Coolier - 新生・東方創想話

侍と侍のデュエット

2004/06/28 04:10:44
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 見るものを圧倒させるほどの豪壮な桜並木に覆われた石段―――天を穿たんとばかりに何処までも伸びる白玉楼階段の上空で、白刃が煌いた。



 ぎん、と。
 金属同士のかち合う音が響き、その衝撃であたりを漂う桜の花びらが僅かに舞い上がった。金属の片割れであるナイフは、もう片方の金属である日本刀に弾かれて、石段の上へと無様に墜落していく。
 日本刀を手にした少女―――魂魄妖夢は、艶のある白髪のボブカットを揺らしながら軽く息を吐き、目の前の敵に対して構え直す。
 それを迎え撃つのは、西洋風の従事服―――所謂メイド服に身を包んだ銀髪の女性だった。妖夢から距離を取って漂う女性は今でこそ無手だが、それが毛ほども楽観的な要素にならないことを、身をもって思い知らされた。
 妖夢は前を向いたまま、自分の状態を確認する。
 身に纏ったブラウスとその上に着込んだベストは所々が破れ、鮮血が滲み出ていた。動きやすさを重視した裾の短い緑のスカートから覗く素足にも、僅かながら裂傷が見当たる。
対するメイド服の女性には傷一つついておらず、余裕の表情で機を窺うように殺気をちらつかせていた。
 それもそのはず、この闘いが始まってから、ただの一度も妖夢の剣は女性を捕らえてはいないのだ。
 強い。素直にそう思う。
 焦りが募り、表情に出そうになるのを堪えて、妖夢は一歩前に踏み込んだ。

                             ◆ 

 ぎん、と。
 金属同士のかち合う音が響き、投げたナイフが打ち抜かれた小鳥のように力なく墜落する。
 これで何本目だろうか、と胸中で嘆きながら、ナイフを投げた少女―――十六夜咲夜は少し身を引いた。
 咲夜の視線の先、約五間の距離を開けたところ居るのは、二振りの日本刀を構えた少女。
 日本刀の少女の服は乱れ、所々に傷をこさえてはいるが、それらは全て掠り傷。動きどころか戦意を落とすことすらできはしない代物だ。
 こんなことは久し振りだった。投げたナイフを避けるでもなく、受けるでもなく、まるで枯葉でも払うように日本刀で打ち捨てるのだ。
 恐らく体の動きからナイフの軌道を予測でき、且つ鋭い動体視力をしているのだろう。そして、離れれば離れるほどその効果が顕著になっていくだろう事は、容易に想像できる。
 かといって、これ以上近付くのは拙い。白兵戦では歯が立ちそうにない。
 咲夜は攻めあぐねていた。しかしそれを面には出さない。従者とは、常に毅然たるべきなのだ。

 咲夜の逡巡すら断ち切らんばかりの勢いで、日本刀の少女が動いた。

 「は!」
 少女の振った長刀から、剣閃が放たれる。
 飛ぶ斬撃。この闘いが始まってから幾度となく躱したそれを、咲夜は半身ずらすだけでやり過ごす。
 咲夜の視界を、剣圧で舞い上がる桜の花弁が覆った。青白さとピンクの混じった桜の花弁が目の前を通り過ぎた瞬間、咲夜は少女が肉薄していることに気付く。まるで時でも止められたかのような錯覚を覚えた。
 吹き抜ける風を思わせる程、自然で真っ直ぐな踏み込み。

 少女を止めるべく、咲夜は右手に現れていた二本のナイフを親指、人差し指、中指の間に挟んで投げる。
 日本刀の少女はそれを打ち落とすべく、右手に持った長刀を払う。
 ―――止まれ。
 投げたナイフのうちの一本が、何かにぶつかったように空中で静止した。『ナイフ』の時間を止めたのだ。
 両方を同時に払う軌道で放たれた刃は一本を打ち落としたものの、残念ながらその切っ先は二本目に届かない。
 ―――動け。
 嘲うかのように再び動き出したナイフが、止まる前と変わらぬ勢いでフォロースルーに入っている少女へと襲い掛かった。
 少女は慌てる事無く、左手に持っていた脇差を逆袈裟に放ってナイフを落とす。
 だがそんなものは予測済みだ。

 本命は、左手で投げたナイフ。

 右腕も左腕も払い、今度こそナイフと標的の間を阻むものはなくなった――――
 ぎぃん。
 ところが、ナイフは少女に突き刺さる前にまたも弾かれた。
 「そんな気の抜けた攻撃では、未来永劫私に届くことはない!!」
 なんと、通り過ぎたはずの右腕が戻ってきている。振りぬいた位置から斬り返したのだ。
 鮮やかな剣技に、咲夜は舌を巻いた。どこかで二刀流は邪道だと聞いた記憶があるが、なかなかどうして。実に厄介極まりない相手だ。
 それとも、邪道などという枠に嵌まるのは、人間だけだということだろうか。

