Coolier - 新生・東方創想話

空に咲く華 前編

2007/12/24 08:01:52
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 「いやぁ、今年も寒いな霊夢。年寄りには響くだろ、なぁ」
 「アンタは幾つになっても元気だね。全く……わたしゃ布団から出れもしないってぇのに」

 「だから素直に人間捨てろって言ったんだ。今からでも遅くないんじゃあないか? 何せホラ、便利なのが沢山い
るだろうに。吸血鬼の僕になるも良し、紫に境界弄られるも良し、永琳に頼むも良し、いっそ幽々子に殺して貰うっ
てのはどうだ。冥界とか、お前みたいな人間にゃピッタリだと思うんだがね」

 「御免被る……ね。人間として生きたんだから、人間として死なせなさい」
 「ま、そうでなきゃこんなヨボヨボになるまで人間やってないわな」
 「……もう、向こう側が、見える」
 「――そうかそうか。ご苦労さんだったな。長い付き合いだった」
 「……たのし、かったわね……」

 「……ああ。そうさ。そうだよ。霊夢。私は楽しかった。他の皆だって楽しかったさ。お前が一番良く知ってるだ
ろう、変人。紅魔館の奴等も白玉楼の奴等も永遠亭の奴等も守矢神社の奴等も。アリスも萃香も幽香も私も、皆楽し
かったぜ。お前のお陰さ。お前の。お前は、幻想郷でも、とびっきりの変人だったからな。観てて、飽きないんだよ」

 「――」

 「なぁ。覚えてるか霊夢。お前に初めて出会った時の事。お前の所に何度も遊びに来た事。お前にお見舞いに来て
もらった事。お前に弾幕習った時の事。私はな、全部全部覚えてるぜ。忘れるもんか。お前が忘れちまっただろう記
憶だって、全部」

 「――」

 「……なぁ。頷けよ。笑えよ。馬鹿だなって言えよ。私は、お前に出会った時から、ずっと馬鹿なんだ。お前に罵
ってもらわなきゃあ、誰が突っ込むんだよ」

 「――」
 「……あら、一足遅かったかしら」
 「……ああ、お前等か。ちょっとばっかし、遅かったぜ畜生」

 皺の深く刻まれた手を握り締め、魔理沙は俯いたままそう言う。集まってきた人妖その他は皆一様にして、その光
景を見守るだけであった。皆の胸中にあるものは、この化け物じみた強さのある巫女が暴れた記憶。悉く自分の起す
問題を解決しやがる、不愉快で楽しい記憶だ。

 この博麗霊夢は、本当に、変な奴であった。つかみ所が無くて、無駄に強くて、話を聞かなくて、訳が解らない。
それでもこの人間と一緒にいれば、決して飽きる事なんてなかった。永い時の中を生きる者達にとって、これほどま
でに有り難い暇潰しなどなかったのだ。ちょいと吹っかければ、直ぐに弾幕りあってくれる。生命を散らすようなそ
の必死さのある、余裕を装った弾幕は、皆の空腹感を満たすのに、実にうってつけであった。

 「本当に、年寄りになっても口の減らない巫女だったわ。ああ、結局何戦何勝何敗何分けだったかしら」
 「幽香か。そもそもお前、こいつに勝ったことあったっけ」
 「失礼な。最強妖怪になんて物言いよ」
 「そうだなぁ。最強は霊夢だったが、今亡くなっちまったしな。つまり、私が最強だな」
 「ほほう。じゃあいいわ、表に出なさいよ。どっちが最強か、決めようじゃない」

 涙を振り払い、魔理沙が笑顔で立ち上がる。他の皆もそれに対して諌めるでも無く、大したリアクションも見せは
しない。魔理沙は兎も角として、皆人の死などもう見飽きるほど見てきたのだ。ただ、巫女が亡くなった事が口惜し
いだけの事。幽香と魔理沙の二人は表へ出て行き、他の者達は皆、一人ずつ霊夢に挨拶をして行った。

 「さぁさぁ、私のマスパで消し炭にしてやらぁ」
 「パクリ魔が良く言う。元祖無くして貴女無しと知るがいいわ」

 二人が博麗神社の境内から飛び上がる。結局不器用な奴等に出来る弔いといえば――

 「いくぞぉぉぉッ」
 「貴女の葬式も一緒に出してやるわよっ!!」

 空に弾幕を華を。巫女が愛した幻想郷に、花を添えてやるぐらいの事である。




 ――――――――――――――――――――――終わりの境界線――――――――――――――――――





 一、童祭





 日は低く、強い。辺りは銀世界に包まれており、空を見上げるまでも無く、ただただ眩しい。幻想郷の白と空の青
がなすコントラストを何となしに楽しく想い、博麗霊夢は縁側から外へと出た。踏みしめた新雪の感触が面白く、何
度も何度も同じように足踏みをする。母屋を抜けて境内に出ると、そこは何もかもが埋まっていて、何時もの景色と
は異なる。木々も雪の花を咲かせ、手水屋は霊夢の手の力では割れないほど厚い氷を張っている。

 「――最悪っ」

 幼い声が幻想郷に響き渡る。やっぱり冬は最悪であった。この目も当てられない状況を、一人でどうしろというの
か。雪かきなどしたら、齢十歳にして慢性腰痛持ちになってしまいそうである。霊夢はぶつぶつと幻想郷の立地に文
句を垂れ、スコップを持って拝殿の前に立つ。愚痴っても仕方が無い。やるしかないのである。

 「ぬくっ……しょっ……んぐっ……しょ……」

 全部雪かきなど無理。ではせめて大事な賽銭箱に続く鳥居までの範囲をなんとかしてやろう、と覚悟を決めたのは
良かったが、覚悟だけでは世の中どうにもならない現実を雪に教わる。数回かいただけで手がだるい。腰が痛い。鼻
が冷たくて、嫌になる。

 「めんどくさい……」

 結局また愚痴り、スコップを放り投げて母屋に戻った。さっさとお湯を沸かし、一人茶を啜る。

 「ぁー……誰か手伝ってくれないかしらぁ……」

 そんな希望を口に出しても変わりはしないのだが、そうせずにはいられなかった。博麗神社には自分一人であるし、
こんな重労働を面白がってやるような友人もいない。というか寧ろ友人が居ない。参拝客も大して居らず、本当にど
うしようもなく、閑散とした神社である。それなら別に雪かきしなくてもいいんじゃないのよさと、性根に染み付く
サボり根性が発揮されるのであった。

 「でもする事ないし」

 する事は大してない。一ヶ月に一度くれば良い感じのお祓い志願者とてこんな里から外れた神社には来ないであろ
うし、暇潰しに作っていたお守りはもう箱からこれでもかと云う程に溢れ出ている。年末年始となればそれなりの参
拝客も観込まれるが、まだ十二月初頭。兎に角どうしようもなく、子供一人で潰すには長すぎる暇を持て余す。

 「やるしかないか」

 温くなったお茶を平らげ、また境内へと飛び出す。今日も博麗霊夢は暇であった。

 「んしょ……んっ……んぐっ……しょ……」

 この神社に何時から居るか、などと云う記憶はない。気が付いた時には居たし、自分は博麗霊夢であった。ここに
住んでいる事が義務であり、ここで生きて行く事が仕事。あまり難しく考えたりはしない。答えの出ない問題である
と、幼心に思っていた。でしゃばる妖怪の頭をひっ叩く程度の能力を遺憾なく発揮し、縁側でお茶を啜る。幼いなが
らかなり冷めていると、自分でも感じている。深い好奇心は無く、ただあるままを見、あるままを感じ、あるままに
空を飛び、あるままに判断する。しかしながらこの生活。苦では無いが、些か暇である。

 「……あー……」

 またしてもスコップをぶん投げ、疲れた腕をぐるぐる回す。空を見上げて、あんぐりと口をあけたまま、止まる。
寒い。疲れる。暇。酷い三重奏が霊夢を苦しめる。あるままにしたってこりゃないよと、何処に居るかも知れない己
が両親に文句を言ってみた。虚しいので撤回する。

 「面白い事、降ってこないかしら」

 両手を天に翳す。大概の場合、勿論降ってなど来る筈もない。暇を持て余した童子の児戯の如し。夢を観るのもま
た童子の特権か。冷めた霊夢がそんな事を口走ったりするのであるから、その暇さ加減は計り知れない。

 「なーんて、ね」

 腕を下ろし、スコップを手に取る。今日はお終い。どうせまた明日には雪が降る。積雪四十センチを越えてから改
めて考えよう。そう思って境内に背中を向けると。

 「れたすっ!!」

 ――何か降って来たのである。その物体は『れたすっ』と鳴く類の生物らしく、その落下して来た物は恐らく妖怪
だとして、霊夢は無視を決め込んだ。暇潰しにはなるかもしれないが、妖怪はどうにもこうにも、扱い難くてたまら
ない。それ以前にあまり人付き合いも得意ではない。つまりコミュニケーションは拒否したいのである。

 「痛っつ……ちょおいっとそこのおじょーさんっ」

 落下物が叫ぶ。口調は幼い。でも振り向きたくなかった。妙にテンションが高いのである。この手はコミュニケー
ションを避けたい部類だ。

 「……」
 「この霧雨魔理沙がカレイに着地したってーのに、ずいぶんと冷たい反応じゃあないか」
 「え、だって面倒くさそうだし……」
 「むっ……里にはいないタイプのガキだな」
 「同い年ぐらいでしょ」
 「里のおねーさんったら、私か上白沢じょしぐらいなものだぜ」
 「そーかそーか。ほな」

