Coolier - 新生・東方創想話

隙間鉄道の話 2

2007/10/21 02:00:16
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五、汽車


 彼女の向かった丘。
 その黒い平らな頂上は、北の大熊星の下に、
 ぼんやりふだんよりも低く連って見えました。
 リグルは、もう露の降りかかった小さな林の小道を、
 どんどんのぼって行きました。
 まっくらな草や、いろいろな形に見えるやぶのしげみの間を、
 その小さなみちが、一すじ白く星あかりに照らしだされてあったのです。
 草の中には、ぴかぴか青びかりを出す小さな同胞もいて、
 ある葉は青くすかし出され、リグルは、
 さっきみんなの持って行った烏瓜のあかりのようだとも思いました。

 リグルは、大熊星の下に来て、
 黒光りするからだを、つめたい草に投げました。
 風が遠くで鳴り、丘の草もしずかにそよぎ、
 リグルの汗でぬれたシャツもつめたく冷されました。

 リグルは町のはずれから遠く黒くひろがった野原を見わたしました。
 すると、何故かそこから汽車の音が聞えてきました。

 まあ、彼女にしてみると、
 汽車なんて知らないため、良く分からない謎の音だった訳ですが。



 一体あの音はなんだろう。
 そう考え、彼女が横を見てみますと、そこには何もなく
 ただ、黒い煙がたなびいているだけでした。
 もしかしたら、新手の妖怪かもしれないぞ、
 だって、あんなにもうもうと黒い息を吐き出している……
 そら、きっと毒の息に違いない。
 そう考えると、どうにも怖くなって、
 他のことを考えようと、また眼をそらに挙げました。

 あの白いそらの帯がみんな星だというぞ。
 巨大な黒白魔女が通った跡(注1)だというぞ。

 ところがいくら見ていても、その空は昼に先生の云ったような、
 がらんとした冷いとこだとは思われませんでした。
 それどころでなく、見れば見るほど、
 そこは小さな林や牧場やらある野原のように考えられて仕方なかったのです。



六、隙間ステーション


 どこかで、ふしぎな(でも、何処かで聞いた様な)、
 銀河ステーショーン、銀河ステーショーンと云う妙にノリの良い声がしたと思うと
 いきなり眼の前が、ぱっと暗くなって、
 何百、何千という目が彼女を見ていたのでした。

「ぎゃあああ」一瞬、気が遠くなったかと思うと、
 次に気付いた時には、ごとごとごとごと、
 リグルの乗っている小さな列車が走りつづけていたのでした。

 ほんとうにリグルは、夜の軽便鉄道の、
 小さな黄いろの何か光るモノのならんだ車室に、
 窓から外を見ながら座っていたのです。

「え、此処は何処?私、何でこんな所に居るの?」

あわてて辺りを見回しますと、すぐ前の席に、
 ぬれたようにまっ黒な上着を着た、
 二つに分かれた尻尾を持つ子供が、窓から頭を出して外を見ているのに気が付きました。

 そしてそのこどもの二股の尻尾が、どうも見たことのあるような気がして、
 そう思うと、もうどうしても誰だかわかりたくて、たまらなくなりました。

 いきなりこっちも窓から顔を出そうとしたとき、
 俄かにその子供が頭を引っ込めて、こっちを見ました。
 それは八雲橙だったのです。

 リグルが、橙、きみは前からここに居たのと云おうと思ったとき、橙が
「みんなはねずいぶん走ったけれども遅れてしまったよ。
 チルノもね、ずいぶん走ったけれども追いつかなかった。」と云いました。

 リグルは、(飛べよ⑨)
 とおもいながら、「どこかで待っていようか」と云いました。

 すると橙は
「チルノはもう帰ったよ。お母さん(注2)が迎えに来たんだ。……冬が近いし」
 橙は、なぜかそう云いながら、
 少し顔いろが青ざめて、どこか苦しいというふうでした。
 するとリグルも、なんだかどこかに、何か忘れたものがあるというような、
 おかしな気持ちがしてだまってしまいました。

