Coolier - 新生・東方創想話

その掌から零れ落ちたもの

2007/11/04 10:33:54
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「おーっすパチュリー!今日も邪魔するぜー…って」

夕暮れ前の紅魔館。
魔理沙はいつものように門番をぶっ飛ばし、いつものように図書館にやってきた。
が、図書館の様子だけはいつもと少しだけ異なっていた。

「あら、遅かったじゃない魔理沙」
「…なんでレミリアがいるんだよ」

普段は小悪魔が座っているはずの椅子に、今日はどういう訳かレミリアの姿があったのだ。

「…レミィがね、あなたに話したいことがあるんだって」
「なんだ、まさか図書館の本を持ってくな!なーんて言うんじゃないだろうな?」
「ご明察。その通りよ」

レミリアは無表情のまま紅茶を啜った。

「おいおい、パチュリーにそう言われるんならまだわかるが…
 私が本を持ってってもお前には関係ないだろ?」
「関係があるから、わざわざ忠告しに来てあげたのよ」
「忠告?」
「このままだと、魔理沙…あなた死ぬわ」
「なっ…」

突然現れた『死』という言葉に、魔理沙は少なからず狼狽した。
運命が視えるレミリアに言われたのだから、その驚きも尚更である。

「ど、どういうことだよ」
「私には近い未来が見えてるのよ。
 …最悪と言ってもいいくらいの負の連鎖がね」
「負の、連鎖…?」

レミリアはもう一度紅茶を啜った。
苦虫を噛み潰したような顔をしているのは、当然紅茶の味のせいではない。

「一度動き出した運命からは、誰も逃れられないわ…
 だからあなたに忠告してあげようって言ってるんじゃないの。
 パチェ、準備はできてる?」
「ええ」
「な、何が始まるんだ?」

パチュリーが指をぱちんと鳴らすと、ゆっくりと図書館の明かりが消えた。
3人が座るテーブルの上には、いつのまにか青白い輝きを放つ水晶が置かれている。

「…今からこの水晶にレミィの見た未来を映すわ。
 魔理沙、信じる信じないは勝手だけど…しっかり見ておいたほうがいいわよ」
「…ああ」

パチュリーの言葉さえ耳に入っていないのか、魔理沙は食い入るように水晶を見つめている。
何せ、懸かっているものは自分の命なのだから。
それを肯定と受け取ったのか、パチュリーは水晶に両手をかざした。

「…場所はレミィの寝室。時間は魔理沙が図書館に来た翌日、ね」

そして水晶には二人の人物が映し出された――





◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆





早朝の紅魔館。
咲夜は眠りに就く前のレミリアに、一日の報告をしていた。
さすがに『報告』と言うだけのことはあって、その内容は義務的なものばかり。
別段面白い話があるわけでもないので、レミリアは右から左へ咲夜の言葉を聞き流していた。
…聞き慣れた人物の名前が出るまでは。

「そういえばお嬢様、美鈴を見かけませんでしたか?」
「美鈴?」
「先ほど朝食を差し入れに行ったのですが、姿が見えなくて…
 お嬢様のご指示でどこかへ異動させられたのかと」

咲夜は少しだけ不安そうな顔をしている。
『異動』というのは要するにクビ、つまり美鈴がクビにされたのではないかと心配しているのだ。

「さあ、私は知らないわよ。
 毎日毎日魔理沙にぶっ飛ばされてるから、憂さ晴らしにでも行ったんじゃないの?」
「なるほど…そういう見方もありましたか」

しかしそんな咲夜の不安も、レミリアの言葉にかき消される。
咲夜は毎度毎度やられてばかりの美鈴に、昨日もきついお灸を据えてやったことを思い出した。

「美鈴ったら、どこをほっつき歩いてるのかしら。
 もしもサボってるんなら、それ相応の罰を与えてあげなきゃね…」
「ふふっ、あの娘もかわいそうねぇ。
 仕事をしてもお仕置き、サボってもお仕置きなんだから」
「負けなければいいだけの話ですわ」