 背中を向けたまま挨拶。ただ五月蝿いだけならまだしも、電波では付き合いきれない。ぎゃあわぁと喚きたてる黒
白物体キリサメマリサを完全ガン無視と決め込み、霊夢はさっさと母屋へ引き返そうと思ったが、残念ながら黒白は
それを許してはくれないらしい。非常に面倒だったが、仕方なく顔を付き合わせる。

 「外人?」
 「純日本人だぜ」

 小生意気そうな顔立ちに金髪。白黒の魔女服を着て箒を持った、東洋の魔女であった。年頃は霊夢と変わらず幼い
が、その様相に表情は霊夢の三倍落ち着きがなさそうである。

 「私、空とべるんだぜ」
 「ふぅん」

 「む。なんだなんだ。『うぉーすげー』とか『きゃーかっこいいー』とか『明日から毎朝私の味噌汁を作ってくれ』
とか、無いのか?」

 「無いわよ。空なんて飛べて当たり前でしょうに」
 「当たり前で小児って。そうか、小児は全部空飛べるって……とべるわけないだろ?」
 「頭良いんだか悪いんだか」
 「物覚えは良い方だってオヤジはほめてくれるぜ」
 「ふぅん」
 「ふむ? お前、空とべるのか?」
 「だから飛べるわよ」
 「最近の巫女さんはベンリなんだな」
 「ほら」

 どうやら体感的なものでしか対話が成り立たない人間らしい、と判断する。そろそろ会話を切り上げてお茶を飲み
たかった霊夢は、黒白の前で浮いてみせる。それをどう受け取ったのか、黒白は目をまんまるくして、何やら興奮し
ていた。

 「明日から毎朝私の味噌汁を作ってくれ」
 「やぁよ」
 「シツレンだぜ……」

 やはり面倒な奴だった。

 「しかし、なんだ? ほうきもなしに浮けるのか? ばい体を必要としないで空を飛べるなんて、魔女か妖怪みた
いだな」

 「浮けるもんは浮けるし飛べるもんは飛べるのよ。アンタこそ人間なの?」
 「霧雨道具店のごそくじょになんて言いぐさだ」
 「最近は妖怪も里にいるし」
 「そうだ。りん之助にーちゃんも半妖だった」
 「じゃ」
 「おうっ! じゃーなっ!!」

 なんとか納得したらしく、黒白は箒に跨って空の彼方へと飛んでいった。異常に速い辺り、魔力を十分に扱えてい
ない節が見受けられる。まだまだねと霊夢は笑って、漸く母屋へと引き返す。草鞋と手袋を縁側に投げて、すぐさま
掘り炬燵内に避難する。まるで天国と地獄のような落差に、霊夢はそのまま天板に顔をつけて垂れた。

 今日の仕事はお終いである。何もかも全部適当で、どこを仕事と呼べば良いかなど客観的には全くサッパリ解らな
かったが、霊夢的には十日間の強制労働にも匹敵する辛さであった。適当にお茶をいれて啜り、溜息を付く。仕事の
後のお茶は格別ね、と一人のたまい、そのまま横になる。問題無い。する事は大して無いのだ。

 「――里の子だよね」

 呆けた頭で、先ほどの黒白について考える。随分と久しぶりに見た人間だった。最後に買出しに出たのは何時だっ
たか、とまで思い出し、そこから”アレ”の出処を辿る。

 (キリサメーキリサメー……冬は雨も冷たいから嫌よねぇー……じゃあなくてー……)

 キリサメと言えば一つしかない。霧雨道具店。日用雑貨からアヤシゲな雑貨まで手広く扱う、子供心が刺激されか
ねない大手不思議系雑貨屋である。あの黒白が言うように、初老の男性と若い衆が居た事は覚えていたが、あのチン
チクリンが居たかどうかまでは思い出せない。まぁ里で嘘など吐いても次の日にはバレる事くらいアレでも解ってい
るだろうからとして、一応その身分を信じる事とした。

 (同い年くらい、かしら。でも少しちっさい。成長がおそいのかしら)

 良いもの食べてないのかしら、などと考えてみる。しかしあの元気さと血色の良さであるからして、説得力はない
見解だ。里の子はみんなアアなのか、と勝手なイメージを作り上げてみるも、あんなのが集団で闊歩していたら、霊
夢の生まれる百年前に幻想郷など存在しないだろう。

 (めんどくさそうな子)

 第一印象と会話をかわした後の印象は同じである。きっと自分勝手で自分の事しか考えず、自分至上主義を貫く自
分人間に決まっている。ちょっと付き合うには躊躇われる人種だ。そもそも、誰とも交遊などないのだが。博麗の巫
女はここに居る事が仕事。不必要に外には出ない。そんな自己への縛りがある為か、同い年程度の子と遊んだ記憶も
持ち合わせてはいない。

 (また来るのかしら)

 面倒臭そうではある。生意気そうで勝手そうでもある。しかし馴れ合うような人間は嫌であるし、変に好感を持た
れたとしても、霊夢は困る。アレは過剰にしても、多少こざっぱりとしていた方が人間的には付き合いやすいのかも
しれない。

 (ねむい)

 目を瞑る。今日はもう洗濯は済ませた。ご飯は、お昼の残りでも適当に使って作ろう。もう一枚掛け布団はあった
だろうか。穴があいていたとしたら、繕わなければ。一眠りして、ご飯を食べて、お風呂に入って、また寝よう。明
日もどうせ何も変わらない一日だ。生活に必要最低限の事以外は、適当で良い。

 (……)

 あの黒白はまた降って来るだろうか。だとしたら次はもう少し、普通に接してみたら、いいんじゃ、ないだろうか。

                              ・
                              ・
                              ・
                              ・
                              ・

 その日、博麗霊夢は一つ思いついた。この大量に降り積もった雪を片付けるにはどうしたら良いかと朝餉を食べな
がら考えた後に閃いた策。昨日の雪と深夜に降った雪をあわせ、もう膝小僧に届くほどもあるこの固形物。どかすに
は体力が足りない。人手も足りない。お湯などかけた所で焼け石に水。いや、どうせ固まって足元を不安定にさせる
のだから火に油だろう。

 「――むぅ」

 境内のど真ん中に立って、精神統一の真似事を謀る。胸元に鎮魂印を結び、目を閉じる。霊夢の正面には簡易の祭
壇。その上には御神酒に榊に小鏡に乾物。最上部には小さな注連縄を括られた漬物石ほどの依代。実際に漬物石だが、
霊夢はその当りを気にしない。博麗神社蔵の降神術の手引きをカンペにブツブツと祝詞を唱える。

 「カケマクモ……? なんて読むのこれ……カシコキ? イザナギノオオカミ……」

 他力本願。一人で雪かきしろと言うのも無理な話ではあるが、そこに至るまでの努力が少なすぎる点は問題だろう。
勿論、努力の量など霊夢は計算に入れていない。思いつくままである。

 「アメノフチコマノミミ……? フリタテテキコシメセヨト カシコミカシコミモマオス……?」

 やった、ちゃんと言えた。と喜んではみたものの、何も起きない。霊夢的にはホノカグツチ辺りに下りてきて貰い
たかったのだが、やはり気分では無理らしい。当然も当然である。

 「……冬はお休みかしら?」

 神様にも休日があるのか、と納得してみる。今日も空は青い。それだったらアマテラスにでもお願いすればよかっ
たと後悔して、もう一回唱えるのも億劫だったので、やめる。どうも儀式的な物は性に逢わない。どちらかといえば
もっと体感的で、手につかめるような実績の残る物が好ましい。

 「さむ」

 日は出ていても寒いものは寒い。祭壇をいそいそと拝殿の影に運び、今日も今日とて早速母屋に引き返す。何時も
通りお湯を沸かして茶の間まで持って行き、炬燵に潜り込んで啜る。

 「よぉ」

 自分の真正面に黒白の物体がいて、それがみかんを剥きながら霊夢に挨拶したのである。相手にした方が良いのか
悪いのか数秒天井を見上げながら考えて、適当にしようと答えを出す。

 「今日もさむいな、紅白」

 その黒白物体を観察しながらお茶を啜る。お茶請けを齧りながら、みかんの白い繊維を一生懸命取る姿が非常に子
供っぽい黒白の行動をメモに取る。家の中でも帽子は脱がないらしい。少し被ってみたい気もした。

 「帽子かして」
 「ん」

 帽子を被って何をするでもなく、やはりその黒白の観察を続ける。みかんの汁が目に入って痛いのか、擦っては涙
ぐみ擦っては涙ぐみ。学習しない動物のようで可愛らしい。一応人間らしいが、これはキリサメマリサという人里を
中心として生息する動物だ。その生態は霊夢的に謎に包まれており、解明が急がれていたりしたりしなかったりする
のだが、半分ぐらい結構どうでも良い。

 「お前、ここに一人で住んでるのか?」

 人語も喋る。空も飛ぶらしいので、どうやら霊夢に近い存在であると悟る。自分と照らし合わせてみるが、どうも
性格的に不一致が多い。

 「そうよ。ずっとここにいるわ。ここにいるのが仕事なの」
 「私も最近とべるようになって、初めてここまで足をのばしたから知らなかった」
 「人里にはへんな子がいるのね」
 「お前ほどじゃあないさ」
 「普通よ」
 「私だって普通だぜ」

