Coolier - 新生・東方創想話

雛祭りの日

2008/03/04 11:56:49
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 雪も綻び、土が見え始めた三月三日の洩矢神社。

「そういえば、今日は桃の節句だねぇ」
「ああ、もうそんな時期でしたね」
「雛壇飾り、持って来てたっけ?」
「いえ、あれは家の方にあったので、こちらには…」
「それじゃあ、あの子に頼むとするかい」



「あー、そっちは管轄外なんだけど」
 『あの子』こと厄神・鍵山雛は、苦笑いしつつ答えた。
「流し雛ですもんね…」
 飾り付ける雛壇飾りと、厄を流す流し雛とでは、さすがにモノが違いすぎた。
「そもそも、雛壇飾りを当日に飾っても仕方ないし、折角なら流し雛を作ってみたら?
 里の寺子屋で、慧音さんが生徒と親御さんと一緒に作るみたいだから」
「そういえば、流し雛ってテレビでしか見たことなかったです」
「じゃあ、慧音の寺子屋に行ってみるかい?」
「いこういこう、流し雛作ろう!」
「厄はしっかり回収してあげるから、心を込めて作ってよ?」
「はい、ありがとうございます、雛さん」
「それじゃあ、行こうか。
 ほら諏訪子、危ないから歩きながら回るんじゃないよ」
「流し雛くるくる~♪くるくr」

 ずべしゃっ

「言わんこっちゃない…」
 諏訪子は顔から地面に突っ伏していた。
「素人にはお勧めしないわよ、回転移動」
「あーうー、それを早く言ってよ~」
「言われなくても分かると思うんですが…」



「それで、流し雛を作りに来たわけか」
「はい、よろしくおねがいします、慧音さん」
「うむ、ところで……
 そちらの神様も御作りになられるのか?」
 恐らく、厄が最後にどこに行くのかを知っているからこその質問だろう。
「私は遠慮しとくよ。
 …というか、これで流した厄を最後に始末するのは私らだしねぇ。
 まあ、諏訪子は面白ければいいみたいだけど」
 神奈子は少し微笑みながら、ちらりと諏訪子を見た。
「流し雛流し雛~♪…ん?」
「なんでもないよ、ほら、他の人たちはもう作り始めてるよ」
 無邪気に笑う子供達が、親と一緒に和紙を折り、人形を作っている。
「そうだな、他の人たちは少し前から集まっていたからな。
 ほら、桟俵と紙だ。
 紙で人形を作って、桟俵に載せるだけだから、そんなに難しくはないぞ」
「さんだわら…あ、これって俵の蓋ですね?」
「そうそう、外じゃもうお目にかかることは殆どないけどね~」
 諏訪子が割と器用に人形を作っていく。
 早苗もそれを手本に、人形を作る。


「親子…って言うには離れてるか。家族水いらずってとこかね」
「貴方も家族ではないのか?」
 不意に慧音に話し掛けられ、少し驚くが、すぐに元の顔に戻る。
「私は神で、早苗は風祝さ。それ以外の何でもないよ」
「そうか。てっきり母親二人の変わった家族だと思っていたのだが」
「ははは、そんな風に見えるのかい、私達は」
「ああ、なかなか幸せそうな一家に見えるが。
 間違っていたか?」
「…いや、間違っちゃいないさ」
「そうか。変なことを聞いてしまったな、すまない」
 慧音は教室の外へ出て行った。

 …私は、自分の都合で家族を振り回す駄目な父親ってところかね…

「神奈子様」
「お、出来たのかい?」
「はいこれ、神奈子様の分」
「おいおい、自分で厄を流して自分で浄化しろってのかい?」
「いいじゃない、みんな家族で流すみたいだし、私達も流そうよ」
「そうですよ、折角なんですし、一緒にやりましょう?」
「やれやれ、仕方ないねぇ」
「おーい、早苗ちゃん、ちょっと白酒の準備を手伝ってくれないか?」
「はーい、今行きますー。
 ちょっと行ってきますね」
 ぱたぱたと慧音の方に、早苗は走っていく。
「神奈子」
「なんだい」
「あんまり後ろは見ない方がいい。
 顔に出ると信仰が逃げるよ」
「…そうだね」



 人里から、そう遠くない場所の川辺。
 手に流し雛を持った人たちが集まっている。
 その傍らでは、慧音が親御さん達に白酒を振舞っている。
「私達も流しましょう、神奈子様、諏訪子様」
「それ~」
「ふふ、ほらっ」

