Coolier - 新生・東方創想話

出会いとは複雑で~

2008/03/08 00:33:03
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「う~さぶっ!」

竹林をボロボロの服で飛ぶ影。彼女は藤原 妹紅。蓬莱の薬を飲み不死となった蓬莱人。絶対に死ねず寿命も来ない。

「あんなにド派手でやるからだ。そもそも殺し合いなんて物騒なもの止めろ」

妹紅の横を並ぶように飛ぶのが慧音。ハクタクの血が50%人間の血が50%という半分妖怪であり、満月の日には完全に妖怪と化す。

「ソレは無理。」
「何故だ」
「じゃあ逆に聞くけどさ、慧音が一番楽しいと思ってることは何?」
「そうだな。お前と話したりする事や里の子供たちと授業したりすることだな」
「もしソレが無くなったら?」
「・・・辛いな。」
「そういうこと。慧音の楽しいと思っていることは私にとっての殺し合い。ま、簡単に言えば暇つぶし なんだけどね。」
「蓬莱人は暇つぶしで殺し合いをするのか。その頭の構造を私はいまだに理解できん」

慧音は呆れながらため息をついた。

(出来れば妹紅には止めてもらいたい物だがな。何とかして止めさせられないか・・・)
「慧音。今止めさせられないかとか考えたでしょ?」
「な、何の事だ。」
「慧音は嘘が下手だな~。顔に書いてあるよ?」
「な、何を突然」
「ほんとだよ。さっき私が書いたもの」
「な、なにぃ!?」

慧音はすぐさま歴史を確認。

「なんちゃって~!慧音に気がつかれないようにかけるのはどこぞのメイド長と輝夜ぐらいだろ」
「だ、騙した・・・?」

妹紅はスピードを上げ慧音を置いて行ってしまった。

「ま、待て!」

慧音も速度を上げ妹紅に追いつこうとする。

「こっちこっち!」

こうして鬼ごっこが始まる。妹紅は殺し合いをしてボロボロにされたというもののよくココまでやる体力があるものだとそこそこ関心する。 本来殺し合いはどっちかが再起不能、またはリザレクションをして、弾幕を張る気力がなくなった時点で負けが決定する。
今日は輝夜をボコボコにした。通算86勝87敗。しかしボコボコにしたと言ってもイレギュラーな状況で終わることがある。
 それが誰かの介入である。勝敗は介入された時点でのリザレクションの回数。この前は霊夢に介入されお互いボコボコにされた。殺し合いをしていて弱っていたのだから負けるのはしょうがない。そしておとといは永琳が現れストップをかけられた。なんでも投薬実験をするのでどっちかに実験台になれということである。勿論2人とも拒否した。そして今日は慧音が介入。すぐさまストップをかけ殺し合いを終了させた。



こうして鬼ごっこをしているうちに慧音の家へと付く。人里の少し外れにすんでいる慧音は里の守り神的な存在で称えられている。
 彼女、妹紅も里で急病が出たときや大怪我をした時永遠亭まで頼めば無料で護衛をしてくれる。実に人間思いな2人である。

「ほら、妹紅。服を直してやるから風呂場で脱いで来い。ついでに風呂入ってこい。焼け焦げた匂いが凄い。」
「いつもすまないね~」

そういうと妹紅は風呂場へと走っていき、服を脱ぐ。そして服を慧音に渡す。

「はい。」
「ん。湯加減は自分で調整してくれ。いくらでも出来るだろう?」
「んーできるっちゃーできるんだけど。全部蒸発しちゃうかも。」
「・・・温かったら私を呼べ」
「はーい」

ニコニコ笑い妹紅は風呂へと向かった。

ザブン と言う音と共に妹紅の悲鳴が上がった。

「・・・あ。水のままだったか?」
「け、慧音ぇ~!!このままだと死なないけど凍死しそう・・・」

今の季節は12月の終わり。糞寒いなか糞冷たい水に入ったのだ。普通の人間だったら心臓麻痺等を起こしてお行きになる可能性もある。

「悪い悪い。今火を入れるから」

そういうと慧音は家の裏へと周り紙くずに火を付け、薪をくべる。

「けいねぇ・・・酷い・・・。さっきのこと根に持ってる?」
「何の事だ?」
「怒ってるー!!」
「冗談だ冗談。怒ってなどない」


その後急速に火をたき、水をお湯にする。
20分ほど妹紅は風呂を満喫していたようだ。

「ほれ。服」
「お。ありがと」

妹紅に新品に近いかのようなキレイな服を手渡す。
普通ならばこの短時間にここまで完全に修復させるは無理である。しかし彼女の能力を持ってすればそのようなことは造作も無くなる。
彼女、上白沢 慧音の能力。それは歴史を食べる(隠す)程度の能力と、歴史を創る程度の能力。この力があれば服が汚れた歴史を無かったことにすれば短い時間で修復することが出来る。

