Coolier - 新生・東方創想話

幽冥楼閣の桜 ‐桜焉‐

2004/08/07 02:15:17
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紅い
目の前に広がるのは紅、紅、紅・・・
視界を覆うの紅
赤より赤い紅
木にもたれかかる様に崩れ落ちる体
赤く染まる自身の手

 ―――ぽた

雫が落ちる。涙なのか分からない
分からなかった。ただ紅かったことだけ覚えていた・・・







 ――― おいで

声が聞こえた
何度も何度も聞こえていた

 ――― おいで

気がつくとわたし達は外に出ていた
日の光はまるで陽炎のように憂鬱に辺りを照らす
朝と夜
その境さえ曖昧である

 ――― おいで

わたし達の見た者は糸の切れたように倒れていった
見なくても感じる事は出来る。命の灯火が次々と消えて行く事に
そして、誰もいなくなった

 ――― おいで

気がつくとわたし達の周りには多くの蝶が舞っていた
わたし達の周りを付かず離れず舞い踊る
まるで、わたし達を仲間に誘うように

 ―――

声はもう聞こえない。でも、泣き声が聞こえる
あの子が泣いていた。大事な刀を放り出して
大丈夫。貴方のせいじゃないもの。これは、起こるべくして起こった事
わたし達は、存在してはいけないの

 ―――

わたし達は紅く染まっていた。べっとりと絡み付くような赤い液体に全身を染めていた
とても温かい
なのに、冷たくなっていくわたし達
そうする事でしか止める事は出来なかったから
それが、わたし達の決断であり、逃れようの無い運命だった

 ―――

あの子は、なおも泣き続ける
あの子が泣いているとわたしと私を保てなくなる
『ゆゆこ』という存在が曖昧になってしまう

 ―――

あの子は泣き続ける
苦しかった
耐えられなかった

 ―――

だから、わたしは拒絶した。わたしを保つため
そんなわたしを、『私』は捨てていった。死を選んだのだ
でも、わたしは生きる。例え、心が空なっても彼女を押さえなくてはならないから
それが、わたし達の運命だったから
そして、一人、わたしの心は死んだ。永久に・・・


           *


そこは変わらず存在していた
眩しいほどに溢れる太陽、視界一面を覆う桜色
そよぐ風に乗せ目が霞むほどの大輪の桜吹雪
辺りを覆う桜、桜、桜・・・
そして、雄大に咲き誇る大きな桜
彼女が夢見つづける桜は褪せる事がない
見事な桜、一人の少女
変わる事がない。それが、彼女の全てだから
彼女の名は、西行寺遊々子
永遠に夢を見続ける

全てが同じ夢 たった一つの夢 私の全てである夢 私の欠片の夢 現実ではない夢 現実である夢
夢ではない夢 夢である夢 生きる夢 死んだ夢 全てを終えた夢 これから始まる夢
拒絶した夢 受け入れた夢 誰も訪れることのない夢 ただ一人だけ訪れる夢 私だけの夢 もう一人の私の夢
彼女の望んだ夢 彼女が否定した夢 終わらない夢 終わる夢 意思ある夢 意思なし夢

彼女は、全てを拒絶した

残ったのは『虚』
空の杯。全てを受け入れる杯

喜、怒、哀、楽、怨、楽、憎、愁、孤、明、悲、安、暗、業、憤、正、汚、闇、念、嘘、純、獄、個、悪、死、・・・

空になった器は全てを受け入れる。他人の全てを・・・
夢幻に注がれる意思は彼女を汚す

それでも、彼女は綺麗だった
桜色の髪と瞳を持つ桜の精は清らかで有り続ける
そして、いつもと変わらない動作で私の方を向く
その少女の桜色の瞳は何も映さない。何もない空っぽである

 「・・・ようむ」

そして、消え入りそうな声が紡ぐ
いつも邪魔をする桜たちは静かである

 「迎えに来てくれたの?」

桜達は彼女の言葉に黙って耳を傾ける
音の静まり返った中、彼女の声は響き渡る


 「嬉しい・・・。でも」

微かに、動く唇

 「『わたし』はここに残るわ・・・」

桜色の瞳から一筋の涙。透明な瞳
しかし、その瞬間だけは哀に染まっていた

     ・
     ・
     ・

 「・・・」

目が覚めた
障子より入る日の光は酷く現で朝なのに夜のような暗さだ
それはあの時と同じ
私は横を振り向いて気付く
隣で寝ていたはずの遊々子様がいない事に
そして、私は何の疑いもなく弐本の刀を握りる

『楼観剣』 『白楼剣』

何故そこにあるのか考える事は無い。これは『過去』で『今』なのだから
私の心がこの世界を再現した
過去の過ち。人間としての最後の過ち
それは決して変える事が出来ない主の死
なら、私に出来る事は一つである


