Coolier - 新生・東方創想話

イーストパーク 無修正幽香版

2007/12/06 23:09:30
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『学校、学校、楽しい学校!』

 澄んだ声を弾ませ、リグル、リリカ、てゐ、チルノの4人は
私立T(東方)女子学園への飛行路を急いでいた。

 ふとリグルが口を開く。

「ねえ、今日の検査ってなんだろうね」

「さあね、でもあたいは検査でも頂点に立つ女よ!」とチルノ。

 苦笑しながらリリカは言う、

「良い検査であることを願うわ」

「はん、ただの検査に良いも悪いも無いでしょう?」

とてゐが嘲り、「なんですって?きっとあるわよ!」とリリカが反発すると、
即座にキャラが被っている二人の口喧嘩が始まった。

「あーあ、またこれだよ」

「うん、いつものことね」

 残された二人は慣れたようにぼやき、4人の登校は仲良く続いていった。


@@@@@


 体育館での全校集会。

「今日はふたなり検査を行います」と永琳は言った。

 数秒の沈黙、それを破ったのはリリカだった。

「やっぱりあったわ」

「何言ってんのよチンドン屋」とてゐ。

「検査の順位よ!こんなのどう考えても最悪じゃないの!」

「どうかしらねえ、私は普通だと思うけどー」

「普通って何さ…、とにかく賭けた500円渡しなさいよね」

「はあ!? やなこった!」

「こ、この嘘吐きウサギ!」

「うるさい地味女!」

 口論を始めた二人、そこに永琳の雷が飛んだ。


「はいはい静かに!黙らないと薬漬けにしますよ」

 果たして静かになった、効果覿面である。
 条件反射のように輝夜がアッと叫んだが、こちらは皆が無視した。


 永琳は満足そうに言葉を続ける。


「えー、霊力魔力妖力を持った者が成長すると、

 ふたなりというかたちで高まった力が発現する場合があります。

 今回の検査では皆さんのふたなり適正度数を、霊力以下略の個人調査と、

 面接官との質疑応答で割り出します」


 ここでリグルが手を上げた。

「はいリグル」

と永琳は指名し、対してリグルが発言する。

「ふたなり適正度数って何ですか?」

「ああ、良い質問ですね。プロジェクターを用意して」

 その言葉が終わると、体育館に集合した生徒たちの背後でウサギ達が動き回って、
永琳が下ろした白幕にいくつかのグラフが投射された。

 棒グラフはそれほど長さに差がなく、円グラフは50%程度の地点を示している。

「このグラフから分かるように、ふたなり適正度数が高い人妖は、

 そうじゃない人妖よりも5%近くふたなりになりやすいのです」

しかしリグルは怪訝な顔をする。

「あの、それって誤差の範囲内だと思うんですけど」

「いいえ違います。同じ5%の差でも、

50%と45%と55%では最大10%も差が生じるでしょう?」

「ええ、まあ」

「つまりそういうことです。

 話は以上、これからクラス別に検査を始めます」


@@@@@


 リグルのクラスはカウンセリング室で面接を受けることとなり、
今彼女の前に座る面接官、八雲藍は手始めにこう言った。

「みょんな検査で緊張しているとは思うがまあ楽にしてくれ、テンコー?」

「はい」

「よろしい、では最初の質問。いつも半ズボンを履いているのかい」

「そうですけど、何か問題でも?」

リグルが答えると藍は慌てて、

「い、いや気にしないで。それも個人の自由だ、テンコー?」と言った。

「はあ」

「次の質問。年上の女性に興味はあるかい」

 その言葉にリグルは、自分の保護者役となってくれている緑髪の女性を思い起こし、

「はい…、多分あると思います」と軽く頬を染めた。

「むう」藍は鉛筆のお尻で額をノックする。

「どうしましたか?」

「いやいや何でもないよ、何でも!

 …角(つの)を持った人と聞いて、誰を思い浮かべるのかな」

「人なら慧音先生ですね」

「自販機の中に人が居ると考えたことはあるかい」

「自販機って何ですか?」

 このような調子で質問は続き、その結果は―――


@@@@@


「どうしてなの~?」とリグルが嘆くものとなった。

 『あなたのふたなり度数は 100点満点中 87点です』
と、森近先生から渡された用紙には記されていたのである。

「どーだった、リグル?」

 チルノが暢気に尋ねて来、リグルは曖昧に笑って誤魔化す。
 そんな二人の背後を、今日も仲良しのユキとマイが、

「ふたなりだなんて最悪だよねー、マイ!」
「…ゲイね、ユキ」

 なんて言いながら通り過ぎ、リグルは表情を引きつらせた。

「…?」チルノはその様子を怪訝に思う。

「と、ところでさ!チルノはどうだったの?」

「あたい?あたいは76点!」

 ざわ…
       ざわ…

 …教室の雰囲気が、瞬時に無機質なものへと変貌する。
 てゐがその中でチルノに近寄り、

「あんたとも今日限りだね、今まで楽しかったわ」
どん、と小さな体を突き飛ばした。

「ちょっと、何するのよ!」
当然チルノは激昂する。

「だってあんたの傍にいたら危険じゃない。具体的には貞操の危機」

「そーなのかー」とルーミアがのんきに言った。

 感情的になったリグルがそれに反論する。
「そんなことないよ!第一あの変な数値が高いからって、ふたなりになるとは限らない!」

「最大で10%も違ってくるのよ、迫害するには十分な理由だと思わない?」
てゐは半回転し、
「ねえみんな!」
とクラスメートに問うた。

 皆は最初黙っていたが、やがて誰ともなくリグル達から離れて行き、
てゐの方へと集まり始め、終にはリグル、チルノ、リリカ、ルーミアの周囲にぽっかりと穴が開いてしまった。