妹紅は新品同様の服に足と手を通す。そしてリボンを何時もどおり慧音につけてもらう。

「相変わらず妹紅の髪の毛は長いな」

櫛を通しながらも会話を続ける。

「だって切っても戻っちゃうんだからしょうがないでしょ。蓬莱の薬を飲んだときこの髪の毛の長さだったんだから。」
「まぁそうなんだが。」
「今頃になって髪の毛短かったらなぁ。とか思うよ。でもまだ幻想郷の中に居ないころは髪の毛が長いほど綺麗って言われてたから親が切らせてくれなかったんだよね。」
「ああ。たしか妹紅は貴族だったな。少し太り気味のほうが綺麗と言われていたらしいな」
「そうそう。私は今のままだったけどね」
「はい。終わり」
「ん」

妹紅は髪の毛を確認し

「やっぱ慧音は上手だ。」
「褒めても何も出んぞ」

慧音は立ち上がる。

「さて。夕食なにがいい?」
「なんでも。邪魔してる身だからそこまで我侭は言わないさ」
「そうか。じゃあ適当に作ってくるから暇でも潰していてくれ。」

こうして慧音は台所へと消えた。しばらく台所からトントンという音とジューという音。その他コトコトと沸騰する音が絶えなかった。

「ほら。妹紅。おきろ。ご飯が出来たぞ」

庵の近くで寝ていた妹紅を起こす。

「ん。ありがと」

2人は机へとすわり手を合わせる

「「いただきま~す」」

食卓には真っ白なご飯に豆腐とほうれん草の味噌汁に、野菜のいためた物に魚、そして漬物と言う食卓。
妹紅にすれば昔に比べれば貧相な食事であろう。しかしもうそれは遥か昔。今はこの食事が好きになっている。
 なんで好きかって?決まってるじゃないか。好きな人と食べる食事が何で嫌いなのさ?
妹紅の顔はそう語っていた。

「ん?どうした?私の顔になにか付いているか?」
「いや、美味しいなぁ、って」
「だから褒めても何もでないと言っているだろう」

適当に雑談してすごすこの時間。楽しい楽しいこの時間。そんな慧音が妹紅は大好きだった。慧音は相談すればすぐに力になってくれるし、話相手が少ない妹紅にとっては親友とも呼べるほど中のよい関係なのだ。
 そして――――私を人間と初めて言ってくれた人なのだ。



少し過去にさかのぼる。何年前かは2人とも覚えていないだろう。彼女たちは出会った。まだ妹紅が幻想郷に知られていなかったころ。いつかの夏への移り変わりの時。場所は何処だっただろうか。確かまだ私の家が少し山の奥にあった頃。と言っても里を見渡せる程度の高さだが。



「ふー。今日もいい天気だ。里の者も何事も無いようだ」

慧音は小川の近くの自分の家から出る。小川と言ってもかなり幅はある。ざっと4Mと言うところだろうか。

「今日も異変はないし・・・子供たちの様子でも見に行くか」

彼女は1週間に4日程度、学校を開いていた。お金の無い子供たち、身分などを一切取り払った本当にただの学校。授業料は無料で慧音が算数や歴史を教えているのだ。時には子供と遊んだりもする。そんなわけで慧音は里の者から非常に頼られているのである。

慧音は地面を蹴り人里へと向かう。自分の足元にはさらさらと流れる小川。
頭の上には雲ひとつ無い真っ青な青い青い空。そして左右には色とりどりな木々。今は緑中心だが。

そこに慧音はイレギュラーな色を見つける。

「ん・・?」

それは赤いズボンをはいた人間。川岸に倒れているではないか。そういうのを放って置けない慧音はすぐさま近くへと降り立ち、確認する。

「おい!」

反応が無い。慧音は首元に手を当て脈を計る。

「まだ生きてる・・・。なんて生命力だ」

その姿足るものの悲惨 としか言いようが無いものである。服はぼろぼろ、いろいろな所に傷がありほぼ瀕死ともいえる傷である。

「とりあえず私の家に・・・」

ひょいと人間を持ち上げると飛び上がり今まで来た道を引き返す。そして自分の家へと入り布団をしく。布団に人間を寝かせ、体の傷に包帯を巻いてやり、顔を拭く。そして布団をかけてやる。
 あの傷付き具合からして相当逃げてきたのだろう。または戦ったか。

