苦しげな表情のまま私を見た。

「……このまま、言い合ってても死ぬだけなら……頼む、アリス」
「…………」

魔理沙の言っている事は、概ね正しい。
蓬莱が何処まで耐えられるかわからないが、一番手近な知り合いに助けを呼べば、ぎりぎりの差でどうにかなるかもしれない。
自分の飛ぶ速度と、手近な強力な助けを考え、直ぐに、霧の湖に浮かぶ紅い屋敷が出てくる。

けれど。

「……魔理沙、必ず、生きれるって、約束出来る?」

理性が、魔理沙をここに置いて行くことを拒んでいる。

「……ああ、約束するぜ」

この状況で、頷く魔理沙を見ても、嫌だと心が叫んでいた。

「…………わかった」

けれど、そうしている時間すら惜しい。

「絶対よ。絶対に、死なないで」

足は駆け出すように、魔理沙を置いて走り、タンっと助走をつけ、暗い森の中から自分を空へと飛ばす。
速度は最初から最高速。
暖かな風を切り裂き、自分が出せる最高速を維持しながら、幻想郷の夜空を駆ける。

目的地は紅魔館。

アリスは必死の思いで、前を向いて星が輝く夜空の中を駆け抜ける。



























「………まぁ、間に合うわけ、ないよな」

飛んだアリスを見て、懐からごそごそと、八卦炉を取り出す。
どちらにしろ、出血を止めないと死んでしまう。

「……一応、私も女なんだけどな……」

アリスが助けを呼ぶとしたら、紅魔館か博麗神社に向かう事だろう。
どっちとは言ってないが、ここからの助けを呼ぶのは正直、どちらとも遠すぎる。
それでも、今からする行為をアリスに見られたくなくて、遠ざけた。
それに。

「………あの人形は、私が壊さないと」

意識が飛ばなかったおかげか、上海の漏らした言葉を魔理沙は聞こえていた。
私がいなくならないとアリスは悲しんだままだと。
あれは、そう言ったんだ。

八卦炉を傷口に宛がい、舌を噛まないように二の腕を噛む。

「………ハァ」

目を閉じて、軽く深呼吸をして、魔力を炉に集中させる。
治療の魔術に興味を持つべきだったと自分に舌打ちしながら。

「アアアアアアアアアアアアァ!」

声にならない声を上げて傷口を“焼いた〟。
激痛に、自分の肉が焦げる匂いに吐き気がする。
ナイフが腹部に突き刺さったような痛みに意識が何度も飛びかける。

「ハァ! ハァ! ハァ!」

八卦炉を投げ捨てるように地面に置いて、息を荒げながらも傷口を見た。

「ハァ! ハァ、ハァ、ハァ………クッ」

傷口は、大きな火傷と共に完全に塞がっていた。

「……これで、出血多量で死ぬって事は、ないよな……」

身体を立ち上がらせ、激痛が走る身体に顔をしかめながらも、投げ捨てた八卦炉を手にとって紅い染みが着いた道を戻っていく。
狙いが私なら、あいつは必ずこっちに来る。
あれは、アリスの夢かもしれない。

本当ならば、壊したくない。私は二度も、アリスの夢を壊したくない。
けれどあれが、夢だと言うのなら―――

「凶がい物の夢だ………そんなの」

私は知っている。アリスが、孤独に人形を作り続けてきた努力を。
道具として扱う人形達に、いつもアイツは笑顔を向けていたことを。
その結果が、あんな物のあるはずがない。

魔理沙は、自分の血で濡れた道を前を見据え、身体を引きずるようにしながら歩き続ける。
























事は、最後はあっけなく終わった。

「……ホウライ」

木の床に、胴体を真っ二つにされた人形が転がっている。

「ナンデ、ワタシノジャマヲシタノ?」

答える声はない。機能を停止し、蓬莱は動かない。

「……」

上海は倒れた蓬莱を見ていたが、目的を思い出したかのように、浮いた身体は外へと出させる。

「ドッチニ」

外は、月明かりが出ているものの、暗い魔法の森では閉ざされた暗い空間であった。
キョロキョロと周りを見渡すも、蓬莱のせいで行方を見失ってしまい、どっちに行ったかわからない。

「……ソウ、トオクニハ」

行ってない筈と上海は考え、ふと地面に続く紅い染みを見つける。

「………コンドコソ」

剣を握り、高速に飛んでいった。
木々を駆け抜け、闇夜のカーテンを抜けるように上海は飛んでいく。

「……」

蓬莱は、最後の最後まで自分に抗った。
同じアリスの傍にいて、アリスの事を考えている人形なのに。
私のしている事は、間違っている事なのか?
アリスを悲しませない為にしている行為は、間違っている事なのか?

「よお」
「!!」

自分のしている事に、疑念を持ってしまったせいか、反応が遅れた。
前方から、輝くように光弾が飛んでくる。
剣で弾き、睨むように、私は光弾を飛ばした人物を見た。

「……ナンデ」
「立っているかって? 傷口塞いだからな。今は痛いだけだ」

それは、ニカリと笑いながら、私が来るのを待っていた。

「……」

虚勢を張っているのは身体を見ればわかる。
魔理沙の顔は青ざめ、今にも倒れそうな息を荒げていた。
流れる大量の汗を見ても、無理をしているのはわかる。
それなのに、何で。

「……ニゲルトカ、カンガエナカッタノ?」

勝てるとでも、思っているのか。

「逃げたら、お前が壊れる様を、アリスが見ちまうからな」

強気な発言は、何処から出てくるのか。

「……アナタガイナクナラナイト、アリスガカナシムノ」

剣を構える。満身創痍であろうと、仮にもアリスを負かした事がある星の魔法使い。
油断もない。一撃でも、まともに魔理沙のスペルカードに巻き込まれれば、自分は文字通り、破壊されるだろう。

「……そうだな。私は、アリスを泣かしてきたかもしれない」

私の言葉に、ニカリと笑っていた顔は、少し、寂しい顔をしたように見えた。

「だけどな」

魔理沙の身体から、魔力が立ち昇り始める。

「お前に殺されるわけにはいかない。私が死んだら、アリスはまた孤独に戻っちまう」
「……コドクジャナイ、ワタシタチガイル」

だから、悲しくなんてないはずなのに。
どうして、さっき壊した蓬莱を思い出してるんだろう?

