Coolier - 新生・東方創想話

Rad des Schicksals

2008/02/13 20:11:51
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――その少女は、死して尚、拒まれ続けた。





「いや~参ったね。どうしよう、この子・・・。」
此処は三途の河である。
死神「小野塚 小町」は今、これまでで最も判定の難しい死人を目の当たりにしていた。

三途の川の渡し賃は、生前親しい人がその人の為に使ってきたお金の合計である。
親しい人が少なければ一文無し、悪ければマイナスにもなる。

彼女は、渡し賃を持っていなかった。所か、その負債が乗せずとも判る程に巨大だった。
そういう奴は大方悪人なので、大抵船に乗せるまでも無く河に叩き落とす。

だが、小町は彼女を落とさなかった。彼女が、不釣り合いな程に澄んだ魂だったからだ。

それだけで極楽行きになりそうな程澄んだ魂が、これ程重い負債を抱えているとは・・・。
それは彼女と親しい人が零に等しい程少なかったからか、或いは余程深い恨みを抱えていたからか。
仮にそうだったとして、どれ程それらを積み重ねたら、此処まで酷い額になるのだろう。

これは自分だけでは無理だ、閻魔様の力を借りなければ。小町はそう判断した。



「で、彼女がその子ですか・・・。確かに、途轍も無い、ですね・・・。」
知らせを受けた閻魔「四季映姫・ヤマザナドゥ」は半信半疑だったが、少女を見るなり顔色を変えた。
成る程、これは確かに途轍も無い料の負債だ。小町の判断は正しいと言えるだろう。
兎に角「浄玻璃鏡」で過去を覗いてみなければ、何とも言えない。この負債の原因は何だろうか・・・。



「四季様、どうですか?」
「・・・小町、一寸こちらへ・・・。」
「? どうしたんですか?」

彼女の側を離れて、映姫は小町に要点を述べた。

彼女は生まれつき重い病を患っていて、そのせいで動く事すら出来なかった事。
元々人の居ない場所に生まれた事もあって、親以外の人間は見た経験すら無かった事。
それらの点から元々負債を抱え込むしかなく、しかも返すに返せなかった事。
このままでは転生所か審判すらまま成らず、地獄に落とされて苦しむであろう事。

「通常なら地獄に落とす所ですが、事情が事情だけにそうするのも躊躇われて・・・。」
「・・・何とか、ならないんですか。」
「渡し賃を増やしてから改めて来る、という方法は有るのですが・・・。」
その場合、死んだ時に居た場所でなければやり直す事は出来ないという。
しかしこの場合、その場所の閉鎖性も原因の1つだ。そんな所でやり直し等、可能なのか?

「やるしか無いんじゃないですか? それ以外に方法が無ければ。」
「そうですね・・・。無責任な様ですが、これが精一杯の妥協点です。」
「じゃあ、あの子にそう伝えてきます。」



斯くして特例として認められた彼女は、数年掛かりで用意された肉体に転生した。
しかし、出来る限り負担を減らす為に、目も見えず、口も利けない、生前の様な体が宛われた。
辛うじて手足が動かせるその体で、生前の借りを返しきるまで、幻想郷の面々と関わっていく事になる。
・・・程なくして、初めての客が訪れた。





私は、外の世界から来た。





私は、幼い頃から数々の秘術を習得し、様々な奇跡を起こした。
その奇跡が有れば、信仰を得る事はそう難しくは無い――筈、だった。

しかし、時代は変わった。神を祀る物は激減し、人間は科学を信仰する様になっていった。

最早、外の世界では満足な信仰は望めない。そう判断した神奈子様は、諏訪子様と私を伴って
或る場所に神社を移し、そこで信仰を得る事にした。妖怪達が集まる世界――「幻想郷」で。

だが、見た事も無い地の「何処に」神社を移すか――それを考慮していなかった。
結果、到底人が訪れないであろう地に来てしまった。・・・最悪だ。

こんな辺鄙な地でどうやって信仰を得ろと言うのだろうか。だが、やるしかない。
私は決意を新たにした。必ずや信仰を広め、嘗ての栄華を取り戻す、と。



――それから、1月が経過した。
相も変わらず信仰は増えなかったが、自給自足の生活にも一寸ずつ慣れてきた。
そして、住人である「彼女」とも仲良くやっていた。年が近い事もあってか、不思議と話が弾む。



最初に家を訪れた時、余り良い予感はしなかった。廃墟同然の家に住む者だったからだ。

所が、いざ挨拶してみると至って普通の女の子だった。目も見えず、口も利けないと聞かされて驚く程に。
それ位、生き生きとしていて、良く笑うのである。私は彼女がとても気に入った。
あんまり気に入ったので、神奈子様と諏訪子様にも紹介した。御二人とも、とても気に入られた様だった。



