Coolier - 新生・東方創想話

風祝と紅魔館・3日目  ~風祝とメイド~

2008/04/25 23:11:22
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※この話は『風祝と紅魔館・序章、1日目』(作品集51)、『風祝と紅魔館・2日目』(作品集52)の続編に当たります。
※まとめと言う形も取っていますので、前作を読んでないと判らない部分が多々ありますので、前作を読んでいない方は、お手数ですが前作を読んでからどうぞ。
※咲夜さんが血塗れになるシーンがございますので、そこはご了承願えます。



































紅魔館でのアルバイト生活三日目の朝。即ち最終日。
結局今日も気付いたら朝になっていた。フランドール様のレーヴァテインで一撃KOか。初見殺しですよあれ。
…それにしても、昨日と今日はいったい誰が此処まで運んでくれたんだろう…。
…考えても仕方がないか。とにかく起きよう。
アルバイトとは言え一応今は紅魔館暮らしなので、部屋は一つ貸してもらっている。
最も、霊夢さんに()られたりフランドール様に()られたりとで、殆どまともに使った記憶はないのだが。
とにかくベッドから起き上がり、壁にかけてあった何時もの巫女服を手に取る。
…そう言えば、なんか薄紫色のパジャマを知らない間に着てるけれど、これも誰が着替えさせてくれたのだろうか。
序に巫女服も汚れ一つないほどきっちり洗濯してあるし。いやまあ、それはそれで嬉しいんですけど…。
どうも気絶する事が多いから、こういうところが不明確で少し不気味だ。

「早苗さん、早苗さん。もう起きてますか~?」

と、コンコンと部屋の扉を叩く音と共に、とても心安らぐ声が聞こえる。
何だかんだでまあ、紅魔館内で今のところ私を「早苗さん」と呼ぶ人は一人しかいない。

「美鈴さん、おはようございます。鍵なら掛かってませんよ。」

多分ですけど。
まあこの部屋は見た感じ内側からしか鍵が掛からないみたいなので、私が部屋で一人である以上は、鍵は掛かってないはずだ。
予想通りと言うか、美鈴さんはすんなりと部屋の中に入ってきた。

「おはようございます。あっと、着替え中でしたか。」

別に女同士なので見られたところで恥ずかしくはない。着替える手を休めぬままにする。

「構いませんよ。それより、どうかしましたか?」

昨日は別に朝から私のところに来なかったので、特にそういう習慣があるわけではない。
最も私が此処にいるのは今日までだし、そもそも昨日の朝は美鈴さんも一緒に倒れていたはずだ。

「あ、朝食まで時間がありますから、それまで庭の散歩でもどうですか?」

なんとも嬉しい一言だ。
窓から覗く太陽は、多少朝もやで光が薄いものの、美しい光を保っている。
こんな中で友達と2人で散歩なんて、どれだけ気持ちがいい物だろうか。
私は問いかけから1秒と掛からずに頷き、そそくさと着替えの方を急いだ。


 
 * * * * * *



他愛もない会話をしながら、私と美鈴さんは庭の散歩と続けていた。因みに現在午前7時ごろ。
改めて見てみると、紅魔館の庭は結構広かった。
館そのものが大きいから庭もそれに比例して大きくなるんだろうけど、そう考えるとやっぱり紅魔館も広い。
…広いけれど、やっぱり庭と比較すると、内部が大きすぎる気がしなくもない。
…う~ん…。…空間を操れる人でもいるのかな…。でも今更私が逢ってない人なんているのかな…。(名前がある人限定)
…ま、いいか。今そんな事を考えるのは無粋極まりない。

「それにしても、今日もいい天気ですね~。」

と、そう思って顔を上げた瞬間に、美鈴さんの呑気な声が響く。
確かにいい朝だ。さっきよりも少しだけ靄も晴れ、空の雲ひとつない晴天もはっきりと見える。
これほど清々しい朝と言うのも、私はあまり経験した事がない。いや、美鈴さんが隣にいてくれる分、これ以上のものはまだ知らない。

「そうですね、今日で紅魔館を離れるので、雨でも降られたら困りましたよ。」

…ちょっとだけ、そんな事を言ってみた。
あまり美鈴さんを試すような事は言いたくなかったけれど、やっぱりちょっとだけ気になってしまう。
たった3日だったけれど、その中で美鈴さんは私の事をどう思ってくれていたのか…。

「…だったら、雨が降ってほしかったなぁ…。…早苗さんが、紅魔館から出れないくらいに…。」

美鈴さんの足が止まり、顔も少し俯き加減になる。

「…結構長く生きてきましたけど、本当に此処まで誰かに隣にいて欲しい、そう思ったのはもう数えるくらいしかありませんね…。
 出来れば…、…早苗さんには帰って欲しくありません…。…ずっと、一緒に紅魔館で暮らしていて欲しいです…。」

…ああ、どうして美鈴さんとは凄く気が合うのか、やっと理解できた気がする…。
美鈴さんもやっぱり妖怪であり、パチュリー様と同じように、最初は一人だったのかもしれない。
けれど、レミリア様や咲夜さんと出会って、一人でいる事を嫌うようになっているのだろう。…最も、美鈴さんの場合は自覚していないかもしれないが…。
なので私は、初めて出会った時にそうしたように、美鈴さんの腕を、そっと握り締めた。

「…そうですね、私も出来るならそうしたいと思いますし、美鈴さんと一緒に紅魔館で過ごしたいとも思います。
 ですが、私はそれ以上に優先しなくてはいけない事があるんです…。…これでも、神に仕える者ですから…。」

私は風祝。守矢神社の神に仕える存在。
それだけは如何しても優先しなくてはならない事。それが風祝としての使命であり、私の存在意義ですらあるのだから。
美鈴さんはさらに顔を俯けてしまった。…出来れば、こんな姿は見たくはなかったけれど…。
それでも、美鈴さんは私の事を、そうまで思ってくれているのだ…。
…ならば、ちゃんとその心に答えてあげなくてはいけない。
私の気持ちがちゃんと美鈴さんに伝わるのか…。…いや、伝えるんだ、必ず。

「…巫女って、やる事が無い時は本当に暇なんですよ。
 しかも守矢神社はダメな神様の住処ですからね。仕事なんか全然ありはしません。」

美鈴さんの顔がすっと上がるのが見えた。
…その眼には、僅かだが涙が潤んでいるように見える。ああ、やっぱり美鈴さんは最高の友達だ…。

「…だから、暇な時は此処に来る事にします。紅魔館は電気があるみたいですから、色々外の世界の物も持ってきますよ。
 美鈴さん。アルバイトは確かに今日で終わりですが、私達の友情は決して切れません。
 必ず逢いに来ますからね。守矢神社に帰っても、私は何時でも美鈴さんを思っていますから…。」

もう何だか誰かに愛の告白をしているような気分だった。告白と言う点では間違ってはいないが。
…しかし、ちゃんと美鈴さんに私の心は届いたようだ…。

「…早苗さん!!」

「美鈴さん!!」

最初出会った時のように、涙を流しながら抱き合う私と美鈴さん。
ああ、なんて暖かい。私は美鈴さんに逢えた事に、心の底から感謝をする。
後は何も語らず、私は美鈴さんを抱きしめ続け…。



「…朝から女同士で気味悪くいちゃつくのは止めてくれるかしら…?」



「「いだだだだだだだだだだだっ!!!!!」」



突然現れた咲夜さんのアイアンクローを喰らう。あまりの痛さになんか別の涙が出てきた。
ただ頭を掴まれているだけなのにこれだけ痛いとは、恐るべし咲夜さんの握力。

「さ、咲夜さぁん。どうしたんですかこんな朝からぁ。」

涙眼で訴えかける美鈴さん。もう何だかこの表情が嵌りすぎてて怖い。

「こんな朝からとはこっちの台詞よ。全く、早苗に用があるから探してみれば、何を朝日の下で不気味な事を…!」

…あれ?ちょっとだけ咲夜さんの顔が赤くなってる気がする。
ひょっとしてそういう事に免疫力が無いのかな?まあ真面目な性格だから分かる気がするけれど。
…意外と可愛いですね、咲夜さん。

「…早苗、何かとても考えてはならない事を考えなかった?」

…ああ、どうやら最初に比べると、表情に出なくなったらしい。気付かれてはいないみたいだ。

「気のせいですよ。それより私に用事とはなんでしょうか?」

これ以上追求されてはたまらないので、話題を変える事にする。

「ああ、そうね。美鈴、ちょっとメイド達に「今日の朝食は1時間後ろにずらす、それまでは自由行動で構わない。」と伝えてきて。」

おや?朝食が遅れるとは、何かあったのだろうか?
美鈴さんも悪い予感がしたのか、顔を青ざめて肩を震わせて…。
…って、これって悪い予感と言うより、悪い物を見たと言う感じの反応じゃ…。

「…さ、咲夜さん、熱があるんじゃないですか!?大丈夫ですか!?ちゃんと昨日は布団を被りましたか!?」

やたらと狼狽する美鈴さん。私も咲夜さんもそれには首を傾げる。

「何を訳の判らない事を言ってるの?あなたこそ熱があるんじゃないのかしら?」

「だ、だって1時間も咲夜さんが自由行動を出すなんてありえません!!はっ!!さては貴様咲夜さんの偽m「さっさと行けッ!!!!」

何時も通りであろう怒鳴り声と共に、美鈴さんの頭にナイフが数本突き刺さる。
その行動にちゃんと咲夜さんである事を確認したのか、ナイフも抜かずに大慌てで立ち去る美鈴さん。
…ああ、この濁った空気に、私はどう対処すればいいのだろうか…。

「…全く、普段自由行動していいなんて指令は確かに使わないけど…。
 メイド全員に連絡を回していれば、実質上美鈴の自由行動は殆どない事にどうして気付かないのかしらね…。」

物凄くさりげなくひどい事を言う。ああ、やっぱり何時も通りなんですね咲夜さん。
この真実は、取り敢えず美鈴さんが気付くまで私の胸に秘めておくのが吉だろう。

「通信機器はないんですか?それを使えば一瞬で終わりますよ?」

気になった事だけは聞いてみるとする。どうせ紅魔館には今日以降も来る事になるのだろうから、詳しく知っておくことに越した事は無い。
…まあ、そんな知識がなんの役に立つかは判らないけれど。