「アナタハ、ジャマナノ……!」

剣を前に突き出すように、八卦炉を構える魔理沙に突撃する。

魔理沙がいなくなる事を、正しいと信じて。


























「今頃仲直りしてますかねー? 二人とも」

夜の帳が落ちた、紅魔館の二階のテラスにて。
日光浴ではなく、月光浴をしながら、優雅に紅魔館の面々は紅茶を飲んでいた。

「さぁ? 魔理沙が余程のヘマをしない限りは、仲直り出来てると思うけど」

立ったまま紅茶を飲んでいた美鈴がこぼした言葉に、白い椅子に座るレミリアは、拾うように言葉を続ける。

「人形は、ちゃんと直したのでしょう?」
「はい。壊れていた部分はちゃんと直りましたけど……」
「……魔理沙の鈍感ぶりに、また喧嘩が起こりそうね」

レミリアの横で同じように椅子に座りながら紅茶を飲んでいたパチュリーが、不快気に言い放った。

「……マリサは鈍感なの?」
「ええ。かなりの鈍感よフラン。だから気をつけなさい、魔理沙に何かする時は、ちゃんと態度で示さないと駄目よ」

フランドールの質問に、レミリアはパチュリーをニヤニヤと見ながらも、白い丸いテーブルを挟んで反対側に座るフランドールに返してやる。

「……レミィ、何でこっちを見ながら言うのかしら?」
「さぁ? 何でかしらね」

明らかに喧嘩を売っているように見えるが、パチュリーはその喧嘩を買おうとはしなかった。

「……ふんっ」

代わりに、顔を背けて頬を膨らませたが。

「お嬢様、お茶のお代わりはいかがでしょうか?」

咲夜は空になったカップを見て、レミリアに聞く。

「ええ、もらうわ」

礼をし、ティーポットからカップに紅茶を注ぐ咲夜。
談笑する様子は、何気ないいつもの風景。

「……あれ?」

だが、フランドールが星空を眺めていた方向から飛んでくる人物を見て、声を上げて座っていた椅子から立ち上がる。

「? どうしたの?」
「あれって、アリスじゃないの?」

フランドールの言葉に、皆が一斉に、霧の湖の方へと顔を向ける。

「……何で、アリスが」
「あ、こっちに向かってきますよ?」

自分達がアリスの方からも見えたのか。
慌てるように、そのままの速度で、アリスはテラスの方に突っ込んでくる。

「パ、パチュリー!!」

慌てた様子で、そのままアリスは空中でピタリと止まると、息を荒げながら、飛び降りるようにしてテラスへと入り、紅茶を飲む紅魔館の面々の前に降り立つ。

「……どうしたの? そんなに慌てて」
「た、助けて! 魔理沙が、魔理沙が!!」

息は荒げたまま、掴みかかるようにパチュリーに助けを求めるアリスを見て、見ていたレミリアや、咲夜は眉を寄せた。

「……落ち着きなさい、何があったの?」

助けを求められているパチュリーも同様に眉を寄せていた。
パチュリーの知るアリスは、いつも冷静沈着で、聡明な少女であるはずだった。
だが、今のアリスはか弱い助けを求める少女でしかない。

「……私の、私の人形が魔理沙に攻撃して……」
「……なんですって?」
「一人じゃ、立ってられないような怪我を負って……助けを呼んできてくれって……!」

アリスの言葉を聞いて、座っていたレミリアは険しい顔をして立ち上がる。

「アリス、その人形は今どうしてるんだ?」
「……私の家で、蓬莱が止めているわ」
「そんな、じゃあ怪我をしている魔理沙に行ったら……!」

美鈴は慌てるように、飛ぼうとするが。

「待て、美鈴」

レミリアに止められる。

「お嬢様! お止めにならないでください! 魔理沙は今日……アリスの為に!」
「……お前は、永遠亭の方に向かいなさい。咲夜、貴方も一緒に行って。呼んで来る頃には、ここに戻ってるわ」
「わかりました。お嬢様」

指示をされた咲夜は一礼し、美鈴の首根っこを掴む。

「ちょ、咲夜さん!?」
「行くわよ。急がないと、本当に魔理沙が死ぬわ」

咲夜と美鈴は、消えるようにテラスから移動する。

「……パチェ、貴方はどう思う?」
「……どうって?」

レミリアは、咲夜と美鈴が消えるのを確認して、険しい顔つきのまま、掴みかかったアリスの手を握るパチュリーの方に顔を向ける。

「あの魔理沙が、助けを求めると思うか?」

レミリアが険しい顔つきになっているのはそれが理由だった。

「……求めないでしょうね。相談ならするでしょうけど」
「どういう、ことよ?」

息を落ち着かせ、アリスはレミリアとパチュリーのやり取りを不安気に聞いていた。

「………アリス、きっと魔理沙は、その人形を壊す気よ」
「……え?」
「大方、お前に見られたくないと思ったんだろう。……全く、お茶を飲んでたのに台無しだ」

頭を掻いて、レミリアはテラスの手すりに飛ぶようにして乗りながら、ピンク色のフリルのスカートを翻してアリスを見る。

「だけど、怪我を負っているのならどっちにしろ危ないわね。パチェ、行くわよ」

手すりに乗ったレミリアに、促され、パチュリーはアリスの手を握ったまま歩いていく。

「お姉様、私はー?」
「フランは……お留守番って言ったら怒るかしら?」
「……お留守番なの?」

レミリアの口から出た言葉に、フランドールは不安気に聞き返すが、ニコリとレミリアは微笑んだ。

「小悪魔に残ってもらうから構わないわ。妹様、一緒に行きましょ」
「やった!」

横にいるパチュリーに言われ、一緒に行けるとわかって喜ぶフランドールを見て、アリスは目を白黒とさせるが。

「……案内して、アリス。私達が、助けてあげるから」

手を握られたまま、厳しい顔をしたままパチュリーにそう言われ、アリスは強く頷いた。

「小悪魔、留守を任せるわ」
「はい、お気をつけて~皆様」

月夜を背に、紅い屋敷から二人の吸血鬼と魔法使い達が飛んでいく。


















暗い空間。
木々が夜空を隠し、閉ざされた暗闇は漆黒。
相対する人形の動きに、魔理沙は懸命に星の弾丸を放っていた。

「………くそ」

明らかにアリスが扱っている時より性能が上がっている上海に愚痴を零す。
大樹を盾に、上海は何度も何度も魔理沙の必殺を避けていた。
当たれば確実に壊れる。それを熟知した上での戦法。

