Coolier - 新生・東方創想話

禁忌「フォーオブアカインド」

2007/12/19 10:43:14
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Tick,  Tack, ゼンマイ時計の音。
Pit, Pat, 廊下に響く二人の足音。
Knock, Knock  地下の密室、その扉が叩かれる音。


ノックに気づいたフランドールは、
「どうぞーあいてるよー」とあどけない声で答える。
僅かの後、カチャリと音がして足音の主達がそろそろと入ってきた。
その二人組は扉の前に並ぶと、深々と頭を垂れる。

「ご用でしょうか。フランドール様」

恭しく尋ねるのは、楚楚としながらも鋭利な刃物を思わせる完全で瀟洒なメイド服、
もう一人は、どことなく緊張気味の門番役。中国的な服装に身を包んだ彼女の帽子には
“龍”の文字が燦然と輝いている。

「………………」
「………………」

二人は扉の前で畏まっている。身動きひとつせずに。

フランドールはこの密室の数少ない家具である、重硬なマホガニーの四つ足テーブル、
それに備え付けられた四組のクイーンアン アームチェアの一つに、
すっぽりと包まれる様に座っている。その姿はまるで西洋人形。

卓上には三叉の燭台が一つ。据えられた長めの蝋燭がゆらゆらと光を放っている。
その光に照らされて彼女の蜂蜜色の髪は柔らく輝き、白肌は闇からぼやりと浮き立って、
なによりも彼女の紅い瞳には、幼い顔立ちに不釣り合いなほど不敵な眼光がキラキラと輝いて、
暗闇の中、ひどく幻想的な微笑みを湛えていた。

「失礼します」

断りと共に歩を進めるメイド服と中国服。テーブルの脇へと歩み寄り控える。
依然、アンバランスなほど大きなテーブル、それに頬杖を突いたフランドールは、
一枚のカードを手にして卓上をじっと見つめている。
その手のカードは『スペードのJ』、そしてテーブルに綺麗に並べられたトランプ。
暫しの間、二人はそのままの状態で放置されていた。

やがて――

「あの、妹様。どういった、ご、ご用事なんでしょうか?」
言葉を詰まらせながら、ちょっぴりオドオドと中国服が尋ねると――

「んー、ちょっと待ってて。すぐ終わるから」

フランドールは手札を卓上の札に重ね、更に同じように何かの手順に従って
テーブル上の山札から一枚、同じように、また一枚と卓上に重ねていく。
やがて、みるみるうちにテーブルはカラフルな絵札で埋め尽くされていった。

「あら、フランドール様――それは『クロンダイク』ですね?」そう訪ねるメイド服。
「さっすが、咲夜。よく知ってるねー。そうだよー
 って、ここと、ここに置けば……こう動かして、これで、おしまいっ。
 やったーできたー」

バンザイしてキャッキャッとはしゃぐフランドール。
その様子を見たメイド服は“お上手ですわ”と労いを微笑みで伝え、
対照的に中国服は、状況が理解できず二人の間に視線を往復させるだけだった。

『クロンダイク』それは王道的なカード・ペーシェンス(一人遊び)の一種。
1枚から7枚までの場札、そして残りで山札を作り、それを一枚ずつめくり、色違い、
差数1の場合に場札に重ねていく。
これを繰り返し、規定回数以内で場札を崩せれば勝利。逆にできなければ敗北となる。
尤もこのゲーム、外界で何故か『ソリティア(一人遊びの総称)』と呼ばれるらしい。


「さてと……二人に来てもらった理由っていうのはね」


頬杖を付いて二人に視線を向けるフランドールは、どこか背徳的な笑みを浮かべていて。
卓上で揺らめく蝋燭は、柘榴のような瞳をふらふらと金色に輝かせ、
テーブルの向かいに立つ二人組の輪郭も同じように、炎に合わせ様々に陰影を変えている。
ごくり、と中国服の飲み込んだ唾が必要以上に大きな音を立てて響くと、
それを切欠にフランドールが口を開いた。

「別に大した用事じゃないんだけどね。
 ただ、暇だから『遊び』に付き合って欲しいってだけなの。ダメかな?」

甘いお菓子でもねだるように、上目遣いで二人を見上げるフランドール。
すると、

「うぇぇ~~ また【弾幕ごっこ】ですかぁー?」
と、ガックリ項垂れる中国服。日頃、どれほど非道い目にあっているのだろうか?
けれど、

「ちがうったら、たまにはもっと良いコトしようよー」
そう言ってカード一枚を親指と人差し指の間に挟み、息を吹きかけてクルクル回す。

「違うことと申しますと?」
判っていながら……メイド服はあえて『遊び』の内容を尋ねる。

するとフランドールは、パッと表情を明るくして、テーブルに身を乗り出して、
二人に向かって背伸びをするようにして。

「あのね、トランプ遊びに付き合って欲しいの。一人で遊んでてもぜんっぜん面白くないし。
 美鈴も知ってるでしょ? “ポーカー”って遊びくらい?」



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  †  †  †  †                               



とりあえず、というかお約束というか、中国服はあっと言う間に敗北した。

「ここは私一人で大丈夫ですから、咲夜さんは紅茶の用意でもしててください」

なんて格好をつけて勝負に挑んだまではいいのだが、
彼女自身、言うなれば運から見放され、むしろ不運を努力でねじ伏せてきたタイプである。
その自覚がありながら、手札に『2と4のツーペア』というチャンスが来たことを少しばかり
不自然に思うべきだった。

