Coolier - 新生・東方創想話

八雲一家のある日の出来事

2004/08/07 06:14:20
最終更新
サイズ
17.09KB
ページ数
1
閲覧数
1468
評価数
6/101
POINT
4440
Rate
8.75

――幻想郷には、マヨヒガと呼ばれる地がある。
迷わなければ到達できない場所であり、そこにある物を持ち帰ると、幸福になれると言われている地。
その中に居を構える八雲一家。一家の主でありながら冬眠し、更には一日の半分は寝て過ごしている『神隠しの主犯』八雲紫を筆頭に、その式であり、九尾の狐の化身でありながら、主がぐうたらな為、炊事洗濯その他全ての雑用を押し付けられ、それでも文句一つ言わずに器用にこなす一家のお母さん、『すきま妖怪の式』八雲藍。そして更にその式であり、動くものと炬燵に目がない猫又の化身、『凶兆の黒猫』橙。
三人――もとい、一人と二匹は、ある騒動の際に巫女や魔女や従者に平穏な日々をかき回されたり、またある騒動の際には、珍しく主がやる気になって解決に乗り出してもいたが、それでも平和に暮らしていた。


だが――この日、八雲藍は式となって久しく、身の危険を感じる羽目になる。



八雲宅は意外と広い。
三人が生活をする家こそ、基本的かつ最小限の間取りだったが、それなりに広い庭は、二つの倉庫が建ってなお余裕がある造りになっており、ある時、珍しく暇を持て余した藍の手によって、花壇や池などもある、それなりに立派な庭園に改造されていた。
そして、その庭園を眺めるために設置した縁側に藍は立ち――しかしその表情は強張っていた。
いつも着ている道士服で腕組みをして、その袖の中にあるスペルカードの感触を確かめながら、それでも藍は、目の前の『それ』から目を離さない――目を離せない。離せば最後だと、本能が警鐘を鳴らしている。
昼間に近い時間帯ということもあり、主である紫の支援はまず望めない。寝ているから。では橙はどうなのかというと、目の前の『それ』の足元に倒れ、ピクリとも動かない状態だった。
橙とて、そこらの妖怪に比べれば力はある。それをやすやすと沈めた侵入者に、藍は歯噛みした。

――助けにいきたいけど、隙を見せれば確実にやられる。相手が隙を見せてくれれば、一気にカタをつけられるのに――

こう着状態の中、藍はふと考える。
そう言えば、どうしてこんなことになったのだろうか、と。



藍の一日は、朝の5時から始まる。
目を覚ました後、藍はまず冷たい井戸水で顔を洗って完全に意識を目覚めさせる。その後朝食の準備をしながら、家の周囲に張った侵入者撃退用の結界の様子を見てまわる。そして6時までには見回りを終え、家に戻って朝食の準備を再開する。それが普段の日課だった。
しかしこの日、家に戻った藍が見たものは、玄関先で、あられもない姿で倒れている紫の姿だった。

「ゆ、紫様!?」

動揺し、駆け寄る藍。だが、体を揺さぶってみると、紫は「うーん」と言って寝返りをうった。寝ているだけだ。
その様子を見て、藍は脱力すればいいのか、安心していいのか迷ったが、とりあえずは後者を選んだ。
安堵のため息と共に、紫を起こしにかかる。

「紫様、起きてください。玄関先で寝ていては、風邪をひきますよ」
「うーん・・・・・・」

紫の息に、藍が顔をしかめた。かなり酒臭い。

「紫様」
「・・・・・・あら?藍じゃない・・・・・・どうしたの、こんな所まで来て」
「こんな所って、ここは家ですよ?」
「え?・・・・・・あら、ほんとだわ。おめでたい巫女の所で蛍見しながら酒盛りしてた筈なのに・・・・・・」
「またですか・・・・・・」

今度こそ脱力する藍をまったく気にせず、紫はゆっくりと立ち上がりかけて、しかしまだ酔いから醒めてないのか、ふらり、ふらりと体勢を崩す。
その様子に、どこかにぶつかるのではないか、と、藍も気が気ではない。そして、

――ゴンッ

「あ」
「~~~!」

藍の予想を裏切らず、柱の角に顔をぶつける紫。痛みのためか、両手で額を押さえながらうずくまる。

「紫様、大丈夫ですか?」
「・・・・・・」
「紫様?」
「・・・・・・す~・・・・・・」
「・・・・・・」

何か聞こえたような気がする、と藍は思ったが、あくまで気のせい、ということにした。
だが、あられもない姿のまま放っておく訳にもいかず、藍は紫を背負って寝室へと足を運んだ。