「寝ていれば直るだろう。それにしても・・・不思議なヤツだ。コレだけの傷を負っておきながら生きているとは」

それになんていうのだろうか。彼女は・・・。言葉に表せない。しかし何故だろうか、直感が語る。辛い思いをしてきたのだろう。だったら力になってやりたい。初対面、言葉一つかわしていないのにそう感じ取ることが出来た。

「ん・・・」
「お。起きたか」
「ここは・・・?はっ!!」

彼女はバッ!と起き上がると慧音と距離をとった。

「・・・。誰?」
「人に尋ねるときは自分から言うものだろう」
「・・・。」
「わかったよ。私は上白沢 慧音。慧音でかまわない。少なくともお前に危害を加えたりするつもりは無いさ。」
「・・・。妹紅。藤原妹紅」
「妹紅か。いい名だ。それより大丈夫なのか?その傷で。」

自分のお腹を見、抑える。

「・・・。これは慧音さんが?」
「さんは止めてくれ。気持ち悪い。せめて2人で話すときは呼び捨てにしてくれないか」
「・・・。これは慧音が?」
「そうだよ。お前さんが死に掛けてたからな。私がここまでつれてきた。」
「とりあえずお礼言っておきます。ありがとう。私がここ居にいると迷惑がかかるからそろそろ失礼します。」
「おいおい!その傷で!」
「大丈夫。私はちょっとやそっとのことでは死な・・・」

玄関へ行き出て行こうとしたが・・・・倒れた。

「ああ!無理するなと言ったのに!」

すぐさま駆け寄りまた抱き起こす。

「す、すみません。少しめまいが・・・」
「もう少し休んでいけ。このままだと私の気が治まらん。力ずくでも休ませるぞ」

力ずくって。と妹紅は突っ込みたくなったが失礼なので突っ込まない。

「・・・お世話になります」
「それでいい」

ひょいと妹紅を持ち上げ布団へと寝かす。
 その時妹紅の顔が真っ赤になっていたのは秘密である。いわゆるお姫様抱っこの形であったのだから。

それからしばらく慧音は台所へと姿を消していた。そして戻ってくる。鍋を持って。

「ほら。おかゆだ。しばらく食べていないのだろう?その様子から見ると。」
「はい・・・」
「じゃあまず簡単なものからだ。ヘタに食べると戻す。」

慧音はおかゆをお茶碗によそり、妹紅へと渡す。それを妹紅は口へと運ぶ。

「あ・・・。」
「ん?口に合わなかったか?」

少し心配そうな顔をする。

「い、いえ、美味しいです」
「なぁ妹紅よ。敬語を止めてくれ。私も敬語を使わない。その代わり妹紅も敬語を使うな。いいか?」
「は・・・ああ。」

それからと言うもの慧音の作ったおかゆは妹紅がすべて平らげた。しばらく食べてなくお腹が減っていたのだろう。あっという間になくなってしまった。そして今その妹紅はと言うと夢の中。
 寝息を立ててスヤスヤと寝ている。

「本当に不思議なヤツだよ。ちょっとやそっとじゃ死なないって?そんな分けなかろう。その傷を負って生きているというのは驚きだが・・・」

眠っている妹紅に話しかける。確かに慧音には聞こえた。ちょっとやそっとじゃ死なないと。そして疑問を持つ。なぜこんな女の子が幻想郷にいるのだ?いや女の子なら珍しくない。しかし、だ。こんなにぼろぼろになってと言うのは変である。しかも瀕死の傷を負っていた。それはもうもし普通の人間ならば確実に閻魔様に厄介になるぐらいの傷だ。

「妹紅。お前は人間なのか?」

帰ってくるはずも無い返事を期待してしまう。

「人間じゃないよ」
「うおぅ!!驚かせるな。起きていたのか」
「今起きたばっかりだけど」

本当は眠っていなかったのではないだろか?そんな気がする。

「人間じゃないとは?私が見る限り妹紅は人間に見えるが。」
「外見をアテにしちゃいけないよ。」
「まぁそうなのだが。ところで何故お前はあんなところで倒れていた?」

少しいやな顔をしたがすぐに語り始めた。

「私は元、外の人間だ。気が付いたら幻想郷の中にいた。外の世界では私は旅をしていたんだ。そして眠って目が覚めたら幻想郷の中にいた。そして目が覚めたら前に人がいた。・・・・綺麗な人だったなぁ。それでその人から説明された。幻想郷のこと、私を幻想郷に導いたこととか色々ね。でも私には行くあてが無い。だからあちこちを放浪していたさ。外に出ようと思って幻想郷の端へ行っても壁みたいなのがあって、入っても戻されちゃうしね。それであちこちを転々として居たけど周りには妖怪とかが多くてずっと逃げ回っていたから・・・それで確か記憶の最後だと川で水を飲んでたときかな。そこから記憶が無い。多分倒れて流されたんじゃないか?そうとう酷い傷を負っていたしな」