つまり“フランドールにはそれ以上の運が回ってきている”と疑うべきだったのに。

全てのコインを賭けた中国服。その眼前に開かれたフランドールの手札は『3と5のフルハウス』
額を射抜かれて、流血しながら崩れ落ちるリアクションがすごく似合う中国服の哀れな姿。
駆け寄ったメイド服の薄い胸の中で
「ごめんなさい、咲夜さん……妹様を、妹様のこと、よろしくお願いします」と
息を引き取る彼女の姿は、まるで某刑事ドラマの再現だったという。さらばチャイナ刑事。

「むー、遊びにもならないじゃないの、もう。
 ……でも、次は咲夜が遊んでくれるんだよね、そうでしょ?」
「ええ、美鈴の不始末は、私がきっちり取らせて貰いますわ」

瞳を赤く光らせてテーブルに着くメイド服。
テーブルには中国服が賭けてそのままになったコイン50枚が墓標のように立っている。
メイド服はそれを自分の前に引き寄せると、
「久しく忘れていましたが……いいですね、こういう賭け事は。心躍りますわ」と微笑む。

そんな言葉と裏腹に彼女の表情は真剣そのもの。容赦する気など微塵もないようで。
彼女の微笑からは、彼女の内包する純粋な殺気がふつふつと溢れ出していて。
けれどフランドールは、それを気にする風でもなく更に口元を歪めて嗤うと、

「だったらさ、もういっこだけ賭けて欲しいものがあるんだけど」

悪戯っぽく笑うフランドール。彼女のそれは文字通り小悪魔の微笑。
知りつつも応えずにはいられない魔力を帯びていて。

「さあ? 賭けられるものといえば銀時計と、お気に入りのナイフと私の命くらいしか無いのですが」
「そんなのいらないってば。私が欲しいのはね?
 ―― もし私が勝ったら、ここにお姉様とパチュリーを連れてきて欲しいの。
 あの二人とも勝負してみたいんだもん。駄目?」
「ご心配なく。もし私が負ければ、お二人とも直々に動かれるはずですわ。まあ――負けませんけど」
「やった。それを聞いて安心したよ。それじゃ、始めよっか?」


かくして二人のゲームが開始された。


今回はフランドールの希望で『ドローポーカー(クローズドポーカー)』に決定。
外の世界で、とりわけ日本で“ポーカー”と言えば、この『ドローポーカー』を指す。

「私がディーラーでいい?」
「ええ、全てフランドール様に、お任せします」

山札を手にしたフランドールは、自身とメイド服の手元へ交互にカードを送る。
5枚の札を手に取ってあらためると、フランドールはコイン五枚を場にベット。
メイド服も同額をベットし、カード交換フェーズへ移行する。

「私は二枚にする。咲夜は?」
「必要ありません。“このまま”で結構です」

ディーラーであるフランドールは手札にカードを二枚加えてフェーズ終了。
ベッティングインターバルへ突入する。
フランドールは既に場に置かれているコインに、更に5枚上乗せし、合計10枚をベット。

「私はこれでいいよ。さあ、咲夜の番」そういって、チェックを宣言。
「そうですか……それなら私はレイズですわ」

ハンド(役)に自信があるのか、メイド服は更に10枚を加え合計20枚のコインを場に重ねる。

蝋燭に照らされる彼女の視線からは、その“自信”を伺うことはできない。
一つ言えることは、彼女の手に収まっているカードがまるでナイフの様に殺気を帯び、
獲物を狙う猟犬の様に主の号令を待ちわびていること。そして、そんな獰猛なカードのご主人は、
やはり眉一つ動かさずにフランドールの目を涼しげに注視しているということ。

「ふふふ、どうされました? フランドール様」

余裕すら感じさせるメイド服の言葉は、すでにコールの催促に他ならなくて。
だから、フランドールも彼女に応えるべくコイン10枚を手にとって、
自身のハンドを確認し……少しばかり躊躇するそぶりを見せた後に……

「うーん、やめたっ、降りるわ。この勝負」

と、あっさり引いてしまった。

「…………あらあら、珍しく弱気ですわね。フランドール様。驚きましたわ」

たいして驚いてもいないのに、さも“それっぽい”台詞を零すメイド服。
しかも相変わらず彼女の冷笑からは、その真意を伺うことはできなくて。

「へへ、まだまだ勝負はこれからだよ」

フランドールは場のカードを回収して纏めると、再びカードを配っていく。
慣れた手つきで放られたカードは軽く回転し、互いの手元にピタリと止まる。
メイド服は配られた5枚の手札を一瞥し、フランの瞳を見やって、やおらコインを掴むと、

「まだ、2ゲーム目ですけれど……私も仕事がありますので早めに上がらせてもらいます。
 オープニングベットとして30枚。そして手札は“このまま”で結構です」

と言って、場に30枚のコインを引き寄せた。
この時点でフランドールのコイン残り枚数は40枚。
一気に決着を付ける、というメイド服の思惑が見て取れる。けれど……

「レイズ。さらに10枚上乗せするよ」

フランドールは残り40枚のコインを全てポットに移す。

「あら、私にそんなブラフが効くとお思いですか?」
「ブラフだと思うなら、受けてみればいいじゃない?」

眉一つ動かさぬメイド服の瞳に映るのは、刃の如く燃えさかる蝋燭の炎。
密室に充満する熱気のせいかフランドールのサイドアップポニーテールがフワフワ揺れている。
不確実性を消去するために、メイド服はフランドールの表情から意図を伺おうと試みる。
けれど、そのポーカーフェイスからは、やはり何も読みとることはできなくて。

