Coolier - 新生・東方創想話

ある日のパチュリー

2008/06/08 06:43:31
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そこには静寂があった。
そこには安らぎがあった。
そこには私を作る全てがあった。
でも、何もなかった。

広大な部屋の中で一人、紙をめくる音を立てた。とても小さな音なのに、少し反響して聞こえてくる。
四方を本棚が乱立していて、その数は両手の指では足りないことは確実だ。十倍でも怪しいところ、さらに本棚に空きはないはず。いつの間にかごっそりとなくなっていることがあるから、言い切れない。
ここは紅魔館の大図書館。基本的に私の根城だ。研究も理論構築も、余分な知識もここで仕入れる。
今日の本は大したことない本だ。題名は『誰でもできる簡単クッキング』。私には関係ないものだけども、術式とか調合に通じる何かがありそうでなさそうな感じだ。ともかく、オールジャンルの知識を欲している私にはそれは副産物でしかない。
「紅茶をお入れしました」
しんとした図書館内にようやく言葉が流れた。
声の主は銀髪に青色の瞳を持ったメイド――十六夜咲夜(いざよいさくや)だった。彼女は銀時計を用いることで時間を止めることができる。おそらく今回もそれを使ったのだろう。
「ありがと」
短く答えると、持ってきて貰った紅茶にさっそく口をつける。
華やかな香りと味が口の中に広がっていく余韻を噛みしめる。咲夜の入れてくれる紅茶は飲みなれているとはいえ、飽きることはない。茶葉を多くの種類を飲む人の気分に合わせて選び、入れ方も考えているからだろう。よくはわからないけど。
今読んでいる『――簡単クッキング』にはそういうものが書いていないかを片手間にめくって探す。あ、紅茶で煮込むっていうのはあった。
「今度は料理でもするのですか?」
「そういう訳じゃないわ。ただ、目についたのよ」
「調理の際は是非お呼びください。手伝わせていただきます」
「ええ、お願いするわ」
本から注意を戻して、紅茶を飲む。
「レミィはどうしてるのかしら?」
「お嬢様はいつも通り寝ていられます。今日は少し場所が違いますが」
「フランね?」
「はい、地下のお部屋に」
姉妹愛…があるかどうかは定かではないけども、仲良くしていてくれれば問題はない。私が雨を降らす必要も、本を消し飛ばされる心配もないからだ。
これも紅い霧が晴れた後のことだ。吸血鬼の弱点である日光を遮ることで日傘をささず、自由に飛び回るためのものだったが、それが本当にレミィの目的であったかは怪しいところだ。
「フランも、これで落ち着いてくれるといいのだけど。何百年も幽閉されていたらその倍は覚悟するのが妥当かしらね」
「お嬢様だけなら、そうかもしれませんが――」
彼女らのことを言っているのだろう。博麗神社の巫女、博麗霊夢に魔法の森の魔法使い、霧雨魔理沙は紅い霧の時にこの紅魔館に攻めに入った人物だ。
幻想郷の異変を解決しようと来たであろう二人。霊夢はレミィを倒し、魔理沙は地下のフランと遊んでいった。それ以降フランの感情の突起が緩やかになり、地下室から出ていいことになった。未だ外に出ることは許されてはいないようだが。それでも出たがるフランを止めるには雨を降らすしかない。それが私の役目だ。
「ネズミが来てくれてフランと遊ぶのはいいのだけど、本を食い物にするのはやめてほしいわ」
「門番には期待できませんものね」
「またお仕置きが必要になるわよ」
「? 何か気がづきましたか?」
「いえ、周期的に考えて予想しただけよ」
何気なく窓の外を見る。遮光カーテンに遮られながらも太陽光が繊維の隙間に刺さっている。
別段、おかしなことは何もない。