 ところが橙は、窓から外をのぞきながら、
 もうすっかり元気が直って、勢よく云いました。

「ああ~!!私、水筒を忘れてきちゃった。スケッチ帳も!!
 まあ……いっか。もうじき白鳥の停車場だから。
 私、白鳥がほんとうに好きなんだ~。
 川の遠くを飛んでいたって、私はきっと見えるよ。」

 そして、橙は、舌なめずりをしてから、
 円い板のようになった地図を、しきりにぐるぐるまわして見ていました。

 その中に、白くあらわされた天の川の左の岸に沿って一条の線が、
 南へ南へとたどって行くのでした。

 そしてその地図の立派なことは、夜のようにまっ黒な盤の上に、
 十一の停車場や三角標、泉水や森が、青や橙や緑や、
 うつくしい光でちりばめられてありました。

 リグルはなんだかその地図をどこかで見たようにおもいました。

「この地図はどこで買ったの?十勝石でできてるみたいだけど。」

 リグルが云いました。

「隙間ステーションで、紫様にもらったんだ。リグルらわなかったの?」

「あれ、私隙間ステーション(注3)なんて通ったかな。
 いま私達の居るとこ、ここでしょ。
 隙間……う゛……」

 リグルは、何故か具合を悪くしながら
 白鳥と書いてある停車場のしるしの、すぐ北を指しました。

「そうだよ~。あれ……、あの河原は月夜かな。」

 そっちを見ますと、青白く光る銀河の岸に、
 銀いろの空のすすきが、もうまるでいちめん、風にさらさらさらさら、
 ゆられてうごいて、波を立てているのでした。

「月夜じゃない、銀河だから光ってるんだ!!」


〈以下数行空白〉


「私達、慧音先生の言っていた真空って所にに来たんだね。」リグルは云いました。

「それにこの汽車って言うんだっけ……?どうやって動いてるの?」

 リグルが左手をつき出して窓から前の方を見ながら云いました。

「アルコールか電気だと思うよ」橙が云いました。

「あるこーる?でんき?」リグルは訳が分からない(注4)、といった様子でしたが
 話が進まないので橙は無視しました。

 ごとごとごとごと、その小さなきれいな汽車は、
 そらのすすきの風にひるがえる中を、天の川の水や、
 三角点の青じろい微光の中を、どこまでもどこまでもと、走って行くのでした。



七、賽銭箱と永遠海岸


「藍様は、私をゆるして下さるかな……。」

 いきなり、橙が、思い切ったというように、
 少しどもりながら、急きこんで云いました。
 
 リグルは、(ああ、そうだ、幽香は、
 あの遠い一つのちりのように見える橙いろの三角標のあたりにいて、
 いま私のことを考えているんだった。……霖之助さんも……かな?)
 とか思いながら、ぼんやりしてだまっていました。

「私は藍様が、幸になるなら、どんなことでもする。
 けど、いったいどんなことが、藍様のいちばんの幸なのかな。」

 橙は、なんだか、泣きだしたいのを、一生けん命こらえているようでした。

「君のお母さんは、何処も悪くはないでしょ。」
 
 リグルはびっくりして叫びました。

「私……わからないよ。
 けど、誰だって、ほんとうにいいことをしたら、いちばん幸なんだよね。
 だから、藍様は、私をゆるして下さると思う。
 あと、藍様はお母さんじゃないよ」

 橙は、なにかほんとうに決心しているように見えました。

 俄かに、車のなかが、ぱっと白く明るくなりました。
 見ると、もうじつに、金剛石や草の露やあらゆる立派さをあつめたような、
 きらびやかな銀河の河床の上を水は声もなくかたちもなく流れ、
 その流れのまん中に、ぼうっと青白く後光の射した一つの島が見えるのでした。

 その島の平らないただきに、立派な眼もさめるような、
 紅く、白い巫女がたって、それはもう凍った雲で鋳たといったらいいか、
 すきっとした金いろの円光をいただいて、
 しずかに永久に空の賽銭箱を持って立っているのでした。

「ハクレイ、ハクレイ。」前からもうしろからも声が起りました。

 ふりかえって見ると、車室の中の旅人たちは、
 みなまっすぐにきもののひだを垂れ、脇巫女装束を胸にあてたり、嗅いだり、
 どの人もつつましく指を組み合せて、そっちに逝っているのでした。
 主に顔が。