 みかんを一個剥いて差し出す。どうも手先は不器用なのか、それは喜んで拝借していた。みかんが主食なのかとも
考えたが、みかんが主食ならもう少し手際よく剥くんじゃないかなぁ、と考える。と、ここでそういえば何故ここに
キリサメマリサが居るのか、という事をやっと疑問に思った。

 「そういえばアンタ、なんでここにいるの?」
 「面白そうなモノを見つけたら気になるのが人間のサガだぜ」
 「お茶飲む?」
 「のむのむ」

 別段と追い返す気持ちは無い。どうせ今日もやる事は大してないのである。家に黒白が一匹住み着こうが、あまり
問題ではない。それに興味もある。冬は特に誰も来ない神社だ。そんな場所に空を飛んで現れたのであるからして、
これも何かのめぐり合わせなのではないか、と運命論者的な思考を展開させてみるのだ。簡単にいうと暇である。

 「人里も雪、すごい?」
 「みんな雪かきに必死だったぜ。お前はしないのか?」
 「一人で出来る量じゃないわ」
 「じゃあせめて屋根ぐらい降ろさないと、潰れるらしい」
 「あ、そーか。屋根かぁ……」

 意外や意外。ここでの黒白の助言は実に的を射ていた。境内ばかりに気を取られていたが、これだけ降ったのだか
らそろそろ屋根も雪下ろししなければ。潰れる事は無いにしても、何時かはやらなければいけない仕事である。霊夢
は思い立つとすぐさま縁側から外に飛び出し、恐る恐る屋根の具合を見てみる。

 「最悪っ」

 やはり最悪であった。ココ最近降り積もったものが溜まりに溜まったのか、大変な事になっている。唯一幸いであ
った事は、空を飛べることぐらいなものだろう。飛べなきゃきっと一人で雪は降ろせないだろうし、転落死しかねな
い。普通の子供一人では無茶だ。

 「どうだ……って、こりゃナンギだぜ」

 みかんをモソモソと食べながら箒に乗った黒白が浮き上がってくる。緊張感は無い。

 「ねぇ、手伝ってよ」
 「せっかく逃げて来たのに、何でこっちで手伝わなきゃいけないんだ」
 「みかん代」
 「――せちがらいぜ」

 どうやら手伝ってくれるらしい。霊夢と黒白は二人で屋根に降り立つと、早速兎よろしくピョンっと跳ねる。その
衝撃で屋根の下方に溜まる雪と黒白がごっそりと落ちた。

 「あ」
 「……ぷあっ」
 「飛びなさいよ」
 「すっかり忘れてたぜ」

 雪の中から黒白か顔を覗かせて、多少恥かしそうな顔をする。危ないったらありゃしない、と霊夢はふよふよと下
に降り、埋った黒白に手を伸ばす。どうも咄嗟の判断にはまだ対処出来ないらしい。本当に初心者も初心者なのだな
と霊夢は理解し、手伝わなくて良いと諭す。

 「まるで子供あつかいだ」
 「子供でしょうに」
 「子供で小児ってどこまで子供なんだ」
 「落下して死んでも、私責任持てないわ」
 「責任とって欲しいぜ」
 「やぁよ」
 「ともかく、手伝う」
 「ん」

 負けず嫌いなのか、黒白は箒を手にひょいと屋根に登り、霊夢もそれに続く。黒白はポケットを弄り、何やら幾つ
かの宝石らしい物体を取り出した。

 「魔力結晶?」
 「なかなかいけないけど、魔法の森までキノコをとりに行って、それを煮詰めて……」
 「魔法?」
 「そうっ! 紅白は頭がいいな、いいなっ」
 「魔法使いじゃないの?」
 「そうだぜ。幻想郷一だ。お前は二番」
 「私魔女じゃないわ」
 「巫女も魔女も似たようなもんだぜ」
 「まぁいっか。で、どーするのよ」
 「投げる」

 黒白が魔力結晶を屋根に投げつけると、ポンッとカンシャク玉を強くしたような小爆発を起こり、その周辺の雪が
ごっそりと下へと落ちて行く。霊夢もこれはなるほど、と思う。一々ぴょんぴょん跳ねるより実に効率的だ。

 「へへん」
 「貸して貸して」
 「だめ」
 「ケチねぇ」
 「どんどん行くぜー」

 結局、黒白の功績により調子よくドンドンと雪が下ろされ、数分後にはすっかりと綺麗な瓦屋根が姿を現した。カ
ンシャク玉に触れられなかった事は癪であったが、これは素直に嬉しいのでヨシとする。一人で雪下ろしなどしてい
たら、どうせまた面倒くさがってやらなかったに決まっているのである。そして雪は積もりつづけ……と、考えると
非常に寒い。

 「助かったわ」
 「みかん分働いたかな」
 「みかん分より少し働きすぎね」
 「か、買いかぶりだぜ」
 「ケンソンなんてするのね……まぁいっか。ご飯食べてく?」
 「食べる食べる」
 「はいはい」

 その時、霊夢は不思議な事に気がついた。丁度お勝手に入って、お昼を作ろうと水がめを開けて、驚く。

 「あは」

 何とも言い難い気持ち。これから名前も曖昧な人間に貴重な食料を消費しようというそんな最中に、自分はなんて
顔をしているのか。過去、こんな面白い顔を自分はした事があっただろうか。そう思う。水がめの中に映り込んだ己
の顔は、自分も知らないような笑顔。どうしてこんな顔をしているのかなど、霊夢の頭では及びもつかなかったが、
恐らくはこの気持ちがそうさせているのだろうと納得する。

 「ん~るる~ん~……」

 夜雀が歌う歌を口ずさみながら、手が進む。人様と一緒にご飯を食べるのも、初めてである。名前を思い出す。霧
雨魔理沙。黒白でなく、霧雨魔理沙。霧雨家の娘。大手道具屋の子なのだから、家庭は裕福なのだろう。そんな子が
自分の家にきて昼を一緒に食べる。今まで想像もしなかったような光景だ。非常に面倒臭い子だが、馬鹿ではなく、
嫌味を感じない。まるでそこに居る事が自然であるようにすら思える。

 「魔理沙、でよかったっけ」
 「そうだぜ。お前はなんだっけ」
 「霊夢よ」
 「そうだそうだ」
 「明日も来る?」
 「暇なら」
 「毎日暇そうね」
 「忙しいぜ」
 「ご飯食べよ」
 「おー、とても子供の作った料理とは思えない」
 「いただきます」
 「いただきまーす」

 抑えようと思っても、なかなか笑顔が治らない。なので、抑えるのをやめた。別に、笑顔を隠す必要などないと、
やっと気がついた。今まではそんな表情も必要ではなかったが、もしこれから人と、強いてはこの子と付き合いをも
って行くならば、必要であると感じたのだ。何事にも関心を示さず、適当に毎日をやり繰りする自分に出来た新しい
知り合いに、普段見せない顔の一つくらい、見せてやっても良い。

 「うまい」
 「そう」

 楽しい時間がこれから訪れるのだと、そう期待せずにはいられなかった。日々を消化する毎日ではなく、この霧雨
魔理沙を加えた、博麗霊夢の新しい時間がやってくる。幼心に興味と好奇心がフツフツと湧き上がる。きっときっと、
楽しいに違いない。





 二、紅





 一枚の紙切れが、丁度霊夢が何時も茶を啜っている縁側に落ちている。その紙切れは字でびっしりと埋め尽くされ
ており、何やら写真のようなものが白黒で一枚、大きく飾られている。起きたばかりで眠い目を擦り、霊夢はその紙
を拾い上げる。

 『文々。新聞』

 小難しくは書いてあるが、大抵内容がないよと霊夢が有るまじきツッコミを入れてしまいかねないほど内容がない、
所謂ゴシップ紙である。そうそうの頻度では来ないが、たまにこうして縁側に置いてあることがある。これを作って
いる天狗は何が目的なのかと霊夢は頭を捻るが、暇潰しには良いのでそれを持って炬燵にまで逃げ込む。

 「……ふむ?」

 文々。新聞にしては、かなり興味深いものであった。内容を要約するとつまり、幻想郷の妖怪が慌てているらしい。
なんでも突如現れた悪鬼により低級及び中級上クラスまでの妖怪が統べられ、配下に置かれてしまったという。かな
り眉唾ものではあったが、天狗の記事はまくし立てるように、明らかにジャーナリズムに欠ける感情的な書き方でこ
れをこき下ろしている。天狗自身もかなり焦っているのが霊夢でも見て取れた。天狗が脅えるほどの妖怪となると大
分絞られてしまう。妖怪山の天魔。向日葵畑のフラワーマスター。顔も知らない結界の魔。冥界に住むと言われる姫
君。彼岸には閻魔がいるだろう。しかしそれら全部が大の付く妖怪であり、無碍に妖怪を統べ様とはしないし、名ば
かりである事が多く、実体がない。

 「あっきらせつ?」

 天狗渾身のスクープ写真には……シルエットを見る限りでは霊夢より小さい、羽を生やした少女の姿。悪鬼羅刹と
いうには些か頼りない感じを受ける。これがつまり、妖怪を掌握したというらしい。宵闇に夜雀に虫王に妖精にまぁ
数いるそれらは、勿論そこまで強いともいえないが、記事の割に写真の説得力がないのである。

 「現在の博麗の巫女はまだ幼く、これに対処出来るとはトウテイ考えられない。妖怪山はドクジのソシキ体制によ
りこれをしのいではいる。しかし他の一人一種族の妖怪はトトウを組む事が出来ず、単一の戦闘をもってしてこれを
退けようと試みているらしい……そりゃ、妖怪は妖怪同士仲良く戦いましょ、なんていわないわよねぇ」