「……当てづらくなっている上に、私もヤバイな」

傷口を塞いだはいいが、血を流しすぎている。
棒立ちになったまま近づけさせないように弾幕を展開しているが、霞む視界では今の上海に当たる気配はなかった。

「………」

せめて箒があれば、空に飛んで遮蔽物のないところで弾幕を展開出来たが、刺された時にアリスの家に置いたままだ。

「邪魔な物を、破壊しないと駄目か」

八卦炉に再び魔力を集中させる。
比例して身体に激痛が走るが、このまま避けられ続け、疲弊した身体ではいざ反撃に転じられてしまえばかわせない。

「恋符!」

暗闇の世界でそれは白く輝く。
高らかに宣言をし、自分を中心に魔方陣が展開し、八卦炉を前方へと向ける。

「マスタースパーク!」

一際輝き、収束するように白き閃光は八卦炉から放たれた。
暗闇に閉ざされた魔法の森でそれは太陽のような輝きを持ちながら木々を薙ぎ払う。

「……!」

だが、上海は宣言をした時点で上へと上昇している。
当たる事はない。単発で出そうと当たらない事は。

「……これで、避けられないだろ!」

魔理沙自身も承知の上であった。
上へと上がった上海に向けて八卦炉をそのまま掲げ、マジックミサイルを発射する。
一発ではなく数発、薙ぎ払うように発射されたミサイルは確実に上海を捉えていた。

「ヤッパリ、スペルカードデコナカッタ」

上海は剣を水平に薙ぎ払う。
高速で飛んできたマジックミサイルにそれはぶつかり、綺麗に打ち消してみせた。

「な!」
「コンドハ、コッチノバン」

マジックミサイルを打ち消した上海はそのまま月を背にして、魔理沙に向かって急降下する。

「チッ……!」

降下してくる上海に向かって再び魔力を集中させ、レーザーを放とうとするも遅い。
マスタースパークによって、遮蔽物が無くなったのが逆に仇となる。
振り下ろされる剣を身体を捻ってかわし、返す二の太刀を転がるようにかわしながら溜まった魔力を吐き出すようにレーザーを上海に放つ。
レーザーは上海の服を焦がすも、掠めただけであった。

「……アリスハ、アナタノコトヲアイシテイルノニ」

上海の剣戟は止まらない。
転がった魔理沙に追撃を加えるように振り下ろし、後ろに引いた際、たまらず被っていた帽子は地面へと落ちる。

「アナタハ、アリスノコトヲ、カナシマセタ」

片言の言葉は魔を秘めている。
距離を取る為に放った星を象る弾丸も、横に回りながら避けられる。

「ワタシハ、アリスノ、エガオヲミタイダケ」
「なら、何でお前はこんな事をしてるんだよ!」

聞いてはいけない、返してはいけない。
けれど、あまりにも理不尽な言葉に、返してしまう。

「コレガ、アリスノタメニナルコトダカラ」

振るわれる剣は自分を徐々に追い詰めていく。
腰から走る痛みにうまく動けない。
走る事さえままならない今の身体に。

「ダカラ、アナタヲコロスノ」

再び剣が突き刺さる。

「あ、ぐ……!」

肩に突き刺さった剣は、再び黒白のエプロンドレスを紅く染める。

「……シンデ。イナクナッテ。モウコレイジョウ、アリスヲ―――」
「ふざ、けんな……!」

だが、肩に突き刺さった剣が抜ける前に。

「誰がいなくなっても、アイツが喜ぶわけないだろうが……!」

銀色に鈍く光る刃を握り、魔理沙は苦悶の表情をしながら上海を見た。
上海の表情は虚ろなまま。
作られた人形が、感情を表に出す事はない。

「恋符……!」

再び宣言をする。
肩に突き刺さった剣を握ったまま、自分の肩から抜き放ち、痛みに耐えながら。
血で染まる腕を伝い、紅く染まる八卦炉を上海に向ける。

「……!」
「マスタースパーーーク!!」

零距離でのマスタースパークの宣言。
白く、収束する魔力。

「………エ?」
「ぐっ……!」

だが、そこから閃光が出る事はなかった。
立っていた魔理沙の身体は力を無くしたかのように肩膝をつかせる。
霞む視界と激痛に、顔は地面へと落ちてしまう。

握っていた剣は、滑るように、魔理沙の血を吸いながら横へと流れた。

「……く、そ……」

アリスの家で刺された時点で、魔理沙の限界は直ぐそこまで来ていた。
血で染まる身体に嘆きながら。

「……コレデ、オワリ」

顔を上げて見上げれば、上海は上段に構えて剣を握っている。
マスタースパークによって薙ぎ払われた漆黒の世界は、今や月と星によって明かりが差し込んできている。
月夜を背に、上海は表情を崩さないまま、魔理沙を見据えていた。

「……」

目は、背けなかった。数秒後に迫る殺される現実に抗うように。
絶対に死なないと、アリスと約束したために。
諦めるわけにはいかなかった。

「……オワリ」

上海の呟きと共に、剣はゆっくりと―――

「……?」

振り下ろされる。

だが、それが魔理沙に届く事はなかった。

「え……?」

驚きは、両者から。
上海の放った斬撃は。

「なんで……」

横から割り込んだ“黒白の人形〟によって受け止められる。



















剣は、縦に引き裂くように、魔理沙に似た人形に入っていく。
振り切った後、斬られた人形は音もなく魔理沙の下に転がった。

「………ア」

縦に引き裂かれた人形。

「ア、ア」

自分の剣によって、引き裂いてしまった人形。

「ワタシ、ハ」

何を、しているんだ?
アリスの為に。私は今剣を振るっている筈なのに。
蓬莱を壊した時から、疑問は湧いていたのに。

「……チガウ」

私も、同じだ。
引き裂かれた人形。壊してしまった人形。
それは、アリスが悲しむ行為の筈じゃないのか?

