Coolier - 新生・東方創想話

輝夜と永遠の命

2007/09/08 06:49:59
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きっとこれは罰なのだ。

踏み込んではならない領域に踏み込んだ罰。

くだらない好奇心で沢山の人を巻き込んでしまった罰。

だから、これは私に与えられた罰なのだと思った。

終わることのない生。

終焉を望むことすら許されない生。

吐き気がするほどグロテスクなこの命は、

大罪を犯した私への贖罪。

生きることが私に与えられた贖罪ならば、

永遠に生き続けることで、

いつかこの罪が赦される時が訪れるのだろうか。

そんな茫洋とした思考をもて遊びながら、

私はその、冷たく暗い場所を後にした。

若干の、名残惜しさを感じながら・・・。



         * * *



「・・・ん。」

むくりと体を起こした。

さんさんと降り注ぐ太陽の光に顔をしかめる。

遮蔽物のまったくない場所の太陽は、

目覚めたばかりの者に対しては執拗なまでに攻撃的で、

まだ夢現な意識を目覚めよとばかりに突き刺してくる。

自分が目覚めた場所が屋内ではないことをようやく認識した。

ばちばちと、燻った火に爆ぜる竹の音。

もはや役割を果たすことがなくなった、炭化しかけた着物が纏わりつく体。

その場にあるべきはずのものがないところを見ると、今回は自分が負けたのだろうか。

残念、とつぶやく彼女の顔は、それほど残念そうではなかった。

蓬莱山 輝夜。

先ほどまで、焼死体としてそこに無造作に転がされていた遺体の名である。

過去形なのは、今こうしてぴんぴんしているからだ。

「おのれ妹紅。」

一瞬前の自分の憎き仇、藤原 妹紅の顔を思い浮かべて毒づく。

もはや邪魔になっただけの着物を剥ぎ捨てると、

輝夜は竹林を歩く。

やがて、申し訳程度に目印の役割を果たしていた木の棒を見つけた。

地面に突き立っていた木の棒を引っこ抜き、せっせと地面を掘り起こす。

「・・・っと、あったあった。」

手に引っかかった感触を、地面から引っこ抜くと、

それは中身の入った風呂敷だった。

中身は替えの着物である。

妹紅といつものようにやりあった後は大抵着物がお釈迦になるので、普段は替え着を隠しておく。

いくら竹林が人気がまったくないとはいえ、屋外を全裸で闊歩するような趣味はない。

いつものようになにをやりあったかといえば、・・・まあ言うまでもあるまい。



殺し合いだ。



輝夜と妹紅は、この竹林で頻繁に殺し合いをする。

もちろん、殺し合いと言うからにはどちらかが死ぬまで終わらない。

それを頻繁に、とは言い得て妙だ。

だが間違ってはいない。

不老不死。

老いることもなく死ぬこともない、蓬莱人と呼ばれる者達。

そんな類稀過ぎる能力を持った人物が、この狭い幻想郷には3人もいる。

蓬莱山 輝夜。

藤原 妹紅。

あとの一人は、まあ後で紹介しよう。

不老不死である彼女達にとって見れば、殺し合いも一種のゲームでしかない。

「でも不老不死ってのも若干間違ってるわよね。一応死ぬし。」

不老ではあるが不死ではない。

事実、今の今まで輝夜は死んでいた。

死なないわけではなく、死んでもすぐに蘇生する、ということだ。

これを不死と呼ぶなら、死の定義をどう引くかによるが・・・、

まあ、難しいことは永琳に任せとけばいいや。

輝夜はあっさりと問題を放棄すると、新調した着物に身を包みながら竹林を去っていった。



         * * *



「ただいま~♪」

永遠亭。

輝夜を含む月からの来訪者たちと、地上の兎たちの住む屋敷。

その玄関口を勢いよく開け放ちながら、輝夜は声を張り上げた。

それを見て、偶然玄関口の前を通りがかった少女は目を丸くした。

「・・・・・・姫?」

鈴仙・優曇華院・イナバ。

輝夜同様、月から来た来訪者の少女は、ぽかんと口を開けたまま硬直している。

ちなみに輝夜は屋敷に住む兎たちの名前をいちいち把握してはいないので、

全部ひとまとめにしてイナバと呼んでいる。

「なによ、イナバ。私の顔になんか付いてる?」

それとも着物の趣味が変だっただろうか?