 思わず二人もまっすぐに立ちあがりました(注5)。

 橙の頬は、まるで熟した苹果のあかしのようにうつくしくかがやいて見えました。
 そして島と賽銭箱とは、だんだんうしろの方へうつって行きました。


 気付けばリグルのうしろに、いつから乗っていたのか、
 紫色をしたネグリジェの様な服を着た女性が、
 まん円な瞳を、じっとまっすぐに落して、
 まだ何かことばか声かが、そっちから伝わって来るのを、
 虔んで聞いているというように見えました。

 旅人たちはしずかに席に戻り、
「ごほっ、ごほっ……げほ、げほ、げほ、げほ……」
 しずかに席に戻り、
 二人も胸いっぱいのかなしみに似た新らしい気持ちを、
 何気なくちがった語で、そっと談し合ったのです。




「もうじき白鳥の停車場だね。」

「うん、十一時かっきりには着くよ。」


〈以下数行空白〉


「私達も降りて見ようか。」リグルが云いました。

「降りよう。」橙も続けて言いました

 二人は一度にはねあがってドアを飛び出して改札口へかけて行きました。


 しばらく、二人が進みますと、
 間もなく、あの汽車から見えたきれいな河原に来ました。

 橙は、そのきれいな砂を一つまみ、掌にひろげ、
 指できしきしさせながら、夢のように云っているのでした。

「この砂……みんな水晶だよ。中で小さな火が燃えているみたい。」

「そうだね、それは火晶石っていって、投げると爆発するんだよ。」
 どこで私は、そんなこと習ったろうと思いながら、リグルもぼんやり答えていました。

 河原の礫は、みんなすきとおって、たしかに水晶や黄玉や、
 またくしゃくしゃの皺曲をあらわしたのや、
 また稜から霧のような青白い光を出す鋼玉やらでした。

 リグルは、走ってその渚に行って、水に手をひたしました。

 けれどもあやしいその銀河の水は、水素よりももっとすきとおっていたのです。

「いや~リグル?水素は見えないよ?」

「あれ?」

 それでもたしかに流れていたことは、二人の手首の、
 水にひたったとこが、少し水銀いろに浮いたように見え、
 その手首にぶっつかってできた波は、うつくしい燐光をあげて、
 ちらちらと燃えるように見えたのでもわかりました。

 川上の方を見ると、すすきのいっぱいに生えている崖の下に、
 白い岩が、まるで運動場のように平らに川に沿って出ているのでした。 

 そこに小さな四、五十人の兎の耳を付けた様な人かげが、何か堀り出すか埋めるかしているらしく、
 立ったり屈んだり、時々なにかの道具が、ピカッと光ったりしました。

「行ってみよう。」二人は、まるで一度に叫んで、そっちの方へ走りました。

 その白い岩になった処の入口に、
〔永遠海岸〕という、瀬戸物のつるつるした標札が立って、
 向うの渚には、ところどころ、細い鉄の欄干も植えられ、
 あの、銀色のすすきとお団子も置いてありました。

「あれ、変なものがあるよ。」橙が、不思議そうに立ちどまって、
 岩から淡い色のくるみの実のようなものをひろいました。

「くるみの実だ。ほら、沢山ある。流れて来たんじゃない?岩の中に入ってる。」

「大きいね、このくるみ、普通の倍はあるよ。全然傷んでないし。」

「早くあそこへ行って見よう。きっと何か堀ってるから。」

 二人は、ぎざぎざの黒いくるみの実を持ちながら、
 またさっきの方へ近よって行きました。

 左手の渚には、波がやさしい稲妻のように燃えて寄せ、
 右手の崖には、いちめん銀や貝殻でこさえたようなすすきの穂がゆれたのです。

 だんだん近付いて見ると、一人のせいの高い、
 眼鏡をかけ、白衣を着た学者らしい人が、
 手帳に何かせわしそうに書きつけながら、鶴嘴をふりあげたり、
 スコープをつかったりしている、
 三人の助手らしい人たちに夢中でいろいろ指図をしていました。