                             ◆

 飛翔する二本のナイフに向けて長刀―――楼観剣を振るったが、二本のうち一本が空中で停止し、打ち落とすことは適わなかった。
 何か仕掛けがあるだろうことは予想していた。
 妖夢は慌てる事無く脇差―――白楼剣を振るい、再び動き出した残りの一本を弾く。

 そこに襲い掛かる三本目のナイフ。

 投げた瞬間がばれないようにだろう。体の陰に隠すようにして、メイド服の女性は手首の動きだけでそれを放っていた。
 だが、何かあるだろうと予想していたのだ。
 ―――遅い!
 ぎぃん。
 楼観剣が再び妖夢の前に舞い戻り、小癪な策ごと三本目を切り捨てる。
 「そんな気の抜けた攻撃では、未来永劫私に届くことはない!!」
 今度は妖夢が仕掛ける番だ。振りぬいた白楼剣を翻し、メイド服の女性の首を狙う。
 とても躱せる距離ではない。
 だが、妖夢の手には風を斬った感触しか伝わらなかった。
 「また・・・・!」
 先程までそこにいた筈の女性の姿は霞と消え、瞬時に妖夢の右側へと現れていた。その距離、やはり五間。今の刹那の剣舞をもってしても、二人の立ち位置を換えただけに過ぎない。
 ―――これだ、この妙な移動術の所為で剣が当たらない。
 踏み出して剣を振り、躱され、反撃を受け、それを弾き返す。それを幾度繰り返しただろうか。
 自惚れでなければ、妖夢がメイド服の女性との間に感じている実力差は紙一重だ。
 たかが紙一重。吹く風の向きが変われば傾くような、危い均衡。だがその紙は分厚く、堅牢な城壁のように妖夢の前に立ちはだかっている。

 せめて一撃―――いや、たった一合でも打ち合うことさえできれば、あの貧弱な武器もろとも叩き伏せることができるというのに。
 すまし顔を取り繕うことも忘れ、歯噛みする。
 しかし、我が身の至らなさを嘆く暇は妖夢にはない。
 今は何としても目の前の敵を倒し、春を集めなければならないのだ。
 「――――お嬢様のために!」

                             ◆

 今、目の前の少女はなんと言ったのだろうか?
 お嬢様のために。確かにそう聞こえた。
 ――――ああ、なるほど。彼女も従者なのか。
 途端に、咲夜の中で少女の位置付けが変わった。
 路傍の石―――良くて手ごわい路傍の石程度にしか思っていなかった日本刀の少女に、今では共感―――いや、友人に似た感情すら覚える。我ながら現金だと思ったが。
 だが共感を覚えるが故に、余計に負けるわけにはいかなくなった。
 「従者をみて主を知る」
 咲夜は新しく両手に現れたナイフを投げ、日本刀の少女はそれを難なく弾く。咲夜は当てるつもりでナイフを投げるが、当たるとは思っていない。
 ちまちま攻撃していては、この戦いの終わりは見えてこないだろう。とはいえ、守勢に回っても時を止めれる回数には限度がある。それにこのままずるずると長引けば、こちらの能力が見切られてしまう可能性もあった。
 ではどうすればいいか?
 ――――正攻法で無理なら奇策。
 当然の選択だ。
 仕込みは済んでいる。あとは位置の調整だ。

                             ◆

 一つ気付いたことがある。
 あの瞬間移動は、そう易々と何度も使えないということ。もし使えるのならば、ここまでの接戦にはならなかっただろう。
 ではどうすればいいか?
 ――――正攻法が無理なら奇策。
 本来奇手は妖夢の得意とするところではないが、これは闘いだ。なりふりをかまう謂れなど無い。
 二人の間を風が吹き上げ、あたりを漂う桜の花弁の量が増える。
 妖夢の脳裏に一つの考えが浮かんだ。
 「行くぞ!」
 性格なのだろう。律儀にそう宣言して、妖夢は一歩踏み込んだ。
 そして、白楼剣を投擲した。

                             ◆

 ―――――!!
 てっきり斬撃が来るとばかり思っていた咲夜は、完全に不意を突かれた。踏み込みの速度を加えたその一投には、神速という言葉が相応しい。
 咲夜は無意識のうちに『世界』の時間を止める。
 風が止まり、音が止まり、少女が止まり、鼻先まで迫っていた日本刀が止まる。
 咲夜は慌てて少女から距離を取った。

                             ◆

 メイド服の女性の姿が消えた。いや、妖夢が消したのだ。
 ―――消えると分かっていれば準備はできる。そして、そう何度も消えることはできない。
 メイド服の女性が現れたのは、妖夢から見て右側。
 溜め込んだ足を爆発させて、妖夢が疾走する。
 「はああああああ!!!」
 大上段に振り上げた楼観剣を、裂帛の気合とともに打ち下ろした。