・・・、それほど自分のセンスがズレていると感じたことはないのだが。

生憎と、輝夜の予想ははずれた。

顔になにか付いていたわけでもなく、着物の趣味が悪かったわけでもない。

鈴仙は直後に、前触れもなく怒り出した。

「ど、今までどこに行ってたんですか、姫!!」

「はぁ?」

今度は輝夜が、鈴仙の剣幕にぽかんとなった。

どこって、そんなの決まってるだろう。

いつものように妹紅と殺し合いをしてきたに決まっている。

それ以外の目的で一人で屋敷を出たことはないので、当然誰もが把握しているはずだ。

殺し合い、という恒例行事は決して褒められたものではないだろうが、

それについて怒られたこともない。

もはや定例と化していて、行ってらっしゃい早めに帰ってきてね、と送り出されるくらいだ。

ではなぜ自分はイナバに怒られているのだろう。

「ああ、もう! 師匠呼んできますから!!」

本当にわからない、と首を傾げる輝夜に、鈴仙は痺れを切らして駆け出していった。

どたどた、と騒がしい音が遠ざかっていく。

「あ~、足音立てて廊下走ると永琳に怒られるわよ~?」

呆れた様子でそれを見送る輝夜。

やがて、今度は二人分の足音がこちらに向ってきた。

鈴仙ともう一人、長身の女性が並走してくる。

って、永琳まで走ってるし・・・。

輝夜のもとまでたどり着いた二人。

鈴仙は肩で息をしているが、長身の女性のほうは息一つ乱していない。

「ただいま、永琳。廊下走っちゃだめよ?」

「・・・姫、言いたいことはお分かりですね?」

輝夜の軽口を綺麗さっぱり無視して長身の女性は問いかけた。

八意 永琳。

月の頭脳、とまで呼ばれた、超越的な頭脳を持つ月からの来訪者。

そして、幻想郷に住む三人目の蓬莱人。

いつも冷静なはずの永琳が、今は輝夜でも簡単に読み取れるほど怒っている。

「・・・え~っと。」

「・・・・・・本当にお分かりにならないのですか。」

永琳の怒りのボルテージが徐々に上がっていくのがわかる。

まずいまずいまずい非常にまずい。

だが、輝夜にはどうして永琳に怒られているのがまったくわからなかった。

子供じゃあるまいし、今更朝帰りなんてしたくらいじゃ怒るはずがない。

そもそも、永琳が怒るなんて尋常な問題じゃないはずだ。

なんだろう。

出掛けに永琳の研究室でフラスコでもぶちまけただろうか。

いや、そもそも永琳の研究室なんて寄ってないし・・・。

だらだらと脂汗を流しながら硬直する輝夜に、永琳は盛大に嘆息した。

「長期に外泊する際は必ず連絡を入れること。確かに申し上げたはずですね?」

「うん。」

「で、それがわかっていながら、今回なぜ私が怒っているのかわからないと?」

「うん。長期の外泊って、たしか3日からでしょ?」

「ええ、その通りです。」

「じゃあ何で怒ってんの?」

すとーん、と空気が氷点下まで落ち込んだ。

永琳の顔がまるで仮面のような無表情に変わる。

今の発言は、永琳を致命的なレベルで怒らせてしまったようだ。

すう~と、永琳が息を吸い込んで、



「姫が5日も連絡なしでお戻りになられなかったからです!!!」



きぃ~ん、と耳がおかしくなるほどの大音声を上げた。

余りの音の大きさに、鈴仙がぴくぴくと痙攣しながら気絶している。

人間より何倍も耳がいいのだ。

おまけに永琳のすぐ隣に立っていたのだから無理もない。

もしかしたら、近くの部屋にいた兎達も何匹か気絶したかもしれない。

それくらいの大声だった。

輝夜は半泣きになりながら、

「な、なんかの間違いじゃなくて?」

「妹紅に頭でも殴られましたか、姫? ショック療法でもう一度殴られれば記憶が戻りますか?」

ぶんぶんぶん、と勢いよく首を振って否定した。

そして頭の中で必死に思い出す。

そんなはずはない。

妹紅と殺し合いをしたのは昨日のはずだ。

今日目覚めてからすぐに永遠亭に戻ってきたのだからそれは間違いない。

妹紅と殺し合いを始めたのも、出かけたその日だ。

最初からその目的で出たのだから、寄り道などするはずもない。

まさか、4日も不眠不休で妹紅と殺し合いを続けたわけもないし。

どうにも計算が合わない。

4日も空白の時間がある。

何度考えても同じ。

「出かけたのが22日。その日に殺し合って、蘇生した今日の朝帰ってきた。だから今日は23日・・・。」

壁にかけられた日めくりカレンダー。

27日。

本当に5日も経っているのか・・・?

「・・・姫?」

「あうぅ~、永琳ちょっと待って。私引き算もできなくなったかも・・・。」

泣きべそをかきながら必死に記憶を掘り起こす輝夜。

それに、永琳はさすがに異常を感じた。

輝夜は、本当に1日しか経っていないと感じているのではないか。

すくなくとも、輝夜が嘘を言っているようには見えない。

その空白の時間は一体どこに・・・?

「・・・・・・まさか?」

永琳の脳裏に一つ、仮説が思い立った。

もし、そうだとしたら・・・。

「姫、そのことについてはひとまず置いておきます。このまま私の研究室まで一緒に来てください。」

研究室、と聞いて輝夜の肩がびくっと跳ね上がった。

永琳の研究室は通常、永琳以外は立ち入り禁止となっている。

掃除すら自分でするから結構、と永琳は取り合わない。

永琳の研究室は、この永遠亭で唯一誰も知らないブラックボックスなのだ。

当然のように憶測が絶えない。

曰く、八雲 紫のスキマ理論を応用した青いタヌキ型ロボットを製造し、幻想郷征服を目論んでいる。

曰く、汎用人型決戦兵器ウドンゲリオンとかいう巨人を製造し、来たるべき未確認生物との戦いに備えている。

曰く、メカ鈴仙なる謎のメイド型ロボットを製造し、三咲町の丘の上のでっかいお屋敷を乗っ取ろうと計画している。

曰く、サボテンエネルギーで動く、ミサイルレーザーなんでもござれのメイド型戦闘ロボットにおつかいを命じている。

エトセトラetc...