「一応あるけれど問題ないわ。先にちょっと細工して、使う気がおきなくなるようなトラップを大量に仕掛けておいたから。」

…え、ちょっ、それって…。



「みぎゃあああああああああああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッ!!!!!!!」



…何か聞いてはならない悲鳴を聞いた気がする。
暫くの間何か危ない音と共に響いていた悲鳴は、ドスンッ!!という外にいても感じられるような大きな地響きと共にぱったりと途絶えた。
…美鈴さん、ごめんなさい、私にはどうする事も出来ませんでした…。

「放っておいても大丈夫よ。死ぬようなトラップは仕掛けてないわ。
 最もナイフ50と矢が50とグングニルが50刺さった状態で5tの鉄球に潰されてる位の事はあるかもしれないけれど。」

それで死なない妖怪の耐久力と、咲夜さんの恐ろしいまでの用意周到ぶりに脱帽。私の場合は脱蛙の髪飾り。
最後の地響きは鉄球が落ちた音か。咲夜さんよくそんなトラップし掛けられましたね。
紅魔館が一部でも崩れた様子が無いところを見ると、その通信機器とやらは庭の何処かにあったのかな?気付かなかったけれど。
…取り敢えず、後で美鈴さんに差し入れでも持っていこう。何がいいかな…。

「…そ、それで咲夜さん、私に用とは一体なんでしょうか?」

無理矢理今の現実を無視すべく、私はさっきの話を話題に出す。
用があるという咲夜さんを置いて美鈴さんのところに行く度胸は私にはありません。本当にごめんなさい美鈴さん。

「ああそうだったわ、取り敢えず2つ用があったのよ。
 まずは一つ目だけれど…。…あなた、昨日パチュリー様に毒薬でも飲ませたの?」

「…………はぁ!?」

どうも咲夜さんの言葉を聞き取るまでに時間が掛かってしまったようだ。理解はまるで出来なかったが。

「だとしたら大した物ね。私も危険な実験を阻止するために何回か毒を盛った事はあるけれど、一度も成功した事は無かったわ。
 門番は全然出来なかったけれど、あなたそういうところは結構優秀なのかしら?
 それなら是非これからも「ちょっと待ってください。話が全くわかりません。」

何だか咲夜さんが一人で暴走し始めているので、ここいらで遮っておかないと大変な事になりそうだ。
咲夜さんはパチュリー様に毒を盛っているのかとかそういう突っ込みは多々あるけれど、今はあらぬ誤解を解く方が先決だろう。
しかも「是非これからも」って何ですか。これからも私に犯罪の手引きをしろと?

「…あら?毒を盛った訳じゃないのかしら?じゃあ「他人を洗脳する程度の能力」の持ち主なの?」

「違いますってば。私は「奇跡を起こす程度の能力」です。…あの、パチュリー様に何かあったのですか?」

もう何処に突っ込めばいいのか判らなくなってきたので、ストレートに本題に入る事にする。
…咲夜さんも意外と思い込みが激しいタイプだなぁ。椛さんもそうだったけれど。

「…あなた、本当にパチュリー様に何もしていないの?」

してません。強いて言うならば元ロンリーハート同盟を結んだくらいです。それは言わないけれど。

「…じゃああのパチュリー様の変貌っぷりはいったい…。…小悪魔のインフルエンザが伝染ったのかしら…。
 いえ、パチュリー様なら自分には伝染らないように工夫してあるはずだし、じゃあどうして…。」

ぶつぶつと考え込んでしまう咲夜さん。あの、いい加減何があったのか教えて欲しいんですけど。

「ああ、ごめんなさい。あまりの出来事だったから少し混乱してしまったみたいね。
 ええと…、さっき私が部屋で今日の仕事の振り分けを考えていた時に…。」



 * * *  咲夜の記憶回想(以下咲夜視点)  * * *



「…ふぅ、メイド達の割り当てはこんな物でいいかしらね。」

ため息と共に、普段はあまりでない独り言が洩れる。まあ今は自室だし関係ないか。
さて、美鈴は終身名誉(?)門番だから良いとして、後はバイトの早苗…。
昨日の仕事の出来具合をまだパチュリー様から聞いていないから、出来ればそれからにしたいけれど…。
…時計を見てみる。まだ6時半か。パチュリー様、確実にまだ寝てるわね。
まあひょっとしたら徹夜で本を読んでいたりするかもしれない。どうせ図書館までは一瞬で(他人の時間感覚ではあるけれど)行けるのだから…。
そう思って腰を浮かしたところ、タイミングを計ったかのように誰かが扉をノックする。

「咲夜、いるかしら?あなたの部屋だからいないはずは無いけれど。」

…今の声は…、…パチュリー様?
丁度良かった、と思う前に、私は何故パチュリー様がこんな朝早くから私の自室に?と言う疑問に囚われる。
パチュリー様がまだ日も完全に顔を出さない朝から私の部屋を訪問するなんて、恐らく初めての出来事だ。
どうも早苗が来てから、紅魔館には初めてな事が多い。因みに霊夢による被害と言うのも(紅霧異変は除くが)初めてだった、

「パチュリー様、こんな朝早くからどうされたのですか?」

私は扉を開け、やっぱり声の主はパチュリー様だったと確認する。
ひょっとしたら、妹様あたりがパチュリー様の声色でも使っているのかと言う若干の期待はあったのだが、これもこの時点で全て消え去る。

「どうと言う事ではないわ。幾つか用があるだけの話よ。まずは咲夜に朝の挨拶。おはよう。
 それと昨日の早苗の仕事報告。あれは大した物だったわ。仕事の丁寧さだったらあなたにも匹敵するほどよく働いてくれたわ。」

…この時点で私は嫌な予感を感じていた。何せ今の発言だけで3つもいつもと違うところがある。
まずパチュリー様が私に朝の挨拶なんてしてくるのが初めてなのだ。最も朝のうちはパチュリー様には殆ど逢わないのだが。
それとパチュリー様がわざわざ仕事報告をしてくるのも。これも普段は小悪魔が仕事をしているのだから報告の必要は無いからまだ許せる。
…しかし、パチュリー様が人を褒めているのには身の毛が逆立つ思いだった。
…ありえない。あの何だかんだでお嬢様並みに自分勝手で意固地なところがあるパチュリー様が、そんな事…。
勿論、そんな事は口が裂けても言わないけれど…。

「そ、そうですか、では給料支給の際にはそのことは考慮させていただきます。御用とはそれだけでしょうか?」

出来ればこの辺で終わらせて欲しかった。既に私の頭は混乱状態なのだ。
しかし、悲しきはやっぱり相手はパチュリー様。一筋縄で終わってくれる相手ではなかったという事。

「いえ、まだあるわ。…暫く危ない魔法実験は控える事にするわ。咲夜、今まで迷惑掛けた事は謝るわ。ごめんなさい。
 それと美鈴にはもう少し優しくしてあげなさい。あれでもあの子は頑張っている心算なのでしょうから。
 最後にこれ、片方はあなたの分ともう片方はレミィにあげて。人間の里でも有名な菓子屋らしいから、味は保障するわよ。」

そう言って私に二つの菓子織を渡してくる。しかし、私の身体はそれを受け取る事を拒絶する。
と言うより、この時点で既に私の頭は何かを考える事そのものを拒絶していた。

「…ぱちゅりーさま、きょうでげんそうきょうはほうかいでもするのですか?」

もう何処にアクセントを入れて喋ったかなんて覚えていない。多分発音が滅茶苦茶だった。

「…咲夜?どうしたのかしら?目の焦点があってないわよ?」

「きょうでげんそうきょうがほうかいするならば、おぜうさまとうふうふしてからしにたいので、いまからさっそくこうどうをおこすことにします。」

この辺で何を言っていたのかは私の記憶から抹消されているが、とにかくお嬢様の部屋に向かおうとしたのは覚えている。
しかし、パチュリー様の細腕からは信じられない力で腕を掴まれて止められた。

「待ちなさい咲夜。レミィに手を出すのは私が先よ。
 それとどうしてそんな事を思ったのかは知らないけれど、今日で幻想郷は滅びないから安心なさい。」

「じゃあすうじつちゅうにほろびるのですね。ではぱちゅりーさまよりさきにおぜうさまと…。」

「少なくともあなたが生きているうちには滅びないと思うわ。流石にイレギュラーな考えは除くけれど。」

このあたりから頭が少しだけ落ち着いてくる。
…近日中に幻想郷が滅びる訳ではないみたいだ。じゃあパチュリー様は何故こんな事を?
…あ、ああ、そうか、そういう事か。これはあれだ、パチュリー様の計略だ。
優しくしているように見せかけて、きっとこの菓子織の中には危険な薬物が入っているんだな。
考えましたねパチュリー様。正攻法で言っては私に止められるからって、こう遠まわしな作戦を使ってくるとは。
しかし、気付いた以上はその策は無効です。一応私は毒とかそういう物の扱いには慣れていますからね。

「判りました、お預かりします。美鈴の所業については考え物ですから、すぐにと言う訳には行きませんが。」

ここは一旦騙されたフリをしておこう。
図書館に帰っていただいたら菓子織の中を念入りに調べて、どんな薬が入っているかを突き止めておこう。
そうすればパチュリー様の実験を阻止するのに役立つかもしれない。

「お願いね。それと咲夜、あなたもちゃんと休みは取らないと駄目よ。時間を止めて休んだって、魔力は消費するのだから。」

そう言ってパチュリー様は踵を返す。
ええ、肝に銘じておきます。しかし、だからと言って菓子織の中身の事は別です。騙されません。
パチュリー様が見えなくなった後、私は部屋の鍵を閉めてから色々と実験道具を取り出す。
おっと、ひょっとしたら菓子織を開けた瞬間に何か出てくるかもしれない。ちゃんと気をつけておかないと…。
…よし、怪しいガスとかそういう類ではないな。じゃあ開けてみよう。
…中は普通の饅頭のように見える。確かに里では高級な菓子屋として有名な店の饅頭だった。
しかし、私は騙されない。一つを取り出して、ありとあらゆる方法を使って毒物の検索を始める。

…それでも、何故か毒物はおろか薬一欠けらすら検出は出来なかった。

「…ど、どういう事…?…まさかパチュリー様が本当に改心したとでも言うの…?」

実験結果を見ながら、私は思わず独り言を漏らしてしまう。
私がやれるべき検査は全てやった。しかし、結果は完全なる白だ。
…となると、本当にパチュリー様は…?…い、いや!騙されるな私!瀟洒であれ!
これはつまり、パチュリー様は私には検出できない薬を作ったんだ。そうか、そういう事だ。
そうすると、この饅頭の検査はもっと高い技術を使って調べなくてはいけない。
幻想郷で最高の薬師と言えば…。…永遠亭の八意永琳か…。
…今から永遠亭に行っている余裕はない。あまりの出来事に朝食の準備をするのを忘れていたからだ。
最も、今日の朝食は少し趣向を凝らす心算ではあるので、元々少し遅らせる気ではあるのだが…。
…今この場で結果を出せる方法、それは…。

