Coolier - 新生・東方創想話

境郷2 (2)

2008/02/13 08:42:30
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*というわけで『境郷2(1)』の続きとなります。
 (1)を読んでいないと状況がわけ分からないと思いますので、出来れば(1)あたりからお読みください。
 それと、(1)の冒頭にもありました通り、このお話は一部ないしそこそこの範囲で、
 作品集31の拙作『境郷』と舞台や人妖設定などがやんわりと共有されています。が、
 いちおう『2』だけでもそれなりに独立したお話として楽しめるようにはなっています。
 それから、ここからオリキャラ注意報が絶賛発令中です。
 ……というかアレですな、実際の所(1)だけだと『境郷』ではないような気もしなくはないとか。
 むしろ紅魔館の皆さんの日常、といった気分が強かった(1)ですが、
 ここらあたりからはいよいよ『境郷』のノリになって参りますので、ご注意(何を)。

 やっぱり結構無駄に長いですので、
 一度に読破なさる場合にはお茶かお茶菓子、もしくは両方をお手元に備えた上でお読みになると、
 割とのんびりちびちびと楽しめるかもしれなかったりします。

 では、どうぞ

































 境郷2 ~ The Border Land Story (2)






























人里離れた山奥の廃村、なんてものが現代に存在するのかと問われれば、
答えは必ずしも『否』とはならない。

確かに、この島国はいまやそのほとんどに至るまで人の手が入り、
極端な話、幻想郷のように結界でもこしらえなければ、
現実問題として隔離された空間などというものはあり得ない、と言ってもいいだろう。

だが、それでも、いくつかの条件が重なった上で、そういうものが存在する事は不可能ではない。


「……どうやら、面白い土産話になりそうね」


そんな僻地の山奥の道でただ一人呟いたのは、全身これナイフの収納箱。
時を駆けるメイドにして紅い館の侍従長、幻想郷の銃刀法違反者中唯一の全人間、十六夜咲夜その人である。

さて、主及びその妹君がそれぞれの想い人宅(若干の語弊あり)への数日に渡るお泊りと合わせ、
久方ぶりに『外』へと買出し及びお使いに出かけた彼女は、
偶然から新聞記事によって「どうやら妖怪の住む村があるらしい」程度の情報を入手したのであった。

既に用事も済み、時間的にかなりの余裕を得ていた咲夜嬢は、
割と馴染みの、日々トンボとカラスと超重量級の各種鈍器が跋扈する喫茶店でそれら情報を勘案し、
とりあえずそれっぽい場所へ行ってみる事と相成ったのである。


「にしても、確かにこれは……大結界があれば良い勝負かもね」


時刻は早朝。
あの後、珍しく、本当に珍しく時間を贅沢に使用するだけの余裕を得た咲夜は、
好奇心も手伝ってそこいらの交通機関と飛行を併用しつつ、
時刻表片手のサスペンス作家が筆を折りかねない程度の割とえげつない乗り継ぎを繰り返し、
結構なハイペースでここまでやって来ていた。

目の前には、一般道路から隠れるように、いやむしろ忘れられたかのように分岐し、
奥地へと伸びているのであろう、舗装もガタガタの道が存在している。

もっとも、それはあくまで咲夜の目に見えている光景に過ぎない。

視界の隅、もはや獣道に等しいそのかつて道路だったものの両側の木に貼り付けられた紙、
多少の馴染みないし心得のある者なら一見してそうと分かる、人除け及びまやかしの類のお札だった。


「そうね……一般人相手にはちょうど良いのかしら。
 でもこんなものがあるって事は、やっぱりこの奥、妖怪の村ってこと?」


いきなり剥がしたりするのもアレだったので、とりあえず近付いてお札を見てみる。
普段神社やなんかで比較的たびたび見ることのあるものと、表面の何かしらの術こそ多少違うようだが、
意図している方向が似ているであろう事は、札から発せられている独特の匂いで分かった。

しかも、紙の劣化度合いがさほどないことから察するに、割と最近に貼られたものであるらしい。
新しく貼られるようになったのか、それとも定期的に貼りかえられているのかは分からないが、
兎にも角にも、この先に何かがある事は確かか。


「んー……まあ、いいかしら。
 いきなり襲いかかられるってのは、いくらなんでもないでしょうし」


それにまあ、大概の妖怪なら襲ってきたところで大した事はないだろうと、
朝日に銀髪を揺らし、メイド長はそこにある『境界』を踏み越えて一歩二歩と歩いてみた。
札がその効力を発揮する領域内に入ってさらに進む、が、
大して何か変わったというわけではないようである。
強いて言うなら、そう―――


「匂うわね」


境界を越える前にはまるで感じられなかった波動を感じる。
波長こそ馴染みが薄いが感覚的にはとても馴染みのある、むしろ普段から周り中そればっかりの妖気の類。


「さてさて、鬼……はないかしら、蛇や蛍や鳥や蛙くらいは出て来そうね。
 …………と?」


何事か、立ち止まって後ろを向く。


「……気のせいかしら…………いや」


次第に近くなって来るそれを、今度は確実に捉えた。
こんな過疎もきわまる山奥で何を好きこのんでそんなものがやって来るのか、明らかなエンジン音。

曲がりくねった山間の、お世辞にも走り心地が良いとはいえない道路をのぼってきたそれが、
あちらとこちらの境目が見えるところに姿をあらわす段になると、
既にメイド長の姿は境界の内側、さらに木の葉で姿の隠れる梢の中にあった。
あのまま立ちっぱなしで姿を目撃されるとも思わないが、念のためである。


「物好きもいるのね、こんなところでドライブ……って」


呟こうとした続きを飲み込んだのは、或いは正解だったかもしれない。
境目の前を通り過ぎた軽自動車は、少し行ってから急に止まり、バックで分岐路の前に戻ってきたのである。
中で何がしかやり取りがあったのか、やや間を置いてからドアが開き、二つの人影――多分人影――が出てきた。


「ほら見ろ、やっぱりここだ」

「何が」

「だからさ、この先」

「何の」

「ほら、話したろ、例のアレだよ」

「ああ……何だ?」

「あーもうわからねえ奴だな!」

「……何よあれ」


出てきた人影、一方は横に大きく、一方は縦に長いそれは、やっぱり人だった。
その内縦に長いほう(便宜上タテと呼ぶことにした)は何やらしきりと境界の内側を指差し、
あれやこれやと隣に立つ横にでかい方(便宜上ヨコと呼ぶことにした)に言い続けている。

察するに、タテの方はどうやら境界のこちら側、札で作られたまやかしを透かして『視て』いるらしい。
なるほど、『外』の人間全部が駄目になっているわけではないようだが、
にしても隠れたのは正解だった。あのまま突っ立っていたら間違いなく目撃されていただろうし、
となればあの二人組がずかずかとこちらへ侵入してくる可能性すらあったわけだ。