永遠亭七不思議のうち六つは永琳の研究室に関わる内容で構成されているのだ。

もちろん最後の一つを知れば永琳に■されてしまう。

嘘だと断言できないところがまた恐ろしい。

とにかく、永琳の研究室とは永遠亭で一二を争わないほど断トツにデンジャーなゾーンなのだ。

「いやぁ~!! 永琳に解体される~!? 改造される~!? 再構築される~!?!?

 助けてイナバ~!! イナバぁぁぁあああ!!!」

絶叫を上げる輝夜を永琳は無視。

その小さな体をキャスター付きの買い物籠くらいの軽さでずるずる引きずっていく。

そんな輝夜を、

(気絶中気絶中・・・。)

鈴仙は地に伏しながら背中で見送った。



         * * *



「そこに掛けてください。」

キャスターの付いた丸椅子をからからと転がして持ってくる永琳。

半ば強引に輝夜を座らせると、引き出しやら戸棚やらをがちゃがちゃとあさり始めた。

研究室と聞いて、もっと雑多な光景を思い浮かべたが、

意外にも研究室の中は整頓されていた。

永琳の性格が覗えるが、整っているほうが逆に怖い。

輝夜はビクビクしながら、

「せ、せめて痛くしないで?」

「無理です。」

即答。

きらり、と永琳の手の中で閃いたのは、

メス。

(か、解剖!?!?)

鋼鉄すら切り裂けそうなメスを片手に、永琳がすたすたと近づいてくる。

無表情。

怖い、怖すぎる。

「ちょ、永琳!? せめて麻酔とか―――」

「少しの間ですから、我慢してください。」

こう言われて本当に少しであることは、経験上まずない。

これからめちゃくちゃ痛いですよ、と言われているようなものだ。

「さ、姫。腕を出して。」

キラリーン、と永琳のメスが煌いた。

斬られる!!

注射を刺される子供のように目をきつく閉じて腕を差し出す輝夜。

「った!」

すっ、と熱いなにかが腕を走った。

確かに痛かったが、妹紅との殺し合いに比べたら蚊に刺されたようなものだ。

目を開けると、腕に赤い筋が刻まれていた。

「いくら不死身って言っても、痛いものは痛いわよ。」

ようやく余裕を取り戻し、永琳に抗議の声を向ける。

まあ、突然浅くとはいえメスで腕を斬られれば普通は怒る。

永琳は気にも留めずに、そのメスを自分の腕に当てた。

―ぴっ

永琳の腕が引かれ、メスが自らの腕を走る。

そこに、輝夜と同じような赤い筋が刻まれた。

「え、永琳・・・?」

永琳は無言のまま、今傷つけた二人の腕を比べるように並べた。

そこに、変化が起きた。

永琳の傷がみるみるうちに再生されていく。

これが蓬莱人の不老不死。

異常なまでの新陳代謝の活性化。

もちろん、輝夜も永琳同様蓬莱人だ。

通常の人間とは比べ物にならない速度で傷が修繕されていく。

が、永琳の傷が完全に治っても、輝夜の傷はまだ修復中だった。

それどころか、まだまだ時間がかかりそうだ。

常人から比べれば確かに異常なほど早いが、

それでも永琳の回復速度よりは全然遅い。

「まさか、とは思いましたけど・・・。」

複雑そうな表情を浮かべながら、輝夜の腕をアルコールで消毒。

ガーゼを貼り付けると、永琳は研究机のほうに歩み寄った。

ことり、と握り拳よりわずかに大きいくらいのサイズの小さな壺を手に取る。

「ん、それは?」

「蓬莱の薬です。姫が服用したものの残りを保存しておいたものです。」

なんでいまさらそんなものを・・・?