「…私が食べるしかない、わね…。」

美鈴に任せたいところなのだが、あの子の事だ、絶対に気味悪がって受け取らないだろう。脅せばいいかもしれないが。
早苗はまあ、アルバイトにパチュリー様の毒を食べさせるのは流石に気が引ける。
…それに、多少の毒なら寧ろ有効活用できる。気分が悪いフリをしてお嬢様と…。
…っと、いけないいけない。そんな事を考えてはいけない。瀟洒であれ。
私にも渡してきたのだから、死ぬような毒である事は無いだろう。
もし死んだ時は…、…呪いに来よう。死神にも閻魔にも亡霊にも邪魔はさせない。
私は饅頭を一つ手に取り、恐る恐る口元へと運ぶ。…しかし、どうも手がそれ以上進まない。
…やっぱり幾らかの恐怖心がある。はっきり言って妹様と弾幕合戦をやるよりもある意味恐い。

「…ええい、覚悟を決めろ私!!」

ぱくり、と饅頭にかぶりつく私。因みに中身は白餡子だった。
何度か租借し、取り敢えずその味だけは確りと味わっておく。ひょっとしたら最期になるのかもしれないし。
…うん、流石に高級な和菓子なだけあって美味しい。意外と甘さが控えめだったので、私としては好みの味だ。
ああ、万一死んでもこれが最期の饅頭ならばまだ許せるかもしれない。ただ心残りなのがお嬢様とまだ何も…。
…そんな事を考えているうちに、食べ終えてから5分ほどが経つ。…しかし、何も変化がおきない。

「…えっと…、…これは…一体…。」

また頭が回らなくなってくる。何故だ、何故何も起きないんだ。いや、起きないに越した事は無いんだけれど。
もし薬を盛ってあるのだとすれば、あれだけの演技をしていたのだ、相当な自信があって渡した事だろう。故に、薬が失敗作であった可能性は低い。
序にパチュリー様の性格上、遅効性の毒と言うのも考えづらい。わりと研究結果をすぐに求める人だから。
…じゃあどうして何も起きないんだろう…。
…あ、ああ、そうか、きっとどれか一個だけ薬入りだったりするんだな。
だからさっきの検査でも白だったんだな。ハズレ(私としてはアタリだが)を引いたって事なんだな。
…よし、パチュリー様、私相手と言うだけあって、ここまで周到に細工をしていたのは流石です。
しかし、気付いた以上は私の勝ちです。お嬢様の身はこの私が守ります。

…で、結局残さずに食べてみたのだが、最後の最後まで私の身体には何の変化も見られなかった。

「…あ、ありえないわ…。もう本当にパチュリー様が改心したとしか…。」

思考が追いつかなくなる。もうこれは最後の望みに掛ける事にするしかない。
つまり、パチュリー様に何かがあって性格が変わってしまった、と言う事だ。
ただ、魔法実験の失敗によって、と言う事は考え難い。昨日は殆どを妹様との遊戯に費やしていたらしい。
小悪魔も昨日はインフルエンザで倒れていたからありえない。インフルエンザじゃなくてもありえないだろうが。
となると…、…アルバイトの早苗か。あの子が何かしたに違いない。て言うかそうであって、お願いだから。
要所で時間を止めながら作業していたので、幸いまだ七時をちょっと回った程度だ。
さて、早苗の部屋に向かうとしよう…。…私の精神安定のために。



 * * *  回想終了(以下早苗視点)  * * *



「…それで、部屋にいなかったあなたを探しに来た訳よ。」

咲夜さんの半端ない疑いっぷりには最早敬意を表す。
それと共に、今までのパチュリー様の行動が思いやられて、少しだけ虚しくなった。

「…えっと、とにかく何もしていませんし、多分パチュリー様は本当に皆様の事を思ってそうしたんだと思いますよ。」

取り敢えず、私なりの意見はちゃんと述べておこう。
昨日の私とパチュリー様の会話を思い出す。自分で言うのも難かもしれないが、今のパチュリー様ならば改心したって何もおかしくは無い。
…もっとも、詳しい事は話せないけれど。

「きっと、パチュリー様は今まで自分の事を隠しすぎたのかもしれません。
 だから咲夜さんもきっと、本当のパチュリー様の事を良く知らないんだと思います。
 今のパチュリー様が、きっと本来のパチュリー様なんですよ。咲夜さんにも見せた事がない、素顔のままの…。」

パチュリー様は、一人になる事を何よりも嫌っていた。誰かと共にいたい、何時でもそう考えていた。
それでも自分のプライドか何かが、それを打ち明ける事を妨害していた。
それと同時に、本来の自分さえも包み隠していたのかもしれない。
だから、素顔のパチュリー様に咲夜さんも戸惑っているのだろう。
…でも、そのうち咲夜さんたちも分かってくるかもしれない。
今のパチュリー様が、本物のパチュリー様であると言う事に。
…それに、元が優しい人でなければ、幾ら真面目だからって、小悪魔さんがああも真摯に付き従う事も無いだろうし。

「…そう、本当にそうだとしたら、暫く私の仕事も楽になりそうね。そうであることを願うわ。」

咲夜さんもようやく納得したのか、僅かだが、私の前ではあまり見せなかった笑顔を見せた。



「で、二つ目の用事なんだけれど…。」

話が一段落した後、咲夜さんは一瞬でいつもの真面目な顔に戻る。
この切り替えの早さも、パーフェクトメイドたる由縁かなぁ。

「あなた、料理は出来るかしら?」

…急に判らない事を聞かれる。
一つ目の話と二つ目の話の違いの大きさに、私は一瞬どういう意味なのかが理解できなかった。

「えっと、一応出来ますけど…。」

まあ、どこぞのぐうたら神様に毎日食事を作っているので、料理の腕前はそこそこだと言う自信はある。
…あっ、ひょっとして和食の事を教えて欲しいのかもしれない。
紅魔館の食事は一昨日も昨日も洋食だったから、きっといつも洋食なのだろう。
そこに新しく和食も入れる心算なんだな、きっと。
…ああ、でも咲夜さんに上手く教えられるかな…。あまり人に教えた事はないからなぁ…。

「そう、良かったわ。じゃあ今日の朝食はあなたが作って頂戴。」

「って、私が作るんですか!!」

思わず突っ込んでしまった。
展開的には咲夜さんが作るのを私が始動するって所を想像していたんですが…。

「ええ、それと今日の仕事は一日メイドよ。後で制服は渡すから、食事の方はよろしくね。」

「ちょっと待ってください!!朝食ってメイドさんたち全員分ですよね!?何人分作ればいいんですか!!」

一昨日昨日と紅魔館で過ごしていたけれど、紅魔館のメイドの数はかなり多い。
それこそ廊下を歩いていれば、この広い館でも必ずすれ違うと言うくらいで…。

「大した事無いわよ。150もいないと思うから。100くらいはいるかもしれないけれど。」

「最低でも100はいるんですか!?しかも咲夜さんも正確な数は把握してないんですか!!」

「紅魔館はメイドになるも辞めるも自由だから、勝手に辞めていくのもたまにいるのよ。」

随分いい加減ですね…。

「正確な数も把握しないで、どうやって仕事分担とかやってるんですか…?」

咲夜さんのような仕事熱心な人なら、仕事に無駄は出さないように分担をしているのだろう。
でも、それは正確な数を把握していないとできる事ではない。一体どうやって…。

「簡単よ。仕事の90%を私一人でやってるだけ。」

さいですか…。流石は時間を操る程度の能力…。
あれですね、要するに紅魔館は殆ど咲夜さん一人で動いているという事ですね。
なんだろう、ここは同じ人間なのによく頑張れるなぁ、と尊敬するべきところのはずなのに、何故かそういう感情が全く沸いてこない。
時間を止めるなんて反則ですよ、今更ですけど。

「さっ、無駄話はこれくらいにして、早く朝食の準備をして頂戴。メニューに関してはあなたが決めて構わないわよ。」

えっと、もう何だか私がやること前提で話してますよね。
数人分ならともかく、そんな百数十人分の食事なんて作ったことありませんよ。
…咲夜さんじゃないんだから、そんなの一人で出来るはずが無い…。

「…せめて手伝ってください…。…あと美鈴さんあたりにも助力を要請します…。」

半泣き状態で頭を下げる。
取り敢えず料理上手(であろう)咲夜さんと、何か色々スキルが高そうな美鈴さんがいれば、何とかなるかもしれない。
その自信は何処から出てくるのか、と聞かれても困るけれど。

「…まあ私は構わないけれど…。美鈴は動けるようならね。」

…あっ、そう言えば美鈴さんは今…。
結構話し込んでしまったから、そろそろ助けに行かないと出血多量とかで危険なんじゃないだろうか。
妖怪に出血多量も何もあるのかは知らないけれど。
まあ、話は終わったのだから、もう美鈴さんの救助に向かっても大丈夫だろう。
さっき地鳴りが聞こえたのはあっちか…。…よし。

「咲夜さ~ん、伝達終わりましたよ~。」

…ずっこけた、まさかこの言葉がピッタリ当てはまる状況を、人生で一度でも体験する事があるとは思わなかった。
さあ美鈴さんの救助に行こう、そう意気込んだ瞬間に、背中からやたら元気な美鈴さんの声が聞こえる。

「あら、思ったより早かったわね。トラップから抜け出す時間まで計算して、一時間掛かると踏んでたんだけど…。」

「いえいえ、トラップ事態は予想していましたから。最後の鉄球はかわせましたので、わりとすぐに済みましたよ。」

…ああ、声が途切れたのは潰されたんじゃなくて、かわした時に腰が抜けたとかそういう事で声が出なかっただけか…。
とは言っても、元気そうなわりに身体中に矢やらナイフやらグングニルが刺さりっぱなしなのが痛々しい。
まさか美鈴さんはあの姿で伝達に回ったのか?それともトラップ覚悟で通信機器を使ったのだろうか?
…前者だったら、紅魔館内で騒ぎになってないのが気になるのだが、相手が美鈴さんだったら他のメイドさんたちもスルーしていそうで怖い。
…もうどっちでもいいや、美鈴さんが「自分は無事だ」と思っているなら。