「…………いいですわ。その賭け、乗りましょう。コール!!」

覚悟を決めたのか、威勢良く宣言し、手札をテーブルに広げようとするメイド服……だったが

「咲夜ッ、ちょっと待って!!」
「!?」

なぜか彼女を制するフランドール。

「どうされました? フランドール様」
「あのね、咲夜の手持ちのカード、当ててあげよっか? ズバリ、『10とQのツーペア』
 当たりでしょ? つまり、お得意の『ジャック』が手元に無いってこと――知ってるんだよ?」

驚きの表情を浮かべるメイド服。
対するフランドールは口の端を歪めて、ショーダウンを宣告する。

「『どうして判った?』って顔してるね。簡単なこと、だって私が持ってるんだもん。
 ほら、私のハンドは『JとKのツーペア』――どう? 私の勝ちだよ?」

勝ち誇るフランドール。
掌からテーブルにこぼれ落ちる『10とQのツーペア』
自信を両断された彼女の顔からは生気が失われ、血の気の無い青白い表情を晒していた。


「ふふっ、勝てると思った? でも、ざ・ん・ね・んでしたー 
 咲夜はちょーっとツメが甘かったみたいだねー」


結果、フランドールのコインは80枚。メイド服のコインは20枚。
そして、この回の勝負で雌雄は決してしまった。

勢いを失い、以降のゲームも全て敗北したメイド服の持ち金はゼロ。
意気消沈した彼女は、大きく息をついて椅子へと深く沈みこむ。

「まいりましたわ、まさかあれで負けるとは思いませんでした……」
「ふふーん♪ 咲夜は、まだ気付いてないの? 自分の敗因に」
「……敗因ですか?」

「そう。美鈴との勝負で出したカードよ。彼女の残したメッセージに気付かなかったの?」
「……美鈴のハンドは『2,4のツーペア』、フランドール様は『3と5のフルハウス』でしたね」
「それじゃ、私がフォールドした時は?」
「私は『6、8のツーペア』でした……これが何か?」

「まだ気付かない? 『ペア』ばっかり出てるってことに。しかも近い数字ばかり。
 そして咲夜と美鈴が来る前に……私が何で遊んでいたかっていうことに」

「それが、何か関係が……あ!!」

何かに気付いたようだが、メイド服はその先の言葉が続けられず。
フランドールは頷くと彼女の言葉を代弁するように続けた。

「そう。この山札は『クロンダイク』の後、十分シャッフルされず、
 同じ数字が固まっているところが残っていたんだよ。だから異様にペアが多かったんだね」

フランドールはテーブル上に散らばったカードを集めると、
まるで『七並べ』のように番号順に綺麗に並べていく

「ほら『クロンダイク』の後ってさ、スート毎にK,Q,J~,2,1って並んでいるでしょ?
 この状態でリフルシャッフルするとね……」

4つのスートを素早く集めて、その山札を二つづつ手にとると、
僅かに折り曲げてテーブル上にパラパラと落としていく。
交互に咬み合い一つ纏まった山札を左手に構え、今度はテーブル上に一列に並べていく。
フランドールの並べたカードは『K,Q,K,Q,J,10,J,10,……』と荘厳な配列。

「理論的には、K,K,Q,Q,J,J~,1,1って並びができるのよ。
 実際はこんな風にもっとバラけるけれど、同じ数字が固まりやすいのは間違いないでしょ?
 当然ペアも出やすくなるよね。それに気付いたから『強力なツーペア』が来るまで勝負を見送ったんだよ」

「そうですか……フランドール様は、初めからそれを狙って?」尋ねるメイド服。

「ううん。単なる偶然。狙ってたわけじゃないし、それに咲夜と条件は同じになるんだからさ。
 イカサマじゃないよね……でも、要は気付くか、気付かないか。それだけの差なんだよ。
 普段の冷静な咲夜なら気付いてたと思う。でも、美鈴を失ったことで冷静さを欠いちゃって、
 そんな簡単なことにも気が付かなかった。それが咲夜の敗因だね」

フランドールの言葉を聞いて、ふー、と大きく息をつくメイド服。
アームチェアの背もたれに深く体を預ける。

「お見事。完敗です……でも、それでもフランドール様は、お嬢様に勝つことはできませんわ」

「勝てるよ。今日は調子良いし、ぜんぜん負ける気しないもん」

ダメージがひどいのか、かなり辛そうに話すメイド服。
けれど、はっきりした口調でフランドールを否定する。

「いいえ、お二人ともフランドール様のことを大事に思って、そして大切にされているのですわ。
 だからフランドール様がどんなに強力で聡明であろうとも……お二人に勝つことはないのです。
 それだけは……ゆめゆめお忘れ無きように」


それだけを言い遺して、メイド服はこの舞台から姿を消した。



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  †  †  †  †                               



Pitter, Patter, シトシトと雨の音
Rumble, Rumble, ゴロゴロと稲妻の音
Knock, Knock,  そして再びノックの音。



フランドールの部屋を訪れる二人組。
彼女たちの顔を見て、フランドールは表情をぱっと明るくすると、
突然、さも愉しそうにはしゃぎ始めた。

「レミリアお姉様! それにパチュリーも! 来てくれたんだー嬉しいなー」

フランドールの喜び様と対照的に、二人の表情は能面の様に固く無駄口の一つも叩かない。
長身が手にしている三叉の燭台がユラユラと揺れて、彼女のかぶる紫色のナイトキャップ、
それに付いている三日月型のアクセサリーに反射して、キラキラと金色の光を放っていた。

