Coolier - 新生・東方創想話

ママは七色人形遣い~アリスとちび美鈴~

2008/05/08 02:20:21
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この物語は作品集52の『ちび美鈴~この娘誰の娘私の娘!~』の続編となっています。



























悪魔の館、紅魔館。人々に恐れられ、恐怖の象徴として畏怖されていたことも今は昔。
その館には現在、多くの住人が滞在しており、主である吸血鬼から妖精メイド、魔法使いやら挙句の果てにはワーハクタクまでと、
その住人の数は数え切れない程である(※注 レミリアの誇大妄言である。実際はちゃんと咲夜が人数を把握している)
さてはて、そんな悪魔の館に今宵、また新しい住人が二人追加されることになる。その二人とは――

「霧雨魔理沙だ。まあ、今更こんな挨拶なんか必要ないと思うけど、一週間よろしくな」

「アリス・マーガトロイドよ。これから一週間お世話になるわ」

二人の挨拶に、室内にぱちぱちぱちと小さな拍手が起こる。
現在、紅魔館の一室において魔理沙とアリス、二人の歓迎会が行われていた。
席に座り、咲夜お手製の料理を囲んで彼女達に拍手を送るのは勿論紅魔館のお馴染の面子であるフラン、慧音、パチュリー、咲夜である。
彼女達の拍手を制止させ、ゴホンと小さく咳払いをするのはこの館の主、レミリア・スカーレット。
主賓である二人を席に座らせ、レミリアは優雅に笑みを零して口を開く。

「これから一週間とはいえ、貴女達はこれから紅魔館で暮らすことになった。
 この紅魔館の主、そしてスカーレット家の当主として二人を歓迎するわ。何かあったらすぐに私を頼りなさい。
 …特に美鈴の事に関しては迷うことなく私を頼りなさい。いいえ、私以外に頼る必要なんてないわ。
 むしろ母親の権利を今すぐ私に…」

「おい、途中から変な方向に逸れてるぞ」

慧音に指摘され、レミリアは小さく舌打ちをして慧音を睨みつける。
そんなレミリアに、慧音は小さく溜息をついた。まだ諦めていないのか、と内心で呆れながら。
その光景を見てアリスや魔理沙は苦笑する。ちなみにアリスの腕の中にはまん丸な瞳を二つ宿したちび美鈴の姿がある。
マヨヒガでの一件後、二人の歓迎会を開く為にレミリア達は紅魔館へと帰ってきたという訳だ。
彼女達がここ、紅魔館に世話になる理由は勿論、彼女達がちび美鈴の親権を獲得したからなのだが、
どうやらレミリアはまだ母親の座を狙っているらしい。誇り高き吸血鬼は何事も簡単には諦めないのだ。

「なあ、レミリア。さっさと乾杯の音頭を取ってもらわないと折角のご馳走が冷めちまうぜ。
 母親になんかなれなくても、中国を抱きたければアリスに言って抱かせてもらえばいいじゃないか。
 別にアリスや私が母親になったからって触っちゃいけない、なんて訳でもないんだし」

「そ、そうよね!?美鈴は誰のものという訳でもないし、構わないわよね!?
 や、やはり赤子というものはみんなで力を合わせて協力し合って育むべきだと私は…」

「…おーい、レミリア。勝手に乾杯しちまうぞー?」

魔理沙の言葉にもレミリアはブツブツと何やら一人呟くばかりで反応すらしない。
どうしたものかと苦笑する魔理沙に、彼女の隣に座っていたフランはジュースの入ったグラスを片手に満面の笑みで立ち上がる。

「それじゃ、お姉様に代わって私がかんぱーい!!魔理沙もアリスも紅魔館へようこそー!!」

「「「「「乾杯っ!!!」」」」」

「…って、ああああっ!!?私の大切な役目がっ!!!?」

フランの言葉を皮切りに、妄想に耽り遅れてしまったレミリアを除く全員が乾杯の声をあげる。
家主の挨拶をぶち壊して場が進行してしまっているが、何ら驚く必要は無い。ここは紅魔館、悪魔の館。
常識の外に位置するこの館で想像だにしないことが起こるのは日常茶飯事なのだ。

「うう…何よ何よ、何だってのよ…
 私を一体誰だと思ってるのよ?私はレミリア・スカーレットよ?紅魔館の主なのよ?この館で一番偉いのよ?」

「一体何をそんなに凹んでいるんだお前は。
 ほら、何か食べたいものはあるか?私でよければ取ってやるから元気を出せ」

一人椅子の上で蹲り、イジイジと不貞腐れるレミリアに、慧音は優しく話しかける。
寺小屋で日々、小さな子供達に授業を行っている慧音にとって、このような子供の扱いはお手の物なのだ。レミリアは子供ではないが。

「…ところで慧音、先ほどからずっと気になっていたんだけど、貴女どうしてそんなボロボロな訳?」

レミリアの指摘通り、慧音の服装は彼方此方が焼け焦げ、ところどころに穴が開いて見るも無残な状態だった。
なんというか、普通に生活していては絶対にそのような状態にはならないだろうと断言出来るくらいである。

「ああ、これか…それが、自分でもよく分からないんだ。
 お前達が紅魔館を出て行った後、私もお前達を探す為に外に出てあちこちを飛び回ってたんだ。
 その際、何処からか突然レーザーのような光線が私に飛んできて…気付いたら地面に真っ逆さまという訳だ。
 何を言っているのか分からないと思うが、私も誰に何をされたのかよく分からないんだ…周囲に人などいなかったし…」

「何よそれ。狐か狸にでも化かされたんじゃないの?」

下らないと言わんばかりのレミリアに、慧音はそれこそまさかと笑って返す。
冗談で言ったレミリアだが、実はそれが限りなく正解に近いモノであることを彼女が知ることは無かった。
というか藍のスペルを直撃してケロリとしている慧音も慧音だと思う。

「…それにしても、帰ってきたと思えばまさか魔理沙とアリスが美鈴の母親役とはな。
 いくつか展開を予想していたのだが、流石にこれは予想外だったな」

席につき、魔理沙やフランと談笑しながらも
しっかりとちび美鈴をその腕に抱いたアリスを見て、慧音は楽しそうに口を開く。
それもその筈だ。行きは腕にちび美鈴を抱きしめてあれだけ興奮して出ていったレミリアが、
紅魔館に戻ってきた時には母親の座をまさかのダークホースに奪われていたのだ。慧音でなくとも、そんな言葉の一つも言いたくなるだろう。

「ふん…別に構わないわよ。一度自分の口で言った事を今更引っ込めたりするつもりはないわ。
 魔理沙やアリスが美鈴の母親であることに文句を言うつもりなんてサラサラないわよ。
 二人が母親に決まったのなら、私達はこの一週間、美鈴の養育を任された二人の手助けを努めるだけよ」

嘘である。誰が聞いても聞き紛うことなき大嘘である。
魔理沙がちび美鈴にママと呼ばれたとき、思いっきりノーカウントにしようとしてたのは他ならぬレミリアだったりした。
しかし、そんなことを知る由もない慧音は少し見直したといったような表情を浮かべている。何事も知らぬが華なのである。

「ねえ、パチュリー。貴女の図書館に育児関係の本ってあるかしら?
 基本的な事は紫に教えて貰ったんだけど、確認と復習の意味も込めてあるのなら読んでみたいのだけど…」

「勿論あるわよ。少しだけ待ってなさい」

アリスに尋ねられたパチュリーは口を小さく動かし、何やらアリスに聞こえない程度の音量で高速詠唱を始めだした。
そして、その術の最後を締めくくるようにパチュリーがようやく他者に聞こえるような声量で声を発した。

「紫魔女は」

「図書館が似合う人です~!…って、あ、あれ?パチュリー様?」

パチュリーの言葉に合わせて、ぽん、と間の抜けた音と共に現れた少女に、アリスは驚き目を丸めた。
その少女――小悪魔は何が起こったのか分からないといった表情を浮かべ、パチュリーに向けて首を小さく捻っていた。

「アリスが育児関係の本を探しているらしいから、図書館にある本の中から適当に見繕って頂戴」

「あ、成る程。突然お呼ばれしたから何事かと思いました。
 えっと…アリスさん、本の方はお急ぎですか?お急ぎでしたら今すぐ特急でいくつか探してお持ちしますが」

「えっと…そこまでは急いでないから大丈夫よ」

「分かりました~。それでは後ほどアリスさんのお部屋に本をお持ちしますね」

微笑みながらアリスに一礼し、小悪魔は再び、ぽん、と音を立ててその場から消失した。
ちなみに小悪魔を召還したパチュリーはと言うと、既に自分の役目は終わったと言わんばかりに
アリスの方から視線を外し、手元の本へと目を向けていた。ちなみに本のタイトルは
『紅美鈴写真集39~寝顔&パジャマ編~』である。そのタイトルをアリスは数分前に何も見なかったことにしている。

「ちょ、ちょっとパチュリー…今の、何?」

「何って小悪魔じゃない。貴女は週一回は訪れる図書館で見る娘の顔も忘れたのかしら」

「そ、そうじゃなくて!その小悪魔を召還する時に貴女が言った言葉よ!紫魔女はどうのこうのって…」

「使い魔の召還詠唱の言葉くらい何にしようと人の勝手でしょう。
 貴女だって人形を召還する時にリリカル・トカレフ・キルゼムオールとか言うんでしょ?それと同じだわ」

「言うかっ!!何よその物騒な呪文はっ!!」

ガーッと吼えるアリスだが、パチュリーは聞く耳持たずといった様子で相手にしていない。
そんなアリスに後ろから抱きつきながら、魔理沙が楽しそうに二人の間に割って入る。どうやら既に少々酔ってるらしい。

「何だお前等、仲良いなっ!少し妬けちゃうぜ!私も混ぜてくれよっ!」

「きゃあっ!!ま、魔理沙っ!?いきなり抱きつかないでよ!?」

「あ、魔理沙ずるーい!!だったら私もっ!!パチュリ~!!」

「むきゅっ」

その光景に対抗するように、フランもパチュリーの背中へとダイブする。
ちなみに最後の悲鳴にもならない声は勿論パチュリーのもので、フランの突撃に耐えられなかった彼女は
見事に顔面を机に押し付けられる形となってしまった。その光景にアリスの腕の中で美鈴はきゃっきゃと喜ぶばかりである。
ちなみに少し離れたところで、紅魔館の主様は。

「何よ…何よ、私ばかり除け者にしてみんなで楽しんじゃって…」

一人見事に不貞腐れていた。どうやら先ほどよりも不貞腐れ度は更にグレードアップしているらしい。
それを隣で見ながら慧音は『本当に駄目駄目だな』とか思ってたりした。
そんなレミリアを励ますように、彼女の後ろに仕えていた咲夜が優しくレミリアを抱きしめる。

「大丈夫です。お嬢様には私がついていますから」

「咲夜…美鈴がいない今、私にこうやって優しくしてくれるのは貴女だけだわ。
 貴女だけは裏切らない…夢は時間を裏切らないし、時間も夢を決して裏切らないように、時間は運命を裏切らないのね」

「ちなみにさっきお前の妹が乾杯の音頭を取ったとき、その咲夜も思いっきり『乾杯』って言ってたからな」

二人の会話に突っ込みを入れながら、慧音は一人思う。これからの一週間は、本当に忙しくなりそうだと。
『何事も無く平穏に過ぎてくれれば』なんて、この場所で願うのはどう考えても間違いだろうなと苦笑しながら。

















「これで大丈夫かしら…」

「ん。大丈夫だろう。授乳後には常にげっぷさせることを忘れないようにな」

二人の歓迎パーティーを終え、アリスはレミリアから与えられた部屋で、美鈴にミルクを与えていた。
初めての事なので四苦八苦しているが、それを慧音がサポートする形で色々とアドバイスを送っている。
ちなみに何故慧音が育児の彼是を教えられるのかと言うと、単に人里で赤子の面倒を見たりした経験があったからである。

「けふっ」

「あ…ね、ねえ慧音、今見た?この娘、ちゃんと出来たわよ?」

「まあ、げっぷさせるように促したんだから出来てもらわないと困るが…
 それにしても、お前、何だか自分のことのように喜ぶんだな。見ているこっちまで喜びが伝わってくる」

「え…あ…」

顔を真っ赤にするアリスに、慧音は楽しそうに笑う。
慧音はアリスとあまり会話したことが無かった為、勝手にクールで冷静な女性だと思い込んでいたがなかなかどうして。
どうやら彼女も妹紅と同じ、自分を表現するのが不器用なタイプのようだ。そんな事を慧音は考えていた。
手付きはぎこちないながらも、美鈴をあやすアリスを眺めていた慧音だが、ふと廊下からドタドタと足音が近づいてくるのを感じた。
その音はどんどんこちらに向かってきて、部屋の前で止んだと思えば思いっきり勢い良く扉が開かれた。
足音の正体、扉を開けた人物。そんなモノは考えるまでも無い。

「アリスー!今から風呂入りにいこうぜ!
 咲夜が紅魔館の大浴場を使って良いって言ってくれたからな。いやあ、実はあれ一度入ってみたかったんだよな」

爛々と目を子供のように輝かせて笑顔を浮かべる魔理沙に、アリスは呆れ、慧音は苦笑する。
いつまでも子供心を忘れない黒白魔女は、どうやら育児を完全にアリスに任せることにしたらしい。らしいと言えばらしいのだが。

「ちょっと魔理沙、大体この娘にママって呼ばれたのは貴女でしょ。
 貴女も少しは慧音から育児の事を学んだりしなさいよ」

「ん?別に必要ないだろ。だってお前、マヨヒガから今までずっと中国の事手放そうとしないじゃん。
 何だかお前を見てるうちに、私もサポート側に回った方がいいんじゃないかって思ってな。
 という訳でアリス、中国の母親はお前だぜ。胸を張って育児をしてくれ。私はお前が困った時に手を貸すからな」

「なんて勝手な…まあ、貴女らしいと言えば貴女らしいけど」

「だがまあ、正論だな。下手に赤子を二人で共有しあうよりも、役割は分担させた方が分かりやすい。
 言わば夫婦だな。それに当てはめれば魔理沙が父親、アリスが母親と言ったところか」

「んなっ!!?けけけ、慧音っ!!貴女まで何を言ってるのよ!!!?」

慌てふためくアリスに、『それより早く風呂に行こうぜ』と魔理沙は急かす。
どうやら彼女の頭の中は紅魔館の大浴場の事でいっぱいらしい。ちび美鈴の頬をぷにぷにと指で突きながらアリスに訴えている。
それを見て、アリスは何だか一人恥ずかしがってる自分が馬鹿らしく思えてきたのか、小さく溜息をついて『馬鹿魔理沙』とだけ呟いた。

「仕方ないわね…慧音、美鈴にお風呂は…」

「問題ない。火傷したり洗浄剤が目に入ったりしないように気をつけてやれ。
 ただ、心許ないのならば私も一緒に入るが…どうする?」

「そうね…お願いするわ。
 お風呂の入れ方を貴女からちゃんと学べば、明日からは私一人で入浴させてあげられるから」

アリスの言葉に、慧音は『そうか』と頷き、入浴の準備をする為に一度アリスの部屋から出て行った。
対して魔理沙は既に準備万端で手には自分の分とアリスの分の着替えの入った袋を手にしていた。
ちなみにどうして魔理沙がアリスの分の着替えを準備出来たのか、などと聞いてはいけない。
二人の関係は恋人同士。それだけで説明は不要なのだ。というか、説明したら削除される。確実に。

やがて、準備を終えた慧音が部屋に戻って来、三人(正確にはちび美鈴を含めて四人)は紅魔館の大浴場へと向かった。
大浴場に辿り着き、三人は衣類を脱いでゆく。
ちなみにこれはあくまで入浴の為であり、えっちだとかねちょだとかそういうのとは全然関係ない。
魔理沙はサッと衣服を脱ぎ、我一番と風呂の方へと駆け出していった。その光景に呆れつつも、
アリスは先にちび美鈴の服を脱がし、次に自分の衣服に手をかけ…その手が止まった。
彼女の視線の先、そこには下着姿になっている慧音の姿があった。
慧音もまたその下着に手をかけようとした時、アリスの視線に気付き、訝しげな表情を浮かべて口を開く。

「…何だ、さっきから私の方をじっと見て。
 そんな風にマジマジと見られても恥ずかしいんだが…私の身体に何かついてるか?」

「いえ、別に…ついてると言えばついてるけど。
 世の中の理不尽さと不平等さを改めて思い知らされただけだから気にしないで」

「?よく分からんが…とりあえず、先に行ってるぞ」

首をかしげながらも、慧音は下着を脱ぎ、浴室の方へと消えていった。
ちなみにアリスは某メイド長程他人を羨む必要は無い程度にはある。何がとは言わない。何がとは言えない。
衣類を脱ぎ終え、ちび美鈴を抱いてアリスもまた浴室へと足を踏み入れる。
そこには洋風の大きな浴室が広がっており、それこそ三十人は軽く入れるのではないかという大きさの浴槽が備えられていた。
ちなみに魔理沙は既に浴槽内に浸かり…否、泳いでおり、それを慧音にマナー違反だと説教されていたりする。
アリスはその光景を何も見なかったとスルーし、己の身体とちび美鈴の身体をシャワーで流して、浴槽へと浸かった。

「…たまにはこういうお風呂も悪くないわね。ウチではこんなに足を伸ばしたり出来ないものね」

「そうだな。私も初めてここに来た時は常々そう思っていたものだ。
 ただ、ここにばかり入ってると元の生活に戻った時の反動が怖いな。もう普通の浴槽では満足出来なくなってしまいそうだ」