「ルーミア、あなたはどうするの?」
 同級生の誰かが差し出した人参ジュースをストローで飲みつつ、肩肘を突いたてゐが威圧する。

 ぼんやりとした調子でルーミアは答えた、
「んー、リグル達は友達だから」

「ルーミア、リリカ…ありがとう」と感激するリグル。

「気にしないでねー」
「………」
 ルーミアとは対照的にリリカは黙り込む。

 しかし、
「どうしたの、リリカ」
と怪訝そうにチルノが言い、リリカは微笑んで
「大丈夫、私はあなた達の味方だから」と答えた。

 リリカはそれからてゐに向き直り、
「せっかくのお誘いだけど、私は辞退させてもらうわ。
 …ウサギでも食ってろニンジン女」

「いや、別にあんたには聞いてないし」
てゐは心底意外そうにそう返し、この詐欺ウサギ!とリリカは地団太を踏む。

「あの…僕の授業はどうなるのかな?」と森近先生がここでおずおずと尋ね、

『先生は黙ってて』と皆に一蹴された。

 その後すぐに、リグル達四人は早退した。


@@@@@


 所変わって夢幻館。
 ここへ帰宅したリグルは幽香に、学校であった出来事を話していた。

「…それでね、後は大ちゃんも味方になってくれたんだ」

 そう、と幽香は軽やかに微笑んでリグルに問う。
「所でリグル自身は、ふたなりについてどう考えているの?」

「え…、いいイメージは無いよ、ふたなりのせいで僕達は村八分になってるんだし」

「私が訊いているのは、もっと直接的な印象よ」

 リグルは少し黙ってから、
「正直、ちょっと気持ち悪いかも」ぽつりとこう答えた。

 幽香は困ったように苦笑する。
「最初はそれで構わないのよ、違うものを受け入れるのは割と難しいそうだから」

「うん…」

 浮かぬ顔のリグルに対し、幽香は少し意地悪な表情を浮かべる。
「で、リグルは私にどうしてほしいの?」

「はい?」

「リグルが望めば、私は大体何だってしてあげられるのよ。
 特に荒事なら、ね」

「だ、駄目だよ!幽香さんがみんなをいじめたら大変なことになっちゃうよ!」
 慌てるリグルは、それに、と言うと、
「これは私達の問題だから、できるだけ私達生徒自身の手で解決したいんだ」