「……あ、そうか」

「いいからついて来い! こっから先に行けるんだよ!」

「冗談はよせよ、どう見てもただの林だぞ」

「お前にゃ見えてないだけだっての……ってああ!」

「!? な、なんだよいきなり!」

「め……」

「め?」

「メイドさんがいたぁぁぁぁぁ!!!」

「…………は?」

「よし」


効果はばっちりだ。
時間停止を使ってほんの一瞬姿を見せてやっただけだったが、案の定タテの方が過剰に反応してくれた。


「お、おまえ、そりゃないだろ。
 いくら地方にいいメイド喫茶がないからって、こんな山奥で幻覚なんか見んでも……」

「馬鹿野郎!!
 あれはきっと失われた幻想に俺達を招待してくれるメイドさんなんだ!!
 おーい! メイドさぁぁーーん!!」

「あ、おい! バカかお前は!!」

「馬鹿ね」


ヨコの制止も聞かず、タテはだしだしと境界を踏み越えて入ってくる。
当然、木々の梢に姿を隠している咲夜に気付くはずもなく足元を通過し、
さらにその先へと進み、曲がり角らしいところを曲がって姿が見えなくなった。


「…………おーい?」

「…………大丈夫かしら、やっぱり」


ややあって、ヨコと咲夜が共にそれぞれの境遇と思考にふさわしい台詞を呟いた瞬間―――


「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!」

「わあああ!!??」

「!?」


入った時の三倍くらいの速度で、興奮のためか何のためか顔を真っ赤にしながらタテが戻ってきた。
叫びながらでもそれだけの速さが出るあたり、なかなか常人として侮れない。


「よっ、よっ、よっ、よよよよよよよよよよ」

「なっ、なっ、なっ、なななななんだよ!?」

「よ?」

「よっ、よっ、よう、ようか……(すー、はー)妖怪がっ!」

「…………は?」

「へえ」


無遠慮に踏み込まず、正解といった所だろうか。
予想外に凶暴っぽい連中がいるらしい。


「おまえなぁ、メイドさんの幻覚ならまだ同士として理解できなくはないけどさ、
 妖怪って、お前いつの人間だよ、平安? 江戸?」

「ば、馬鹿野郎!!
 ほんっとーに妖怪だったんだ!!
 こう……耳まで裂けた口でにたぁって笑って『食べてもいーの?』とか言われたんだぞ!?」

「あーわかったわかった。
 とりあえず戻ったらお前の好きなアレのDVDでも見ながら聞いてやるから、
 おとなしく帰ろう、な?」

「くっ、この期に及んでもまだ信じないのか!?
 もういい、こうなったら俺一人で妖怪退治だ!!」

「あ、おい!」


何気にリアリストらしいヨコの態度に痺れをきらせたタテは、
車の後部座席からなにやら黒光りするいびつな長い棒のようなものを取り出すと、
再び境界を越えて踏み込んできた。


「ふふふふふふ…………さあ、来い、妖怪めぇ……。
 この樹齢六百年とも言われる神社境内の文化財の枝を(無断)拝借して作った木刀で、
 おまえごとき一撃で退治してくれるわぁ……くくく」

「…………ぉーぃ?」

「……つくづく、馬鹿ね」


ちなみに立派な犯罪である。

が、当のタテは相方であるヨコの言葉などまったく聞こえていないどころか、
加えて構えなどまるっきり素人で、半人半霊の庭師の億分の一も様になっていない。

これでは、妖怪退治どころかネズミ退治だって無理そうだった。
いや、ネズミのほうが強敵か。黒白いのとか。


「まぁ、いいか」


聞こえないように呟きながら、時間を止めつつ木を移り、タテの後についていくことにした。


「にしても、あのセリフ、どこかで……」


と、疑問を抱いたのもつかの間、当初のポイントからは曲がり角になって見えなかったエリアに侵入。
さして待つこともなく、タテの行く先にはなにやら黒いもやもやしたものが出現した。


「まさか?」


ありすぎる思い当たりの節に、思わず呟いてしまった咲夜の視線の先、
黒っぽいもやもやとタテは少しの間をおいて対峙する。
その距離、ざっと3メートル。

踏み込んでタテが木刀(元天然記念物)を振り回せば余裕で届く間合い。
傍目にも気合たっぷり(=やけっぱち)のタテだったのだが、
それでも気圧されしているのはありありと分かり、事実、先に意志を発したのはもやもやの方だった。


「んー? またきたのー、こりないなぁ」

「う、ううう、うるさいっ!」

「……?」


しかし聞こえてきた声は咲夜の記憶にあるものとはやや異なり、
多分に幼さを、咲夜の知る彼女のそれが幼くないとは言わないが、
それよりもまださらに幼い、少女というよりもまだほんの子供の声。


「んー、まぁいっか。
 ……どうせ、ここからさきへいくんだったら、たべてもいいっていわれてるし」

「ひ……っ!!」


にかぁ、と黒いワタアメのごとき不可思議な領域に透けて見える紅い光が三つ。
二つは同じ高さに、同じ大きさで、もう一つはそれらよりやや下に、
沈みかけの三日月の、さながら大きく裂けた口の如く、ややいびつに、不気味に光る。
それを見たタテが思わず一歩、二歩と後ずさった。


「ねぇ……たべても、いいよね?」

「く、う、ぬ、む、う、お……っ!」


じりじり、迫るもやもや、下がるタテ。
木刀の先端はおろか全体ががくがくと震え、それは腕に、足に、全身に伝染していく。
あざ笑うように紅い光、特に三日月のそれはいっそうニィと吊りあがり、さらに近付いていった。


「じゃ、いっただきまー――――」

「おかきすぇあぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!!」

「しぇぱっ!?」

「……あら?」


ぬうと、もやもやがタテに触れるか触れないかといった瞬間、
奇声をあげたタテの振り回す木刀がもやもやの中心辺りをなぎ払い、何やらごつんとかごちんとかいう鈍い音がした。

だけでなく、次にもやもやだったものがあっさりと吹き飛ばされ、というか文字通り霧散し、
中からぼとり、べしと地面に落ちる小さな影。


「うぅー、いたいー、じみにいたいー」


予想通りなのかそうでないのか、咲夜の、顔見知りと言えなくもない妖怪を一回り強ほど幼くした感じの、
薄く赤みがかった金色の髪に紅い瞳、それとこればかりは季節柄か、黒いワンピースの小さな女の子。

しかしながら、ここまでの経緯でお察しのとおり、人間ではない少女が、
盛大にできた、むしろいっそウソ臭いくらいにでかいタンコブを涙目になっておさえていた。


「はっ………はは………」

「うー、うぅぅーー?」

「はは…………ふふはっ」

「…………はえ?」


そんな少女をしばらくじっと見ていたタテが、こらえかねたように、笑い出す。


「ふはっ、ふははっ、ふふふふははははは!
 どっ、どうだ妖怪めぇ! お、お、お、思い知ったかぁっ!!」

「むきゃっ!?」

「!?」


がつん、と、今度は先ほどよりもかなり重い音を立てて、少女の体が吹っ飛んだ。
不意打ちのようなそのタテの行動に思わず硬直してしまった咲夜の見ている先で、
タテは少女に歩み寄り、なおも木刀を振りかぶる。


「はははははははっ!! あっはっはっははははふふふはははは!!」

「ひっ、ぐっ、うぁぅっ! えぁっ、きゅっ、にゅぁっ!?」


がつん、ばしり、がつり、がつん、ごつん。
もともと形がいびつなためか、タテの振り回す木刀もどきはたびたび狙いをそれ、
しかし何度かに一度は確実に小さな体躯を容赦なく打ち据え、打ちのめす。