 * * * * * *



さて、場所は変わって、ここは紅魔館の厨房。
意外と近代的なキッチンだったのに驚いた。パチュリー様の魔法式ガスコンロもちゃんとあるし。ガスが無いので魔法を使うしかないとか。
冷蔵庫は、私は某三丁目の夕陽で初めて見た、氷で冷気を取るタイプ。まあちゃんと役目を果たしているのだから問題ないだろう。
て言うか、折角電気が通るようになったなら、電気冷蔵庫でも買ってくればいいのに。確か香霖堂にあった筈だ。
調理道具もちゃんと揃っているし、料理をすると言うのであればこの場は完璧と言える。
…しかし、今は私は頭を90度傾けていた。とても悩んでいた。
調理道具がないとか、そういう事ではない。

「…何を作ればいいんだろう…。」

もっと根本的な問題だった。
まずリクエストされたのは和食だ。それは別にいい。私の得意分野なのだから。
朝食と言うのだから、出来れば軽めの物がいい。天ぷらとか油っぽいものはNGだろう。
朝の定番メニューと言えば、まあ白米は当然だ。これも別に炊飯器が無くたって何とかなる。
と言う訳で咲夜さんと美鈴さんには今、そっちをやってもらっている。
ただ、普段お米を使ってないだろうに、どうしてこんな大量にお米があるのかが判らない。紅魔館は謎だらけだ。
それはそれとして、じゃあ百数十人分の何を作ればいいのだろう。

この際、風祝だから動物形の料理は駄目だ、と言う考えは捨てよう。
日本の朝の定番メニュー、と言えばなんだろうか。
魚の塩焼きなんかはいいかもしれないけれど、そもそもそんな百数十人分も魚がいるとは思えない。
目玉焼きも…。…卵がそんなにないよなぁ。一人一個ずつだとしても百以上必要なんだし…。
冷奴とかは…。…豆腐あるのかなぁ。里にはありそうだけど、買ってくるとなると咲夜さん任せになるなぁ。もうお店がやってるのかも謎だし。
取り敢えず、他の物も考えよう。そもそも冷奴はオカズじゃない気がするし。

肉じゃがなんかはアタリかもしれない。ジャガイモがそれだけあるかどうかが問題ではあるが。
まあ他のメニューに比べれば、比較的数が手に入りやすい上に大雑把で大丈夫だし、一気に作る分にも他のよりは楽だろう。
…よし、メインはこれで決まりだな。

「咲夜さん、ジャガイモと人参と玉葱と牛肉を、取り敢えず足りそうなくらい持って来て下さい。」

…と、そういった瞬間に目の前がジャガイモと人参(しかも皮を向いて、さらにいいサイズに切ってある状態)で埋まる。これには流石にびっくりした。
勿論、玉葱と牛肉もその脇のほうにおいてあった。完璧な状態で。
相変わらず時間を止める能力は反則だ。

「…あ、ありがとうございます…。いい仕事してますね。」

「…米もそうだったけれど、こんなにジャガイモ備蓄してたかしら…。まあ足りそうなら構わないけれど。」

そういう管理も咲夜さんがしているであろうに、何故か首をかしげる。
…まあ、他に色々と忙しいのだろうから、あまり覚えていないだけなのだろう。深く考えるまでも無いか。

「それじゃあ、調理の方もお願いします。基本的にはそれらを煮込むだけですから。
 つゆは砂糖と味醂としょうゆと水、後はお好みでお酒もどうぞ。ああ、ジャガイモは荷崩れしないように気をつけてください。」

「早苗さん呼びました?」

「みりんです。美鈴じゃありません。そんな無理矢理ボケなくて結構ですよ。」

そして咲夜さんは一瞬で料理の方に取り掛かる。本当に時間を操る能力は便利だ。
どうして洋風の館にしょうゆだとかがあるのかとか、もう突っ込むのは止めよう。この謎だらけの館でそこに突っ込むのも無粋な気がしてきた。
きっと幻想郷に住んでいるうちに、ちょっとくらいそういう機会があったって言う程度のことだ。うん。

さて、じゃあ後は何が必要か。ああ、味噌汁も必要だな。
…きっと味噌もあるんだろうなぁ~…。普段何に使ってるのかがさっぱり判らないけれど…。
まあ、どうせ味噌もあるんだからこれも決定でいいか。
後は野菜系統も必要。今日の食事を担当する以上は、ちゃんとバランスも考えなくては。
日本の朝の野菜と言えば…、…やっぱり漬物かなぁ。
咲夜さんに任せれば一瞬で漬物くらい完成しそうだけど、まああれは初めて食べる人にはちょっと味が強いかもしれない。
…初めてなのかは知らないけれど。多分初めてだろうという憶測で。
となると、さっぱりした即席漬け辺りがいいかなぁ。それなら咲夜さんに頼まなくても大丈夫だし。
…よし、決定。これでメニューは完璧だ。

「早苗、こんな物でいいかしら?」

…と、全てを決め終えたところで咲夜さんが私を呼ぶ。
ううっ、早いなぁ…。…時間を進めたりもできるんだから、どんな料理でも私たち主観ではほぼ一瞬で出来るんだろうけど…。
ああ、でもいい香りですね。流石は咲夜さん、料理の腕は完璧です。
そう思って、私は咲夜さんの鍋を覗き込んで、さらに驚愕する事になる。

ぐつぐつといい具合に煮え立つジャガイモと人参と牛肉。
僅かに感じる赤ワインの芳醇な香り。成る程、僅かに洋風なアクセントも入れてるのですね。
おたまで掬えば、とろりといい具合に流れ落ちるつゆが何とも言えない。成る程、これは新しい発想で…。
ご飯にかけて食べたら、さぞかし美味しそうですね…。


…どこからどう見ても、立派なビーフシチューでした。


「って咲夜さぁん!!わざとですか!?これは私に突っ込ませるためにわざとやった結果ですかぁ!?」

「あら、違ったかしら?私なりの調理法でやってみたのだけれど?」

「確かにビーフシチューを作ろうとして、それで日本風の味付けになったのが肉じゃがの起源だという話は聞いた事ありますけど!!
 だから頭から間違いだとはいえませんけど!!確かに材料とかは一緒ですけど!!
 どうやったらしょうゆだとか味醂を使ってビーフシチューが出来るんですか!!完全に確信犯ですよね!!」

「早苗さんまた呼びm「美鈴さん少し黙ってくれると嬉しいです!!」

「そうね、まあ和食はあまり慣れてないから。」

「今更突っ込むのも難ですけど、一応あなたもジャパニーズじゃないんですか!?」

「まあそうね、だけど紅魔館に来てから日本食なんて教わった事はないから、作った事は殆ど無いわ。」

「ああもうそこは咲夜さんの事情ですから文句はいいませんけど!!でも間違いにも限度と言うものがありますよ!!
 何でこんな立派なビーフシチューが出来るんですか!!何を入れたんですか何を!!」

「言われたとおりの物は入れたわよ。赤ワインだけは私の独断で入れたけれど。」

「赤ワインだけでこんな事になりますか!!ああもう一体どんな味になって…!!」

反射的にと言うか、後で考えれば自殺行為でもあったかもしれないけれど、私はお玉を手にとって味見をしてみる。


…そして、愕然とした。それ以降調理中に私は言葉を発する事が出来なかった。


いや、味が最悪だったから、と言う訳ではない。寧ろ完璧な味だった。そう、完璧すぎた。
見た目は何処からどう見たってビーフシチューだと言うのに、味は完全なる肉じゃがなのだから。
もう咲夜さんの料理センスは次元を超えているなぁ。何でビーフシチューが肉じゃがなんですか。本当にどうやって作ったんですか。
…ああ、私ごときが咲夜さんに料理を教えられる立場ではない…。…神だ、咲夜さんは最早神だ。

勿論、いい意味での神だとは一概に言えないけれど…。



 * * * * * *



☆今日の紅魔館の朝食メニュー☆

・白米(美鈴&咲夜作)

・神の肉じゃが(ゴッド咲夜作)

・きゅうりと大根の即席漬け(早苗作)

・ワカメとネギの味噌汁(早苗作)

・中国茶(言うまでも無い)



その後私は黙って即席漬けと味噌汁を完成させ、有り得ないほどにダークな気分で自分の作った料理を頂いた。
冷奴はもう咲夜さんに声を掛けるのを自ら拒否したので、結局キャンセルと言う事にした。まあ別にいいや。
他のメイドさんたちにも、日本食はかなり好評だったようである。…ああ、よかった…。
…私は肉じゃがの真の姿を知っている以上、ビーフシチューを割り箸でつつくと言うシチュエーションに、さらに深い闇へと落とされていたけれど…。
…ああ、何で割り箸まであるんだろう…。まるで誰かが前もって用意していたみたいですね…。

「早苗さん、朝食からそんなに暗くなってちゃ駄目ですよ。」

隣で同じ食事を取っている美鈴さんの言葉が今は痛い。出来れば放って置いてください。カルチャーショックってこうも痛いんですね。
とにかく、もそもそと味があまりしない食事を続ける私。これはある意味地獄です。食事で味がしないのは本当に辛い。
これが自分で作ったものであるというのが、せめてもの救いかもしれない…。…うん、また自分で作ればいいんだ…。
勿論、私にビーフシチュー的肉じゃがなんてハイレベルな物は作れないけれど…。…ああ、また自己嫌悪が…。

「早苗、食事に時間を掛けている暇は無いわよ。今日だけとは言えメイドの仕事は確りやってもらうわ。」

そこへ咲夜さんの追い討ちの一言。お願いです、もう少しだけ私にゆっくりする時間を下さい。
しかし神に逆らう事は出来ない。いやまあ、最近結構逆らってない?と言われても返答は出来ないけれど。
咲夜さんはもう別格の神だ。ある意味八坂様や洩矢様よりも恐ろしい。て言うかあの二人に恐ろしさと言う単語は存在しないけれど。

…あ、そう言えば洩矢様を完全に放置したままだった。今更になって思い出した…。

…まあ、いっか。

余計な事を考えたお陰で、私の気分は少しだけ回復。
ようやく何時も通りくらいのペースで食事が取れるようになり、程無くしてビーフシチュー肉じゃがも食べ終えた。

「さ、終わったならすぐに動くわよ。まずはメイド服を支給しないとね。」

うっ…。…メイド服…。今の今まで忘れていたけれど、そう言えばそんな事を言っていた気がする…。
メイド服って今咲夜さんや他のメイドさんたちが着ているのですよね…。
…スカート丈、短すぎじゃありませんか…?…私は普段着がこの巫女服ですから、そういうのには耐性が…。

「それと美鈴、あなたも今日は特別に一日メイドよ。」

咲夜さんからの衝撃の告白。
私も美鈴さんも、咲夜さんの言葉の意味が判らずに、10秒ほど硬直してしまった。

「…はひ?しゃくやしゃん?」

美鈴さん、驚きのあまりか舌が全く回ってませんよ。

「あなた昨日、門番中に何度も早苗のことを気にしていたわね…。
 …あれだけ気を逸らされていたら、門番も何もあった物じゃないわ。役立たずも良いところね。」

こうズバズバ痛い事を言ってくるところを見ると、やっぱりこれは咲夜さんだ。
それにしても美鈴さん、まさか昨日そんな事が…!ああ、持つべきは素晴らしき親友!