それだけ言うと、咲夜は足早にレミリアの部屋を後にした。





◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇





「よお、咲夜。今日も門は開けっ放しなのか?」
「まぁね…」
「まっ、私にとっちゃ居ても居なくても同じようなもんだったけどな。
 そんじゃ、今日も邪魔するぜ~」

美鈴の失踪から五日。
あれ以来、一度も美鈴が姿を見せることはなかった。
その代わりといっては何だが、魔理沙だけは毎日やってくる。
口ではああ言っていても、弾幕ごっこをしなくて済むのが楽なのだろう。
以前にも増して我が物顔で侵入してくる。

しかし今の咲夜にとって、そんなことはどうでもよかった。

「どこに行っちゃったのよ…」

咲夜の頭にあるのは、美鈴のことばかり。
よくよく考えてみれば、今まで美鈴が居なくなるようなことはなかった。
何回同じ相手にやられても、毎日門の前に立ち続けていた美鈴。
相手はレミリアもその力を認めているほどの実力者だというのに。
何も好き好んで魔砲に飛ばされたい人物など、変わり者ぞろいの紅魔館にもいないだろう。
その上年中休みらしい休みもなく、自分と違って宴会に行くこともない。
そういえば、最近は少し元気がなかったような気がする。
…少しきつく叱りすぎてしまったのだろうか。

思い出せば思い出すほど、咲夜の心には後悔の念が押し寄せてきた。

「お願い、美鈴…戻ってきて…」

だがそんな咲夜の願いもむなしく、美鈴はその日も姿を見せることはなかった。





◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇





「…咲夜」
「な、なんでしょうお嬢様?」
「コレは何?」

レミリアは不機嫌そうに、紅茶の入ったカップを咲夜に突きつけた。

「それは…紅茶、ですが」
「あなた私を馬鹿にしてるの?それくらいわかってるわよ。
 紅茶が不味い、って言ってるの」
「も、申し訳ありません…今すぐ淹れなおします」
「もういいわ。館内の清掃に戻ってちょうだい」
「はい…」

咲夜は一礼をしてレミリアの部屋から退出した。
ドアを閉める寸前、レミリアの呟きが咲夜の耳に入る。

「全く、やっぱり人間って使えないわね…
 たかが門番一人であそこまで動揺するなんて」

咲夜は何も聞こえなかったふりをして、無言でゆっくりとドアを閉めた。
そして一人、レミリアに言われた言葉をつぶやく。

「使えない、か…」

まだ自分が紅魔館に来たばかりの頃、レミリアに幾度となく掛けられた言葉。
悔しさと情けなさが入り混じった感情の中で、何度も涙を流したことを覚えている。
そしてそんな時、優しく声を掛けてくれたのが美鈴だった。
心身ともにまだ幼かった、弱い自分の相談に乗ってくれて…

「ううっ…」

不意に、咲夜の瞳から涙がこぼれる。
その涙は昔のような悔しさと情けなさによるものではなく、純粋な寂しさからくるものだった。

「どうして…帰ってきてくれないのよぉ…」

最後に美鈴と会ってから、もう何日経ったかも覚えていない。
実際の時間では2週間と経っていないのだろうが、美鈴を待ち続ける咲夜にとってはそれ以上に長く感じられた。

「ぐすっ…ひっく」

――もう一度、美鈴に会いたい。
美鈴がいなくなってから、私の胸にはぽっかりと穴が空いてしまった。
そしてその穴を埋めてくれるのは美鈴しかいないのだ。
いちばん気軽に話ができて、いつもいちばんそばに居てくれて…
私にとって、かけがえのない親友なのだから。

「美鈴…」

咲夜はふらり、と館内の数少ない窓に近づいた。
レミリアの部屋は紅魔館の最上階に位置するため、そこからは広い湖が一望できる。
なんとなく周囲を見渡してみるが、今は氷精の姿さえ見えない。
水面に映る月の余韻を愉しむかのように、辺りは静寂に包まれていた。

「ここから落ちたら、楽になれるかしら…」

大切な人を失うのが、こんなに辛いことだとは思っていなかった。
こんなに苦しむくらいなら、いっそ死んでしまったほうがいい。
お嬢様だって、ふぬけた従者に用は無いだろう。

紅魔館の紅に私の紅は映えるだろうか―
そんなことを考えながら視線を落とすと、今は無人となってしまった門が目に入る。
そういえば、いつもここから美鈴を見てたんだっけな。