 博麗の巫女では無理、という辺りに悪意を感じざるを得ない記事だが、この内容が本当だとするとその通りである。
齢十歳の娘は確かに常軌を逸脱する程に強いが、天狗も脅えるほどの妖怪を倒せる力など在ろう筈も無い。

 「よーーーーーーーって、んがっ!!」

 難しい文字を読解しながらお茶を啜っていたところに、魔理沙が飛んで入って来た。比喩でなしに飛んで入って来
たのである。わざわざ玄関で靴を脱いで、また箒に跨って居間まで飛んでくる辺りが、何か強烈なポリシーを感じる。

 「あー……箪笥に傷つけて……」
 「最初からキズついてたぜ」
 「はいお茶」
 「ん」

 帽子を脱ぎさると、寒そうにして早速霊夢の隣へともぐりこむ。手は相当悴んでいるのか、炬燵の中に入れてもま
だゴシゴシと擦っていた。まだ昼も前である。外は暖まっていないだろうし、マフラーと手袋という軽装ではとても
ではないが凌ぎ切れない冷気なのだろう。

 「どれどれ」
 「れいむの手、あったけー……」
 「ごしごし」
 「そのちょうしそのちょうし」
 「……冷たい!」
 「れいむ、お前意外とバカだろう?」
 「そんなことないわよ。今なんてこのむつかしい新聞読んでいた所よ」
 「ほほー、どれどれーどれどれー?」

 魔理沙がぐっと顔を突き出して新聞を覗き込む。どうやら得意げであったらしいが、数秒それを眺めて、やがて沈
黙。諦めてみかんの皮を剥き始めた。

 「つまらん! 新聞はつまらん!!」
 「読めないって言えばいいじゃない」
 「それで、何て書いてあるんだ? その吸血鬼みたいなのなんだ?」
 「……? うん。これが妖怪達をまとめて、自分の配下に加えたんですって」
 「あー。オヤジが『最近妖怪の気が立ってるから気をつけろ。りん之助のとこなんか行くなよ』って言ってた」
 「妖怪はしばられるの嫌いだもの。ムリヤリ手下になんてされたら、そりゃ気も立つわ」
 「私みたいだぜ」
 「……アナタの事まだ良く知らないけど、そんな感じはする」
 「でもなんかあんまり知り合ったばっかりって気もしない」
 「変ねー」
 「きっと飛べるもの同士ふぃーりんぐとかいうのが合うんだぜ、霊夢」
 「先が思いやられる発言ね。外の世界の小説みたい」
 「え、外の世界の本があるのか?」
 「無縁塚とか、再思の道とか、この近辺はそういうのが落ちてるのよ」
 「読む!」
 「押し入れの箱の中にしまってあるから、もってらっしゃいな」
 「おうおう」

 本好きの嗅覚か。押し入れの奥まった場所にしまってあった箱を一発で見つけ出し、それを全部引きずり出すと数
冊選んでまた霊夢の隣へと腰掛ける。それを開き、眺め、諦め、霊夢を見る。

 「……」
 「そ、そんな小動物みたいな目でこっち見ないでよ。なんか罪悪感が湧くわ」
 「れいむぅ~……」
 「文庫本ったって数百ページあるじゃない……これ読めっての?」
 「読めないところだけ教えてくれればいいから、ねぇねぇー」
 「そうやって人におねだりとかしてるわけ?」
 「男はぎゃっぷに弱いらしいんだぜ」
 「私、女」
 「駄目?」
 「……わかったから。わかったからその目やめて……」
 「教わるのとか嫌いだけど、やってみるもんだな。いやいや、霊夢は良い友達だなっ!!」

 魔理沙的友達とは魔理沙に尽くしてくれる人間の事をいうらしい。もはや新聞の内容などすっかり忘れた二人は、
炬燵で寄り合って本を読む。ひらがなと簡単な漢字は魔理沙が読み進め、難しい字を霊夢に聞く。霊夢もわからなか
ったら辞書を引き、それをメモして次を読む。読んでいる途中で何故胸がドキドキしてきたのかは二人も途中まで良
く理解出来なかったが――

 「霊夢、これなんて読むの」
 「辞書によると……インケイね……ん?」
 「霊夢、これは?」
 「じ、辞書によると……だいいんしん……」
 「……? これなんの話だ?」
 「……か、かんのう小説……」
 「なにそれ」
 「ま、魔理沙は知らなくていいのよ」
 「知識の独り占めは駄目なんだぜ」
 「つ、つまりね……その……ごにょごにょ」
 「うん? 揉むも何も揉むほどないし、そんな穴どこに……」
 「こ、声に出すなバカ!!」
 「んがぐぐ」

 ――楽しい事には違いなかった。

                              ・
                              ・
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                              ・
                              ・

 「それじゃ、また明日」
 「明日は忙しいぜ」
 「そうよね」
 「……笑顔が胡散臭いぜ」
 「そんな事ないわよ。じゃあね」
 「……うん」

 結局官能小説の読破は霊夢によって妨げらたので、ジュブナイル小説一冊を五時間かけて読破した。ふりがなもふ
ってありはしたが、一々それを霊夢に聞くようにして読んだ。さして難しい理由はない。ただ、迷惑そうな振りをし
ながらもお節介妬き精神を発揮しつつある霊夢が面白かったのである。

 里にも友人はいる。しかし……そりは合わなかった。ここは幻想郷で、外の世界では無視を決め込まれた者達が集
う場所であるというのに。幻想が幻想として存在出来得る、楽園ではあるが……やはり、人間社会となると、どこも
似たような形になってしまうのであろう。霧雨魔理沙は浮いていた。幻想郷はすべてを受け入れはするが、それの何
もかもを正しく受け止めてくれるとは限らない。魔理沙は人の子。人の子は人の子であり、これは幻想郷でも変わり
はない。勿論、魔法が迫害されていたり、妖怪が蔑まれている訳ではないのだが、人のコミュニティーである限りは、
人と付き合っていかなければならない。

 それがどうにもこうにも、霧雨魔理沙の気質には合わないのである。

 「りん之助のにーちゃんは何してるんだろ」

 霊夢に別れを告げ、人里に戻ろうとしたところで足踏みする。空はもう夕焼けに染まっていて、幻想郷全体が赤み
がかっていた。どうにも今日は直接帰る気にはなれない。今の一時が楽しかったからこそ、現実を見るのは苦しい。
霧雨魔理沙は恵まれている。ただ、父がそれを、娘を思うあまりに、受け入れてはくれないだけだ。霖之助も結局は
道具店から独立、最近魔法の森に店を構えた。幻想郷は全てを受け入れるが……それこそが全てではない、という例
の一つだったのだろう。

 魔理沙も父は悪くないと解っている。自分も霖之助も里社会とは何処か違った。それだけである。

 「元気してるのかな」

 箒の先を魔法の森方向へと向け、魔理沙は進み始めた。自分を否定する姿勢を見せながらも、決して邪険には扱っ
たりしない、兄のような人物の下に。空を飛べるようになってから、また一段と人からの乖離が激しくなっている事
を知らず知らず実感する魔理沙には、今こういった人物が非常に大切であった。博麗霊夢と出会ったのは、まさに天
恵ともいえるのではないかと、それほどに感謝している。

 「おーす」
 「……ストップだ魔理沙。今店内を整理中だって、見れば解るだろう。踏み荒らされたらたまったものじゃない」
 「そうカタイ事いうなよ」
 「解った、だから奥に居てくれ。あ、ほらそれ踏むと危ないから……」

 魔法の森の入り口近く。雑多に物が積まれた霖之助の店。着々と準備は進めていたらしいが、本当についこの前ま
で霧雨道具店に勤めていた。霖之助は店主と親と息子のような関係を築いていたのだが、それだけに周りの反応も様
々であった。この霖之助、半妖である。魔理沙の生まれる以前から勤めており、その頃から姿形変わらない。人々は
これを迫害する事なく、多少暗いが知識もあり、良い人物であると認めていたのだ。独立すると噂だってからも引き
止める声はやまなかった。その中で一番食い下がったのは、勿論霧雨の店主である。

 一人娘はまだ幼いながら妙に自分というモノを持っており、継いでくれるとも限らない。自分は人間であり、この
先数十年は真っ当に生きられるとしても、やはり後継ぎは欲しい。真面目な霖之助を失うのはショックであって、何
より寂しかった。霖之助もこれを汲み取れぬ人ではないからして、相当頭を下げたと、魔理沙も聞いている。

 それでも一人で店を構えたい。自分の能力を生かしてみたい。結局は趣味人のわがままだったのだが、霧雨の店主
は渋々諦めた。

 「ほら、こっちにおいで」

 自分がお世話になった道具屋の一人娘にも好かれていた。霖之助は愚か者だったが、幸せ者である。

 「かおりん堂」
 「そりゃ新キャラかい。香霖堂だよ」

 魔理沙が看板を指差して言う。霖之助は魔理沙を抱き上げて奥へと連れて行くと、椅子に座らせてお茶を出した。
そろそろ来る頃なんじゃないかという予測通りで、霖之助は多少気恥ずかしい。こんな童女でも、やはり人に好かれ
るのは幾つになっても慣れない。

 「香霖か。香霖。りん之助って長くて言い難いから香霖でいいよな」
 「まぁ、構わないさ」
 「香霖堂香霖堂香霖堂」
 「うん?」
 「げしゅたるとほうかいしてきたぜ」
 「難しい言葉を知ってるんだね……」