 幽香は感心して言う、
「ふうん、まあ思うようにやってみなさい」

「うん、私がんばる」
 リグルはぐっと拳を握り締め、幽香は目の前の相手に飛び掛って撫で回したい気持ちをぐっと抑えた。

「ふふ、硬い話はこれくらいにして遊びましょうか」

 そのとき、二人の間に一体の影がさっと割り込んだ。
「幽香様、お遊びの相手ならこのエリーが」

「門番に戻りなさい」

「うう、理不尽だ…あんなに一緒だったのに~」
 エリーは泣きながら去っていきました。

「ちょっと可哀想かも」と見送るリグル。

「放っておきなさいよ、すぐ直るから。それよりもリグル、宇宙人が倒せないんだけど」

「バブルリードを使ってください。でも四発以上外しちゃダメですよ」

「やってみるわ………ちょっとリグル、これ当たらないんだけど」

「うーん、E缶覚悟で接近戦しかないですね」

「もう無いわよ」

「…慣れてください、としか」

「えい、このおっ…あ」

ティウンティウンティウン


@@@@@


トントントン…グツグツグツ…シャッシャッシャッ…

「う~ん…」
 翌朝、リグルは軽やかに流れる音たちによって普段より早く目覚めさせられた。

 服を着替えた後に食堂に下りて行くと、そこには既に朝食が並べられており、
それらは何故だかいつもより美味しそうに見えるのだ。

「エリーさん、今日は早いんだね」キッチンに向けてリグルが呼びかける。

 すると、
「私は門番じゃあないわよ」との声を朗々と響かせ、向日葵柄のエプロンを付けた幽香が登場した。

「え、幽香さん?じゃあこの朝ごはんって…」

「久しぶりに作ってみたのよ。今日は色々頑張らないと、でしょ」と幽香は片目を瞑ってみせた。

 そして、リグルがいただきます、と食事を始めたのを幽香は見て取り、人差し指をぴんと立てて献立の解説を始める。

「しじみのお味噌汁に、軽く炙ったアジの干物とパリパリの焼き海苔。冷奴には薬味を乗せて、主食は白米のご飯ね。
 
 特に、藍も認めるこの豆腐が、きっとあなたの力に変わるはずよ」

 リグルはただ一心に目前の朝食を食べる。食べる。食べる。
 やがて気付いたように顔を上げ、
「凄く美味しいよ…、ライジングッドだよ幽香さん」と明るく笑った。

「ありがと」
 幽香も笑みを返し、

「エリーが言っていたわ。
『早起きはお金には代えられない価値がある、なぜならば美味しく作った朝ごはんをじっくりと味わえるから』」

 と続けてのけた。

 ちょうどその時、当のエリーも食堂に姿を現した。
「わあ、幽香様の手料理なんて久々ですねえ。もう楽しみです」

 しかし幽香は、
「ああ、エリーの分はあっち」と戸棚の食パンを指し示した。

 エリーは悲しみと共に、
「あなたって人はあああ!」とパンを咥えて走り去りました。

 しばらく後にリグルは食事を終える。
「ごちそうさま。じゃあ行ってくるね、幽香さん」

「気をつけてね、リグル」
 少し心配そうな微笑をもって、幽香はリグルを送り出した。



 パンを食べ終え、戻ってきたエリーが幽香に問う。
「ところで幽香様は、ふたなり検査を受けたことがおありですか?」

「昨日の話を聞いていたの?」

「少し小耳に挟んでしまいまして」

「そう。私は94点だったわ」と幽香は何でもないように言った。

「まあ花の妖怪ですものねえ」

 幽香は軽く頷いて、
「あなたの朝食、そこに用意してあるわよ。冷める前に食べなさい」
 と、リグルの食べたものに寸分違わぬ食事を指し示した。


@@@@@


 その頃、学校ではてゐが新聞部の射命丸文を呼び出していた。

「こんな朝早くから、一体何なのでしょうか?」文はそうはっきりとぼやく。

「簡単な用件よ」とてゐは言う。
「あなたの新聞で情報操作を行いなさい。ふたなりどもが立場を失くす記事を書きなさい」

「あ、お断りします」文は朗らかに一笑する。

「どうして?報道部は既にOKを出したわ、あなたも後の栄達は思うがままなのに」

「新聞は支配者の道具ではなく、民衆の媒体です。そこを曲げれば、私が私ではなくなります」

「あそう。もういいわ」

 興味を失ったてゐが片手をひらひらと振ると、二人の襲撃者が文の両手をそれぞれ掴んだ。
 不意を突かれたとはいえ、その速度は文にも知覚できはしなかったのだ。

「悪いわね、紅魔館の風紀を守らなければならないのよ」右手側はレミリア、
「さあさあ、悪い子はどんどん壊しちゃうからねー」左手側はフランドールであった。

 部屋から連れ去られる直前に文は叫んだ、
「文々。新聞はあっ!文々。新聞は弾圧に屈しないっ!報道の自由はあっ我々の」

 そんな気高き烏天狗の気配も、やがては闇に溶けて消え、
静寂の満ちた教室内で、てゐはおもむろに口を開く。

「ユキとマイで、反逆者達を探しに行きなさい。奴等の足を止めた後、全軍で総攻撃をかけるわ」

「わかった」

 素直に頷くユキだったが、一方のマイは腕を組んで支配者に問いかける。

「幽香が出てくるかもしれないけど、そうなった場合はどうするの?」

「こっちには何百もの戦力があるのよ、不意を討って大技を叩き込めばいいだけのことだわ」

「…確かに、乱戦なら隙もできるかもね」とマイ。

「分かったならいってらっしゃい、戦果と戦火を期待するわ」
 てゐは平坦にそう言うと、一瞬だけ不敵な笑みを零した。


@@@@@


 リグルはチルノ、リリカと合流し、魔法の森を探索する。
 大妖精とルーミアは別行動であった。

「ねえ、今日も学校があるはずだけど」とリリカがぼんやり呟く。

「あっはっは、今更サボる位へっちゃらだって!レティは怖いけどね!」

 チルノは大口を開けて笑うが、リリカは首を横に振った。

「違うよ、そうじゃなくてあの三人も今日休んでるとは限らないわけじゃん?」

 リグルは腕を組んで、
「うーん、でもこうみょんなことに発展したんだから、先輩達が商売をしてる可能性は高いと思うな。
 それにもし居なかったら、また夕方にでも出直せばいいわけだし」と言った。

「夕方はなんだか不安ね、てゐ達のこともあるから」とリリカ。

 リグル達がそうこう言っている内に目的地へと到着する。
 魔理沙の家だったが、扉の横には『何でも屋 ブラック商会霧雨堂』との看板が掲げられていた。

 チルノが景気良く扉を開け、皆で連れ立ち中へ入る。
 物々の溢れたカウンターから「いらっしゃいだぜ」と魔理沙が声をかけた。
 魔理沙の左右には人形の手入れをするアリス、読書を嗜むパチュリーが座している。

 並んだ二年生達を見て、リグルが小さな体をさらに縮める。
「あのう、お願い事があるんですけど」

「話を聞きましょうか」アリスがそう言って指を振ると、奥から人形がリグル達に紅茶を持ってきた。
「落ち着いて話してみて」

「はい、ありがとうございます」
 優しい香りの紅茶をリグルが飲むと、暖かみがじんわり体の中に広がった。
「てゐ達のような、ふたなりが嫌いな人妖から守ってほしいんです」

「あー、今大変なことになってるらしいな」と魔理沙が頭をぽりぽり掻く。

「危険ね、どう考えても戦力比があり過ぎるわ」とアリス。

 パチュリーがはらりとページをめくった。

「なんだ、魔理沙達も案外怖が…むぐっ!?」
 チルノの口をリリカが慌てて塞ぐ。
「き、気にしないで話を続けて!」

「私達も頑張ってお手伝いはします!どうか先輩達の力を貸して頂けませんか」

 リグルの言葉に魔理沙が、
「でもお前なら幽香に頼めばいいんじゃないか」
と怪訝そうに言い、アリスが隣から口を挟む。
「これは生徒の蒔いた種よ、ならば同じく生徒が刈るのが道理だわ」
「ふうん、そんなもんかね…ちょっと待ってろ」