「…………」

「…………ぃは……ぅあっ……」

「はははっ……はぁっ、はぁっ、ははははぁっ……。
 ど、どうだ……思い知ったかっ……!」


咲夜は、動けなかった。
自分のとるべき行動を決めかねていた、というのもあったろう。

もとより、一対一の力関係でいえば、たいていの場合人間のそれは妖怪に遠く、及ばない。
ゆえに、妖怪は人間を襲い、たいていでない人間は持ち前の何かで、
たいていの人間は時と場合によっては持ち前だったり持ち前でない何かで、妖怪を退治する。

それからすれば、ある意味において、目の前の光景は正しい。だが―――


「…………」

「…………ぅ……ぁ」

「はっ…………ははっ…………」

「……違う」


ぐったりと、もはやうめく力もなくした妖怪少女の前で、尚も息荒く立つタテ。
それを見る咲夜の内に、名状しがたい、しかし確かに「何かが違う」という感覚が湧き上がった。
その違和感が何によるのか、考えようとした時、タテが手に持つ木刀を、大きく、大きく振りかぶる。


「に、人間様に逆らうからこうなるんだっ……!
 大人しく死んでしまえぇぇっ! 妖怪変化がッ!!!」

「―――――!!」


半ば以上、正気を失っているタテの目。
視界にそれを捉えた瞬間、咲夜は己のとるべき行動を見出した。

タネ無し手品が掌中に呼び出すは懐中時計、瞳に宿るは、鮮烈たる紅の光。
いま一方の手には剣呑たる刃を携え、咲夜は静かに宣言する。


「時よ―――」

「あっはははははははは―――」




                ――――――とまれ――――――




がつん。


「ははは―――――あ?」


目の前の地面を、木刀が穿っていた。


「あれ? おかしい―――」

「動くな」

「!?」


ぴたりと、首筋に冷たい感触。
それが何であるか、意識よりも体が先に反応してしまうほど、絶対たる鋼の意志。


「あ、あ………あぅぁっ」

「少々、おイタが過ぎたようね……。
 いくらこの子が妖怪だからと言っても、限度ってものがあるのよ?」

「な、何を……!」

「……動くなって言ったわよね?」

「はひっ!」


全身を硬直させるタテに刃を押し当てながらも、時計を持った片腕に抱く少女の状態を確認。
一見すると打ち身や打撲の類でひどく見えるが、骨も異常はないし、呼吸も正常。

まあ、この手の妖怪の体組織構造がどこまで人間に近いかはさておいて、
思ったよりもひどい怪我ではないようだった。


「さて、と。
 どうしたものかしらね……あなたはどうしたい?」

「ひ、あ? あっ、あうっ!? うへぁぅっ!?」


がすがす。
刃をそのままに、タテの膝を裏から蹴っ飛ばしてみた。

倒れて自分から刃に身を任せるのはやはり嫌なのか、必死でこらえる様は妙に滑稽に見える。
と、ふと、咲夜は己の行動が先刻までタテの行っていたそれと、
状況や本質といった面では違うかもしれないが、なんとなく似ているような気になった。

途端、何だか言いがたい不快感がざわざわとまといつき、蹴りが止まる。


「…………あ、あ?」

「…………行きなさい。
 けれど、振り返るのはやめておくこと。
 でないと、もっと怖いモノとご対面することになるわよ」

「は、は……ひ?」

「返事は」

「は、はははははいっ!!!」

「わかったらさっさと行く」

「は、はひきゃかややややあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!!」


脱兎。というには無様すぎるか。まだ竹林の兎のほうがそれなりに様になる逃げを打とう。

獲物もその場にほうり捨て、言葉通り振り返ることもなく、
まあ、あの状況下でそんな度胸のある人間もそうそういるわけはないだろうが、
タテは三倍以上の速度で去っていった。


「真っ赤に染められなかっただけ、感謝しなさい」


呟いてはみたものの、いまいちしっくりこないのは、
やはり途中まで傍観者だったためか、なんとなく嫌な自分に気づいてしまったためか。

遠くでエンジン音が急速に小さくなっていくのを聞きながら、
ともかくも、少女をよいしょと抱えなおし、逆の方向へ向き直る。


「この子が門番的な何かだと考えると、
 まあ普通に考えれば、この先が順路ってことになるのよね」


山あい、というよりむしろほぼ垂直になった谷間のさらに底といったほうが正しい。
樹相は濃く、そんな早朝だけではない理由で光も薄く、確かに妖怪の里の入り口といわれればそうとも言える。
そんな暗く深い行く先を眺めながら、咲夜は少女を抱きかかえたまま歩き出した。


「……何だか、嫌な感じね。
 誰かに見られてるみたいで落ち着かないわ」


周り中何がしかの妖気だらけなのでいまいちはっきりとはしないが、
確かに、森のそこここから視線を感じる。

一部にはあからさまな敵意が混じり、一方では興味津々な、
また一方ではなにやら舐めまわすような実に湿っぽい視線もあった。


「……ん?」


ふと、前方が明るくなってきた。

よく見回せば、先ほどまで左右両側に壁のごとく迫っていた崖も見えなくなり、
相変わらず木々は深いものの、比較的日差しの通る空間になってきている。
比例するように周りの視線が音をたてるように後ろ、今しがたやってきた暗く狭い谷の中へと退いていった。


「…………」


つい、立ち止まってしまう。

なんだか一日くらい前に同じところに来たような記憶がないでもない。
そう思わせるほど、目の前の光景は似ていた。

半ばを苔に覆われ、既に周辺の自然と一体化を試みつつある二本の石柱、
その間から小高い丘となっているらしい上方へ続く、
これまた人のロクに歩きもしないのであろう、草と苔に覆われた、石段。


「…………神社?」


先ほどから膨らみ続けた既視感に押し出されるようにして、呟く。

なんとも実に、参拝客が絶望的に少ないところまでご丁寧に似通った、
そんな存在が、この先にあるのがなんとなくわかってしまった。























石段は草と苔とその他で、歩いてのぼるにはいまいち不適切だった。
仕方ないので浮いてのぼる。

が、あまり高くのぼると今度はアーチのように頭上を取り囲む木に接触するため、
結局は速度、高度ともに抑え目の飛行となった。


「…………こんなに長かったかしら」


記憶の中にある石段はこれほどとんでもない長さではない。
場所が違うということもあろうが、おそらくは―――


「そうか、あの屋敷と同じ……」


視界にちらつくのは、そこいらの木という木にベタベタとやけくそ気味に貼りまくってある札札札また札時々縄その他。

感覚を狂わせているのか、それとも空間をいじっているのか、おそらくは両方だろうが、
右に下がったと思えば左に上がり、まっすぐ行けばすぐさま螺旋階段のように三回転捻りをさせられる。
どうも、つくった誰かの性格が現れているような、やたらとひねた弄り方だった。


「かといって、ショートカットをしようものなら、どうなるか分からないものね」


この手の迷路というのは、基本的に順路をまもっている限りそうそう厄介なことにはならない。
手順を飛ばすというのも可能ではあったが、それも一人であればの話。
今は怪我人(人じゃないけど)を抱えていることもあるし、あまり乱暴な真似は慎むことにした。