紫を布団に寝かせた後、藍はいつも通り朝食の用意を開始した。
6時半には朝食の用意を終え、橙を起こしにいく。いつも通りの日常である。そして橙がなかなか起きず、いつも藍を苦笑させるのも、また平穏な日常の証だった。
そして、朝食を終え、橙は居間で寝転び、藍は洗濯物を干すという日常的な光景の後、事件は起こる。


「・・・・・・ふむ、来訪者あり、か。しかも敵意もある、と」

式盤占いからでた結果に、藍は眉根を寄せた。こんな地であり、侵入者撃退用に張り巡らされた幾多もの結界。そして、どんなにぐうたらでも主の力が強大であるが故に、ここに敵意をもってくる侵入者など無いに等しい。巫女と魔女と従者の三人は別にして。
果たして、どんな者が来るのか――藍はふと疑問に思った。
だが、来ることが分かっている以上、何もしないわけにはいかない。藍はそう思い、結界を増やそうと立ち上がりかけ、異変に気づいた。

――周囲に張っていた結界が作動してない?・・・・・・違う、消されている!!

思ったよりも早い来訪に藍は舌打ちし、その直後、今いる部屋と障子一つ隔てた庭園に何かが降り立つ気配。そして、

「すきま妖怪―――!でてきなさ―――い!!十秒以内に出てこないと家ごと夢想封印お見舞いするわよ――!?」

響いてきた怒鳴り声に、藍は頭を抱えた。三人の内の一人、巫女が来たことを悟ったのだ。

――出来れば、居留守使いたいんだけどなぁ・・・・・・

過去に目も当てられない状態にされた事――最も、それは紫であり、橙と藍の場合は魔女と従者にだが――を思い出し、肩を落とす藍。だが、十秒以内と言われた以上、出て行かなければ確実に家が破壊されるだろう。
深いため息と共に、障子を開け、

「大体予想はつくが、今度は何の用だ、博麗の巫・・・・・・女?」

何故か言葉に詰まり、巫女と言えばいいのか分からず疑問の声となった藍。表情も、不思議がる、というより、我が目を疑う、という部類のものだった。
藍が予想していたのは、霊夢なりに改造した巫女装束に身を包んだ、普段通りの姿。だが、今藍が目にしているのは、まったく違うものだった。
まず、紫が普段着ているようなゴスロリの服になっていた。色こそ白を主体としたものだったが、装飾などはほぼ一緒であり、サイズも、霊夢の体型にほぼピッタリに作り変えられていた。髪は黒のままだったが、赤いリボンでツインテールにされており、飾りつけされている。そこはいい。だが、何故額に赤い文字で『肉』と書かれているのかが、藍にはどうしても解せなかった。最も、理解するつもりなど最初からなかったし、その余裕もないのだが。
未だに言葉を失い、思考回路すらまともに働かずに目を白黒させる藍などお構いなしに、霊夢は一目で怒り心頭だと分かる表情で、地の底から響くようなドスの聞いた声で、

「起きた時にこんな姿にされてたから、ぶん殴りにきたのよ。おまけにこんなことに力使わないでほしいわ。かなり強力な結界が張ってあって脱げないんだから」
「・・・・・・その額の文字も?」

藍の指摘に、霊夢は無言で睨みつけることで答える。どうやら服装よりもそっちのほうが屈辱的らしい。
だが、藍にはどうしても疑問に思うことがあった。

「ここへ来るまでに、誰かに見られなかった?」
「魔理沙に見つかって笑いものにされたわ、思いっきり」

面識のある藍は、その情景を思い浮かべてしまい、笑っていいのか同情すればいいのか、迷った。
だが、藍はため息を漏らしながらも、毅然と構える。

「私は紫様の式。どんな理由であったとしても、どんなことがあっても、式は主を守るもの。危害をくわえるつもりなら、私もそれなりに対応させてもらうわよ」
「へぇ?やる気?」
「勿論」