「そうね。こういうお風呂は時々入るからこそ、良いんだと思うわ。
 …よしよし、良い子ね。お風呂でも暴れたりしないのね、美鈴は」

湯船に浸かり、『あーうー』と口ずさむ美鈴にアリスは微笑みながら頭を撫でる。
どうやらお風呂に対して暴れたり抵抗したりといった素振りはちび美鈴からは見られないようだ。

「ふむ…戻って来た時から思っていたのだが、どうやら美鈴は大人しい赤子のようだな。
 それが良いか悪いかは置いておくにしても、普通ならもう少し色々反応があってもおかしくないんだがな」

「…つまりどういうこと?」

「ん。赤子の状態を知るのに一番早いのは泣き声を聞くことだ。
 泣くということは赤子にとっては母親へのサイン。それが赤子のコミュニケーション法の一つだからな。
 だが、美鈴は空腹時と排泄時以外に泣いてるところを見たことがない。
 つまり、自分の状態を母親に伝える回数が極端に少ないんだ。抱いて欲しい時、その程度でも普通は泣いたりするんだが…」

「つまり、この娘の状態には私の方が常に気を使ってあげる必要がある訳ね」

「そういう事だ。しかし、この調子だと、もしかしたら夜泣きすらしないかもしれんな。
 それは育児する側にとっては楽かもしれんが…良いか悪いかは判断が難しいところだな」

軽く苦笑しながら、慧音は浴槽から上がり、シャワーの方へとアリスを促した。
慧音の意図に気付いたアリスは、ちび美鈴を抱いて、慧音と並ぶようにシャワーの設置された場所へ腰を下ろす。
そして、慧音の指示に従いながら、ちび美鈴の身体を優しく洗ってゆく。
美鈴の身体を洗い終えた後、美鈴を慧音に渡してアリスは己の身体も洗い始める。
既に自分の身体や髪を洗い終えていた慧音は、美鈴を腕に抱いて湯船へと戻っていく。
ちなみに慧音と入れ替わるように湯船から上がった魔理沙は、アリスが髪を洗ってるのを良いことに、
後ろからセクハラ紛いのちょっかいを掛けてはアリスに怒鳴られている。それを見ながら、慧音は呆れるように笑う。

「全く…ああいう下らないコトをしたがるのは、この館の連中に限らないんだな。…ん?」

カシャ。小さくそんな音が何処からか聞こえた為、慧音は何の音かと小さく首を傾げる。
その音は止まらない。カシャ、カシャ、カシャ、と続けて浴室に響くその音の元を探す為、慧音は浴室を軽く見渡した。
別に何もおかしなところはない。浴室にいるのは、髪を洗っているアリス、
身体を洗いながらアリスの邪魔をしている魔理沙、慧音に向かってカメラを構えたパチュリー…

「…って、ちょっと待てええええええ!!!!!!!!!お前は堂々と一体何をやっとるんだああああ!!!」

慧音が声を荒げた先には紅魔館の魔女ことパチュリー・ノーレッジがカメラを構えて
入浴している慧音の方をカシャカシャと撮影していた。勿論被写体は慧音ではなくちび美鈴の方なのだが。
慧音の声に驚き、アリスと魔理沙もパチュリーの方へと視線を向け、言葉を失してしまう。
それも当然だ。何処の誰がこんな堂々と他人の入浴姿を写真に収めようなどと考えるだろうか。
ちなみにパチュリーさん、服を着たまま堂々の浴室入場である。

「何って…貴女はこれが入浴しているように見える?
 私はただ普通に写真を撮ってるだけよ。私の事は気にしないでそのまま入浴を続けて頂戴」

「馬鹿かお前は!!盗撮されてると分かっていながら何処の誰が平然と風呂に入れるんだ!!
 人の裸を写真に撮るなんて常識外れとか最早そういうレベルじゃないだろうが!!」

「何を言ってるのかしら。私が撮りたいのは美鈴の入浴シーンだけよ。
 貴女の裸なんて一ミクロンたりとも興味ないから安心しなさい」

「そういう問題じゃない!!つーかさっさと風呂から出て行けこのド変態がっ!!」

カシャ。カシャ。カシャ。ぱっちぇさん、慧音の話を完全にスルー。
相も変わらずちび美鈴の入浴シーンをカメラに収め続けるパチュリーに、慧音は完全にブチキレモード。
ガーッと怒鳴りたてる慧音とそれをスルーするパチュリー。その光景を見ながら、アリスは困惑しつつも口を開く。

「…ねえ、魔理沙。
 パチュリーってあんなキャラだったかしら…なんだか私の持っていたイメージと全然違うんだけど…」

「んあ?パチュリーの奴ならあんなもんだろ。中国が絡むと紅魔館の連中は大体あんな感じだしなあ。
 というかこんな事で驚いてちゃ、レミリアや咲夜の本性を見たときに身体が持たないぜ?
 まあ、慣れてしまえばそっちの方が逆に面白くはあるんだけどな」

「な、何よ。変なこと言わないでよ…とにかく、私も浴槽に…」

身体をシャワーで洗い流し、再び浴槽の方へと戻ろうとしたアリスだが、
突如、この浴室へと続く扉が開かれ、そちらの方へ視線を向ける。そこには新たに二人の侵入者の姿が。

「あら?慧音にアリス、それに魔理沙じゃない。それにパチェも。偶然ね。
 もっと感情を込めて言い直すなら『な…ッ なんという…ッッ 偶然!!!』といったところかしら?」

「全くです、お嬢様。思わず酒場でアードベックでも酌み交わしたくなるような偶然ですわ」

勿論その二人が誰か等と今更問うまでも無い。
紅魔館のだだ漏れカリスマ君主ことレミリアとその従者、咲夜である。
パチュリーとは違い、こちらはちゃんと二人とも衣服を脱いで一糸纏わぬ姿である。
二人の登場に、慧音は再び唖然とした後、何とか意識を取り戻して二人に問いかける。

「何でお前達までここに居るんだ…」

「何故、と言われても困るわね。お風呂に何しに来たかなんてそれこそ下らない質問だわ。
 ただ、私達の入浴時間が貴女達の入浴時間と『偶然』重なった…ただそれだけの事。そうよね、咲夜?」

「その通りです。お嬢様が『たまたま』お風呂に入りたいと考えた時間が
 『偶然』貴女達と重なっただけです。本当、『奇遇』ですわ」

嘘だ。絶対嘘だ。慧音は心から強くそう思った。ちなみに魔理沙も思った。アリスですら思った。
この二人の目的は十中八九ちび美鈴とのお風呂である。別にそれは構わない。構わないのだが…

「…そもそもレミリア、お前は確か普通の風呂じゃ拙いんじゃないのか?
 以前、自分で私に言ってたじゃないか。
 『吸血鬼は流水が駄目だから、私とフランは流水を使わない専用の浴室が別に存在している』って」

「「……………………………………………………………………あ」」

慧音の言葉に、レミリアと咲夜はポンと掌を叩く。そして――

「し、しまったあああああああ!!!?
 わ、私の完璧な『何て偶然!美鈴とお風呂でキャッキャ☆うふふ大作戦』が!!あああ…」

「お、お嬢様っ!?お気を確かにっ!!」

ふらふらとその場に倒れるレミリアに、慧音は呆れながら思った。『コイツ、本物の馬鹿だ』と。
というか何故に従者である咲夜すらその事に気付かないのか。
どうやら美鈴の事になると頭のネジがニ、三十本は平気で飛ぶ思考回路は未だ健在らしい。
小さく溜息をつきながら、慧音は浴槽に戻ってきたアリスにちび美鈴を渡した。
なんていうか、このスカーレット・デビルの凹んだ姿を見てると本当に可哀想になってくる。
今の慧音の心の中には慈愛とはまた違う別の感情が確実に芽生えていた。主に憐憫とか。

「…ないわ」

ポツリと小さく何かを呟くレミリアに、慧音は思いっきり嫌な予感が走った。
紅魔館に居候して数週間。このお嬢様がこんな状態になったとき、本当に碌な事があった試しがないのだ。
その慧音の予想は見事に的中したらしく、レミリアはその場にガバっと立ち上がり、拳を握り締めて声を荒げた。

「諦めないわ!!私はレミリア!レミリア・スカーレット!
 誇り高き吸血鬼にして運命と紅い月の寵愛を受けしスカーレット・デビルと人々に謳われる存在なのよ!?
 その私が、たかが流水如きに屈して美鈴とお風呂に入れないなんてそんなの絶対嫌よ!!」

「いや、存在なのよと言われてもな…流水なんて浴びたらお前、痛みが走るって言ってたじゃないか…」

「構わないわッッ!!」

「いや構わないって…普通に構うだろ。別にこんなつまらない事で無理などしなくとも…」

「構わないわッッ!!」

「いや、だから…」

「私は一向に構わないわッッ!!!!」

凛然と言い放つレミリアに、慧音は小さく首を振った。もう何を言っても無駄だろうな、と。
どうやら彼女にとってこれはどうしても譲れない事らしい。その何処までも怯まぬ姿には美しさすら感じるのだが…
本当、どうしてこうやっていつもいつも無駄なところでカリスマを見せるのだろうか。慧音は溜息をついてレミリアの方を見つめていた。
ちなみにそのレミリアはというと、シャワーを浴びている魔理沙の隣に座り、魔理沙に指示を送っていた。

「魔理沙。今からその手に持っているシャワーで私の身体を流しなさい」

「お、お嬢様っ!!!危険です!!そんな事をしてしまえば、お嬢様の身体も…」

案ずる咲夜に、レミリアは小さく微笑み首を横に振って応える。心配は不要だと。
そして、レミリアはキッと慧音の方を睨みつけて、毅然とした表情で言い放った。

「慧音、貴女は……貴女は私の美鈴への愛を舐めたッッ!!!!」

「いやそんなつもりは微塵も無いというか、そもそもお前は一体何がしたいんだ…」

「?よく分からんが、本当に良いんだな?後で文句言われても困るぜ?」

「構わないと言ってるでしょう!!さあ遠慮なく私の身体を流しなさい!」

一人暴走するレミリアを他所に、慧音とアリスは互いに目配せして意思疎通を図る。
そして互いの考えが一致したのか、二人はレミリア達に気付かれないように浴槽から上がり、浴室を後にした。
二人が浴室の扉をそっと締めたその刹那、浴室からレミリアの断末魔と呼ぶに相応しい悲鳴が響いてきたのだが、
その声を二人は何も聴こえなかった振りをしてスルーした。どうやら相変わらず彼女のカリスマは大絶賛だだ漏れ中らしい。

















アリス達が紅魔館に来て二日目。
朝食を取り終えたアリスは、部屋に戻り読書に没頭していた。その本は昨日の夜、小悪魔に渡された育児書の数々である。
ちび美鈴は現在、ベビーベッドの上で寝転がり、ボーっと虚空を眺めていたりする。レミリア達の姿は傍に無い。
ちなみにその理由は、この時間、慧音は人里の方に、レミリアとフランは睡眠中、咲夜は仕事中だからである。
残るパチュリーはというと、どうやら昨日撮った写真の現像に忙しいらしい。
また、魔理沙は朝食も取らずに、早朝から何処かに外出したらしい。よって現在、ちび美鈴の傍に居るのはアリスだけなのだ。
彼女は手に取った育児書を恐るべき速度で読破していく。無論、一字一句飛ばすことなく完読して、だ。
パチュリー程ではないが、アリスの速読能力も常人とは明らかに線を逸している。
本を読み、理解するということは魔法使いにとって基本スキルであり、必須スキルだ。
そして彼女クラスの魔法使いなればこそ、そのような芸当を可能にしているとも言えよう。

「おーい!アリスー!悪いがちょっと扉を開けてくれー!両手が塞がってるから自分じゃ開けられないんだ」

本日六冊目の本を読み終え、次の本に手をかけようとしたアリスだが、
廊下から外出していた筈の魔理沙の声が聞こえ、軽く息をついて扉の方へと向かう。
そしてドアノブを捻り、扉を開けたところで、アリスは思わず目を丸くしてしまう。
扉の向こうから現れた魔理沙は、両手で持っても余るほどの大袋を抱えていたからだ。

「…何、その大袋」

「これか?へへっ、まあ中身は見てのお楽しみ…ってね」

言葉を失うアリスを他所に、魔理沙は袋を抱えたままでズカズカと部屋の中へ入っていく。
そして袋を地面に下ろし、ゴソゴソと中を漁って魔理沙は次々に中に入ってるモノを取り出していく。
それは子供向けの玩具やら用具やら、おしゃぶりといった育児用品まで多種多様なアイテムだ。

「どうだ?これだけあれば、中国の育児にも困ることはないんじゃないか?」

「そ、そうね…凄く助かるんだけれど…
 もしかして魔理沙、朝食も取らずに何処かに出かけたのはこれらを揃える為だったの?」

「ん、まあ…一週間とはいえ、一応私も中国の親だからな。少しくらいは親らしいところを見せないと格好悪いぜ」

たはは、と照れくさそうに笑う魔理沙に、アリスはつられるように微笑んだ。
破天荒で無神経…そんな風に見えてその実、本当は心優しい少女。それが彼女、霧雨魔理沙。
照れているのを誤魔化すように、魔理沙は袋から取り出した玩具の一つを持ってちび美鈴の元へと駆け寄った。

「ほーら、中国。これなんか面白そうだぜ?」

魔理沙は手に持った玩具を左右に振り、ぽんぽこと間の抜けた音を室内に響かせる。
彼女が手にした玩具は所謂『でんでん太鼓』と呼ばれるモノで、
ちび美鈴は魔理沙が太鼓を鳴らす光景をじっと見つめているものの、大した反応はしなかった。

「ありゃ…中国はこれじゃ満足してくれないか。ったく、普段とは違って我侭なお姫様だな。
 それじゃこれならどうだ。必殺!マスターでんでんスパークだぜっ!!」

その言葉に合わせ、魔理沙はでんでん太鼓を振るスピードを加速させる。
最早ドラム音と言っても過言ではない程のビートを刻み始めたが、相も変わらずちび美鈴は一向に反応しない。
その光景に、アリスは微笑ましく眺めながらも、魔理沙が床に並べた育児用品を一つ一つ確認して袋に戻していく。
そして、その中の一つを片付けようとした時、アリスの手がふと止まった。
アリスの視線の先に置かれていたモノは古ぼけた人形。恐らく赤子に持たせて遊ばせる玩具の一つだろう。
それを手に取り、アリスはちび美鈴の方に視線を向ける。そして、再び視線を人形へ。

「…喜んでくれるかしら」

何か良いアイディアでも思いついた様子で、アリスはその人形をぎゅっと握り締める。
そんなアリスの思考を他所に、ちび美鈴は魔理沙の方をじっと見つめたまま微動だにしない。赤子特有の純粋な視線で魔理沙を捕えたままだ。
そして対する魔理沙はと言うと、そろそろファイナルでんでんスパークにでも移行しそうな勢いで太鼓を鳴らしていた。
ちなみに魔理沙がこの育児用品を何処の店から持ってきたのか、というコトに関する詳細は今更なので省略する。
















「ほらー!めーりん高い高ーい!!」

「ちょ、ちょっとフラン!!そんな危ない真似は控えなさいと何度も言ってるでしょう!
 もしも手が滑ったりして美鈴が地面に落ちるような事があったら…あああ!!か、考えただけで恐ろしいわ!!」

昼下がりの紅魔館、その一室。
ちび美鈴を抱いて室内を飛び回るフランに、レミリアはヒィィと悲鳴をあげながら必死に制止の声を上げていた。
美鈴が小さくなって今日で三日目。紅魔館でのこのような光景は目新しいものではなくなっていた。
フランがアリスにお願いして美鈴の世話を買って出ては、紅魔館中を所狭しとちび美鈴を抱いて飛び回っているのだ。
どうやらフランにとって、ちび美鈴は妹か何かが出来たようで嬉しいらしい。ちび美鈴と共にきゃっきゃと笑いながら毎日遊びまわっているのだ。

「別にそんなに心配しなくても、フランは中国を落としたりなんかしないだろ」

不安に駆られているレミリアに、魔理沙は咲夜から出された菓子を食べながら適当に言い放つ。
そんな魔理沙の言葉に、レミリアはキッと視線を彼女の方に向ける。というか、睨みつけてる。

「いいえ、世の中は何が起こるか分からないわ!
 そんな平和ボケして思考停止していては咄嗟の出来事に対応なんて絶対に出来ないわ!
 常に最悪なケースを考えていないと駄目なのよ!例えるなら霊夢!
 あんな風に『何も起こらなきゃ巫女の仕事サボれるのに』なんて考えてるから異変に巻き込まれたりするのよ!
 紅霧に包まれたり春が奪われたり夜が長くなったり…世の中は何が起こってもおかしくないのよ!?」

「その相変わらずぶっ飛んだ理論はよく分からんが、とりあえず紅霧異変に関してはお前のせいだろと言っておくぜ」

「ああああ!!フラン、お願いだからちゃんと両腕で美鈴を抱いて頂戴!!」

「聞けよ人の話を」

魔理沙の言葉を右から左に聞き流し、レミリアはあわあわと必死にフランを嗜める。
呆れるようにその光景を眺めながら、魔理沙は紅茶を啜る。
今日のはいつもより飲みやすいな、とどうでもいい事を考えながら。