そう思いながら、少し期待しているのかもしれない自分に気づいた。
それは違うと頭を振ると、少しくらくらした。
「大丈夫ですか?」
「気にしないで、すぐに治まるわ」
運動不足なのは分かっているのだけど、特に必要性を感じていない。
基本的なことは精霊がやってくれることだ。それが原因でもあるのだろう。正す気なんてないけど。
そういえばネズミもそんなことを言っていた。たまには外に出ろ、と。
「他に御用はありませんか?」
「大丈夫よ、ありがとう」
カーテンが膨れ上がったと思うと、一気に拡散した。
「彗星『ブレイジングスター』!!!」
黒いドレスに白いエプロン。目印に先の尖がった黒色の帽子が飛散したガラスに映った光を受けて幽玄とも思わせる絵だった。箒の先に美鈴がくっついている以外は。
「本当に使えないわね…」
「私の予想も当たったことだし。応戦準備はよいかしら?」
「はい。メイドの苦労を顧みないお客様にはお帰り願わないといけませんものね」
私たちはスペルカードをセットする。それを見た魔理沙は八卦炉を取り出し。こちらに向ける。
「恋符『マスタースパーク』!!」
「日符『ロイヤルフレア』!!」
「時符『プライベートスクウェア』」
スペルが重なって、それぞれが呼応する。この瞬間に一番有利なのは咲夜だ。うまくいなしてくれることだろう。
炎獄が伸びる。ここまでの一瞬で咲夜が隣にいない。魔理沙も若干ズレているし、私の炎はちゃんと直撃コースを進んでいる。
「なんでですかー!!??」
マスタースパークもロイヤルフレアも、美鈴に当たるのだけども。
「侵入者を易々と入れたのだから、当たり前でしょ」
美鈴が体からぷすぷすと黒煙を上げている。まぁいつもの事だから心配はしないけど。
「そう言いましても。私じゃ勝てませんよ~」
「それでも守り切るのが門番でしょうが。それとも、まだお仕置きが欲しいのかしら」
「いえ、十分です!」
「分かったらリベンジなさい」
「いえ、ですから――」
サクッ
美鈴の額にキレイにナイフが刺さる。
「口応えをしている暇があるのなら、拳の一つでも打ちなさい」
「……わかりました」
額からナイフを抜かぬまま、魔理沙の方に向き直る。
「その表情はどちらに転んでも痛い思いをすることを想像して自分に一番被害の少ない選択を探している――ようね」
後頭部にもう一本ナイフが刺さる。
「もうひと押ししたら貫通しそうね。やってみましょうか?」
そう言ってスローイングの構えを取る。
「ごめんなさい! 死ぬ気でやりますから!」
「手加減してやろうか?」
手持無沙汰な魔理沙が事情を察しているらしいが、そう大声で言ってしまっては意味がない。
「そんなことしたら生きて帰れなくなります」
「お前も大変だな…。魔砲『ファイナルマスタースパーク』」
「ちょ…遠慮なしじゃないですか。彩華『虹色太極拳』」
スペルセットされた段階でもはや勝敗は決している。というか、対戦カードが決まった時点で分かり切っている。
図書に支障がないように、漏れた弾幕を防御する。半端なスペルじゃないから抑えるのも一苦労だ。これが終わったらお茶のおかわりをもらって1時間ほど休憩しよう。
「ダメ…でした」
もはや消し炭と化しそうな美鈴は最後までダメだった。
「門番が通したってことは招待されたってことでいいよな?」
「そういう訳には参りません。今度は私が――」
銀時計に手をかけようとした咲夜を止める。
「時間の無駄になるだけよ、悪いけどお茶を2つお願い」
「…わかりました」
「物わかりいいな、賢明だぜ」
「ただ無駄な労力と蔵書の被害を抑えるためよ」
「パチュリー様……」
焼死体になりそうな美鈴を見下ろして、
「これ治さなくちゃダメかしら」
「私に訊かれても困るぜ」

