Coolier - 新生・東方創想話

神様が参拝するなんて、へんなの

2008/03/28 06:41:42
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すでに幻想郷は春を迎えた。
柔らかな陽射しのおかげで流れる風は暖かく、うららかで過ごしやすい日となっている。
博麗神社の縁側からは、桜の木々を見ることができる。
まだ花開いていなかった桜だが、青い空の下でつぼみを付けた枝を楽しげに伸ばしていた。

しかしその縁側の隣にある居間では、暖かくなった今でもまだこたつがあった。
そしてその中には猫のように丸くなった霊夢が、ごろごろと暇そうに寝転んでいた。
今の季節にこたつもしまわず昼間からだらしなく過ごしているのは、とてもよろしくない。
が、この怠惰な状況には理由があった。

霊夢は片手でだらしなく頬づえをつきながら、はぁ、と溜息を吐き、呟いた。

「ああ暇だわ……暇つぶしに誰か来ないかしら」

暇だから、何もすることがない。だからコタツに潜るしかないのである。
無駄に流れゆく時間はとてももったいなく、なおかつ激しくつまらない。
誰でもいいから早く来い。霊夢がそう念じていると、偶然にも外の境内を叩く足音がこつこつと響いた。

瞬間、霊夢は縁側と居間の間をふさいでいた陰気臭い障子に手をかけ、勢いよく開く。
晴れ晴れとした外の空気とともにあらわれたのは、これまた晴れやかな表情をした神、洩矢諏訪子だった。

「やあ」と諏訪子がにこにことしながら挨拶すると、霊夢も「いらっしゃい」と思わぬ来訪者を歓迎した。
ようやくの来訪者は、右手に大きな手さげ袋をぶら下げていた。
何か細い棒状のようなものが飛び出しているのが見える。霊夢は何を持って来たのかと、少し期待した。

諏訪子はふとキョロキョロと周りを見渡す。
そして霊夢を見て言った。

「人気皆無のガラガラ神社ねえ」
「うるさい」

諏訪子が縁側によいしょと腰かけたので、霊夢もコタツから這い出て、諏訪子のすぐ隣にちょこんと座った。
そしてさっそく胸に期待を抱かせながら、脇に置かれている袋を指差した。

「なに持っているの?」
「ん、釣り竿だよ」
「てーことはつまり……釣り?」
「そ、釣り。だから……」

諏訪子は右目をパチッとウインクさせて言った。

「ご一緒にどうかな、巫女ちゃん」

欧州の紳士を思わせるようなかっこいいお誘いを、諏訪子はした。つもりであった。
しかし霊夢の目には、子供のような愛くるしさだけが映るのみだった。
神様のくせして威厳がこれっぽっちもないなんてね、と霊夢は心の中だけで嘆息する。
まあこれはこれで信仰はよく得られるだろう。

「で、諏訪子。釣りって、どこで?」
「渓谷の川がいいと思うの」
「……ああー妖怪の山のところね」

霊夢は去年の秋ごろの記憶を思い返した。
妖怪の山の麓に広がる、鬱々とした樹海を抜けたところに、その川はある。
通り道の樹海の雰囲気とはまるで正反対なとても涼やかな川が、渓谷に挟まれながら静々と流れている。

「前に通った時は、あそこの紅葉が特に綺麗だったなあ……川のせせらぎによく合っていたというか」
「そうねえ、まあ今は散って見られないけれど。今の時季なら梅の花が咲いてるわ」
「そんな梅の下で魚を釣ったなら、さぞかし“うめえ”魚が釣れそうね」
「つまんない!」

二人は顔を見合せてお互いに笑った。
しばらくクスクスと笑い合った後、霊夢はふっと前を向き、青空を仰ぐ。

「そうねえそれじゃあ……」

霊夢は、春の陽気を含ませたような笑顔を見せた。

「一緒に行かせてもらうわね」

涼しいそよ風が二人の頬をすっと撫でる。
諏訪子はほっとした様子を見せた後、にこりと笑った。


「よかったぁ、断られなくて」
「まあ断る理由もないし、お夕飯のおかずにちょうどいいわ」

あの清流なら質のいい魚が獲れるだろう。まさか河童が釣れることもあるまい。
アユかヤマメが釣れるといい。霊夢は好物の川魚を思い浮かべ、舌なめずりした。

「夕飯ねえ……」

諏訪子はぽそっと呟く。
そして、そんな霊夢をおちょくるように、いたずらっぽく言った。

「ま、霊夢が魚を釣れたらの話しだけれどねー」

空を見上げ、からからと笑う諏訪子。
すぐ笑いを収めると、縁側からぷらぷらさせていた両足を、よっ、と勢いよく地に下ろす。
境内に石畳の乾いた音が響いた。

「さっ、いこうか」

淀んだ曇り空が人の顔を曇らすように、天気は人の表情を左右させる。

今日は晴れ、釣りに出掛けるにはもってこいの快晴。
だから諏訪子はにこりと晴れた顔をしていた。
だから霊夢も同じ顔で

「ん、いきましょ」

とんっ、と地を叩く二つの音を残し、風がそれを消した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ひたすら高い妖怪の山を頼りに、川を目指して諏訪子と霊夢がふよふよと飛ぶ。
真下には樹海が、つまりあともうひと飛びで川へたどり着くわけとなる。

