Coolier - 新生・東方創想話

庭師の休日(1)

2004/07/11 12:41:34
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溜めに溜め込まれた幻想郷中の春が一気に溢れ出し、慌ただしく喧しくそして華々しい花見が方々で行われ、満開だった桜も遅れを取り戻すかの様にその色を薄墨から新緑へと駆け足で変えていく季節。
梅が青く実る雨の時期には僅かに早い、そんな幻想郷の冥界。
外の世界一般で冥界という言葉に抱くであろうイメージに真っ向勝負を挑むような、賑やかさが陰りを見せる事は無い。
『死人に口無し』なんて言葉を創ったのは一体どこのどなた様であろうか? 少なくとも冥界を見てきた者では無い事は確かだろう。
桜が咲けば謳いだし、緑が萌えれば躍りだし、紅葉が染まれば呑み明かし、雪が舞えば語り明かす。
幻想郷の冥界はいつだってそれはもう賑やかで楽しい所なのだ。
肉の身体を離れ、魂だけになった者達の世界なのだから、そりゃあ悩みだって五割減にもなる。そう考えると冥界が騒々しく明るいのも案外当然の事なのかもしれない。

だがどんな事にでも例外というものは存在する。
この法則だけはやはり冥界にいっても五分ではなく十分に通用するようだ。



◆◇◆◇



冥界に一際大きな敷地を誇る白玉楼。
その庭は生前こそ普通の規模だったらしいが、冥界に来てからというもの着々と裾を延ばし、今では端から端まで二百由旬にも届くと言われている。
今日も今日とて白玉楼の広大の二文字さえ追いつかない程に広い庭を、忙しなく駆け巡る一人の――いや、この場合は半人のが正しいのかもしれない――悩める例外がいた。

「ああもう掃いても掃いてもきりが無いくらい落ち葉は積もるし庭の木は容赦無く枝を伸ばすし気を抜けばすぐに亡霊達が敷地に入ってどんちゃん騒ぎ出すし幽々子様も幽々子様で目を離すとその騒ぎに入り込もうとするしでもうちょっと後片付けするこっちの身にもなって欲しいわ!」
亡霊には身体が無いので無理な相談である。というより亡霊に我が身となれと言うのはつまり憑けと言う事ではなかろうか。
もっとも、ぶつくさと文句を言いながらも足を止めたりはしない辺り、本気で思った言葉では無いのだろう。或いは言っても無駄と知りつつ口にせずにはいられない愚痴というのが、一番正解に近いのかもしれない。

さて、この疾風にも勝る速さで白玉楼の庭を巡っている少女の様子をもう少し詳しく見てみよう。
光の当たり具合によって銀にも見える白髪は肩の辺りで切り揃えられ、黒のリボンが舞い降りた蝶の様に一点を飾る。
丸い朱の瞳に溌剌とした活気を見せ、あどけなさの残る顔立ちには可憐という言葉を損なう要素は一つも無い、万人が認めるであろう可愛らしい少女である。
リボンと揃いの黒いタイは、きっちりと結ばれているにも関わらずやや傾いてしまっているのが、彼女の性格を良く表していた。
つかず離れずの距離を置いて浮かぶ人魂は、師と同じく半人半霊という稀有な存在である彼女の半身。
これだけでも人目を引く容姿の彼女であるが、さらに目立つのがその持ち物である。
深緑色のベストを着込み、箒を片手にくるくると目まぐるしく動き回る背中には、凡そ彼女の見た目には相応しくない二振りの刀があった。
人外の力持つ妖怪が手ずから鍛え上げた名刀、それぞれ銘を『楼観剣』『白楼剣』と云う。
片や一振りで両手の指を折る数の霊体を斬り、片や人の身にかかる迷いを断ち斬るこの二刀こそ、うら若き少女にしか見えない彼女――魂魄妖夢が実は一角の剣士である事の証であり、何処かへと去ってしまった師から譲り受けた形見の刀でもある、彼女が仕える主人の次に大事な唯一無二の品なのだった。

暫くの間、庭の葉を掃き集めていた妖夢だが、やがてぽつりと誰に向けてでもなく独り呟いた。
「……このままだと修錬の時間に間に合わないな」
箒を放り出し、妖夢の手が背中と腰に差した二刀に伸びる。
抜き放たれた刀身は、幽玄の青白い気を纏いながら此度の獲物は何かと白刃を煌かせた。
相手は魑魅か魍魎か、はたまた悪鬼羅刹だろうと構わない。この刀を前に慄かない妖物魔獣など、果たしてこの幻想郷に幾らもいないだろう。
しかし、この大業物を打った妖怪がたとえお釈迦様だとしたって、妖夢の用い方は思いつきもしなかったに違いない。

慌ただしかった妖夢の足が止まる。つられる様に背後の人魂もその場へと止まった。
す、と細められる双眸。集中する時の妖夢の癖だ。
白楼剣の力を使い、自分を世界と切り離す。
斬る、という唯一つの事に己を特化していく。
研ぎ澄まされた剣気は、やがて妖夢の周りに弾幕となって展開。だがそれらはまだ其処に在るだけだ。このままでは斬るに届かない。
深く。
深く。
もっと深く。
――――――――見えた。
極限まで突き詰めた霊気と剣気が一枚の符の形を成し現れる。
符は妖夢に引き延ばされた世界を見せた。
色即是空、空即是色。
無は一転し、全と為っていく感覚。
遥か遠くの亡霊達のざわめきから、風が髪の一本一本を撫でていく感触まで今の妖夢は感じ取れる。
外界には刹那、しかし己には永劫。この境地に至り、漸く楼観剣を振るう時が来た。
楼観剣を持つ手に力が篭り、そして。

「…………届け、獄界剣『二百由旬の一閃』!」
妖夢は目の前に浮かぶ周囲の剣気に刃を走らせた。
剣気は四散し、けれど消える事なく妖夢の剣閃の疾さの儘に放たれる。
分かたれた事で弾幕の密度をより一層濃くしながら走り抜ける剣気は、触れる木々の枝を容赦なく斬り落としていった。
後に残るのは、刈り揃えられた枝葉。

「よし、次はこっちを……」
たった今一閃を放った方向とは逆を向き、再び妖夢が構える。

要するに、妖夢はこの名刀を枝切り鋏の代わりにし、剪定という庭仕事に用いているのである。
師も同じ使い方をしていたので、妖夢には至極普通の事であったのだが。


初挑戦にして長くなりすぎたためぶつ切りでお届けするハメになってしまった駄作書きです。
ドキドキです。
続きは暫しお待ちを。
Barragejunky
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コメント



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3.無評価裏鍵削除
おお、いいですよこれw
続編に期待~