「あら……涼しくなった?」


時節柄、湿気が多いのはやむをえないが、どうもこの石段迷路に踏み込んでからというもの、
周りが明るく、それなりに陽射しがある割にはそれほど温度が高くない。

むしろ、先刻の入り口付近の方が蒸し暑いと感じるくらいかもしれなかった。
だが、それは気温ということよりも―――


「……近いわ」


はっきりと周囲に満ちつつある、霊妙たる空気。
石段迷路内にへたな雑霊や妖怪の類がいないことを考えると、ここもどこぞのアレ同じく、神域と言うべき空間らしい。

もっとも、向こうの神域は妖怪だの吸血鬼だの天狗だの鬼だのをはじめ、
人間以外の連中が昼夜問わず好き勝手に跋扈してる実に混沌なわけだが。


「ぅ……まぶし……」


急に、目の前が開けた。
そこそこ明るい石段迷路から来た目にもいっそう効く、『本物の』太陽の光だ。


「……なるほど、ね」


明るさに慣れてくるにつれ、そこが何であるか、じょじょに分かってきた。
若干ながら人の手が入っていないと言えなくもない石段が、二本の、そこそこに苔や草が掃除された石柱の間から伸びている。
石柱同士を繋ぐのは、真新しい注連縄。
霊妙な空気はそのままだが、石段迷路内に無駄遣いのごとく張り巡らされていた多種の結界も、今は後ろに通り過ぎていた。

石段を辿った視線の先には、先刻までわずかも見えなかった鳥居、割と新品ぽい。
けれども手間だったのか、朱が間に合っていないのか、表面は木目むき出しだった。


「到着、かしら……とと?」


先へ進もうと足を一歩出しかけて、止める。
いつの間にか足もとに、上を見ていた視線には映らぬほどの小さな背丈の少女。
淡いエメラルドの髪に、咲夜が懐に抱いた少女とおそろいのデザインらしい水色のワンピース。


「…………」

「……えーっと」

「…………(じーっ)」

「? …………ああ」


じっと、無言のまま見上げてくる視線が意図するところに思い当たった咲夜は、
半分大丈夫かしらと考えながら、黒いワンピースの少女をゆっくりと、起こさないように受け渡す。


「はい」

「……ありがとう」

「どういたしまして」


ひょいと、外見不相応な、或いはお姉さんぶって少しだけ無理をしているのかも知れないが、
黒いワンピースの少女を受け取ると、きゅっと抱えなおしてから器用にお辞儀をひとつ。
そのままふよふよと背中の羽根を動かしながら、浮かんで飛んで鳥居の向こうへ行ってしまった。


「……ついて来いってことかしら」


自問してみる。
でも、道に迷うのは妖精の所為なの、とか言うしなあと突っ立っていると、
ひょこりと今しがたの少女が石段の上から顔を覗かせた。

そこに咲夜が立ったままなのに安心したのか、にこりと笑って今度こそふよふよと行ってしまう。
迷わせるつもりどうこうはともかく、ついて来てとは言いたいらしい。


「まあ、そういうことなんでしょうね」


ゆっくりと石段を登る。
飛ばなかったのは、周りを警戒するためなのだろうが、
周囲を満たす霊妙な気の中ではそれもないに違いないから、
むしろ少しずつ自分の中に心構えをつくっておくためだったかもしれなかった。


「なんとまあ…………」


予想通り、というかむしろストライクゾーンをほぼど真ん中に決めてきた目の前のそれらを見て、思わず呟く。

なんだか人があんまり来そうにない、しかしあるかなしかの威厳と、
そこそこの存在感と、空っぽの賽銭箱で構成された神社が、そこにあった。




























「ずいぶんと寂れた神社ね」


古ぼけて見えるのだが、社殿や鳥居などの様子からすると、建てられてから、
あるいは建て直されてからそれほどの時間を経ているとは思い辛い。

しかしこの、無生物の癖に「客などこないさハハハン」とか諦観しきったような社殿ほかの寂れ具合は、
どうやら訪問者の少なさを如実に示していることになるのだろう。が、
神職に知り合いはいても特段心得(その知り合いに心得があるかというとまたちょっと疑問だが)のない咲夜にしても、
ここがそれなりに浄化された空間であるというのは理解できる。

にもかかわらず激しく過疎っているというのは、何故か。


「きっと、人の住んでるところから遠いのね。
 最近は神社を不便なとこに置くのが流行りなのかしら?」

「んー、そういうんじゃないんだけどね」

「だったら、意図的な人除け?
 神主が人間嫌いとか」

「いやいや、元からここにあったにはあったのよ。
 それにこういう神社っていうのは、多少遠い方が神秘性が出ていいって言うでしょ?」

「あらそう、初耳ね」

「あらそう。
 …………ところでさ」

「何かしら」

「いいかげん、こう……『いつから後ろにいたの?』とか『後ろから声をかけるなんて悪趣味ね』とか。
 もっと別のとるべきリアクションがあるんじゃない?」

「あらそう?」

「そうでしょ」

「そうね、それじゃあ…………」

「うんうん」


ゆっくりと、右手を真横に差し出し掲げる。
毎度おなじみタネ無し手品、ふと見たその手にスペルカード。

咲夜にとってはそこそこ長い、後ろの『彼女』にとってはそれこそそのまま一瞬の後、
あたりを埋め尽くしたのは銀刃の煌き。

鏡のごとく磨き上げられし数多の刃が指向するは、後ろに控えるフトドキ者。




            ――――幻在「クロックコープス」――――




「動くと、刺さるわよ。
 ああ、違うわね。刺さると動くわよ、かしら」

「……あー」

「あら、どうしたの?
 割とご注文どおりのリアクションのつもりなのだけど」

「いやー……これは、ちょぉっと優しくないかなー、なんて」

「あいにく、そういう説教は受けてないわねぇ」

「何よそれ」


背中と正面の会話を続ける両者。
ナイフの包囲の外と内、互いに口だけは活発に。


「だいたい、こんなたくさんのナイフ、何処に隠してたのよ」

「得意なのよ。タネ無し手品。
 ……で、どうする?」

「……あー、もうっ!」

「! 刺され!」


ずかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかっ!!

後ろでわずかな力の発動を感知した瞬間、凍結していたナイフをすべて解除。
平坦な地面を一瞬で金属の林に変える光景を、振り返った咲夜の視界は真正面で捕らえた、が、
そこにいるべき者はいない。


「……ま、まったくっ。
 危ないじゃないのよ。刺さったらどうするつもり!?」

「へえ、結構やるのね」


声はさらに右後方から。
いつの間に移動したのか、時間を止める咲夜でさえも知覚しきれなかった動きだった。

ただ、相手が反撃する様子もなく、特に殺気も感じられなかったので、
仕方なくスペルカードをしまいこみ、今度は比較的温和に、ゆっくりとそちらのほうを振り向く。
真新しい石畳のいたる隙間に熱烈な接吻をかましたナイフどもは、既に一つたりとてそこにはない。


「そりゃ、まあ、これくらいは何とか」

「できればそっちの手品のタネを教えてくれるかしら。
 今後の参考にするか……ら?」

「残念。
 これは結構な企業秘密なんで、簡単にはポロリしちゃうわけにもいかないんだなー、これが。
 ……って、あれ、どうしたのよ。
 わたしの顔に何かついてる?」