「(コホコホ)これだけ騒げば、誰でも気づくわよ……」

不健康な青白い顔をした彼女は、咳込みながらボソボソ呟く。
その隣、有翼の吸血鬼はさも不機嫌そうにズイと前にでると、

「そうよ、随分と楽しそうなことしてると思って様子を見に来たの。
 でも、少々お遊びが過ぎるんじゃないかしら、フラン?」

そう言い放つのは薄桃色の召し物に身を包む“紅い悪魔”
彼女は、その小さな躰に似合わぬ精一杯の威厳を、胸を張り、背を逸らして、
これでもかと誇示している。

そんな風に、余り友好的でない二人組の言葉にフランドールは一瞬、大きく目を見開いて
キョトンとするも、すぐにニヤリと表情を崩して……その邪気を含んだ笑みを二人に投げかけると、

「えー、そうかなーこれくらい、いつものお遊びじゃない?」
「いつも言ってたでしょう。私はともかく、咲夜と美鈴は換えが効かない大切な従者なんだって」
「あはは、ごめんごめん。次から気をつけるからさ。だからさ、お姉様もパチュリーも遊ぼうよ。
 ね? さぁさぁ席について、席にー」

そういって、ケラケラと笑うフランドール。
そんな様子の彼女を目前にして視線を交わす二人。

「……パチェ。体調がイマイチみたいだけど、いける?」
「もちろんよ。それに、私たち以外に誰がやれるというの?、レミィ」

弱々しくはあるが、意志の込められた瞳を返す魔女服。
二人は頷くと、カツカツとテーブルへと近付いていく。

「あれあれ? お姉様もパチュリーも随分乗り気じゃない。
 フランは嬉しいなー こんな楽しい時間が過ごせるなんて。
 さあさあ、座って座って。時間はたっぷりあるんだし、めいいっぱい遊ぼう、遊ぼう?」



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  †  †  †  †                               



ショーダウンのかけ声と共に『Aのスリー・オブ・カインド』を披露するフランドール。
けれど、彼女の表情に余裕を見ることはできない。

「ど、どうせ、またブラフなんでしょ? 判ってるんだから! 
 こんどこそ、今度こそ、フランの勝ちなんだからね!!」
「……ふぅ、私はこれが精一杯ね……レミィは?」魔女服は『4のワンペア』を広げる。

自然とフランドール達の視線は相手の手元の『裏向き』に置かれたカードに集中する。
左から『伏せ札』『ダイヤの9』、『同5』、『同8』、『同6』。

いわゆる、『ポッシブル・ストレートフラッシュ』

優雅に羽を上下させ、しばし何かを考えるそぶりを見せた後、
その手で『ダイヤの9』を手にすると、伏せられたカードの下にそれを差し入れて、
スッと上に跳ね上げた。

綺麗に弧を描きテーブルに現れたそのカードは……『ダイヤの7』
この時点で『ダイヤのストレートフラッシュ』と、彼女の勝利が確定する。

「そ、そんな……」
「ふふ、今度こそ正真正銘のフラッシュよ。ストレートのおまけ付きだけどね。
 そして悪いけど、また私の勝ちみたいね?」

「む、むぅ、く……、くやしぃー」と憤りを隠せないフランドール。
テーブルに置かれた小さな手はグーに握られてフルフルと震えている。
勝者である彼女はその様子を見ていっそう機嫌を良くしたようで、

「ふふん、まさに『かかったな、アホが!!』ってところかしら? ダイヤーだけに」

両手をクロスしたポーズでご満悦の表情。頭突きや含み針などの弱点を克服し、
これを破った対戦者は一人もいない、とか。

「……ふぅ、そこまで強運続きだとイカサマだと思われるわよ、レミィ……」
「なによ、さっきのは結局、ノーハンド(ブタ)だったじゃない。それをハンドに見せるのも
 スタッドの戦略の一つなの!」
「……まったく、大人げないわねぇ」
「昔から言うじゃない? 『このストレート、容赦せん』って」
「……『巻末のお便り』にだけは注意した方が良いわ。あと『ファンクラブ』も作られないようにね」
「?、時々パチェの言うことが判らなくなるんだけど?」
「……判らなければ良いのよ、『レミ様』」

さて、今回のゲームは二人の希望により、スタッドポーカー(オープンポーカー)に切り替えている。
スタッドとは最初に配られるカードのみ伏せられて、二枚目以降のカードはすべて表向きに配られる
ポーカーのことである。互いに手札が見えているため“引き”の強さはもちろんのこと、ブラフや
乗り降り、コインの賭け方さえも重要な駆け引きのファクターとなる。

そしてこのゲーム、フランドールは2連敗中。
最初は「フラッシュに見せかけたノーハンド」で20枚、次は先程の「ダイヤのストレートフラッシュ」で
22枚のコインを失っている。元々、相手はカードの引きもズバ抜けて良い強運を持っているのに加え、
コインを一度に5枚、10枚と賭けていくのだから、フランドールはどうしても守勢に回らざるを得ない。