彼女は、私達が何事かを話すと、それに応じた立ち居振る舞いを見せてくれた。



昔の事を話して思わず笑うと、一緒に笑ってくれた。とびきりの笑顔で。

過去を思い出して泣いていると、心配して抱き締めてくれた。泣かないで、と言う様に。

慣れない作業に疲れて横たわると、そっと膝枕をしてくれた。そのお陰で又頑張れた。



・・・外の世界の存在である筈の私達に優しくしてくれる。



外の世界から来た身寄りの無い私達にとって、



そして、同い年の友達を捨ててきた私にとって、



それは、どんなに有り難い事だっただろう。



何時しか、彼女は私にとって、なくてはならない友人になっていた。



ある時、私は彼女と毬突きをしていた。幼い頃、神奈子様に教えて貰った物だ。
懐かしくなり、彼女に教える序でに私も一緒になって遊んでいた。

突然、彼女が私の袖を引っ張りだした。そしてそのまま、私を森の中へと引っ張っていった。

「え、何、どうしたの?」

大分奥まで引っ張って来ると彼女は突然立ち止まり、或る1点を指さした。・・・女の子が、倒れていた。
何故、此処で倒れたのだろう? 道に迷ったのか? 何にせよ、放っては置けない。



女の子を抱えて家に引き返した。・・・様子からして長い間雨に打たれた様だから、風邪かもしれない。
薬を飲ませて着替えさせると、少し落ち着いた。呼び鈴が鳴ったので、彼女に任せてその場を離れた。

玄関に行くと、奇抜な服装に身を包んだ――あれは尻尾、かしら?――女性が立っていた。

「すいません、この辺で女の子を見かけませんでしたか?」
「え・・・。ひょっとして、尻尾が2本生えた子ですか?」
「そ、そうです、その子です!ご存じなんですか!?今、何処に居るんですか!?」
「お、落ち着いて下さい、森で倒れていたので家に連れて帰って、今は寝かせていますから!」
「す、すいません。心配だったので、つい・・・。で、橙は無事なんですか?」
「大丈夫ですよ。一寸熱は有りますけど、明日には治ると思います。」
「有り難う御座います。遊びに行くと言ったっきり帰って来なくて、やっと人心地がつきました・・・。」
「所で・・・どちら様、でしょうか?」
「あ、あぁ。私は『八雲 藍』と言います。あの子・・・『橙』の主です。」
「そうなんですか、私は『東風谷 早苗』と言います。この間、幻想郷に越してきました。」
「ほう。」
「何分、未だ右も左も判らないもので・・・って、そんな話をしている場合では無いですね。」

その女性「八雲 藍」は「橙」を負ぶって帰っていった。私は、彼女とそれを見送った。

そう言えば、彼女には何故、あの子が倒れているのが判ったのだろう・・・?
気になって聞いてみたが、彼女自身良くは解っていない様で、感じるままに走ったとの事。
もしかしたら目が見えない分、そういう直感が鋭敏なのかもしれない。

次の日、あの女性「八雲 藍」とあの女の子「橙」、それからもう1人・・・。
あの女性以上に奇抜な服装に身を包み、傘を差した女性がやってきた。

「うちの式がお世話になった様ね。何なりとお礼を言って頂戴。」

女性は「八雲 藍」の主で「八雲 紫」と言うのだそうだ。橙を助けてくれた恩返しがしたい、との事。
そこで私は、自分はこの神社の巫女で信仰が得られずに困っている、何か良い方法は無いか、と訊ねた。

「そうね・・・。信仰の得易そうな妖怪の山に神社を移す、というのはどうかしら?」

と言っても神社を移す方法が無いのでは・・・?
「大丈夫よ。私の友人の鬼に頼むから。」

仮に移しても、妖怪の山は危ないんじゃ・・・。
「・・・そうだ、外の世界から来たなら、あの事も教えておかないとね。」

あの事?

「幻想郷の人妖には、或る取り決めが有ってね――」



それから、私達は「スペルカードルール」を教わった。そして、各々にスペルカードを作った。



数日後、鬼とやらの協力で神社を移す事になった。私達は彼女にお別れしなければならなくなったのだ。
彼女は、此処を離れる事が出来ないと言う。それに、妖怪の山は危険だ。連れてはいけない。



私は、長い間のお礼を払おうとした。無論、幻想郷のお金でだ。
そんな物で本当に良いのかとは思ったが、今の私達が渡せる物は、それ位しか無かったのだ。
けれど、彼女は微笑みながら首を振るだけで、それを受け取ろうとはしなかった。