「そういえばアリスはどうしたの?まだ今日は顔を見ていないけど」

「ん~…何か手が離せないとか言って部屋に篭もってたな。何か中国の為にやってるんじゃないか。
 まあ、そのうち出てくるだろ。今のアイツが中国の傍をそんなに長い間離れられるとは思えん」

「あら、それなら私だって同じよ。私だって美鈴の傍を一秒たりとも離れることなんて我慢ならないわ。
 私の生活は最早美鈴と共に在り、何時の日か美鈴と一つに溶け混ざり合って補完されかねない勢いだもの」

「咲夜~、紅茶のお代わり頼むぜ」

「聞きなさいよ人の話を!!」

中身の無くなったカップをぶらぶらさせて咲夜に頼む魔理沙。そしてそんな彼女に激昂するレミリア。
どうやらこの二人は互いの話をサラサラ聞くつもりなんてないらしい。本当に難儀な二人である。
紅茶のお代わりをトレイに乗せて運び、魔理沙の前に置きながら今まで口を閉じていた咲夜は初めて言葉を紡ぐ。

「アリスが美鈴の世話をしている以上、私達は本当に何もすることがないわね。
 この三日間でアリス、育児に関してはほぼ完璧にマスターしちゃってるじゃない」

「まあ、当然と言えば当然だろうな。
 今のアイツは時間があれば育児書読むか、慧音に分からないことを聞いたりしてるからな。
 何ていうか、本当に中国の為だけに行動してる感じだぜ」

「でしょうね…でも、正直なところ驚いてるのよね。そして未だによく分からない。
 アリスは美鈴と面識がそれほどあった訳ではないでしょう?ましてや好意を持っていた訳でも仲が良かった訳でもない。
 それなのに何故、小さくなった美鈴にあんなにも尽くせるのかしら」

咲夜の疑問は当然のものだ。アリスにとってちび美鈴は本当に何の関係も無い赤子なのだ。
例えば親役がレミリアや咲夜だったなら、話は通じる。二人は美鈴と共に紅魔館で過ごしているし、
何より美鈴への愛情が常軌を逸している程に凄まじい。それは最早変態を通り越えて芸術の域であるほどに。
しかし、アリスと美鈴ではそうはいかない。二人はアリスが図書館に本を借りに来たときに会釈を交わす程度の仲で、
その仲はお世辞にも親密とは言えない。それなのに、アリスは自ら美鈴の親権を買って出たのだ。
そして、彼女は行動でちび美鈴に愛情をしっかり示している。その愛情は何処から来るものなのか、常々咲夜は疑問だった。
それはレミリアも同じだったのか、少し眉を顰めて腕を組む。そんな二人に魔理沙は軽く笑って言ってのける。

「理由なんか無いんじゃないかと私は思うぜ。
 敢えて無理矢理にでも理由をつけるなら、中国が可愛かったから、でいいんじゃないか?」

「貴女ね…自分がそうだからって他人の思考回路もそんなに短絡だと決め付けてない?」

「いやいや、実はアリスって意外と私よりも簡単な奴なんだぜ?
 アイツは一度熱中したものにはトコトン嵌まり込むタイプだからな。熱し難く冷め難い典型だし。
 あと何だかんだ言って意外と世話好きだからなあ。放っておけなかったってのもあるんじゃないか?」

まあ、本当のところは分からんが、と付け加えて魔理沙は再び紅茶に手を伸ばした。
よく分からないとばかりにレミリアと咲夜は互いに視線を重ね、首を傾げるだけだった。
けれど、何か感じるところがあったのか、今まで黙っていたパチュリーが本から顔を上げてゆっくり口を開いた。

「相性の問題もあるかもしれないわね」

「…相性?パチェ、どういうこと?」

「この幻想郷において、誰が一番美鈴に近しい存在かと問われれば私なら迷わずアリスを押すわ。
 七色と虹…もしかしたら、二人は知らない間に惹かれあってるのかもしれないわね」

パチュリーの言葉に、レミリアはカップに伸ばそうとしていた手を止めた。
そして、今までとは違った真剣な表情を浮かべて、何か考える仕草を見せる。
魔理沙もまた、紅茶を啜ろうとした手を止め、レミリアの方に視線を送る。彼女の真剣な表情を見るのは本当に久しぶりのことだったからだ。

「恐らく問題は無いでしょうね。少なくともレミィの考えてるような事態にはならないと私は思うわ。
 もし何か起こるようであれば八雲の管理者が既に警告か何かを私達に与えている筈でしょう」

「…そう、それならいいけど。もう私は嫌よ、美鈴に紅魔館の門や館壁をボロボロに壊されるのは」

「嫌も何も、それらを修理したのは常に私だったような気がするけど」

「パチェに余計な労苦を掛けたくないという親友の心遣いよ」

何のことを話しているのか分からないという表情を浮かべている魔理沙の視線に気付き、
レミリアは小さく笑って『ただの昔話よ』と、何でもないように返した。その発言に魔理沙は更に首を傾げるしかなかった。

「とにかく、アリスが何も問題ないならそれで構わないわ。
 今日を含めて残る五日間、美鈴の世話を責任持ってみてもらうだけよ」

「そうね。魔理沙ならともかく、アリスなら何の問題もないでしょう。
 残る五日間、しっかりと美鈴のベストショットを集めさせてもらうだけよ」

「魔理沙ならともかく…ってのはちょっと酷い扱いだな、おい」

「実際問題、貴女はアリスに美鈴の世話を任せっぱなしじゃないの」

「それは心外だぜ咲夜。私はただアリスに母親役を譲ってるだけだからな」

下らない論争を始める魔理沙、レミリア、咲夜の三人を他所に、パチュリーは再び本へと視線を落とした。
ちなみにフランはちび美鈴を移動式ベビーベッドの上に乗せて部屋中を疾走している最中だ。
そんな喧騒に包まれた室内に割り込むかのように、廊下へと続く扉が開かれ、そこからアリスが姿を見せる。

「よおアリス。朝飯や昼飯にも顔出さないと思ったらようやくお出ましか」

「ええ、ごめんなさい。美鈴の事で迷惑をかけちゃったわね」

「いや、別に構わないぜ。それにフランやレミリア、咲夜だって楽しそうに中国の面倒見てたしな。
 それよりも、部屋に篭もって一体何をしてたんだ?」

「えっと…」

魔理沙の疑問に、アリスは言葉を濁して答えようとしない。
そんなたどたどしい彼女の態度に、更に首を傾げる魔理沙だが、ふとアリスの右手に握られているモノの存在に気付く。
それは魔理沙がアリスの家に遊びに行った時に、彼女の部屋内でよく見かけるような可愛らしい少女人形。
ただ、彼女がいつも大事にしている人形達とは違い、その人形は魔理沙の見る限り初めて見るタイプのモノだ。
大きさはいつもと変わらぬ二十センチ程度だが、人形の容姿は西洋風ではなく明らかに改変を加えられている。
紅の髪に龍の字が刺繍された帽子、大きくスリットの入った華服。そう、それはまるで何処かで見た事があるような…それこそつい最近まで。

「…あ。もしかしてその手に持ってる人形は中国か?」

「え…ち、違っ!」

人形の存在に気付かれ、慌てて自分の背後に隠そうとするがもう遅い。
その形をしっかり目に焼き付けた魔理沙は、ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべてアリスの方を見つめていた。

「で、朝飯も昼飯も食わずにそれを作ってた訳か。
 何だ。そこの中国だけじゃ物足りないから二人目まで子供を作ったのか。いやあ、まさにアリス大家族だぜ」

「馬鹿!そんな訳ないでしょ!これは美鈴に渡したら喜んでくれるかなと思って…」

「ああ、そういう事か。ちょっと待ってろ…おーいフラン!ちょっとこっちに中国連れてきてくれー!」

顔を赤らめてツンケンと話すアリスに苦笑しながら、魔理沙は室内を駆け回ってるフランを呼び止める。
魔理沙の呼びかけに気付いたフランは、爆走していた移動式ベビーベッドを魔理沙達の方向へ向け直し、
スピードを緩めることなく魔理沙達の元へと突撃する。無論、二人の前ではちゃんとストップしたのだが。

「アリス!私ちゃんとめーりんの面倒見てたよ!ミルクも私があげたんだよ!
 作ったのは咲夜だけど、ミルクをあげたのは私なんだから!」

「本当?ありがとう、フラン。今日は貴女のおかげで本当に助かったわ」

「えへへっ」

アリスに頭を優しく撫でられ、フランは無垢な微笑を浮かべる。
そんな二人を魔理沙とレミリアは互いに首を傾げて眺めていた。『この二人、こんなに仲が良かったか?』という疑問だ。
前述した通り、美鈴が小さくなり、アリスがこの館に来てからというもの、
フランはアリスが忙しかったり手が離せないときにちび美鈴の世話を何度も買って出ていたのだ。
その為か、ちび美鈴を通じて、アリスとフランは以前とは比べ物にならないくらい距離が近づいていた。
また、フランの持ち前の人見知りしない性格がどんどんアリスとの壁を壊していったという理由もあるのだが。
フランから手を離し、アリスはベッドに寝転んだちび美鈴へと視線を移すが、人形を渡そうとはしない。
何故か躊躇っているアリスに、魔理沙は感じた疑問をそのまま口にする。

「なあ、その人形を中国に渡すんじゃなかったのか?」

「えっと…そうなんだけど、まだ心の準備が」

「心の準備?ただ中国にその人形を渡すだけだろ?」

「で、でも…」

アリスは『笑わないでよ』と魔理沙に念押しして、躊躇している理由を説明し始める。
それは昨日の魔理沙とちび美鈴との光景に遡る。魔理沙が持ってきた玩具に対し、ちび美鈴はあまり芳しい反応を示していなかった事。
それを見たから、アリスは今になって不安を感じてしまったのだ。もしかしたら、この人形を渡してもあまり喜んでくれないのではないかと。
昨日、人形を作ってあげようと考えた時は良いアイディアとばかりに張り切り、
勢いそのままに人形制作に取り掛かったものの、結局これをちび美鈴が喜んでくれるという保障はないのだ。
全てを話し終えたとき、魔理沙は堪え切れなかったのか、アリスに向かって腹を抱えて爆笑する。

「わ、笑うなって言ったでしょ!!馬鹿魔理沙!!」

「わ、悪い悪い!いやあ、アリスって本当に可愛いよな。
 都会派だとか大人ぶったりクールぶったりするくせに、中身はこんな乙女チックなんだからなあ」

「うっさい!!いいから早くそのムカつく表情を止めなさいよ!!」

キーッと掴みかかろうとするアリスに、魔理沙はまあまあと両手を小さく上げて降参の意を取る。
そしてアリスの後ろに回りこみ、優しく背中を押した。戸惑うアリスに、魔理沙は楽しそうに笑って告げる。

「自信を持てよ。それはお前が一日かけて中国の為に作ったモノなんだろ?
 他の誰でもなく、中国の母親代わりであるお前が心を込めて作ったモノだろ。きっと中国は喜んでくれるさ」

「魔理沙…」

さあ、と笑って親指を立てる魔理沙に、アリスは表情を崩し、微笑んで小さく頷いた。
そして、視線を再びちび美鈴の方へと向ける。ちび美鈴はなおも変わることなくアリスの方をじっと見つめていた。
ちび美鈴に優しく微笑み、アリスは手に持っていた人形をそっとちび美鈴の隣に並べる。
突如、自分の隣に置かれたその人形をちび美鈴は円らな瞳で見つめた後、そっと手を人形に乗せる。
手に触れた人形をその小さな手に掴み、自分の元へと引き寄せる。
そしてその人形と見つめ合ったかと思った瞬間――ちび美鈴に笑顔が零れた。

「あ…」

「めーりん、笑ってるよ!」

人形を抱きしめ、きゃっきゃと楽しそうにはしゃぐちび美鈴を見て、フランもまた楽しそうに声を上げる。
その光景に、アリスは今までの緊張の糸が解けたかのように大きく息をついた。
そして、そんなアリスを茶化すように魔理沙は笑って声を書ける。

「な?言った通りだろ?」

「ええ…喜んでくれて本当に良かった…」

アリスは安堵したように微笑を浮かべ、ベッドに寝転がっていたちび美鈴を優しく抱き上げる。
人形をその手に抱いたままアリスに抱かれるちび美鈴。勿論、その表情は笑顔のままだ。
だが、それ以上にアリスの表情は誰よりも幸せに満ち溢れていて。それはまさしく誰よりも母親の表情で。
その光景を少し離れた場所で見つめていたレミリアは、小さく苦笑を浮かべて口を開く。

「…残念だけど、美鈴の母親はあの娘で本当に決まりみたいね」

「あら、まだレミィは諦めてなかったの?
 二人の歓迎会では一度口にしたことは云々言ってたような気がするけれど」

「隙あらば…そう考えてはいたんだけどね。
 というかパチェ、貴女あの時私を思いっきり無視してたわよね。そのくせ私と慧音との話は聞いていた訳?」

「放置プレイもまた愛情の形の一つよ、レミィ」

レミリアの苦情を聞き流し、パチュリーはカメラを構えてアリスに向かってシャッターを切る。
そんな親友に、レミリアは小さく溜息をつきつつも、再び視線をアリス達の方へと向ける。
親子の愛情。きっとそれを形にするとしたら、あのような形なのだろうなと考えながら。
















太陽が幻想郷に昼を告げる為に必死に駆け上がろうとする時刻。
紅魔館の一室に四人の客人が訪れていた。その一室、アリスの部屋に訪れたのは藍、妖夢、霊夢、橙の四人である。
正確には橙を除く三人だが。ちなみに橙はフランを見つけるや否や、フランと共にどこかに遊びに行ってしまった。
ちなみにフランがこの時間にも関わらず起きている理由は、前日に橙が遊びに来ることを知らされていた為である。
三人を椅子に座らせ、アリスは三人に紅茶を入れて差し出した。

「悪いわね、何か手を煩わせちゃって」

「構わないわ。そもそも頭を下げるのはこっちの方だわ。わざわざ粉ミルクを持ってきてもらったんだもの」

アリスの言葉に、霊夢は『そう』と話題を切り、紅茶を口にする。
アリスの言う通り、三人が紅魔館を訪れた理由は切れそうになっていた粉ミルクをアリスに届ける為だった。
紫が最初にちび美鈴の為に用意した粉ミルクは幻想郷内で市販されているようなモノではなかった為、
どうしても粉ミルクの補充は買出しではなく、紫に頼むしかなかったのだ。そこで紫に遣わされたのが藍と橙という訳である。
ちなみに霊夢は暇潰し、妖夢はその時ちょうどマヨヒガにお使いに来ていた為、白玉楼に帰るついでといった具合である。

「しかし、たった二日みないだけで随分母親が様になったものだ。見違えたよ」

「そう?ありがとう。…と言っても、自分では実感が無いから本当によく分からないんだけどね」

人形を手に抱えたちび美鈴を抱きなおして、アリスは苦笑して藍に返した。
アリスの腕の中でちび美鈴はふわふわとした赤子特有の表情でアリスの方をじっと見つめている。
その視線に気付いたのか、アリスはちび美鈴に優しく微笑みを返す。その光景に三人は感歎の声を漏らす。

「なんていうか、もう立派なお母さんよね。
 ただ惜しむらくは父親が魔理沙ってところかしら。とんだ駄目亭主じゃない」

「ふふっ、そうでもないわよ。ああ見えて魔理沙は美鈴を可愛がってるし。
 何より、この育児用品の一式を揃えたのは他ならぬ魔理沙だしね」

「へえ…あの魔理沙がねえ」

分からないものだ、と霊夢は首を捻りながら紅茶を口にする。
そんな霊夢に苦笑を浮かべながら、アリスも三人と同じように椅子に座る。勿論、ちび美鈴はその手に抱いたままだ。

「とりあえず補充の粉ミルクはそこに置いておいた。
 量的には充分だとは思うが、足りなくなったらまた言ってくれ」

「ええ、本当にありがとう。お代の方は…」

アリスの言葉に藍は苦笑して首を振る。
頭に疑問符を浮かべるアリスに、藍は笑顔を浮かべて言葉を紡ぐ。

「粉ミルクは紫様のご好意だ。別にお金など取ったりせんよ。
 我が主の寛大さを示す為にもここは遠慮なく受け取ってやってくれ」

「そうそう。どうせ紫が良い所見せる場面なんてこんなところしかないんだから」

「…少しも否定出来ないところがアレだが、まあそういう事だ」

藍と霊夢に、アリスは少し戸惑ったものの、『ありがとう』と礼を告げて微笑を浮かべる。
紅茶を口に運ぼうとした藍だが、ふと妖夢が一度も会話に参加していないことに気付き、そっと妖夢の方に視線を送る。
すると、そこにはちび美鈴を興味津々に見つめている妖夢の姿があった。

「どうした妖夢。美鈴が気になるのか?」

「え…あ、はい。その、赤ちゃんをこうやって間近で見るのは初めてなので…」

本人の言う通り、実は妖夢がこうして赤子を間近で見るのはこれが初めての経験だった。
幽々子のお使いとして人里には何度か訪れたものの、擦違う赤子をマジマジと見つめる程妖夢は無作法ものではない。
白玉楼に生まれ、そこで育った妖夢にとって、赤子は本当に未知の生き物だったのだ。
そんな興味津々の妖夢に、アリスは微笑みながら優しく尋ねかける。