「…?」

その時、咲夜は紅魔館の門をくぐろうとする人影を発見した。
それも外から中へではなく、中から外へ。
いつの間にか何者かの侵入を許していたらしい。
こんな時間にわざわざ紅魔館にやってくるなんて、いったい誰だろう。
宵闇の中、咲夜は懸命に目を凝らし―

「あ、あ―」

そして夢中で駆け出した。
時間を止めることも、自分が空を飛べることも忘れて。
見間違えるはずもない、その後ろ姿。
咲夜は階段を駆け降り、ロビーを走り抜け、門を飛び出し―

「美鈴っ!」

最愛の人の名前を呼んだ。

「はぁ、はぁ、ま、待って、美鈴」
「……」

咲夜の見た人影は、ほかならぬ美鈴本人だったのだ。
美鈴は振り向くことも返事をすることもしなかったが、ゆっくりとその歩みを止めた。

――やっと、会えた。
もう絶対に離したりなんかしない。

咲夜は美鈴の背中をぎゅっと抱きしめた。

「ごめんね、美鈴…私、あなたが普段どんな思いをしてるかわからなかったの…!
 今までずっと辛かったわよね…これからはちゃんと、あなたのことだって考えるから」
「…咲夜さん」
「きっとお嬢様だって心配してるはずよ。
 さあ、一緒にお嬢様のところへ行きましょう?
 私からも謝ってあげるから―」
「咲夜さん」
「…美鈴?」

咲夜の言葉を遮るように、美鈴は咲夜の体をゆっくりと引き離した。
そしてようやく、咲夜のほうへと向き直る。

「私はもう…紅魔館には戻りません」
「!!ど、どうして…?」
「…ここに私の居場所はありませんから」

その表情は怒りの感情ではなく、まるで何かを諦めたような、そんな表情だった。

「そんな…!お願い美鈴、考え直して!
 私だって、もう美鈴にひどいことしたりしないから…!」
「…そうじゃないんですよ、咲夜さん」
「え…?」
「私が紅魔館を出て行ったのは、咲夜さんのせいじゃありません」
「それなら、なんで…」
「…私が紅魔館を出たのは、門を守れなくなったから、です」
「…!?」

予想もしていなかった美鈴の言葉に、咲夜は動揺した。
頭の整理がつく前に、再び美鈴が言葉をつむぐ。

「私、思ったんです…いつもいつも同じ相手に侵入を許して、
 それでいて門番をやってるなんて、なんて情けないんだろうって。
 咲夜さんも、今までご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「な…何言ってるのよ、美鈴。
 私、あなたがいつだって一生懸命やってたこと知ってるわ」
「…らしくないですね、咲夜さん。
 門番っていう仕事は頑張ればいいってものじゃないんです。
 例えその身が朽ち果てようとも、侵入者を撃退するのが仕事…
 …だから私には、門の前に立つ資格はありませんよ」
「で、でも!今だってこうして戻ってきてくれたじゃない…!」
「…今日は、荷物の整理にきただけで…」

そう言ったきり、美鈴は顔をあげようとしなかった。

「嫌っ…、嫌よ、美鈴!せっかくまた会えたのに…
 あなただって、本当はずっとここにいたいんでしょ…!」

咲夜はその場に泣き崩れた。

―ああ、なんて私は愚かなんだろう。
美鈴がいなくなったのは、自分なんかのせいじゃなかった。
この娘は自分がしたことの責任を取ろうとしているのだ。
それなのに私は、美鈴のことを何もわかっていなかった。

わかっていないのなら、これからゆっくり時間をかけてわかればいい。
美鈴が私のそばに居てくれれば、それだけで私は幸せになれる。
だからどこにも行ってほしくなんかない。

門なんて守れなくたって、守らなくたっていい。
責任なんか取らなくたっていい。
たった一人の侵入者のために…


たった、一人の…?