 そう言うと魔理沙は店の奥に引っ込んでしまった。
 不安そうな顔をするリグルに、アリスがにこりと笑いかける。
「大丈夫よ、魔理沙はきっと引き受けてくれるわ」

 また紙同士の擦れる音がした。

 戻って来た魔理沙は「お待たせ、引き受けるぜ」と言うやいなや、リグルに一枚の紙を差し出した。

「わあ、ありが…」
 言葉の途中でリグルの表情が固まる。
 受け取った紙には次のようなことが書かれていたのだ。



 請求書
 リグル・ナイトバグ様
 下記の通りご請求申し上げます

 護衛代(魔理沙)   幽香のブラジャー
  〃 (アリス)   幽香のパンティー
  〃 (パチュリー) 幽香のネグリジェ
 手数料        幽香のソックス

 合計         幽香の下着等4点



「なになに、見せて…うわあ」とリリカは眉を顰め、
「ネグリジェって何だー?」とチルノは不思議がる。

「ちょっと魔理沙、何書いたの?」
「ほらよ、コピーだぜ」
「………」
 アリスが請求書を黙読し始めると、次第にその顔を真っ赤に染めて行き、遂にはカウンターを手の平で強く叩いた。
 ばん、という音と共に、積み上げられた本が揺れる。

「な、な、なんてもの欲しがってるのよあんたはー!」

「大声出すなよアリス、だって相手はリグルだぜ?絶好のチャンスだぜ?」
 いい笑顔の魔理沙はびし、と親指を立てる。

「あのねえ、いくらなんでも破廉恥過ぎるわ!」

「そんなこと言って、幽香の下着なんて今しか手に入らないぜ。お前だって興味はあるんだろう」

「う…、それはまあ、貴重品には違いないけど」

 真面目な思いが揺らいだアリスに向けて、魔理沙は言葉を畳み掛ける。

「私だってパンティーは捨てがたかったが、わざわざ譲ってやったんだぞ。
 魔力だって採取できるぜ、桃色のレア物がな」

「………」再び黙り込むアリス。

 パチュリーは本に集中するかのように、ただ細目で行を追っていた。

「そんなわけで頼んだぜリグル、お前が頼めば幽香だってイチコロだしな…?」
 魔理沙はリグルの様子がおかしい事に気付き、いぶかしむ様に言葉尻を窄めて行った。
 俯いて震えるリグルはやがて顔を上げたかと思うと、
「ふざ、けるなあっ!そんなこと絶対にさせるもんか!」
 と叫び、魔理沙に向けて弾幕に怒りを込め放射した。

「ちょっとリグル!?」とリリカが驚く。
「おおー、やっちゃえリグル!」チルノは無邪気に喜んでいた。

魔理沙は何故か嬉しそうに、「ああそうかい、喧嘩ならこいつで買うぜ」とミニ八卦炉を懐から取り出し、
「マスタースパーク!」の光によって、リグル達を店内から流し出した。



 それから数分後、森を歩きながら最初に言葉を発したのはチルノだった。
「あーあ、酷い目にあったね!」
 口ではそう言いながらも、全く気にしてはいない様子だ。

 それに対しリリカは、
「本当よ!もっといい方法があったでしょうに…」と実に不満そうな調子で言った。

「何だよ!じゃあ幽香さんのその…、し、下着を魔理沙に渡せっていうの!?」
 とリグルは怒るが、リリカは溜息をついてこう諭す。
「そうじゃないでしょ?適当な下着をどこかで買って、私達が魔力を込めれば上手く騙せたんじゃないかって事よ」

「おお、その手があったのか」とチルノが感心する。

 しかしリグルは、
「それでも…、それでも私は、幽香さんを裏切るのは嫌だよ」と前を向いて言い切った。

「…はあ」
 リリカはまた溜息をつき、
「仕方ないわね、あんたは幽香ののことになると途端に強情になるもの」と苦笑した。

「リグルは幽香のこと大好きだもんな!」とチルノも嬉しそうに笑う。

「…うん」
 二人の言葉に、リグルは少し恥ずかしそうに微笑んだ。

 ここでリリカは急に真面目な顔をし、
「ところでリグル、幽香の胸ってどのくらいあるの?私はDとか89とかって聞いたけど」と尋ねた。

「え…、もっと大きかったよ?」
 とリグルは言ったが、その言葉にリリカが驚愕した。

「もっと…大きかっ『た』…? リグル、あんた…」

 失言に気付いたリグルは赤面すると、そのまま慌てて言い訳を始める。
「ち、違うよ!リリカが考えてるようなことなんて何もしてないって!ただ、いつも見てるから…だよ」

「ねえ、二人とも何言ってんの?」
 と何も分かっていない様子のチルノが言った時、
 三人の前の茂みががさり、と動いた。

 咄嗟に体を硬くするリグル達だったが、茂みの中の影は三人が覚悟を決める前に獣道に飛び出して来た。

 それは人間の女の子だった。


@@@@@


 一方、大妖精とルーミアはラジオ番組に出演していた。

 スタジオ内で二人は神綺と向かい合っており、録音の始めに、
「神綺さまの、今宵も安た~い!」
 とパーソナリティーの神綺がこの番組名をマイクに向けて元気良く喋った。

「さてさて、今日は悩める子羊ちゃんが二人、このスタジオにやって来てくれてま~す。
 だからこんな朝早くに録音しているんだけど、これってみんなには分からないよね。
 ごめんね、お母さん魔界神だから…、ごめんね」