確かに、これから先の事を考えると、お金は幾ら有っても困らないだろう。
でも、どうしても、彼女に受け取ってもらいたかった。彼女には、対価を受け取る資格が有る筈だ。

私がねじ込むようにしながら受け取って欲しいと懇願すると、一寸躊躇ったが、やっと彼女は受け取った。
お金を貰う事に慣れていないのか彼女ははにかんでいたが、とても、嬉しそうだった。可愛い笑顔だった。
私は、ああ、やっぱり無理にでも受け取って貰って良かった、と感じた。



それから更に何ヶ月かが過ぎた。
今年は幻想郷に来たり、博霊の巫女と魔法使いに敗れたり、様々な出来事があった・・・。

本殿から外へ出ると、雪が降っていた。此処に来て、初めて見た雪だった。
あの子も、この雪を何処かで、見ているのだろうか。



あの後、折に触れて何度もあの家を探したが、遂に見つける事が出来なかった。
当然、あの子にも出会えなかった。私は、あの子と再び逢う事を、諦めざるを得なかった。



私達を助けてくれた女の子。あの子は一体、何だったのだろう。今も元気でやっているだろうか。



心残りは、沢山有る。もっと話がしたかった。もっと色々教えたかった。もっと恩返しがしたかった。



・・・もっと友達で、居たかった。



私は、再び友達を失った。何時の間にか、私は泣いていた。

その涙は地面に落ちたが、後から降った雪に埋もれて、やがて、見えなくなった・・・。

END
舌の根も乾かない内に、またやってしまいました。今度は八坂一家です。

元々「何で外の世界の住人がスペルカードなんか持ってるんだろう?」という疑問が有りまして。
それを自分なりに妄想してみた訳です。所が、それ単体だと短すぎる上に、どうも物足りない。
じゃあどうしよう・・・と言うので思い付いたのが、前作の少女とのやり取りでした。
元々、もう一寸書きたいなー、とは思っていたので。

しかし、此処で問題が1つ。

少女・・・既に死んでます。しかも、怪綺談の直後に。当然、風神録のキャラとなんて逢わせられません。

その辻褄を合わせる為にあれこれと考え、最終的に「借りが有りすぎて三途の川を渡れず、転生して恩返し」
という無茶な話を追加しました。
早苗さんと少女のやり取りが、どうしても書きたかったので(その割に量は少ないですが・・・)。
この作品、今後もこの形で続くかもしれません。

それでは、こんな所まで読んで下さって、本当に有り難う御座いました。

P.S.タイトルは「ラート・デス・シックザールス」と読みます。ドイツ語で「運命の輪」の意です。
seirei
http://www12.tok2.com/home/seirei/
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コメント



0.260簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
×加奈子
○神奈子
2.60名前が無い程度の能力削除
終始淡々とした語り口で進むので、退屈な印象が。
山場だけでも盛り上がったり、結末が予想外のものだったりすれば……。

単語のチョイスは洒落た所も多々有ったので、良かったです。
次も期待しています。
3.無評価名前が無い程度の能力削除
>三途の川の渡し賃は、生前親しい人がその人の為に使ってきたお金の合計である。
>親しい人が少なければ一文無し、悪ければマイナスにもなる。

これ、明らかに嘘だと思うんですが……
明らかに間違っている知識で書かれた文章ほど薄っぺらいものはありません。
書かれるなら、もう少し調べてから書かれたほうがいいと思います。

ぶっちゃけ、三途の川を渡れないほど幼い子供が死んだら、三途の川を渡らずに賽の河原で石を積むのが普通じゃねえの?最終的に地蔵菩薩に救われるし
4.無評価名前が無い程度の能力削除
×英姫
○映姫
5.70三文字削除
最終的に少女が救われるところまで見たかったかなぁ・・・
三途の河を渡った後の映姫様とのやりとりとかも会ったらよかったかも。
6.10名前が無い程度の能力削除
いいお話なんですが…
もう少しまとめてからの方が良いかと。後書きで補間している感じがありますし。
7.80名前が無い程度の能力削除
あとがきを読んでから前作を見て納得した
早苗の台詞から察するにもう2度目の死を迎えてるのかな?
10.無評価seirei削除
作者です。読んで下さって有り難う御座います。
指摘された箇所訂正しました。単語登録しておけば良かった・・・。

>早苗の台詞から~
そう受け取られてしまいましたか。否、死んだ訳ではありません。
只「早苗さんには見えなくなった」だけで、ちゃんと存在しています。
元々「一度会ったキャラとは二度と会えない様にしよう」と思っていたので。
・・・でも「死んで転生した」の方が良いかもしれませんね。
12.70名前が無い程度の能力削除
重い病を持っていて、看病とかのために他の人がお金を使ったのなら本人にとっては渡し賃プラスになりそうな?幻想郷縁起には作中のように書いてあったけどこれはどうなんだろう…
少女の能力最後まで不明だったし一度会ったキャラとは~と言うことは続きがあるのかな。もしそうだったらちょっと楽しみ。