「そこのその突起を壊さないように。スコープを使って、スコープを。
 姫!もう少し遠くから堀って。
 ダメ、ダメ。どうしてそんなに乱暴なの。」

 見ると、その白い柔らかな岩の中から、大きな大きな骨が、
 横に倒れて潰れたという風になって、半分以上堀り出されていました。

 そして気をつけて見ると、そこらには、何か棒のようなものでのついた跡や
 紅白のまあるい弾が埋まった岩が、
 四角に十ばかり、きれいに切り取られて番号がつけられてありました。

「あなたたち参観?」

 その学士らしい人が、眼鏡をきらっとさせて、こっちを見て話しかけました。

「玉が沢山あったでしょ。
 それはまあ、本当の、蓬莱の玉と呼ばれているものよ。
 昔、姫がこの辺で落としてばらまいてしまってね。
 ここは百二十万年前、第三紀のあとのころは海岸で、
 この下からは子安貝も御鉢も龍の玉も出るのよ。
 いま川の流れている所に、癇癪を起こした姫がばらまいて
 そのまま忘れて埋まってしまっていたの。
 この獣?
 これはミコといってね……、
 ちょっと、そこつるはしはよして。
 ていねいに鑿でやって。
 ミコといってね、いまの博麗の先祖で、昔はたくさん居たのよ。」

「標本にするの?」

「いや、これはついで。
 本当の目的はさっき言ったように姫が無くしたことを隠して、
 そのまま忘れ去られた宝を探すこと。
 けど、ちょっと。そこもスコープじゃダメよ。
 そのすぐ下に御鉢が埋もれてる筈でしょ。」学士はあわてて走って行きました。