「チガウ……! ワタシハ!」

握っていた剣は地面へと突き刺さる。

「……お前」

動揺する私に、殺されかけていた魔理沙は呆然と見つめていた。

「……ワタシハ」

アリスが、愛した人間。
壊す行為で、アリスが喜ぶ筈がないのに。
私は、どうしてこんな事をしてしまったのか。

「………オネガイ、マリサ」

私は、何処か壊れてしまっている。
同じ人形である、蓬莱も壊して、今も名も無き人形を壊して。

「ワタシヲ、コワシテ」

嘆くように、懇願した。
もう、これ以上、誰も傷つかない為に。

何かから冷めたように、私は、私を壊そうとした星の魔法使いに懇願した。





















「………」

それは、泣いているように見えた。
自分の間違いに気づいて、後悔をして、全てが遅く、これ以上の惨劇をしたくないと。

「……私は」

凶がった夢だと、私は思った。
けれど違う。
そうしてしまったのは、私だったのだ。

目の前で縦に引き裂かれた人形。
直した人形は、私の前に転がり、動く事はない。
けれど、それは一度ではない。

二度目の、壊れた夢。

「…………壊せない」

その一度目を起こしたのは、誰だ?
私じゃないのか。
それなのに、私は、上海を壊せるのか。



「ああ。お前は壊さなくていい」



魔法の森に響くように、それは聞こえた。

「―――」

視界を紅く染めるように。
ゆっくりと、上海の背から紅い槍が生える。

「禁忌!」

高らかに聞こえた声に、激痛を介さず、身体は立ち上がる。

「や、やめろ! フラン!!」
「レーヴァテイン!!」

水平に、紅く薙ぎ払われる魔剣。
それは、上海を二つに分かつには充分すぎて。

「……アリガトウ」

最後に表情を変え、笑いかけた上海は、二つになって地面に転がった。


「……そんな」
「魔理沙!」

ぼやけ、霞む視界の中、地面に転がる上海を見ながらも、アリスの声が聞こえた気がした。

「……アリス」
「よかった……! 何でこんな無茶をしたのよ! 魔理沙!」

息を荒げながら駆け寄ってきたアリスは、壊れた上海を見ていない。
私に駆け寄り、今にも倒れそうな身体を抱き止める。

「………ごめん」
「ごめんじゃないわよ! アンタはいつも……!」
「……アリス、小言を言う前に、傷を治した方がいいわ」

横からパチュリーはそんな様子を見ていたが、アリスを引き離すようにして、肩から血が溢れる傷に目をやり、手を置いた。
それを見ているので、限界だった。

「……? 魔理沙?」

パチュリーに寄りかかるようにして目を閉じる。

「ちょっと、魔理沙。何を……」

聞こえてくる声も徐々に遠くなっていく。

「………!」

意識が落ちる。


私は、上海の笑う顔を脳裏に刻みながら、暗い底に沈んでいった。


















出会った当初から私は、アリスの事を気にしていた。

孤独に人形を作り続けるその様子は、孤高そのもの。

夢を追いかけ、夢の為に生きる人形遣いは、まるで、自分もその夢の一つのように見えた。

逆を言えば、その生き方しか知らないと言っているようで。

何処かの巫女と同じ生き方に、私は憤慨した。

私はそんな世界を見たくなくて、アリスにちょっかいを出し続けた。

最初は本当に嫌われていたと思う。

唯あいつの無表情な様子を見たくなくて、怒らせる覚悟で毎回毎回顔を出した。

それが、いつからか友達のような関係になって。

私は、その事が唯嬉しかった。

私がいれば、アリスは笑ってくれると。

夢を語り合う仲。違う夢でも、走り続ける私達は、本当に友達だと思えて。




―――ありがとう


けれど、私はその夢を、壊してしまった。

一度ならず二度までも、私のせいで。

どうすれば償える?
どうすれば私は許される?
どうすれば、私はアリスに顔向け出来るのだろうか―――



















「何かを得るには、何かを犠牲にしなければならない」

パラリと、本を捲りながらパチュリーは話す。
灯火は薄暗く、変わらぬ地下図書館で机に座り、足をブラブラさせるレミリアにパチュリーは話していた。

「狂気と憎悪によって稼動した自動自律人形。犠牲にしようとしたのは魔理沙?」
「アリスもかしらね。蓬莱が動いた理由は、アリスを守る為だったようだし」

二人は、起きた事を整理するように話している。

「難儀な話ね」
「他人事じゃない筈よレミィ。狂気も憎悪も、貴方は身近な人物で知っているのだから」

パチュリーはじろりとそう言いながらレミリアを見るが、レミリアは苦笑しただけであった。

「そうね。一歩間違えれば、フランもあんな風になりかねなかった」

495年間、狂気を溜め込んだ妹を持つレミリアにとって、それは確かに他人事ではない。

「けれど、その狂気を、憎悪を払える存在もいたわ」
「……魔理沙は」

一度言葉を切って、パチュリーは深い溜息を吐きながら本のページを捲った。

「そういう意味では、恐れを知らないわ。孤独であろうと、孤高であろうと、狂気であろうと、彼女には関係ない」

自分が許せない物全てに、彼女は手を差し伸べてきた。

「……けれど今回の事は、魔理沙にとって酷かもしれないわね」

パチュリーは表情を暗くし、悲しむように再びページを捲る。

「……意識を無くしたままの理由も、心の問題からかしら?」

魔理沙が昏睡してから、既に三日が経っている。

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「? どういうことよ?」
「傷自体が深くてわからないのよ」

再び深い溜息をしたパチュリーは、とうとう捲っていた本をパタリと閉じてしまった。

「魔法での治療もしたし、あのヤブ医者からの治療もした。けれど、あっちの見立てもこっちの見立ても、重症だったのは間違いない」
「……」
「………こういう時、どうすればいいかわからなくなるわ。数百年、生きてきたのに」

話すパチュリーの顔は、魔理沙を心配する顔で象られている。

「アリスのように傍にいてやればいいのに」
「……私が?」

レミリアの言葉に、ふっと自傷気味にパチュリーは笑った。

「看病なら一人で足りるわ。それをアリスが進んで申し出た。だから私が一緒にいる理由なんてないじゃない」
「そうかしら。一人より二人って言葉もあるけど? パチェは、怖いだけじゃなくて?」

レミリアの言葉に、パチュリーはピクリと、眉を寄せた。

「……怖い?」
「ええ、パチェは怖がっているように見えるわ。変わる自分に、友人の関係が壊れる恐怖に」

ニヤリと、レミリアは悪魔らしい笑みをしながら話す。

「………レミィ、貴方、喧嘩を売っているのかしら?」
「からかっているだけよ。けれど、盟友としての忠告もかねてね」

机から降りて、レミリアは回ってくるようにして、椅子に座るパチュリーの前に立つ。

「何かを得るには、何かを犠牲にしなければならない。パチェ、貴方はそう言ったけれど。それは“当たり前の事〟よ」

真紅に光る瞳は、パチュリーの瞳を覗き込むように見ている。

「犠牲にする勇気がなければ動ける筈もない。何も失わずに済むなんて、所詮絵空事」
「……」
「パチュリー・ノーレッジ。私は、貴方がそんな腰抜けに見えない」

瞳は笑う。
しかし、パチュリーは笑っていなかった。

「………私は、知識を蓄積出来ればそれでいいわ。そういう生き方を、ずっとしてきたのだから」

振り払うように顔を覗きこむレミリアを払い、椅子から立ち上がる。

「……様子を見てくるわ」
「いってらっしゃい」

無表情のまま、図書館から出て行くパチュリーの後姿を見たまま、レミリアはクスリと口元を隠しながら笑う。

「パチェも素直じゃないわね。一番欲しがってるのは、貴方でしょうに」

盟友の優しさに呆れを通り越して賞賛を送りながら、レミリアはそう呟いた。

















「………」

光が差し込まず、薄暗い部屋の中。
静かにベットで寝たままの魔理沙に、冷たいタオルを頭に乗せる。
あの騒動があってから既に三日。

「……馬鹿」

魔理沙は、昏睡したままだった。
あの後、魔理沙が意識を失った森の中で、壊れた上海や、自分が咄嗟に糸を通して投げた黒白の人形を回収して、紅魔館まで一緒についてきた。
紅魔館に戻ると、咲夜と美鈴が連れてきた永遠亭のヤブ医者に魔理沙を診てもらい、死んでもおかしくなかった魔理沙は一命を取り留めた。