その言葉と同時に、二人の間に緊張が走る。
どちらも下手に動けない状況。と、

「藍様ー、さっきの怒鳴り声、もしかしてあの巫女がき・・・・・・」

縁側を走ってきたのは、家の中でごろごろしていた筈の橙。そして霊夢を見るなり、固まる。
沈黙すること、実に五秒。その後、橙は霊夢を指差し、

「変なのがいる―――!!」
「変なの呼ばわりとはいい度胸じゃない・・・・・・」

橙の言葉に、ますます声を低くする霊夢。その声色には、藍でさえも恐怖を覚えた。
だが、橙は気づかず、うなり声を上げて警戒し始める。
その様子に、霊夢はうっすらと笑い、懐に手を入れて、何かを探し始める。
それを見て好機だと判断したのか、橙は飛び掛り、直後、霊夢が懐から何かを取り出し、その眼前に突きつけて、

「――っ!?」

橙の動きが止まった。
霊夢が取り出したのは、長い棒――霊夢の身長と同じ長さのものをどうやって取り出したのかはともかくとして――の先に、紐に鈴が括られているだけのもの。
藍は眉根を寄せ、それでも警戒するように橙に言いかけ、ふと、様子がおかしいことに気づいた。
橙の目線は、鈴に集中している。

「橙?」
「・・・・・・」

答えず、鈴を凝視する橙。そしてその様子を見て、霊夢は笑い、棒を揺らす。

――チリーン
「・・・・・・」

――チリーン
「・・・・・・」

――チリーン
「うりゃ!」

掛け声と共に、鈴に飛び掛る橙。だが、霊夢は素早く棒を引き、橙の攻撃を空振りさせると、一気に間合いを詰め、

「てりゃ」
「はう!?」

首に手刀一発。橙はあっけなく倒れる。
その様子を、呆気にとられた様子で見守るしかなかった藍は、橙が倒れた音で我に返る。

「ち、橙!?」
「呆気ないわね」

棒を持ったまま言う霊夢に、藍は、今まで見たことのなかった狡猾さを感じた。
紫を殴るためとはいえ、実に用意がいい。藍は思わず舌打ちし、それでも、袖口にあるスペルカードの感触を確かめた。



思い出して、藍は場合が場合でなければ、深いため息を漏らしそうになった。
結局、主の蒔いた種、である。そしてそれを刈り取る、またはとばっちりを食らうのはいつも藍や橙だった。もっとも、食らう時は例の三人が関係しており、大抵、紫も同様な目にあっているのだが。
しかし、他に意識を割く余裕はなかった。藍は霊夢を見据えながらも、額に汗を浮かべている。

――油断できそうにないわね。どんな手でくるか分かったものじゃないわ。

まさかこんな手でくるとは思わなかった為、警戒し、迂闊には手が出せなくなっている。
そのまま十数秒――藍にとって、それ以上にも感じる時間が流れた時、状況に変化が起きた。
霊夢の足元に倒れていた橙が身動ぎし、そして、

「うーん・・・・・・はっ!?よくもー!!」

起き上がり、状況を把握、そして再び霊夢に飛び掛る。が、霊夢は再び棒を動かして鈴を鳴らし、

――チリーン
「・・・・・・」

再び固まる橙。藍は動かない。

――チリーン
「てい!」

飛び掛る橙をかわした霊夢は向き直り、

「とってこーい!!」
「待ってー!!」

棒を投擲。しかも意外と飛距離がありそうだ。
そして、見事にそれに釣られ、先ほどと同様、呆気なく戦線離脱する橙。
その隙を、藍は見逃さない。背を向けている霊夢との距離を一気に詰めるべく、疾駆する。
スペルカードの感触を確かめはしたものの、それはあくまで、相手がカードで攻撃してきた際の反撃用であり、まずこの場所では使わない――使えない。庭の掃除が大変になるし、下手すれば家にも被害が及ぶ。
気配で気づいたのか、予想していたのか、振り向き始める霊夢。だが、完全に向き直った時、藍は霊夢を射程に収めていた。

「もらっ――!!」
「甘い!!」

向き直った霊夢は懐に手を入れており、素早く『何か』を取り出し、藍に向かって投擲。
無視しようとした藍だったが、その『何か』――油揚げの匂いを嗅ぐや否や、動きが一瞬、止まった。
その一瞬の間に、霊夢は藍の懐に飛び込み、その顔面めがけて腕を突き出す。
気を取られた一瞬の間に、藍は霊夢の攻撃をまともに食らい、仰け反った。

