Coolier - 新生・東方創想話

桜舞う日常

2008/03/26 09:47:36
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そこはかとなく百合チックです。
嫌いな方は引き返してください。





「ふぅー、良い天気ねぇ・・・・」
「毎日毎日縁側で茶飲んで、空を眺めて・・・・お前もよく飽きないな」
艶やかな漆黒の髪をゆらし湯飲みを傾けるこの神社の主、博麗霊夢を、星屑を集めたような金の髪を持つ少女、霧雨魔理沙は半ば感心した様子で眺めていた。
「いつもいつも飛び回って何かと騒動を起こすあんたと比べたら、私の方がずっとマシだと思うけど」
「私が騒動を起こすんじゃないぜ。騒動が私の後を付いて来るんだ」
「はいはい、お世話様」
言って霊夢はぼんやりと空を仰ぐ。
暖かな陽光の中、優しい風が吹き抜けた。



ここ、博麗神社に魔法使いが遊びに来るのはいつものこと。
そのまま二人で異変を解決しに行くこともあるし、弾幕ごっこをするときもあるし、ただただ炬燵で寝転んでゴロゴロしていくだけの時もある。
そのままお泊りモードになってしまう事も少なくはなかった。
だが、二人はこの幻想卿の中で、互いに他の誰よりも長い付き合いではあるが、一般的に言う『親友』というわけではない。
気心は知れているが、お互い慰めあったり、べたべたとじゃれあったりするような仲良しではない。
お互い認め合ってはいるが、それを素直に口に出したり、誉め合ったりするような関係でもない。
友人感情が全くないわけでもないが、どちらかと言えば腐れ縁の方が当てはまる気がする。
ただ、巫女の横には魔法使いが、魔法使いの横には巫女が。
あまりにもこの関係がしっくりきて、そのまま馴染んでしまっただけだ。


薄い水色が広がる空を、二人して眺める。
どこかで鳥の鳴く声がした。
桜の花弁が、ひらりひらりと舞っていく。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
なんとなく、特に話す事がなくて二人は黙りこくる。
別に気詰まりなわけではない。
単に話す気がないから話さない。それだけのことだ。

何もすることがない魔理沙は、ちらりと霊夢を横目で眺める。
霊夢は湯飲みを置いて、目を瞑っていた。黒髪が顔にかかっている。
――――眠って、いるのだろうか?
心地よい春の日差し、穏やかな風に誘われて、うとうととまどろみたくなる気持ちは分からないでもない。
霊夢を眺めるのも飽きて、魔理沙は再び空に視線を移した。
白い薄い雲が、ゆっくりと時間をかけてその形を変えていく。

まるで霊夢のようだ。
魔理沙は自然とそう思った。


この幻想卿を守る博麗大結界の要、博麗霊夢はよく自分の能力をこう語る。
曰く「空を飛ぶ程度の能力」と。
なるほど、それは確かにその通りで、霊夢をこれ以上ないほどに的確に表した言葉であった。
ふわふわふらふら、頼りなく空中に漂っている。
誰にも強制されず、誰にも束縛されず、ただ己のあるがままに。
その何にも属さない自然体ゆえか、はたまた博麗の性か、この巫女は人間妖怪、あらゆるものを引き寄せる。
「普通の魔法使い」でしかない魔理沙が影でどれだけの努力を重ねようと、霊夢に追いつくことは出来ない。
ひたすらに努力を積み上げ、妖怪を叩きのめし、悪魔の妹であるフランや最強の妖怪である紫と対等に渡り合えるほどの力を身につけてなお、届かない。

霧雨魔理沙にとって、博麗霊夢は至高の高みにいる。
どれだけ追いかけても手は届かず、掴んだと思ったらするりと指の間を抜けていってしまう。
この世界を皆は幻想卿と呼ぶが、まるで霊夢自体が幻想のようだ。

そこまで思考して、再び霊夢に視線を向ける。
霊夢は先ほどから目を瞑ったまま微動だすらしない。どうやら本格的に寝てしまったようだ。
いつもからは考えられないが、こうして目を瞑って大人しくしていれば美人と言えないこともない。
黒い髪と白い肌、整った顔立ちとすらりと伸びた背筋。それはまるで凛とした花のようで。
魔理沙は柔らかな匂いに誘われるように、そっと手を伸ばした。
なんとなくその顔に、柔らかな頬に、触れてみたくなったので。