                             ◆

 どす。
 鈍い音がして、鮮血が飛び散った。
 「え――――?」
 咲夜の目の前には、日本刀を振り上げた少女がいる。
 その顔には、信じられないといった表情が浮かんでいた。流石に後ろから刺されるとは思っていなかったのだろう。日本刀を持った腕の肩口に突き立ったナイフを、呆然と眺めていた。

 位置を入れ替える一瞬前の投擲、咲夜は左手でも二本のナイフを投げていたのだ。体の陰に隠すように巧妙に、そして一本だけナイフの時間を止めていた。
 あとは機を見てそれを動かせばいいだけ。普段ならば気付かれていただろうが、今はこのとおり桜の花弁が邪魔で見通しが悪い。
 ――――気の抜けた攻撃も悪くはないでしょう?
 多少焦ったが、結果オーライだ。

                             ◆

 「え――――?」
 鮮血とともに、熱いような、気持ち悪いような痛みが迸った。肩口を見遣ると、一本のナイフが突き刺さっていた。
 わけが分からない。どうして後ろからナイフが飛んでくるのだろうか。
 思わず楼観剣を取り落としそうになったが、それだけはと、なんとか踏みとどまる。
 しかし、それはあまりにも致命的な隙だった。
 妖夢が前へと視線を戻すと、メイド服の女性はまるで抱擁するように両腕を広げて微笑を浮かべていた。
 その両手には溢れかえらんばかりのナイフ、ナイフ、ナイフ、ナイフ、ナイフ。
 ―――拙い。
 「殺人ドールよ」

                             ◆

 「呆れるわね・・・・」
 咲夜が辺りに散らばったナイフを拾いながら溜息を吐く。
 二本。たった二本だ。あれだけの量のナイフを投げたというのに、それだけしか当たらなかった。
 右手が使えないと知った少女は長刀を左手に持ち替え、襲い掛かるナイフをことごとく防いだのだ。
 それでもやはり全てを捌くのは無理だったのだろう。剣撃の隙間を縫って、二本のナイフが少女の腕と足を捕らえた。
 痛みで気を失ったのか、そのまま少女はどこぞの桜の木の上にふらふらと墜落していった。
 「また、会えるかしら?」
 全て拾い終わった咲夜が呟く。
 案外、すぐ追ってきそうな気がしないでもなかったが。

                             ◆

 「あった・・・・・」
 自らの投げた白楼剣を拾って、妖夢は安堵の溜息を吐いた。
 刺さったナイフは全て抜いて、傷口はシャツを破って作った布で止血してある。
 ―――あのメイド服の女性は、今ごろお嬢様の元へと辿り着いたのだろうか?
 歯痒い。何が紙一重だ、触れることすらできなかった。
 妖夢は歪んだ視界を腕で拭う。
 「――――まだだ」
 妖夢は帯剣し、遥か先―――白玉楼階段の頂上を睨みつけるように見上げ、
 ―――こんなところで立ち止まるわけにはいかない。
 そして、怪我を感じさせない、疾風さながらの速度で石段を走り出した。





 幻想郷に春が訪れる少し前、ほんの少し前の話である。
ちょっと書いてみました萌え小説第三弾・・・・・っ!

ざわ・・・     ざわ・・・・



ザワ('∀`)


お前これ脳内設定だろうってところは見当っても見逃してください。
弾幕出てこないけど勘弁してください。
でも感想や意見や指摘貰えるとやっぱり嬉しいです。
でも象さんはもっと好きです。



>ICさん
忠告thxって感じで『妙』に戻してみました。元々こっちだったんだですが、いつの間にやらみょんに。気の迷いか・・・?

>いち読者さん
スピード感を出したかったので、ちょこちょこと切り替えてみました。

>ヨハン堂さん
我寡聞にして飛竜剣を知らず。ぐーぐる様、ぐーぐる様、御願いします。
ス○○○○飛竜が出てきました。
なるほど、これか・・・・。

>裏鍵さん
感想・誤字指摘thxです。呆れに修正しました。

特に名乗るほどの者では
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コメント



0.1400簡易評価
1.無評価IC削除
二人の真剣勝負がかっこいいですね。
しかし、こういった作品の場合、雰囲気が壊れるので『みょん』はやめた方がいいかと思います。主観ですが。
2.40いち読者削除
この2人の場合は、剣とかナイフとか普通の武器があるから、弾幕ではない戦いもアリでしょうね。
視点の切り替えによって、2人の「現在」の心理描写がなされてて、面白かったです。
ただ後半、その切り替えが多くて、読んでてちょっと戸惑ってしまいましたね。「今どっち?」といった感じに。
……まあ、私だけかも知れませんが(汗)。
3.無評価ヨハン堂削除
妖夢の奇手、よもやの飛竜剣、堪能致しました。
この二人の立会いならばこそ、こういった文体がハマりますね。
8.80裏鍵削除
素晴らしい戦闘描写真です!切り替えもよくて、内面と外面の交互タイミングが凄くいいです。
あ、でも一応。殺人ドールがヒットしたあと咲夜のセリフ、「飽きれるわね」じゃなくて「呆れるわね」では?