           *


私達は愛し合っていた
互いを慈しみあった。そして、私達は結ばれた
自分たちの『意思』で
そして、一人の少女を授かった
まるで、桜の精のように美しかった
彼女と同じ美しい桜色の髪。そして、私達の共有にして西行寺の者としての証である桜色の瞳
穢れを知らないかのような桜の精
私達は彼女を『遊々子』と名付けた

私達は、この子には一族とは関係無く育ってほしかった
その桜のように穢れを知らない我が子には私達のようになって欲しくなかった。そう、まるで蝶のように無邪気に遊び、何も知らずにその生涯を過ごして欲しい
それが、私達の望みだった
しかし、運命とは皮肉だった

遊々子は、西行寺として異能な能力を持っていた
反魂と対を成す死誘の能力
命を与えず、奪う力
そして、彼女が最初に奪ったのは、自分の母親の命だった

今も愛する妻の事を忘れる事は出来ない
しかし、彼女と約束したのだ
遊々子を守るのだと。そのためなら、あらゆる禁術にも手を染めた
そして、分かった
あの子は十六の時、自尽をする事に
あの子を救う事は私の力ではできない

だから、私は自らを売り渡した
あの子を救うために
西行妖に・・・


           *


愚かなものである、人とは
ある者は己の心を最後まで決めきれず本当に守りたい者を守れなかった
親は子のために全てを投げ出し自身を捨てた
子は自らの犠牲にして、私を押さえた
そして、誰も救われなかった
私が望んでいた事なのだろうか?これは・・・


           *


ここは魔境そのものであった
正ある者は死に絶え、死霊が跋扈する西行寺
それは完全なる死の世界
白玉楼を超える魔境

     ・
     ・
     ・

そこには、大きな桜の木があった
墨染めの大きな桜 『西行妖』 が妖しく咲き乱れている
そして、桜の幹に背を預けるように遊々子様が座っている
胸を紅く染め、静かに目を伏している
泣き崩れる過去の私
あの時、犯した過ちの末路
それは過去の惨劇

 「私はもう過去に囚われない」

辺りの景色が歪む

 『過去の再現をするか?』

何時の間にか現れたのか桜の前には一人の男が居た

 『貴様の心は折れたのだ。それが全ての原因」
 「・・・」
 「起きたのは世界を滅ぼすほどの災厄。「反魂蝶」。西行妖が吸収した死霊が溢れ出した。死霊は生を喰らい尽くそうと広がった。そして、何千、何万という命を糧としてもなおも広がり続けた』
 「・・・」
 『そして、それは遊々子の命によって終わりを迎えた。答えよ、魂魄妖夢。何の為にその刀はある?』
 「私の刀は主を討つためにある。それが、この刀の運命。そして、私の運命」

鞘より抜きたる冷たい刀身。一点の曇りも無い

 「それでも、私は幽々子様を守ると決めた」
 『それは叶わぬ夢だ。滅する事が救い。それが魂魄の運命。遊々子が命を絶ったのもまた運命』

主を殺す事こそ私の運命。守ると考えた私の心
しかし、私の心はあの時折れてしまった。それが、あの現実
だから、私はもう迷わない

 「私は、幽々子様をお守りする。それが私の刀を手にする理由」

―――ぽた

紅い血が雫となって落ちる
そう、私はもう迷わない。胸につき立てた白楼剣が私の決心の証
一点の曇りの無い私の心
それは、幽々子様を守ると誓ったから


           *


世界はガラスの様に砕け散った
砕けた世界は過去の西行寺。私の心にあった闇
救えなく、守れなかった世界
過去に囚われた私の世界。遊々子様の世界
残るのはどこまでも続く闇
不思議な浮遊感のあるこの世界にたった一つの桜の木
その下で寄り添うように眠る遊々子様と幽々子様

空の少女は、器が満たされれば満たされるほど自分ではなくなる。そこに注がれるのは自分意思ではないのだから
それが、封印された遊々子様
この闇の中、ただ一人あり続ける存在
死してなお、孤独の中生き続ける
だから、彼女は求めるのかもしれない。自分の全てを持つ幽々子様を

そして、彼女より分かれた魂。それが幽々子様
彼女は自由である。生前と別離した魂
故に彼女は夢を見ない。見る過去を持ち合わせていないのだから
彼女は罪を背負い続ける。彼女から全てを奪ったのだから

永遠に夢を見続ける少女。永遠に夢を見る事の無い少女
自分の意思の無い少女。自分の意思が有る少女
囚われの少女。自由な少女
孤独な少女。孤独ではない少女
死して全てを失った少女。死して全てを得た少女