紅茶のカップが3つにスコーンがひと山。長机の上に並べられた。
1つ余分なのは私の指示ミスだ。自分のカップにおかわりが欲しかったのだが、勘違いさせて新しいカップを2つ持ってこさせてしまった。
「あの、私ここにいていいんでしょうか?」
余った1つのカップは美鈴の前に置かれている。怪我はさっき私が治してあげたので、頭部にも傷1つついていない。さっきのまま放っておいても死にはしないとは思うけど。
「珍しく健闘したということにして、努力を称えれば大丈夫よ」
「――として?」
「健闘っていうのは最低でも相手の体に傷1つつけてから言うものだと思うけど」
「すいません…」
「ちゃんと訓練してるのかよ? 前とまったく変わったように思えないぜ」
「そう言わないで下さいよ、仕事がなくて暇な訳じゃないんですから」
「私を無職みたいに言うな! 魔法使いは立派な職業だぜ」
「そうだとしても、忙しそうには見えないわよ」
「それはそう見せないようにしているだけで。家にはたくさん依頼来てて猫の手も借りたいってのに」
「霊夢の依頼を横取りするのに?」
「くっ………」
反論の弁が止まった。分かり易い見栄を切るからだ。
「…絶賛依頼募集中だぜ…」
「私もそれぐらいあればすぐに強くなって見せますよ」
「調子に乗らない。確率の低い夢を見ない」
「すいません…」
カップに紅茶を注ぐ。まだ湯気が立ち上るお茶を口にする。
「………ゴホッ…ゴホゴホッ」
不意に咳が出る。1回では終わってくれないのはいつものことだが、その間に2人が無言にしてしまったのが気になる。
「もしかして、私の治療をしてくれかたからですか?」
「私も…撃っちまったしな」
大丈夫だという意思表示に手を軽く振る。
「気にしないで。むせただけよ…」
「それならいいんだけどな。反省し損だぜ、その分はご自慢の蔵書で貰うけどな」
「勝手に思って、勝手に持ってくなんて随分ね」
「いいじゃねぇか、いつものことだろ」
「いつもだから困るのよ」
「ケチケチすんなよ、こんなにいっぱいあるんだから」
「っ!?」
そう言って両手を大きく広げる。美鈴の顔に勢いよくあたるのは無視しておこう。
「周りのこと考えてくださいよ!」
「これぐらいも避けれないと、チルノにも負けるじゃねぇの?」
「そんな悪く言わなくてもいいじゃないですか、大体当てておいて謝らない方が悪いでしょ!」
「なんだ、まだ負け戦する元気があるのか?」
少し冷めてしまった紅茶を飲む。左手ではさっきまで読んでいた本を開いている。
「いい加減にしなさい。お茶も満足にできないほど子供なの?」
2人がしぶしぶ黙った。
「ここは図書館、動より静であるモノこそ在っていい場所なの。やるなら敷地外で、被害を出さないように頼むわ」
「まぁまぁ、そうカリカリ怒るなよ。ほれ、キノコやるから」
見るからに毒々しい色が混在したカサを持ったキノコが机の上に置かれる。カサがやけに大きくて細かいブツブツがある。柄もやけに太く、握りつぶしたらカサから異常なほどの胞子が飛んできそうだ。
「え、なんですかコレ」
「キノコに決まってるだろ? 名前が中国のくせに4000年の知識もないのか」
「それぐらい知ってますよ! あと私は中国じゃない!」
「これで何ができるの?」
声が若干こもった。かすかに漂う異臭に鼻を隠しているからだ。
「さあ? 見たことないヤツだったから持ってきた。ここの本に載ってんじゃないかと思ってよ」
まだ実験材料にすらしていないようだ。まっさきに無謀な実験を繰り返すと思っていたので意外だ。
「それに、危ないヤツでもみんなと居れば怖くないだろ」
「確かに私が居ればそりゃ確かに安心ですけど」
「えーと――お調子者を世間的に抹消する方法は…」
「あれじゃないか? 焼却処分」
「それは世間的じゃなくて物質的です! …すいません、謝りますからスペルカードをしまってください」
魔理沙が小さく舌打ちをして、しぶしぶポケットにカードをしまう。
「新しいのを使えると思ったのにな」
「私は実験台かなにかですか?」
「人聞き悪いこと言うなよ、被験者だろ。とりあえずこれ食ってみてくれ」
「何もわかってない!」
騒がしい。まるで本が進まない。
というか、料理本は想像して補填しなければいけないので時間がかかる。その映像も全然浮かばないからさらに手間取る。
春巻きって春度を調理するのかと思ったのだけど、関係ないみたいね。そもそもどこに春が関係しているのかしら。
また咳が出た。煩わしい、できることなら止めたいものだが。
「パチュリー、これ食ったら治るかもしれないぜ」
「本気だったら丸焼きにするわよ」
「冗談だよ。でも可能性はあるだろ」
「ないわ」
魔理沙は知らない。彼女は人間だから。
「なんでだよ」
「あなたが魔女になればわかるわ」
種族という壁で切り払った。
「じゃあ体を鍛えてみてはどうでしょう? 太極拳ならお教えできますが」
「お前が教えちゃ弱くなっちまうよ」――そんなことを言うだろうと予想していたのに、魔理沙は黙っている。
「パチュリー様?」
「…なんでもない。太極拳だったかしら」
「はい、こーんな感じです」
話しながら両手で円の残像を作る。霊夢が使っている陰陽球と同じだ。ルーツに何かの関係があるのだろう。今度調べてみよう。
「本で読み取った速度より早いけど…自己流かしら」
「はい、だってこの方が格好いいじゃないですか」
教えてくれるという美鈴には悪いけど、やる気じゃない。
「パチュリー、菌糸類の辞典みたいなのないのか?」
「あなたが持っていったでしょ。早く返しなさい」
「そうだったけなぁ…」
頭を掻きながら本棚の影に隠れていく。