「どうせ早苗は今日一日で終わりなんでしょう?だったら最後は二人で仕事をしていなさい。
 そうすれば今後はああも気が気でない門番にはならないでしょう?」

なんだ、なんですか今日の咲夜さんは。本当に神ですかあなたは。
今の私には「今日でお別れだから、最後は二人で過ごしなさい」と言っているようにしか聞こえません。
横目で美鈴さんを見れば、歓喜と恐怖心(恐らく咲夜さんの変貌に対しての)がごちゃ混ぜになった表情を浮かべている。
ああでも、なんにせよ最後に素晴らしいイベントを用意してくれました咲夜さん!!
もう「咲夜神社」を造って、そこの巫女になってもいいなぁ、と言う気分になってきた。

「…ただし、不注意で装飾品とかを壊してみたりして御覧なさい?ナイフはいつもの10倍の本数を刺してあげるわ。」

前言撤回。ああ、やっぱり咲夜さんだこの人は…。



 * * * * * *



「ううっ…、…は、恥ずかしい…。」

今の自分を鏡で見てみたいとも少し思う。多分かなり真っ赤になっている。
咲夜さんに言われるがままに紅魔館メイド服を着てみたのだが、やっぱりスカート丈が短い…。
ううっ、中が見えるほどではないのが救いだけど…。…学校の制服よりは短い…。

「…何でやたらサイズがピッタリなのかしらね…。それは良いとして、全く似合ってないわね。」

うっ…!!い、痛いところ突かれた…。
確かに全然似合ってませんよ。私は和服の方が似合ってますよぉ。根っからの日本人ですよぉ!!
なんだか虚しくなってくる…。洋服が似合う少女じゃないというのが、一応幻想郷で少ない現代人だという威厳(?)を粉々に…。
…まあメイド服は私服ではないけれど。咲夜さんにとっては私服かもしれないけれど。

「咲夜さぁ~ん。ちょっときついですぅ~。特に前がふぉあっ!!」

見事にナイフが額にクリーンヒット。哀れ美鈴さん。
…まあ、美鈴さんはスタイルいいからなぁ…。メイドさん達は結構小柄な人(?)が多かったし。
それにしても、咲夜さんもそのくらいで怒らなくても…。
…あれ?まさか気にして…。

「早苗、今すぐに思考をシャットアウトしないと、今日の夕陽を見れないわよ?」

…ワタシハ、ナニモ、カンガエテイマセン。

「それでいいわ。さて、まずはお嬢様の部屋の掃除からよ。
 主の部屋の掃除は最初にして最重要だから、心して掛かりなさい。」

ああ、レミリア様の部屋か…。私あの人苦手なんだよなぁ…。
最初に会うなりあれだけの殺気をぶつけて来るんだもんなぁ…。
まあ掃除するだけなんだから、そう大事にはならないと思うけれど…。
なんだか人をからかうのが好きそうな人だからなぁ。…洩矢様よりも扱いにくそうで…。

「ほら、苦手意識を持っていては駄目よ。確かにまあ、最初はああだったけれど…。
 実際はそうでもないわよ。ほら、さっさと行きましょう。」

何故だろう、何となく咲夜さんが生き生きして見えるような気が…。
そんなにレミリア様の部屋を掃除するのが好きなのかな?まあ、咲夜さんが仕事熱心であるのは判るけれど…。
…まあいいや。咲夜さんの言うとおりだ。苦手意識を持っていてもしょうがない。
それに、今回は美鈴さんも付いてるんだ。今日の私に怖いものはあんまり無い。
とにかく、さっさと咲夜さんについていかないと、ナイフまでは行かないけれど軽い折檻くらいは受けそうだ。
あれだけ楽しそうにしている(風に見える)咲夜さんを待たせるのも悪い。とにかく、今日最後の仕事は頑張らなくては。



 * * * * * *



紅魔館で働く事になった初日に通った廊下を、前回とは大分違う心持で進んでいた。
初日は「さあ、これから頑張るぞ!」と言う気持ちだったけれど、今は少しだけ足取りが重い。
苦手意識を持っていてはしょうがないと言うのは判るけれど、やっぱり苦手な物は苦手だ。

「大丈夫ですって、早苗さん。幻想郷では吸血鬼は人を襲えないと言う決まりがあるんですよ。」

それは初日に咲夜さんから聞いたけれど…。
…でもなぁ、襲わなければいいのであって、前回みたいに血が凍る思いをするのも嫌なんですよね…。
…まあ、でも、今回は咲夜さんだけじゃなく美鈴さんも一緒なのだ。
そんな事を思っているうちに、あっという間にレミリア様の部屋の前まで来てしまっていて…。

「美鈴、あなたはちょっとここで待っていなさい。先に私と早苗だけではいるから。」

咲夜さんの、私の心を見透かしたような発言が…。

「さ、咲夜さぁん!!酷いですよぉそれはぁ!!」

反射的にそう言ってしまう。
しかし、咲夜さんは何時も通りのクールな表情を浮かべたまま…。

「五月蝿いわね。あなたが何時までもお嬢様に苦手意識を持っているのが悪いのよ。
 そうやって美鈴や私ばかりに頼ろうとしないで、少しは自分で好感を持とうと言う意識を持ちなさい。」

…正論なのか、ただの虐めなのか判らない事を言われた。
いやまあ、咲夜さんに限って虐めって事は無いだろうけど…。
ああ、でもいきなりハードル高いですよ…。
私は美鈴さんに救援を求めるべく、そちらに目線を動かせば…。

「大丈夫ですよ早苗さん。ファイトです。」

優しく突き放してくださいました。ああ、本当に優しいですよ美鈴さん…。
これも友達からの贈り物(と書いて試練と読む)なんだと思い、もうキッパリ諦める事にしよう。
すー、はー、すー、はー、…よし、少し気持ちも落ち着いた。

「いいかしら?それじゃ確りやりなさいよ?」

そう言って、咲夜さんはレミリア様の部屋をノックする。

「お嬢様、咲夜です。御部屋のお掃除に参りました。」

…しかし、返事が返ってくる事は無かった。
う~ん、まああれだけ大きな部屋だったのだから、ひょっとしたら純粋に聞こえていないだけかもしれないが…。
少し険しい表情を浮かべる咲夜さん。多分、何かあったのではないかと心配しているのでは…。
…これで部屋の中でレミリア様殺害事件でも起きていたら、多分私はショックで気絶するでしょうね。
まあ、そんな事を思ってしまった以上は気絶できないだろうけど。

「お嬢様、入りますよ。」

表情には出ていないものの、少し慌てた様子で扉を開ける咲夜さん。それに続いて私も部屋に入る。
…そして、そこで衝撃の物を眼にすることになった。



「バルサミコ酢~♪やっぱいらへんて……。」



…レミリア様は、笑顔で腰を振って踊っていた。

端的に言うならばウマウマしていた。一応現代人なので辛うじて理解できる。
確か私が幻想郷に来る直前くらいに、クラスの男子が話しているのを小耳に挟んで、友達と少し引いたのを記憶している。
て言うか何処かのダメ神様がしょっちゅう某動画掲示板を見ていたから…。
…それでも、私も咲夜さんも( ゚д゚ )←こんな顔をしていたと思う。
そしてそれとは対照的に、笑顔で固まったままだらだらと冷や汗を流すレミリア様。

「…しゃ、しゃくや…?」

そのまま1分ほど固まっていたが、ようやくレミリア様の口が開いた。
まあ、舌は回っていない様子だったけれど。

「ち、違うのよ咲夜!!これはパチェがこの間「外の世界で流行ってるみたいだから、あなたもやって見なさい」って!!
 私は別にやりたくてやったわけじゃないのよ!!ただちょっと物の試しにって!!そうよ!!全部パチェが悪いのよぉ!!」

一瞬にして踊っていた地点から咲夜さんに縋り付く。流石は吸血鬼、スピードは天下一品ですね。
しかし、言い分とは裏腹にやたらノリノリで踊っていたのは気のせいでしょうか?

「そうですか、そうですね、お嬢様が自発的にそんな事をしようとは考えられませんからね。」

縋り付くレミリア様の頭をなでる咲夜さん。これ従者と主人が見せる光景じゃありませんよね。
それにしても、物分りが良過ぎですよ咲夜さ…。

「しかし、パチュリー様の言い分も最もですね。外の世界の文化は取り入れなくてはなりませんね。」

…あれ…?