(…。なにがなんだか、わからない…)と大妖精は思ったが、決して口には出さなかった。

 隣でルーミアが、「魔界神なのかー」と感心したように言う。

「大妖精ちゃん、ルーミアちゃん、それにみんな!お元気ですか~?」
 神綺が問いかけ、二人はそれぞれ答えを返す。
「あ、はい。元気です」
「元気なのだー」

「今日二人は、どんな悩みがあってここを訪れてくれたのかな」

「はい、ふたなりの人妖が嫌われることについて困ってるんです」と大妖精。

「うん、昔からある問題ね。どうしてそのことに関わっちゃったの?」

「はい、学校でふたなり検査がありまして…」
 大妖精の言葉は、途中で神綺の言葉に遮られた。
「まあ、アリスちゃん達の学校で!?み、みんなの結果はどうだったの?
 アリスちゃんは夢子ちゃんはユキちゃんはマイちゃんはっ!?」

 アホ毛を揺らし、身を乗り出してテンパる神綺に、大妖精は体を引きながら答える。
「わ、私は知りませんよ。プライベートな事ですから」

「そんなっ…うう、みんな学校で苛められてたりしてないかしら…お母さん心配だわ…」
 神綺はそう言うと、しくしくと泣き出してしまった。

「あの、だからこそこの問題を解決しなくてはいけないのでは」

「そ、そうよね。じゃあ…、学校の生徒をみんなふたなりにしちゃうのはどうかな?
 私の創造する力を使えばできるけど」

「うーん、それだとこんどは学校全体が差別されちゃうと思います。
 それに保護者の皆さんも怒りますよ、絶対に」

「だったらね、PTAで抗議活動をするのは?」

「そんな恥ずかしいことしたら、きっとアリスさんが黙ってませんよ。
 個人的にもやめてほしいです」

「あう…、万策尽きちゃったよう」神綺はまた悲しげな顔をした。

「ええ、もうですか!?神綺さまは一応神様でしょう?」

「そんなこと言われても、神様だって人間だよう…」

「いえそれは違います」大妖精は真顔を横に振る。

 ここで今まで黙っていたルーミアが、
「とにかく、みんなで良い方法をかんがえていこうよ。きっと大丈夫だと思うな」
 と、場をふわりと和ませてくれた。 

「そうだね、これからもっと頑張って…」
 しかし大妖精がそう言い掛けた瞬間、
スタッフの向日葵妖精がスタジオに入ってきて神綺に何事かを耳打ちした。

 すると神綺は申し訳無さそうに、「そのね、もう時間みたいなの」と言う。

「ええっ、まだこれからなのに」
 大妖精は文句を抱くより先にただ驚く。

「ごめんなさいね、そもそもふたなりって放送禁止用語だったみたい」と神綺は頭を下げる。

 呆然とする大妖精、その隣でリボンを解いたルーミアが「がっでむなのかー」と呟いた。

 それからはまた泣きそうな顔で謝っていた神綺を宥めつつ、二人はスタジオを後にした。


@@@@@


 茂みから出てきた女の子はリグル達を見た感じとても怖がっている様子だったので、
リグルが辛抱強く名前を聞き出した時にはもう二十分ほどが経過していた。

「私、名前は、みさです」と女の子は俯きながら途切れ途切れに呟いたので、
もしかすれば答えなければ殺されると考えたのかもしれなかった。

「みさちゃんっていうんだね。どうしてこんなところに来ちゃったの?」リグルは微笑みながら問いかけた。

「…お母さんと、はぐれちゃって」ぽつり、と彼女は答える。

「そうなんだ。…ねえ、もし良かったら、里まで送ってあげようか?」

「やだ!」突然みさは叫んだ。

「ど、どうしてさ」
 明確な拒絶に、リグルは衝撃を隠せない。

「お母さんが言っていたもん、妖怪は人間を食べちゃう悪い奴等だって!」

 その言葉にチルノが怒って言い返す。
「人間なんて食べないって、気持ち悪い!」

「私から見たら、妖怪のほうがよっぽど気持ち悪いわよ!」とみさも負けてはいない。

「何さ、性格悪いと嫌われるんだぞ!」

「何よ、いかにも馬鹿そうな顔しちゃって!」

「はいはい落ちついて」
 あわあわ、と慌てるリグルを尻目に、リリカがぱんぱん、と両手を叩いて二人の間に入る。

「チルノはちょっとしたことでムキにならないの、一応お姉さんみたいだし」

「むー」とチルノは頬を膨らませて黙り込む。

「みさちゃんもこのままだと困っちゃうでしょ?とりあえずお姉さん達と一緒に森を出よ、ね」
 リリカはそう笑いかけるが、
「この妖怪、なんだか地味…」とのみさの言葉に頬を引き攣らせた。

「このガキ、下手(したて)に出てれば調子に…」
「ま、待ってよリリカ!チルノと同じことを繰り返すつもり!?」とリグルは妖力を集め始めたリリカを説得する。
「ふん、じゃあリグルが面倒見なさいよ、私はもう知らないから!」

「…うん、わかった」リグルは真面目な顔で頷き、
「危ないからちゃんと付いて来てね、みさちゃん。手、繋ぐ?」と文字通り手を差し伸べたが、

「一人で歩けるもん」
 みさにはぷい、とそっぽを向かれてしまった。

「…そう、僕も気を付けるから、みさちゃんも気を付けてね」とリグルは眉尻を下げた。

 四人は森の外へ向けて歩み始めたが、リグルは何かとみさに話しかけていた。
「好きな食べ物は?」「妖怪の食べないもの」「趣味とかは?」「話して理解してくれるのかしら」
「…あはは、友達とはどんなことして遊んでるの?」「友達を食べるつもりなのね」
「妖怪だって、そんなに捨てたものじゃ…」「絶対嘘」。