「良かったら美鈴を抱いてみる?」

「え…えええっ!?い、いいんですか!?」

「勿論構わないわ。粉ミルクを持ってきてもらったし、何よりきっと美鈴も喜ぶだろうから」

優しくちび美鈴を差し出すアリスに、妖夢はあわあわと動転しながらも慎重にちび美鈴を抱き抱える。
抱き方のイロハも知らず、どうすればいいのか困惑する妖夢に、アリスは優しく赤子の抱き方を指南する。
そして、ようやく美鈴が妖夢の腕の中に収まり、妖夢はホッと安堵の息をついた。

「おお、なかなか様になってるじゃないか。凄いぞ妖夢」

「え、えっと…そ、そうですか?」

「…やっぱり何か釈然としないわね。私が抱いた時は大泣きしたのに…
 私、美鈴に嫌われるような事した記憶なんてこれっぽっちもないんだけど」

ブツブツと文句を零す霊夢に、その場の一同は苦笑する。
そんな霊夢から視線を外し、再びちび美鈴の方へと妖夢は視線を移す。そこには、先ほどのアリスの時と同じように、
妖夢の方をじっと見つめるちび美鈴の姿があった。その姿に、妖夢は胸の奥底を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。
じーっと自分を見つめる赤子の何たる無防備で無垢なことか。そして何たる可愛さか。
そんな妖夢の気持ちが伝わったのか、藍は楽しそうに笑みを浮かべて妖夢に口を開く。

「何、これも良い経験じゃないか。妖夢も何時かは愛する者と巡り逢い、子を生す時が来るんだ。
 その時の予行演習と思えばいいのさ」

「あ、愛する人との子っ!?」

藍の言葉に、妖夢は思わず身体をビクリとさせる。
その驚きは凄まじく、よくもまあそこまで反応出来るものだと驚嘆に値するほどだ。
それも当然だ。他ならぬ、妖夢が密かに想いを寄せている相手にそんな言葉を言われて驚かない訳がない。
そんな妖夢の驚きを理解していないのか、藍は首を捻って言葉を続ける。

「何を驚く事があるんだ。妖夢だって何時までも子供じゃないんだ。
 誰だって大人になるように、妖夢だって大人に、ひいては母親になる。そうなれば自然と子も存在するだろう?
 まだ先の事だとは分かっているが、私だって妖夢の子を密かな楽しみにしているんだぞ?妖夢の子供が可愛くない訳がないからな」

「あ、あう……」

藍の次々と放たれる言葉に、妖夢の顔はこれ以上ない程に真っ赤に染まっていく。
身体はもうガチガチで、そんな妖夢の異変を感じ取ったアリスはもしもの為にちび美鈴を妖夢の腕から救出する。
下手をすればそのまま倒れかねない、まさしく今の妖夢はそんな状態だったからだ。

「だから、もし子が出来たときは私にも抱かせてくれ…って、妖夢?どうしたんだ、そんなに顔を真っ赤にして」

「…前から思っていたんだけど、アンタの鈍感さは本当に犯罪モノよね。こりゃ妖夢も苦労する訳だわ」

妖夢の異変の原因が自分にあることを全く気付いていない藍に、霊夢は呆れたように溜息をついて妖夢に同情した。
一方、妖夢の態度や霊夢の言葉に妖夢の気持ちを察したアリスは、同情的な視線で妖夢を見つめていたりした。合掌。
ちなみに余談ではあるが、この後に藍とアリスが談笑している最中、
霊夢は『藍と妖夢の間に子が出来たら狐耳でしっぽが生えて半霊付きなんだろうか』などと
一人どうでもいい事を考えていたりした。


















翌日。もうすぐ日が妖怪の山に沈もうかという夕暮れ時。
咲夜に食事の準備が整った事をアリス達に伝えて欲しいと頼まれた慧音は、アリスの部屋へと足を運んでいた。
扉をノックし、室内からアリスの返事が聞こえた事を確認し、慧音は部屋の扉をゆっくりと開く。
室内では、アリスが何やら古びた紙の束を整理している最中だった。その紙面には手書きで書き殴った文字が連なっている。
その紙に視線を向けつつも、慧音は頼まれた用事を果たすためにアリスに伝言を告げる。

「咲夜からの伝言だ。
 夕食の準備が整ったからダイニングルームの方に来るように、だそうだ。
 魔理沙…の姿が見えないな。何処にいるか知らないか?魔理沙にも伝えるように頼まれたのだが」

「魔理沙なら美鈴を抱いて外に行ったわよ。何でも空を飛ぶ楽しさを美鈴に教えてあげるって張り切ってたわ。
 多分、もうすぐ帰ってくると思うけれど」

その言葉に、慧音は視線をベビーベッドの方へと移す。
成る程、確かにベッドはもぬけの殻でちび美鈴の姿は何処にも見えない。勿論、アリスの渡したあの人形もだ。
アリスの返答に『そうか』と返し、慧音は再び視線をアリスの方へと向ける。アリスは相変わらず古紙の整理する手を止めていない。
その紙に興味が沸いた慧音は、アリスにそれは一体何かと尋ねてみる。それは純粋な好奇心からくる疑問だった。
慧音の質問に、アリスは笑みを浮かべて楽しそうに口を開く。

「童話集みたいなものよ。
 これにはありとあらゆる御伽噺や童話の話、そして寓話や史実に則った話が書かれているの」

「ほう。それは興味があるな。少しだけ読ませてもらっても構わないか?」

「どうぞ」

アリスから紙の束を受け取り、慧音は軽くパラパラとページを捲っていく。
そこには幻想郷に伝わる話は勿論の事、外の世界の話が多岐に渡って書き綴られていた。
何処ぞの蓬莱ニートの話から、ぐーたらスキマ妖怪の逸話、そして諏訪平定から吸血鬼の始祖の話と
その話の豊富さには思わず賞賛の意を作者に送りたくなる位だ。歴史の半獣と謂われる慧音ですらこれほどのモノは書き記した事が無い。

「…いや、これは凄いな。正直心から感動したぞ。
 これほどのモノを作るのには相当な労力と手間が掛かっただろう。よくこんなに話を集められたものだ」

「ふふ、実はこれ、私が作った訳じゃないの。
 これはレミリアが私に貸してくれたのよ。美鈴に御伽噺を聞かせてあげるのに丁度良いだろうって」

「…レミリアが?パチュリーではなくて?」

「ええ。これを作ったのはレミリア自身だって言ってたわよ。
 でも考えてみると変な話よね。レミリアは一体誰に御伽噺や寓話を読み聞かせていたのかしら?」

アリスの疑問に、慧音も頷いて同意する。
しかし、レミリアは余程その誰かに色々な話を読み聞かせてあげたかったのだろうという事は伝わった。
そうでなければ、これほどのモノを作れる筈が無いのだ。それ程の労力と手間、そして熱意がこの紙束には込められている。
きっとそれこそ気の遠くなるような長い年月を掛けて、自分の見聞きした物語を常に紙に書き記していたのだろう。
そうでなければ、これほど紙やインクが色褪せたりするものか。
だが、慧音にはどうしてもそんなレミリアの姿が想像出来なかった。
それはそうだろう。一体誰があの唯我独尊我侭放題常々変態お姫様のそんな姿を想像出来るだろうか。
慧音はレミリアの事に関しては余り深く追求しないことにし、アリスに物語集となっているその紙束を返すことにした。

「まあ…レミリアの事はともかく、良い物を借りたな。早速今夜にでも美鈴に読み聞かせてあげるのか?」

「ええ。喜んでくれるといいんだけど」

「何、お前のしてくれることなら何でも喜んでくれるさ。
 以前お前の渡した人形だって、今や美鈴はその人形を一時でも離そうとしないじゃないか」

その言葉に、アリスは心から嬉しそうな微笑を抑ることが出来なかった。
人形を渡して以来というもの、ちび美鈴は本当に人形を手離さず、傍に置くようになった。
一度、ちび美鈴から人形を魔理沙が取ってみると大泣きしてしまい、今となっては人形がちび美鈴に傍にあるのは当然のようになっていたのだ。
それほどまでに気に入ってくれた事が、アリスにとっては堪らなく嬉しく、
そしてその一件はアリスの美鈴への愛情を更に深める結果となったのだった。

「しかし、美鈴も後日アリスにお礼を言わねばならんだろうな。
 自分の意思で赤子になった訳ではないが、これだけ愛され世話を見てもらっているのだからな」

「…後日?」

それは慧音にとっては本当に何気ない言葉だった。否、誰にとっても違和感を覚えない言葉だろう。
ただ、話の流れの中で生じた当たり前の会話。そんな普通の会話だったのだ。

「美鈴が小さくなって今日が五日目だろう?あと二日後には美鈴は元の姿に戻るんだ。
 パチュリーの話だと、幼くなってしまっている間の記憶は失われてしまうらしいからな。
 いくら記憶に残らないとはいえ、他ならぬお前にだけはちゃんと礼を言う必要があると私は思うが」

そんな何気ない会話。そんな当たり前の事。だけど、それはたった一人の人物にとっては違っていて。
愛を注ぎ、愛を与え、愛を育み。そんな幸せな日常が、彼女にそれを忘れさせてしまっていたのかもしれない。
この時間は永遠には続かない。この時間には当然のように時間制限が存在する。
それは彼女がちび美鈴の母親になった時から決まっていたことで。それは決して変える事が出来ない規定事項で。
きっと忘れていたのは彼女だけ。きっと忘れようとしていたのは彼女だけ。きっとちび美鈴を誰よりも愛し続けた彼女だけが。
絶対不変のタイムリミット。そう――ちび美鈴とアリスが共に過ごす事が出来る期間は、たった一週間だけなのだ。

「まあ、何も記憶が無いのに礼を求めるのもおかしな話か。
 しかし魔理沙は遅いな。一体何処まで行ったのやら…このまま遅くなるようだと迎えに行くことも考えねばならんか。
 …アリス?どうした?」

「……え?何が?」

慧音の呼びかけに、アリスは少し鈍い反応で返事する。
何処かアリスの様子に違和感を感じ、率直に状態を尋ねてみた慧音だが、アリスの様子は先ほど何ら変わりない。
自分の気のせいか、と慧音は苦笑し、『何でもない。すまなかった』とアリスに詫びる。

「それでは私は一度自室に戻るが、あまり魔理沙が遅くなるようなら咲夜に言っておいた方がいいぞ。
 用意した料理が無駄になる程やるせない事はそうそう存在しないからな」

そう言い残し、慧音はアリスの部屋から去って行った。
慧音が部屋から出て行った後、アリスは何をするでもなく空のベッドの方を見つめていた。
ちび美鈴のいない、そのベビーベッドをただじっと。

















アリスと魔理沙が紅魔館に来て六日目。
夕食を終え、アリスとちび美鈴を除くメンバーは紅魔館の一室に集っていた。
否、集ったというには語弊があるかもしれない。先ほどまではこの場所でアリスやちび美鈴も共に夕食を摂っていたのだ。
ただ、アリスは夕食に余り手をつける事無く、すぐに自分の部屋へと戻っていった。勿論、ちび美鈴を抱いて、だ。
それが今日の夕食だけなら何も無かったのだが、実はこのような事が昨日の夕食からずっと続いていた。
今日の朝、昼に至っては食事にすら顔を出していない。今のアリスに、流石に誰もが違和感を感じざるを得ない状態だった。

「…おかしいな。アリスの奴、昨日から何か変だぜ。
 飯は全然食わないし、話しかけてもどこかボーっとしてるし…何か悪い物でも食ったか?」

「馬鹿ね、貴女じゃあるまいし。けれど、本当にどうしちゃったのかしらね」

咲夜は呆れながらも、魔理沙の言葉に同意する。
食事を摂らないだけなら先日にも同じような事はあった。アリスがちび美鈴の為に人形作りに没頭していた時である。
しかし、その時と今では明らかに状況が違う。この場の誰もがアリスの状態に違和感を覚えて仕方が無いのだ。
首を傾げる魔理沙と咲夜に割って入るように、フランが少し寂しそうな表情で口を開く。

「そういえば今日、めーりんをまだ一度も抱っこしてないや…
 そうだ!今からアリスに頼んでめーりんをここに連れて来てもいい?」

「止めておきなさい、フラン」

フランのアイディアに制止をかけたのは彼女の姉、レミリアだった。
視線の集るなか、レミリアは紅茶を喉に通して、空になったカップを咲夜に預ける。
無論、レミリアの言葉に不満を覚えたのはフランだ。むーっと口を膨らませてレミリアに疑問の声を上げる。

「どうして駄目なの?めーりんを抱っこしても、今までアリスは何も言わなかったよ?」

「別にフランが美鈴を抱くことを駄目だと言っている訳ではないわ。
 ただ、今日だけは二人っきりにさせてあげなさいと私は言っているの」

今日だけは。その言葉に理由が思い当たったのか、その場の誰もがレミリアの言葉に異を唱えない。
魔理沙達がここ、紅魔館に滞在するようになって六日目。それはつまり、美鈴が小さくなって六日目でもある。
それはつまり彼女、美鈴があの姿でいる時間があと一日しかないということ。
アリスがちび美鈴と共に過ごせる時間は残り二十四時間を切ってしまっているのだ。

「…パチェ。美鈴の呪文の効果が切れるのは明日の何時頃なのかしら?」

「美鈴が卵から孵化した正確な時間までは覚えていないけど、昼の一時といったところね」

レミリアからの問いの答えにパチュリーは『前後はあるかもしれないけれど』と付け加える。
それを聞き、レミリアは小さく息をついた。それは見方によれば、少しばかり後悔交じりの溜息のようにも感じられた。

「…やっぱりどんな卑怯な手を使ってでも、ちび美鈴は私達で面倒を見るべきだったのかもしれないわね。
 少し冷静になって考えれば、アリスがこうなる事は容易に予測出来た筈だもの」

「それはどういう事だ?」

「…アリスは美鈴とちび美鈴を同一視していないのよ。
 あの娘は小さくなった美鈴を紅美鈴とは別の存在として捉えてしまっている」

尋ねかける慧音に、レミリアはハッキリと答える。それはまるで、完全にその事を確信しているようで。
レミリアの言っている言葉の意味を理解した慧音と咲夜は、少し表情を翳らせる。
また、彼女と同じ考えだったのか、パチュリーはレミリアに対して何も異論を唱えようとはしなかった。
ただ、魔理沙とフランはレミリアの言葉の意味が理解出来ず、未だに首を傾げたままだ。
そんな二人に、レミリアの代わりに慧音が分かりやすく噛み砕いて説明を始める。

「私達は美鈴と親交も深いし付き合いもあり、彼女の事をそれなりに理解している。
 だから、たとえ美鈴があのように幼くなろうとも、私達にとっては幼い美鈴と紅美鈴はイコールだ。
 それは魔理沙にフラン、お前たちにとっても同じだろう?」

「勿論だぜ。中国は小さくなっても中国だろ。そんなの当たり前じゃないか」

魔理沙の言葉に同意するように、フランもコクリと小さく頷いた。
二人がそれを理解出来たことを確認し、慧音は続きの言葉を紡ぐ。

「そう、それは当たり前の事だ。何故当たり前なのか、それは私達が『紅美鈴』という人物を知っているからだ。
 だから美鈴を存在を根底から覆すようなこともないし、その事に何の疑問も生じない。
 だが、アリスは違う。彼女は紅美鈴という存在よりも今の美鈴との付き合いの方が遥かに長い」

「あ…」

思い当たる節があったのか、魔理沙は思わず小さく声を上げる。
慧音の言う通り、アリスと本来の美鈴のつながりは本当に希薄なモノだ。
アリスが稀にパチュリーの図書館に本を借りに来た際に会釈をする程度。本当にその程度だったのだ。
このような事になるまで、アリスは美鈴の事を紅魔館で働いている妖怪の一人としか捉えていなかったし、
その認識は今も変わる事は無い。アリスと美鈴は本来、その程度の付き合いなのだ。
しかし、美鈴が幼い姿になり、アリスが母親代わりとして育てるようになって、その状況は一変する。
アリスは美鈴に愛情を余す事無く与えて面倒を見た。それこそ、美鈴の一から十まで全てを世話するほどに。
最早彼女にとって美鈴との時間は何物にも代え難い大切な時間で。それこそ我が娘のように可愛がって。
そう、彼女にとって最早美鈴とは本来の紅魔館の門番、紅美鈴を指し示す名前ではないのだ。
美鈴とは我が愛する娘の名前。美鈴とは大切な我が子の名前。アリスにとって紅美鈴とはそれが当然の意味を持つようになってしまった。
そのような認識をしているアリスが、『明日には美鈴は元の姿に戻ります』と言われ、簡単に受け入れられるだろうか。
答えは否だ。彼女にとって紅美鈴の本当の姿とは今の姿に他ならない。紅美鈴とは今の赤子を意味しているのだから。

「アリスにとっては今の美鈴こそが紅美鈴なんだろう。
 …そうか。もしかしたら、彼女があんな風に落ち込んでしまったのは私に原因があるのかもしれん。
 昨日アリスに美鈴が元に戻る事を話したのは他ならぬ私だからな…」

「慧音は悪くないでしょう。美鈴が元の姿に戻ることは最初から決まっていたこと。
 そして一週間という限定の期間の親を受け入れたのは他ならぬアリス自身よ。それを慧音が責められる謂れは無いわ」

「そうだぜ。慧音は何も悪くないだろ。
 しかし、アリスがそこまで中国に入れ込んでいるとはなあ…どうしたものかね」

「どうもこうもないわ。アリスにはこの現実を受け入れて貰うだけよ。美鈴が元の姿に戻ることに変わりはないのだから。
 ただ、アリスには感謝をしているわ。美鈴をここまで愛し、面倒をみてくれたんだもの。
 だから、後の事は私達に任せておきなさい。魔理沙はアリスのアフターケアをしっかりしてあげることね」

