Coolier - 新生・東方創想話

死者は望む

2008/03/10 07:55:41
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死者は望む


満開の桜が淡い桃色に包まれた死者の国を彩る。
日は桜を淡く照らし、風は桜の花を散らす。
熱い日差しと冷たい風が心地よい。
黄泉の国にも春が来た。
西行寺幽々子は白玉楼の屋敷の縁側に腰掛けていた。
その目は満開の桜に向けていたが、見ているのはその先であった。
勿論、透視をしている訳ではないし、出来ても意味がなかった。
少しすると、人の気配がする。
幽々子の横に腰掛ける。
「おはよう、紫」
「おはよう、幽々子」
言葉を交わしてから幽々子は、友へ目を向ける。
彼女の友人、八雲紫は名と同じ色の瞳で友を見返していた。
紫の格好はいつも通り、白いドレスに紫基調の前掛け、頭には白い帽子をしている。
だが、その帽子からは、長いブロンドの髪の束が二本飛び出し、左右に分かれている。
分かれた二本の束の先と伸びたもみ上げの髪の束、合わせて四つの髪の束の先には赤いリボンがされていた。
幽々子は白く細い指で湯呑を手に取り、紫の脇に置く。
「熱いお茶の入った湯呑が二つ?」
「来るのがわかっていれば、用意くらいするわ」
ここ数日、ずっと用意させていたのは口にしない。
勿論、おやつも二人分用意させていた。
「後はおやつでもあればいいわね」
「すぐに用意させるわ」
先ほど下げたばかりだったが、妖夢は黙って用意を始めた。
「それ、似合うわね」
「そう、ありがとう」
「でも帽子も変えたほうが、いいかもね」
「あら、気に入ってるのに」
紫が髪から手を離すと、二人は風に花を散らす桜に目をやる。
「散りゆく桜が死の儚さなら、満開の桜は生の最たるものかしら」
「残念だけど、あの桜は死んでいるわよ」
紫の言葉に幽々子が言う。
「花は散れども、枝は残る。そして葉をつけ、また花を咲かす。桜にはそのすべてが生なのよ」
「つまり、あの桜が花を咲かせて散るのも、すべては死でしかないと」
「そう、黄泉の桜はそんなもの」
なるほど、呟いて湯呑を傾ける。
幽々子は立ち上がると、少し歩いて立ち尽くす。
私の友人。
なぜ友としているのか。
彼女は死者、故に変わらない時を逝く者。
人よりも多くの時を持つ者は、必然的に人よりも生の密度が薄くなる。
変化の少ない存在。
それ故かと紫は思う。
「紫」
幽々子は唐突に言う。
「私をワインを見る目で見るのよ」
幽々子はよく突拍子の無いことを言う。
「醗酵するのかしら」
「腐らないわよ」
紫はそう返すが、少し驚いていた。
「いつから読心術なんて覚えたのかしら」
「わかるわよ、あなたの見る目」
幽々子は顔を近づけて言う。
黒に近い茶の瞳に紫自身が映るのが見えた。
「まるで宝石でも見てるみたい」
目を細め、口に微笑を携えて言う。
「まぁ別にいいけど」
「そうね、ワインでも飲みましょうか」
紫が記憶の中から、最高のワインの保管場所を探り出す。
「ああ待って、確かあったはずよ、50年物が。確か20年前に貰った物かしら」
「70年物ね」
「50年物よ」
幽々子はくすくすと笑い出した。
紫の目が僅かに狭まり、口元が平坦になる。
「そう拗ねない、あなたは捻くれすぎよ」
「そうかしら」
紫の顔は元の微笑に戻っていた。
ワインのように。
それは幽々子の望みだろうか。
「死者は望む」
幽々子には聞こえないよう、呟く。
死者の望み、まずは弔いが頭を過ぎる。
だが、線香で喜ぶだろうか。
そんな思考を始める。
二人は他愛のない話をしていく。
意味のない会話は、終わると同時に意味を失う。
まるで桜が散るようであった。
「幽々子」
空の湯呑を置いて、紫は呟く。
「あなたは何を望んでいるの」
その視線は桜に向けられていた。
もしくは桜の先を見ていたかもしれない。
幽々子は一瞬だけ考える。
「あっはっはっはっは」
突如、幽々子は文字通り、腹を抱えて大笑いする。
呆気に取られた表情の紫の視線を受けても笑い続けた。
「そんなこと気にしてたの」
笑いながら言う。
紫の表情はあからさまに不快を示す。
「悪かったわね」
「ごめんごめん」
拗ねる友人のために、笑うのをやめる。
「友は望む」
少しして、幽々子が呟く。
その表情は笑みを携え、優しげなものであった。
それを見た紫の表情も緩む。
「それは共に歩み続けること」
紫は笑みを灯して言う。
「それでいいの」
「それでいいの」
紫の言葉をそのまま返す。
幽々子の顔にも笑みが灯る。
「だから言ったでしょ、捻くれてるって」
二人は笑った。
友に求めるもの。
その程度で十分なのか。
もう少しだけ。
「友は望む」
幽々子が呟く。
その瞳は思考を止めた紫のそれと見合う。
「大丈夫、今は間違ってないわよ。紫」
ただ、それだけ言った。
紫は目を閉じて、少しだけ思考する。
そして目を開けてから言った。
「ありがとう、幽々子」
友で居てくれて。
「こちらこそ」
友で居てくれて、ありがとう。
多く語る必要はない。
変わらない二人の背。
それを妖夢は見つめ続けていた。
彼女はおやつを出すタイミングを完全に見失っていた。

俺様はっ!ゆゆゆか好きでっ!ツイン好きでっ!海水なんだよおおおおおおぉぉぉ!!!
淡水
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コメント



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2.90名前が無い程度の能力削除
いいなぁこのゆゆゆか…
好きですぜ、こういう話は。

ってあとがきOOかwwwww
3.90三文字削除
やあ、素敵だ。
情緒的と言うかなんというか。こういう雰囲気は大好きです。

あとがき>実戦に定評のないサワー定評のないサワーじゃないか!