「あなた……いつの間にそんな芸当身につけたのかしら?
 いいえ、それ以前によくもまあ結界こえてついて来たわね」

「え、ちょ、ちょっとなんか目が怖いって。
 ていうかごめんなさい言ってることが結構意味不明なんだけど!?」


じりじり、不敵な笑みを浮かべて迫るメイド長におされるように、
膝上までの丈のズボンをはいた足が後退する。


「まあいいわ。
 五分の蟲にも一分の魂と二厘の言い分があると思うけど、
 とりあえず……」

「ちょ、な、何なにナニ!?
 ていうか待ってよ八割減の魂の上に言い分はさらに八割減!!
 そういう時は普通一寸法師にも500グラムの魂があるって言うところでしょ!?」


抵抗の声にいまひとつ説得力が感じられないのは何故だろうか。
ともあれ、わきわき、わきわき、怪しくそして妖しく動く手が恐怖を呼び起こし、
夏場らしい半袖の真っ白な開襟シャツを着た上半身は、守るように腕で己の体を抱く。

だが、むんず、と掴まれたのは、深い緑色の髪からぴょこんと飛び出た二本の触角。


「まあとりあえず洗いざらいぶちまけてもらいましょうかっていうかぶちまけろてめえ。
 いやむしろぶちまけさせて物騒な蛍っていうか蛍な物騒にしてやりやがりましょうかええ!?」

「あだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!???
 何っていうかそもそも何言いたいのかさっぱりなんですけどぁだだだだだだだだだ!?」

「さあ、言え! 言えー!!」

「人の話を聞けぇーーーーっ!!?? あだだだだだだだだだ!!!???」

「人じゃないだろうがぁーーーーっ!!」

「うわぁーーーーーーーーん!!!」


触角引っ張られ地獄は、その後十数分間にわたって続いた。
よくまあ抜けなかったものねと感心までされた。なんだかとても悔しい。くそう。
























「……で、理解した?」

「……まあ、おおむね」


神社の境内、まだそこそこに真新しい木のにおいが残る母屋の縁側。
先ほど触角を引っ張られた側と引っ張ったメイドが一緒になってお茶を飲んでいた。

引っ張られた側、咲夜的視点から言えば蟲妖怪少女ということになるのだが、
まだ感覚がおかしいのか、しきりと粗暴な振る舞いにさらされた触角をさすっている。

どこかからは『かこーん』とししおどしの音まで聞こえるような気がした。
まあ、多分幻聴だろう。こんな寂れた神社にそんな気のきいたものがあるはずもないし。


「結界のない理想郷、ねえ……」

「……信じてない?」

「いや、まあこうして実際にあるわけだし」


蒼い、梅雨の晴れ間の空を見上げる。
普段はさして気にしないが、咲夜は自分の、時間を操るという力の性質上、
空間という方面に対してもかなり鋭敏な感覚を持っている。

それゆえ、空間的にある種巨大な境界線に等しい大結界の存在は、
感じようと思えばいくらでも感覚として取得できるものだった。

だがここの空には、いくら知覚の枝を伸ばしてもそういった類の存在は感知できない。
あるとすれば、せいぜいが先刻通ってきた石段迷路などの、
地上からの侵入者に対して幻惑する程度のものでしかないようである。


「よくまあ、創ったものよね」


視線を空からおろし、ほぼ水平に滑らせて見ると、
境内の裏手方向に広がっている『郷』がある程度は見渡せた。
『外』では基本的にどこにでもあるはずの電柱や、山奥につきものの巨大な鉄塔の類は一切見当たらない。

道路は一部が舗装されているものの、多くは砂利道か石畳、でなければむき出しの砂地だ。

家屋も割と『外』では一般的な、やや古いものが並ぶが、
中にはちらほらと、明らかに出来合いの、そこらで材料を調達して造ったと思しき藁葺きのものもある。

自動車の類もあるにはあるが、動いているものは一台もなく、中には朽ち果てているものまであり、
せいぜい自転車が移動速度の上限といった程度だろう。

それら家々の集中する一角を囲い込むようにして田畑が広がり、緑が鮮やかに日の光を反射していた。

多少の相違点と結界のあるなしに目を瞑れば、或いは、幻想郷の人里と見間違えたかもしれない。
それほどにここの空気は、何から何までが近い。


「呆れるほど、似てるわね。
 ……一体いつからこんなものを創ってたの?」

「うーん……わたしが物心ついた頃にはもう住んでる連中がいたからなぁ。
 かれこれ何十年かにはなると思うけど?」

「…………」

「ん? 何か変なこと言った?」

「……いいえ、別に。
 ただ、洒落にしては随分と粘るわね、と思って」

「あー、まあ、確かにねぇ」


苦笑とも、微笑ともつかない不思議な笑いが浮かぶ。


「最初の頃は、わたしもそう思ったのよね。
 わざわざこんな山奥の、それも廃村になったところに荷物担いでやってきて、
 それでいきなり暮らしはじめたんだし」


ふい、と、外見年齢に不相応な、ひどく遠い眼差しをどこかへ向けた。


「今はね、こうやって結構のんびり出来るけど……あの頃は本当に大変だったなぁ」

「…………」


気楽そうに呟く。
けれど、咲夜はその中にとても重い何かを感じて、沈黙で返すことしか出来なかった。


「ね、知ってる?
 『外』のどこかには、ここよりもずっと大きくて、ずっと暮らしやすい理想郷があるんだって」

「……あらそう」

「でも、そこはとても高くて、とても堅い壁で覆われていて、
 世界の気まぐれか、トクベツな力がないとその中へ入る事は許されないんだってさ」

「……あらそう」

「そ。
 だから、そこへ行きたくても、世界の気まぐれに出会うことができなくて、
 これといってトクベツな力も持たない人間たちが、
 それじゃあって、自分たちでここに同じものを創ろうとしたの」

「……あらそう」


湯飲み片手に、割かし無表情に同じ答えを返し続ける咲夜。
それを見て何を得心したのか、今度はやさしく微笑んで少女は続ける。


「けど、そういうことを望んでいたのは、人間たちだけじゃなくて、妖怪にとっても同じことだった。
 わたし達みたいなのから、ほとんど獣同然になっちゃった連中みたいなのまでね。
 だから、最初の頃は無秩序もいいところで、
 逃げ出すか、でなかったら殺されたほうがマシかもってことも何度もあった」

「それは……人間が、ということかしら?」

「ううん、両方」

「両方?」

「だって、そうじゃない。
 わたし達はさ、人間たちがわたし達を忘れてしまったから、
 どんどん人の傍に住むことはできなくなってしまった。
 なのに、ようやくそれを思い出してくれた人達が、
 えいこらひいこらわたし達の方に近づいてきて、生きようって言ってるのを、
 今度は追い出そうとしたんだもの」


ばかよねー、と言いつつ、あくまで微笑みは崩れない。


「あなたも、追い出そうとした?」

「んー……わたしはどっちでもなかったかなぁ。
 やり直すには、人間はわたし達から離れすぎてたし、
 わたし達も、今更昔の関係に戻るには数が少なくなりすぎてたし、ね。
 どう転んだって、もう元には戻らないかなー、なんて思ってた」


今はそうじゃないけどね、と付け加えてから湯飲みのお茶を飲み干し、はふぅと一息。


「それは……見直したってことでいいのかしら」

「んー……なんていうかさ、必死だったのよ。
 ここはずっと昔に、あんまりに住み辛いってんで『外』と社会的? に切り離された土地で、
 人が、それも『外』で生きてた人間がほいほい入ってきて、
 今日からここで生活しよう、なんて楽にいく場所じゃとっくになくなってたの」