「というわけで、もう一度やってみてください。すぐに動きを止めてしまったものですから、私は良く見えなかったので。」

…なんだろう、咲夜さんが物凄い事を言ってる気がする…。


「えっ…?さ、咲夜…?何を言って…。」

「ですから、もう一度お願いします。もう一度お嬢様の踊っている姿を。」

「咲夜さん、鼻血出てますよ。ティッシュ要りますか?」

「い、嫌よ!!私は別にやりたくてやってたわけじゃないのよ!!」

「かもしれません。しかしお嬢様、世の中やりたくなくてもやらなくてはならない事は沢山ございます。」

「咲夜さん、耳からも血が出てますよ。病院行った方がいいんじゃないですか?」

「私は夜の王レミリアよ!!そんなやりたくない事なんかやらなくてもいいの!!」

「お嬢様、そう我侭ばかりでは下々のものが付いて来れません。時には主としての威厳も見せていただかなくては。」

「咲夜さん、眼からも血が流れてますよ。リアルに血涙流す人は初めて見ました。」

「で、でもぉ!!」

「やれみりゃ!!」

「…ウーッウーッウマウマ…」

「ごふっ…!!」

「咲夜さん、止めは吐血ですか。もうグロテスクなんだかアホらしい光景なんだかさっぱり判りません。」


顔中血だらけにして倒れる咲夜さん。
…ああ、なんだか咲夜さんの見てはいけない一面を見てしまった気がする…。
何となく、ここに来る前に咲夜さんのテンションが上がっていた理由が分かった。
要するに、咲夜さんはレミリア様のことが半端でないほど好きなんだなぁ、と。

「…さ、早苗…だったわね…。」

…と、涙眼になりながらレミリア様が私の名を呼ぶ。名前を覚えていてくれた事には感謝。
ああ、もうこの時点で最初に感じていた恐怖心が、綺麗さっぱり消えてしまった。
成る程、慣れれば楽とはこの事か。最初の時はただ単に私をからかいにかかっただけという事ですか。

「今見た事は忘れなさい、決してメイド達に話しては駄目よ。あと霊夢や魔理沙にも。て言うか誰にも。」

最初から話す気は毛頭ありませんし、咲夜さんにも言う必要はないだろうなぁ。今は聞こえてないだろうけど。
それにまあ、今の私にはそれ以外の事で頭がいっぱいである。
頭が落ち着いてから、ずっと思っていたことが…。

「それは判りましたが…。…パチュリー様は誰から今のを聞いてきたのですか?」

…何でパチュリー様があれを知ってるんだろう。
私ですら小耳に挟んだ程度で殆ど知らないと言うのに…。
後は何処ぞのダメ神様しか…。

「えっと…、…確か無駄に多い紫色の髪で、紅いローブを着て、胸に鏡を飾った年増だって…。」


「ッて本人かよおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


もうなんだか私のリミッターが一気に外れたような気がした。


「あんの年増あああぁぁぁぁ!!!!信仰を広めに行ってたんじゃなんですかああぁぁぁぁぁ!!!!
 その間に私がどれだけ苦労していたとォ!!!!どれだけ生死の境を彷徨ったと思っているんですかああぁぁぁぁ!!!!
 なのに何やってるんだあのニコ厨神はあぁぁぁぁ!!!!許さん!!この恨み晴らさで置くべきかあああぁぁぁぁ!!!!」

今すぐにでも守矢神社に戻って八坂様を何でもいいから酷い眼に逢わせたかったけれど、生憎八坂様の封印が解けるのは今日の夜。
…とにかく落ち着け私…。八坂様への恨みはこれから返せばいいんだ。利子をたっぷりつけて。
取り敢えず、一子相伝の弾幕と客星の明るすぎる夜のダブルパンチは必須だなぁ…。
ああ、そう言えば以前オンバシラとかの5連打喰らった事もあったっけ…。
今この話を聞いてしまった以上、八坂様にあんな攻撃を喰らう理由は無かったはずだ。
よし、こうなったら倍+αにして返そう…。即ち12枚分のスペルの全てを叩き込んで…。
あははは、あははははははははははははははは…。

「…ひッ…!!」

…と、レミリア様の僅かな声に、私の意識は平常世界へと移行する。
ちょっと自分の世界に入りすぎてしまいましたか。
それにしても、そんな怯えられるような顔をしていただろうか。全く失礼な人だ、今の主とは言えども。

「失礼しました、少し気が立っていたみたいです。
 レミリア様、その犯人には死なないのに死にたくなるような眼に遭わせておきますので、どうぞご安心ください…。」

ああそうか、スペルカードだけじゃ足りないかもしれない。
どうせ八坂様は神なんだし、洩矢様も「神は肉体的な損傷で死ぬ事は(恐らく)無い。」と仰っていたし…。
今回の事は八坂様が全面的に悪いんだ。私が何をしても文句を言われる筋合いは無い。
理論武装も完璧だ。最近の私は、少し頭が冴えているかもしれない。
…っと、ここで調子に乗りすぎてもいけない。何事も程々が一番。
勿論、八坂様への報復の「程々」の度合いはかなり高いけれど。人間だったら確実に病院送りになる…、…じゃあ足りないかなぁ…。
ああ、たまにはこういう事を真剣に考えるのもいいですねぇ…。
普段考えないような事を真剣に考えるのは…、…ああ、素晴らしい事です…。
ふふふふ、うふふふふふふふふふふふふふふふ…。

「…あ、あなたは本当に人間なの…?そんな黒い眼をしている人間は初めてだわ…。」

おっと、またもや自分の世界に入り込んでいたらしい。
それでも、今回は今までと違って意識が飛ぶような事にはならないなぁ。
まあ今は意識して色々考えてるだけだし、今までとは状況も違うからかなぁ。

「失礼ですね、レミリア様。私は純粋な人間です。
 …だからって血は飲まないで下さいよ?吸血鬼に血を吸われたら、吸血鬼になってしまうとも聞きますし。」

「…だ、大丈夫よ、あなたの血だけは飲まないようにするわ…。」

だからなんでそんな引きつった笑みを浮かべてるのでしょうか?
本当に失礼な人だ。私のような、まだ10代の若い女の子に対して、そうした態度を取るなんて。
ああでも、何となく咲夜さんがレミリア様を愛している(?)のも、何となく判るような気がするなぁ。
普通に少女らしくしていれば、ちゃんと確りとした可愛さをもって…。
…と、いけないいけない。私の正義(ロリ)はあくまで洩矢様の「あーうー」だ。今は放置プレイ中ですけど。

「…フフ、フふフフふフフフ……。」

…と、急に途轍もなく不気味な笑い声が聞こえる。
そっちの方に眼をやってみれば、まだ顔に若干血の跡が残った(拭いたんだろうけど拭ききれていないような感じ)咲夜さんが、おぼつかない足で立っている。
…焦点の合ってない眼とその立ち方、顔の血の跡を全て総合すれば、それはまさに墓場から復活したゾンビそのものだろう。

「おぜうさまイトオシイです。おぜうさまカワイイです。もうべつにゲンソウキョウがほろばなくてもいいからパチュリーサマよりさきにてをダシマス。」

ああ、どうやら咲夜さんのリミッターも外れてしまっているようだ。確かにウマウマは強烈だっただろうけど。
て言うか咲夜さん意識無いんじゃないでしょうか。本能だけで動いてるんじゃないですか?
恐るべし十六夜クオリティ。

「ちょ…さ、咲夜?どうしたの?多分私が見た中で最も恐ろしいあなたが目の前にいる気がするわよ?」

「パチュリーサマがきょうこうしゅだんにデルナラバ、わたしもコウドウヲおこさなくてはなりません。
 おぜうさまのテイソウハワタシガまもります。」

「あなたが思いっきりぶち壊そうとしている気がするんだけど!?」

「パチュリーサマにさきをこされるくらいナラバ、いまこのばでワタシガ…。」

「咲夜!!お願いだから眼を覚ましてぇ!!ああもう早苗!!あなたも見てないで助けなさい!!」

何で私に飛び火するかなぁ。そんなリアルゾンビと化した咲夜さんを止める手段なんか思いつかないんですけど。
しかもパチュリー様はあくまで「やってみて」と言っただけで、それは別に強硬手段でも何でもないような気がするんですけど。
まあでも、確かにこのまま黙って見過ごすのは、神に仕える者としては気が引ける。
そうですね、ここは助け舟を出して差し上げましょう。

「咲夜さん、レミリア様は少々子供っぽいので、気が済むまで教育してあげてください。」

咲夜さんに。
どうせ仕えてる神は今封印されてるんですし。

「この鬼畜巫女おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「私は厳密には巫女ではありませんし、紅い悪魔に鬼畜と言われる筋合いもありません。
 ここに来た時にちょっと嫌な目に合わされましたからね。そのお返しです。」

「全然仕返しの程度が合ってないわよ!!私の方が完全にダメージ大きいじゃない!!」

「返す物には利子をつけるのが基本ですよ。」

私は部屋を出るために踵を返す。

「そんな利子いらないわよ!!気に触ってたなら謝るから助けてってばぁ!!」

「今更謝っても遅すぎます。悪い子はゾンビに食べられてください。」

「もう本当の意味で食べられた方がまだマシよ!!咲夜お願いだからそっちの意味で食べないでぇ!!」

「うフフふふフふふふふふ、おぜうさま…。」

「咲夜さん、レミリア様、仕事はちゃんとやっておきますから、後はゆっくりお楽しみください。」

「鬼ぃ!!悪魔ぁ!!人でなしいいいぃぃぃぃ!!!!」




「ひにゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!」




パタン、と私はレミリア様の悲鳴と共に扉を閉める。
この部屋には防音機能でもあるのか、外に出たらもう中の音はさっぱり聞こえない。

「あれ?早苗さん、咲夜さんはどうしたんですか?」

どうやら外にいた美鈴さんには、中での出来事は何も聞こえていなかったらしい。
ある意味幸運だろう。もし聞こえてたら、美鈴さんの中の咲夜さんのイメージが粉々に砕けただろうから。
取り敢えず、私は今まで見たものを全て忘れて、今日の仕事に励むのが吉だろう。

「ご臨終です。」

意味が判りやすいように、そう返答しておいた。



 * * * * * *



咲夜さんが今天国を旅行中なので、私と美鈴さんは他の妖精メイドさんを掴まえて、大まかな仕事内容を聞く事にした。
廊下掃除はメイドさん達でやってては相当時間が掛かる上に、そもそも咲夜さんが毎日やっているから大したゴミもないので、私たちがやる必要は無いとの事。
咲夜さん以外のメイドさんの主な仕事は、窓拭きと装飾品の手入れらしい。
まあ紅魔館には窓が少ないから、確かにこの広さでも大した時間は掛からないでしょうね。
勿論、その分丁寧にやるのが常だとか。
そんな訳で今、私と美鈴さんは窓拭きに勤しんでいる。

「妖精メイドさんたちは働かないって聞きましたけど、結構真面目にやってるじゃないですか。」

美鈴さんにそう語りかけてみた。
私が仕事の事を聞いたメイドさんは、非常に事細かに色々教えてくれたし、今も熱心に装飾品を磨いている。

「あの子の方が珍しいんですよ。
 それに窓拭きと手入れだけなら、真面目にやっても本来の勤務時間よりは遥かに早く終わりますからね。
 …あはは、羨ましいですねちゃんと時間内に仕事が終わるなんて…。」

…しまった、触れてはいけないところに触れてしまったみたいだ…。
美鈴さんと話していると、変なところで地雷を踏んでしまうから怖い。
…それだけ苦労が多いんだなぁ、と思うと、なんだか涙が出てきてしまった。
…ああ、会話が止まってしまった。この空気を一体どうやって変えれば…。