 そんな会話を交わしながら、店内を片付ける。魔理沙は大してする事もなかったので、その辺りの物品を弄っては
壊し気に入ってはポケットにしまいと手癖の悪さを発揮しつつ、霖之助に怒られつつ、それでも笑顔で居る。霖之助
は昔から、良い事は良い悪い事は悪いとしっかり区別をつけており、魔理沙にもそれを教えたのだが、どうにも身に
なってはいないらしかった。甘えから来るものなのかとも考える。もう少し叱りつけてやっても良かったのではと後
悔はするのだが、結局は人の子。悪びれもなくイタズラするその無邪気さを攻め立てることは、変に罪悪感もあった。
きっとこれからもこの様に生きて行くのだろうと思うと溜息が出るほどに狼狽するが、こんな子だからこそ魔理沙な
のだと考えると、否定などしてやる気にもなれない。

 「ふぅ」
 「終わった?」
 「いや、見てのとおり終わらないけど、そろそろ一息入れようと思ってね」

 霖之助がお気に入りの椅子に座ると同時に、魔理沙が寄ってきて霖之助の上に座る。普段こうする事が無かった訳
では無いが、今日は何時もよりも接したがっているらしい。霖之助はその感情を汲み取り、邪険には扱わない。手渡
されるお茶を口にしながら、寄りかかる魔理沙の頭を撫でる。

 「香霖はなんで、店を構えようと思ったんだ?」
 「自分の能力が生かせないから」
 「それは前にもきいたぜ」
 「質問が同じだったから同じように答えたまでさ」
 「じゃあなんで家をでていったんだ?」
 「……」

 子供らしい単刀直入の意見に、霖之助は口を噤む。本当に力を生かせないからこそ出てきたのもある。しかし問題
はそこに非ず。

 「なんとなくさ」
 「なんとなく?」

 「そう。霧雨の親父さんはボクにあとを継がせる気だった。でも所詮ボクなんて道具屋のノウハウを学ぶだけにあ
の家に入り込んだだけ。大手道具屋の店主がそんなじゃ、感じが悪いだろう」

 「でも、オヤジは香霖を気に入ってたぜ」
 「ほかにも若い人はいるだろう。それにボクは半妖だしね」

 「そんなの、幻想郷じゃ今更だ。この前だって向こうの里で妖怪と人間が結婚したばかりじゃないか。そういう垣
根を気にするのは、なんかちがう気がする」
 
 「……魔理沙は頭がいいね」
 「あたりまえだぜ」

 はぐらかそうとしたのだが、魔理沙の意見は存外的を射ていて、なんとも返し難い。魔理沙を霧雨家から離すまい
と思って出て来たのも理由に挙げられるし、これ以上自分に関わるようでも個人的に宜しくない。魔理沙が生まれて
からずっと兄のように接してきた。本当に妹のように思ってすらいる。しかしそれが何時まで続くかも知れない恐怖
の一であるし、身近な人間は全て、自分の寿命が来る前には死んでしまう。非常に、避けたいのである。

 「私もこっちに住もうかな」
 「馬鹿いうんじゃない」

 ……よくよく考えてみれば、魔理沙もまた人里に住まう人間とは一線を駕す位置に居る。今後もその差が大きく開
くに違いない。そうなった時、霧雨家は自分に、ひいては魔理沙にどのような感情を抱くか。懸念すると憂鬱である。

 そう思ったからこその香霖堂であるのだが、本人がこれでは本末転倒。あまり香霖堂に引き止める、いや、居座る
ようになられると、霧雨の店主が居た堪れなく、罪悪感が募る。

 「出て行く必要なんてなかったとおもうぜ」
 「参った。降参するよ。魔理沙の言う通りさ。だからボクは馬鹿で、感情的に外へ出た。それだけ」
 「べつにいいんだぜ。なんだって。どうせ私はここへ来るから」

 大きな瞳が霖之助を見上げる。霧雨家には、一家揃って敵いそうに無い。霖之助は大きな溜息を吐いて、普段見せ
ないような笑顔とともに、優しく魔理沙の頭を撫でる。かなわない。かなわないのだ。特にこの霧雨魔理沙には、か
なわない。

 「そろそろ帰らないと、親父さんから大目玉を食らうよ」
 「そんな妖怪食えないぜ」
 「その辺りまで付き合うよ。もう暗いから」
 「空飛べないだろ?」
 「冬の妖怪が絶好調で空を飛びまわっているかもしれないだろう。暫くは歩いて、人里に近づいたら飛ぶといい」
 「……香霖がそういうなら、うん。いいぜ」

 ……。

 何か、不毛に思えてきた。魔理沙の進退を気にする事も。自分のあり方を考える事も。霧雨の主人を思う事も。霧
雨魔理沙は、自分の思ったように生きるであろう。誰にも縛られず、自由に世の中を渡り歩いていくに違いない。そ
れを引き止める権利は霖之助には無く、父にあるかも疑わしい。結局ここは幻想郷。キリサメマリサがそれを欲する
のであれば、きっと誰にも拒めないのであろう。

 「じゃあ行こうか」

 その考えも程ほどにして。霖之助は魔理沙の手を引き、表に出る。あまり晩くなると霧雨の店主がカンカンである。
雪は降っていなかったが、その冷気は鼻から抜けて痛いほど。見上げる空に月はあれど、妙に赤み掛かっていて不気
味であった。一層付き添って帰った方が良さそうだと判断して、魔理沙を背負うと足早に道を進む。

 深い雪と冷たい泥を踏む。魔理沙の体は小さく軽く、たまに背負っている事すら忘れてしまいそうな程だ。この小
さな体にどれだけの夢や希望が詰っているのか。自分と同じ、いや、自分以上に人から離れていくこの子を否定した
り、忠告してやるなど霖之助には出来ない。未来がどうなろうとも、魔理沙の事だ。巧く生きて行くに違いなかった。

 しかし、そんな生き様が講じて妖怪退治などされては、流石に霖之助もお手上げであるが。

 「……香霖、あれなんだ?」
 「さぁ、紅い……人魂、のようにも見えるが……揺らめいていない」
 「近づいて、来る? あれは……」
 「魔理沙」

 人里へ向かう道も中腹に差し掛かった頃、魔理沙は不思議なものを見つけた。木々の隙間から漏れる紅い光。霖之
助もまた初めて目にするものである。人魂にしては無機質。鬼火にしては能動的。何があっても可笑しくは無い幻想
郷において、それは妖精のイタズラだと判断するのは易いが……あまりにも、異常なほどに、禍々しい。

 霖之助は考える。未来も大事だが、ここは、そう、そういう場所なのである。今は博麗大結界に覆われ、人を襲う
事を限定化された妖怪達が大人しくはしているが、何か一つ異変が起きて状況が激変しないとも限らない。人のコミ
ュ二ティーを外れた先ですら危ういのである。結局人は人である。先のことを考えるのも大事だが、まず突如起こる
目の前の不安要素に抗わなければいけない。

 「魔理沙、飛ぶんだ」
 「で、でも」
 「最近妖怪の気がたっているって聞いているだろう。逃げれるうちに早く」
 「香霖も、乗せて飛ぶぜ」
 「今のキミじゃ無理だろう。早く」
 「でも」
 「はやく」

 眼鏡をクイッとあげて、魔理沙に凄む。アレが何でアレ、生易しいものには見えない。もしそれが妖怪であったな
らば、非常に状況は宜しくないのである。今妖怪達は腹を立てている。霖之助が聞いた限りでは、近くの集落近くで
三人の子供が妖怪によって攫われた、という噂もある。自分は半妖。普通の人間よりは死に難い。魔理沙を逃がす為
に多少体を張ったところで、問題ないだろうと判断する。

 勿論恐ろしくはある。霖之助自体あまり強い存在ではない。だが兄として、妹を護れないなど恥かしすぎる。そん
なようでは、二度と人里に顔向けも出来ない。

 「……りん之助にーちゃん」

 「一気に高く昇って、下るように里へ向かうんだ。空を飛んだら数分とかからないだろう。兎に角人の居る所へ。
人里で人は襲えない。襲ったら、大妖怪がその妖怪を許さないから」

 「う、うん」
 「いくぞ……いっせーの」
 「せっ!!」

 掛け声とともに、二人が散る。魔理沙は箒で空高く舞い上がり、霖之助は紅い光の注意を引くよう木々の間を走り
抜ける。戦闘など出来ない。故に逃げるだけだ。ここで魔理沙を追わせる訳にもいかない。危なげないよう、且つ魔
理沙に注意がいかないよう動く。

 ふわふわと浮いていた光がピタリと止まったかと思えば、その場でくるくると回り始める。一頻り回った後、霖之
助目掛けて飛んできた。冷や汗が垂れる。こんなおっかない経験をしたのは、霧雨の店主に怒られて以来だ。雪に足
場を取られながらも、必死に走る。香霖堂まで戻れば、それなりに怪しい道具で武装する事も可能であろう。

 光の速度があがる。もう振り向けない。そんなことをしている暇があったら足を先に進める。

 (よしよし……これなら魔理沙も逃げ……うん?)