「もう時間だよ。行こう。」橙が地図と腕時計とをくらべながら云いました。

「ああ、では私達は失礼します。」
 
 リグルは、ていねいに学士におじぎしました。

「そう。」学士は、また忙がしそうに、
 あちこち歩きまわって監督をはじめました。

 二人は、その白い岩の上を、一生けん命汽車におくれないように走りました。

 そしてほんとうに、風のように走れたのです。

 息も切れず膝もあつくなりませんでした。

 こんなにしてかけるなら、もう世界中だってかけれると、
 リグルは思いました。

 そして二人は、前のあの河原を通り、
 改札口の電燈がだんだん大きくなって、間もなく二人は、
 もとの車室の席に座って、いま行って来た方を、窓から見ていました。

(飛べば良かったジャン)と思いながら(注6)。



八、鳥を捕る人


「ここへかけても良いですか。」

 つんとした、けれどもどこか親切そうな、大人の女性の声が、
 二人のうしろで聞えました。

 それは、白と紺の服を着て、白い巾でつつんだ荷物を、
 二つに分けて肩に掛けた、銀髪赤目の人でした。

「ええ、もちろん、いいよ。」リグルは、少し肩をすぼめて挨拶しました。

 その人は、かすかに微笑いながら、荷物をゆっくり網棚にのせました。

 リグルは、なにか大へんさびしいようなかなしいような気がして、
 だまって正面の時計を見ていましたら、ずうっと前の方で、
 硝子の笛のようなものが鳴りました。

 汽車はもう、しずかにうごいていたのです。
 銀髪の人は、なにかなつかしそうにわらいながら、
 二人のようすを見ていました。

 汽車はもうだんだん早くなって、すすきと川と、
 かわるがわる窓の外から光りました。

 銀髪の人が、少しおずおずしながら、二人に訊きました。

「あなた方は、どちらへ?」

「どこまでも行くんです。」リグルは、少しきまり悪そうに答えました。

「それはいいわね。
 この汽車はね、じっさい、どこまででも行くのよ。」

「あなたはどこへ行くの?」橙が、いきなり、たずねましたので、
 リグルは、思わず女性の顔を見上げました。

 ところがその人は別に怒ったでもなく、
 微笑しながら返事しました。

「私はすぐそこで降りますわ。
 私は、鳥をつかまえる事になっているの……言いつけで。」

「鳥!!」

 橙はとたんに、元気づくと、大声で聞きました

「鶴や雁です。さぎも白鳥もです。」

「鶴はたくさんいるの?」

「居ますよ、さっきから鳴いているでしょう?
 聞かなかったの?」

「いいえ。」

「いまでも聞えるわ。ほら、耳をすまして聴いてごらんなさいな。」

 二人は眼を挙げ、耳をすましました。

 ごとごと鳴る汽車のひびきと、すすきの風との間から、
 ころんころんと水の湧くような音が聞えて来るのでした。

「鳥って、どうやってとるの?」

「鶴?それとも鷺の取り方?」

「ん~、鷺」リグルは、どっちでもいいと思いながら答えました。

「それはね、雑作ないわ。
 さぎって言うのはね、みんな天の川の砂が凝って、
 ぼおっとできるの、
 そして始終川へ帰るわ。
 川原で待っていて、鷺がみんな、脚をこういう風にして下りて来たら、
 それが地べたへつくかつかないうちに、時間を止めてしまうの。
 するともう鷺は、かたまって安心して死んでしまうわ。
 あとはもう、……押し葉にするだけの事ですわ。」

「鷺を押し葉に?標本?」

「何を言っているの、みんなたべるでしょう。」

「え~、鳥は生がいいなぁ。」橙が首をかしげました。

「おかしい所なんてありません。」

 その女性は立って、網棚から包みをおろして、
 手ばやくくるくると解きました。

「さあ、ごらんなさい。いまとって来たばかりよ。」

「サギだー!!」二人は思わず叫びました。

「その言い方、引っかかるのだけれど?」

「「何でもありません。」」



 袋には、まっ白な、光る鷺のからだが、十ばかり、
 少しひらべったくなって、黒い脚をちぢめて、
 浮彫のようにならんでいたのです。

「眼をつぶってるね。」橙は、指でそっと、
 鷺の三日月がたの白い瞑った眼にさわりました。

 頭の上の槍のような白い毛もちゃんとついていました。

「ね、そうでしょ?」鳥捕りは風呂敷を重ねて、
 またくるくると包んで紐でくくりました。

 誰がいったいここらで鷺なんぞ喰べるだろうと
 リグルは思いながら訊きました。

「鷺はおいしいの?」

「何言ってるの、リグル。美味しいよ?」

「ええ、その通り。毎日言いつけがありますわ。」

 鳥捕りは、また別の方の包みを解きました。

 すると、今度は黄と青じろとまだらになって、
 なにかのあかりのようにひかる雁が、
 ちょうどさっきの鷺のように、くちばしを揃えて、
 少し扁べったくなって、ならんでいました。

「こっちはすぐ喰べられます。どう……少し食べるかしら……?」

 鳥捕りは、黄いろな雁の足を、軽くひっぱりました。

 するとそれは、求肥ででもできているように、
 すっときれいにはなれました。

「すこしたべてごらんなさいな。」鳥捕りは、
 それを二つにちぎってわたしました。

 リグルは、ちょっと喰べてみて、
(なーんだ、やっぱりお菓子じゃない。
 甘露よりも、もっとおいしいけれども、こんな雁が飛んでいるわけない。
 この人は、どこかそこらの野原のお菓子屋さんだ)
 とおもいながら、やっぱりぽくぽくそれをたべていました。