それが、「 『遊々子』と『幽々子』の境界 」
絶対の境界線
分かれた二つの魂。あいまみえる事の無い二人の少女
それは絶対にして酷く曖昧である
西行妖は常に魂を喰らい続ける。人々の思念と一緒に。封印した彼女の心に蓄積されていく
彼女は欲する。様々な思念よりここから出たいと。誰の意思なのか関わらず
彼女は求める。自分自身を幽々子様を・・・
そして、幽々子様は夢を見る。ありもしない夢を見る
それが自分の過去と思いこんで夢を見る。そして、自身の封印を解こうする
しかし、解く事は出来ない。それが、彼女達の絶対の境界だから

西行妖は彼女達により封印されている。彼女達の境が曖昧になれば封印も弱まり、またあの時のような災厄を生み出す
だから、私は彼女達を斬らなければならない。一つになろうとする彼女達の心を別つため



師匠は教えてくれていた
弐本の霊刀は己の心自身

 一振りで幽霊十匹分の殺傷力を持つ長刀 「楼観剣」
 人間の迷いを断ち斬る事が出来る短剣 「白楼剣」

望めば刀は答えてくれる
私は誓った。私の刀は主を守るためにある

―――弐本の刀に己を乗せる

―――魂は己の精神を司る魂。刀に我が半身

―――魄は己の肉体を司る魂。我を殺し一点の迷いも無く澄みわたる

―――斬るものは形に有らず。無形に有り

 「我、斬るは敵に有らず。心に有り」

振り抜きたる刀は守るために有る

 我が主の身を守る 「楼観剣」
 我が主の心を守る 「白楼剣」

それが、私が刀を振るう理由


           *


それは、夢のようであった
体は動く事さえ出来ない傷を負っている。しかし、痛みは無いのだ
そして、向かう先には大きな桜
その下には眠るように座る一人の少女
桜色の髪、桜色の髪を持つ少女。私の仕える主
西行寺幽々子
彼女は待っている。目覚めの時を
だから、私は行かなくてはならない。彼女を起こすのが私の役目だから

 「幽々子様、こんな所で眠っていては風邪を引いてしまいますよ」

私の声を待っていたかのように彼女は目を覚ました
とても、優しい瞳が私の事を見つめていた

 「・・・夢を見ていたわ」

夢を見ない少女の夢

 「とても懐かしい夢を見た気がするわ」

自分自身の夢

 「そして、とても暖かかったわ」

そっと、幹に触れる手はとても優しかった。彼女の思いを知っているかのように
それは、彼女に対する懺悔だったのかもしれない
辺りを舞う桜吹雪が優しく私達を見守っている。それは私の勘違いかもしれない
でも、今だけはそう思いたかった

 「・・・良かったですね」

そっけない返事かもしれないが、それ以上の言葉は私達には必要ない気がした
見上げた桜はこの幽冥楼閣で最も大きな桜 『西行妖』
幹には二筋の大きな傷が走っていた
一つは直らないほどの深い跡を残した古い傷後、もう一つは真新しい傷後
その傷を持ちながらなお、桜は雄大に咲き誇っていた
空は桜の花びらで覆い尽くされていた。しかし、大きな桜はその役割を終えたかのように散り始めていた



   桜色の花びらを散らしながら・・・




あれは、悪夢のような出来事であった
体に出来る謎の発疹、40.0℃を超える熱
医者に足を運んだ私に下される病名
 「麻疹ですね」
何を平然と言ってらっしゃいますか!って言いながら、医者は入院手続きを作ってるし、そして、強制入院
う~む、拉致、監禁は本当にあったのだと病院の天井を見ながら思いふけっていました

まあ、関係ない事はさて置き、一応、完結いたしました
ええ、矛盾している所満載ですね。書いてて気がつきました
過去の話と作っていたが妖夢が介入した時点でもう過去じゃないですしね
妖夢の心の奥に封印されていた過去の再現ということが伝われば幸いです
まあ、大事な場面がちらほら抜けているのは文章を見て感じる所がある。後々、紫様の過去も踏まえてサイド的なものを作りたいと考えています
ふぅ、こういうのは疲れる。今度はもっと明るい話を書きたいな・・・

相変わらず、誤字脱字がありそうな・・・
ふと思った事でも良いので感想をお待ちしています
RIM
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コメント



0.560簡易評価
7.40MSC削除
妖夢かっこい~~。
なかなかに楽しませてもらいました。
オリジナル設定はお見事です。
それだけに、もうちょっと前作の奥が読みたかったです。
そういや、霊夢たちはどうなったんだろ?

完結お疲れ様でした。