Coolier - 新生・東方創想話

橙と紅と紅白と

2004/07/13 08:54:46
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――あの時私は、泣いていたんだと、思う。





「妖怪を退治しない巫女なんていないのよ。・・・・・・覚悟しなさい!!」

真昼間、よく分からない理由で売られた喧嘩。
勿論、私だって素直にやられはしない。

「あははは、一面のボスだからって、なめちゃいけないよ!」

そう言って、私は戦闘体勢に入る。
全身に巡る『力』を掌に集めて――

「あなた位、ぴゅっぴゅっぴゅ~のぴゅ~よ!」

言い終えると同時に――放つ!
同時に、巫女も攻撃を仕掛けてきた。

私の『力』と巫女の『力』が空中でぶつかりあって――――




私は、負けてしまった。




こっちはズタボロで、まともに動けない。なのに、巫女のほうは、ほとんど無傷だった。

――ある程度の実力の差は、戦っている最中に気づいた。だけど、ここまでなんて――

「は~い、封印ね」

巫女が懐から数枚の札を取り出す。
途端に、五体満足の状態だったとしても、無事では済まないであろう霊力が、巫女に集まる。
それが放たれれば、自分に対してどういう効果を発揮するのか。これからどんな目にあうかを、嫌というほど理解した。
だから―――


「まだ・・・・・・」


私は呟く。―――期待なんてしても無駄なのに。


「死にたく、ない・・・・・・」


それは、私が今まで生きてきた中で、一番素直に口から出てきた言葉。
その言葉に、だけど、巫女はあっさりと、

「ま、あきらめなさい。こういう運命だったのよ」

言い終わるのとほとんど同時に、巫女は数枚の札を放ち、

「霊符」

その言葉が、声が、死を告げる死神のように聞こえて、

「夢想、封印」

私の目の前が光に包まれて――弾けた。









辛うじて、生きている。それを知ったのは、真夜中のことだった。
薄く目を開けてみる。意識はある。けれど、体を動かそうとしても、思うようにいかない。
それどころか、体中から、私の『力』が、血が、体温が、抜け落ちているような感覚。

――多分、すべてが完全に抜け落ちたら、私は死ぬんだろう。

危険な状態のはずなのに、私は冷静にそう思って、弱弱しく笑った。
多分、私は死を受け入れ始めているんだろう。だから、こんなに素直に、納得できているんだ。

――もう、いいや。疲れちゃった。

――おやすみなさい。

私は目を閉じかけて、

「・・・・・・?」

気配がして、ふと、上を見上げた。


いつの間にか、私のすぐそばに立って、見下ろしていたのは、幼い少女だった。
最初は、あの巫女かと思ったけど、違う――あの巫女より幼いし、白い服を着ているし――何より、背中に羽なんて生えてなかったはず。

――誰だろう?少なくても、この付近で、こんな子供は見かけなかったはずだし・・・・・・

考えていると、視線に気がついたのか、少女が微笑んで語りかけてきた。

「こんばんは、妖怪のお嬢さん。ずいぶん、派手にやられたわね」

静かに、けれど響くような声だった。かすかに残る意識の中でも、少女の声は、私の耳に届いた。
多分、これが支配者の声なんだろう、と、不思議と納得できるような声が――

「ねえ」

――なぜか、私は答えないといけないような気がして――声は出なかったけれど、精一杯口を動かして「なに?」と聞き返した。
少女は微笑んだまま、私に語りかける。

「生きたい?」

唐突に聞こえてきた言葉に、私の思考は一瞬、停止した。
けれど、答えなんて、初めから決まっている。

――生きたい?そんなの、決まってるじゃない――まだ、死にたく、ないん、だから・・・・・・

精一杯、口を動かして伝えている私に、少女は妖艶な笑みを浮かべて、

「なら、私と契約を結びなさい。そうすれば、制約はかかるけれど、生きることが出来るわ」

――悪魔との契約みたいね。

そう思ったけれど、生への願望のほうが強かった。
私は、

――分かった。

そう口を動かすのが限界で、今度こそ、意識が遠のいて――
最後に感じたのは、少女の冷たい指が、私の頬をなぞる感触と、暖かい液体のようなものが、私の口に注がれる感覚だけだった。