午後の晴れた空の下で、二人はぽつぽつと会話をしていた。

「そういや参拝客のほうはどうだい? ちゃんと参拝客はいる?」
「全然いない。三日に一人が来ればいいほうね。しかも妖怪限定だけど」

むう、と霊夢は渋い顔を作って言う。

ただ人間が来ないのは、博麗神社の立地条件が悪いがためである。
そもそも、神社の長い長い階段を見て登る気が失せる前に、そこまでたどり着くこと自体、不可能である。
通り道に潜む妖怪に、ぱくり――とおいしく食されて、人生が終わってしまう。
誰も好んで妖怪に自分の血肉を与えに行くわけがないのである。

「まあ安心しなさいな」

諏訪子は胸を二回勇ましく叩いてから言った。

「私が相談に乗ってあげる」
「前もそんなこと言われた気がするけど、なんか信用できない」
「えぇー」

霊夢は知っている。守矢神社も天狗河童らの妖怪しか訪れないことを。
霊夢は妖怪ではなくて人間の参拝客が欲しいのだ。
妖怪は酒しか信仰しないのである。
だから、信仰は受けているものの、妖怪に取り巻かれている守矢神社の一柱である諏訪子に相談したって、人間の参拝客は望めないだろう、と霊夢は思うのだった。

信用に値しない、とばっさり切られた当の本人は、なんだか逆にやる気になったようで

「こうなったら絶対に、絶対に参拝客が増える方法を考えてあげるわ……!」

と、メラメラと燃える目で霊夢を凝視した。
ところが一方の霊夢はというと、別にそこまでしなくてもいいんだけどなあ、とちょっと困ったような顔で軽く笑っていた。
確かに神社に参拝客が来ないことには困っているが、特に重大な問題というわけでもない。

とはいえ、せっかくの好意を無駄にするのも気が引けるし、とりあえず話半分で聞いてみることにしよう、と思ったのだった。

「ま、楽しみにしているわ」

と、諏訪子に告げる。
そうこうしているうちに、前を向いてみれば、渓谷とそれに挟まれた川の姿がもう目に飛び込んできた。
真ん前の景色を意識し始めると、川の水が岩肌を流れ落ちる音が、かすかに、そして気持ちよく耳に届いた。
諏訪子が霊夢の肩をぽんぽんと叩く。

「ねえ霊夢、あそこのしだれ梅のところで、いいんじゃない?」
「あーいいわね」

今は緑の葉をちらつかせるモミジ・カエデ類の木々の中で、淡い桃色をした梅の花がひときわ目立っている。
そのしだれ梅は、ちょうど川横の岩場を上から覆うようにして立っていた。
それに向かって斜めに降下していくと、そよ風がほんのりとした梅の香りを鼻腔に運んできた。

「よっ、と」

地に降り立つと、梅の木に接近したせいか、梅の香りはさらに増したようで、ほのかに甘酸っぱい香りも漂ってきた。
この梅も、満開の桜花と比べれば、どことなく見劣りしないわけでもないが、甘美な香りがそれを補っている。

「諏訪子、梅って美しいわね。うちの神社は桜ばっかりだから、気付かなかった」
「ね、きれいでしょう。絶好の釣りポイントよ」
「そのまま宴会でもいけるくらい」
「あ、そうだ。神社のお花見、私も誘ってよね」
「もうすぐ桜も開花するわ。その時になったら、呼ぶから」

諏訪子は、そう、と呟き、嬉しそうに笑みを浮かべた。
幻想郷での花見を、諏訪子はまだ経験をしていない。
だから、霊夢たちと騒ぐ幻想郷での初めての花見を想像してみたら、不思議と笑みがこぼれたのだった。

さてと到着したからには釣りである。いつまでも花を見るのもいいものだが。
二人はすぐ側にある岩場に並んで腰をかけた。
諏訪子は手持ちの手提げ袋をがさごそとまさぐる。
しばらくして取り出したものは、カーボン製の釣り竿と四角い紙のえさ箱だった。