「…そうよね」
「咲夜さん…?」

咲夜はゆらりと立ち上がり、そして笑った。

――なんだ、簡単なことじゃない。

「もう一日だけ待ってて、美鈴…私があなたの居場所を作ってあげるから」





◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇





その翌日も、魔理沙は当たり前のように紅魔館へやってきた。
しかし最近まで無人だった門の前には、なぜか咲夜が立っている。

「なんだ、咲夜。今日からお前はメイド長改め門番長か?」
「……」

魔理沙は冗談半分でそう問いかけたが、咲夜は答えなかった。
その様子が面白くないのか、魔理沙はさらに続ける。

「ちぇ、せっかく今まで楽が出来てたのに…
 ってことは、中国はやっぱりクビなんだな」
「…あなたが、悪いのよ…」
「あー?」

うつむいたまま、咲夜は独り言のようにつぶやいた。

「なんだって、よく聞こえなかったぜ」

無防備に近寄ってくる魔理沙に対し、咲夜はおもむろに顔をあげた。
そして、魔理沙はそこで初めて気がついた。

咲夜の瞳が紅く染まっていることに。

「なっ!?」
「美鈴を…返して…!」

その刹那、魔理沙の体を無数の刃が包み込み―





◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆





「…このくらいにしときましょうか」

パチュリーがそう言うと、暗かった図書館に再び明かりが灯る。
その明かりの下では、青い水晶の前で魔理沙が顔を青くしていた。

「どう、魔理沙。感想は?」
「…この後は、私が、…居なくなった後は、どうなるんだ…?」
「…どうしても聞きたい?」

レミリアがわざとらしく魔理沙の顔を覗き込む。
…魔理沙は応えない。
しかし、レミリアは運命の続きを語りはじめた。

「まず、あなたが死んだとなれば霊夢が黙っちゃいない。
 いくら博麗の巫女が中立だとはいえ、この時ばかりは『博麗霊夢』としてやってくるでしょうね。
 親友を亡くしたことに怒り狂って…
 それでも、時間を操る咲夜に勝つことはできない。殺されるわ」
「……」
「そうなれば、今度は八雲紫がやってくる。
 あいつが本気で攻めてきたら、紅魔館の咲夜、美鈴、パチェ、私もみぃんな死ぬわね。
 激しい争いになって、紅魔館は廃墟も同然になるの。
 そして最後はフランが館を飛び出して―」
「もういい。もうやめてくれ…」

魔理沙は頭を抱え込み、何かをぶつぶつとつぶやいている。

「わかったかしら?これが私の言った『負の連鎖』の正体よ。
あなた一人の行動で、幻想郷が激震するの」
「……」

魔理沙は無言で椅子から立ち上がった。

「今日はもう、帰る…」
「…魔理沙、しばらく図書館に来る気がないなら
 読みたい本を持って行ってもいいけど?」
「遠慮しとくぜ…」

そして、魔理沙は重い足取りで図書館を後にした。

無言の空間に扉が閉まる音と、少しずつ遠ざかっていく足音が響く。
やがてそれすらも聞こえなくなると、レミリアとパチュリーは顔を見合わせ―

「…こんなもんで良かったかしら?」
「ええ。上出来よ、レミィ」

ニヤリと笑った。

「しばらくの間、どうしても一人で研究したいことがあったの。
 あれだけ脅かしておけばのこのこやって来ることもないだろうし」
「そうね、傑作だったわ魔理沙のあの顔…
 笑いをこらえるのに苦労したんだから」
「あら、私もそんなレミィを見て笑いをこらえてたのよ?」
「あっははは」

水晶に映し出された『物語』はレミリアの意見を元にパチュリーが創ったもの。
つまり、これは最初からパチュリーの罠だったのだ。

「まぁ、私だってまるっきり嘘を言ったわけじゃないのよ?
 あれだって無限の可能性の内の一つなんだし」
「そんな事言ったら、どんな出来事だって無限の可能性の一つになるんじゃないの?」
「それもそうね、ふふっ。
 でもいつだって運命は私の掌の上なんだから」
「それじゃただ掌が大きいだけじゃない…」

先ほどまでの重々しい空気はどこへやら、二人は一転して楽しげに会話に興じている。

「…あら、紅茶がなくなっちゃったわね。
 小悪魔はどこかしら?」
「そうそう、言い忘れてたけど…
 パチェの司書、ちょっとだけ借りてるから」

レミリアにそう言われ、パチュリーは初めて小悪魔がいないことに気がついた。

「そう言われれば、さっきから姿が見えないみたいだけど…
 小悪魔はどこへ行ったの?」
「魔理沙が出て行ったら美鈴を呼んでくるように、って
 門の近くでこっそり待機させてるのよ。
 苦手の魔理沙が来ない間、美鈴に暇でもやろうかと思ってね」
「へぇ…あなたにしてはなかなか気が利くじゃない」
「あなたにしては、は余計よ。
 それに下の者に気を遣ってやるのも貴族のたしなみでしょ?」
「さぁ、私は貴族じゃないからわからないわ」