 魔理沙もだいぶ遠くに離れているだろう。この紅い光、敵意こそありはすれど、力が強いとは思えない。禍々しく
はあるが、全治一週間の怪我を負う程度……そう安堵していた矢先である。

 「香霖ふせろっ!!」
 「ば、ばかもん!」

 魔理沙は居た。箒の上に立ち上がり、霖之助と紅い光に向けて、思い切り魔力結晶を投げつけてる。想いの力がそ
うさせるのか、博麗神社の雪下ろし程度にしか使えない魔力結晶は数個一塊となり、大きな閃光となる。霖之助は背
中が焼ける思いをしながら雪の上に転がり、紅い光はもんどりうって林の中へと隠れていった。

 「あちち……魔理沙……キミって奴は、あたた……」
 「香霖!! 大丈夫か? ちくしょう、あのやろう……」
 「いや、君の魔法がだね……」
 「絶対許さないからなっ」
 「ま、魔理沙、あ、こら! 追いかけるんじゃない!!」

 魔理沙は霖之助の言うことなど気にせず、そのまま光をおかけてて林の中へと姿を消す。こげた背中を払ってから
追いかけようとしたが、どうやら足を捻ったらしい。これだけ雪とドロで道が悪いと、歩くにも一苦労である。

 月明かりだけが頼りの林の中。殆ど真っ暗闇に近い。

 「――キャッ!」
 「魔理沙!?」

 一際大きな悲鳴。足を引き摺りながら、声の下方向へと走る。力なき己の不甲斐無さに打ちひしがれながら、腹い
せに出っ張る枝を折り飛ばして進んだ先。そこには紅い蝙蝠が一。そして、その下には魔理沙がぐったりとしている。

 「魔理沙ッ」

 目の前に何が居ようと知ったことではなかった。駆けより、抱き上げて雪を払いのける。辺りには血液が飛沫して
いるが、大した量ではない。だが問題は量ではないのである。これが魔理沙を傷つけた、という事実が頭に来る。

 「お前は――」

 鋭い目付きで威嚇する。その憎悪に答えたのか、紅い蝙蝠は実体化はせずとも――

 『私はレミリア。貴様は?』

 反抗するその意思を評価し、名を名乗った。

 



 三、森近





 「……うん?」

 ゼンマイ時計に目をやり、何となく違和感に気がつかされる。現在午前の十時を回ったところだ。魔理沙が博麗神
社に居座るようになって、はや数日過ぎた今。

 「そうだ、魔理沙だ」

 魔理沙がこない。いつもならばこの時間頃には現れて、ああでもないこうでもないと無駄話を重ねている頃である。
何かあったかと予測するには材料が足らない。道具屋で大売出しセールをやっているとも聞いていないので、もっと
別な理由があったか、それとも単に気紛れか。

 「……ふむ」

 古い文書の書き写し作業をしていた霊夢だったが、その手をやめて縁側に出る。戸を開ければいつもと変わらぬ忌
々しい銀世界。今日は魔理沙に雪かきを手伝わせようと考えていた矢先にこれであるからして、予定が狂う。じっと
目を凝らして空を見上げるも、黒白の影はない。そのまま視線を落としてみたが、やはり何も……。

 「鈴の音?」

 鈴の音がした。ガランガランという、拝殿からの音。この雪深い時期に、しかもまだ12月も半ば。こんな結滞な
時期に参拝客など、よほどの変人か魔理沙である。霊夢はマフラーを手にとり、玄関から沓を履いて外へと飛び出る。
社務所の間を抜けてその先。小さな拝殿には初老の男性の姿が見えた。

 「珍しい」
 「むぉ、お、あぁ。ここの巫女さんかい」
 「えぇそうよ」
 「実は神主さんにお話があるんだが……」
 「ん? いないわよ。ここには私一人しか。何? 里から何か、預かってきた?」

 霊夢は里から頼まれごとをされてきた人間であろうと見抜く。大体、ここには霊夢しかいない。里長他数人ならば
いざ知らず、おつかい程度の人間であると、まさかここの神社の主が霊夢であるなどとは思わないだろう。

 「なんだって? じゃあ博麗を呼んで来いっていうのは」
 「私でしょうね」
 「……困ったな」
 「困らないわよ。ともかく訳を話してちょうだい」
 「しっかりした子だな……実はだね」

 話では、妖怪とのいざこざであるらしい。幼いながらその退魔の能力を買われ、たびたび里の方に呼ばれはしたい
たのであるから、話が来るのも当然である。しかしこの男は博麗がどのようなものか理解していなかったらしく、霊
夢を見て困惑の様子であった。

 「ふぅむ。いいわ。ちょっと準備してくる」

 霊夢としては冬の蓄えもあるので仕事せずとも食べては行けるが、里から直接呼ばれたのでは出向かぬ訳にもいか
ぬし、子供だと思って見くびられるのも癪なので、早速出支度を整えて、困り顔の男性について行く事……もとい、
困り顔の男性をひっ掴まえて空へと飛んだ。

 「ひえぇぇ」
 「うるさいわよ、うごかないで」

 (魔理沙がこれないのはこれかしら、ねぇ)

 里の役場……と言うにはみすぼらしい、ボロボロの畳が敷かれた集会所には腕っ節の強そうな若者から老人、上座
には里長と、落ち着きのある女性が座っている。霊夢はこれに何の感想を抱く事もなく、上座へと招かれ、そこに座
る。丁度会議中であったらしく、数人が侃侃諤諤と議論を交わしている。これでは埒があきそうにない、と判断した
霊夢は、隣に座る女性へと話し掛けることとした。

 「それで、なんで呼ばれたのかしら」
 「……博麗の巫女。やはり、大人びているな」
 「そんなこといいわよ、なんで?」
 「実はな」

 女性は上白沢慧音。里に問題が発生した際には、率先してそれに意見する、所謂相談役を買っているらしい。慧音
の話によれば、近年妖怪が人間を襲えない事に腹を立てて逆上し、各所で問題を起しているという。博麗大結界が敷
かれた後はかなりの安定を保っていた幻想郷だけに、これは久しぶりに訪れる人里の危機であった。各所で小事が発
生している内はまだ良いが、それに調子付いた妖怪が便乗してしまうのでは、と危惧されているのである。今回集会
が催されたのは言うまでもなく、直接的被害を被った人間が近くに現れてしまったのが理由である。

 「……最近大人しいと思ったけれど」
 「ここまで大きく発展しそうなものは久しぶりだな」
 「他の里では」
 「湖の南方にある集落で子供が三人」
 「此方では」
 「……魔法の森近辺で……」

 「うちの娘が怪我をしたんだ!! このまま放っておくわけにもいかんだろうが!!」

 「しかし妖怪を追い払う技術のある者は少数だ。連日連夜詰めている訳にもいかんだろうが。彼等だって普段は別
の仕事があるんだぞ?」

 「褒賞はうちが出す!! 妖怪一匹とっ掴まえて晒してやりゃあ、少しは黙るってもんだ!!」
 「落ち着け霧雨の。娘の容態はどうなんだ」
 「傷口から黴菌がはいって、熱で魘されてるよ畜生が」
 「霧雨? 魔理沙のお父さん?」

 霊夢が目を丸くして男性を見る。ともすればこの男は霧雨道具店の店主。あまり自分の事情を話さぬ魔理沙の父な
らば非常に興味深いし、そして何より、まさか被害者が魔理沙であった事に驚きだ。最近は午前中から現れて霊夢と
ああでもないこうでもないと雑談していたからして、訪れてこないのは不思議だと思っていたのである。

 「博麗。娘と友人か?」
 「毎日きてるわ、うちに」
 「……里長。なんだって小さな娘連れてきて。どうしようってんだ」

 「いやそのだな、霧雨の。里に問題が起きたらまず博麗に相談するのが慣わしでな……それにな、ただの娘ではな
いのだぞ。近辺で起きる妖怪とのいざこざは、この子が解決しとる」

 「眉唾だな」

 霊夢は頭を捻り、ゆっくりと考える。魔理沙が怪我をしたのは、確かに由々しき問題だったが、その点だけにとら
われていては何も解決しない。そもそも、博麗大結界が敷かれてからというもの、妖怪は大分大人しい。人を食べず
とも妖怪は生きて行けるが、妖怪は人と争わなければその存在意義が薄れてしまう。幻想郷はその在り方を否定され
た者達が集う場所。妖怪も無碍にしたりは決して出来ない。

 問題は間違いなく、文々。新聞に乗る通りの事が原因。つまり元凶たる『悪鬼羅刹』を倒すか、妖怪のフラストレ
ーション解消こそが、この問題解決の糸口。過度に人の味方をすると、狭い考えしか浮かばないのは難点である。霧
雨の店主が娘を思う気持ちは霊夢にも解ったが、それではいけない。

 「んー……。いいかしら?」
 「いいぞ博麗。言ってやれ」

 「この女の人もなんとなーく知ってて私に言わせているかんじがあるけれどね。こんな小娘の意見だけれどきいて
くれるかしら。えーと、里を脅かす妖怪如きなら私で十分かもしれないけれど、規模が広がる危険があるから、こう
してみんな集まっているのよね。なら向こうさんにも集まってもらいましょう」

 「……はぁ? 妖怪が話しなんて聞くのか?」
 「妖怪だってピンキリだろ。おいおい、この娘大丈夫か?」
 「世の中知らないとこうだから」

 「うるさいわね。少しだまってなさいよ。感情のひろう会してどうすんの」

 齢十幾つにしては、あまりにも冷たい声に、周りがシンとなる。この気まずさに慧音が咳払い。里長はあっちを見
たまま動こうとしない。

 「子供だからって馬鹿にしないでちょうだい。大人ならちゃんと意見をきいて」
 「ごもっとも」

 慧音が相槌。霊夢はそれを良し、として話を続ける。

 「妖怪と話し合うわ。この女の人さえいればいい。あとの大人の人達は、冬の間はしっかり戸締りして、出る場合
は必ず二人で。吹雪いている場合は特に注意してね。雪女と妖精が出るわ。心配なら、札を配るけど」