私はその事に深く安堵した。
上海や、蓬莱が壊れてしまった事。魔理沙が直してくれた人形が壊れてしまった事は、悲しい事でもある。
けれど、人形は直せる。私がいる限り、何度でも。

でも魔理沙は人間だ。一度命を手放せば、それはもう、戻ってこない。
それを、起きたら話そうと思って看病しているのに魔理沙は起きなかった。
一日経っても二日経っても。

途中、一度家に戻り、床に転がったままの蓬莱も回収して紅魔館に戻ってくるも、一向に起きる気配はなかった。
咲夜から何度か心配するように声をかけられたりもしたが、大丈夫と言って看病を交代する事もなかった。
夜になれば、フランドールも心配した様子で魔理沙を見てきた。

私がいるから大丈夫と言って見せたが、首を横に振って今にも泣き出しそうだったので、諦めるように笑って一緒に看病をしたりもした。

パチュリーやレミリアは来なかった。配慮故か、興味がないのか。私が看病をすると言い出した時から一度も顔を見せにきていない。

「……何で起きないのよ」

今も刻々と眠る魔理沙の寝顔を見て、ベットの横に備えられた椅子に座って、魔理沙の手を握った。
握った手は暖かい。
生きているのに、こんなに暖かいのに。

「起きなさいよ……」

強く両手で魔理沙の手を握り締めながら、その手に顔を埋めるようにして願った。

「お願いだから………起きてよ……魔理沙」

ポタリと、魔理沙の手に水滴が落ちる。
流しても流しても枯れる事はない。
最早拭う事さえしなくなった。衝動的に流れてしまう涙に、自分で嫌気が差しながらも止まる気配が無い為に。

「ひく、う、うぅ………」

暗い部屋で、嗚咽を抑えるように、静かに泣いた。


















泣いてる声が、聞こえた気がした。
暖かくなっている手の感触に、ぼんやりと目を開ける。
目を開けた場所は、薄暗かった。

自分の部屋じゃないのか、寝ている布団は柔らかく、起きても心地いい。
暖かくなっている手に視線を向ければ、自分の手を握る、金髪の少女の姿があった。

「ひく、う、うぅ……」

泣いている声は、そこから聞こえてきていたのか。

「………泣いているのか、アリス」

ぼんやりとしたまま、声をかける。

「っつ!?」

声をかけたアリスは、私の手を握ったまま顔をバッと上げた。
瞳は赤く腫れ、頬から流れるように、雫がこぼれていた。
ああ、泣いてるな。

夢の中で、どうやって許してもらおう。どうやって償おうと思っていた頭は。

「泣くなよ、アリス。泣いてたら、可愛い顔が台無しだぜ?」

いつも言わないような台詞を吐いて、ニカリと笑い、泣き止ませようと考えた。

「―――」

アリスは、私の言葉に驚いたような顔をしたかと思うと、直ぐに耳まで顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせた。

「ま、魔理沙! アンタ、私がどれだけ心配したか……!」

腕で乱暴に流れていた涙を拭いて、そう言って私に食って掛かるアリスを見て、私は笑う。

「アリスは、そういう顔をしている方が合ってるぜ」
「……む」

そう言われ、気に喰わなかったのか。アリスはおとなしく怒るように喰って掛かった身体を椅子に座らせる。

「全く、起きたと思ったらこれだもの三日も看病してた私が馬鹿みたいじゃない」
「……三日も、寝てたのか」

アリスが目を逸らしながら言った台詞に私は顔を暗くさせる。
あれからもう、三日も経ってしまったのだ。

「………ごめん、アリス。私は、お前の夢を壊しちまった」

顔を見ては言えない。泣いていたアリスの事なんて言えない。自分も泣きそうになるのを必死に堪えるので精一杯だった。

「……」
「謝っても、どうにもならない事だけど、まず先にそれを言わないとって思ったんだ」

今でも、上海のあの最後に笑った顔が脳裏をよぎる。

「…………魔理沙」

アリスから名前を呼ばれ、ビクリと、身体は震える。
罵倒されても、仕方がないと思った。

「……馬鹿よ、アンタは」

だが、溜息混じりにそう言われ、拍子抜けするように優しい声が聞こえてくる。

「上海も、蓬莱も、あの人形も。私がいれば直せる。私の夢は、壊れてなんていないわ」

アリスの方に顔を向ければ、そこには。

「だから、貴方が気に病む事はない。それよりも、もっと魔理沙は、自分の命を大切にして」

真剣な表情で、私を見るアリスがいた。

「魔理沙は人間なんだから。命を投げ出せば、もう戻ってこないのよ? 魔理沙は、夢を諦める気なの?」
「……そう、じゃないが」
「なら、もうあんな事はしないで。前に言ったじゃない魔理沙は」

真剣な表情からニコリと笑ってアリスは言う。

「空を一人で支えている奴に私はわからせないといけないって。“皆がいることを〟。けど、それは魔理沙、貴方もよ?」
「……」
「全部、一人で背負うとしないで。罪だと思わないで。あれは、むしろ私が貴方に謝らないといけない事なのだから」