そんな話をしているうちに再び図書館の扉が開かれ、
そこからおずおずとした様子で小悪魔が姿を現した。

「遅かったじゃない、小悪魔…
 って、あら?美鈴がいないじゃないの」
「それが…」

何故か、図書館にやってきたのは小悪魔一人。
小悪魔は小首をかしげながら、レミリアに報告した。

「美鈴さん、どこにも見当たらないんですが…?」
「え…?」




















「あー、やっぱり新しい本が読みに行きたいぜ…」

それから約2週間後の夜。
魔理沙は一人、目の前のキノコに愚痴をこぼしていた。

「やっぱり家にある資料だけじゃ限界があるよなぁ」

しばらくの間図書館に行っていないせいもあって、魔理沙の研究は停滞気味だった。
もちろん家中を探し回ればお目当ての図鑑やら資料やらが埋もれているのだろうが、
あらゆる物でごった返している室内を探すのは難しそうだ。
というか、面倒くさい。

「…要は、中国をぶっ飛ばさなきゃいいんだろ…?」

魔理沙が紅魔館に行かない理由は、当然レミリアの忠告が気になっているからだった。
しかし冷静になって考えてみれば、何も紅魔館に来るなと言われたわけではない。
それにいつまでも怯えていては、これから先図書館に行くことができない。
魔理沙は悩んだ。
一度行ってみるべきか、行かないべきか。

「…まっ、今日はもう遅いからいいか」

結局出した結論は『先延ばし』。
魔理沙は研究室の明かりを消し、唯一人間が生活できそうな空間、寝室へと向かった。
明かりのない霧雨邸を歩くのは危険極まりない行為だが、
流石に魔理沙はつまづくような真似はしない。
慣れた足取りで廊下を進んでいくと、月明かりの差し込む寝室が見えてくる。
魔理沙はつま先立ちになりながら慎重に歩みを進め、開けっ放しのドアのノブに手をかけ、
バランスを取りながら寝室に入ろうとしたところで、

何者かの気配に気がついた。

――後ろに、誰かいる。

魔理沙は思わず、足を止めてしまった。
全身から嫌な汗が吹き出る。

――何も物音はしなかった。
真っ暗闇の中うちの廊下を進んできたなら、
そこら中に置いてある物に足を取られるはずだ。
無音でいつの間にか背後に回り込むなど、できるはずがない。

――時間を止めでもしない限り。

心臓の鼓動が早くなる。
手に汗が滲む。
それでも、振り向かないわけにはいかない。

「誰だっ!!」

意を決して魔理沙が振り向くと、そこには、


両の瞳を真っ紅に染めた、十六夜 咲夜の姿があった。


「ひっ…!?」

思わず、後ずさる。

――どうして。どうして。
私はあれ以来、一度だって紅魔館に行かなかった。
美鈴はもちろん、咲夜やレミリアにも会っていない。
それなのに、どうして!
最後に紅魔館に行ったのは2週間ぐらい前で、
私は、
いつものように、
美鈴を、ぶっ飛ばして…

まさか、その時にもう、運命は―

「…あなたが、悪いのよ…」

混乱している魔理沙をよそに、咲夜が一歩にじみよってくる。
あの時と、全く同じ言葉で。

――でも、それでも!
ここ最近、私が紅魔館に行ってないことは事実だ。
だから同じ運命が繰り返されるわけがない。
それに、誰一人として咲夜の異常に気がつかなかったっていうのか!?
事情を知らない小悪魔やフランはともかく、
紅魔館にはパチュリーだっているし、レミリアだって―