そう言葉を切るレミリアに、魔理沙は少し目を丸くして彼女の方を見つめる。
どうやら普段変態色に染まっているレミリアばかり見ているものだから、彼女の言葉が本当に意外だったらしい。

「…お前、たまにはまともな事も言えるんだな」

「失礼ねっ!!私は常にまともな事しか口にしないわよ!!」

「一体どの口でそんな台詞を吐けるんだお前は」

その反論に慧音は即座に異を唱え、レミリアは殊更に激昂する。
彼女達の喧騒を、パチュリーは視線を本から逸らす事無く、ただ耳をじっと傾けているだけだった。

















紅魔館、その地下に存在する大図書館。
時刻的には深夜の零時を回ったくらいだろうか。その図書館で本を読み耽っていたパチュリーは、薄暗い図書館内に響く足音に気付き、書を閉じる。
それはまるで、その来客をあたかも分かっていたような、そんな仕草だった。

「捨食の魔法を使っているとはいえ、食事を摂らないなんて非効率的ね。
 せめて軽いものでもいいから口にしておきなさい。魔理沙が心配してたわよ」

「…驚かないのね。私がここに来た事を」

「なんとなくそんな気がしていたもの。
 何事も先を見据えて行動すれば驚くことも慌てることも必要ない…そんなことをレミィが以前言ってたわね」

その来客――アリスの姿を見ても、パチュリーは表情一つ変えることは無かった。
軽く息をつき、パチュリーは手に持っていた本を机に置きなおし、身体をアリスの方へと向け直す。
アリスが自分に話があること、そして話の内容も何となくパチュリーは察していた。

「それで、わざわざこんな夜中に何の用かしら。
 …と言っても、今の貴女から私への用なんて一つしか思いつかないけれど」

「そう、だったら話は早いわね。パチュリーに聞きたい事があるのよ。
 …貴女が美鈴にかけた呪術に関する事でね」

「でしょうね」

その質問も予想通りだった為、アリスの質問にもパチュリーは少しも動じることが無かった。
そして、机の上に置いていた小さな薬瓶を一本取り出し、アリスへと差し出した。
その行動に何をしているのか理解できなかったアリスに、パチュリーは淡々と説明を始める。

「質問なんて必要ないわ。呪術に関する事を話す必要性だって感じない。
 今の貴女は魔法使いじゃないわ。今の貴女の目はただの一人の母親の目。
 そんな貴女に呪術の術式や原理、発現条件を話したところで無駄に終わるのは目に見えてる。
 今の貴女が求めているものは、そんな魔法使いとしての知識好奇心を満たすことではないでしょう。
 貴女が欲しているのは結果。『どうすれば美鈴をこの姿のままでいさせられるか』、そうでしょう?」

パチュリーの言葉に、アリスは何一つ言い返す事が出来なかった。
彼女は求めていた。どうすれば、美鈴と今のままでいられるか。この幸せな時間を続けられるのか。
そして辿り着いた答えは、パチュリーに魔法の原理を教えてもらうこと。
彼女ならば、この呪術を美鈴に使ったパチュリー本人ならば、美鈴を今のままで保つ方法を知っているのではないか。
そう考えた故の行動だった。だからこそ、全てをパチュリーに看過され、反論すら出来ないのだ。

「…悔しいけど、その通りよ。私は美鈴が今のままでいられる方法だけを知りたいの」

「だから、これがその答えよ。この薬が貴女の願いを叶えてくれる筈よ。
 これは美鈴にかけた術式を永劫のモノにする効果がある。
 美鈴に飲ませてあげれば、美鈴は今のまま一妖怪の赤子としてゆっくり育っていくことになるでしょうね」

パチュリーの差し出した薬瓶を、アリスは息を呑んで見つめた。
アリスにとってこの展開は予想外だった。確かに、自分はパチュリーに頼むつもりだった。
けれど、彼女が自分にこんな簡単に協力してくれるとは微塵も思っていなかったのだ。

「…いいの?」

「さあ?私はただ貴女の行動に答えを示しただけだもの。その事の善悪を考えるつもりは無いわ。
 薬を使えば、美鈴はあの姿のままでしょうね。そして貴女の娘として、新たな生を歩む。
 それは一つの未来の形よ。貴女と美鈴が共に歩める一つの未来の形」

一度言葉を切り、パチュリーは『だけど』とアリスの方に視線を向ける。
それはどこまでも意思の篭もった瞳で。その瞳にアリスは気圧されてしまう。

「これだけは覚えておきなさい。
 今の美鈴の未来を創るということは、今までの美鈴の未来を奪うということ。
 この薬を使い、成長したところで美鈴は私達との記憶を一切覚えていない。そういう術式を組んである。
 貴女がその美鈴だけを肯定することは、過去の美鈴を否定すること。そして私達はそれを絶対に許さない。
 貴女が幼い美鈴を我が娘として育てることは、私達から美鈴を奪うということ。私達の家族を殺すということ。
 今、貴女がしようとしている事はそういう事よ。それを理解しているならば、胸を張って薬を受け取りなさい」

聞きたくなかった。それは、アリスの切実な想い。
淡々と告げるパチュリーの言葉の一つ一つがアリスの胸を貫いていく。それは本当に鋭い刃で。
分かっていた。そんなこと、絶対に許されないことくらい。
知っていた。そんなこと、絶対に認められないことくらい。
美鈴は私の知っている美鈴だけじゃなくて。本当は紅美鈴として紅魔館に仕える妖怪で。
私が面倒を見るまで、この娘はこの場所で生活していたのだ。
紅魔館の人々に囲まれ、自分とは何のつながりが無くてもこの館で日々を充実して生きていたのだ。
美鈴が元の姿に戻るのは、山水が海へと下っていくように、それは極めて当然の事。
むしろ自分がおかしいのだ。美鈴が可愛いからと、愛しいからと今を無理矢理留めようとする自分自身が。
怖い。別れが怖い。嫌だ。手離したくない。だって美鈴は私の娘だ。私が誰よりも美鈴を愛している筈なのだ。
愛している――ああ、その言葉も欺瞞だ。私はただ、その言葉を免罪符にして美鈴を自分のモノにしようとしているだけに過ぎない。
何て卑怯。何て汚らわしい。嫌だ。そんなのは嫌だ。そんな姿を美鈴に見せたくない。知られたくない。
自分が今すべきことなど当に理解してる。何もするな。何も動くな。ただ、それだけでいい。
今自分が為すべきはただ耐えること。そうすれば、きっと明日には元通りの日常だ。
この一週間は夢のような日々だった。そう、それは夢だったのだ。そう思えば、きっと傷つくのも少しは避けられる筈だから。
アリスは拳を強く握りしめ、パチュリーの手から薬を受け取ることなくパチュリーに背を向ける。

「いいの?薬は受け取らなくても」

「…ごめんなさい。今夜の事は忘れて頂戴。
 分かってる、分かってるのよ。こんなことをしても何の解決にもならないことくらい…」

「…そう。最後に一つだけ言っておくわ。今のままだと貴女はただ苦しむだけよ。
 そうやって美鈴を二つの存在に分けて捉えている限り、ね」

唇を強く噛み、アリスは図書館から去っていった。
そのアリスの小さくなっていく背中を見届けながら、パチュリーは小さく溜息をついて虚空に向かって呟く。

「盗み聞きはデリカシーに欠けるのではなくて?」

「あら?そんな風に飄々と嘘を平気でつけるような人よりもよっぽどマシだと思うけど」

パチュリーの眺めていた虚空に、図書館中に散らばった紅い霧が集まり一人の少女の姿を形成していく。
そして、そこに現れた親友であるレミリアにパチュリーは何のことやらと表情一つ変えずに白を切る。

「その薬、本当はそんな効果なんてないんでしょう?
 美鈴が卵から孵化した時に貴女は言っていたわ。この魔法に途中解呪は出来ないと。
 解呪が出来ないということは呪術の対象にその手の干渉が出来ないということ。
 それはつまり、効果の延長にも適用される筈よね」

「レミィですら気付ける事を魔法使いである筈のアリスは気付けなかった。
 つまり今のアリスはそういう事よ」

「成る程ね…でも、だからといってそれを利用してアリスに間違いを指摘してあげるなんてね。
 パチェがあんな感情的な一面を見せるなんて随分久しぶりに見た気がするわ」

「…最近、どうも魔理沙達に感化されてるみたいね。本当、迷惑なことだわ」

「そう?私はそんな熱いパチェも素敵だと思うわよ」

にやにやと微笑みながら言ってのける親友の言葉に、パチュリーは再び小さな溜息をついた。
それは単にレミリアのからかいに呆れた為だけではない。
このいつも以上に騒がしい紅魔館の日常、それがあと一日で終わることに、少し寂しさを覚えてしまったからだ。
本当にらしくない。パチュリーはそんな自分自身の小さな変化に対して軽く苦笑するしかなかった。



















美鈴が小さくなって七日目。それはつまり、彼女が元の姿に戻る日。
朝の十時を少し回ったくらいの時間に魔理沙は起床し、着替えを始め、色々と準備に手をつける。
その準備とは勿論、この紅魔館を後にする準備だ。美鈴が元の姿に戻れば、自分もアリスもこの場所に居る理由が無くなる。
レミリア達は何日でも滞在してくれていいと言ってくれたのだが、二人はそれを遠慮した。
慧音のように家が無い訳でもないし、何よりやはり自分の家が恋しいというのもある。
本当にビックリするくらい豪華な生活だったが、やはり誰だって自分の住みなれた家が一番なのだから。
荷物をまとめ終えた魔理沙は、グッと大きく背伸びし、荷物を置いてアリスの部屋へと向かう。
美鈴が元の姿に戻るまで残り三時間を切った為、最後の一時はちび美鈴と共に過ごそうと魔理沙は考えていたのだ。

「お~いアリス、入ってもいいか?」

部屋の扉をノックしながら、魔理沙は室内に届くように声を上げる。
しかし、中からの反応は一切返ってこない為、首を捻りながら魔理沙はゆっくりと扉を開く。

「…あれ?」

その室内の光景に魔理沙は思わず疑問符を頭に浮かべる。
昨日まで室内に点在していたアリスの私物は全て片付けられ、そこには彼女達が来る前の綺麗に整えられた
紅魔館の客室が存在するだけだった。そして室内にアリスの姿は勿論、ちび美鈴の姿も見えなかった。

「先にみんなのところに行ったのか?」

首を捻りながら、魔理沙はレミリア達がいつも集っている大広間の方へと足を運ぶ。
長く続く廊下を抜け、大広間へと続く扉を開くと、そこにはレミリア達が既に集っていた。
しかし、そこにもアリスの姿はない。ただ、ちび美鈴の姿だけは在り、レミリアの腕の中でゆっくり眠っていた。

「居るのは中国だけか?アリスの奴は?」

「まずは挨拶が先なのではなくて?
 『おはよう』くらい質問の前に言える位の余裕が欲しいわね」

「朝起きて吸血鬼相手に『おはよう』なんて言うのも変な話だぜ?
 で、それよりアリスは何処だ?中国がそこにいるのに、アリスがいないのは変だろ」

魔理沙の疑問に、レミリアは軽く息をつく。
そして腕に抱いているちび美鈴をそっと抱きなおし、レミリアは魔理沙に淡々と告げた。

「アリスならもう帰ったわよ。早朝、私に美鈴を預けてね」

「…はあ?それは一体何の冗談だ。
 中国はもうすぐ元の姿に戻るんだろ。それを見届けずにアイツは帰ったのか?」

レミリアの報告に、魔理沙は眉を顰めて尋ねかける。
それも当然の事で、魔理沙にはレミリアの言っている事が信じられなかったのだ。
あれだけ可愛がっていたちび美鈴と最後に一緒に過ごす時間を放棄して、アリスは去って行ったというのだから。
納得いかないといわんばかりの魔理沙に、慧音は小さく溜息をついて口を開く。

「気持ちは分かるが、アリスの心情も察してやれ。
 ここまでずっと美鈴の世話をして、情が移ってしまったんだ。
 その美鈴との別れまで無理矢理強要するのは少しばかり酷と言うものだろう」

「それはそうだけど…でもなあ」

「魔理沙。アリスは本当に良くやってくれたわ。
 これがあの娘の選択なら、私達はそれを尊重してあげないといけない。それが私達がアリスに出来る唯一の事よ」

レミリアと慧音に諭され、魔理沙は渋々といった様子で不満を飲み込んだ。
確かにその考えも分からないでもない。アリスにとって、ちび美鈴との別れは我が娘との永遠の別離にも感じるだろう。
それを最期まで見届けさせるのは果たしてどれほどの苦痛なのだろう。それはきっと想像だに出来ない程なのだろう。
だが。だが、それでも魔理沙は何か違うような気がした。この選択は、本当に正しいとはどうしても思えなかった。
そんな魔理沙達の重苦しい空気を感じ取ったのか、レミリアの腕の中でちび美鈴が目を覚ました。

「あう…」

「あら、美鈴を起こしちゃったみたいね…よしよし」

目覚めた美鈴に、レミリアは優しく声をかける。
そんな普通の光景にすら、最早魔理沙は違和感を覚えるようになってしまっていた。
あの役目は、本来ならアリスの役目だった筈だ。美鈴をあやすのは、他ならぬアリスの。
その時、魔理沙はようやく自覚した。きっとアリスが美鈴に入れ込んでいるように、自分もまた美鈴に入れ込んでいたのだと。
正確には美鈴だけではない。美鈴とアリス、その二人が生み出していた幸福に包まれた時間そのものに、だ。
魔理沙はそんなことを思考しながら、再び視線をレミリア達の方へと向ける。
それは赤子なりに違和感を覚えたのかもしれない。レミリアの顔をちび美鈴はじっと見つめ、そして――

「ふぇぇ…」

「あ…」

ちび美鈴はレミリアの腕の中で泣き始めた。室内を劈くような赤子特有の泣き声を上げて。
その突然の癇癪に、レミリアを始め、その場の誰もが動揺を隠せなかった。あのちび美鈴が泣いたからだ。
夜泣きはおろか、空腹や粗相といった時以外は決して泣かなかったちび美鈴が今、初めて赤子のように泣き喚いたのだ。
わんわんと泣くちび美鈴を、レミリアは必死にあやそうとするが、ちび美鈴は一向に泣き止む気配を見せない。
どうしたものかと頭を抱えるレミリアに、ちび美鈴は必死に声を上げる。それは、どこまでも真っ直ぐに求める声。
ではちび美鈴は一体何を求めているのか。そんなものは既に分かりきっている。
この一週間、美鈴は常に母の傍にあった。いつだって美鈴は母の愛を余す事無く享受し続けていた。
その母の温もりこそが最早ちび美鈴にとっては自分の居場所なのだ。だからこそ、美鈴は泣いて求める。
傍にいたいと。抱かれていたいと。他の誰でもなく、母の――アリスの腕の中に、と。
その光景に、魔理沙は思わず笑みを零しそうになる。自分の考えは間違っていない、と。
そうだ。ちび美鈴が最後の瞬間を迎えるのは私達だけじゃ役者が足りない。ちび美鈴が安心してもとの姿に戻るには、最後のピースを揃える必要がある。
それでようやく、この一週間の物語は終わりを迎える事が出来るのだから。
魔理沙は帽子を被り直し、トレードマークの箒を手にとって窓際に足を運ぶ。
そんな彼女の動作に最初に気づいた咲夜は、魔理沙に近づき声をかける。

「ちょっと魔理沙、何処に行くつもり?」

「何処も何も。娘が母親を求めて泣いてるんだぜ?だったら父親がやることはただ一つだろ」

箒に腰を掛け、その場にふわりと宙に浮く彼女の言葉に、咲夜は理解を示したのか、微笑むだけで何も言わなかった。
そう。本当はこの場の誰もが気付いていたのだ。ちび美鈴が今、何を求めているのか。誰を求めているのか。
きっと彼女の選択は間違いなんかじゃない。少なくとも、タイムリミットが訪れるまでちび美鈴を悲しませる選択なんかよりは。
そんな魔理沙に苦笑を浮かべ、彼女の方へと一歩踏み出したのはパチュリーだった。
彼女は室内に置かれている柱時計を指差し、魔理沙に優しく告げる。

「魔理沙。美鈴が元の姿に戻るまでのタイムリミットは午後一時頃…残り約二時間よ。大丈夫?」

「おいおい、パチュリー。お前は一体誰にそんな心配をしてるんだ?二時間もあれば充分だぜ」

自信に満ち溢れた魔理沙の表情に、パチュリーは苦笑を浮かべて『そうだったわね』と言葉を切る。
そんな魔理沙に、慧音もフランも笑みを零さずにはいられなかった。その場の誰もが魔理沙の表情に強い確信を抱かせられたのだ。
大丈夫。きっと魔理沙なら、この少女なら何があってもアリスをこの場所にきっと連れてきてくれるだろうと。
場の空気を一転させた魔理沙に、レミリアは小さく溜息をつく。しかし、それはきっと本心からの溜息ではないだろう。
何故なら溜息をついたレミリア本人も、皆と同じように微笑んでいるのだから。

「アリスの気持ちを尊重してあげなさいと言ったばかりなのに…本当にしょうがない魔法使いね」

「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。私は充分にアリスの気持ちを尊重してるぜ?
 アイツは基本的に頑固で意地っ張りだからな。アリスの本心を汲み取ってやるのも私の役目だろ」