「餌は何を使いたい? イクラとマムシ」
「もちろんイクラで」
「そりゃそうよね。私も虫は嫌いよ」

ひょいひょいっと餌付けなどの作業をこなし、諏訪子は一本の釣り竿を霊夢に手渡す。
渡されたそれを霊夢はひと振りする。ポチャン、と水が跳ね返る音がした。
諏訪子もそれに続き、川に仕掛けを放りこむ。もうひとつ水音が響いた。

しばらく沈黙が続く。聞こえるのは、葉の触れあう音とそれに重なる川音だけである。
時々、ポチャン、と魚が跳ねる音がする。この浅瀬には魚が多いようだった。
自然の声だけが聞こえるなかで、霊夢はなんとなくだが、声を出しづらかった。
ただそれは窮屈なものではなく、心地よいものである。竹林の静けさにも似ている。

突然、あっ、と沈黙を破る声が聞こえる。諏訪子の声だった。
しかしうるさく感じるものではなく、静寂と溶け合うような、豊かで自然な声色だった。
神様の声はなんとなく優しい、と霊夢は思いながら、そちらを振り向いた。

「そういやあなたの神社のことだけど……ね」

ふと竿が揺れた。霊夢の手まで震動が届く。

「あ、かかったかも」
「早いな!」

諏訪子が切り出した『参拝客』の話題は、ひとまず中断となった。
別に話題が強制終了したからではないが、苦笑いを作った諏訪子はちょっと横を向き、ぽそりと漏らした。

「参拝客が増える方法なんぞ、思い浮かばんよ……」

さっきは張り切った様子で胸を叩いていた諏訪子だったが、いざ考えるとなると、最初から万策が尽きてしまった。無念。
情けなくはあるが、まあしゃーねえべ、と思っていた。ちょっと悪いかな、とも思った。
だからさっきその話題を切り出したのは、霊夢に何も考えつかなかったことを詫びようとしたからである。

ただそれは、霊夢の釣り竿に魚がかかったことで中断させられた。
だからさきほどは思わず苦笑いがこみ上げてきたのだった。

まあこのままうむうやにするのもいいかあ、と釣り上がった魚を見つめながら、諏訪子は改めて苦笑いしたのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


空はもう茜色に染め上がっていた。幻想郷を繋げているような連雲も、同じく夕焼けに染まっている。
霊夢と諏訪子は、落日の余映を背に受けながら、博麗神社の長い階段をうんせよいせと登っていた。
なぜ飛ばずに疲れる真似をしているのかというと、これには特に理由はない。
なんとなく諏訪子が階段の始まりのところに降り立ち、なんとなく霊夢もそれに従っただけである。

「それにしても、今日はよく釣れたわね。諏訪子がたくさん」
「霊夢とほとんど変わらないよ。たった1、2匹の差じゃない」
「そうねえ」

ざっと10数匹といったところである。
しかし、か細い少女である二人には、一度でたいらげることはできない量だった。
あとでいくつか保存しておこう、と霊夢は魚の重さをとてもよく感じながら思った。

「諏訪子、そういえば……」

霊夢はふと思い出した。川へ向かっている時の、諏訪子との会話を。

「私の神社の参拝客のこと、どうなったの?」
「あう」

しまったとばかりに口に手を当てる諏訪子。
やがて、しどろもどろになりながら、ぽつりと言った。

「実は何にも思いつかなくて……さあ」
「ふーん」

参拝客のことは、霊夢自身は特に重く考えてなかったので、その告白をただ軽く受け止めただけだった。
が、いつまでも諏訪子があーうーと困った顔をしているので、なんだかいたずらしたくなり、少し戯れに

「あーあ、どうせ今日も神社は参拝客はないだろうなあ……明日もどうかなあ……」

と、わざと辛く悲しそうに霊夢は呟く。
そんなことないのにそんなことを呟いた霊夢は、心の中でいたずらっぽく笑っていた。

しばらくの沈黙が流れる。

すると諏訪子は、申し訳なさそうな、それと照れたような様子で、後ろ頭をかきかきしながら言った。

「私が参拝客ってことじゃ、だめ?」

上目づかいで、おずおずとした様子の諏訪子に、霊夢はきょとんとする。
なかなかどーして可愛らしいことを言う。
この天然の愛らしさをもっとフル活用すれば、さらに守矢神社も信仰を増せるのではないか。

と思った霊夢だが、それを口に出すのはやめた。
なぜなら商売敵ともいえる守矢神社がこれ以上大きなれば博麗神社の脅威になるのと、そもそもの話「あんた可愛いからもっとそれを生かしなさい」などと本人に言うのは、変にこっ恥ずかしく思えるからである。