「でしょうね」


『外』の物質文化、文明と言い換えてもいいそれは、
幻想郷住まいが長くなった咲夜にも、いや、
或いは今のように『外』に時たま通う咲夜だからこそ分かる、魔性に等しい『利便性』を持っている。

とかく現代、あらゆる場所に広まったそれから離れて暮らすというのは、
たまの休みに人間が擬似的に作った自然との境界であるキャンプ場で、
蚊やその他の虫に追われつつバーベキューをするというわけにはいかないのだ。

そんな例えを続けながら、倍近い時間をかけてようやく空になった咲夜の湯飲みも受け取り、
自分のものとあわせてお代わりを注いでいく。


「ここも少しの妖怪が住むだけの場所になってたしね。
 で、今更のようにやってきて生活し始めた人間相手に、
 そんな妖怪のさらに一部はあれこれとやったわけ。
 ……はい、お茶」

「ありがとう」

「まあ、もとから結構古臭い連中が多かったからかな、
 さすがにほいほいと命を奪うほどやっちゃう奴はいなかったんだけど……」

「そうじゃないのもいた、と」

「まあね」


熱いお茶をずぞぞとすする妖怪少女。
それを横目に見ながら咲夜はちびちびと、しかし可能な限り瀟洒に自らの分を消費していく。


「何しろ、わたし達からすればほっとんど無防備なのよね、こういうところに住む人間ってのは。
 で、今や絶賛希少価値となっちゃったそういう人間が珍しくて、
 今度は妖怪がここらに萃まってくるようになったの」

「妖怪も?」

「あー、いや、珍しいってのはちょっと違うかな?
 なにせ街も田舎も、大半が妖怪の居場所ってのを亡くしちゃったからね。
 んー……そうそう、誰かが言ってたけど、ちょうど難民みたいにして妖怪も入ってくるようになって、
 まぁその中に、人間相手に怨み骨髄、ってのも少しだけどいたわけ」

「難民、か」

「難民っていうより難妖って感じだけどね。
 それで、ちょっともめちゃったのよ」


短く、おそらくはそれだけで到底済まされないものだっただろうことを、言い切った。
けれどともすれば、暗い、恨み言に近い言葉と裏腹に、いまだ顔には微笑が浮かんでいる。

そんな不思議な表情を見る咲夜の視線に気づき、今度は、にかっと心底愉快そうな笑みを返した。


「でもね、そこからがおかしかったの。
 そんなになったから、当然人間達はさっさと出て行くだろうって、わたしだって考えた。
 けどあいつらときたら、逆に意地になっちゃってさ、
 『絶対生き延びてやる』とか言い出すのまで出てきちゃって。
 なんかねー、みんな本気だったのよ、これが」

「本気……っていうと」

「あーゆーこと」


指差したのは、神社境内裏手の遥か彼方。
わりと霞んでしまうくらい遠い、人里の風景。
けれども確かにそこにある、過去から積み重ねられてきた時間の証明。


「単なる憧れでも、現実からの逃避でも、ほかのどんなものでもなくって、
 本当にただ『そうしたいから』そうするんだってこと。
 多分、わたし達が手を貸したりなんかしなくても、
 いつかは自分達の力だけで、きっとああいうものを作っちゃったに違いない、ってくらいのね」

「それでも、手伝ったんでしょう?」

「最初はね、割とほっとけないから手伝ってたんだって、そう思ってたのよ」


少女の顔には、晴れ晴れとした、爽快な笑いが顔一杯に広がっている。


「でも、多分、本当は羨ましかったんじゃないかなって。
 最近になってそう考えるようになったな」

「羨ましい?」

「だって悔しいじゃない。
 妖怪は襲うばっかりで、人間は襲われるばっかり。
 そんな風に殺伐としたところばっかりビッチリ境界線引いちゃってさ、
 けど気付いたら引っ付いた連中がいて、いつの間にか子供まで出来ちゃってたのよ?」

「こど……え!?」

「そ、子供。
 でもって妖怪と一緒に居たい人間と、人間と一緒に居たい妖怪がちらほら出てきて、
 お前らどこに住むんだよってみんなで言い争ってたら、人間の方がさっさと受け入れちゃったわけ」

「それは……本当に?」


まさか、と咲夜は思った。否、思いたかったというのがより正確だろうか。
基本的に一部例外の人間を除いて、大多数の人間は特殊者を尊敬することもあれば、
正反対に、積極的に、集団の中から特異性を排除する傾向が強いものである。

そしてその異種が、特に自分達、集団自身を脅かす可能性が高いほど、
排斥の動きが発生する可能性もまた、高い。

それが、妖怪との混血という、この郷のような環境化において加害者の代表に等しい存在との間の生まれとなれば、
いずれその子供に現れるであろう特質がなんであれ、
かつて、この島国の古き習慣がそうであったように『忌子』としての烙印が待ち受けているのは、
ある意味当然の帰結のはずだと、考えたからでもある。


「本当じゃなきゃ、わたしもここには多分居ないし、
 さっきのあの子達が見張り番まがいのことをする理由だってないと思うけど?」

「ああ、そう……そうね」


納得する心とともに、どこか、それに釈然としない、
言い換えればどうしてそんな簡単に受け入れたのかという、理不尽な怒りに似た感情が咲夜の心に湧いて、すぐに消えた。


「まあねー、ある意味猫の手っていうか、妖の手でも借りたいって状況だったし。
 今だってそういう子たちがいるおかげで、ずいぶん助かってるのも本当よ」

「そういうこと、ね……」

「そうそう。
 天気予報してくれたり、今年の刈り取りはいつがいいとか、いつごろまでには冬支度しないといけないとか、
 あのあたりには近寄っちゃだめだとか、色々とね」


もとより、人間の中に現れる『異能』は、突然変異であるよりも、
そのようにして『異能』の種との間に生まれた者にこそ多く備わる。

結果的にいえば、それら『異能』は加害者の力であると同時に、
やや皮肉ながら、回りまわって被害者たちをやがては助けることになる。


「……巫女とか、なんとかっていうのも、
 そういう中から出てくるのかしら」

「かもねー。
 今はまだちょっと混じり方がはっきり現れすぎててだめだろうけど、
 その内……そうだね、魂を入れる器の違いなんて問題じゃないって思えるくらいになったら、
 この神社にも巫女さんがいてくれるようになるかもね」

「……その内?
 それじゃあ、今この神社には巫女がいないの?」

「巫女は居ないけど、神主はいるよー?
 今はちょっと出かけてて、わたしが留守番してるだけ」


だから今はわたしが臨時の巫女さんなのだー。と実に暢気にのたまう。
その明るい顔を見て、視線を転じて郷を見て、咲夜はかすかな声で、自問した。


「……あそこも、そうだったのかしら」

「ん?」

「……なんでもないわ」


あるいは、ここは過去だと言われれば、信じてしまっていたかもしれない。
……過去?