小首をかしげる輝夜に、永琳は背を向けたまま続けた。

「先ほど姫が嘘の証言をしていないとすれば、どこかに空白の時間があるはずです。

 おそらくは、姫が意識のない間。つまり死んだあとから蘇生するまでの間。

 あくまで仮説ですが、おそらくこういうことだと思います。」

一瞬、間をおいて。

その一瞬が奇妙なほど長く感じられた。



「姫の蘇生に4日かかった、と。」



はぁ、と輝夜は間の抜けた声を上げた。

「まさか。全身細切れにされたって数時間で蘇生できるわよ?」

「ええ、通常は。もしかしたら、姫の蓬莱の薬の効果が弱まっているのかもしれません。

 ここからさきは、これを詳しく調べてみないことにはわかりません。」

小さな壺を掲げる永琳。

その表情に不安の色が強いのは、永琳にしては珍しい。

「しばらく研究室に篭ります。誰にも近づけさせないようにしてください。」

「・・・ん、わかった。」

「それと、しばらくは外出禁止です。よろしいですね?」

「は~い。」

外出禁止にやや不服そうに返事を返すと、輝夜は立ち上がった。

研究室の入り口まで歩き、そのまま振り向かずに、

「・・・心配かけたんだね。ごめん。」

そう一言、残して研究室を後にした。

それを見送る永琳の微笑みは、どこか悲しげな色を映していた。



         * * *



朱に染まった平原。

無数の骸が転がっている。

その中心に立つ女性は、決意と後悔を綯い交ぜにしたような表情で立ち尽くしていた。

殺した。

皆殺しにした。

最初の一人は、自分が死んだことにも気付かなかった。

四人殺したところで、ようやく彼らは私が裏切ったことに気付いた。

七人殺したところで、彼らは勝ち目がないことを悟った。

最後の一人は、最後の瞬間まで私に命乞いをしいていた。

皆、殺した。

個人的な悔恨と贖罪のために。

ほんの数分前まで、

その少女の顔を目にするまで、同胞だった者たちを。

降り注ぐ雨の中で、その女性の顔は泣いているように見えた。

「どうか私に・・・、永久にあなたのお傍に居る事をお許しください。」

少女は了承した。

女性の作った薬の中に、自分の『力』を注ぎ込む。

すべての始まりにして、二人の罪の象徴。

蓬莱の薬。

女性はそれを服用し、そして残りを少女を育てた老夫婦に授けた。

二人の蓬莱人は、誰の目にも付かぬ所へその姿を消した。



         * * *



一瞬の判断が命取り。

この一手がすべてを決し、運命を左右する。

そんな極限の連続。

敵は二人。

一人は油断のない視線をこちらに向け、確実にこちらをしとめようと覗っている。

一瞬でも隙を見せれば、敗北と言う地獄に蹴落とされるだろう。

一人は圧倒的優位を確信し、ニヤニヤと余裕の笑みを浮かべながらこちらの一手を待っている。

だがそれは演技だ。

そこに油断なんて甘い物は存在せず、愚かな獲物が罠にかかるのを冷徹に誘い込む。

敵は一枚も二枚も上手だ。

何度も煮え湯を飲まされ、意識に強制的に叩き込まれている。

認めろ。敵は自分よりも強い。

それを認めたうえで、渾身の一手を、

放つ!!

「・・・・・・。」

静まり返る戦場。

先の一人はその表情を変えない。

私の一手に気付いていない!

いける。

そう確信しかけたとき、

「くっくっく。」

もう一人がその笑みを一層強くした。

まさか、見破られた!?

駄目だ、やられ―――



「ダウト。」



ずぞぞ、とカードの山が私の元に押し寄せられた。

「むがぁ!!!」

輝夜が意味のわからない絶叫を上げた。

カードの山を自分の手の中で並べ直しながら、その中身にざっと目を通す。

おめでとう、1~5と9とJQをコンプリートだ軍曹。

宣告を告げた因幡 てゐは鬼の首を取ったかのように高笑いを上げる。

そのまま、手に持った最後のカードを裏向きに場に出した。

「うっひゃっひゃっひゃ!! はい、7ね。あっがりっと。」

「させるかぁ!! ダウトぉ!!!」

てゐはもうおかしくてたまらないとばかりの笑みを輝夜に向けてそのカードを裏返す。

ダイヤの7。

さくっ、と輝夜の手札にそのカードが差し込まれる。

7もコンプリート。

「むぎぃぃいい!!!」

「ケーッケッケッケッケケケ!!!」

手札がすべてなくなったてゐの勝利でこのゲームは終了。

奇怪な笑い声を上げるてゐに苦笑いを向けながら、鈴仙がカードをまとめ始める。

ちなみに戦跡はてゐが11勝、鈴仙が4勝。

・・・輝夜は数えるまでもないので割愛。

外出を禁止されていた輝夜はここ数日、

あまりにも暇すぎるので鈴仙とてゐの二人とカードゲームに興じていた。

「ぐぬぅ、もう一勝負よ!!」

「無駄無駄ァ。何度やっても結果は同じ、姫が勝利することはありえないよ。」

負けずぎらいの輝夜と情け容赦なしのてゐ。

典型的な敗北のデフレスパイラルだ。

ちなみに、輝夜が手札を左から順に並べ替える癖を直さなければ勝利は永遠に訪れないだろう。

「はいはい、そろそろお昼だからここまでにしておきましょうね。」

まとめたカードを軽く切ってからケースに戻す鈴仙。

ちなみに顔に似合わずショットガンシャッフル。

不服そうにむくれる輝夜とてゐを完全に無視して立ち上がると、

昼食の支度を始めるために部屋を出ようと襖に手を伸ばし、

「うわっと。」

突然襖が開いた。

そこに立っていたのは、数日間研究室に篭りっぱなしだった永琳だった。

「あら、ウドンゲ。」

「師匠、調べ物は済んだんですか?」

「ええ。それより、お腹が空いちゃったわ。

 早めにお昼の支度を始めて頂戴。てゐ、手伝ってあげて。」

永琳はなぜか、やや早口でそう告げた。

普段は渋るてゐだが、今回は素直にそれに従って立ち上がる。

「あの、師匠は?」

「たまにはウドンゲとてゐの手料理が食べたいわ。よろしくね。」

「は、はぁ・・・。」

いつもは鈴仙と永琳の二人で作るのだが、今回は永琳は参加しないらしい。

連日の研究で、さすがに疲れが出ているのだろうか。

「ほら、行くよ鈴仙。」

半ば強引にてゐに引きずられながら、鈴仙はその和室を後にした。

ずるずると早足で台所までつれてこられる。

「鈴仙、鈍い。」

半眼でてゐにそう告げられる。

その一言で、ようやく先ほどの永琳の態度が理解できた。



席をはずせと言われていたのだ。



         * * *



「さて、姫。お話があります。」

鈴仙とてゐが十分に離れた頃合を見計らって、永琳が口を開いた。

「う、うん。」

急に改まって、なんだろう。

なんだか重要な話みたいだ。

正座して正対している永琳に習って、輝夜も姿勢を正した。

「結論から入ります。

 ここ数日の研究の結果、姫の服用した蓬莱の薬は未完成品だったということがわかりました。」

蓬莱の薬が、未完成・・・?