魔理沙の脳裏に、あの日レミリアに言われた言葉が甦った。

『一度動き出した運命からは、誰も逃れられないわ』―

それじゃあもう、私の運命は、

「美鈴を…返して…!」

一瞬にして、視界の全てが銀幕に包まれる。

闇を切り裂き迫り来る刃に、魔理沙は何の抵抗もできなかった。

ただただ踊り狂うように激痛に身を任せ、

黒から紅に変わった世界を認識し、

倒れ込む寸前体からナイフを引き抜かれ、


びちゃり、という音を聞いた。


「・・・・ぅ・・・・・・・・・ぁ・・・」
「ふふふ…あはははっ…!」


もはや原型を留めていない魔理沙の耳に、咲夜の笑い声が聞こえる。


「ふふ…そうよ、せっかくここまで来たんだし…
 何も侵入してくるのはこいつだけとは限らないじゃない…!」


――ああ、そういうことだったのか。


急速に遠のいていく意識の中、魔理沙は確信した。


運命は変わったのだ、ということを。






その夜、幻想郷にはたくさんの紅い花が咲きました。
そんなフラワリング・ナイト。
goma
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コメント



0.2610簡易評価
5.70名前が無い程度の能力削除
うん。バッドエンド。だがそれがいい。
8.70名前が無い程度の能力削除
嘘からでた真
9.80名前が無い程度の能力削除
強烈ですね。引き込まれた。赤字で警戒しながら読んでいたからバッドでもダメージない。面白かったです。
14.90名前が無い程度の能力削除
読み終わっても理解できん・・・
なぜ行かなかったのに美鈴が?
運命が変わったとはどういうことか?
15.100名前が無い程度の能力削除
こういうBADENDだが素直に読める作品は好きです。

>>なぜ行かなかったのに美鈴が?
既に2週間前の図書館に行ったときに美鈴を吹っ飛ばしている訳で。
そこで運命が無限の可能性の一つ――作中で語られていたBADENDな運命(に近い運命)へと変わっていた訳で。そして既に動き出していたと。
恐らく図書館で話を聞くのが数日前なら運命は変わらなかったでしょうね。つまり、魔理沙の行ったその日が運命のターニングポイント、ですな。

一応自己解釈なんで分かりにくいですけどスイマセン
16.80名前が無い程度の能力削除
前回訪問時に(一回分早く)作戦を実行していたら・・・
と思わずにはいられないけど、この話に魅力を感じてるのも事実なわけで
17.80名前が無い程度の能力削除
少ないとはいえ、自ら予知した破滅に連なる道程への可能性。
それを承知していながらレミリアとパチェは何も手を打たなかったのか、との疑問は残ります。
美鈴にその予知を伝えて説得すれば、美鈴が咲夜を憎んででもない限りその説得に応じるのではないかと思うのですが。
とはいえそれを差し引いてもBAD ENDスキーの自分には楽しめました。
22.90名前が無い程度の能力削除
魔理沙が殺されに行く運命から咲夜が殺しに来る運命へと変わってしまったわけですね。過程が変わっても結末が変わらない。いいBadEndでした。
23.100名前が無い程度の能力削除
これはすごい…。久々に背筋にぞくっときました。
実際、時を操れる咲夜さんが本気で殺す気になったらそうそう止めることのできる者はいないでしょう。
悲惨な結末ですが、すごく楽しめました。
25.80名前が無い程度の能力削除
後から考えると、魔理沙が殺されるまでの2週間にレミとパチェが何もしなかったのかということに少し疑問を感じます。
が、内容と赤文字の効果もあり、読んでいる間はそんなことは大して気にならない程はまりこんでしまいました。
次も期待します。
35.60名前が無い程度の能力削除
この後咲夜を止めようとしたレミィやパチェ、果てには美鈴までも殺されるような最悪なBADENDを想像してしまった。
次も期待させて頂きます
36.80名前が無い程度の能力削除
面白かったです。Good bad end.
37.90bobu削除
あ~あ、壊れたさっきゅんは見境無しか…。
BADENDは本当は好きじゃないんだけどこれは良かったです。
まさにPADEND(ピチューン
ありがとうございました。
51.70名前が無い程度の能力削除
>魔理沙が殺されるまでの2週間にレミとパチェが何もしなかったのかということ
ここだけ気になる。

平和だったりラブラブだったりほのぼのだったりの紅魔館が好きなんだけど割とスッキリ読めました。
題名なり赤字なりで覚悟して読んだからかな? とにかく面白かったです。
55.80名前が無い程度の能力削除
まさに嘘から出た真。
56.100名前が無い程度の能力削除
ガクガクブルブル
75.90名前が無い程度の能力削除
魔理沙ザマァwww
泥棒魔理沙は全部死んでしまえばいいのに