 このように酷い調子の会話であったが、やがてみさが独り言のように呟いた。
「どうして私なんかに構いたがるのよ、全然素直にしてないのに」

「それは慣れてるからだよ。素直じゃない人が身近にいるんだ」リグルは嬉しそうに言う。

「ふうん、困ったりしてるんじゃないの?」

「ううん、全然。大切なことはちゃんと伝えてくれるし、それに…」

「な、なに?」

「素直じゃないところも、魅力の一つだと思うから」

「そ…、そうなの。…妖怪でも、誰かを大切に思うのね」

「うん、人間と同じ…って言ったら、やっぱり嫌かな?」

「…別にいいわ」

「ありがとう」
 リグルは柔らかに微笑み、その様子を見たみさは顔を見られないようにそっぽを向いた。

 しかし二人の距離が近づきつつあったその時、
「リグル危ない!」とチルノがリグルの上に飛び出し、彼女の胴に魔力弾がダース単位で命中した。

 チルノは後方に吹き飛び、木の幹に頭を当てて昏倒する。

「なんてこった!チルノが落とされちゃった!」とリグルが大声を上げ、
「この人でなし!」とリリカは攻撃のあった方角を見上げる。

 そこには、ユキとマイ、二人の魔法使いの姿があった。

「ユキ!」と黒い少女が快活に、「…マイ」と白い少女が冷めた小声で、それぞれ自分の名を喋り、
「私達仲良し魔女っ子さ!」と今度はユキだけが両手を上げて言った。

 その後すぐにユキはマイへ向き直る。
「ねえマイ、どうして声を合わせてくれないの?」

「嫌よ、恥ずかしいもの」と言ったマイはほのかに頬を染めていた。

「てゐの差し金ね、あんた達!」リリカが問いかけ、

「そうよ」とユキが、「答える必要はないわ」とマイが同時に答える。

「リリカ、援護をお願いできる?それと、みさちゃんをお願い」リグルが決意の表情を浮かべる。

「突っ込むつもり?あの二人相手に?」心配そうなリリカ。

「実力差が開いているからこそ、最初から全力を出す以外に勝つ方法は無いと思う。
 接近戦なら苦手だろうしね」

「…そう、みさのことは任せなさい」
 リリカはスペルカードとキーボードを顕現させる。

「じゃあ、行ってくる!」
 リグルが羽を広げて空に飛び立つ。

「突っ込んできた!?マイ!」
「落ち着いて。二人で迎撃するわよ」
 ユキは炎弾、ユキは氷弾で弾幕を展開し、その矛先をリグルに向ける。
 
 赤と青の扇翼がリグルを飲み込もうとした時、
「鍵霊『ベーゼンドルファー神奏』!」とリリカがスペルを発動させ、リグルに向かう弾の大半を相殺した。

 リリカの援護射撃を受けながらリグルは魔導の波を越えて行き、ユキとマイの斜め上方に位置すると、
片足を突き出し飛び蹴りの体勢を取った。

「リグル…、キック!」

 大声で技を名乗り、黒白の少女達へと急降下する。

 しかし、
「かわせない技じゃないんだよ!」「ふん…」
 と、狙った二人は左右に少し位置をずらして照準線を外れてしまう。

「マイ、ジューダスストームの準備よ」「オッケー!」
 二人は魔力の凝縮を開始し、リグルが通り過ぎる瞬間に特大のカウンターを合わせようとする。

 そこで蟲の王は翼一杯に込めた妖力を逆転させて魔導士達の合間で急静止すると、
筋肉と内臓の痛みに耐えながら両手を一杯に伸ばしてユキとマイの顔をポイントした。
 マイがしまった、という顔をするがもう遅い、
「邪魔だあーっ!」とリグルは両手から全力の弾幕を放射し、二人を彼方まで吹き飛ばした。
 気絶したのか、黒白コンビは悲鳴の一つも上げることがなかった。



 リグルはゆっくりと降下してくると、そのまま地に片膝を付き、
「はは、なんとかなったよ」とサムズアップを決めてみせた。

「やったわね、リグル!」リリカは勝利者の揺れる肩を叩く。

 みさは初めて自分から蛍の妖怪に近寄り、
「…やるじゃない」と当のリグルに手を伸ばして頭を緩やかに撫でた。

 そして仲間のスキンシップに気恥ずかしそうなリグルが、
「でもじっとしちゃいられないよ、直ぐにここを離れなきゃ…」
 と言い掛けて天を仰いだとき、彼の時間は確かに停止した。

「どうしたの、リグル?」リリカはそう尋ね、直後に周囲の異変に気付いた。
 周囲の温度が異常に上昇しているのだ、まるで太陽が二つ存在しているかのように。
 そう考えたとき彼女も空を見上げ、リグルと同様に固定された。