慧音は黙って話を聞く。

「これくらいだよ。話すことはね」
「そうか。まぁ今は休め。まだ傷は完治していない。」

妹紅が寝るまで待ち、寝たら外へと慧音は外出する。里へのお出かけである。本当は今日は子供たちの様子を見に行くだけだったのだが、予想外の客のため、色々必要になったのだ。包帯、傷薬、食べ物etc...である。

「おや、慧音様。なにをお求めで?」
「様はやめてくれと何時も言っているだろう」
「いぇいぇ。何時も里を守ってくれる慧音様を呼び捨てに出来るわけございません」
「はぁ・・・。じゃあ包帯を2巻きほどもらえるか。」
「へい。ああ、お金は結構ですよ。何時ものお礼です」
「それはだめだ。払うものは払う。そうしないと私が納得行かん」

無理やり慧音はお金を置く。

「じゃあ慧音様にオマケです。2まきほどオマケしておきますね」
「それでは殆ど変わらないではないか・・・」


こんなやり取りを魚屋、肉屋、薬屋、八百屋と繰り返し帰路へとつく。帰り際に子供立ちの様子を見、その元気そうな姿に安心したのか、慧音の足取りは軽かった。
現在は正午を2時ほど回った時間。家に入るとき声は出さずそっと入る。寝ている妹紅を起こしたらかわいそうだからである。
扉を開ける。
 もし妹紅が居なかったらどうするのだろうか。そんな気もする。
ガラガラッと扉を開け、布団に寝ている妹紅を見、一安心する。

それからと言うものの、慧音はずっと妹紅の隣にいた。隣でお茶を飲んだり、本を読んだり。何故か、何故か分からない。そばに居てあげたかった。

「ん・・・。」
「おお。妹紅。調子はどうだ。」
「もう・・・大丈夫。」
「ちょっと傷を見せてみろ。」
「えっ!だ、大丈夫だから!」

それでも慧音は包帯を取り、傷を見ようとする。それを必死に妨害する妹紅。
しかしその妨害もむなしく包帯が取れてしまう。しかしその包帯の向こう側にあったものは傷では無くなんの変哲も無い肌だった。

「どういうことだ?とてもこの短時間で直る傷ではなかったと思うが」
「・・・。私は・・・化け物なのさ。あの時慧音は私に質問したよね?お前は人間なのか?って」
「あ、ああ・・・」
「その質問に答えるよ。私は人間じゃない。ただの化け物さ。絶対に・・・死ねない、ね。」
「も、妹紅。まさか・・・」
「そうさ。私は蓬莱人。憎い姫が残した蓬莱の薬を飲んで不死となった。もうかれこれ・・・分からないな。何百年生きたのか。絶対に死ねず、老いることすら許されない。」
「も、妹紅・・・」
「さっき元外の人間っていったけどソレは嘘さ。元人間あってるかもしれないけど外に居たときからずっと化け物。ははっ。生きてるのかすら分からなくなるよ。もう私は死んでいるのか?って思って何度自分の喉を裂いたか分からない。でも死ねない。」
「・・・うな。」
「ん?」
「言うな」
「何を」

叫んだ。

「自分を化け物と言うなっ!!」

少し妹紅はその声に押される。

「す、すまない。一番苦しんでいるのは妹紅だというのに・・・」
「いや。いいんだ。」
「なぁ、妹紅よ。」
「ん?」
「お前はこれからどうするのだ?」
「んーそうだね。適当に幻想郷を旅してみたいなぁ」
「またぼろぼろになってか?」
「ああ。私は死ねないからぼろぼろになって死ぬこともないし。」
「・・・。妹紅。お前がよければ、だがこの里に一緒に住まないか?」

妹紅は一瞬ポカーンとする。

「きっと里の皆も歓迎してくれる。無論私は大歓迎だ」
「・・・言っただろう?私はば・・・蓬莱人。この里に居るわけには行かないのさ。」
「何故だ。」
「何故って!!死なない人間が・・・死なないやつが居たら嫌だろうが!」
「・・・。じゃあ里の中に妖怪が居たらどうする?」
「居ないだろ?」
「居るんだよ。目の前に、な。」

ポカーン。妖怪?慧音が?