「・・・・・・・・さん、・・・・・・鈴さん。美鈴さん!」

唐突にかけられた、叫び声に似た言葉に、思い出に浸っていた私の意識は、現実に戻された。

「ああ、ごめんなさい。どうしたの?」
「この館に向かっている人がいるそうです。それも、二人」

その言葉に、私は呆れと驚きの混じった表情をした。

「ここに?ずいぶんと命知らずというか・・・・・・先発隊は?」
「・・・・・・それが・・・・・・」

返答までの、一瞬の間。それが、先発隊の末路を、何よりも雄弁に語っているような気がした。
私はため息を漏らす。

「・・・・・・分かった。とにかく、残りの部隊を集めて、少しでも阻止するようにして。・・・・・・私は、ここを動くわけにはいかないから」
「は、はい!」

途端に、慌しくメイド達が動き出し、残った部隊を再編成して、空中へと飛び上がる。
けれど、私はここにいなければならない。それが門番である私の使命。


――あの時、お嬢様とかわした契約なのだから。




気づいた時には、私は独り、暗闇の中に立っていた。
周りを見渡しても、何も見えない。けれど、私の体だけが、その闇の中に浮かび上がるようになっていた。

「ここは・・・・・・?」

確か、私は、巫女に負けて、死にそうになっていて――

「そっか・・・・・・私、死んじゃったんだ・・・・・・」

導き出された答えを、自分自身でも驚くくらい、冷静に口にしていた。
だとすれば、ここは死後の世界なのだろうか?

「違うわ」
「・・・・・・え?」

唐突に聞こえてきた言葉に、私は慌てて周囲を見渡した。
ついさっきまで、誰もいなかったはずの場所に、死ぬ間際に見た少女が立っているのを見て、私は驚きのあまり声を上げそうになって、

「落ち着きなさい」

その声が、私の動揺を静めた。

「ここは、貴女の精神世界。死んだ訳じゃないわ。・・・・・・最も、貴女が望めば、本当にそうなるんでしょうけど」
「私は――」
「ええ、分かってるわ。死にたくないからこそ、私と契約したのだから」

契約。そう言われて、私は思い出した。

――そうだ。確か、生きたいから、私はこの子と契約を――

そこで、ふと疑問に思った。

「あんな怪我をしていたのに、何で?」
「ああ、簡単なことよ」

少女は楽しそうに笑って言った。

「私の血を飲ませたの」

――多分、私は今、引きつった笑みを浮かべているんだと思う。

そんな様子を気にせず、少女はなおも楽しそうに笑いながら、言葉を続けていた。

「知ってるかしら?血は本人の魔力を、何よりも色濃く受け継ぐモノ。ほんの数滴でも――量が多ければ多い程、血を与えた者の力が反映されやすくなる。だから、その血を飲ませて、それを媒介とすれば、大抵の傷なら治るわ・・・・・・まあ、この知識も、魔術方式も、人から教わったんだけどね」
「あれだけの怪我を「大抵の」で済まされても、死にかけていた私としては、反応に困るような・・・・・・」
「私なら、あれくらいの怪我でも、銀で刻まれない限りは、死なないけれど?」
「あなたを基準にされても困るわ」
「それもそうね」

あっさりと頷く少女に、私は脱力感を覚えた。

「話を戻すわね・・・・・・それ故に、血を与えられた者は、血を与えた者には逆らえない。そして、その側からあまり遠くへは行けない。それが、制約」

――つまり、

「私は、あなたの側から離れられなくなるってこと?」
「例外もあるけど、そうね。そう思ってくれて、間違いないわ。それと・・・・・・」
「?」
「血を与えただけでは、完全な契約にはならないの。私が貴女の名前を決めて、貴女がそれに返事をして、自分自身に刻む。その時点で、ようやく契約は成立」