 太陽が確かにもう一つ。
 直径20メートル以上のロイヤルフレアを右手で頭上に掲げる、
パチュリー・ノーレッジが天高く、陽光を二重に浴びて浮遊していた。

「ええ、これが私とあの二人との差よ」と、紫の魔女は誰にとも無く答えて見せた。

「パチュリー先輩…、どうして…!?」先に正気に返ったリリカが、それでも呆然と問いかける。

「あなたたちがいけないの」パチュリーは静かに呟く。
「魔理沙の願いを断るから。そんな連中は残らず消してみせるわ、この私が」

「そんな、いくらなんでもあの頼みは聞けないよ!僕にだって大切な人がいるんだ!」とリグルは勇気を振り絞る。

「何よ、下着の3枚や4枚。私なら魔理沙に躊躇い無く捧げられるわよ?あなた達もそうあらなければならないわ」

「それは自分自身のものだからでしょ、パチュリーさんも魔理沙が別の人の下着を手にしたら嫌なんじゃないの!?」
 リグルはまた迷わずに言い返した。

 パチュリーはそれに対し少しだけ沈黙を保ったが、その後には薄い笑みを浮かべてまた語りを始めた。
「愚問ね、魔理沙の望みが私の望み。
 なのに中途半端な追求で終わるなんて、アリスも魔理沙もまだまだ…」

 魔術を支える右手を振り下ろし、
「甘い」
 大図書館が言い切った。


「ちっ、ちくしょう…!」
 リリカが自分とチルノの周囲に、
「みさちゃん…!」
 またリグルはみさを抱え込んで妖力の障壁を展開する。


 魔法の森に、超新星の爆発のような破壊が空から降って来る。
 リグルとリリカの力では、抗うすべなど一片も持ちえるはずが無かった。

「この森ごと消えて無くなりなさい!あははははっははははっはははあ!」
 一瞬後には焼け潰れそうな大地を視界に捉え、紫の魔女は狂笑した。

 木が倒れる。
 空気が燃える。
 炎が広がる。

 そして大地は、未だに綺麗なままだった。



 リグルはみさを抱きしめていたはずの自分が、
いつの間にか包み込まれていることに気が付き、
そうしてもっと信じられない光景を見た。

 みさが自分の顔を右手で小さな胸に押し付け、
左手でロイヤルフレアを塞き止めている。

 だがみさの姿が見る間に細かくぶれ動くと、
そこにはもうか弱き少女は居なかった。

 焦熱地獄の真っ只中、
 緑に波打つショートヘア、
 上着を押し上げる豊かな胸元、
 愛用のパラソルはお留守番、
 不敵な笑みの風見幽香が、
 リグルを抱き止めて立っていた。

「ゆっ、幽香さん!?」真相に気付いてなかった驚愕のリグル。
 幽香の胸に顔を埋め、リグルは別の意味において苦しそうでもある。

「あら、まだ元気そうじゃない」幽香はこの状況下、口笛を吹くようにそう言ってのけた。


 こう来ると上空のパチュリーも異変に気付く。
「この妖力…風見幽香ね?」
 ちょうどいいわ、と彼女はさらに笑みを深くし、
「その忌々しい下着ごと、あなたの存在も消し去ってあげる」
 上空からロイヤルフレアにさらなる圧力と、
 あらゆる火曜系列のスペルを同時に叩き込んだ。

 奇しくも今はてゐの言ったように、不意を討って幽香へ大技を叩き込んだ状況となっていた。


 当の幽香が腕にずしりとした圧力を感じるとその時、服の右袖が轟と燃え尽きた。
 その光景を見たリグルが顔色を変える。
「もういい、もういいよ幽香さん!自分だけでも逃げて!」

「ふん、気に入らないわね」と幽香は笑みを浮かべたまま言う。

「え?」

「ねえリグル、知らない内に私はあなたに守られていたみたいね」

「え…と、それはただ無我夢中で…」

「さっきその事を知って嬉しかったわ、もちろんもう一つの理由もあったけどね。
 だから…」
 幽香の笑みがタンポポのように優しいものへと変わる。
「だからね、私に逃げろなんて言わないで。
 知ってるでしょ?私の性格」

 それに、と幽香はさらに続ける。
「私はとっても強いのよ」

「は…、はい、そうですね!」

 リグルが幽香の胸の中でそう頷いた時、
花の妖怪の左手へと、炎の渦中にあってなお眩いばかりの輝きが凝集し始めた。

「フラワー…」

 美の化身の如く獰猛に笑いながら、幽香は掌の光を己が心のまま開放する。
「スパーク!」

 幽香が言い終えると同時に堰を切られた金色の波動は極大の奔流となり、
 間近まで迫っていたロイヤルフレアを、それ自身が落下してきた時以上の勢いと速度をもって押し返した。


「なっ、何ですって!?」
 驚愕したパチュリーに自らの必殺スペルが激突し、
 その直前に障壁を張って防いだものの、彼女もまたフラワースパークに押されて空へ、空へと上って行く。

「くっ…、しかし自分の技でこの私が倒れるとでも…」
 そう言いかけた彼女は背後に何かの霊力を感じて振り向き、
「なっ、何ィ!」と再びの悲鳴を上げた。

 博麗大結界が、もはやすぐそこという地点まで近付いていたのだ。

 自分が助からないことを悟り、紫の魔女は血を吐くように慙悔する。

「リ…リグル達が店から叩き出された時、すぐに後を追って始末していれば………、
 アリスや魔理沙だけではなかったのね、甘かったのは………!」

 パチュリーは最後に、
「私を持ってかないでー! 助けてよ、魔理沙ーっ!」
 と叫んで意識を手放した。



 天空に巻き起こった大爆発を見てリグルは、
「パチュリーさん、どうか成仏してください…できれば無事生きていてください」と両手を合わせた。

 一方の幽香は全く気にしていない様子である。
「さて、次はこの森をなんとかしないと」

 リリカは周囲の惨状を、
「確かに、ボーボー燃えてるわね。ボーボー」と表現する。

 そうねえ、と頷いて幽香はスペルカード、花符「幻想郷の開花」を出現させ、
次いで発動させると、酷く燃え盛っていた森の火炎が欠片も容赦なくエネルギーへと分解され、
焦げ目は剥がれ落ちてぴかぴかの樹皮となり、枝葉と花弁も新たに生まれ出でた。