でも、神様が参拝とはねえ。
霊夢はそれが少しおかしくて、くすくすと微笑しながら言った。

「神様が参拝するなんて、へんなの」

まあ楽しかったからいいわ、と付け加える。
それを聞いた諏訪子はホッとした様子をみせながら

「私も楽しかった」

と満足そうに呟いた。

もう階段は続かず、目の前には博麗神社があった。
話をしながらだと登り切るのが早く感じられた。

「夕ご飯、どうする?」
「食べてく」
「魚どうしようか」
「ムニエル、それか焼き魚がいいかなー」

そう、と霊夢は呟き、微笑んだ。
夕方の風が頬に気持ちよく当たる。これから二人で食べる夕飯も、頬が落ちるくらいおいしいものだろう。

「まあ私も一緒に作るわよ。ところで霊夢は――」

諏訪子は、いたずらっぽく訊ねた。

「はたしてお料理は得意なのかしら」
「諏訪子がへたくそでないかぎり、夕飯は豪華けんらんになるはずよ」
「こやつ!」

境内に二人の笑い声がよく響いた。
二人が神社の中に消えていくと同時に、茜色の空も夜に溶け込んでいった。

可愛いちょっと不思議な組み合わせですね。
巫女さんと神様だから意外と縁があるのかもしれません。

なごめるような、暖かいような雰囲気にできていればいいのですけれど。
もう春が訪れて最近は暖かいですから、そういう暖かさを感じていただければ、とても嬉しく思います。

それではここまでお読みいただき、ありがとうございました。

しまうま
syuunyan@gmail.com
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コメント



0.4250簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
いいですね、暖かい気分になりました。
二人の組み合わせも新鮮です。
3.70名前が無い程度の能力削除
こういうのんびりゆったりなの、大好きです。日常の一コマってかんじですね。
ただ、これといった見せ場や、起承転結が感じられなかったので、人によってはつまらないと思うかもしれないですね。
4.100名前が無い程度の能力削除
和ませてもらいました。
こういう珍しい組み合わせもいいね。
5.90名前が無い程度の能力削除
か、か、か、か、かわいいいいいいいいいいい!!!!!!!
ぐあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
6.90名前が無い程度の能力削除
にゃごんだ
7.60翔菜削除
すすす、すわすわすわっ。

このまったり具合は好き。
9.90名前が無い程度の能力削除
いいですね…このまったりぐわい…
12.100時空や空間を翔る程度の能力削除
山笑う、春の季節

梅の花を見、川のせせらぎを聴きながらの釣り
風情を感じます。春の川釣りさぞ楽しいでしょう。

13.90名前が無い程度の能力削除
これは珍しい組み合わせ。
でも、これはいい。
15.100名前が無い程度の能力削除
めずらしい組み合わせだけど、これはアリだよ。ほのぼのしちゃうなぁ。
守矢神社の面々と霊夢の組み合わせは色々想像を掻き立てられる。
自分も形にしてみたい…。
19.70名前ガの兎削除
かわいいのう、かわいいのう。
23.70てるる削除
珍しい組み合わせですね~。
ほのぼのとしてて和みました。
まーったりと、ゆーっくりと・・・
26.90名前が無い程度の能力削除
滅多に見ない組み合わせ。
だが、和んだ。
ちょっと山まで鮎釣りに…外では解禁されてないんですがね、ええ

神様二人と早苗さんは霊夢との二次創作的な愛称抜群だ
27.80名前が無い程度の能力削除
新境地開拓!?これもイイ^^
33.100名前が無い程度の能力削除
この組み合わせは珍しいですね。
とても暖かい話をありがとうございました。

あぁ、お茶がおいしい。(しみじみ
34.90名前が無い程度の能力削除
こやつ!!
41.80名前が無い程度の能力削除
のんびり散歩がしたくなるようないい作品でした。

こやつ!
53.80削除
どうしてケロちゃんはこんなに可愛くて春の風が似合うのか。
56.90三文字削除
いいなぁ、和むなぁ。
神奈子様は魔理沙とウマが合うらしいけど、諏訪子様は霊夢とウマが合いそうだ。
73.100名前が無い程度の能力削除
やばい大好きだこうゆうの
諏訪子と霊夢の組み合わせはいいと思うよ
84.90名前が無い程度の能力削除
こ、こやつめ!
90.100名前が無い程度の能力削除
ほっこりした。
こやつ!
91.100名前が無い程度の能力削除
な、なごんだ・・・
94.100名前が無い程度の能力削除
諏訪子×霊夢だと・・・・。

許すん!!
96.無評価名前が無い程度の能力削除
グレート
98.70名前が無い程度の能力削除
いい雰囲気
109.70名前が無い程度の能力削除
優しいお話。