「…あ、早苗さん、よかったですまだ紅魔館にいて。」

と、美鈴さんとはまた違ったおしとやかさを含んだ音で、私の名を呼ぶ声がする。
反射的に声の方を向いてみれば、昨日も見たワインレッドの長髪を持った、背中と頭に二対の羽を持つ女性。
しかし服装だけは昨日と違い、スーツにネクタイ姿と、なんだかとても大人っぽくなっている。
見た目と服装が、ちゃんと噛みあっていた。

「小悪魔さん、もうインフルエンザの方はよろしいのですか?」

図書館の正式な司書の小悪魔さん。
昨日は鳥インフルエンザに掛かっていたためにやむなく休業。私がその代わりとして司書をやっていた。

「はい、お陰様ですっかり良くなりました。先日はどうもありがとうございました。」

ぺこりと頭を下げる小悪魔さん。その仕草が、作法の教科書に載せたいほどに完璧だった。
それに昨日は今にも死に絶えんとするような声だったけれど、今はそれはそれは綺麗な声を発している。
ああ、八坂様や洩矢様というダメ神様の住む守矢神社と比べて、この館はなんと素敵な人たちが住んでいるのだろうか。

完璧な従者である咲夜さん。さっきは見てはいけない現場を目撃してしまったが。
優しさに心の強さ、他にも色々な物をかね揃えた美鈴さん。
「礼儀正しい人」そのものの、仕事熱心な小悪魔さん。

…ああ、本当に八坂様や洩矢様に見習わせたい…。
遅くまで寝てるわ、家事は何もしてくれないわ、人のDSは勝手にやるわ、挙句私を放置…。
…っと、また何か黒い感情が込み上げて来るのを感じる。ここいらでとぎっておかないと…。

「そうですか、それは何よりです。
 …そう言えば、パチュリー様はどうしていますか?」

そう言えば、小悪魔さんが今此処にいる以上、パチュリー様は今図書館で一人のはず。
私に逢いに来るにしても、小悪魔さんの性格を考えれば、黙って出てくるような事はしていないはず。
…じゃあ、パチュリー様は…。

「それがですね、珍しくパチュリー様の方から「ちゃんとお礼を言ってきなさい」と言われたんですよ。
 何時もでしたらあまり私に外出許可は出さないんですが…。それに、やけにご機嫌のようでしたし。
 …なんだか、本当に別人になったと言うか…。…まるで、今日初めてパチュリー様に出会ったような…。
 あはは、変な事言っちゃいましたね。そんなわけないんですけどね。」

小悪魔さんはばつが悪そうに笑っているが、私としては別の笑いが零れそうになる。
どうやら、咲夜さんの回想どおりの結果になっているようだ。
パチュリー様は紅魔館の皆様から見れば、本当に変わったのだろう。
だけど、パチュリー様の傍にいるのが小悪魔さんならば安心だ。
小悪魔さんならば、パチュリー様が変わってしまったとしても、きっと変わらず付き合ってくれるだろう。
そして、そんなパチュリー様も、ゆっくりと紅魔館に馴染んでいく…。
…これで、紅魔館での私の心配事はなくなった。

美鈴さんに出会えた。生涯の友達に出会えた。

咲夜さんに出会えた。何だかんだで、初めて本気で私を叱ってくれた人だった気がする。

パチュリーさんに出会えた。同じ心を持つ人と心を交わした。

フランドールに出会えた。まるで妹が出来たみたいだった。

小悪魔さんに出会えた。付き合いは最も短かったけれど、その仕事熱心さに憧れた。

なんだか一人忘れてる気がしなくもないが、私は紅魔館で色々な物を手に入れた気がする。
きっと、これから生きていく上で大切な物を。
守矢神社に篭っていては、決して手に入れられなかったであろう物を。
これだけ沢山の物を手に入れたのだ。もう紅魔館に思い残す事は…。



がっしゃ~~~ん……。



「…あっ…。」



…紅魔館での思い出に浸っていた私の耳に、出来れば紅魔館を出るまで聞きたくなかった音と、美鈴さんの僅かな悲鳴が聞こえる。
ああ、後ろを振り返りたくない。確実に壺か何かの破片が散らばっている事だろう。
目の前で小悪魔さんも笑顔のまま固まっている。多分、考えてる事は一緒。
美鈴さんがナイフの山になっている姿が幻視できる。そのすぐ傍で私もナイフが刺さった状態で倒れて…。
勿論、今のところただの妄想ではあるのだけれど…。…リアリティが有り過ぎて、最早未来予知の域に達している。

…ごめんなさい、前言撤回。美鈴さんの労働状況だけは心配です…。



 * * * * * *



日も翳り始めた幻想郷。今は大体午後4時頃だろうか。
紅魔館での全ての仕事を終えて、私は紅魔館の門の前に立っていた。
だけど此処に美鈴さんの姿はない。だって、今日は美鈴さんは「一日メイド」なのだから。
奇跡と言うかなんと言うか、↑での美鈴さんの失敗によるお仕置きはなかった。
「…まあ、どうせやるとは思ってたわ。」とは1時間後ぐらいに、付き物が落ちたような笑顔を浮かべた咲夜さんの言葉。
…何があったのかは聞くまい。間違いなくレミリア様は再起不能な状態になっているだろうけど。
…そろそろこの呼び方も止めようかな。さっき、妖精メイドさんたちや咲夜さん、美鈴さん、パチュリーさん、小悪魔さん、フランドール…。
みんなに挨拶をしてきたばっかりだ。もう私は、紅魔館のアルバイトではない。
ただもう少しだけ、私の働いていた紅魔館を見ておきたかった。ただそれだけの理由で、私は今此処に立っている。

「…本当に、色々あったなぁ…。」

たった3日間だけだったはずなのに、もう1ヶ月以上もこの館にいたような気がする。
霊夢さんに紹介されてきて、この紅魔館にやってきて…。

1日目に、美鈴さんと一緒に門番。突然の事がありすぎて失敗だらけだったけれど、でも本当に楽しい一日だった。

2日目に、パチュリーさんと共に図書館で過ごす。楽しい思い出ではないだろうけれど、私にとってとても大切な一日だった。

3日目、即ち今日は、メイドとして普通に働いた。あまり目立ったことは無かったけれど、この日が一番色々な人と触れ合った気がする。

ちょっとの言葉で表せるような、そんな短い時間だったけれど…。
…でも、私にとってはとても大切な3日間だった。

「まだいたのかしら?まあ丁度良かったけれど。」

…と、急に横から声を掛けられる。
結局、この神出鬼没な人にも慣れてしまったなぁ。
声の方を向いてみれば、咲夜さんが何時ものクールな表情を浮かべて立っている。
…ああ、「何時もの」と思えるほどに、私は紅魔館に馴染んでいたのだなぁ…。

「ほら、あなたはこれのために此処に来たのでしょう?忘れては意味が無いじゃない。」

そう言って、咲夜さんは一枚の封筒を差し出してくる。
『給料 東風谷早苗』と書かれた封筒。ああ、そう言えばそうだったっけ…。

「そうでした、ありがとうございます。」

正直、お給料の事はもう完全に忘れていた。
勿論、私がこれから生き延びるために必要なのだから、大切な物ではあるのだけれど…。
それ以上に大切な物を沢山手に入れたので、それに埋もれてしまっていたのだろう。
私は咲夜さんからそれを受け取り、大事に懐にしまっておいた。

「それでは咲夜さん、私はこれで失礼します。一人迷子がいますので、それも探しに行かなくてはいけないので。」

一応洩矢様の事は忘れていない。
洩矢様も働かせて、お給料を増やそうと言う計画は失敗したけれど、もうその事はどうでもいい。
ただまあ、何処に行ったのやら…。…神社に帰ってればいいんだけど…。

「あら、そう?そこに隠れてる人達に挨拶はしなくていいのかしら?」

…ほえっ?なにを…。

「ひゃわっ!!」

…と、一瞬のうちに目の前に並ぶのは美鈴さん、パチュリーさん、フランドール、小悪魔さん。
…多分、咲夜さんが時間を止めて連れて来たのだろうが…。

「…隠れなくてもいいじゃないですか。」

「あははは…、なんだかさっき別れの挨拶も済ませたのに、また出てくるタイミングがつかめなくて…。」

ばつが悪そうに笑う美鈴さん。
全く、そんな事気にしなくてもいいのに…。…本当に、いい友達を持った…。

「美鈴さん。また遊びに来ますからね。それまでお体に気をつけて、頑張ってください。
 それと、何時か守矢神社の方にも足を運んでくださいね。何時でもお待ちしていますから。」

「…はい!!」

私の言葉に、笑顔で返してくれる美鈴さん。
そう、約束はこれだけで充分。美鈴さんは、きっと約束を守ってくれるだろう。

「パチュリーさん。あなたは決して一人だなんて事はありませんから、もう心配なんかしなくてもいいですよ。
 隣にいるのは小悪魔さんだけじゃありません。美鈴さんや咲夜さんも、私も、みんな何時でも隣にいますから。」

「…ふふっ、そうね。…ありがとう。」

静かに頷くパチュリーさん。
やっぱり表情には出ないけれど、私には判る。もう自分が、一人ではないと思っていることを。

「フランドール。昨日は私が遊んであげる機会はあまりなかったけれど、今度はみんなで一緒に遊びましょうね。
 …あ、でもスペルカードバトルはナシにしてくださいね?もっと、みんなで楽しめるような遊びを。」

「…うん、約束だよ!!」

花が咲いたような笑顔を見せるフランドール。
そう言えば、フランドールを普通に名前で呼んだのは、これが初めてだった。
…最後にちゃんと、名前で呼んであげられて良かった…。

「小悪魔さん。何時までもパチュリーさんの傍にいてあげてくださいね。
 これからも色々お世話になると思いますけど、どうかよろしくお願いします。」

「はい、いつでもお待ちしております。」

素直な返事を返してくれる小悪魔さん。
今度来る時は、小悪魔さんとも色々話してみたい。今回あまり話せなかった分、もっと色々と…。

「それと咲夜さん。私が言う事でもないと思いますが、これからも紅魔館をお願いしますね。」

「その通りね。言われるまでもないわ。」

何時も通りの言葉だけれど、表情は少しだけ笑っていた気がする。
あまり見れなかった咲夜さんの笑顔を、最後にもう一度見る事が出来た。

「早苗、私からも一つだけ言わせて頂戴。
 あなたが此処に来てからの3日間、本当に新しい事だらけだった。
 あなたは本当に名前の通りの人間(・・・・・・・・)だったわ。お礼を言わせて。ありがとう。」