「もう少し食べても良いわよ?」鳥捕りがまた包みを出しました。

 リグルは、もっとたべたかったのですけれども、

「ええ、ありがとう。」と云って遠慮しましたら、鳥捕りは、
 こんどは向うの席の、扇をもった人に出しました。

「あら~……おいしそうね」その人は、ZUN帽をとりました。

「いいえ、どういたしまして。」

「所で……鷺の方はなぜ手数なんですか?」

 リグルは、さっきから、訊こうと思っていたのです。

「それはね、鷺を喰べるには、」鳥捕りは、こっちに向き直りました。

「天の川の水あかりに、十日もつるして置くか、 
 砂に三四日うずめなければいけないの。
 そうすると、水銀がみんな蒸発して、喰べられるようになるのよ。」

「でも。これ鳥じゃない。ただのお菓子でしょ?
 それに、鳥に水銀なんて……」

 やっぱりおなじことを考えていたとみえて、
 橙が、思い切ったというように、尋ねました。

 すると、鳥捕りは、何か大へんあわてた風で、
「そうそう、ここで降りなきゃ」と云いながら、
 立って荷物をとったと思うと、もう見えなくなっていました。

「どこへ行ったんだろう。」二人は顔を見合せましたら、

「そこよ」と、先ほどのZUN帽の人が教えてくれました。

 二人もそっちを見ましたら、たったいまの鳥捕りが、
 黄いろと青じろの、うつくしい燐光を出す、
 いちめんのかわらははこぐさの上に立って、まじめな顔をして両手をひろげて、
 じっとそらを見ていたのです。

「あそこだ。速かったね……。
 きっとまた鳥をつかまえるところだよ。
 汽車が走って行かないうちに、早く鳥がおりるといいなぁ。」と云った途端、
 がらんとした桔梗いろの空から、さっき見たような鷺が、
 まるで雪の降るように、ぎゃあぎゃあ叫びながら、いっぱいに舞いおりて来ました。

 と思えば、もうそこに鳥捕りの形はなくなって、却って、
「ああ、良かった。
 これでお嬢様に叱られずに済むわ。」
 というききおぼえのある声が、リグルの隣りにしました。

 見ると鳥捕りは、もうそこでとって来た鷺を
 きちんとそろえて、一つずつ重ね直しているのでした。

「どうしてあそこから、急にここへ来たんですか?」

 リグルが、なんだかあたりまえのような、
 あたりまえでないような、おかしな気がして問いました。

「どうしてって、ちょっとした手品ですわ。
 あなた方は、どちらから?」

 リグルは、すぐ返事しようと思いましたけれども、
 さあ、ぜんたいどこから来たのか、もうどうしても考えつきませんでした。

 橙も、顔をまっ赤にして何か思い出そうとしているのでした。

「まあ、どうでも良いわね」鳥捕りは、わかったというように雑作なくうなずきました





以下、注訳


注1 幻想郷に古来より伝わる昔話。
   その脇巫女麗夢時代に存在していたという大魔女が、天の川の星々を作ったのだという。
  (童話・魔女の特急便 より)
注2 此処で言う、母親とはおそらく何時もこの『チルノ』という少女と一緒に居た世話好きの緑の髪の少女と言われる。
   しかし、それでは『冬が』という言葉の意味が分からないため全く別の存在とする意見も
注3 隙間とは、古の昔に幻想郷を作り上げたという神の名。
   今でこそ姿を現す事はないが、昔は頻繁に人前に姿を現した気さくな神様だったと伝えられている
注4 当時からアルコールも電気も有ったと言うのが現在の見方。
   無かったとしたら橙がこの二つを知っている説明がつかないためである。
   よって、リグルが知らないのは只の勉強不足
注5 周りが立ちだしたのでつられて立ち上がっただけで、彼女らには巫女属性は無かったと思いたい。
注6 此処で言う、飛ぶという行為が何を意味しているのかは諸説分かれる所である。
   昔の幻想郷には力の強い妖怪が存在したらしいので、本当に飛ぶ事のできる存在があったとしても可笑しくはない。
秋涼爽快の候、いかがお過ごしですか?

私はどうやって〆るかばかり考えています。
ほんと、どうしよう……。

宮沢賢治さんの作品は、それ自体がまるで幻想なので、
一つ一つがすきとうった硝子のような美しさと脆さですね。

へたに弄ると壊れそうで怖いですハイ。
無音旋律
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コメント



0.90簡易評価
1.40暮夜満足削除
どうも。いいだしっぺです。
なんか軽いノリで大変なものをリクエストしてしまった気がするけど、もうがんばってとしか。<無責任(^^;

今回のラスボスはだれなんだろう? <応援のコトバということで。wwww

(ぜんぜん関係ないけど、ZUNを『寸゛』って書くと、お酒のラベルみたいだよね。<ほんとうに関係ねぇ。・・・)
4.90名前が無い程度の能力削除
>あとがき

激しく同意。でも上手く書けてると思いますよ。



それにしてもリグル、そのまんま賢治の作品に出てきそうなキャラだなあ。