笑っていた顔は今度は落ち込むようになっていった。

「……いや」

だけど、上海がああなってしまったのは、私のせいだ。

「アリスは、悪くないぜ」

アリスを想ったが故に、上海はあんな事をしたのは、最後の笑顔を見ればわかる。
あいつは、最後の最後に、狂気を自分で取り払ったのだから。

「………あの、さ。アリス」
「……なによ?」

それが償いになるかわからないが。

「さっき、上海や蓬莱を直すって言ってたよな?」
「……ええ。そのつもりよ。今度はあんな事にならないように頑張らないと」

落ち込んでいた姿は消え、意気込むようにそう話すアリスに、おずおずと私は聞いた。

「その、直す作業さ。私も手伝っちゃ駄目か?」
「……え?」
「償いになるかわからないが、させてほしいんだ」

頭を下げて、そう話す私にアリスは驚いた様子で固まった。

「……駄目か?」
「……………い、いいわよ。魔理沙がそうしたいって言うなら」

顔を赤くして、目を逸らしたままそう言うアリスだったが、私は承諾してくれた事にホッと胸を撫で下ろす。

「なら、早く怪我を治さなきゃな」

そう言いながら身体を起こし、被っていた布団をはだける。

「……あれ?」

着ている服がいつもとちがく、傷を負っていた身体にも違和感があった。

「火傷の跡がない……?」

紫のフリルがかかったような薄いワンピースに、肩から胸に通り越して巻かれた白い包帯は見えるが、焼いた筈の腰の火傷の跡は綺麗に消えていた。

「ああ、それだったら―――」
「私に感謝して欲しいわね」

ガチャリと、アリスが説明する前に扉を開けて入ってきたパチュリーに目を向ける。

「パ、パチュリー……」
「……アリス、魔理沙が起きたら誰か呼べと、看病の条件として言っておいたはずだけど?」

ギギギとゆっくり首を後ろに回して振り返るアリスに、パチュリーは少し、怒ったような表情をして言った。

「ご、ごめんなさい」
「……まぁいいわ。話したい事もあったでしょうし」

ゆっくりと歩み寄り、端に置いてあった椅子を掴むと、アリスの横に並ぶように椅子を置いて座った。

「火傷だけど、見ていて不愉快だったから、綺麗さっぱり治させてもらったわ」

座ったパチュリーは説明する。

「……治せるもんなのか?」

傷が残るのを覚悟して焼いて出血を止めた筈なのだが、パチュリーが不愉快になっただけで無くなってしまったらしい。

「私一人じゃ無理だったわね。唯、幸いにもあのヤブ医者の手があったから」

パチュリーは淡々と事実を話す。
ヤブ医者とは、永琳の事を言っているのだろう。どうやら、私の為にわざわざ連れてきたらしい。

「そうか……ありがとな。傷、残ると思ったからさ」

「……貴方の白い肌に傷が残るなんて嫌だから」

ぼそりと、パチュリーは言うが。

「? 何だって?」

聞こえない。ぼそりと言った台詞は聞き取りずらかった。

「……何でもないわ。それよりも、他のところはまだ痛むかしら?」

気にせず話を続けるパチュリー。

「あ、ああ。そうだな……」

肩に巻かれた包帯を回してみても、対して痛みはしなかった。

「痛くはないぜ」
「そう、なら栄養を取れば後は問題なさそうね」

パチュリーはチラリとアリスを横目で見ながら席を立った。

「今夕時だから、咲夜に食事を追加するように言っておくわ。それまで横になってなさい」
「そうだな。なら、お言葉に甘えてもう一眠りさせてもらうぜ」

ニカリと笑って、起こしていた身体を私は倒れるようにまたベットに沈める。

「アリス、ちょっと話があるから来て頂戴」

目を瞑り、再びまどろみに落ちそうになった時、そんな言葉が聞こえたが。

「……すぅ」

意識が、また闇に落ちるまで、そうかからなかった。




















バタンっと、扉を閉め私達は魔理沙が眠る客室から廊下に出た。

「話って何よ」

傍にいたいのだろう。
魔理沙が眠る部屋をちらちらと気にしながら話すアリスに、パチュリーは表情を崩さないまま淡々と喋り始めた。

「……アリスは、魔理沙の事が好きよね?」

パチュリーが放った直球の言葉に、アリスは目を見開くようにして顔を真っ赤にして驚いていた。

「な、い、いきなり何を言って……」
「答えて頂戴。貴方は、魔理沙の事を愛しているの?」

パチュリーはあくまで冷静に聞き続ける。
手は固く握り拳を作っていたが。

「………聞いて、どうするのよ?」

アリスは深呼吸するように、高鳴る心臓を押さえ、逆にパチュリーに聞いた。

「…………盟友に忠告されてね」

何かを得るには何かを犠牲にしなければならない。

「私が魔理沙に告白しようとすれば、貴方との関係を壊さないと行けないと思って」
「……な」
「だから聞いているの。アリス・マーガトロイド、貴方は魔理沙の事を愛しているの?」

冷静な表情は徐々に臨戦態勢に入っている。
まるで敵を見るような目。パチュリーは、アリスを威嚇するように、じろりと睨んだ。

「………私は」

だが、そう言われてアリスは、引き下がる程弱くない。

「魔理沙の事を愛しているわよ。誰よりも」

まるで、スペルカードを宣言するような威風堂々としたその宣言は、綺麗であった。

「………そう」

パチュリーはそんな姿を見て、ニコリと笑った。
それが聞きたかったと。

「……なら、頑張りなさい」
「……え?」

拍子抜けするような言葉に、アリスはポカンとした表情をする。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! いいの? それでパチュリーは!」
「……恋敵になって欲しいの?」

パチュリーに首を傾げるようにそう言われたアリスは、全力で首を横に振った。

「そ、そうじゃないけど……!」
「……私は、魔理沙が幸せになってくれればそれで満足なのよ」

多くを望まない。
パチュリーは、自分で言った言葉だからこそ、「今」を大切にしようと決めたのだ。
魔理沙を愛しているからこそ、幸せになってほしい。
それが出来るのは、私ではないと。

「……パチュリー」
「けれど、アリス。覚えておきなさい」

ニコリと笑った表情は、再び冷徹な表情へ。

「貴方が魔理沙を悲しませたら」

それは、完全な宣戦布告。

「私は、全てを犠牲にしてでも、魔理沙を得る」

稀代の魔女。数百年を生きる七曜の魔法使いの本音。

「………ええ」

アリスは、その姿を見ながらも、ニヤリと笑って見せた。

「そうならないように、私はアイツの横に居続けるわ」

アリスはそう言いながら、手を差し出した。

「……貴方とは、末永く“友人〟でいたいわね」

差し出した手を、パチュリーは握り拳を作っていた手を開いて握った。
誓うような握手に、だがどちらとも表情を崩したように笑ってみせる。

それは、同じ者を愛するからこその友情であった。






















「咲夜さーん、世界がグルグルしてますー」
「……貴方がグルグルしてるのよ」

すっかり夕陽も暮れ、夜中になった紅魔館の2階の大広間にて。
魔理沙が目を覚ました事を伝えられた事により、レミリアの耳に伝わった頃には食事をいつもより豪勢にしなさい! と命令が下った。

いつもより豪勢。

それは咲夜を困らすには充分であった。“いつも豪勢〟なのにこれ以上豪勢にするのかと。
泣く泣く仕事中毒者の咲夜は、紅魔館の全掃除を切り上げ、全メイド妖精に食事を作る事に集中させ、大広間のセッティングの展開を命令。
門番であるはずの美鈴も引っ張ってきての時間がないデスマーチは、数時間止まる事はなく、レミリアの要望を叶える結果になった。