「凄いや、これで安心だね」
 明るく笑うリグルだったが、誰かが後ろ側から、
「いいや、安心にはまだ早いぜ」
 と静かに語りかけた。

 振り向くと服の所々が焼け焦げた、しかし規則的に呼吸を続けているパチュリーを両手で抱えた魔理沙と、
隣にはてゐが自らの軍団を従えやって来ていた。

「残念だぜリグル、結局こうなっちまうとはな」
 と言った魔理沙は本当に残念そうである。
 
「全くパチュリーはいい仕事をしてくれたわ」一方てゐは邪笑を浮かべる。

「ふうん、なかなかいじめがいが有りそうね」
 幽香はそう言って黒く笑むが、リグルは手を広げて彼女を押し留めた。

「幽香さん、ここは僕に任せて」
 リグルは決意の表情を浮かべており、そんな蟲の王を、
「そう、思う存分にやってみなさい」と花の妖怪は送り出した。

 リグルがかつての学友達の前に立ち、
「今日は大事なことを学んだよ」
 とはっきり語り始める。

「妖怪と人間って、昔は仲が凄く悪かったよね。
 でも今僕達は、こうして学校で一緒に暮らすことが出来てる。
 ふたなりも同じだよ、普通の人とは確かに違うけど、
 だからって仲良く出来ないわけじゃないんだ。
 きっとお互いを認め合って楽しくやっていける、
 僕達はそのことを既に証明していたんだよ」

 微妙に揺れ動くような沈黙が広がり、やがて
「リグルの言うとおりだよ」とフランドールがそれを破壊した。
「私もずっと閉じ込められてて、みんなと私とは違ってて、仲良くできるはずが無いって思い込んでた。
 でも魔理沙や霊夢、それに紅魔館のみんなは私に優しくしてくれた。
 そのおかげで、今はみんなとちゃんと笑い合えるんだ」

 レミリアが手をぱちぱちと叩く。
「よく言ったわ、フラン」
「あとで文に謝らないとね」とフランドールは姉に微笑みかける。

 そしてフランドールの言葉を皮切りに、リグルの意見に賛同する者がどんどん増え始め、
遂にふたなり反対派はてゐだけとなってしまった。

「大勢は決まったな。ところで私のイライラはどうすればいいと思う?」と魔理沙はリグルにウインクする。

「えーと…てゐ?」

「よし行くぜてゐ、マスタースパーク!」

「ちょま」
 てゐは焼きウサギになりました。

「めでたしめでたしね!」
 とリリカが喜び、隣でチルノも目を覚ました。

「うーん…」

「チルノ、気が付いたんだね!」と笑いかけるリグル。

「あれー、どうなったの?」
 そう尋ねるチルノに、リリカは解決までの経緯を説明した。

「…やったじゃん、リグル!」チルノは万歳する。

「うん、ありがとう」

「ところで一つ気になっていたことがあるんだけど」

「何?チルノ」

「結局、リグルは男と女のどっちなの?」

「………え?」

 そこで横合いから幽香が、どこか楽しそうに口を挟んだ。

「ああ、リグルはお

 ふぇーどあうと

皆様はじめまして、水軍と申します。

いつもここ東方創想話で楽しませていただいておりましたが、
今回ここに投稿する運びとなりました。

どうかよろしくお願いします。



製作中のサブタイトルは「地球まるごとぱちぇ決戦」でしたが、
やめといてよかったと思いました。
水軍
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コメント



0.590簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
よりによって「ふたなり」なんてとことん人を選ぶテーマをこんなところで、しかも最初に注釈も入れずに書くなんてそれはあまりにアレだと思うのですがね?
具体的に言うと、「ふたなり」というのはあまりにも露骨な性描写だと思うのでこの創想話においては著しくそぐわない。と主観的意見ではそう思います。

文章自体は上手いのですから、内容をもう少し考えた方がいいかと思います。
私は「ふたなり」なんてものについて評価すらしたくないのでフリーレスです。
5.無評価三文字削除
まあ、大方は下の方と同意見です。

それと、てゐの性格が酷いすぎるのがちょっと・・・・・・
10.60名前が無い程度の能力削除
ふたなりという創作ネタに対して、あまり興味や印象はありませんが
そのおかげか、つい噴出してしまう様な馬鹿な流れに翻弄されつつも
小さな妖怪たちの頑張りを楽しめました
15.70名前が無い程度の能力削除
読んでいる途中で続き物だと思って、前作を検索しそうになりました。初投稿でしたか、吃驚。
悪役を生かしきれていないとか、展開が急すぎるとか、そういった不満からこの点数にしましたが、お話自体は悪くなかったと思います。

最後に一つ。
感想を書き込んでいる私に言えることではないかもしれませんが、創想話は、というかここに感想を並べる方々は大抵自分のイメージと世界を大切にする人ばかりなので、設定や内容に粗のある作品には容赦せず厳しい意見が多いようです。閉鎖的と言われる所以、なのかな?
前記の通りお話は悪くなかったので、これからも頑張ってください。
22.60名前が無い程度の能力削除
まぁ元ネタのサウスパークを分かってればそこそこ楽しめるじゃない?
23.無評価名前が削除
ええと、冒頭に注意書きが欲しかったです。
それだけ。