…名前の通り?『早苗』って名前に何か意味でも有るのかな?
両親から名前の意味なんか聞いた事なかったので、意味が判らずに私は首を傾げる。

「あら、知らないのかしら?まあその内気付くと思うから、それまで自分で考えなさい。
 …何時でも戻って来て構わないから。あなたももう紅魔館の一員。此処も、あなたの家よ。」

…ああ、此処まで来て涙が出そうになる。でも、私は最後までそれは堪える。
だって、最後まで笑っていたいから。最後の最後に、泣き顔なんて見せたくないから。

「…はい、ありがとうございます。」

私は出来る限りの笑顔を作る。内心では、涙を堪えるのに必死だったけれど。
本当に「紅魔館に住むのもいいかもしれない」と思ってしまうほどに、私にとって大切な場所になってしまった。
…でも、私は帰らなきゃいけない。例えどんなダメ神様であろうと、八坂様と洩矢様に仕えると決めたのは、私自身なのだから。

「ではこれで失礼します。またすぐに伺うかと思いますので、それまでお元気で。」

私は小さく手を振って、それを最後の挨拶にする。
それに対して、美鈴さんとフランドールは大きく、咲夜さん、パチュリーさん、小悪魔さんは小さく手を振って返してくれた。

…私はそれを見てから踵を返し、後は振り返らずに、一目散に飛び立った。
お別れは済んだ。後は…紅魔館が見えなくなるまで飛び去りたかった。これ以上、涙を堪えられそうになかったから。
もう何度となく思ったけれど、本当に、この3日間は素晴らしい物だった。

「…本当に…ありがとう、ございました…。」

もう聞こえるはずはなかったけれど、最後にその言葉だけ、私の口から漏れた…。



 * * * * * *



「…行ったわね。何をあんなに慌ててたのかしら?(咲)」

「ううっ…早苗さん…。待ってますからね…。(中)」

「本当に風のような子ね。まあ、『風祝』には相応しいのかもしれないけれど。(パ)」

「今度こちやんが来たら、沢山遊んでもらおうっと♪(フ)」

「…あれ?そう言えば咲夜さん、お嬢様はどうされたのですか。(こぁ)」

「ん、部屋の扉に『暫く一人にして 絶対に誰も入らないこと 特に咲夜』って書いてあったわ。
 …なんで特に私なのかしら…。…そんなお嬢様に嫌われるような事をした覚えは…。(やっぱり無意識だった咲夜)」



 * * * * * *



…ふうっ、大分涙も落ち着いた。
今は人間の里に続く道を、一人でのんびりと歩いている。
逢魔が時というにはまだ早い時間なので、まあ一人で歩いてたって妖怪に出会う事は無いだろう。
紅魔館での思い出に浸りながら、ゆっくりと歩いていく事にしよう。

「…あ、そう言えば…。」

また忘れるところだったけれど、そう言えばお給料の中身を確認してなかった。
これから里で買い物をしてから帰らなくてはいけないので、今のうちに中身を確認して、ある程度の計画は立てておかないと…。
懐にしまっておいた封筒を取り出す。…まあ、やっぱり大した質量は無い。
仕方ないか。たった3日間の仕事で、そんな沢山のお金を期待する方が間違いだ。
取り敢えず暫くの間持てばいい。本格的にアルバイトを見つけるまで持ちこたえられれば…。
そう思って、私は封筒を開けて、中に入っていた一枚の紙を取り出して…。

…歩くのを、止めた。

「…こ、これは…。」

あはははは…、…なんですかこの予想外の展開は…。
いや、心の片隅で少しだけ考えはしましたけど…。…これだけは無いだろうと思って、考えないようにしていたのに…。
…まさか、その有り得ないと思っていた事が、起きてしまうなんて…。
…あは、あははははは…。

「ううっ…。…近頃の閻魔はどうしてあんなに厳しい…。…ああっ!!早苗!?早苗なのぉ!?
 ああもう!!良かったよぉ早苗ええぇぇぇぇ!!無事でよかったああぁぁぁぁ!!」

…グッドタイミングと言うか御都合主義全快と言うか、身体に数本の卒塔婆が突き刺さった洩矢様と偶然の再会…。
抱きついてくる洩矢様を、私は素直に受け入れる。
…ええ、とってもお逢いしたかったです洩矢様。本当に素晴らしいほどに完璧なタイミングで戻って来てくださいました…。

「…洩矢様…。…ええ…私も…お逢いしたかったです…。…ストレス解消したいので…。」

…その言葉を聞いた途端、洩矢様が凍りつくのが眼に映る。
いいですよその反応…。逃げられては厄介ですからねぇ…。

「…さ、早苗…?…な、なんであの眼なの…?…ここは再会を喜ぶところじゃないの…?」

「ええ、喜んでいますとも。本当にお逢いしたかったですよ。丁度いいストレスの捌け口に。」

「何その既に殺す気全快な発言は!!」

「第一洩矢様も一緒に働いてくだされば、この事態だけは免れたかもしれません。やっぱり全部洩矢様のせいです。」

「完全に八つ当たりじゃない!!て言うか何があったのよ!!せめて、せめて殴る前にそれだけは教えてぇ!!」

「五月蝿いです。死なないんですから大人しく私のサンドバッグになってくださいいいぃぃぃぃ!!!!」





「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁうううううううぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーー!!!!」








『給料-紅魔館の修理代や霊夢への損害賠償=0  by咲夜』








 給料明細の裏面
『冗談よ、これは失敗の分のお返しだと思いなさい。
 給料はこの明細の中に入ってるから、後はしっかり頑張りなさい。 by咲夜』


今日は、酢烏賊楓です。一日50行のペースで書いてたら相当時間が掛かってしまいました。
それでは何時も通りのあとがきみたいな物をば。

今回はまあ、何時もの調子で進めた心算です。
最初は全部一話に纏めようとか、凄い事考えてたものだなぁ、としみじみ思います。
一番大変な事になっているのは早苗よりも咲夜な気がしなくもないですが。変態メイド長全快ですね。
某動画掲示板でウマウマやってるお嬢様が少なかったので、自分で勝手に想像していたら、咲夜が暴走するシーンを幻視したので、そんな妄想をを完全に再現してみました。
アホですね、はい。でも反省はしていn(ザ・ワールド
『風祝と星』で使った八坂様ニコ厨説なんて、殆どの方が覚えていないでしょうね。
分かっておきながらネタを使う私も私ですが。
…此処まで読んで、一番最初の「咲夜さんが血塗れに~」の意味が判らなかった方は…、…多分いませんよね?

お別れのシーンだけは流石にネタは入れていません。それはどうかと思ったので。
それ以外は殆ど何時も通りに仕上がっているはずですが。
…どうもやりすぎとギリギリの境界が上手く掴めないですね…。…修行修行…。

…さて、『風祝と紅魔館』4作はこれで終わりです。いかがだったでしょうか。
…この4作の中にちょっとずつ散りばめたとある伏線に、気付いていただけましたかね…?
とまあ、それはそれとしてですね…。
…確かに『風祝と紅魔館』はこれで終わりですが…。
すみません、もう一つだけ話を繋げます。『風祝と紅魔館』とは殆ど関係の無い、別の話ですが。
と言うより、この続きの話…。…要するに人間の里での話です。
人間の里と言えば、皆様誰を思い出しますかな?
そんな訳でまあ、次の話の予告タイトルは『風祝と寺子屋』です。少しでもご期待頂けたら重畳です。

それでは、毎度の事ながら少しでも楽しんでいただけたならば幸いです。
此処までお読みいただき、真にありがとうございました。
酢烏賊楓
magic_three_map@yahoo.co.jp
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コメント



0.1470簡易評価
1.100親に内緒でネットに繋いで大目玉食らう程度の能力削除
カオスすぎ!wwwwwwwwwwwww
黒早苗怖っ!
3.50名前が無い程度の能力削除
なにそのDB並みの次回予告www
4.70名前が無い程度の能力削除
「やれみりゃ!!」ってwwwwwww
6.60野狐削除
とりあえず咲夜さんは自重したほうがいいと思うw
おびえるお嬢様もまたぐー。

しかし全体的にテンポが悪いようにも感じますねー。だらだらと長いシーンもあれば、『エ? こんだけ?』とも思えるシーンもありまして、若干アンバランスに感じました。
まぁ笑えるところはしっかり笑えたので、問題は無かったのですがw
7.70名前が無い程度の能力削除
最初の方の美鈴がヤンデレっぽくてすてき
諏訪子様があわれ
13.100西行妖削除
早苗さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!wwwwwwwwwwww
14.無評価酢烏賊楓削除
コメントありがとうございます。

>親に内緒でネットに繋いで大目玉食らう程度の能力さん
>黒早苗怖っ!
悪魔に悪魔と言われてますからねぇ。
仕返しにも常に利子をつけて返します。

>16:33:17の名無しさん
>なにそのDB並みの次回予告www
まさかの次回予告に突っ込み!
あれです、読者様に次の話の想像を膨らませて欲しいと言う感じです。

>17:11:01の名無しさん
「やれみりゃ!!」ってwwwwwww
あの問答の80%は「やれみりゃ!!」によって構成されています。

>野狐さん
>とりあえず咲夜さんは自重したほうがいいと思うw
自重しない咲夜さんです。
>しかし全体的にテンポが悪いようにも感じますねー。
…きっと何時か言われるとは思っていました…。
「エ? こんだけ?」のところは私のネタ発案能力とネタ構成能力が足りない結果です。
だらだらのシーンには…。…多分伏線が張ってあるからです。多分でs(八坂の神風

>22:51:18の名無しさん
>最初の方の美鈴がヤンデレっぽくてすてき
もう完全に早×美です。
>諏訪子様があわれ
諏訪子にこういう役回り以外させた事がない気がします。

>西行妖さん
>早苗さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!wwwwwwwwwwww
ダークネスこっちゃーは神をも超えます。
19.70三文字削除
咲夜さん、何やってんのw
それにしても、このお嬢様はヘタレミリアですな。
20.無評価酢烏賊楓削除
コメントありがとうございます、



>三文字さん

>咲夜さん、何やってんのw

咲夜は大変なものを盗んでいきました。

>このお嬢様はヘタレミリアですな。

え?だってれみりゃはそういうキャラでsy(スピア・ザ・グングニル
39.100名前が無い程度の能力削除
れみりゃ哀れ・・・

可愛いからね。仕方ないね。