「な、何嘘を・・・」
「本当だ。私はワーハクタク。満月の時妖怪になる。証拠を見せてやろうか。」

そういうと妹紅の服に手を当てる。そして服の破れていた歴史を隠した。

「ほら。私は妖怪なんだよ。妖怪といっても半分人間だがな。もし信じてくれないなら満月の夜までここにいろ。すぐに分かる。それにここは幻想郷だ。外の世界にとっても普通のことでも幻想郷では普通じゃない。外の世界では異常であっても幻想郷は普通。そんなことなど幻想郷には普通なんだよ。」

なんとも絶妙な「普通」の使い方である。








これが妹紅と慧音の出会いであった。

「どうした」
「いや、昔のことを考えていただけ」
「昔?」
「慧音と始めてあった日」

慧音は、ああ。と一言言う。

「懐かしいなぁ・・・」
「懐かしいな。まさか人があんなところに倒れてるとは誰も思わん。」
「だ、だって・・・」
「分かってるって。言うな。」

少しだが慧音が赤くなっている気がした。

「ほんと、あの時慧音には世話になったからなぁ」
「言うな。私が恥ずかしい」
「いいじゃん。約束どおり戻ってきたんだから」
「言うなぁ!!恥ずかしくて死にそうだ!」

もう慧音は真っ赤。

「いや、まさか慧音があんなこと言うとは思わなかったし・・・」
「・・・そんなに頭突きされたいか。」
「遠慮。」

慧音は妹紅の顔を両手で挟むようにつかみ、頭を引いた。そして、ゴッチーーーーーン!!
爽快な骨と骨がぶつかる音が慧音の家に響いた。そしてそれに続けるかのような妹紅の悲鳴。

「いたあああああああっ!?ひ、酷い・・・」
「お前が言うのが悪い。」
「うう・・・。」

そこに妹紅が一泊空けて口を開く。

「でも・・・さ。私は嬉しかったよ?あんなふうに言われたの初めてだし・・・何時も追い出される側だったからね。」
「む・・・。まぁ内心私もほっとしている。あのまま妹紅が戻ってきてくれなかったら―――」











「ほら。分かっただろう?人間にこんな歴史を隠すなんてことは出来やしない。私は妖怪だ。」
「・・・。」
「だからどうだ。私と一緒に住まないか。ま、妖怪の私が嫌というなら強制はしないがな」
「・・・少し時間をくれ。」

そういうと妹紅が布団から起き上がる。

「お、おい!傷が・・・。」
「もう直ったさ。ちょっと散歩に行って来る。」
「散歩?なら私もいいか。」
「ああ。かまわない」

この人間の体力には心底感動する。あれだけボロボロになりつつも今から散歩、などというのだ。

2人は歩き始める。川ぎしを2人で歩きつつたまに会話。30分前後歩いただろうか。

「ねぇ、慧音。」
「ん?なんだ」
「ここはいい所だな。」
「そうだろう。私が守っているのだからな。」
「ははっ。慧音が守ってるから、かぁ」

その笑顔は会ってから初めて妹紅が慧音に見せたものだった。

「妹紅よ。空は飛べるか?」
「飛べるわけ無いじゃん。私は死ねないというだけで後はただの人間だ」
「そうか。じゃあちょっと捕まれ」

そういうと妹紅の手を取り慧音が浮かび上がった。手を引かれ浮かび上がる妹紅。

「ちょ、慧音!」
「目をつぶっていろ。そうすれば怖くないだろう」

言われたとおり目をぎゅっと瞑る。こうしているうちにぐんぐんと加速し、飛行を続ける慧音。
そして5分ほど飛行しただろうか。足場に妹紅を下ろす。

「ほら。妹紅。いいぞ。目を開けろ」
「ん・・・」

恐る恐る目を開ける。ゆっくり、ゆっくりと。
そしてその目は見開かれた。

「す、すごい」
「だろう?ここは私のお気に入りの場所だ」

そこはまさに断崖絶壁ともいえる場所である。しかしそこからは幻想郷が遠くまで、遠くまで見渡せた。足元には里。そして慧音の家。その近くには竹林が生い茂り、そのさらに向こう側には神社が。そしてその更に奥には山。その向こうには―――
何があるかは分からない。けれどココから見渡せる幻想郷は壮大で、美しかった。ここまでは飛んで、じゃなければ来る事は出来ない。つまり人間では殆ど見ることが出来ない風景なのだ。

「・・・うん。決まった。」
「ん?何がだ?」
「・・・私は明日、ここを出る。」

その言葉を聴いた瞬間慧音は少しくらい顔をした。

「・・・やはりか。」
「ああ。幻想郷の向こうを見てみたくなった。」
「そうか・・・。もう妹紅とは会えないのか・・・」
「誰がそんなこと言った?」
「え?」

慧音は首をひねる。少し目に涙を浮かべながら。

「私はここに、この風景を見に戻ってくる。私は化・・・蓬莱人だ。死ぬことは無い。慧音は半分人間、半分妖怪。ってことは普通の人間より寿命は長いだろ?だから・・・きっと生きてる間には会えるさ。」
「あ、ああ・・・そうだな。じゃあ約束だ。必ず帰って来い」
「約束か、久しぶりだなぁ。約束なんて使うの。」
「そうだ。約束だ。もし破ったら・・・妹紅を一生呪ってやる。」
「おー怖い怖い。わかった。約束する。私は必ずここに戻ってくる。」