この時点でフランドールの残りコインは8枚。

このままいけば、二人のコインは次のゲームで搾り取られることは明白である。
実際……

『ショーダウン!!』

「さっさと終わらせましょ。私は『Kのワンペア』よ」
「残念、まだ終わらないよ! こっちは『Aと4のツーペア』だよ!!」
「『ノーペア』……だわ、むきゅー」

早くも3ゲーム目でゲームオーバーとなる紫色の魔女服。
この時点で彼女のコイン残り枚数はゼロ。
唯一先程と違うのは、このゲーム、フランドールの勝利だったこと。
フランドールのコインは辛うじて24枚まで回復した。けれども敵側のコイン残数は126枚。
依然としてフランドールが不利なのは変わりない ―――― ただし、

「…………、パチェ。大丈夫?」

ただし、二人とも手放しで喜べる状況ではないようで。
テーブルにぐったりともたれ、力なく崩れ落ちる彼女を気遣う。

「うう、不覚だったわ……」
「ごめんね、この勝負、やっぱりパチェには負担が大きすぎた?」
「ううん、レミィはいつも飛ばしすぎるって判ってた筈。なのに付いていけなかったのは私の責任。
 何とか後方支援したつもりだけど、不甲斐なくてご免なさいね……」
「いいえ、今までよくやってくれたわよ……貴女は」

彼女は苦しそうに肩を上下させ、聞こえる吐息も掠れて弱々しくなっている。

「気にしないで……レミィにそういって貰えると嬉しいわ……とても……」
「でも元々、私たち姉妹の問題なのに、貴女を巻き込んでしまった」
「私は貴女たち姉妹が好きだったもの。後悔はしてない……言いっこ無しよ」
「パチェ…………」
「(ゲホ、ゲホ)ごめんなさい……ちょっと、もう時間切れみたい」
「もういいから、しゃべっちゃ駄目よ、パチェ」
「私は十分満足してるし、貴女にも感謝してるわ…………図書館のことが気がかりだけど」

「あとは私に任せてくれればいいわ。私がなんとかするから……だから」
「ごめん、悪いけど、わたし、先にいくわね……」


そう言い遺して、彼女はこの場を去っていく。彼女を気遣い見送るさまを、
フランドールは興味深げにじっと見つめているだけ。
結果的に、この暗闇の密室に残されたのは二人の幼き吸血鬼。

「とうとう私たち二人きりだね。お姉様」

フランドールから口を開き、ようやく周囲の静寂は破られて。
けれどその相手は一言も答えない。

「もう、パチュリーは居ないよ。彼女の“コイン”を当てにすることはできないね」
「……気付いていたの? 私たちの戦略に」
「当たり前だよ。パチュリーの性格だったらあんなハイペースでコインを浪費しないでしょ。
 もっと したたか に駆け引きを繰り返すはずだもん。負けるとしたらパチュリーかなって
 思ってたから、居なくなってくれて、すっごく楽になったよ」
「……もしパチェとサシで勝負していれば、貴女が負けていたとでも?」
「そうだよ。パチェのスタイルって一番やっかい。ああいう弱点を突いて、
 けして負けない戦いをされるのって一番イヤだもん」

無言で顔を上げる彼女は大きくその羽を振りかざし、
ピンと延びたその羽には、素人目にも判るほどの魔力が満ちていく。
色素の薄い肌は僅かに紅潮し、真紅の瞳は更にその鮮度を強めて。
アームチェアに深々と座り直し背筋を伸ばすと、テーブルに置いた両手の指をしっかり組み直す。


「席に着きなさい、フラン。続きをしましょう」
「うんっ、望むところよ、お姉様?」
「そして次の勝負で、私たち姉妹、495年の確執に決着を付けましょう。
 お互い、持ちうる全てを賭けて。アナタが勝てば、この幽閉も今日で終わり」
「偶然ね。私もそのつもりだったのよ。気が合うわね、お姉様?」

フランドールは新品のトランプを取り出して封を切る。
ぴかぴかのトランプをテーブルに広げ、相手の見ている前でジョーカーを一枚抜き取ると、
破いて暗闇へと放り捨てる。52枚+1枚、その全てを蛇腹の様に集め、小さな手で器用にカードを操る。
滑らかにオーバーハンドシャッフル、続いてリフルシャッフルへと繋げ、止めに一発ショットガン。

トンッ、十分に攪拌されたデッキを相手の目前においてカットを促すフラン。
カツッ、閃くような手刀でカット。下半分を場札とし、上半分は破いて捨てる。

「先手はアンタに譲るわよ」
「それはどうも。お姉様」

一枚目。
二人の目前に一枚ずつクランベリー色のカードが伏せて置かれる。

二枚目ドロー。揺らめく炎が鋭利な影を切り裂いて。
フランドールの目前には、『伏せ札』と『ハートの4』
向かいの手札は、『伏せ札』『ハートの10』
ゴトリと音を立てて10枚のコインが場に置かれる。

「そんなに賭けるんだ?」
「当然じゃない。私に勝ったら紅魔館の全てが手に入るのよ」
「ふぅん、別に興味ないけどね」

三枚目。周囲を壁に囲われたような緊張感。
フランドールの手札は『伏せ札』『ハートの4』『スペードの4』
対するは『伏せ札』『ハートの10』『同J』
更に10枚のコインを場に置いて、

「そして貴女の一番欲しかった自由もね、チェック」
「うん、それが一番嬉しいかな。私もチェック」

四枚目。互いの思惑が迷路のように交差して。
フランドール、『クラブの4』 『伏せ札』『ハートの4』『スペードの4』
対面には『伏せ札』『ハートの10』『同J』『同Q』
互いにトリックのようなカードの並び。30枚のコインが場に置かれる。