「……?」


何かがかすかに、ひっかかる。

けれど、手繰るにはそのひっかかりは弱すぎて、気づいた次の瞬間には消え去ってしまっていた。
時間を操るメイドなれど、己が内の時間まではなかなか自由にならない。
そのことを少しだけ悔やんだ。


「……まあ、必要があればその内思い出すわよね」

「んよ?」

「なんでもないわよ」

「そう? ……変なの」


お互い、特別何かがどうというわけではないのに、落ち着いている。
違うようで似ていて、それでもやっぱり少し違う、そんな空気を感じながら、
咲夜はもう少し、土産話を萃めて帰ろうと思った。































今や、この島国の、ちょっと都会を離れたところにはたいがい存在する道の駅。
そこに停まっている一台の中古軽自動車の脇で、二人の会話がやや一方的に展開していた。


「だーかーらー! 何度も言ってるだろ!?
 妖怪もいたし、メイドさんにも会ったんだってばよー!」

「って言われてもなぁ……俺にゃお前が林の中に突っ込んでって、
 叫んで飛び出してきたのが2回ってだけだしよー」

「だからっ!! 一度目は妖怪で二度目は妖怪とメイドさんだったんだってばさー!!
 あーもう、なんでわからんかなお前はー!!?」

「いきなり逆ギレですか!?
 休日の朝っぱらから人叩き起こしてアッシーさせたかと思ったら何?
 妖怪の居る村に行くから運転しろってそりゃーないよ?
 ガソリン代くらい出せっての!」


そう、タテとヨコである。
先刻、メイド長に丁重に追い返され叩き出されたタテの勢いに押されるままかの場所を離脱した二人は、
そのまま山を降り、最寄の道の駅で休息(デブリーフィング:タテ談)を行っていた。

もっとも、炭酸飲料のペットボトル片手に激しく主張しているのはタテのみであり、
ヨコの方はといえば屋台で売っていたお好み焼き(250円、肉玉そば入り)を食べつつ最低限の不平を返すにとどまっている。


「ほんとに惜しかったんだってばさー!
 やっぱアレだな、出来合いの木刀なんかじゃなくて、もっとアレなのが要るよ!?
 どっかの骨董市でポン刀でも探すかなぁ……」

「いーかげんにしとけよお前。
 ……危険物振り回し始めたら、マジで縁切るぞ?」

「いや、やっぱ霊刀とかいうんじゃないと駄目っぽいよな。
 だとするとどっかの博覧会かなんかに展示されてるのがいいのか?
 あ、そういやこないだ隣の県の美術館でやってたな……うっ、ゴホゲハガハッ!」

「やめとけって、ほんと」


炭酸をむせつつ自分の思考に沈んでいくタテをかなり呆れた目で見ながら、
ヨコは食い終わったお好み焼きの容器をゴミ箱に向けて投げる。外れた。
煩わしそうに落ちた容器と割り箸を拾いながら、さらなる愚痴をもらす。


「だいたい、世紀末は90年先か、でなかったら10年前の話なんだぜ。
 いまさら妖怪だの何だのって、流行も何もあったもんじゃないよまったく……」

「失礼、少しいいかな?」

「あ、はい? ……ぅ!」


と、後ろからかけられた低い声に振り返ったヨコが、ぎょっとして半歩下がった。
視線の先にいたのは、やや小柄な、季節はずれの黒スーツに身を包んだ男。

それだけならばいい。
見かけ重量が3桁を軽く越えるヨコの足を後退させたのは、何よりその顔だった。

どんな病気や怪我をどれだけこじらせたり変な治り方をすればそうなるのだろうか、
皮膚はいびつにねじれ、肉色の傷跡は触れたら張り付いてきそうな薄気味悪さをたたえている。
一度あったら忘れられない顔ってのはこういうものかと、ヨコは漠然と思った。


「先ほどからなかなか面白い話をしていたようなので、失礼とは思ったが立ち聞きさせてもらっていたのだ。
 よければだが……もう少し詳しく話してはくれないだろうか?」

「あ、えー……」


やたら低い声とあいまった有無を言わせぬ迫力に押され、ヨコは愛想笑いを浮かべつつ視線をさまよわせる。
ぐるりと動かした視線がタテのそれと合う。
つばを飲み込む音が、ひどく遠くで聞こえた。

突然の来訪者に、タテもまた反応の選択をし損ね、呆けたように口をパクパクさせている。
二人の反応にこれといった情緒的反応を示すでもなく、
スーツの男はふと何かに気付いたように、ごく自然な動作で懐から紙片を取り出し、差し出した。


「ああ、失礼……自己紹介が遅れてしまったな。
 私はこういうものでね……」

「あ、はい、はい……!」


あわてて容器をゴミ箱に放り投げ、名刺を受け取るヨコ。

いつの間についたのか、ソースまみれの指で受け取ったその小さな紙に書かれた文字を見、
男を見、文字を見、再び男を見て、ヨコはなんと言うべきか、またも迷った。

顔同様、男の名前らしきその文字列は、珍妙で、初見でまっとうに読める人間などいるのかと疑ってしまう。

おそらく本人承知の上であり、間違えて読んだところでどうということはないのだろうが、
それでもなお、慇懃な態度と特異な顔面とによって構成されるこの男の異様な気配に圧され、
ヨコは我知らず、言葉を選ばねばならなかった。


(いるかどうかも分からん妖怪なんかより、人間のほうがよっぽど恐ろしいよなぁ……)


ぼんやりとそう感想をまとめたヨコの足元、乾いたアスファルトの上で、
再びゴミ箱への身投げを失敗した割り箸にアリが数匹、まとわりついていた。



夏の暑い一日は、まだ始まったばかりである。



































「あ、戻って来た」

「え?」


妖怪少女の言葉につられて周囲を見渡してみるものの、
自分と目の前の二人以外、メイド長の眼に人間らしきものは映らない。


「……誰もいないけど」

「あーうん、今裏手の石段上ってるとこだからねー」

「あ、そう」


見えないはずである。
とすれば、この妖怪少女の知覚はそんなところまで及んでいるのか。
あるいは、前もって何らかの感知網を敷いているのかもしれない。


「ん……およ、立ち止まった。
 多分あなたに気付いたんだろうねー、あ、なんか考えてる」

「……本当は見えてるんじゃないの?」

「まー、見えてるといえなくもないかな、これは。
 ……あ、考えるのやめた。そのまま上ってくるわ」


こつ、こつ、と、石段を歩む音が徐々に聞こえてくるようになった頃、
4本の視線が集中する一角、社殿の裏手、つまりは里の方向になだらかに下る斜面に、人影が見えた。


「あれが神主?」

「そ、頑固で真面目で堅物で、まあ神職としては妥当なとこだけど、
 ちょっと面白みにかける、そんな感じ」


まだそこそこの距離があるものの、一見して壮年前後程度に見える男、神主というにはちょうどいい年齢に思えた。
だが目視できない距離から、意図的に発しているわけではないとはいえメイド長の存在を感知するほどである。

この距離になっても特に何らかの力を感じることはできないが、しかし神職というからには大なり小なり心得もあるだろう。
見た感じで年齢その他を推し量るのもやや不適切な気がした。


「おーい、こっちこっちー」


ぶんぶんと、妖怪少女の振る手に特別応えるわけでもなく、視野に入ってきたときと同じ歩調を崩さず近づいてくる。
やがて互いに普通に話ができるほどの距離になった頃、足を止めた。

ごくごくありふれた、青と黒との境界をやや判じ辛い袴姿。
護身用かそれともその他用か、腰には短い棒を一本差している。


「おかえりー」

「…………」

「…………」


やや肉付きは悪いかもしれないが、引き締まった体躯に鋭い面差しの『神主』は、
数秒ほど縁側で一見のほほんとお茶している妖怪少女とメイド長を交互に見比べた後、
ひとつ小さなため息をついてから、抑揚のない声で聞いてきた。