並べられた料理やお酒に、待っていた面々は目を輝かせ、久しぶりにああ、いい仕事した! とニッコリと咲夜は笑ったのもつかの間。
ぐでんぐでんに酔った美鈴に絡まれている状態であった。

「えへへへ。咲夜さーん」
「……はぁ」

顔を紅くし、白いテーブルの前に座る咲夜に、立ったまま後ろから抱き付いたままの美鈴の胸が頭に乗っかり溜息が零れる。
重い、柔らかいけど重い。
この脂肪の塊めと両手でぐっとどかそうとするも。

「……あ、さ、咲夜さん。そんな、強く揉まないで……あ、はぁ……」

これである。いっそのこと時間を止めて殺人ドールでもぶちかましてやりたい所だが、先ほどまでデスマーチに参加していた功労者だけに、酷い事はしたくない。

「……はぁ」

自分で作った料理を口にしながら溜息を零して、周りをキョロキョロと見渡す。
本当なら、お嬢様の下に控えていたかったが、今日は貴方も楽しみなさいと言われ、席に着かされている。
そして、美鈴が絡んできて動けない状態により、お嬢様が何処に行ったかわからない。

「アリスー、遊ぼうー? 壊さしてー」
「ちょ! な、なんで私があの子の相手をしないといけないのよ!」
「すみませんアリスさん、パチュリー様からのご指名で……」
「妹様ぐらい捻じ伏せてみなさい。それが出来ないと魔理沙の横になんて立てないわよ」

反対側の席では、暴れる酔っ払いが一名、美鈴より太刀が悪いレベルでアリスへと向かって魔剣を降ろそうとしていた。
どうやらパチュリー様の差し金らしい。何かあったのだろうか?

何処を見回してもお嬢様はいなく、何処に行った者かと首を捻ろうとし、邪魔な胸に捻れず苛々する。


「………本当にどかそうかしら」
「えー? なんですかー? 咲夜さーん」

ぐにゅぐにゅと頭の上で形が変わる胸に、咲夜は思いっきり掴んで横に引っ張った。

「貴方のその胸をどかして移動したいなって言ったのよ! 全く、こんなデカイ物を私の頭に乗っけて!」
「あ、そ、そんな、い、いたいです! いたい……さ、咲夜さん! やめて……! ああ!」

半分嫉妬、半分苛立ちを混ぜながら変形する胸を咲夜はこね回し続けた。











その頃、レミリアは。

「魔理沙」

紫のワンピースを着て、テラスの方に出ている長い髪を下ろした白金の髪の少女に声をかけていた。

「ん? ああ、レミリアか」

振り返った魔理沙は、ニコリと、レミリアに笑う顔を見せる。

「……そういう格好をしていれば、可愛らしいのにな」
「ん?」

ぼそりと、月夜の明かりに浴びて輝く魔理沙を見てそう感想を零したレミリアだったが、魔理沙には聞こえていないようだった。

「月が綺麗ねって言ったんだよ」

ニヤリと笑って、手にグラスを二つとワインボトルを持っていたレミリアは、魔理沙に歩み寄るようにして近づくと、一つグラスを手渡した。

「お、ありがと」

手渡されたグラスを受け取り、魔理沙はレミリアからボトルを傾けられ、紅いワインがグラスに注がれた。

「てっきり、他の連中とお酒を飲んでるかと思ったが」

チラリと、料理が並べられた大広間の方に顔を向ける。
皆思い思いに酒を飲んでいて、賑やかにやっていた。

「……悪いな、そんな気分じゃなかったんだ」
「………あの時の人形が、まだ目に焼きついているのか?」

レミリアは笑うでもなく、少し目を細めて聞いた。

「………まぁな」
「……お前が壊したんじゃないんだ。気にしなくてもいいと思うけど?」

レミリアは自分のグラスにもワインを注ぐと、グッと一息に飲み干す。
魔理沙の壊せないという言葉は、あの時レミリアの耳に聞こえていた。
フランドールに聞こえていたかはわからない。しかし、レミリアの魔槍が放たれ、直ぐに追撃をかけたのはフランドールだった。

「……それでも、私が原因だったんだ。私が壊したも同然なんだよ」
「……ふぅん」

苦悩するように、星空を眺めて話す魔理沙の横顔を見て、レミリアはつまらなげに話しを聞きながらワインを飲む。

「でも……レミリアには、貸しが出来ちまったな」
「そうね。悪魔に貸しを作ったんだ。対価はどうしようか」

魔理沙の言葉に、表情は何をしようかと愉快気に笑った。

「……血以外なら何でもするぜ?」

魔理沙はそんなレミリアの姿を見て苦笑しながら、軽い口調で言ってみせる。

「……へぇ。何でもいいの?」

だが、レミリアは珍しく落ち込んだ様子のままの魔理沙を見て、何をしようか思いついたのか。

「なら魔理沙、膝をついて目を閉じろ」
「? 今か?」

レミリアの言葉に魔理沙は聞き返す。

「ああ、今じゃないとする気になれないだろうからね。いつもの黒白の姿じゃ魅力がない」
「……? よく、わからないが。わかった」

首を傾げ、クエスチョンマークを頭の上に出していた魔理沙だったが、ゆっくりと地面に膝をついて目を閉じる。

「これで、いいのか?」
「ああ、それでいい。ちょっとの間、我慢してなさい」

レミリアはそんな魔理沙の姿を見て、チラリと横目で大広間を見る。
こっちを見ている者がいないのを確認して、ワインボトルとグラスをテラスに備え付けられている白いテーブルに置き、魔理沙の白い首に両腕をそっと回し。

「……ん」

レミリアは、無防備な唇へと、口付けを交わした。

「ん!?」

何をされるのかわからなかったのか。
レミリアにキスをされ、魔理沙はぎょっと目を見開いて驚き、バタバタと立ち上がろうと暴れるが。

「んん……」

万力のように抑えられ、動けない。
貪るようなキスは、徐々にエスカレートして行き、魔理沙の口内へとレミリアの舌がなぞるように這い回っていく。

「……ん」

ピチャリピチャリと音を立てるようなキスに、魔理沙の顔は赤くなり、とろんと、瞳には力が無かった。
いつの間にか、暴れていた身体もだらしなく緩み、レミリアの成すがままになっている。