「んー!ん?んんー!?」(いつっ!ん?あれ!?)」

何故か喋れない藍。そしていつの間にか、額に札が貼られていた。
その様子を見て、霊夢は笑った。

「よかったわ。無事に効いて」
「んんん――!?(何をした!?)」
「博麗大結界の外にあるお札よ。狐がうるさい時に貼ると黙るらしいわ。私なりに改造して、スペルカードも、妖弾も使えないようにしてみたの」
「んんん・・・・・・(あっさりと言わないでほしいわ・・・・・・)」

喋れない藍と霊夢の会話が成立している、というのは、端から見ればおかしな図に見えた。

「ん、ん―んんん――!?(大体、そんな物どこからもってきたのよ!?)」
「前に紫が持ってきたわよ」

あっさりと語られたその言葉に、藍は今度こそ脱力した。

――紫様、今回ばかりは、お遊びが過ぎますよ――

やや泣きの入った藍の表情に、しかし霊夢は無情にも止めを差しにかかる。
再び懐に手を突っ込み、そして取り出したのは、刀身に「笑って許して」と、何故か達筆で書かれた大きなハリセン。

――もう、好きにして――

藍はほとんど泣いているも同然だった。
そして、霊夢は大きく振りかぶり、

「でやー!!」

――バシーンッ

小気味いい音と共に、藍の顔面直撃。
痛みで意識を失う間際、藍はふと思った。

――笑って許せるわけないでしょ・・・・・・



「・・・・・・ん、藍」
「ん・・・・・・?」
「起きなさい、藍」
「紫様・・・・・・?」

主の声に、藍はゆっくりと目を開ける。
目を開けた藍が見た光景――何故か逆さまの状態で、心配そうに覗き込む紫の顔だった。
その光景に、藍ははて、と首をかしげた。

「紫様、何故逆さまになっているのですか?」
「そう見えているだけよ。膝枕なんだから、当然でしょ?」
「膝枕・・・・・・?」

そこまで言われて、藍は初めて、紫が膝枕していることに気づき、思わず赤面。
慌てて飛び起きようとする藍を、紫は細腕からは信じられない程の力で押さえ込む。

「駄目よ、まだ寝てなさい」
「しかし・・・・・・」
「ハリセンで殴られた場所、まだ赤いわよ?」

その言葉に、藍ははたと気づき、思わずジト目で紫を睨んだ。

「・・・・・・大本の原因は紫様では?」
「そうだったかしら?」

ふふふ、と笑って誤魔化す紫に、藍は深いため息を漏らした。

「けど、私もおでこを思いっきり殴られたわ。グーよ、グー」
「・・・・・・自業自得という言葉をご存知ですか?」
「そんな言葉もあったわね」
「紫様・・・・・・」
「だって、あの子、からかうと面白いんですもの」

くすくす、と笑う紫の言葉に、本日何度目になるか分からないため息を漏らす藍。だが、

「けど、いいじゃない。こんな日々も、平穏の証なんだから」

郷愁と、どこか楽しそうな、けれどどこか悲しそうな表情を浮かべた紫の言葉に、藍は何も言えなくなった。


藍は、紫の過去を知らない。
ある出来事の後、藍は紫の式になった。それ以降のことは知っていても、それ以前のことは、実はまったく聞いていないのだ。
日常生活を送る上で、それは必要ないことだと思っていた。それは事実であったし、主の過去を無闇に暴くこともない、という気遣いの部分もあった。
だから、紫がこのような表情を浮かべる理由を、藍は知らない。知らないからこそ、何も言えない。
だからこそ、藍はため息をついて、

「・・・・・・毎日騒がしいのはご遠慮したいのですが・・・・・・そう、ですね」

そうとしか言えなかった。
藍の言葉に紫は微笑み、頭を撫でた。
髪を梳くような、ゆっくりとした優しい手つきに、藍は気持ちよさそうに目を細める。
主と式だけの時間。それは何者も立ち寄ることも、壊すことも許されないような空気に満ちていた。

「・・・・・・目の前で二人だけの世界を作られても、反応に困るんだけど」

だが、いつの世も、その空気を壊す存在はいる。
その言葉に、藍は初めて、紫の他に誰かいることに気づく。そちらのほうに視線を向け、座っている人物を見て、顔をしかめた。

「まだいたの?」
「いたわよ、ずっと」

そう言ってお茶を飲む霊夢。額の文字こそ消えていたものの、服装は未だにゴスロリのままだった。文句を言いに来たわりに気に入ったのか、着替えがないだけなのかは、藍にも判断はつかなかったが。