 と言って霊夢は包みから数十枚の束になった神札を取り出し、皆に配り始める。大人達はキョトンとしたままそれ
に従い、みな札を懐にしまって改めて霊夢に視線を注ぐ。

 「お姉さん、人……って訳じゃなさそうね」
 「半獣だ。言いたい事は解る。声がけをしろと言うのだな」
 「頭がいいのね」
 「お前ほどじゃない。あまり仲は良くないが引き受けよう。明後日までには揃える」

 「普通の人じゃフラワーマスターみたいに危なそうな妖怪には声がけ出来ないだろうし、よろしくね。では明後日
の夜に、本殿で良いわ。里長さん、いいかしら?」

 「け、慧音先生もそう仰るなら、それで間違いなかろうて」
 「だそうよ。異議申し立ては?」
 「……博麗の」
 「はい、魔理沙のお父さん」
 「それで解決するのか? 恒久的解決になると?」
 「むつかしい言葉は知らないわ。ただ、行き成りぶっ殺すじゃ、妖怪だって気分わるいわよ」
 「……」

 霧雨の店主は次の言葉を口に出そうとして、やめる。それ以上尤もらしい意見など出ないし、自分の娘と同い年程
度の子供を怒鳴りつけるのも気が引けるのである。これは一回様子を見なければ仕様が無い、として、霧雨の店主は
静かに頷いた。

 「そうだ。お見舞いに行きたい」
 「ああ、構わないよ。魔理沙も喜ぶ」
 「和菓子屋さん、いる?」
 「あ、オラだ」
 「これでおいしいの見繕って。子供がたべれるの。私とかが」
 「おう、いいべさ」
 「悪いわね、なんかしきっちゃって」
 「いいんだよ、博麗の。これがお前の仕事なんだ」
 「そうかしら? まぁ、いいわ。じゃあ、まずはお菓子屋さんでお見舞い受け取らなきゃ」

 と、そこまで仕切ると、霊夢は和菓子屋の店主を連れ立って表に出て行く。残された大人達はただ呆然とするばか
りであったが、どうにもこうにも、これ以上納得出来る話し合いが出来たとも考え難いので、無駄口は控えた。慧音
は面白そうに笑ってこれを見送り、大人達の解散を促す。

 「君達は博麗を知らないから、面食らっても仕方が無いか」
 「慧音先生。呼べと言われて呼びましたが……あれでよかったんでしょうか」
 「尤もな意見だっただろう?」
 「尤もです」

 「アレはな、代々そうだ。人にも妖怪にも味方しない。自分が中立になって、物事を展望して、幻想郷の軋轢の間
を取る。幼くとも、しっかりしているものだ」

 「はぁ……」

 「博麗はそうなんだ。必要以上の事はしない。人里に近い妖怪を個人的に叩く。人間だって妖怪に悪さしたならば、
きっと妖怪に謝らせる為に引っ張っていくぞ。本人でも知らない内にバランスを調整しているんだよ、あの子は」

 「何者なんでしょうか」
 「何者なのだろうな。以前の巫女も強かったが、今の代ほどでもないか。計り知れん。計り知れんな」
 「以前?」
 「説明してもわかりにくいだろうから、巫女は巫女。博麗は博麗、としておくのがもあべたぁだ」
 「もあべたぁですか。はぁー」

 慧音が今回の問題に際して意見を持っていた事は、霊夢も承知であった。何故この機会を譲ったのかは考え及ばぬ
所ではあったが、これも慧音の人と妖怪のバランスを保つ為の配慮と言うべきだろう。もし自分が前後不覚に陥って、
辺りが見えなくなってしまった時。どうしても妖怪の方をもってやれなくなった時。人里が、妖怪が、博麗を頼って
みようと考えに至るようになれば、自分が間違った選択をした場合も安心である。例えば偽りの月が、幻想郷を支配
しだしたり。満月で絶好調になってしまった、そんな時。

 「今回は解決だな」

 慧音は解散して行く大人達の背中を見ながら、一言呟いた。

                                ・
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 「元気?」
 「……なんか恥かしいぜ……」

 飄々とした霊夢が、布団の中で丸まった魔理沙の顔を覗き込む。聞かずともあまり元気では無い事など一目瞭然だ
ったが、霊夢はとりあえず声が聞きたかった。返事が出来るならば大丈夫として、少しホッとする。

 「これ、甘いの。糖分を取るといいわ」
 「……うん」
 「しなびてるわねぇ」

 西洋人形に日本人形にぬいぐるみ。所狭しと積み上げられた本に、何に使うかも解らないようなガラクタが散乱し
たこの部屋は、実に賑やかである。蒐集癖は寂しさゆえというが、まさに本人の奥底に抱いている感情をそのまま表
現したような一室であった。霊夢は一冊の本を手に取り、つらつらと眺める。振り仮名は振ってあるものの、なかな
かに難解な本である。漢字を教えてくれと負けず嫌いが恥かしげに親へ頼む姿を想像し、なんだか微笑ましくなった。
いや、もしかしたら何時だかのように、おねだりしたのかもしれない。そうなると親だって、そりゃあ教えずにはい
られなくなってしまうだろう。霊夢は心の中で恐ろしい子、と呟いた。

 「勉強してるのね」
 「魔法使い」
 「うん?」
 「魔法使いになりたいから」
 「ふぅん」

 霊夢に顔を向けて、そう言う。その目付きは真剣そのもので、穢れなど無く、大人が見たら当然の如く己の穢れに
自責の念を抱いてしまいそうな程、美しい。真っ直ぐで向こう見ずだが、馬鹿は馬鹿なりの純真をもってして、目標
へと歩む。霊夢には、それを解って欲しかったのだろう。魔理沙の父の話では、魔法使いなど反対だと霊夢も聞いて
いたので、そこは汲み取るべきだ。そう判断する。何より、初めての友人である。理解はしてやりたい。

 「飛べるのだもの。じゃあ魔法使いなんて目前よ」
 「でも、お前みたいに初めっからとべるわけじゃあなかったし、何回も失敗したし……」
 「怪我して凹んでんのかしら。らしくない」
 「む……」
 「怪我が治ったら、またうち来るでしょ」
 「なんだ、それ」
 「ふふ」
 「……いそがしいぜ」
 「そう」
 「そのまえにしぬかも」
 「死なないわよ」
 「……ぐずっ」
 「あ、ちょっと、泣かないでよ」
 
 魔理沙は霊夢に縋って鼻を啜る。妙な反応にどう対処して良いか多少困惑したが、霊夢の手は自然と魔理沙の綺麗
な髪へと伸びた。こういう子にはこうしてやるべき。そんな母性にも似た感覚が霊夢にはあったのである。ここ数日
で自分の生活は大きく転換した。ただ神社にいるだけ。たまに出て行っては妖怪の頭を殴るだけ。そんな生活に変化
を齎してくれたのが、この霧雨魔理沙。

 「ばかねぇ」

 人生で初めての友人の頭を、撫でる。このような感覚、ついぞ味わった事もない。しばらくそうしてあやして、や
っとの事で魔理沙を落ち着かせる。眠たげな目を擦る魔理沙に別れを告げてから、霊夢は意気揚揚と部屋を出て魔理
沙の父へと話し掛けた。

 「どんな妖怪だったか、聞いてる?」
 「それが見た事も無い、紅い蝙蝠だったらしい」
 「……」
 「魔法の森近辺で、直ぐに霖之助の馬鹿が保護したらしいが」
 「りんのすけ?」

 「つい最近までうちで働いてた恩知らずだよ。店を構えるってきかなくてな。魔理沙も懐いてたもんだから、わざ
わざ魔法の森まで追いかけていったんだと……ったく、あの馬鹿。今度あったら眼鏡叩き割ってやる」

 「蝙蝠……蝙蝠ねぇ」
 「心当たりが?」
 「たまには役立つわ、文々。新聞」
 「でも犯人がわかったからって、どうにかなるのかい」
 「私ったら博麗の巫女なの。ご存知?」
 「いや……そうだが……お前さん、うちの娘と年かわらんだろうに」
 「私、魔理沙の五千倍くらい強いから」
 「……? ま、まぁ。無理はするなよ。親御さんが悲しむから」

 その言葉は勿論、親としての気持ちを代弁したものであって、他意はない。霊夢も今更である。

 「親はいないの。いつのまにか博麗神社にいて、ずっと一人でくらしてきたわ。安心して、必ず魔理沙に怪我させ
た妖怪、謝らせに来るから」

 子供らしからぬ、含みのある表情で笑いかけ、霊夢は霧雨家を後とする。この歳でもう魔理沙のような綺麗な瞳は
出来ないのだなと思うと、些か自分でも悲しいものがあったが、自分はそれでも良いと感じる。よく考えて、擦り切
れて、世の中の汚いものに目を向けて、達観したような物言いで生きて行く。それこそが板についているし、そうで
なければ博麗の巫女など勤まらない。これからだって一人で暮らして行くのだ。魔理沙という友人が出来ようとも、
一人で。それに、何時までも純粋でなんていられない。純粋は心を殺す。何も疑わないその心は、自覚なしに寂しさ
を肥大化させて、圧殺してしまうから。