時計の時針が4つほど動いた。
美鈴は咲夜に長く居過ぎたことを怒られ、3時間前ぐらいにお仕置き部屋に連れて行かれた。まだ門の前に姿はない。
魔理沙は私の対面に座っている。特に話すことはない。
彼女が希望したのは知識とお菓子とお茶と食事。人の家に来ておいてなかなかの図々しさだ。それに対応できる優秀な使用人も褒めるべきだろう。
「ほへ、なふぁなふぁいふぇるふぉ」
「食べるか話すか、本を読むかどれかにしなさいよ」
咲夜の持ってきてくれたクッキーを片手に本を読んでいる。油や粉がついて本が汚れるから歓迎できない。本を大事にしているならまずやらないだろう。彼女の家に持っていかれた本もどんな扱いを受けているか心配だ。
「何も食べないけど、腹減らないのか?」
「人間じゃないもの。面倒じゃない、何かをしないと死ぬなんて」
「でも楽しめるなら楽しんだもん勝ちだと思うぜ」
――!?
溜息をつこうと少し開いた唇にクッキーを差し込まれた。
「その方が作られた方も作った方も嬉しいと思うけどな」
「作られた方の意思なんてただの想像でしょ」
一口かじればほんのりと甘い。まだ残滓がある内に紅茶を含めば紅茶単体で飲むよりもさらにおいしく感じられた。
「人が食べるのも寝るのも死ぬからじゃない。楽しいからだ、と私は思ってるんだけどな」
「それじゃあ、何? 人は楽しくないと死んでしまうじゃない」
「それは人に限らない。パチュリーだって本がないと楽しくないだろ?」
「本当だったらレミィだって殺せそうね」
いって気づいた。
レミィが犯したことを。
495年間娯楽から離し「殺して」しまった。
(死んでいるのを生き返らせるなんて、不可能ね)
「可能性はあるな。でもそれじゃ生き返っちまう」
魔理沙の言っていることが分からない。
「誰かが知らずにドア開けちまうからな」
ドンッ
図書館の扉が開いた。
「まりさ~」
朱色の服。金髪に大きな赤い双眸。色鮮やかな双翼を持つ絶対の破壊力と永遠に死なない生命力を持つ吸血鬼。
フランだ。
「お~、久しぶりだな。何してたんだ?」
「寝てた。あいつの寝相が悪くて起きちゃったけど」
窓が少ないせいで時間の流れが分かり辛かったが、世界はもう宵闇に包まれようとしていた。じきにレミィも起きるだろう。
「魔理沙はなにやってるの?」
「私は優雅にお菓子をいただいてる。フランもどうだ、うまいぞ」
返事もせず、三枚ほど一気に持っていった。それを頬張る。
「起床なされたなら、言ってくれませんと」
あとを追うように入ってきた咲夜の手には新たなお菓子に、紅茶のポッド。
フランの前に真新しいティーカップが置かれ、真赤なお茶が注がれる。それにケーキもだ。
「私もケーキ食べたいな」
「……ナイフでよかったらすぐに出すけど」
「おっかないな。何でそんな怒ってんだよ」
「あなたが次から次へと自分勝手な注文をするからでしょ」
そう言いながらもクッキーの追加分がテーブルに置かれた。
「いいじゃないか、ケーキの一つや二つ」
「初めて来た時から遠慮がなかったけど、段々態度大きくなってきてない? 言っておくけど客として扱ったのはあの時だけよ」
「食べたいなら、少しあげる」
「お、悪いな」
咲夜の話を完璧に無視して、フランのケーキを貰っている。
「なんか鉄っぽいんだけど…。砂鉄ケーキだな、甘くないけど重いぜ」
「違うわ。それがフランの食事よ」
「ウェイト増やしてどうすんだ。階級上げるのか?」
「種族を察しなさいよ」
魔理沙は一瞬考えると、納得いったかのように頷いた。
「もういい?」
「ああ。大事な食事を取っちゃ悪いからな」
魔理沙は何を思っているだろう。仮にも自分と同じモノがケーキとして食べられている。
「魔理沙――」
「言ったろ? 食べられる方も喜ぶだろうって」
こちらの考えを読んだの…。今度は私が納得する番だった。
「作らさせられる方も考えてね」
「気が向いたらな」
ダンッ
魔理沙の目の前にナイフが突き立てられてた。
「ぜ、善処するぜ」
意味合い的にはそう変わってない気がするけど、咲夜が何も言わずに出て行ったのだから問題はないのだろう。
「魔理沙、仕返しする?」
「いいよいいよ、その気になりゃ勝てるから」
ナイフが二本になった。
「そろそろ帰った方がいいんじゃない」
「このナイフはそういう意味なのか…」
「違うわよ、個人的な意見よ」
「私まだ遊んでない」
「そうだな、せめてフランと遊んでからでいいか?」
「好きにして」
ほどなくして二人共出て行った。魔理沙に悪いことを教わらなければいいのだけど。
心配ね…。でもやっと静かに本が読める。