「フフッ…本当、アリスも厄介な人間を好きになってしまったものね。
 …魔理沙、紅魔館の主としてお願いするわ。必ず時間内にアリスを美鈴の元へと連れてきて頂戴」

レミリアの言葉に、魔理沙は当然だと言わんばかりに笑顔で返した。
その笑顔に、レミリアは一瞬既視感を感じ、そしてすぐにその答えを見つけ出す。
そうだ。彼女、霧雨魔理沙はあの日もこんな笑顔を浮かべていた。己の心を決して裏切らない芯の強さが垣間見えるその微笑。
紅い月の夜。霊夢と共にこの紅魔館にてレミリアと対峙した時の彼女もまた、こんな自信に満ち溢れた笑顔を浮かべていた。



















未練がましい。鏡に写る己の顔を見て、アリスはつくづくそう思う。
魔法の森の中にひっそりと聳える洋館、マーガトロイド邸。
自室の机に突っ伏し、卓上に置かれた小さな鏡を覗き見てはアリスは己の弱さを自嘲していた。
結局、アリスはちび美鈴と最後の時まで一緒に居ることを選ばなかった。否、選べなかった。
愛するが故に、愛しすぎたが故に彼女はちび美鈴が元の姿に戻る瞬間を見届ける事が出来なかった。
きっと自分はその瞬間を視界に入れることに耐えられないと分かっていたから。
レミリアやパチュリーを相手に最後の最後までみっともなく、無様に、そして執拗に懇願したに違いない。
美鈴を私から奪わないでと。美鈴を私から取らないでと。きっと最後の瞬間まで抵抗したに違いない。
それが悪いことだと分かっている。間違ったことだと分かっている。それでも、きっと自分はそんな行動を取っただろう。
間違った事を肯定し、己の欲望の為に周囲の人間に迷惑をかける。そんな自分の姿が容易に想像できたのだ。
だからこそ、アリスは最後の時を迎える前に美鈴を自分からレミリアに渡した。
昨晩一睡もすることなく、自問自答して。これが正解だと。これでいいのだと。これが正しいのだと。
何度も何度も自分に説き伏せて、その終局の果てに導き出した答えがこれだったのだ。

昨日、パチュリーにも言われた台詞がアリスの心に幾度となく反芻された。
美鈴を奪うことは、紅魔館の人々から家族を奪うということだと。その覚悟が自分にはあるのかと。
馬鹿な。そのような覚悟などある筈が無いではないか。
そんなつもりじゃなかった。そんなつもりじゃなかった。そんなつもりじゃなかった。
ただ、一緒に居たかった。傍に居たかった。自分の腕の中で微笑むあの娘をもっともっと傍で感じていたかった。
自分はただ、美鈴の笑顔をもっと見ていたかっただけなのだ。あの娘を誰よりも傍で、見守りたかっただけなのだ。
けれど、そんなことは出来る筈も無くて。美鈴の本当の姿は私の知っているあの幼い美鈴ではなくて。
分かっていた。美鈴は紅美鈴で、本当の彼女は幼い赤子の姿ではなく、いつも紅魔館の門前に佇んでいるあの女性で。
ただ、自分が忘れようとしていただけだ。愛するが故に、自分にとって都合の悪い事実から目を背け、ただただ忘れようとしただけ。
だから、これは自業自得。この胸の痛みも苦しみも、全ては自業自得なのだ。
ならば、その痛みに耐えるのも自分の役目。今はただ、この胸の痛みを歯を食いしばり抑えるだけ。
明日になれば少しは薄れるだろう。明後日になればもっと薄れるだろう。
一日、一日と時間が流れる度に、きっとこの痛みは薄まっていく。美鈴との思い出が薄れていくように。
きっと一週間もすれば普段の私に戻れる筈だから。だから、今は耐えるだけ。
情けない自分を殺し、美鈴との思い出を噛み砕き、今はただ、只管に心を。そうしてアリスはまた一つ、小さな溜息をついた。


――その刹那、洋館の玄関の方から大きな爆音が響き渡った。
それはまるでアリスの溜息を吹き飛ばすかのようなタイミングで鳴り響き、アリスは何事かと机から身体を起こした。
この館は現在、アリスの魔術によって侵入者はおろか、外音や光すら遮るように特殊な封壁が施されている。
それはかなり強固な術式で固められており、そうそうなことでは壊れたりしない筈であった。
何事かと戸惑うアリスだが、爆音は収まらない。一つ、また一つと大きな爆音が唸りを上げて館中に響いていく。
そして、その音はどんどんアリスの方へと近づいて来ている事に気付き、アリスは眉を顰めながらも戦闘態勢を整えていく。
やがて、一際大きな爆音が館中に響き渡り、アリスの部屋の扉をそれこそ跡形も残らないように粉砕させた。
爆破により舞い上がった粉塵の中、ズカズカと現れた来客の姿を視界に捉え、アリスは驚き目を見開いた。
その爆破魔の犯人は笑顔を浮かべたまま、アリスに向かって楽しげに言葉を放つ。

「よう。鍵が掛かってたんで、無理矢理入らせてもらったぜ」

「魔理沙…」

その少女――魔理沙の姿に、アリスは思わず苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてしまう。
他の人間ならともかく、魔理沙だけは今は見たくなかった。彼女に会いたくなかったからこそ、アリスは家に封壁を施した。
そう、アリスは誰よりも魔理沙に会いたくなかったのだ。こんな情けない顔をしている自分を、他の誰でもない魔理沙にだけは。

「…何の用?人の家を散々壊してくれて、これで大した用じゃなかったら本当に酷いわよ?」

「用なんか態々訊かなくても分かってるだろ?お前を紅魔館に連れ戻しにきたんだよ。
 家に引き篭もる前にまだお前にはやるべきことが残ってるだろ?中国が元に戻る瞬間を見届ける仕事がな」

魔理沙の言葉に、アリスの表情が一瞬強張った。
その微細な変化を魔理沙は見逃す筈も無く、アリスに対し言葉を紡いでいく。

「お前の気持ちは分からんでもないし、理解も出来る。
 あれだけ中国の事を可愛がってたお前だもんな。そりゃ誰よりも別れはツライだろうぜ。
 …けどな、それでもお前は最後まで見届ける責任がある。今お前がやってる事はただの『逃げ』だぜ?」

「っ!!分かったような台詞を言わないで!!
 私がどれだけ悩んでこの選択をしたと思ってるのよ!?馬鹿!馬鹿魔理沙!アンタなんか嫌い!出てって!」

激昂するアリスの言葉も受け流し、魔理沙は小さく溜息をつく。
しかし、当然そんな台詞に怯む魔理沙ではない。帽子を深く被り直し、真っ直ぐにアリスの方を見つめて再び口を開く。

「言った筈だぜ?お前の気持ちは分からんでもないし、理解も出来るってな。
 お前がどれだけ悩んでいたのかも、この選択の為にどれだけ苦しんだのかも知ってるよ。
 私はその上でお前を連れて行くと言ってるんだ。今、紅魔館に連れて行かなければ、お前はこの後絶対に後悔するだろうからな」

「私は後悔なんかしないっ!」

「する。絶対にな。それだけは断言してやる。
 現にお前、どうせ私が来るまでずっと中国の事ばかり考えていたんだろう?
 『これで良かったんだ』とか『こうするしかなかった』とか必死に自己肯定ばかりしていたんだろう?
 …アリス、はっきり言ってやるぜ。他の皆じゃ誰も言えないだろうから、私がお前に言ってやる。
 お前が悩んで出したその選択は間違いだぜ。それじゃきっとお前はこれから先、何処にも動けなくなる」

動けない。そんな事は分かっている。魔理沙に言われなくとも分かっているのだ。
何故ならこの身体は既にもう鎖に雁字搦めに捕えられ、身動き一つ取れやしないのだから。
きっと自分は後悔し続ける。けれど、それは別の選択をしたところで一緒ではないか。
美鈴と自分は共に居続けられる未来など存在しないのだ。ならば、より楽な道を取るのが正解ではないか。

「今更何をしたってそんなの変わらないわよ…
 私が最後の最後まであの娘の傍に居ようと居まいと、私はあの娘の事をずっと忘れられない…忘れられないのよ」

「だろうな。けれど、そこに後悔は無くなる筈だぜ?
 それにどうして中国の事を忘れる必要があるんだ。お前は中国の母親としてこの一週間を過ごしたんだろ。
 その一週間の事は消える訳じゃないんだ。お前が中国の母親だったという事は変わらないだろ」

「でも、美鈴は何も覚えていないわ…
 元の姿に戻った美鈴は、私とは何も関係ない紅魔館の門番、紅美鈴なのよ…」

「確かに中国は覚えてないだろうな。けど、私は覚えてる。お前が中国の母親だったことはな。
 私だけじゃない。レミリアだって慧音だってフランだってパチュリーだって咲夜だって覚えてる。
 お前と中国が共に過ごした一週間の何もかもが消える訳じゃないんだぜ」

分かっている。それも分かっている。
自分と美鈴の全てが消える訳じゃない。美鈴は覚えていなくとも、自分に、魔理沙に、そして多くの人に美鈴との記憶は残るのだ。
けれど、この身を縛っているのは恐怖。どうしても美鈴との別れに打ち勝つだけの強さが持てない。
嫌だ。別れたくない。ずっと美鈴の傍にいたい。今すぐにでも美鈴をこの手に抱きしめたい。
だけど動けない。恐怖が身体を支配して、魔理沙の言葉にも頷くことが出来ない。
その鎖は愛情と言う名の重り。美鈴への愛情が大きければ大きいほどにアリスの身体を深く締め付ける。
自分の力では解けない鎖。そう、だからこそ魔理沙はここに居るのだ。それこそが彼女がここに訪れた理由。
――自分の力で解けないならば、二人の力で解けばいい。それでも足りないのなら、三人の力で解けばいい。

「アリス、中国は今わんわん泣いてるぜ。レミリアの腕の中でどうしようもないくらいにな」

「え…」

「アイツはお前を呼んでるんだ。お前の腕の中の温もりを、母親の愛を覚えてしまったんだろうな。
 分かるか?あれだけ何があってもそうそう泣かなかった中国が、お前を求めて大声で泣き叫んでるんだ」

魔理沙の言葉がアリスの身体を縛る鎖に一つの亀裂を生じさせる。
美鈴が泣いている。どんな時でも笑っていたあの娘が泣いている。声を大にして泣いている。
大切なあの娘が泣いているというのに、一体自分は何をしている?今自分はこんなところで何をしている?
あの娘を愛しているくせに、どうしようもなく愛おしく思っているくせに、今自分はこんなところで一人腐っているだけ。
美鈴が泣いているのを、私は放置している。あの娘をただ悲しませている。魔理沙の言う通り、ただ逃げているだけ。
それでいいのか。本当にこれが最良の選択なのか。別れを怖がり、娘を悲しませる事が本当に最良と言えるのか。
――否。断じて否。私は美鈴を悲しませる為にこんな選択をした訳じゃない。
別れは確かに怖い。その瞬間は見たくない。だけど、だけれども。美鈴を…あの娘を泣かせるのだけはもっと嫌だ――

「魔理沙、戻りましょう。紅魔館に…美鈴の元に」

「やっと本調子に戻ったか。意思の通った瞳、それでこそアリスだぜ。
 まあ、お前がここで戻りたくないと言った所で、無理矢理にでも連れて帰るつもりだったけどな。
 とりあえずお前に向けてマスタースパークを放つ為の魔力は溜め込んでいたんだが、無駄になって良かったぜ」

「何よそれ。そんなことされたら、それこそ家が跡形も残らないわよ。
 私まで慧音みたいに紅魔館に居候しなくちゃいけなくなるじゃない」

「ああ、それも悪くないだろ。きっとレミリア達は喜んでくれるとおもうぜ」

悪戯を楽しむように笑う魔理沙に、アリスは小さく苦笑する。
身体を縛る鎖はもう無い。あとは紅魔館へと向かうだけ。愛する娘の最後の瞬間を、その目に焼き付ける為に。
そして何より、これ以上愛するあの娘を泣かせたりしない為に。これ以上悲しませない為に。

「…さて、アリスの説得に少し時間が掛かっちまったな。今何時くらいだ?」

「十二時半前。全力で紅魔館に向かっても、少し厳しいかもしれないわね…」

表情を顰めるアリスだが、そんなアリスに魔理沙は楽しそうに笑ってみせる。
自信に満ち溢れた笑顔。それが彼女のトレードマーク。彼女はどんな時でも諦めたりしない。
アリスの部屋の窓を開き、手に持っていた箒に跨り、アリスに向かって口を開く。

「ほら、さっさと乗ってくれ。アリス家発、霧の湖経由の紅魔館行の直行便だぜ。
 お前が全力で飛ぶよりもこっちの方が断然早いだろうからな」

「そ、そうだけど…あと三十分くらいしかないのよ?ここから紅魔館へは、どう飛んでも一時間は掛かるわ。
 いくら魔理沙でも、流石にこんな短い時間に紅魔館に辿り着くのは…」

魔理沙に言われるままに箒に乗りつつも、不安を口にするアリスに魔理沙はニヤリと笑う。
その笑顔に、アリスは思わずドキリとさせられる。そうだ、この表情だ。彼女はいつでもこうやって私を安心させてくれた。
些細な日常から、それこそ異変の時だって、魔理沙は常に自信に満ち溢れて。不安なんか微塵も感じさせなくて。
戸惑うアリスに、魔理沙はそれこそ子供のように笑って言葉を紡ぐ。それはきっと、彼女がくれる安心の魔法。

「アリス、一つだけ良いことを教えてやろうじゃないか。
 いつだったか紫に聞いたんだが、恋って言葉は昔は異性に限らず、目の前にない対象を慕う心を指していたらしいぜ」

「?それが今、何の関係が…きゃっ!?」

アリスが言葉を口にしようとした瞬間、魔理沙は勢い良く大空へと飛び出した。
それはまるで、大空を駆ける一筋の流れ星のようで。その速度は国士無双。誰も追いつけないと思えるほどに加速して。
そしてスピードはどんどん上がっていく。あまりの速さに、周囲の景色はただ残像を残すようにしか視えない程で。
その飛行速度に驚き言葉を失うアリスに、魔理沙は振り向いて悪戯が成功した子供のように無邪気に笑い、告げる。

「母が娘を想うその気持ち。それだけで『恋の魔法使い』が奇跡を起こすには充分過ぎる理由だろ?
 ――見せてやるぜ、アリス。想いを届ける魔法使いの本気をな。
 お前の想いと私の想い。それは母親と父親が愛する我が娘を想う気持ち、『美鈴』を想う気持ち。
 その二つがあれば私のスピードは天狗すら超えてみせるぜ」

その笑顔に、アリスは言葉を忘れ、ただ魔理沙の背中にぎゅっと力強く抱きついた。
言葉なんか出てこない。ただ、魔理沙の気持ちが嬉しかった。彼女の言葉が、ただ胸に響いた。
思わず泣きそうになる感情を、アリスはぐっと堪える。今は泣けない。あの娘が泣いているのに、自分まで泣く訳にはいかない。
だから、今は感謝を。魔理沙に対して心からのありがとうを。
そんなアリスの心の内が伝わったのか、魔理沙はフッと表情を緩め、そして視線を前へと向け直す。
言葉は要らない。今は速く。ただ、疾く。魔力の全てを大空を駆ける翼に用いて、ただ我武者羅に速く遠く。
この身は恋の魔法使い。人を想う故の奇跡こそが我が本分。想いを届ける為ならどんな奇跡だって起こしてみせる。
魔法の森を、妖怪の山を、人里を、迷いの竹林を。幻想郷の残す多くの自然を過ぎ去った光景と化して行く。
余力など残さない。この後力尽きても構わない。今は全ての力を賭してアリスを美鈴の元へ。
魔力が体内を沸騰しているように駆け巡る。何時暴走したっておかしくない程に魔力そのものが煮えたぎっている。
けれど、彼女は飛行速度を緩めない。何故ならそれはアリスの為だから。アリスの為なら彼女はどんな無茶だってやってみせる。
そうだ。恋の魔法使いが好きになった女の子の願い一つ叶えられないでどうする。
私は恋の魔法使い。人の想いを奇跡に変える女の子。それは当然自分の恋に対してもだ。

そして今、ここに奇跡は成る。湖をつき抜け、霧を振り払い、魔理沙は紅魔館の一室の窓へと突貫する。
ただ、着地を想定していなかった為、スピードはそのままだ。その事に気付き、魔理沙は『しまった』と舌打ちをする。
このままではアリスごと地面に叩きつけてしまう。どうにかブレーキを掛けなければ。
だが、彼女の不安は杞憂に終わる。この室内に居る人々は果たして誰だったか。
このまま魔理沙達が地面に叩き付けられるのを易々と見逃すような人々だったか。奇跡の最後は、美しい結末を。
魔理沙達が地面に叩き付けられる瞬間、その室内にいたレミリアはふっと魔力を固形化させる。
それは血のように赤い気弾。大きく丸く、そして弾力性と柔軟性を持たせた固形物質。
その気弾を魔理沙とアリスの着地点へと放ったのだ。その魔力の塊がクッションとなり、二人は床に叩き付けられることなく衝撃を吸収される。
そして、その気弾で最後まで衝撃を吸収しきれず、跳ね上がった二人を咲夜と慧音がそれぞれを抱き止めた。
時計の時間は十二時五十五分。こうして、ここに恋の魔法使いの奇跡は完全に成ったのだ。
咲夜の腕の中で魔力を使い果たした魔理沙は、苦笑を浮かべてレミリアの方へ視線を向ける。