 流し雛は流れていく。
 くるくる、回りながら、水面を遊びながら。
 厄と願いをその身に受けて、くるくる、くるくる。

「流し雛、ですね」
「流し雛、だねぇ」
「流し雛、だな」
「三人揃って、妙な納得しないでほしいんだけど」
「あはは、すいません」
 いつのまにか、そこには鍵山雛がいた。
「これから仕上げかい?」
「ええ、下流に向かうところよ。
 集めたら、そちらに伺うわ」
「お酒用意して待ってるね~」
「期待してるわ。
 それじゃ、ちょっと急がないと最初の方の流し雛に追いつかないから」
「はい、それでは後ほど」
 雛は下流に向かって飛んでいった。
「それじゃあ、帰って準備しておくとしようかね」
「早苗~ちらし寿司作ろう~」
「いいですね、それじゃあ、材料を買いに行きましょうか」
「イカ、タコ、エビ、マグロ、トビッコ~♪」
「こっちじゃ流石に揃わない気がするんですが…」



 酒と料理の支度を終え、しばしの休憩。
 海鮮ちらしもしっかりと用意されていた。
 魚屋曰く、氷精様様だそうだ。
「お、どうやら来たみたいだね」
「え?…!な、何ですかあれ!?」
 それは、巨大な闇に見えた。
「お邪魔します、神様」
「うひゃー、またずいぶん持ってきたね」
「ふふ、流し雛の本領発揮よ」
 それは、とてつもない量の厄だった。
「普段纏ってるのとはスケールが違いますね…」
「さて、それじゃあ早速仕事にかかろうかね。
 諏訪子、やるよ」
「はいはい、さくっとやっちゃおう」

 二柱が真剣な顔で立ち、手を雛の方へとかざす。

「それでは、お渡しします」
 そう雛が言い、くるくると回り始める。
 すると、厄が二柱へと流れ始めた。
 厄が二柱の手に触れると、それは光の粉となって空へと舞い上がっていく。
「綺麗…」
 さながら地上から流れる天の川のように、厄は次々と浄化されていった。

 二十分ほども経った頃だろうか、厄は全て空へと消えていった。
「ふうっ、こんなに疲れるとは、まだまだ信仰が足りないねぇ」
「くたびれたぁ~」
「お二人とも、お疲れ様。
 でも、今年はお二人のおかげで一回で済んだわ、ありがとう」
「え?以前はどうしてたんですか?」
「あらゆる神様に少しづつお願いしてたのよ。
 季節はずれの秋の神様にまでお願いしてたわ。
 でも、お二人が徳の高い神様だったおかげで、今年は楽できたわ」
「大変なんですね、厄の浄化って…」
「まあ、厄の浄化も信仰を集める方法の一つだからねぇ。
 私らがやらないわけにはいかないさ」
「早苗~疲れた~お酒とちらし~」
「はいはい、今お持ちしますから」
「ほら、あんたも上がりな。
 今日はあんたの日なんだしね」
「それじゃ、ご相伴に預かりますわ」

 雛祭りの夜の宴は、浄化した厄の光に寄って来た者達でずいぶんと盛り上がっていた。
 天狗や河童はもちろん、気が付けば白黒の魔法使いや麓の巫女達も参加していた。


 しばらく経って。
 雛がブーツを履いていた。
「もう帰るのかい?酒ならまだまだ用意してあるよ?」
「私は貴方達ほど飲めないわよ。
 それに、流し雛の片付けもあるし」
「そんなことまでしてたのかい?」
「最後は火にくべてしまえばいいだけなんだけどね。
 そうすれば、思いは届くべきところに届くし」
「思いか。流し雛には、どんな思いが篭ってるんだい?」
「そうね、一言で言えば、家族への愛情かしら。
 子供の成長、親の健康、家庭の平和」
「なるほどね」
 ふわっと浮き上がり、雛は飛んだ。
 少し上がったところで、くるりと振り返る。
「あなたたちは、本当にいい家族よ。
 それじゃ、ごちそうさま」
「ああ、ありがとう」
 雛は向き直り、森へと飛んでいった。

 いい家族、か。
 今日の厄神が言うなら、そうなのだろうな。



 愛する家族を守る、そのために何をする。

「神奈子~お酒飲まないの~?」

 私に出来るのは、信仰を集めることだけ。

「神奈子様、もう少しおつまみ作りましょうか?」

 でも、とりあえず、後ろを見るのは止めよう。

「ああ、つまみも酒もまだまだ用意しておくれ」

 守るべき家族は、目の前にいるじゃないか。
はじめまして、茶飲み人と申します。
なんとなく、神奈子様は早苗さんを連れてきたことをどこか後ろめたく思ってる気がしたので、こんな内容に。
内容的に既にタイムアップだったりはしますが、感想等いただければ幸いです。
茶飲み人
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コメント



0.540簡易評価
5.80名前が無い程度の能力削除
gj
7.70三文字削除
神奈子様が父親で、早苗さんが母親ですよね!え、違う?
それはそうと、良い雰囲気でした。
8.90bobu削除
良いひな祭りですね。
うまく言葉に出来ませんが本当に良かったです。
ありがとうございました
10.50☆月柳☆削除
ほのぼの、ですね。ケロちゃんかわうぃなぁ。