そして二人は手を差し出し、その約束の印といわんばかりに強く手を握り合った。

「それと――妹紅。お前は間違いなく人間だ。もう少し自信を持て。」

その言葉を聴いた瞬間、妹紅は内側から溢れてくる物を抑えきることが出来なかった。

「う、うう・・・」
「も、妹紅っ!?」

慌てる慧音。

「ご、ごめ。人間・・・って見てくれたの慧音が始めて・・・だからさ。」

この言葉を聴いた瞬間理解した。藤原 妹紅はどこでも化け物と罵られ、罵倒され生きてきたのだろう。辛い辛い過去を持つ人間。その辛い過去を少しでも薄めてやれないか。慧音はそんな気持ちでいっぱいだった。
 慧音は妹紅のを抱きしめ、






「私はずっと待っている。お前の帰りを。だから安心していって来い。私の家、この里がお前の家だ。」






決壊。何かが妹紅の中で決壊した。

「う、うわああああああああぁぁっぁぁ!!!!」

抱きしめられながら泣く妹紅。もう何年間泣いていないのだろうか。何十年、何百年分の涙を慧音は受け止める。


この高台の、青い青い空の下には女の子の泣き声が響き渡った。そしてその声は確かに人間の女の子の鳴き声であった。








次の日の朝。

「ありがとう慧音。それじゃ行って来るね。」
「ああ。行って来い。」

妹紅は慧音の家を出る。

――私は待っている。お前の帰りを、ずっと――ずっと。

その小さいけど大きな背中。それが見えなくなるまで慧音は見守り続けた。そして見えなくなる寸前。妹紅は慧音に手を降った様に見えた。






そして時は流れる。



妹紅が旅に出てからすでに50年が経過した。里の者は子供はおじいさんになり、大人は死んでいった。そして新たな命が生まれる。
 そんな慧音はあの日妹紅と交わした約束の場所に居た。あの断崖絶壁の、そして幻想郷が見渡せる足場。慧音の視線の先には地平線に沈む太陽が見える。

「・・・妹紅よ。一体いつになったら帰ってくるのだ」

そうぼやきながらも遠くを見つめる。
 そして突然轟音が鳴り響く。その音に慧音は驚き音のしたほうを向く。
その方向には竹林が存在していた。

「私の家の裏手か。家が壊れてなければいいが」

そうぼやくと里に被害が出ないか心配だったのですぐさま飛び立った。
 里長には家の中に入っていいというまで出ないように、と指示を出し、里を隠す。歴史を操り里を無かったことにすれば完璧だ。

里を隠し終えると慧音は竹林へと入り込む。

「なんど来てもココの竹林は迷うな」

そういいつつも奥へ。すると再び轟音が響いた。そして何かが燃える音。
 その方向へと歩を進める。そして、爆発。

「うわっ!?」

とっさに慧音は手をクロスし、衝撃に供える。そしてあたり一面爆炎に包まれる。
 と、その爆炎の向こうに人影が見える。段々と晴れていく煙。そして高鳴る胸の鼓動。

「慧音!?」
「え?」

その声は確かに聞いたことのある声であった。そう、50年くらい昔に・・・。
 その爆炎の中に居たのは妹紅であった。髪の長さ、容姿、なにも変わっては居ない。唯一変わった所、というと背中に翼が生えていると言う所だろうか。炎の。

「も、妹紅なのか・・・?」
「難題「龍の頸の玉 -五色の弾丸-」」

突然スペルを切る声。そして上空には人影。

「危ないっ!」

妹紅は飛び込んで慧音を突き飛ばす。

「あら?誰かしら。私たちの殺し合いの邪魔をするなんて」
「・・・殺し合い?」
「そうよ。もう何百年も続く殺し合い」
「輝夜!!!」

妹紅がその人の名を呼んだ。輝夜と言うらしい。

「ど、どういうことだ・・?説明してくれ」
「ちっ。邪魔が入ったわね。いいわ、今日はここまで。また殺しあいましょう?」

そういうと輝夜と言う人は竹やぶの奥へと帰っていった。

「・・・・。」
「・・・慧音」
「何だ」
「とりあえず行こう。ここは危ない。」
「・・・ああ。そうだな」





~慧音邸~

「・・・。妹紅、説明してもらおうか」
「・・・ああ。もう嘘はつかない」
「じゃあ、まずなぜあそこにいた?」
「あそこの竹林の奥深くに私の家があるから。」
「あの輝夜と言う人物、それと殺し合いとは?」
「輝夜は父上の仇だ。私の父上は輝夜のせいで死んだ。そして仇を討つためこの永遠の薬を飲んでこの体になった。」
「・・・50年間どうしていた」