どういうことだろう。

「あの蓬莱の薬がいつ作られたものだか思い出せますか?」

「えっと、まだ私が月にいた頃だったよね?」

「ええ、そうです。」

輝夜がまだ月人の姫として月に住んでいた頃の話だ。

永琳は輝夜の教育役として傍に仕えていた。

輝夜はある時、蓬莱の薬という不老不死の妙薬が存在することを知る。

蓬莱の薬に必要なものは豊富な薬学知識と、月人の王族が持つ『永遠と須臾を操る程度の能力』。

成長し、能力が目覚めた輝夜は、興味本位で永琳とともに蓬莱の薬を作り出し、それを服用した。

蓬莱の薬は、月人にとっては最大の禁忌とされていた。

王族とはいえ、その罪が許されることはない。

輝夜は処刑された。

しかし、蓬莱の薬を服用した者は不老不死となる。

輝夜は殺しても殺しても、すぐに再生した。

やがてそれが無意味であることに気付き、輝夜には別の罰が与えられることとなった。

賤しい地上人の住む穢れた地上へと堕とされ、そこで地上人とともに生きること。

罰として与えられた生は、心外なことに快適だった。

輝夜は輝夜を育ててくれた老夫婦と慎ましやかながら幸せな生活を送っていた。

そこへ、月からの使者が唐突にやってきた。

罪は償われた。月へと戻りなさい。

冗談じゃない。

なんて勝手な連中なんだろう。

輝夜はそれを拒んだ。

輝夜一人ならば、おそらく強引に連れ戻されてしまっていただろう。

だが月からの使者の中の一人に、輝夜に加勢してくれる者がいた。

八意 永琳。

永琳は輝夜だけが裁かれ、自分が罪に問われなかったことを負い目に感じていた。

だから、輝夜のためにできる最大の努力を彼女はした。

すべてが終わった後、永琳は再び輝夜の力を借りて蓬莱の薬を作り、それを服用して不老不死となった。

永遠に輝夜と共に過ごす事を選択したのだ。

蓬莱の薬の残りは、月人たちに自分たちのことを話さないよう、口止め料として老夫婦に授けられた。

二人はその後、幻想郷にたどり着き、そして今に至る。

そのときの蓬莱の薬の残りは、妹紅が奪い取って服用してしまったらしいのだが・・・。

「それで、その蓬莱の薬が未完成だったってのは?」

「はい。調べてみても、材料はまったく問題ありませんでした。調合の方法も。

 おそらくは、姫の能力が原因だと思われます。

 あの頃は姫の能力が覚醒した直後でしたから、まだ完全にコントロールができていなかったのでしょう。」

たしかに、納得できる理由だ。

あの頃の自分が今のように能力を使いこなせていたかどうかは甚だ疑問である。

「そっか。じゃあ未完成品だとどうなるわけ? 死んでもちゃんと蘇生してるけど。」

「蘇生するのは薬自体の効果です。その効果を永遠に持続させるために必要なものが姫の能力になります。」

「・・・それって、どういうこと?」

輝夜は首をかしげた。

あいかわらず永琳の話は難しい。

そんな輝夜を優しく見つめながら、永琳は答えた。



「つまり、効果に期限があるということです。」



効果に、期限がある?

蓬莱の薬の効果が切れるということ?

不老不死では、なくなる・・・?