「ん、はぁ………」

ようやく、満足したのか。
白い糸を引いて唇を離したレミリアの顔はニヤリと、悪魔らしい笑みをしていた。

「これで、貸し借りなしね」
「………」

魔理沙は無言のまま、ぐったりとした身体のまま、レミリアを見ていたが。

「……お、まえなぁ!!」

徐々に、身体を震わせて顔を真っ赤にして怒るように立ち上がった。

「あっはっはっは! 何でもいいって言ったのは魔理沙だ。 このぐらいいいでしょ?」

怒った魔理沙を見て愉快に笑うレミリアは、やっといつもの調子に戻った魔理沙にニヤリとしてみせる。

「それとも初めてだったか? 口付けは」
「知るか! ったく、いきなり何をするかと思ったらこういう事かよ!」

顔を真っ赤にして先ほどまで口付けを交わしていた唇に触れる魔理沙を見てレミリアはニヤニヤとしたままだった。

「そうか、初めてかぁ。フランやパチェに悪い事をしたわね」
「っつ、何でわかんだよ……!」
「魔理沙の初々しい反応を見てれば誰だってわかるよ」

初めてと言っていないのに看破したレミリアに図星を突かれ、動揺する魔理沙はとても可愛らしく見えた。

「……まずいまずい、本気になりそうね私も」

咲夜を愛で、霊夢に求愛行動をするレミリアだったが、こうも可愛らしい星の魔法使いの姿を見るとうずうずと独占欲がわいてきてしまっていた。
冗談のつもりが本気になりかねない。

「くそ、酔いが醒めちまったぜ……」
「魔理沙もあっちの方に混ざってくればいいじゃない。一人で星を見るより余程お前らしい」

ビッと未だに賑わいを見せる大広間の方を指差し、笑ってあっちにいけとジェスチャーしてみせる。

「……そうさせてもらうぜ」

魔理沙は顔を赤くして、レミリアに背を向ける。

「……レミリア」
「ん? 何かしら?」

やれやれとテーブルに置いたボトルを手に取って、グラスに注ぐが、背を向けた魔理沙に声をかけられ、そっちに顔だけ向ける。

「……その、ありがとな」

照れているのか、それだけ言って駆け足で大広間へと戻る魔理沙の後姿を見て、レミリアはクスリと笑う。

「……ふふ、パチェやフランや、アリスの奴があいつに恋をするのも、わかる気がするよ」

レミリアは、優雅に月を肴にワインを飲み始める。

「星は、輝くから綺麗なのよ。魔理沙」

燻ったままでは意味がない。

レミリアは、星の魔法使いが落ち込む様を見てもつまらないと、ぼやいて見せた。
















―――パチリと、私は目を開けた。

「……うまくいったか?」
「……どうかしら。問題ないはずだけど……」

目を開けた視界には、人形がたくさん並ぶ部屋に目移りする。
目の前には、小声で喋る二人の少女の姿があった。

「……シャンハーイ」
「お!? 喋ったぜ!」

私が声を出してみれば、喜ぶように手を上げて、笑顔を向ける黒白のエプロンドレスを着た少女と。

「大丈夫みたいね……はぁ、よかったぁ……」

ふぅと息を吐いて、白いブラウスを着た人形のような少女であった。

「よかったなアリス! これで蓬莱も上海も問題ないよな?」
「……ええ。魔理沙が手伝ってくれたおかげね」

はしゃぐように喜ぶ少女とクスリとそんな姿を見て笑う少女。

「シャン、ハーイ」

私はそんな姿を見て幸せそうだと思った。
だって、どっちとも心から笑っている。

「……お帰り、上海」

クスリと笑う少女にそう言われ、私は何でお帰りなのかわからないが、頷いてみせる。

「シャンハーイ」

ニコリと、二人の少女が笑うように。
ここまで読んで頂きありがとうございます。

リクを貰っていましたが、そちらの話を書く前にこっちを書いていたので先こっちを。
再び突っ込みたい事が多々あるかもしれません。
そういう方は感想へ。是非お願いします。
6/10 追記
感想、評価頂きありがとうございます。
少し早いですが、其スレでなんか変なのが湧いていたので早めに感想返させていただきます。

>詰め込みすぎて混乱~
本当に、少し詰め込みすぎたかもしれません。
精進せねば…。

>良かった

ありがとうございます

>其動画で~

それを見て突発的に練ったと言っても過言ではないので、似ているかもしれません。

長文失礼しました
七氏
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コメント



0.1130簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
なんか色々詰め込み過ぎて混乱している感じがします。
一度整理されてみてはいかがでしょうか?
3.70名前が無い程度の能力削除
某動投稿サイトにこんな動画あったような…

内容は楽しかった
4.100名前が無い程度の能力削除
良かった。
5.無評価名前が無い程度の能力削除
言いたい事を>>1で言われてしまいました
10.80名前が無い程度の能力削除
二次創作的には、半自律人形か、あるいはもうコイツ自律してるやんみたいな上海蓬莱ですが、
彼女(?)たちをこういう風に動かすとはちょっと意外でした。
ともかくも前編最後の切り返しがなかなか見事で、いい具合に話の流れが出来てたなと。
天然たらし化してる魔理沙も相変わらずですが、アリマリパチェ+フランの関係はやっぱり見てて飽きない。
長いのは大して問題ではないですが、紅魔館のもやしさん以外の面子が絡む部分がやや粗かったかなとは思います。
12.100名前が無い程度の能力削除
長かったですが、一気に読めてしまいました。特に違和感なく読めましたよ。
各キャラの心境も伝わってきました。
恐らく同じ動画を私も観ているのですが、やはりハッピーエンドはいいですね。
15.60名前が無い程度の能力削除
良かったです。
しかし某動画の印象が強いせいか、変な感じでしたね。混同してしまうというか…あまりにまんまな感じが。
好きなタイプの作品だっただけにそこが残念だったかな。
27.20名前が無い程度の能力削除
コレ、動画の製作者には許可ぐらいとったんですかね?
取ってればオマージュ、無ければパクリに見えます。
29.90名前が無い程度の能力削除
許可というか、部分的に似てるだけであって全体的に見ればオリジナルと言える作品だろう
この程度でパクリって言われてたら2次創作の全てがパクリになってしまうよ
まぁ一番の見せ場が似ているからパクリみたいな印象が強いんだろう
個人的には楽しめればなんでも良いので、そんなことはどーでもいいんですけどね

いやはや、良い作品でした
33.90aki削除
前編後編纏めて素晴らしかったと思います!前編の最後でまさかまさかの
展開になりましたしwなるほど、そう来るんだと。

又素晴らしいのを期待しております。
38.100名前が無い程度の能力削除
長い作品なのに一気に読めてしまいました。
魔理沙を中心にした人間(?)関係が大好きw