この質問を吹っかけられた瞬間くらい顔をする妹紅。

「・・・ずっと殺しあってた。」
「何故私は後ろで戦っていることに気が付かなかった?お前たちが何かしたんだろう?」
「・・・ああ。輝夜の従者の永琳と言うヤツがな、記憶を消す薬を作って私たちの事を忘れさせていたんだ。」
「それではもう覚えていないだけでもう何回か会っている・・・?」
「ああ。本来ならあの時、拾われた記憶も消しておきたいんだけど時間がたちすぎちゃって消せなかった。それから爆炎を聞いて何回か竹林にきちゃったよ。慧音は」
「じゃあ何故今回は記憶を消さない?」
「薬が切れてたんだ。急いで永琳は調合していたみたいだけど間に合わなかった」
「・・・そうか。最後に1つ聞かせてくれ。お前は私に嘘を付いていたのか?飛べないと言う事も嘘か」
「・・・。ああ。そうだ。でもあの時人間といってくれてうれしかったのは本当だ!」

妹紅によるともう妹紅はずっとこの奥の竹林に住んでいるだとか。それも慧音が住み着くずっとずっと前から。そしてあの日、殺し合いに負けて川に流された。そして慧音に拾われた。
 さらにあの幻想郷が見渡せる場所で交わした約束もその場しのぎで作った約束らしい。そして旅に出ると言った事も姿を隠すため。近くに住んでいると知られたらいつか殺し合いをしていることがバレてしまう。だから旅に出るというもっともな嘘をついて姿をくらませた。

「・・・ごめん、慧音」

パチーーン!!

家に爽快な音が響き渡る。それは慧音が妹紅のほほを叩いたからである。
 頬は真っ赤になり熱を持っていた。

「・・・もの。」
「え?」
「馬鹿者っ!!お前はホント馬鹿だよ!殺し合いなんて、私の頭では理解できん!!大体、今まで私がどんな気持ちでお前の帰りを待っていたかも知らないでっ!!」
「・・・ごめん」

妹紅は下を向いて誤る。慧音の顔は涙があふれていた。

「50年間も私はほったらかしか!」
「そ、それは慧音を巻き込まないように・・・!」
「黙れっ!私は巻き込まれるより、お前が居ないほうがずっと、ずっと辛い!」
「・・・」


そう、あの倒れていた時。慧音は何故か敵意が無かった。警戒もしなかった。それは何故か?
 簡単である。もうとっくに出会っていたのだから。そしてそれをダメ押しせんとばかりに慧音はある事を心に抱いていた。
それは―――――好き と言う感情。頭では覚えていない物の、体では覚えていた。だから慧音は手厚く看護をし、妹紅の歴史を見なかった。歴史を見れば何処にいるのか 等は簡単に分かる。しかししなかった。否。したくなかった。好きな人の過去は見たくない。今の彼女が好きなのだから。

「でも・・・あのときの約束はその場しのぎといえど、守ってくれたんだな」
「・・・え?」
「ほら。今目の前にお前が居るじゃないか。あのときの約束は必ず私の元に返ってくること。今目の前にいるのだからその約束は果たしたも同然じゃないか?」
「慧音・・・」

そして慧音は妹紅に抱きつく。

「け、慧音っ!?」
「・・・おかえり、妹紅」
「・・・ああ。ただいま」



そして時は流れる。

「さ、さて。夕食ぐらい食べていくだろう?」
「あ、ああ。悪いね」
「気にするな」

2人は真っ赤。まぁそれもそのはず。2人はずっと抱き合っていたのだから。その時慧音は妹紅妹紅と漏らし、妹紅はごめん。と謝り続けた。

「適当に待っていてくれ。すぐ作る」

そういうと台所へと姿を消す。
そして台所からはコトコトと沸騰すると音、トントンという包丁の音、ジュウと言う炒める音。




「ほら。妹紅。おきろ。ご飯が出来たぞ」
「ん」



こうして2人は50年ぶりに食事を取る。

「懐かしいな。慧音のご飯。相変わらず美味しい」
「ほめても何も出んぞ」
「ほんとに美味しいんだよ。ねぇ、ご飯食べ終わったら散歩行かない?」
「私はかまわないが、お前は・・・大丈夫だな。あれだけド派手に殺しあっていれば。」
「うっ・・・」