言葉に絡むのは、若干の警戒の意思。


「珍しいな、客人か?」

「んー、ま、そんなとこかな」

「……どうも」


手元に湯のみ、しかも縁側に腰掛けたままだったので、軽く会釈をする程度にとどめる。


「……そうか」


特に何を問うでもなく、割と納得したように母屋の奥に消えていった。
寸前までの警戒は、すでにない。
咲夜自身に直接の面識はないものの、その立ち居振る舞いには、隠棲したというあの庭師の師匠に通じるような気がした。


「留守番、助かった。……そろそろ戻ってやるといい」

「帰ってきていきなりそれ? 何があったー、とか、外の人間入れるなんて何考えてんだーとか、
 あれこれいろいろと聞くことあるんじゃないの?」

「もう聞いた」

「客人か? ってそれだけでしょー」


妖怪少女の不平不満(?)にさして感動的リアクションを起こすでもなく、
神主なる男は縁側に続く部屋に腰を下ろし、文机に御札らしき分厚い紙の束を置いた。
が、次の瞬間には座ったまま咲夜の方を向き、突然頭を下げる。


「郷で聞いた、ということだ。
 番役の子を助けてくれたそうだな、代わって礼を申し上げる」

「あ、いえ、あれは……」


途中まで傍観していたし、そもそもあの木刀野郎をこっち側に引っ張り込んだのは自分だし、と、
あれこれ言おうとする咲夜を手で遮り、神主が続ける。


「経緯がどうあれ、助けたことは事実でありましょう。
 なに、あの子らもその程度のことを根に持つような性根はしておりません。
 それどころか、郷で自慢話の種にしておりました」

「それは、どうも……?」


すこし予想外の反応に、戸惑いながらも返す。
神主というよりはどっちかって言うとお侍さんっぽいかなぁと咲夜が思っていると、
横合いから妖怪少女が何やら驚いたように割り込んできた。


「うわぁ……どしたの?
 いつになく過剰なリップサービス……何か悪いものでも食べた?」

「礼を述べるのに、言葉などいくらあっても足りはせん」

「って、わたしが何かしてあげてもそんなに感謝してくれたことないよねー」

「して欲しいのか?」

「……やっぱ遠慮しとく。なんか気味悪いし」

「だったら言うな」


ただ、どうやら堅そうに見えて実際そうでもないのだろう。この神主は。
身近で例を探すとすれば、気質的には図書館長や主が同類になるのかもしれない。
なんだかんだで割とほほえましい二人のやり取りに、自然と咲夜の頬が緩んだ。


「……ん? ということは、もう郷で話題になってんの?」

「かなりな」

「ちなみにどんな具合?」

「『銀髪のかっこいいおねーさんにさっそうと助けられちゃったのー』だそうだ」

「うわ、棒読みは怖いよ……だってさ」

「え、えーと?」

「厚かましいお願いとは思いますが、よければ行ってやって下さらないだろうか。
 貴女さえそのつもりであれば、郷の者は一夜なりと、もてなしたいとも言っておりました」


少し、というかかなり予想外の展開になってきた。
慣れぬ事態に普段の瀟洒さをどこかに置き忘れてきた咲夜が「えーと」などと迷っていると、
少女の方から補足説明が入る。


「郷の中ならまだしも、外から来た人間が人間と妖怪天秤にかけて妖怪選ぶっていうのが、
 多分、珍しかったんじゃないかな?
 まぁ、そういうの抜きにしても外から入ってくる人間が珍しいってのは本当だけどね」

「あぁ……」


すっかり忘れていた。
『外』というのは、いや無論、彼女が普段暮らす幻想郷にしてもその理は変わらない。

とはいえ、普段彼女が接する人間と人間以外の関係がそういう部分をあまり持たないだけに、
妖怪と人間との元々の関わりというものがそういうものであったのを思い出した。


「で、どうする?」

「……それじゃあ、お言葉に甘えさせていただこうかしら」

「ありがたい。郷の者たちも喜ぶでしょう」

「それじゃ、早速行こうか?」

「ええ、案内はよろしくね」


ここに至ってようやく中身を消費し終えた湯飲みを置いて立ち上がる。


「あ、ちょっと待って」

「? どうしたの?」


何かを思い出したのか、妖怪少女が神主のほうに向き直る。


「あの二人、結局どうなったの?」

「…………」


咲夜には趣旨の見えぬ問いかけに、神主は御札らしき紙を整理しようとしていた手を止め、
心持ち目を伏せた。


「結局、助からなかった」

「……そっか」

「夏とはいえ、ここは結構な高地だ。夜間や朝方ともなれば相当に冷える。
 日帰り予定の登山で食料も防寒具もろくに持っていなかったことに加えて、あの高齢だ。
 二日も持ったのが不思議なほどだと、先生は言っていたがな」

「……それじゃ、お通夜は今夜?」

「ああ。
 外に返すかどうかという判断も含めて、今夜あらためて話し合いをすることになっている」

「…………」


二人、日帰り予定の登山、それは……


「ん、あーごめんね、いきなりしんみりしちゃって」

「それ……山登りで行方不明になったご夫婦のこと?」

「……!」

「……なんで、知ってるの?」

「え、それは、新聞で……」


その一言で、空気の色が変わった気がした。


「申し訳ないのだが、その話……詳しく聞かせてもらえるだろうか」


神主が縁側まで出てきてそう言った。
その顔には、先ほど咲夜と対面したばかりの時の、数倍以上の緊張が走っている。


「……そうですわね。
 お話しておいた方が、良いかもしれませんわ」

「そうしてくれると、助かるかな。
 ね?」

「……ああ」


郷に行くのは、もう少し先になりそうだった。



























 境郷2 ~ Perfect Maid in The Border Land “Chapter_2” end

 and to be continued ...
第2話です。サブタイトル? そんなものはない!

で、第2話読破時点での進行度 81/244KB
はい、まだ3分の一です。容量的に。
このお話は47KB、これだけでも軽く平均的な話にはなる分量かも。

いよいよお話の舞台が幻想郷じゃなくなりますので、
そういうのにアレルギー症状やらなにやらが出る方は、服用を止めた方が良いかもしれません。


さてさて、20ヶ月も前の作品タイトルを持ち出して続編とヌかしているわけですが、
実際、このお話の基盤自体は前作投稿直後、つまり20ヶ月前にあらかた出来てました。

まあ、要するにです。制作期間も20ヶ月だと(汗
いや、勿論作業時間自体はそんなこと無いですが。

そんなわけでして、最近書いた後ろの3割くらいをのぞくと、
風神録以前だったり、下手すると求聞史紀より前に書いた部分になってしまうわけです。
…とはいうものの、舞台が幻想郷の外なんで、
公式設定うんぬんは致命的な食い違いでもない限りはほったらかしにしてますが。

では、残り4話ほど、気長にお付き合いいただければ幸いです。


以下、ツッコまれるかもしれない事柄に対する先手フォローMk2。

色々あると思いますが、鳥目になっていただければ(ぉ
とりあえず、メインキャラクターの妖怪少女についてですが、前作から引き続きの登場です。
見た感じはリグルきゅんそっくりです。という設定らしいですので(ぇ
あとはまぁ、点数つけるのがアレならフリーレスででも聞いていただければ。
某の中将
[email protected]
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