「え・・・と・・・。」

永遠に生き続けることで―――

「姫の蘇生が普段より遅かったのは薬の効果が切れ掛かっているからでしょう。

 私の見立てでは、もう二週間ほどで薬の効果は完全に切れます。」

いつかこの罪が赦される時が―――

「おめでとうございます、姫。

 あなたは人と同じように歳月を重ね、老い、そして生涯を終えることができるようになるのです。

 ようやく、開放されるのですよ。この永遠の呪縛から。」



         * * *



私はなぜ妹紅と殺し合うのだろう。

そう疑問に思ったことがある。

楽しいから。

すこし違うような気がする。

憎いから。

最初の頃はそう思っていたが、これもきっと違う。

そのときはよくわからなかった。

ただ漠然と、きっと妹紅と私は同じものを求めているのだろう、とだけ感じていた。

その答えが、今ようやくでた。

きっと、私も妹紅も『死』という感覚に憧れていたのだろう。

だからこそ私達は殺し合う。

その時ほんの一瞬だけ、私達は死というものに触れることができるから。



         * * *



広間に吊るされた吊り看板を見て、なんじゃこりゃ、と輝夜は思った。

『ついに死ねるよ、よかったねパーティー』

ひどい題名である。もう少し書きようがあるってものだろう。

輝夜の蓬莱の薬の効果が切れる、という話は永遠亭の全員に告げられた。

そしてそのことを祝い、今宵は盛大にパーティーとなったのだ。

まあ、楽しければいっか。

「姫おめでとー!」

「おめでとー!」

「は、ははは、ありがと。」

どぱどぱと杯に酒が注ぎ足される。

すでに5杯目・・・。

輝夜は苦笑いを浮かべながら兎たちに応対すると、

体を傾けてさりげなく前方を見渡した。

酒を注いだ2匹の兎たちが去ると、次の兎たちが酒瓶を持って前に出た。

その後ろには長蛇の列。

並びきれずに壁の前で折り返している兎たちが確認できた。

すべての兎が瓶やら瓢箪やらボトルやらタルやらを抱えて順番を待っている。

ってかなんだあの大吟醸は、飛んでるぞ・・・。

「おめでとー!」

「おめでとー!」

「ああ、うん。あははは、・・・うっぷ。」

まだ辛うじて蓬莱の薬は効いているものの、切れていたらきっと自分は死ぬだろう。

急性アルコール中毒で。

「おめww」

「姫乙ww」

「うはwwお前ら自重しろwwww」

ふらふらになりながら酒を消化していく輝夜を、

鈴仙は止めるべきかどうしようか悩んで、

「・・・って、見てるほうが酔ってきた。」

少し夜風に当たってくることを選択した。

断じて見捨てるわけではない。

席を立つと、人気のない縁側に向かう。

いい月夜だ。風も涼しい。

「あら、ウドンゲ。」

縁側には先客がいた。

永琳だった。

誰も居ないところでひっそり一人で飲んでいたらしい。

特別人付き合いの苦手ではない永琳には少し珍しいことだった。

「お邪魔でしたか?」

「いいわ。座りなさい。」

鈴仙はそっと永琳の隣に腰掛けた。

横目で永琳を見る。

顔が赤らんでいる。

酔っているみたいだった。

これもまた珍しい。

永琳は何も言わずに、月を眺めながら酒を飲む。

いや、呑む、か。

普段の永琳からくらべて随分とペースが速い。

「どうしたんですか、師匠?」

「ん?」

「いつもとちょっと様子が違うみたいです。」

「嬉しいからよ、きっと。」

あっという間に空になったカップにまた注ぐ。

嬉しいから、だろうか。

これじゃあまるでヤケ酒だ。

「・・・そっか。姫の不老不死が切れるなら、師匠の蓬莱の薬もいずれ切れるってことですよね。

 そしたら今度は師匠の番ですよ。」

輝夜の今の状況を思い出して、鈴仙は吹き出した。

永琳なら断りきれずに全部飲まされるに違いない。

困ったように笑う永琳の顔が今から目に浮かぶようだった。

それに永琳は、穏やかに微笑みかけるだけだった。



         * * *



三週間が経った。

結局のところ、不老不死じゃなくなってもあまり変わったところはなかった。

今までどおりにご飯を食べるし、

今までどおりに夜になったら寝るし、

今までどおりにタンスの角に足の小指をぶつけて転げまわる。

何も変わらない。

今までどおりの生活だ。

外出禁止は厳命されていたが、どうせ外に出る用事など妹紅と殺し合いをするくらいしかない。

結局、不老不死なんてその程度の問題だったのだろうか。

「くすくすっ。」

足の小指を押さえながら悶絶する輝夜に、鈴仙は笑った。

それに輝夜は膨れて返す。

「なによぉ。人の不幸を笑うなんてひどいわよ。」

「ふふっ、いえ、姫があまりに楽しそうなので。」

はっ、と輝夜は呆けたように鈴仙を見つめた。

楽しそう?

別に、今までどおりのつもりだが。

「楽しそうですよ、なにをするにも。

 いえ、きっと生きていることそのものを楽しまれてらっしゃるのですね。」

生きていること、そのものを?

・・・・・・そうかもしれない。

無限に続く命。

狩っても狩っても生えてくる。

私にとっては嫌悪の対象でしかなかった。

だが今はどうだろう。

転ばないように廊下は走らなくなったし、

重いものを持っているときは慎重に歩くようになった。

それはきっと有限だから。

命が有限なものとなったからなのだろう。

有限だからこそ価値があるものもある。

「・・・そうかもね。楽しいよ、今。」

「それはなによりです。

 いくらでもタンスの角に足の小指をぶつけてくださいね。」

「ちょ、イナバぁ!?」

「あはははははは!!」

今日も永遠亭に笑い声が木霊する。

最近よく聞こえる笑い声は、いままでより一人分増えていた。















































         * * *



がらがらがら、と唐突に玄関が開けられた。

偶然近くを通りがかったてゐが玄関に向う。

やれやれ、またあの黒白か。

最近頻繁に来る泥棒、もとい強盗だ。

来客の予定はない。

多分今日もそいつだろう。

玄関口に顔を出すなり、てゐは険のある声を向けた。

「はいはいどちらさん? アポイントはお取りですかぁ~。」

てゐは半眼でその人物の顔を確認して、



無造作に首を掴み上げられた。



ぎりっ、と握られた手に力が篭る。

悲鳴すら上げられない。

「悪いね。アポイントは取ってないんだが、案内してくれないか?

 なに、ちゃんと礼はするさ。こいつでな。」

てゐの視界の端、

侵入者の右手に真紅の炎が閃いた。



         * * *



「さぁ~て、どうしてくれようかしら。」

「ひ、姫・・・? 目が笑ってないですよ?」

マウントポジションを奪った輝夜が、捕まえられた哀れな兎を見下ろす。

半眼で微笑みながら、わきわきと手を蜘蛛のように動かし、

「三十分耐久爆笑地獄の刑。」

「ちょ、姫!? こ、殺される~!?!?」

―すぱ~ん!!