「えー、ずるい。それじゃ、フラン払えないよ。もうコイン無いし」
「だったら、貴女の『自由』を賭けなさい。コイン一枚につき一年お外に出られない。どう?」
「乗った、コール!!」

五枚目。蝋燭越しの相手は陽炎のように揺らめいて。
フランドール、『ダイヤの4』 『伏せ札』『ハートの4』『スペードの4』『クラブの4』
この時点で『フォーオブアカインド』が確定。
相手は『伏せ札』『ハートの10』『同J』『同Q』『同K』。
『伏せ符』が『ハートのA』か『ジョーカー』なら、『ロイヤルフラッシュ』

お互いにフィクションでしかお目に掛かれない奇跡のハンドなれど、彼女達の強運を考えれば、
狙って出すことも十分あり得る。

更に50枚のコインが場に置かれる。

「これで合計100枚。この辺で止めておいた方が良いんじゃない?」
「どうかな? お姉様、ブラフが得意だからなー というわけでレイズ!」

フランドールは更に30枚のコインを賭ける。

「まったく聞き分けのない妹ね。貴女の敗北は既に運命付けられているのよ」
「だったら壊してあげるよ、そんな運命!!」
「貴女のために言っているのよ? 一度放たれれば私のカードは相手を刺し貫くまで飛んでいくわ」
「なんと言われようと、私の決意は変わらないわ!!」

語気を強めるフランドールの表情に迷いはない。

「フラン、最後に一つだけ教えて」
「なに? お姉様」
「どうして、こんなことをしたのかしら?」

「そんなの決まっているじゃない、つまんないんだもん。
 ずっとこのお部屋に閉じこもっていると退屈で退屈で気が触れそう。
 たまにはパーッと気張らしたいでしょ。自由に遊びたいの。それだけよ」

フランドールの声が残響となり、やがて周囲の沈黙に溶け込んでいく。
蝋燭によって壁に映る二人の影、貼り付けられたように身動きひとつしない。

「何をいっても無駄なのね」
「そうだね、決着を付けようよ。お姉様」
「いいわ。だったら私の屍を越えていきなさい」

最後のコールが宣言され、もはや二人に逃げ場はなく。

フランドールから自身の『伏せ札』をめくりハンドを披露する。
そこに現れたのは、『スペードのA』 つまり、

「私のハンド……『4のフォーオブアカインド』だよ。お姉様は?」

最悪の結果、つまり絶対に勝てないハンド『ファイブオブカインド』こそ避けたものの、
依然、不利な状態に変わりなく。
口の前で手を組んだ彼女は、フランドールをじっと見据えて微動だにしない。
彼女は『伏せ札』の上に、その小さな掌を置くとフランドールから見えないようにめくり
自身の眼前に持ち上げる。

「…………」

しばし、そのままの状態でカードをまじまじと見つめると、
一つ溜息を付いて、相手から見えないようにして、再び元の位置に戻した。

「? どうしたの?」
「……悔しいけど私の負けよ……」
「どういうこと?」
「……ノーハンドよ。良く見抜いたわね。ブラフだってこと」

彼女の掌の下、道化師が密かにあざ笑っている。

「え、え、え? それじゃ、私は……」
「ええ、アナタを縛るものは何もないわ。これで……自由よ」
「ほ、本当? それじゃ、いつでもみんなと遊べるの?」
「もちろんよ」
「やったー、お姉様。ありがとう。大好き!!」

テーブルに飛び乗ってそのままダイブ。
抱きついて、赤く彩られた衣装に頬を擦り寄せるフランドール。

「こらこら、フラン。はしたないでしょう」
「えへへー、良いじゃない。こんな時ぐらい。ね? お姉様♪」

嫌がるそぶりを見せるけれど言葉とは裏腹に
彼女の背中の羽は、そっとフランドールの小さな背中を包み込み、
彼女の両手は紅い衣装に顔を埋めてジャレまくるフランドールの金髪を優しく、優しく撫でつけている。

どこからか、パチパチパチ、と拍手の音。

「おめでとうございます」と、暗闇から現れる三人組。
彼女達の笑顔は全てフランドールに向けられている。

椅子の上で抱き合って、じゃれ合っている二人を取り囲むようにして、
三人組は笑顔のまま拍手喝采を続けている。
彼女たちの祝福にフランドールも心底嬉しそうな笑顔で応えて、そして心から感謝して。
うっすら涙すら浮かべながら、三人+一人にその素直な気持ちを告げる。

「美鈴、咲夜、パチュリーも、みんな来てくれたんだー 私……私、自由になったんだって。
 だから……だから私、いま、とっても幸せだよ?」


05



けれどーー


04


「やりましたね、妹様。
 この美鈴もうれしいッス。これからはいつでも遊び相手になりますよ~」

そう話すのは、中華風の門番衣装に身を包む、自分自身の姿。


03



「おめでとうございます、フランドール様。
 この十六夜 咲夜、以後も変わりなく、心を込めてお仕えいたしますわ」

そう話すのは、メイド服に身を包んだ金髪サイドアップポニーテールの吸血鬼の姿。


02


「フラン。遊んでばかりじゃ駄目よ。たまには図書館にいらっしゃいな。
 勉強を見てあげるから。本に親しむ生活っていうのも、結構、いいものなのよ?」

そう話すのは、身にまとう紫色の魔女服に不似合いな、七色の宝石羽を生やした幼子の姿。


01


「嬉しいわ、フラン。あなたが、名実共に立派な淑女になってくれて……本当に良かった。
 だから、これからは姉妹で、ずっと一緒にいられるわ……ずっと、ずっとね?」

そう話すのは、薄桃色の姉の衣装に身を包んでいる、フランドール=スカーレット、彼女自身の姿。


00



          Spell Bonus Failed!!






