アレだけド派手にやっていれば身を守るぐらい平気か。

そして食器類を片付けて、散歩に出かける。今は2人で竹林を飛行中。妹紅は炎の翼を生やしている。竹林は背が高く空すら見えない。

「慧音、こっち。」
「ま、待て!」

そういうと急に方向転換をする妹紅。それに慌てて追いつく慧音。

「どこへ向かっているんだ?」
「ん。とっておきの場所」

こうして会話をしつつも10分近く飛行した。

「それでは綺麗な満月、夜空の展望台にお1人様ご入場!」

急に視界が開ける。その抜けた先には一面の星空に満月が移っている。

「うっ。」

その満月を見た瞬間慧音に変化が起きる。人間には無い物。あってならないもの。それが頭に生えてくる。
 完全に変化を終えた慧音は頭に角を生やし、お尻に尻尾を生やしている。

「慧音、大丈夫?」
「ああ。もう慣れているからな。お前は驚かないのだな?」
「ああ。もう何回か見てるからね。それより早く行こう。あの丘の上」

そういうと今度は駆け出した。

「ま、待て!」

そういうと慧音も駆け出す。
 もう今日だけで待てという言葉は4回も使った。妹紅に振り回されっぱなしだな。私は。

「ゴール!」

そういうとバフっと草の上に倒れこむ。

「早いぞ・・・ぜぇぜぇ」

慧音は息を切らしていた。
2人は仰向けで丘に寝っころがる。そしてその視界の先には一面の星空が広がっていた。まるで自分たちを包み込むような綺麗で広い星空。そしてソレと同時に黄色く光る月。

「綺麗だな」
「でしょ?この場所教えたの慧音だけだからね」
「この場所は私も知らなかった」
「私も慧音から教えてもらったあの場所は知らなかったよ」
「なら、これで交換って事だな」
「そうだね。」

こうして2人はずっと仰向けになり星空を見ていた。


「ん?誰か来たな」
「ああ、2人。博麗の巫女だな。それとあのスキマ妖怪」
「そうか。じゃあちょっと待っていろ。行って来る。」
「け、慧音!?狙いは私のはずだから慧音が行かなくても!」
「忘れたか?人間を守るのは私の役目だ。」










                                       ・・
「待っていたぞ。満月の夜に来るとはいい度胸だ。この先の人間には指一本触れさせない!!」
どうも、大天使です。前回アレだけ叩かれたのに懲りずに再挑戦。もこ&けーねです。
永夜抄をやっていて、EXでけーねにあった時なんで「この先の人間」って言うのかな?って疑問に思って私なりに想像をして書いてみました。やっぱりけーねはもこたんの事好きなのかなぁ・・・?

そして書いているうちにあれ?これなんか違うような、と思ったりして試行錯誤の末ようやく完成。
しかし文章中に矛盾が残っているかもしれません。(もしかしたら私の勘違いで)
指摘していただけたらうれしいです。
誤字脱字が多いかもしれませんがどうかよろしくお願いします^^


そしてご朗読ありがとうございました。

感想や駄目だしお待ちしております♪
大天使
http://sky.geocities.jp/flamingred_archangel/
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コメント



0.290簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
今回も楽しませて頂きました。
大天使さんの作品は情熱的なキャラが多く、とても良い感じですね。
ファンになって宜しいでしょうか?え、駄目?

ただちょっと時代背景が分かりにくい様な…
現在→50年前の過去→永夜抄って感じでしょうか?
2.80名前が無い程度の能力削除
>翼が生えていると言う所だろか  だろうか?別にいいかな?
>私も慧音から教えてもらったあの場所はしなかったよ  知らなかった、ですかね?
それと、全体を通して読点の割合が少なかったような……

それはともかくとして、もこけーね可愛いなぁw
妹紅にとって慧音は輝夜くらい特別な(方向性は別として)存在なんですね。
3.無評価大天使削除
誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます^^

■2008-03-07 18:02:52書き込み様
ええ!?私のファン!いやまさかそこまで考えてくれるとは(ぇ
少々まじめに驚きました(笑

時代背景はわざとぼやかしをかけてみたのですが・・・逆効果のようですね^^; そしてその通り現在→過去→永夜抄です。
確か妹紅の慧音は永夜抄EX時の前に会ったと聞いた・・・記憶があるのでそれに当てはまるように書いて見ました。(当てはまってない気がするが)

■2008-03-07 18:30:27書き込み様
むむ、読点が少なかったですか。言われてみれば・・・次回では気をつけさせていただきます^^;

きっともこたんもけーねが大好きなんですよ~(ぇ