「ナイスアシストだぜ。ブレーキの事を完全に頭から忘れてたからな。ちょっと冷や汗ものだった」

「馬鹿ね、これくらい当然よ。
 貴女が何も考えずにノーブレーキでここに突っ込んでくることくらい誰だって予想出来るわよ」

レミリアの言葉に、魔理沙は『そうか』と力なく笑って返した。最早彼女の魔力は底をつき、意識を保つことすら難しい状態なのだ。
その状態に気付いているレミリアは小さく微笑み、魔理沙に口を開く。それは彼女なりの労いの言葉。

「時間前にしっかり間に合った。よくやってくれたわ、魔理沙。
 後の事はアリスに任せて、貴女は少し眠りなさい。今回は少しばかり無茶のし過ぎよ」

「そうか…それじゃ、悪いけどそうさせてもらうぜ」

そう呟き、魔理沙は視線をアリスの方へと向ける。
心配そうな表情を浮かべるアリスの手を握り、魔理沙はいつものように気楽に笑ってみせる。

「アリス、後は母親の仕事だ。『美鈴』が元の姿に戻る瞬間を私の分までしっかり見届けてやってくれ。
 流石の私も今回ばかりは少し疲れたみたいだからな。父親は一足先に呑気に眠らせてもらうぜ」

「魔理沙…ありがとう。本当にありがとう…」

アリスからの感謝の言葉を聞き、魔理沙は表情を緩めてそっと瞳を閉じた。
全魔力を使い果たした魔理沙が眠るのを見届け、アリスは視線をレミリアの方へと向ける。
正確には彼女の腕の中で泣いている娘、美鈴の方にだ。

「さっきまでは泣きつかれたみたいで眠っていたんだけどね。
 貴女達が帰ってくるのを感じ取ったのかしら。少し前に目覚めてまた癇癪を起こしちゃってね。
 いくらあやしても泣き止んでくれないから、そろそろ赤子をあやす事に関して自信を失いそうになっていたところだわ」

「そう…ゴメンなさい、私が弱かったばかりに貴女達にまで迷惑をかけてしまって…」

「謝罪なんて必要ないわ。私達が貴女に望むのは唯一つ。
 最後のその時まで美鈴をその手に抱いて貰う事よ。美鈴が安心して元の姿に戻れるように、ね」

レミリアはフッと微笑み、美鈴をアリスに差し出した。
アリスは小さく頷き、レミリアから美鈴を受け取り、その腕の中に優しく抱き抱える。

「よしよし…ごめんね、美鈴。こんなに寂しい想いをさせちゃって…
 ママが馬鹿だから、こんなに貴女を悲しませてしまったわね…本当にゴメンなさい」

大泣きしている美鈴を、アリスは優しくあやす。
数刻振りに抱くわが娘の温もりが、アリスの心に浸透していく。その重みが、アリスの身体を満たしていく。
美鈴の存在を確かめるように、アリスは美鈴を優しく抱きしめる。自分の想いがこの娘に伝わるように、愛情が伝わるように。
そして、大泣きしていた美鈴は、アリスの腕に抱かれ、ゆっくりと癇癪を収めていく。
ようやく求めていた安住の地を手に入れたように、美鈴はアリスの服をぎゅっと力強く握り締める。
その姿を見て、アリスは心から魔理沙に感謝した。本当に魔理沙の言う通りだった。
もしこの場所に、美鈴に会いに来ていなければ、私は後悔するところだった。この娘を最後まで悲しませた罪の十字架を背負っていただろう。
だけど、今はそんな感情など一切無い。今はただ、これで良かったのだと思える。
美鈴が泣き止んだ。今はただそれだけでいい。この娘が元の姿に戻る時、悲しんでいる姿などでなければ、私はそれで。
ぎゅっと美鈴を優しく抱きしめるアリスに、その光景を傍で見守っていたパチュリーが言葉を紡ぐ。

「…そろそろ時間だわ。
 アリス、今から美鈴は元の姿へと戻る。けれど、勘違いしないで。
 元の姿に戻ったとしても、その娘は美鈴よ。貴女が愛した美鈴であることに違いはないのだから」

「ええ、分かってるわ…魔理沙に教えられたもの。
 美鈴が元の姿に戻っても、私との全てが無くなる訳じゃない。この娘は美鈴…そして元の美鈴でもある。
 今なら昨日、貴女が言っていた言葉を理解出来るから…だから、大丈夫よ。
 私は見届ける。私は二度とこの手を離さない。最後の最後まで、この娘を悲しませないように」

アリスの言葉に、パチュリーは『そう』と小さく返事を返す。
しかし、その表情は明るく、アリスの変化に喜びを示していた。そんな不器用な親友の姿に、レミリアはただ苦笑するだけだった。
そして、時計の針がタイムリミットを迎え、美鈴の身体から淡い光が生じ始める。
それはまるで天から与えられた羽衣のように、蒼白き光が美鈴を優しく包み込んでゆく。
光に包まれる美鈴を抱きしめながら、アリスは美鈴との日々を心の中に思い起こさせる。それは本当に幸せだった一週間。
この娘は私に沢山の事を教えてくれた。小さな命の温もりを、愛おしさを、そして見守る喜びを。
楽しかった。本当に楽しかった。この娘との日々は、本当に時間を忘れるくらい楽しくて。そして幸せで。
だから、伝えないと。この娘に、我が娘に感謝の言葉を。美鈴に、私と過ごしてくれた事へのお礼を。
彼女が紅美鈴に、いつもの彼女に戻る前に、母親としての最後の想いを伝えよう。それがきっと、魔理沙が託してくれた私の最後のやるべき事なのだから。
アリスは美鈴の顔を覗き込み、優しく微笑んだ。そして、優しく美鈴に言葉をかける。

「美鈴…私は貴女と一緒に過ごす事が出来て本当に幸せだった。
 この一週間は本当に夢のような時間で、貴女の事を想う時間が、本当に楽しくて…本当に充実していた。
 きっと私はこの一週間の事を絶対に忘れない。忘れたりなんかしない。忘れられない。
 だから…ありがとう。こんな駄目な母親だったけれど、私は貴女の母親でいられて、本当に幸せだったわ」

きっとその言葉は幼い美鈴には伝わらないだろう。だけど、伝えたかった。
私に沢山の幸せを与えてくれた幼きこの娘に、胸の内の感謝を少しでも伝えたかった。
ありがとう。本当にありがとう。私の美鈴。私の大好きな美鈴。私の愛しい美鈴。
時間が過ぎるにつれ、美鈴を包む光が強くなっていく。それは美鈴との別れへの確実なカウントダウン。
その事を思う度に、泣きそうになる。涙が零れそうになる。悲しみが心の中で暴走してしまいそうになる。
けれど、泣かない。私が泣けば、きっと美鈴が悲しむから。美鈴が安心してもとの姿に戻れなくなってしまうから。
だから笑うのだ。美鈴が笑顔でいられるように、楽しい気持ちでいられるように。それが私が出来る、最後の母親としての最後の務め。
アリスはそっと視線を美鈴の顔へと向ける。…大丈夫。美鈴は笑っている。
いつものように無垢な笑顔で、私の方を見て微笑んでいる。これならきっと、安心して元に戻れるだろう。
美鈴を包む光が一際強くなり、アリスはぎゅっと美鈴を強く抱きしめる。その温もりを忘れない為に。この身体に刻む為に。
彼女を包む光は渦となり、部屋中を眩しく包む。さあ、フィナーレだ。今こそがこの物語の幕引きに相応しい。
その光はやがて、アリスの視界から美鈴をも隠してしまう。だけど、その手は離さない。美鈴を抱きしめるその手は決して。
そして部屋中に拡散した光が収束し、大きな塊となり、美鈴を包んだ瞬間――

「まぁま…まぁま」

「あ…」

――ママ。最後の最後で、アリスに向かって美鈴はそう言葉を発した。
やがて光が収束し、アリスの腕の中には赤子の姿は何処にも無く、そこに在るのは気を失った華人小娘、紅美鈴だった。
元の姿に戻った美鈴を抱きしめたまま、アリスはただその場に立ち尽くしていた。
そんな彼女に気付いたレミリアは、咲夜に指示し、アリスの腕から美鈴を離し、気絶した彼女を抱き抱える。
そして、慧音はアリスに近づき、未だ呆然としているアリスに言葉をかける。一週間の終わりを告げる為に。

「…アリス、もう終わった。美鈴は元の姿に戻ったんだ」

「今…美鈴がママって…私の事を、最後にママって…」

アリスの呟きに、慧音は微笑みを浮かべ、ぽんぽんとアリスの頭を優しく撫でる。
それはまるで、彼女が寺小屋の子供を褒めるように。良く頑張ったという気持ちを伝えるように。

「そうだな…最後に美鈴もお前に伝えたかったんだろう。お前が自分の母親だということをな。
 だから胸を張れ。お前は本当に良く頑張ったよ。もう美鈴は元に戻ったんだ。今更泣くのを我慢する必要なんてない」

その言葉が限界だった。張り詰めていた糸が切れたように、アリスはその場に崩れ落ち号泣した。
けれど、その涙は悲しみだけに染まっていた訳ではない。確かに別れは我が身を切るように辛かった。
でも、美鈴は呼んでくれた。最後の最後に、アリスの事を『ママ』と。それは魔理沙の時のように名前を言えなかったという訳ではない。
それはきっと、彼女がアリスを認めてくれたから。彼女の母親が、アリスだけだと認めてくれたから。
だから美鈴は口にしたのだ。拙い言葉で、必死にアリスに向かってその言葉を。
その涙はきっと喜び。その涙はきっと感謝。愛する我が娘にママと呼ばれた事に対する涙。
だから恥じない。この涙をアリスは誇る。この涙は、愛しい我が娘が最後にくれた大切なプレゼントなのだから。



























美鈴が元の姿に戻ってからニ週間。
紅魔館の一室、美鈴の部屋でアリスは椅子に座り、美鈴の用意した紅茶を受け取っていた。

「悪いわね、突然お邪魔しちゃって。仕事が忙しいでしょうに」

「いえいえ、そんな事ありませんよ。
 最近はお嬢様が全然私に働かせて下さいませんから、実はアリスさんが来てくれて嬉しかったりしてます」

「そう?そう言って貰えると嬉しいわ。ありがとう」

カップを差し出す美鈴の言葉に、アリスは柔らかい笑みを浮かべてお礼を告げる。
その言葉に、美鈴は『えへへ』と表情を緩めて、彼女もまた自分の席へと座り、自分の分の紅茶を用意する。
今日、アリスは紅魔館――もとい、美鈴の部屋へと遊びに来ていた。
無論、遊びにと言っても弾幕ごっこなどではない。ただ純粋にのんびりとお話をしたりする程度だ。
あのドタバタ騒ぎから二週間という時間が過ぎ、アリスと美鈴はこうして二人だけで遊ぶ程度の仲に進展していた。
元の姿に戻った美鈴に、あの出来事から立ち直ったアリスが新しい関係を築く為に頑張って距離を詰めた結果だ。
元々人懐っこい美鈴は、すぐにアリスと仲良くなり、こうしてお互い笑顔を見せるまでに至るには時間など少しもかかりはしなかった。
ちなみに、あの一週間の事…美鈴が小さくなっていた事を、張本人である美鈴は全く知らない。
何故なら、アリスが美鈴が小さくなっていた事を彼女に黙っているように紅魔館の人々に頼んだからだ。
それはアリスの純粋な想い。ちび美鈴との思い出を、美鈴の負担になって欲しくなかったからだ。
ちび美鈴との思い出はアリスの胸の中にある。だからこそ、美鈴にその記憶を強要することなどしない。
美鈴とは一から新しい関係を築いてみせる。それがアリスの覚悟であり、誓いだった。
その言葉を聞き、レミリア達はアリスの意を汲んで美鈴にこの一週間の事を告げなかったのだ。
無論、それはレミリア達だけではない。霊夢や妖夢、そして八雲家の人々に至るまで、アリスの考えに同意した。
だから、今彼女がこうして美鈴と育んだ関係は彼女の努力の賜物。彼女が自分の手で掴んだ新たな絆だ。
もう一度、美鈴との思い出をここから刻んでいくこと。それが彼女の心に決めた新たな出発だった。

「最近はどう?レミリア達に変なことをされてない?」

「ええっと…あ、あはは。ど、どうなんでしょう?」

アリスの言葉に、美鈴は視線を逸らして誤魔化した。
その様子を見て、アリスはしっかり深く溜息をついた。最近気付いたことだが、美鈴は本当に嘘が苦手らしい。
その誰が見てもバレバレな誤魔化しは最早芸術にすら感じる程だ。

「…しっかりされてるのね。全くもう、レミリア達ったら…美鈴の嫌がることはしないように言っておいたのに」

「え、えっと!そ、そんな事よりもアリスさん!人形がお好きでしたよね?」

「思いっきり無理矢理話題を逸らしたわね。まあ、構わないけど。
 人形が好き…というか、それが本分なのよ。まあ、好きだからこそ魔法の一つの形態として使役しているのだけれど」

アリスの言葉に、美鈴はぱぁ~っと表情が明るくなる。
それを見て、アリスは思わず笑みを零してしまう。美鈴の感情がすぐに表情に出る癖も、最近気付いたことだ。
それはきっと、美鈴と仲良くなる以前なら絶対に気付けなかったこと。知ることすらなかったであろうこと。
美鈴が可愛らしい表情を見せる度にアリスは嬉しくなる。あの娘が大きくなったら、こんな風に魅力的な女の子になれたのだと。
アリスの言葉を聞き、美鈴はニコニコと笑顔を零し、嬉しそうに次の言葉を口にする。

「実はですね。私、凄くお気に入りの人形を持っているんですよ。
 いつの間にか部屋に置かれていたもので、誰の人形か分からないから、そのままネコババしちゃったんですけど」

「いつの間にか部屋に置かれてたの?不思議な人形ね。
 実はそれ、レミリア辺りが用意した人形で中に盗聴や盗撮をする魔法アイテムでも入ってるんじゃないの?」

「ち、違いますよお!!手製で作られていて凄く可愛いんですから!
 ちょっと待ってて下さいね!今アリスさんにお見せしますから!」

ぷんすかと怒りつつ、美鈴は椅子から立ち上がり、ベッドの方へと足を進める。
そんな美鈴の様子にアリスは苦笑しつつ、その人形とは一体どのようなものかと想像を広げる。
美鈴が気に入る人形とは一体どのようなものだろう。洋風人形?和風人形?それとも思い切って妖精人形?
まさかレミリアを模った人形ではないでしょうね、とアリスは心の中で一人微笑む。そして、ふとちび美鈴のことを思い出した。
そう言えばあの娘も人形が好きだった。あの日、私が作った人形を美鈴は本当に喜んでくれた。
その日から美鈴はいつでもその人形を手離そうとはしなかった。お風呂の時だって人形を持ち込もうとした程だ。
出かけるときはいつでもその手に人形が。さて、その人形は一体どのような人形だっただろうか。
一晩かけて、美鈴の為だけに作った人形。魔力の受け皿にするでもなく、媒体にするでもない。
ただ、美鈴の喜ぶ顔が見たい為だけに作ったその人形は、果たして一体どんな人形だっただろうか。
そう。あれは確か、美鈴が喜ぶ為だけに作られたもの。美鈴が何を喜ぶかを必死に考えたモノだった。
考えて、考えて、考えに考えた結果が、あの人形の形だった。その形は、彼女が目指す遥か先の未来。
紅魔館にその人在りと謳われ、紅魔館の盾として幻想郷に名を馳せる一妖怪の姿。
紅の長髪と美しき美貌を携え、紅魔館の門前にて主に仇名す愚かな侵入者を討つ気高き女性。その人形の形は――

「これですっ!どうですかアリスさん、凄く可愛いと思いませんか!
 ただ、モデルがどうも私みたいなんでアレですが、人形は凄く可愛くて私のお気に入りなんです!」

――そうだ。今、美鈴が手に持っている人形。それこそが、私があの娘の為に作った人形ではないか。
その人形に驚き、アリスは席を立って美鈴の人形を近くで観察する。そして、確信する。間違いないと。それは私の作ったあの人形だと。
魔法使いとしての自分も、人形遣いとしての自分も捨て去り、ただ母親として作り上げた一つの人形。
美しさも、精巧さも求めず、ただ娘の喜ぶ顔だけを夢想して完成させた人形がそこにあった。

「美鈴…それは…」

「えへへ、駄目ですよ。いくらアリスさんでもこれだけは譲れません。
 この人形は不思議なんですよ。持っていると何故だか心が落ち着くんです。
 あ、もしかしたらこの人形には魔法が掛かってるのかもしれませんね。人をリラックスさせる魔法とか」

魔法ならば掛かっている。その人形にはたった一つの魔法が。
それは愛情と言う名の魔法。彼女の事を想う母が、ただ一心を込めて作り上げた人形なのだから。
人形を持って微笑む美鈴を見て、アリスは視界が滲んでゆくのを感じた。
ああ、確かにこうして残っている。私とあの娘の全てが無くなった訳じゃない。あの娘とのつながりは今もなお美鈴に残っているのだ。
涙を堪え、アリスは美鈴に抱きついてしまう。喜びが抑え切れなかったから。人形を通じて美鈴との絆を感じ取れたから。