墨を流した様な漆黒の空間に、ポツ、ポツ、ポツと火が灯る。


魔杖の先端に揺らめく炎を使い、消えてしまった蝋燭にひとつずつ点灯していくフランドール。
夜の眷属である彼女に本来照明など必要ないものだが、レミリアから貴族の嗜みだと
厳しく習慣づけられていた。

「まったくお姉様ったら、すぐ居なくなるんだから」

暗く寂しい密室に一人きりになったフランはポツリ、と呟く。

「……仕方ないから、一人で遊ぼ」

暇つぶしに『ソリティア』でも興じようとトランプを手に取ると、
フランドールは小さな掌でシャキシャキと器用にシャッフルを始める。

すると、コンコン、と扉を叩く音。

「はーい、開いているよー」と、元気よく返事するフランドール。
彼女の返事に応え、ギィと音を立てて扉を開け入ってきたのは……

蓬莱人『藤原 妹紅』だった。

「フラン、ご飯、できたから呼びに来たよ」
オタマを手にして、Yシャツ & もんぺ & エプロン装備の妹紅がフランの名を呼んでいる。

「判った。いま行くよー」
ぴょんと飛び跳ねて空中へ、くるくると宙返り。ピタリと妹紅の眼前に着地するフランドール。

「えへへー、着地成功!」
「おー、うまいうまい。お前さんは本当に元気が有り余ってるなー」
「うんッ!! いっつも元気いっぱいだよ!」
「あはは、そうかいそうかい。元気なことは良いことだよ。
 さてと、ご飯なんだけどお腹は空いてる?」
「もちろん! 妹紅のお料理、美味しいからねー」
「そいつは嬉しいね。さて、それじゃ、冷める前に上に行こうか」

差しだされた妹紅の手を握り、ニッコリと飛び切りの笑顔を見せるフランドール。
妹紅も満更では無いようで、まるで年の離れた姉のようにフランドールに優しく微笑みかける。

けれど、卓上のトランプを見るなり、
そしてフランドールの手にしているスペルカード、禁忌『フォーオブアカインド』、
―― それだけは『あの一件』の後も、誰も彼女から没収することができない唯一のカード ――
を見て、表情を曇らせる。

「フラン……何して遊んでたの?」そう妹紅は問いかける。
「うん? あのねー、美鈴と咲夜と、あとパチュリーと、それとレミリアお姉様と
 ポーカーで遊んでたの」と、妙にご機嫌なフランドール。
「……そう。それで、フランは何か……思い出した?」

問いかける妹紅の瞳は、僅かに赤く色味を帯びていて。

「別に。いつもと変わんない。いつもと同じ様にポーカーして、いつもと同じようにお姉様に
 勝って、そしていつもと同じタイミングでお姉様ったら消えちゃうんだから。
 私は、お姉様と……もっともっとお話ししたいのに」

妹紅は彼女の目の高さに合わせて屈むと、繋いだままのフランドールの掌を、
少しだけギュッと強く握りしめ、その唇を細かく上下に震わせている。

「ねー、妹紅。今日もお姉様達と一緒にお食事できないの? 
 昔みたいにみんなでお食事したいんだけどなー」

妹紅はフランの両肩をしっかりと包み込むと、瞳を潤ませて、押し殺した声ですべての真実を告げる。
けれど、そんな妹紅の悲痛な言葉もフランドールの耳には一片も届かなくて。

「なによ、妹紅。何言ってるのか、よく聞こえないんだけど?」

聞こえないのも当然。その可愛らしい両手で小さな耳をしっかり塞いでいれば。

「あはは、何にも聞こえないよ? 可笑しいね? あはは、あはは」

必死に語りかける妹紅の言葉は、密室の暗闇に空しく泡と消えていく。

「あー判った! また皆でお出かけしてるんだ! ずるいなー、もう」

そして、いつもの回避行動。諦めを覚えた妹紅は仕方なく、

「……そうだよ、今日も、みんな揃ってお外に出かけてるんだよ……ゴメンね」
「そうなんだ。それじゃあさ、妹紅からお姉様に頼んでおいてよー、明日はお出かけしないでって。
 それで、もっと、もっとフランドールに構ってよ、って。 ね、いいでしょ?」

期待を込めた瞳でのぞき込み、おねだりを続けるフランを悲しげに見つめる藤原妹紅。

『あの一件』以来、その性質を大きく変えてしまった紅魔館。
住み込みで世話役と監視役を勤められるのは死なない人間、つまり彼女以外不可能だというのが
一致した見解だった。
妹紅自身はどうかといえば、フランドールとの生活はまるで苦にならなかった。
実の妹が出来たように新鮮だったし、家族を持つことに喜びを感じているのは紛れもない事実。
けれど、この時だけは何度繰り返しても慣れることはない。
この行為を、いつまで続けなければならないか、そう思うと。

「……お願いはしておくけどさ、みんな色々と忙しいから……難しいかな。ごめんね」
「ぶー、つまんないのー」
「それより、さ?、上に行こう。折角の料理が冷めちゃうからさ」
「うんっ。行こう。今日のお料理なにかなー」