しばらくして、読み終わった本が小さな山を作った。
微妙に眠い。魔理沙はまだ帰ってこない。帰るつもりはないのかもしれないわね。
「パチェ、あいつ知らない?」
「フランなら分からないわ。そういうのは咲夜の方が早いと思うけど」
「ヤバいことやらなければいいけど。やったら名前をヤバンにしようか」
「ヤバンの姉って言われて、自分のこと言われているように思えなければ勝手にすればいいわ」
「……魔理沙が来てるみたいね」
私の話を無視した。いや、単に優先順位に従っただけね。
「ええ、遊んでいるみたいよ」
「そう…。魔理沙とは仲がいいわね」
「やきもち?」
「違う…ただそう思っただけよ」
「そう……」
それにしてもフランの動きが分からない。
遊んでいるにしても静か過ぎる。てっきり弾幕でも張り合うのかと思っていた。
「あなたも霊夢と仲がいいじゃない。フランがあなたを追おうとした時も今みたいだったのかもしれないわね」
「だから妬いてないって」
「じゃあなんでココに? 今言った情報は咲夜で事足りたと思うけど」
「えーと…そうね、相談に近いかしらね」
「珍しい」
「笑わないでよ」
「気にしないで、続けて」
顔が少し赤い気がする。それでいて眼はうつむき加減のような。
「私より、魔理沙の方がフランにとって大事な気がするのよ。あいつを見てるとなんとなくね。そりゃそうよ、私の命令で何百年も幽閉してたんだもの、根っこでは私を好きだなんて思ってはいないわ」
一つ、大きく息を吸った。
「だから私、必要ないなって」
「レミィ…」
「…悪いわね、つまらないことで」
「それは相談じゃなくて一方的な話よ」
「ツッコむとこそこ?」
「何で鬱になってるかはどうでもいいけど、分かり切った無駄な話をしに来たのなら力ずくで追い出すわよ」
「な、なによ…」
「あなたがいて、その上で友達がいるから成り立っているのよ。それにいるかいらないかを勝手に判断して離れるのは無責任よ」
「つーかまえた」
天井が轟音を上げて、破壊されるとフランが降ってきた。
「フラン……」
「お姉さまも一緒にあそぼ」
「い、今忙しいのよ」
「見栄張るなよ、さっきから中をうろうろしてただけのくせに」
遅れて魔理沙が降りてきた。
「天井から全部見せてもらったぜ」
「道理で静かだと思った。悪いことを教えてくれたわね」
「許せよ。これでお互いに確認できたことだしな」
レミィに抱きついているフラン……何も言わない方がいいかもしれないわね。
「じゃあね、パチェ、邪魔したわね」
「またね」
二人に手を振れば図書館はまた同じ二人と粉塵が残っているだけだ。
「約束通り帰りなさい」
「ええー、今いい感じだったのに」
「代わりに読みかけの本貸してあげるから」
「珍しいな。死ぬまで借りてくぜ」
魔理沙は何冊かを布に包むと背中に背負った。
「今日は世話になったもの。三日だけ貸してあげるわ」
「どうせならいつも貰ってるもんじゃなくて金になるものがいいな。もしくは金」
「正式に依頼をしてたらね。今回はただのお節介よ」
「分かったよ、またな」
箒に乗ると、最初はゆっくり、窓を出る頃からギアを切り替えたように飛んで行った。
「今日は疲れたわね…」
今日のレミィはおかしかった。咲夜も、フランも。可能性としては私も。
得をしたのは誰か。魔理沙だ。
私はレミィの蝙蝠に似せた精霊を生み出す。それを魔理沙の飛んで行った軌跡を辿られる。
さらに仲介の精霊たちを使い、光を屈折させ時には強くし、ここまで映像を遅らせる。目の前に置いた四立方形の水晶にそれが映る。
精霊が魔理沙の家の中をのぞいた。