唐突に襖が開け放たれた。

輝夜は突然の邪魔者に迷惑そうに視線を向けて、

凍りついたように硬直した。

最悪の化物がそこに立っていた。

「・・・姫。私の研究室のフラスコが何者かに割られていました。

 てゐが研究室に入りませんでしたか?」

半分に割られた丸底フラスコを片手に、永琳が強張った笑みを向けている。

輝夜の顔からどばっと冷や汗があふれ出した。

「み、みみみみみ見た見た見ました!! 犯人はそいつです!!」

「そうですか。貴重な証言をありがとうございます。」

永琳は、ぱぁ、と晴れたような微笑みを浮かべて。

「てゐも『共犯』なんですね。」

「そうそうきょうは・・・・・・、いやいやいやいやッ!!!!」

鈴仙をあっさり開放して、ゆっくり後ずさりを始める輝夜。

輝夜が主犯なのは永琳の中では固定らしい。

すたすたと輝夜に追いつき、ひょいっと軽く足を振るった。

簡単に足元をすくわれて倒れる輝夜。

その上に、とすんと腰を下ろし、

「一時間耐久爆笑地獄の刑。」

「ぎゃぁぁぁあああ!! って増えてるしぃぃぃいいい!?!?」

輝夜が絶叫し、今まさに永琳の魔の手が襲い掛からんと、



もう一度襖が開いた。



「あっ、てゐ。」

鈴仙が気付いて顔を向ける。

「あ~、お取り込み中の所悪いけど、姫を逃がす準備始めてもらえる?」

てゐが皮肉っぽい笑みを浮かべて言った。

一瞬、なにを言っているのかわからずきょとんとする。

「藤原 妹紅が来た。アポなしで。

 蛇行しながら逃げてきたから何とか撒けたと思うけど、ここも時間の問題。」

瞬間、永琳が動いた。

「ウドンゲ、姫を逃がしなさい。

 台所に勝手口があるから、そこからよ。玄関は駄目。」

「は、はい!!」

一瞬遅れて鈴仙が我に返り、輝夜を立たせる。

緊急事態だ。それも最悪のレベルで。

妹紅は輝夜を憎んでいる。

それこそ、頻繁に殺し合いをするほどに。

普通ならそんなことはたいしたことじゃない。

輝夜を行かせて好きなだけ喧嘩でもさせればいい。

だが、もうそういうわけにはいかないのだ。

もう輝夜は不老不死ではない。

今妹紅に会えば殺される。

そのチャンスを妹紅が知れば、それを逃すはずはない。

「あ~、それともう一つ。」

てゐが冗談ぽく続けた。



「あたしの治療。」



―ずるっ

「てゐ!?」

てゐが襖にもたれかかるように倒れた。

その背中に焦げ痕が刻まれていた。

「行きなさいウドンゲ。早く!!」

「ッ!! はい!!」

鈴仙は強引に輝夜の手を引くと、反対側の襖を飛び出した。



         * * *



「・・・・・・迷った。」

妹紅は頬を掻きながら辺りを見渡す。

ひたすらに続く閉じた襖は迷路を思わせる。

どうやらあの兎にしてやられたようだ。

まさかあの至近距離で弾幕を撃たれるとは思わなかった。

おまけに、最初から当てる気のないただの威嚇目的。

見事に引っ掛けられた。

苦し紛れに背中に一発撃ちこんでやったが、いまいち当たりが悪かったようだ。

元気に逃げられた。

さらにもう一回仕掛けて行きやがった。

一見一目散に逃げていったように見えたが、目的地に一直線に向わずデタラメに逃げたようだ。

お陰で見失った上に完全に迷った。

致命傷とは言えないにしろ、負傷した状態でこれだけの駆け引きができるとは大したものだ。

「ほいっ。」

妹紅が首を傾けると、すれすれの位置を弾が抜けていった。

弾が飛んできた後方に目をやり、

「まあいいか。虱潰しで。」

ごう、と足元から炎が噴出した。



         * * *



「姫、こちらです!!」

鈴仙が先導し、台所を一直線に目指す。

着物の輝夜が早く走れないのが口惜しい。

輝夜は先ほどから一言も喋らなかった。

なにか、思いつめているような表情で、



―バァァァン!!



後方の襖を突き破って一匹兎が飛んできた。

僅かに煙が上がっている。

襖の穴から一瞬、炎の舌が顔を覗かせた。

もう追いつかれた・・・!!

「姫、台所は突き当たりを左に曲がってまっすぐ正面です。ここから先はお一人で。」

突き放すように輝夜の手を離し、鈴仙は後ろを振り返った。

「・・・イナバはどうするつもり?」

「疲れました。ここで少し休んでから行きます。」

嘘だ。

息一つ乱さずに廊下に仁王立ちする姿に疲れはない。

だが、輝夜は頷いた。

頷くしかない。

「姫、また後で。」

「今度は勝つわ、ダウト。」

輝夜は駆けた。

振り向かない。

そこで振り向く資格はない。

あるのはこのまま廊下を全力で走る義務だけだ。

鈴仙は輝夜が角を曲がるところまでを見送って、正面に向き直った。

すぐにそいつは姿を現した。

不死鳥の化身、藤原 妹紅。

「よう。輝夜を探してるんだ。知らないか?」

「さあ? 存じません。」

「その先に輝夜が居る、なんてことは?」

「ありません。」

「そうかい。じゃあ通してくれ。輝夜は居ないなら構わないだろ?」

「構います。この先には師匠の研究室もありますので。

 荒らされると私が怒られます。」

「・・・そりゃ残念だ。」

さして残念そうでもない声音で、

炎が一気に噴き出した。

「なら押し通る。」

「できるのなら。」

―ドンッ!!