手をつないだままの二人。未だに傷痕の残る紅魔館の廊下を歩く。
カツコツと足音を響かせて、散り散りになったカーペットを軽快に。
突如、フランドールは手を離すと笑顔を振りまいてクルクル踊るようにスキップ。
妹紅も後を追いかけて、暗闇の中へと消えていく。

時間は矢の如く過ぎ去りて、けれど遡ることはけしてなく、過去を覆せるものは誰もいない。
彼女の抱える495年の葛藤に、完全回答を見つけるその日は来るのだろうか。


――――、――――、歓迎のベルはもう鳴らない
――――、――――、銀の時計はもう動かない
――――、――――、知識の墓場に永久の静寂を
――――、――――、紅の十字架に月光の祝福を



《fin》


質問されそうな内容に予め回答を。

Q.ロイヤルフラッシュが成立するのは、スペードのみでは?
A.全てのスートで成立します。

Q.>>「クロンダイクの後……リフルシャッフルすると……」これって本当なの?
A.試してみると実際に本編の様なツーペアが出たりしますが、実用性は“お察しください”レベル。
  むしろ、ストレートやスリーカードの方が多く出たりします。

Q.メッセージが永夜抄仕様なのは何故?
A.作者の好みです。

Q.フォーオブアカインドの分身は3人じゃないの?
A.フォーオブアカインドは同じランク4枚と任意の別カード1枚で成立します。

※ 2008/1/12 指摘箇所修正しました。
SOL
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コメント



0.1940簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
この数字なんだろうと思っていたら……、成る程。お見事です。
ポーカー好きの所為もあり、読んでいて熱が入ってしまいました。
駆け引き最高。ちなみに「”」は変換をすれば「“」になりますよ。
2.90おやつ削除
めっちゃ好きですこういう話。
こういうお話を紡げるようになりたい。
文字通りファンファーレの嵐!
フランドールの知性と狂気を、素晴らしく書き出されていると感じました。
肌がちりちりと焼けるような駆け引きはお見事の一言。
良き幻想を魅せていただきました。

4.100名前が無い程度の能力削除
これは……色んな意味でウマすぎる!
奇想まさに奇想。
5.90名前が無い程度の能力削除
これほど救いのない『禁忌』は久しぶりに読みました。
後味がいいのか悪いのか。私もフランの狂気に毒されてしまったようです。
6.無評価名前が無い程度の能力削除
グサリと突き刺さるようなお話でした。
まさに禁忌ですね。
10.100名前が無い程度の能力削除
なんと悲しいソリティア……スペルカード・フォーオブアカインド
から繋げてここまで切ない物語を描きだす手腕に脱帽。特に05からヤバイ。
知識不足でリフルシャッフルがどんな動作か分からなかったのが少し。
あとabsolute指定なんて方法もあったんですね。
11.無評価名前が無い程度の能力削除
んん?結局、紅魔館の他のメンバーをフランがどうこうしちゃったってのが『例の一件』てこと?
12.100三文字削除
これはやっぱり『そういうこと』なんですよね・・・
途中、カードにしては別れ際が大袈裟だと思ったけど、なるほど。
沢山の悲しみと目一杯の可愛さと痛ましいぐらいの狂気が詰まった妹様をありがとうございます。
13.90名前が無い程度の能力削除
ああダメだ、こーいう話に超弱いったらありゃしないんです…。
14.100名前が無い程度の能力削除
2007-12-19 06:27:25の名前が無い程度の能力です。点数入れ忘れていました。
16.80名前が無い程度の能力削除
スペルのカウントは面白かったです。

>一致した見解
紫・霊夢・慧音あたりですかね?
『あの一件』に対して情報が少なく、分かりかねるのですが
そういうことなんだと個人的には思いました。
18.90名前が無い程度の能力削除
恐ろしい。けど悲しい。
数字の意味が04でようやくわかったクチです。お見事。
21.90名前が無い程度の能力削除
ポーカーに例えてしまうとは…。
何だか分裂症的な怖さがありますね。
狂気の姿がなんとももの悲しいです。
24.100名前が無い程度の能力削除
すごく面白いけれど怖い話だと思った後にふと
>フォーオブアカインドは同じランク4枚と任意の別カード1枚
ってコメントや三人+一人って言い回し、ポーカーの最後で
人物が5人いるような描写になってる理由を考えたらもっと怖くなりました。
29.100名前が無い程度の能力削除
右側の数字が何かのミスだと思ってたんですが、なんとなく複線っぽいなと思ってたらこの終わり方。最初は魂を奪ってるのかと思っていた俺は某漫画のよみ過ぎだと思う。
ジョーカーを握りつぶしたお嬢様の心が…どうあっても救われないな
36.100名前が無い程度の能力削除
これは保存モノです
45.100名前が無い程度の能力削除
すげえ……右の数字が何なのか分からないまま読んでたら……
悲しいお話でした。
57.100名前が無い程度の能力削除
ダメだ、雰囲気とか真相の一端には確実に触れているんだが、完全な飲み下しが俺にはできていない。この文章を完全に理解するには圧倒的になにかが足りないと自覚した。読み手の力不足がひどく惜しまれる。
しかし、しかし。
フランのソリティア、その意味と痛ましさだけはよく理解できた。頭ではなく、心で。
58.無評価名前が無い程度の能力削除
ほんとのフランはどこにいる? 最後の一枚、アカインド成立の『任意の一枚』。このフランは、いったい誰だ?フランは本当に狂ってしまったのか。狂わざるを得なかったのか。終わりの無いラストゲーム。それこそが『禁忌』か。