「いやー疲れた疲れた。門番の百倍は働いたな」
帰って来て間もないようだ。乱雑に散らかされた部屋の中に彼女が満面の笑みで笑っている。
「これだけうまく行けばアイツに一泡吹かしてやれそうだぜ」
満足そうだ。だが、セリフはまるで小悪党。
何か裏がありそうだ。今回の異変に関係する。もう少し見ていることにしよう。
「波乱に金引き。キノコを突き詰めればだれよりも強くなれそうだな」
波乱に金引き…キノコを研究…。
「メイド以外はうまく効いてたよな。このキノコが私が作ったようには見えないこの会心の出来。コンパクトで扱いやすくて素晴らしい造形、完璧だ」
手には見せた毒々しいキノコ。…あれか、ことの原因は。
見るの止めた。
窓から身を飛びださせた。いつも飛ぶ時はゆっくり行くのだが前に身を倒すような形で行く。
「パチュリー様、どこに行くんです?」
「全員で魔理沙邸を襲撃するわよ、準備なさい」
「ええ、また何かやらかしたんですか!」
「洗脳容疑よ、重罪でしょ」
美鈴に遠くて分からないかもしれないけど、笑って見せた。

夜の魔法の森は漆黒ともいえるような色を持っていた。
霧雨魔法店と書かれた小さな看板を見て、頷いた。間違いない。
「フラン」
「禁忌『レヴァーテイン』!」
深紅の刃が家の近くに直撃し地面を何メールか消し飛ばした。
「うお! なんだなんだ!」
慌てた様子で魔理沙が飛び出してきた。
「中に図書館の本があるから外してあげたわ。感謝しなさい」
「いきなりなんだよ、屋根のことか」
「違うわ、私たちを自分の都合のいいように洗脳した容疑よ」
「そ――そんな訳わからないことやってないぞ」
「持ってきました」
咲夜の手には例のキノコがある。飛び出したと同時に時間を止めさせて中に入るように指示しておいたのだ。
「この偽物キノコが原因だっていうのは分かってるわよ」
「……く」
「正直に言えば小間使い一か月で許してあげるわよ」
「紅魔館は人手不足ですからね。特に門番が」
「……帰りたいです」
「認めなかったら?」
「レミィ、フラン」
二人が最大級のスペルをセットする。
「最強種二人に人間が勝てるかしら…見ものね」
「負けるか!」