「とにかく、この姿のせいでひどい目にあったわ。迷惑料として夕食くらいご馳走しなさい」
「しょうがないわね」
「食事を作るのは私なんですが・・・・・・」

藍の言葉は当然のごとく無視される。

「で、夕食の献立は何なの?」
「さっき、台所で秘蔵のタレが出されているを見つけたから、多分冷麺ね」
「なんで知っているんですか・・・・・・?」
「楽しみね」
「楽しみだわ」
「・・・・・・」

ふふふ、と笑う二人に、藍は脱力し、それでも、安心したように微笑んだ。
何故なら、霊夢も、紫も、とても楽しそうに笑っていたから――



八雲一家の夕食は、ほとんど7時と決まっている。
四人分の冷麺が食卓に並び、そこに三人が座る。

「「「いただきます」」」

礼儀正しく手を合わせて三人同時に言い、そして食べ始める。

「・・・・・・美味しいわ、これ」
「そうでしょ?藍って料理上手だもの」
「毎日作っていれば、自然と上手になりますから」
「おかわりもらうわよ」
「食べるのが早いわね。そんなに急がなくても、それなりに量は作ってあるんでしょ?」
「はい」

立ち上がり、勝って知ったる我が家のごとく台所へと向かう霊夢を眺めながら、紫はポツリと呟いた。

「・・・・・・それにしても」
「なんですか?紫様」
「いつもの夕食だと、もう少し騒がしくなかったかしら?」
「そうですね・・・・・・」

藍は首をかしげる。
と、その時、台所から戻ってきた霊夢が、開口一番、

「・・・・・・ところで、それは誰の冷麺なの?」
「誰って、それは勿論橙のものだよ」
「ふーん・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

藍の箸が止まり、一拍の間の後、

「橙は!?」
「気づくの遅いわよ」
「気づくのが遅いわね」

二人の冷静なツッコミなど耳に入らず、藍は慌てて立ち上がり、外へ飛び出した。
その様子を眺めながら、霊夢は聞く。

「もっと橙のこと大事にしてるかと思ったんだけど、そうでもないわけ?」
「いつもなら、いなくなったらすぐに気づくんだけどね。今日は立て続けにいろんなことがあったから、思考回路がまともに動かなかったのかしら?」
「かもね」

その言葉を最後に、二人はのん気そうにお茶を飲む。



一方その頃、橙はというと――

「藍様―!助けて――!!」
「館中のガラスを割った罪は重いわよ。今死ぬのと後死ぬの、どちらがいいかくらいは選ばせてあげるわ」
「どっちもやだ――!!」

紅魔館のメイド長、十六夜咲夜の左手に襟首をつかまれ、廊下を引きずられていた。
あのまま鈴――棒に飛翔の札が貼られていたためか――を追いかけていた橙は、勢い余って紅魔館のガラスを破って突入、それでも追いまわし、散々暴れた後に鈴を捕まえてじゃれつこうとしたところを、目が据わった咲夜に捕獲されたのだ。
そして、犠牲者はこれだけでは終わりそうもなかった。

「な、な、なんで私まで――!!」

門番中国こと紅美鈴。咲夜の右手に襟首をつかまれ、同じく引きずられていた。
美鈴は知っていた。このまま引きずられて行き着く先が地獄であることを。
だからこそ、美鈴は必死になって弁明した。

「わ、私はちゃんと門番の仕事を――!」
「だったら、この猫が飛び込んでくるのも阻止できたんじゃないかしら?」
「そ、それはですね!!」

尚も弁明をしようとする美鈴の言葉に、咲夜は立ち止まり、ニッコリと微笑む。

「まあ、ね。美鈴、私はあなたの言い分ももっともだと思うし、多少なら譲歩してもいいとさえ思っているのよ?確かにこの子、動き回るとすばしっこいから」
「だ、だったら・・・・・・」

わが意を得たり、とばかりに言いかけて、美鈴は気づいた。咲夜は微笑んでこそいるが、目だけは笑っていないことに。そしてその目が紅く染まっていることに。
見る者を恐怖に陥れる表情と、冷徹すぎて感情が一切混ざっていない、氷のような声で、咲夜は美鈴に止めの言葉。