私は納得して、頷いた。
元より、自分の名前はあんまり好きではなかったし、いい名前を期待しよう。
いつだったか、まだ名前がない時に、たまたま人間が育てていた蜜柑を食べていた時、緑色の髪をした幽霊が現れて、

――妖怪オレンジだね。

たったそれだけで決められた名前。あんまりだと怒っても軽くあしらわれ、不貞寝して。
けれど、まさか、その夜のうちに、皆に言いふらさなくてもいいのに・・・・・・

――駄目だ。思い出しただけで、やるせなくなる。

「紅美鈴」
「え?」

唐突に言われて、私は思わず返事をして・・・・・・あ。

「貴女の髪は紅。貴女の声は鈴の音色。その二つをあわせての美。だから、紅美鈴。これでどうかしら?」
「紅美鈴。それが、私の名前?」
「そうよ、美鈴」

少女は妖艶な笑みを浮かべて、手を差し伸べてきた。

「さあ、手をとりなさい、美鈴。共に、私が住む館――紅魔館へと行きましょう」

私は、躊躇いなくその手をとり、跪いた。

「よろしくね、美鈴」
「はい、お嬢様」




紅い霧が辺りに立ち込める中、メイド達の部隊を蹴散らして私の前に現れたのは、白黒で箒にまたがっている魔法使い風の少女と――見覚えのある、紅白の巫女!
その姿を見た瞬間、私はあまりのことに、数秒、立ちすくんだ。

「まさか、こんなところで会うことになるとは、思わなかったわ・・・・・・」

呟く。これも、あの時巫女が言っていた『運命』だとしたら、皮肉なことかもしれない。
けれど、これはある意味チャンスだ。巫女に対する復讐も出来るし、お嬢様の役にも立てる。
多分・・・・・・巫女も強くなっている。感覚で分かる。前とは違う、と。
けれど、こっちだって、お嬢様との契約で得た『力』と、私自身がもつ『力』がある。

「あの時みたいに、簡単にやられは、しないんだから」

言い聞かせるように呟いて、私はスペルカードを握り締め、空へ飛び上がった。
白黒の魔法使いは視界に入れない。私の狙いは、あくまで紅白の巫女。

「踊らせてあげるわ。私の七色の『気』で・・・・・・舞踏会と洒落こみましょう、紅白の巫女!」

私が近づくと同時に、散開する二人。
それを確認して、私は一枚目のスペルカードを発動させる。





「彩符『彩虹の風鈴』!」







――さあ、踊りなさい。紅白の巫女。

――ここは、私が主役の、舞踏会の会場なのだから――
初めまして、初投稿になる楓です。
最初に言っておきますが、私は、このSSの元となった東方幻想郷をやったことがありません(爆
なので、説明不足というか、なんというか・・・・・・の部分もあると思いますが、見逃してくださいorz

さて、今回の主役(?)キャラは、東方幻想郷1面ボス、オレンジです。
某HPでの東方シリーズ紹介において、最初はほとんど流して見ていたのですが、ふと、

「あれ?どっかで見たことあるような?・・・・・・は!?Σ (゚Д゚;)紅美鈴!?」

という具合で、思いついてロクに考えもせず『オレンジ=紅美鈴』という図式が出来上がりました(汗
いやだって似てますしね・・・・・・他人の空似程度には(待て
ちなみに、紅美鈴の台詞はすべてオリジナル。美鈴は弄られキャラですが、こういう台詞も似合うと思って書いたのですが・・・・・・どうでしょうか?(汗

あと、SS自体書くのが初めてなので、至らぬ部分が多いとは思いますが、生暖かい目で見守ってやってくださいorz


7/13 21時 一部修正+契約時の文章追加。てか忘れるな自分orz
ちなみにオレンジの名前のつけられ方ですが、経験談です。いやほんとに。
まあ僕の場合はファンタオレンジ飲んで「オレンジ」という仇名にされました。
・・・・・・流石に二日で元の仇名になりましたが^^;
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コメント



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幻想郷ですか。私も知りませんね。DLはできてもPC98なんてありませんし。
しかしせっかく復活したのに、今度は死なない程度にやられそうな美鈴。不憫な…