戦闘結果
魔理沙●―○吸血鬼チーム

日が昇る頃には私は図書館にいた。
ここからでも魔法の森が一部消し飛んでいるのがわかる。
ちょっとやり過ぎたかしらね。
「他の住民が文句言ってきそうですね」
咲夜が本棚に本を差し込みながら話しかけてきた。
「魔理沙の実験が失敗したとでも言えばいいわ」
「そうですね、ウソには思えませんし」
「ある意味、本当でもあるしね」
一息ついて、机の上に積まれた本の山を見上げた。
「想像以上に持っていかれてたわね。油断してたわ」
魔理沙が負けたあと、わざと彼女の目の前で運び出した。一冊残らずだ。
本来ここにあるものだから、特に問題はない。
「咲夜、もういいわ。新入りにやらせて」
「はい、パチュリー様」
咲夜と代わるように入ってきたのはメイド服を着せられた魔理沙だ。
「…………」
帽子がヘッドドレスになっただけでそんな変わった感じがしない。
「結局白黒じゃない」
「なんだ、悪いのかよ」
「…別に。本を棚に戻してくれるかしら」
「集団でボコボコにした上にメイドって理不尽じゃないか?」
「それだけのことをやったって思いなさいよ」
「まぁいいか、お茶もお菓子も本もあるしな」
五冊ほど適当に渡すと、早速一冊本棚に戻した。
「そういえば思ったけどさ。外に出るなんて珍しいな」

「だって…あなたがそう言ったんじゃない」
初投稿です。よろしくお願いします。

プロットとまったく違うものが出来てしまった。
本来はパチュリーが外に出ることも中国もメイド長も吸血鬼連合も出るはずじゃなかったんだけど。きっと静か過ぎて続かなかったんだろうなぁ。
場面転換も多すぎるし、吸血連合セリフ少ないし。
いろいろ反省点の多い作品になってしまいました。これからもパチュリー関連を書いていこうかと思います。
桐沢健太郎
[email protected]
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コメント



0.1120簡易評価
2.無評価名前が無い程度の能力削除
目に付いた誤字を
『箒星 ブレイングスター』→『彗星 ブレイジングスター』
幻想卿→幻想郷
4.無評価名前が無い程度の能力削除
レミリアは「パチェ」って呼ぶんだぜ。
6.80からなくらな削除
初投稿ですね、わかりました
十分にわかりやすくはあったのですが、キノコについてあとほんの少し説明が欲しかったです
でも、あとは申し分ない内容と文章力だと思うので
次回作も期待します
13.無評価桐沢健太郎削除
読んでいただきありがとうございます。

名前がない程度の能力様(申し訳ありませんが、ひとまとめにさせていただきます)
教えていただいてありがとうおございます。
修正させていただきますね。

からなくらな様
ありがとうございます。もう少し気を配って作成したいと思います。修正しますね。
次回作は本来通る予定だったプロットをちゃんと通ってもらおうかと思います。
よかったらまた見てくださいね。
24.70真十郎削除
プロットと違うそうですが それでも少しずつ丁寧に書いていった様子が思い浮かびます。
幻想郷の住人らしさは十分!