「それは、仕事をサボって部下と麻雀をしていなければ、の話なんだけど」
「あう」

美鈴の顔色は、最早青を通り越して真っ白である。
反論さえ許されず、押し黙らざるをえなくなった美鈴。そして、そんな咲夜の豹変を本能で察したのか、押し黙る橙。
二人がおとなしくなったのを見て、咲夜は再び歩き出す。
向かう先は、咲夜は説教部屋と言っている部屋。だが、この館のメイド達は総じて拷問部屋と影で呼ぶ。
メイド達も、その部屋に連れていかれる程の失敗をすることはまずなかったが、それはイコール、連れていかれれば最期、ということでもあった。流石に死ぬことはなかったが、その一歩手前までは確実に到達できる。そして出られたとしても、過去、三日以内に立つこと『のみ』が出来たのが美鈴だけだった。最も、連れていかれる確率が一番高いのも美鈴だったが。




藍が橙の救出に間に合ったかどうかは、また別の話。
只今、自分なりの『ギャグとシリアスの境界』を模索中の楓です、こんばんわ。
模索中にふと思い立ったストーリー、とりあえず形にしてみましたが、いかがでしょうか。
ギャグが古い、とかいうツッコミはなしの方向で。

橙×藍ファンの皆さん、ごめんなさい。橙の扱いがひどいですがorz
僕はその二人も好きなんですが、どちらかといえば紫×藍なので・・・・・・

鈴で遊ぶ、というのは実体験。親類の家の猫で試し、予想以上に反応がよかったので小一時間近く暇を潰せました(笑
狐を黙らせるお札も実在するみたいです。流石に実物は見たことありませんが・・・・・・^^;


美鈴がどんどん弄られキャラを極めつつあるような気がする今日この頃。

そしてupした後で些細な誤字に気づく自分。他にもありそうな予感が(汗

8/7 22時現在。
指摘を受け、修正
いち読者さん>見落としていた部分の指摘ありがとうございます(笑

Barragejunkyさん>基本的に僕は、自分の中のネタが使われようとあんまり気にしませんし、人によってこういう使い方もあるんだー、と思うタイプなんで、もし考えている作品の中に出てくるようでしたら、遠慮なくどうぞ(笑
個人的には楽しみですし(笑
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.4060簡易評価
9.40いち読者削除
 脱字が1点。(わざわざ誤字脱字を探した私は嫌な性格なんだろうなあ……)
・『どこかにぶつかるのではいか』→『どこかにぶつかるのではないか』

 日がな一日ぐうたらする日もあれば、こんな風にドタバタする日もある。そんな日々を全部ひっくるめて、平穏の証と言う紫。紫の過去に何があったかは知る由はないけれど、長い年月を生きてきた紫が言うからこそ、その言葉には重みがあるのかも知れませんね。

 真面目な感想はこのくらいにして、と(ォィ)。
 是非とも拝見したいものです。ゆかりんのあられもないすがt(二重黒死蝶
13.40Barragejunky削除
平和な一日の様子に色々と思う事があったのですがラストに全部押し流されてしまいました。いや笑った笑った。
巻き込まれ美鈴最高です。そして咲夜さん怖っ。
説教部屋→拷問部屋のコンボは自分も考えていました。ああくそう先にやられたー!
油揚げに気を取られる天狐様に萌え。
18.50裏鍵削除
ゴスロリ霊夢…うお、鼻血が、鼻血がぁぁ!!!
霊夢x紫は好きです。元々紫はあまり好きではありませんでしたけど、ある日ある夢を見て、紫様蝶最高になってしまったハハハ
話が脱線してしまいました。こういう『ギャグとシリアスの境界』はいいですね。しかも巧く混ぜてますし、一瞬だけ気を散らす藍に激しくワロタw
咲夜さんは…あれれ、ナイフが、ナイフが~~(ザク
20.70修くりーむ削除
シリアスどこー?   な、感想でした。ギャグの方に比重が置かれている為か、突っかかる所も無く最後までスラスラと読めましたよ。
「けど、私もおでこを思いっきり殴られたわ。グーよ、グー」が個人的にツボ台詞。

最後に美鈴が出てきたときは、ああもうこの人はずっとこの扱いなんだろうな・・・と。まぁ、今回は自業自得のようですが(w
32.1001東方ファン削除
ゴズロリ霊夢見てみたい
85.80時空や空間を翔る程度の能力削除
いや~~
笑った笑った。
97.無評価名前が無い程度の能力削除
ゴ、ゴスロリ霊夢とな・・・・!