「あ、アリスさん!?突然どうしたんですか!?
 …って、あ、あれ!?もしかしなくても泣いてるんですか!?わ、私が泣かせちゃったんですか!?」

突然の出来事にオロオロとする美鈴に、アリスはふるふると首を振って否定する。
以前の絆と新たな絆。それはきっと今も美鈴を通して感じ取れる確かな絆。
忘れてしまう訳じゃない。消えてしまう訳じゃない。その絆でつながる相手は変わらない。どちらも愛する紅美鈴なのだ。
愛した娘、美鈴は今も生きている。アリスの腕の中でうろたえている少女こそ、美鈴その娘なのだから。
あの娘との夢のような一週間は終わりを迎えた。けれど、それで美鈴との絆が終わる訳じゃない。
私達の絆はこれからも続いていく。記憶を胸に、思い出を心に刻み、私は美鈴と新しい絆を再び作っていくのだ。
アリスに抱きしめられ、困惑する美鈴だが、ふと己の頬を伝うモノの存在に気付き、そっと手で拭う。
それは涙。悲しくも無いのに涙は止め処なく流れ、その事に美鈴は首を傾げる。

「…あ、あれ…何で私まで泣いてるんだろ…
 全然悲しくなんか無いし泣く理由も無いのに…どうして…」

それはきっと、喜びの涙。再び母の温もりを感じ取り、彼女の中に眠るもう一人の自分が呼び起こした感情。
きっとちび美鈴は笑っているだろう。アリスと美鈴が泣いている分、美鈴の中でちび美鈴は無邪気な笑顔を浮かべて。
そして今も母を呼んでいるに違いない。優しく抱きしめてくれるアリスに、『まぁま』と想いを込めて。








その光景を部屋の扉から覗いていた魔理沙は、小さく息をついて、そっと扉を閉めた。

「やれやれ…パチュリーからの頼み物を届けるには場面が悪過ぎだな。
 まあ、今のアイツにはこんな物は必要ないだろうけどな」

楽しそうに微笑を浮かべながら、魔理沙は手に持っていた写真を再び帽子の中へとしまい込んだ。

「さて、と。今日はフランのところにでも遊びに行くか。
 娘の事は母親が一番知っているだろうし、亭主は元気で留守が良い…ってな」

口笛を吹きながら、魔理沙は意気揚々と美鈴の部屋を後にした。
彼女の表情が優しい笑顔に溢れていたのは、きっとアリス達の様子を覗いていたからだろう。
魔理沙の帽子の中、そこにある一枚の写真。それはアリスとちび美鈴が映った写真。
アリスがちび美鈴に人形をあげた日、彼女が見せた笑顔。それはとても魅力的な母親の愛情に満ちた笑顔。
けれど、魔理沙は思うのだ。こんな写真よりも、今美鈴の部屋で見たアリスの表情の方が何倍も綺麗だと。


きっと今のアリスは、あの時以上に美鈴への愛情に満ち溢れているだろうから。










長文、最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。
今回は前々作、ちび美鈴の続編で紅魔館でも八雲一家でもないアリスが主役でしたがお楽しみ頂けたでしょうか。
少しでも楽しかったと感じて頂けたなら、作者としてこれ以上の幸せはありません。本当にありがとうございます。
今回は続編モノということもあり、前作のイメージをそのまま文章に出来たのではないかと思います。
沢山アリスと魔理沙を書けたので、本当に楽しかったです。あと久々にみょんが書けたことも。

個人的なイメージなのですが、アリスはきっと良いお母さんになれると思います。
そして魔理沙はきっと良いお父さんになれると思います。そしてマリ×アリは私のジャスティスです。
多分、魔理沙とアリスの間には可愛らしい女の子が生まれると思います。性別なんて関係ありません。(本気)
しかし美鈴は前作で母親になったかと思えば、今作で娘になったり…本当、やりたい放題し過ぎですね(全くです)

そんな訳で長くなりましたが、本当にここまでお読み頂きありがとうございました。
次回作はいつになるのか分かりませんが、もし次回作がありましたらまた読んで頂けると嬉しく思います。
本日は本当にありがとうございました。
にゃお
http://nyamakura.web.fc2.com/
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コメント



0.8970簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
大変面白かったです。

今回出てきたレミリアの作った絵本や、美鈴が暴れ時のことなど気になることが

出てきて続きがとても気になります。

それと、このシリーズでは「とある親子の物語」の設定は(美鈴が咲夜の母親等)

どのようになっているのでしょうか?

それでは次回作を楽しみにしています。

5.70名前が無い程度の能力削除
実に感動的なお話でした。

しかし一番印象に残ったのがパッチェさんの堂々たる盗撮シーンという

私はどうなんでしょうねw



最後に意見を一つ。

>捨食の魔法も使っていないのに

この文は魔理沙相手なら正しいですがアリスに用いるのはおかしいかと。

「使っているとはいえ」の方がよいかと思われます。
6.100名前が無い程度の能力削除
ちび美鈴が大人に戻るところ辺りでボロ泣きした。

その後の人形の辺りでマジ嗚咽混じりで泣いた。
9.90名前が無い程度の能力削除
アリスの子育て。どたばたコメディになるのかと思っていたら、何とも温かい話でびっくり。

楽しませていただきました。

関係ないけどこの一週間、慧音先生は妹紅との関係修復に全く動かなかったんですかねw

そろそろ手遅れなんじゃないかなー。もこてる派の自分としてはそれでもいいけどw

次回作にも期待しています!

10.100名前が無い程度の能力削除
とりあえずこれだけは言わせて下さい。素敵な作品ありがとうございます!

いや、いい親子ですね・・・正直涙腺がやばかったですw
13.100名前が無い程度の能力削除
母子の愛情の素晴らしさ。
とてつもなく良いお話しでした。
思わずマジ泣き。
次回作も全力で期待しています。
14.90名前が無い程度の能力削除
ただ一言、感動したとしかいいようがないです。
17.100名前が無い程度の能力削除
素敵なアリスと魔理沙と美鈴でございました。次回作いつまでもお待ちし続ける所存であります。
20.100名前が無い程度の能力削除
にゃお様の作品はキャラに対する愛が詰まっていて大好きです.

今回はアリスの子育てということでハチャメチャになるのかと思いきや

アリスと美鈴の普段のキャラ関係とかをうまく料理できていて楽しめました.

今回も色々と伏線を張って行きましたね.次回作も鶴首してまっています.



チラシの裏

欲を言えば,にゃお様のキャラの愛にあふれた小ネタの作品もみたいかなとも思っています.
21.無評価名前が無い程度の能力削除
伏線の回収がとても上手いと思いました。一番最初の会話がまさかアリスとパチュリーのところに繋がるとは。

レミリアが誰のために本を書いたか少しだけ予想はつきましたが、次回も楽しみにしています。

22.100名前が無い程度の能力削除
いいねww
23.100名前が無い程度の能力削除
毎度にゃお氏の作品はキャラクターが非常に

面白い。それだけでなくかわいくて特ににゃお氏の美鈴への

愛着がよく伝わってきます。長かったけど読んでよかったと思えるSSでした。

毎度すばらしいです。この幻想郷はまさに理想郷ですね。GJ!
24.100名前が無い程度の能力削除
アリスと美鈴の母子の愛情に感動し、魔理沙の漢らしさに惚れました。



そういえば美鈴、慧音、アリスって3面ボスですよね……

次に紅魔館一家に加わるのはにとりか!?
25.100名前が無い程度の能力削除
創想話でこんな感動したのは初めてかも・・・

家族愛っていいですよねえ。



それとは別で、前半、ちょっと文章がくどく感じたようなきがしました。

「ちなみに」という単語がかなり目に入った感じがしたのでそのせいかな・・・
30.100名前が無い程度の能力削除
この年で創想話で泣かされるとは!

特別な仕掛けも無い王道的な展開でしたが、それゆえに他に意識がいくこと無くアリスの美鈴への母性愛が強く読み取れました。

大変良いお話ありがとうございます。





……お嬢様、所々でカリスマ増えてるのに同じペースで失ってどーするんですかww
33.100名前が無い程度の能力削除
いつものギャグかと思ったら……感動しました。
34.100名前が無い程度の能力削除
あれ?もしかして神綺様が間接的にお婆ちゃんかな?
36.無評価てるる削除
今回はギャグがほとんど無い感じでしたが、楽しめました。

次回作もまってますよ~
37.90てるる削除
うお!点数忘れましたorz
40.100名無し妖怪削除
すごく感動しました
家族愛っていいですよね
100点じゃ足りないですよ
41.100名前が無い程度の能力削除
言葉はいらない 良くやった
44.100名前が無い程度の能力削除
Nice Justice
45.90削除
とても感動しました。

この一言に尽きます。 素敵な作品を有難うございます。



ラストのアリス、もらい泣きさせていただきました。

終わり方も綺麗で、本当に良かったです。

次回作、お待ちしてますよ。
49.無評価にゃお削除
ご感想ありがとうございます。

皆様の感想の一文一文を、喜びと興奮の余り鼻血を流しながら二十回ずつ以上読み返しています。

本当、相変わらずキャラ崩壊や設定崩壊が凄まじく、作者の脳内独自な幻想郷垂れ流しなのですが

その世界観を寛容にも認めて下さり、共有して下さった皆様に深く感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

そして、ご感想の中での質問や気に止まった点に僭越ではありますが、答えさせて頂きます。



>3様 「とある親子の物語」の設定~

 『とある親子の物語』と変態紅魔館シリーズ(『紅美鈴~皆に愛される能力~』から『ママは七色人形遣い~アリスとちび美鈴』

 までの創想話5作、プチ1作)の設定はつながっていません。説明不足、申し訳ありませんでした。

 今作を含む変態紅魔館シリーズの美鈴は咲夜さんの母親ではありません。

 咲夜と美鈴はこちらの方が設定としては原作寄りかと思います。いや、咲夜さんはレミィと同じく変態なんですけど…(マテ



>5様 捨食の魔法も~

 今、改めて求聞史紀を確認したところ、確かにその通りでした。ご指摘ありがとうございます。

 アリスは食事もするし、睡眠も取るという説明文から勝手に捨食は使っていないものだと勘違いしてました。

 その前にしっかり『とらなくても大丈夫』って書いてあるのに…落ち着け、自分。



>9様 慧音先生は妹紅との関係修復~

 違うんです。実は慧音先生はきっと毎日の用に妹紅のところに謝りに行ってるんだと思います。

 だけど、妹紅が未だに怒ってる理由が分からない鈍感な慧音先生は、それが原因で妹紅に燃やされてるんだと思います。

 …慧音先生が救済される日は来るのかなあ。慧音はもう紅魔館で妹紅と一緒に住み込めばいいのではないかと思います。



>13様 次回作も~

 ありがとうございます。そのお言葉は本当に凄く励みになります。

 ただ、これから自分のサイトの方で東方ではないSSを書く予定なので、次回作が何時になるのかは全くの未定です。

 ですが、その合間にちょこちょこと筆を進めて、出来るだけ早く皆様に作品を読んで頂けるように頑張ろうと思います。



>20様 キャラの愛にあふれた小ネタの作品も~

 ありがとうございます。

 ショートショートのお話は一度プチで書き、読み手を不快にさせてしまうという大失態を犯した為、

 密かに汚名返上の機会を伺って現在色々ネタを考えたりしてます。題材に適しているのはやっぱり八雲一家でしょうか。

 ドタバタやパロディ系のショートを是非とも一度は完成させてみたいなと思います。



>21様 レミリアが誰のために本を書いたか~

 おそらくご想像通りかと思います。ここの部分が過去作『レミリア・スカーレット~』の話につながります。

 なんだかんだ言ってレミィはやっぱりカリスマなんだと思います。うちでは何故か変態なんですが…何処をどうして間違ったのか。



>23様 にゃお氏の美鈴への愛着が~

 本当にありがとうございます。そう言って頂けると、美鈴好きの一人としてこれ以上の幸せはありません。

 こんな壊れたキャラ設定、そして独自の幻想郷にも関わらず、それを寛容に認めて下さり、受け入れて下さった

 読者の皆様には本当に感謝しています。本当にありがとうございます。



>25様 前半、ちょっと文章が~

 それは偏に作者の力量不足です。申し訳ありません…

 これからもっと色んな文章を書いて語弊や表現を増やしていこうと思います。



>30様 同じペースで失って~

 『カリスマを貯めたら負けかなと思ってる』って文々。新聞でおぜうさまが…(違





 
52.100名前が無い程度の能力削除
最後の人形のくだりでがち泣きしちまったぜ
53.100名前が無い程度の能力削除
貴方の文章には、それぞれのキャラへの愛が詰まっている。

だから読んでいて心地よいのだろう。

これからも良い幻想を見せて欲しいと、切に願う。
55.100名前が無い程度の能力削除
なんという素晴らしい作品
56.100名前が無い程度の能力削除
これほどに「恋の魔法使い」であることを体現した魔理沙はそうそう見ることができない。

とても素敵な魔理沙でした。



他のキャラについては他の皆様が語りつくしているので私が一番思ったことだけを書かせていただきました。いいお話をありがとうございます。
57.100名前が無い程度の能力削除
いい話をありがとう

アリスも素敵だけど、魔理沙もすごくかっこよかった
60.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙・・・いい旦那だぜ・・・
62.100時空や空間を翔る程度の能力削除
感動の涙でモニターが見えない・・・



こんな優しい母親心は幻想入りしてしまったのか・・・

現代の母親たちに読ませてあげたい作品です。
68.100初めてコメントする程度の能力削除
ここまで感動した東方小説を読んだのは初めてです・・・。

魔理沙がアリスを説得して紅魔館に連れていくシーンで

既に涙が出そうでした・・・。

83.100コメントせずにはいられない削除
とてもよかったです。優しくて暖かくて。焦点が変わってもいいので、是非この暖かくて優しい幻想郷をこれからも文章として下さい。とてもいい作品をありがとう。
85.100回転魔削除
こんな時間にリアル泣き入りました。
86.100名前が無い程度の能力削除
いい話をありがとう。

家族愛に乾杯!
87.100名前が無い程度の能力削除
これはいいママアリス

この後アリスが子供を作りそうな気がしてならないが
98.100名前が無い程度の能力削除
作者アホだろ、すばらしすぎる
こんなにあったかい気持ちになれたのは久しぶりです
正直本当に泣きそうになった
最高です。ありがとう
108.90名前を表示しない程度の能力削除
これは凄く良い家族愛。
こんな時間に涙腺が緩んでしまうところでした。

ただちょこっと気になった部分として美鈴が元に戻った時の「中華小娘」という件。
「華人小娘」じゃないのかなーと思いつつ……わざとだったらごめんなさい。
そしてごちそうさまでした。
112.100ユキト削除
最後のシーンで泣いてしまった。
113.無評価ユキト削除
二度目のほうが泣けるって・・・なにが起こったんだ。
115.100独白削除
涙が・・・
アリスのちび美鈴に対する愛が素晴らしかったです。
ハンカチが目元から離せません。
118.100ユキト削除
三度目の正直で泣かないと決めてたのに泣いてしまった。
うん。自重しようか。
120.100名前が無い程度の能力削除
久々にガチ泣きした気がする・・・。
123.100名前が無い程度の能力削除
シリーズを通して読むと、また感嘆深いですね。
作者様は不憫なキャラを決して作らないので、
読んでいてとても気持ちが良いです。
125.100名前がない程度の能力削除
シリーズを通して見るといろいろなところで前作に出ていた設定を
うまく使っていて面白かったです。アリスの葛藤をマリサが壊した辺り
から涙がでて、人形で絆を感じるシーンで感動しました。
ありがとうございました。
138.100名前が無い程度の能力削除
ああ、今の気持ちを的確に表せる言葉が見当たらない。
胸がいっぱいでどうしようもない。
気付けば涙。
ありがとう。
ありがとう。
149.無評価名前が無い程度の能力削除
いやもうなんかね 涙腺崩壊ですよ。
いい話をありがとうございました。
154.100名前が無い程度の能力削除
ビッグママ・・・
155.無評価名前が無い程度の能力削除
やっぱり紅魔館連中は悪魔なんだなと思いました
でも面白かったです
157.100名前が無い程度の能力削除
おかしいな…あんなに突拍子も泣く哀れに赤子にされためーりんに楽しくて笑って読んでたのに…今は目から水が出ているなんて…。
すごいです。まさかここまでギャグで笑わせながらも最後は感動させてくれるなんて思いもしませんでした!
158.100名前が無い程度の能力削除
何も言うことはない…
159.100名前が無い程度の能力削除
ただ純粋に感動しました。
アリスの優しさ・愛。上手く言葉にできないです。
168.100名前が無い程度の能力削除
ボロボロ泣いてる俺きめぇwww

・・・こんな物語に出会えた事を感謝します。
作者様に伝えたいこの気持ち

ありがとう・・・
169.90名前が無い程度の能力削除
なんというカリスマヴォルケイノ

このレミリアは間違いなく誇り高き吸血鬼
180.100名前が無い程度の能力削除
ワアアァァァァ!ナミダガトマラナイヨー!
204.100夕希削除
まじ泣きしました
もう今も涙が止まりません
209.100名前が無い程度の能力削除
最後の人形の下りで、うるっときました……。
最高に感動しました。
217.100名前が無い程度の能力削除
リリカル・トカレフ・キムゼムオールwww
223.100アルニレ削除
どちくしょう、なんだコレは。
最高すぎるもう駄目泣きそう。
あり得ないほどグッジョブです。
おのれにゃおさん、尋常じゃない。
236.100名前が無い程度の能力削除
まごう事なき名作ですね!
243.100名前が無い程度の能力削除
ぼろ泣きした後、最後に魔理沙の語りが入って「へへっ」てなったら、ぼろっと鼻水、涎、涙が一斉に出た。チクショー感動するわい