淡い桃色の桜が風で舞い散る。
決して親友ではなく、ましてや腐れ縁だが、傍にいたいと思う。
この感情の名前を魔理沙は知らない。






穏やかな陽気に霊夢は目を閉じた。
こうしてお茶を飲んで、縁側でのんびりと過ごすのが一番の幸せだと思う。
髪をなびかせる暖かな風も酷く心地よい。
隣でする事がない魔理沙が、ぼんやりと空を見ているのが手に取るようにわかった。

空。まるで魔理沙のようだ。
霊夢は目を閉じたままそう思う。

空、といっても、曇り空や夜空ではない。
果てしなく広い、どこまでも澄み渡った青空だ。
あまりにその存在は大きすぎて、霊夢の手に掴みきることができない。

魔理沙は、破天荒で、がむしゃらで、負けず嫌いで、面白いことが大好きで――――見ていて飽きない。
どこか捻くれていて、そのくせ一途で、どんな妖怪相手にでも全力でかかって行く。
決して折れず、屈しない。その真っ直ぐな心は、素直に――――「美しい」と、そう感じる。
だからこそこの魔法使いは、幻想卿の人間から妖怪に至るまで、あらゆる者を惹きつけるのだ。

それ故に、霊夢は魔理沙を止めて置くことが出来ない。
空を捕まえるなど不可能な話だ。手は空を切り、風を凪ぐだけ。
この魔法使いは幻想卿中を飛び回り、時には図書館に顔を出し、時には香霖堂に姿を現し、時には七色の人形遣いの家へ遊びに行き、限りない自由を謳歌しているのだから。
だから、せめて。
捕まえることが出来ないなら、彼女の方から自分を追ってくるように。
彼女の目指すものが、常に自分であるように。


そこまで思考し、霊夢はふいに手を動かす。
その手は、そっと霊夢の頬に伸びた魔理沙の手首をしっかりと捕まえた。
目を瞑っているはずなのに、まるで見えているかのようだ。
眠っていると思った霊夢の不意打ちに、びくりと肩をすくませる魔理沙。

霊夢がゆっくりとまぶたを開くと、そこには魔理沙の戸惑った顔があった。
至近距離にあるその顔に、霊夢はそっと己の顔を近づけた。









淡い桃色の桜が風で舞い散る。
決して親友ではなく、ましてや腐れ縁だが、傍にいたいと思う。
この感情の名前を霊夢は知っている。
友達以上、恋人未満な関係。
文中では美化されていますが、実際は霊夢は単なる怠惰、魔理沙は単なる人騒がせなだけだと思います。
霊夢×魔理沙なのか、魔理沙×霊夢なのかは、作者にも分かりません。
拙い文章ですが、感想、誤字脱字等、聞かせていただけると嬉しいです。
暇人A
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コメント



0.640簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
いや、恋とかじゃなくこれは親愛だと思うね、うん
3.90名前が無い程度の能力削除
久しぶりのレイマリ
ああ、春ですよーな雰囲気だなぁと思いました

以下誤字報告:
幻想卿 ×
幻想郷 ○
5.100名前が無い程度の能力削除
どちらが欠けても東方の世界は成り立たない。
比翼連理。この二人は恋とか愛とかそんなレベルの繋がりじゃないのさ。
13.無評価名前が無い程度の能力削除
シンプルな構成で淡々としてますが魅せる文章の面白い作品でした。
魔理沙かわいいよ霊夢。やっぱり霊夢側に主導権があるあたりがこの二人の関係をよく表してると思います。

>実際は霊夢は単なる怠惰、魔理沙は単なる人騒がせなだけだと思います。
その自由さが他人を惹きつけてやまないんだから、幻想郷は面白い所
14.90名前が無い程度の能力削除
おっと、評価忘れ失礼いたしました…
15.90名前が無い程度の能力削除
このコンビは大好きです。
16.80三文字削除
春ですよー。
百合っていうより、親愛ですね、ホントに。
良い雰囲気ありがとうございました。