 「覚悟なさいよばか妖怪」

 誰にも味方しない為に、霊夢は仲間など作らない。それは本人の意思ではなく”そうなってしまうと博麗としての
役目が果たせない”故の、強いて言えば博麗としての意思。だが今回ばかりは例外だ。”捕食するならともかく”い
たずらに子供へ怪我をさせるなど論外。ましてそれが霊夢に近しい人間だったなど、話し合いの余地も無い。人里近
くの、血気盛んな妖怪を森の奥に突っ返すが如き気概で、叩きのめす。

 大人達の手前、穏便に済ませるとは言ったが、とんでもない。博麗霊夢はもっと感情的である。話し合う事は間違
いはないが、問題の根源と話し合いを持つとは説明していない。倒せずとも、陰陽玉の一発や二発ぶつけてやらない
限りは、気が治まりそうにないのである。

 霧雨家を出た霊夢はすぐさま事件のあった現場へと向かう。あまり空を飛ぶ人間を見慣れていない子供が、あれは
なんだと指をさし、老人があの紅白は博麗の巫女だと説明する。幻想郷のバランス装置。博麗大結界と幻想郷の調和
を担う機関の一。幼い霊夢の瞳には、目的達成すべし、という意思の強さが輝いていた。魔理沙のような純粋な目を
持てないとしても、博麗霊夢は、やはり乙女である。

 「魔法の森……あ、あそこかな」

 百メートル上空から幻想郷を一望する。妖怪山、霧の池に魔法の森に竹林。人里を中心とすると、それ等は視界に
入る。妖怪山の陰にある博麗神社は見えないが、今は問題ではない。目を凝らすと、森の入り口辺りにひっそりと建
物が見える。森の中だったならばきっと見つかり難いだろうが、そこは開けているので解りやすかった。

 『香霖堂』

 「かお……どう」

 店先まで来て、縦になった、これから飾るであろう看板を頭を傾げて読む。読めない。まぁそれはどうでもいい、
として霊夢は戸口をドンドンと叩く。何の反応もない。礼儀正しくしたのがいけなかったか、として霊夢は返事もな
いままに戸を開いて中へと侵入する。

 「これはひどい」

 散乱した道具、ガラクタ、ガラクタ、ガラクタ、道具。きっと魔理沙の蒐集癖はこの人間の影響に違いない、と霊
夢は勝手に思い込み、足元に気をつけながら奥へと進む。カウンターにも人はおらず、仕方なくその奥へと、なんの
躊躇いもなく入って行く。

 「あらいた」
 「……」

 そこには、背が大きく、布団に収まりきっていない銀髪の男が寝ていた。それだけなら良かったが……額にはスレ
たような傷が出来ており、はみ出した腕には、明らかな裂傷。猛禽類とでも戦ったかのような様相である。

 霊夢は頭を掻く。こんなもの、放置して居て良い訳がない。聞くところによれば魔理沙の知り合いであるからして、
これを助けても文句を言われる事はないだろう。霊夢は手際よく、手拭いと桶を探り当て表に出て井戸から水を汲ん
で来る。相当深い眠りについているのか、男は何の反応も見せない。会話を交わせないのは不都合だが、治療の段階
で眠っているなら好都合である。

 「……引掻き傷にしては大きい。やっぱり、でっかい蝙蝠ね」

 でっかい蝙蝠。霊夢より少し小さいぐらいの。これにやられたら大の大人も一溜まりもないだろう。どのような能
力なのか、傷口から謀ろうと試みる。

 「……相当深いけど、痛くないのかしら、この人」

 血の滲む部分を拭きながら、一人呟く。果してコレに勝てるかどうか。その辺りに居る妖怪とて、人間では太刀打
ち出来ぬほどの智慧と力を持ち合わせているのだ。それ等をひれ伏せるほどの力となると、霊夢でも不安はある。だ
が、恐くはない。

 「ん……うぅ……」
 「あ、起きた」
 「……魔理沙……?」
 「霊夢よ」
 「……いや何処かで見た記憶が……あぁ……博麗か……」
 「ごめいとう。動かないで。包帯巻くから」
 「なんだか解らないけど、悪いね」

 その辺りから、比喩でなく拾って来た救急箱から湿布薬の変わりになりそうな類を繕って宛がい、そのまま包帯で
巻いて行く。手馴れたもので、きつ過ぎる緩過ぎず、恐らく魔理沙では無理であろう芸当を難無くこなす。巻くのは
簡単だが、邪魔にならぬよう巻くにはそれなりの経験が必要だ。

 「キミは」
 「だから、博麗の霊夢」
 「ふむ」
 「貴方は」
 「霖之助だよ。森近霖之助。苗字は一昨日考えた」
 「そう」
 「何故ここに」

 「魔理沙がケガして、霧雨の店主がキレて、集会が開かれて、解決策を私がていあんして、私が状況をしらべよう
とこうしてジジョウチョウシュに来たの」

 「納得だ……魔理沙の、知り合いかい」
 「オトモダチよ」
 「そう、かい。博麗の巫女は人見知りと聞いたけど」
 「魔理沙が面白いから、付き合う気になったのよ」
 「良い子だろう」
 「面倒だけど」
 「そうだね。いや、とにかく、すまない。感謝するよ」
 「治療もしないで寝るなんて、どうかしてるわ」
 「はは……魔理沙を人里に届けるだけで力尽きてしまって。今更店主に顔をあわせるのも、引けてね」

 霖之助は上半身を起こし、霊夢と向き合う。魔理沙と変わらない年頃だが、魔理沙の数倍も生きているような、そ
んな錯覚を覚える貫禄。巫女服の少女が店へ買い物をしに来た時、とても印象に残っていた。

 「魔理沙の容態は」
 「熱が出てるみたい。バイキンが脳に入らなきゃいいけど」
 「不吉な事をいうね。でも、無事なんだね」
 「ええ」
 「なら、良かった」
 「何か食べ物作りましょうか」
 「いや、いらない。それより、事情聴取だろう?」
 「そうね。じゃ、喋って。ほら」
 「――魔理沙に劣らず変だねキミも……」
 「いいからぁ」
 「はいはい」

 霖之助は昨日の話を事細かに霊夢へと説明する。それを聞く霊夢は平静としているが、その中では言い知れぬ感情
が芽生えている事を、霖之助は肌に感じた。末恐ろしい。この年にしてこれほどまでに、妖怪じみた力を身につける
子。博麗という物に蓄積されていくその歴史と血。詳しい事を知らない霖之助も、それを知識ではなく、体感できる。

 「本当に吸血鬼ね。頑張って倒すわ」
 「ちょ、え? キミは何を言っているんだ。あんなもの、倒せる訳ないだろう」
 「なんで?」

 「いや、何でと言われてもだね……いいかい。吸血鬼が文献通りなら、とても普通の人間が敵う存在じゃあない。
夜の王さ。流水に尻込みし、ニンニクを嫌い、日の光を避けて十字架の前に敗退する。しかし夜は別だ。山すら砕く
豪腕を振るい、領地を拡大し、領民を得て、血の風呂で浴びるほど血液を飲む、そんな輩」

 「迷信ね。本当は私より小さな子よ」
 「そうなのかい? でも、見かけなんて意味はないんだ」
 「で、それを見た身としてはどうだったの?」
 「人の形はしなかったよ。ただ紅い光を放つ、大きめの蝙蝠だった」
 「何故攻撃されたのかしら」
 「ボクを半妖だと見抜いて、屈服させようとしたんだと思う」
 「それで?」
 「魔理沙を抱えて逃げようとしたボクを追ってきてね、途中でこの様さ。人里に入ると、途端追跡をやめたけれど」
 「……弁えてはいるのかしら。それだけになんか、絶対悪っぽくなくて面倒だわ」
 「変な事をいうな……」
 「ともかく、ありがと。安静にしてなさいよ」
 「無茶は止めるんだ。見た限り、キミは強いようだが……」
 「そうね。魔理沙の五千倍は強いわ」

 そこまで言うと、霊夢は治療に使った道具をテキパキと片付け、霖之助に背中を向ける。霖之助は、この背中が背
負っているものなど知らないし、霊夢がどのような気概で冗談じみた事を口走っているのかも、理解出来ない。しか
し、少なくとも霊夢は本気である。

 ……それが正しいか正しくないかは別にして、だ。

 「それじゃ」
 「宛てはあるのかい。無いに越した事はないがね」
 「私、勘が良いのよ」

 ガラクタを踏み越え、香霖堂の外へと出て行く。行き先は決まっていないが、少なくとも夜を待たねば相手は行動
すまい、と霊夢は考える。近辺の妖怪を統べて何を企んでいるかは知らないが、霖之助のような半妖にまで手を出す
のであるから、きっと手当たり次第なのだろう、とまで予測する。

 「そいじゃ、いきますかっ」

 楽園の巫女は空を飛ぶ。螺旋を描いて、紅白をはためかせ――そして、隙間に落ちた。

 「――え?」





 つづく
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コメント



0.2010簡易評価
12.無評価名前が無い程度の能力削除
一応気づいた誤字などを。
声の下方向へ → 声のした方向へ

それ等をひれ伏せる → それ等をひれ伏させる

ではないでしょうか。二つ目の用法は自信がないですが。
16.90名無しー削除
続きが非常に気になるので読んできますね(ぇ
18.無評価名前が無い程度の能力削除
アレが何でアレ → アレが何であれ

ではないでしょうか。洒落だったらごめんなさい。
27.無評価名前が無い程度の能力削除
>たびたび里の方に呼ばれはしたいた
していた?

>文々。新聞に乗る通りの事
載る?

>どうしても妖怪の方をもってやれなくなった
肩?
29.100名前が無い程度の能力削除
面白かった。
続きが気になるの私もよんでくるw