妹紅の手から大砲の弾のように巨大な火球が飛び出した。

直撃すればただでは済まない。

鈴仙はその火球を見つめて

直撃した。

爆炎が生じ、廊下が燃え始める。

跡形も残らなかった。

「ありゃ、避けるくらいすると思ったんだが・・・。」

あまりのあっけなさに妹紅は目を丸くして、



直後に心臓を貫かれた。



「あら、避けるくらいすると思ったけど?」

後方から鈴仙の声。

いつの間にか、鈴仙の姿は妹紅の後ろにあった。

鈴仙の放った弾は隙だらけだった妹紅の心臓を適確に射抜き、

「へえ、やるじゃないか。それが狂気の瞳かい?」

妹紅がのんびりと振り返った。

リザレクション。

確実に死んだはずの妹紅は瞬時に蘇生した。

これが不老不死。蓬莱人の再生力。

ちっ、と鈴仙は心の中で舌打ちする。

綺麗に殺しすぎた。

蓬莱人を相手にするなら、細切れにするか焼き尽くすかしなければだめだ。

簡単に再生されてしまう。

「なかなかいいね、あんた。サシでやろうじゃないか。」

「1対1? なにを勘違いしてるの。」

左後方。

二人目の鈴仙の声。

「3対1よ。」

右後方。

三人目の鈴仙の声。

狂気の瞳。

先ほどの鈴仙とのやり取りの時点で既に仕掛けられていたのか。

「狂気が見せる幻影の敵。真実があなたに見抜けるかしら?」

「無理だね。」

妹紅はあっさりと認める。

だが妹紅の炎の勢いは衰えるどころか一層強く、

「簡単だ。全部燃やせばいいんだろう?」

―ゴゥウン!!

炎が爆裂した。

熱波が鈴仙を飲み込む。

確信した。

私ではこの化物には勝てない。

鈴仙は勝利するという選択肢をすぐさま切り捨てた。

あきらめではない。

自分に与えられた役割は勝利ではない。

(勝てないのなら、時間稼ぎに徹するまで・・・!!)

三人の鈴仙が同時に弾幕を放った。



         * * *



輝夜は台所の前に立ち尽くしていた。

出口。

今の自分がやらなければいけないこと。

生きてこの場を凌ぎきること。

このまま出るべきだ。

迷わずに逃げるべきだ。

だが輝夜は迷っていた。



不老不死だろうが、普通の人間の体だろうが変わらない。

永琳が居て。

鈴仙が居て。

てゐが居て。

屋敷の皆が居て。

結局のところ、不老不死なんてそんな程度のものなのだ。

不老不死の自分と今の自分と、なにが違う?

なにも違わない。

鈴仙は今の私に言った。

生きていることを楽しんでいる。

そうかもしれない。

きっとそうだ。

じゃあ不老不死の自分はどうだったのだろう。

永琳が居て。

鈴仙が居て。

てゐが居て。

屋敷の皆が居て。

なにも変わらない。

ならばきっと、自分が気か付いていなかっただけで―――



輝夜は頭を振った。

迷いを振り捨てるように。

そして走った。

台所へは入らずに、その先へ。



         * * *



「まあまあだね。」

襟首を掴んでぶら下げている鈴仙を見下ろして、妹紅は呟いた。

三回殺された。

相手も三人だったし、どっこいどっこいといった所か。

兎にしちゃ予想外に奮戦してくれた。

そこそこ楽しめたが、それもここまでだ。

「さて、輝夜を探すか。」

妹紅はどの方向から探そうか、とぐるりと辺りを見回して、

「っと、もうちょい遊ばせてくれそうだね。」

その姿に気付いた。

八意 永琳。

いつの間にかそこに立っていた。

鈴仙と交戦中に手は出してこなかったし、

丁度いま到着したところなのだろう。

あいつもたしか、蓬莱人だったな。

「その手を放しなさい。」

無機質な、押し殺したような声が届いた。

「その手ってのはこの手のことかい?」

ぐい、と左手を上げてみせる。

ぶら下げられた鈴仙が高く釣り上がって、

「もう一度警告する。レイセンを放しなさい。」

「ただで放すってのももったいないね。輝夜と交換でどうだい?」

永琳は無表情のまま沈黙した。

正直どちらでもいい。

どうせ輝夜は見つかるまで探すつもりだし、もともと人質として使うつもりはなかった。

なら別に交渉決裂したとしても―――



「もういい。」



―きゅん

なにかが空を裂く音がした。

続いて、鈴仙が床に落ちて倒れる音。

はて、鈴仙は放していないはずだが・・・。

腕は鈴仙の襟首を掴んだまま。

離れたのは自分の肩だった。

―きゅん

二発目。

妹紅が慌てて飛びのくと、眼前を紫の線が走った。

矢、矢が飛んできた。

いつの間にか弓を構えていた永琳。

今度はいつの間にか鈴仙を抱き起こしていた。

「・・・はっ。」

こいつはヤバい。

とんでもない化物が潜んでやがった。

輝夜なんかよりよっぽどヤバい化物だ。

少なくとも片腕でどうにかなる相手じゃない。

が、

構うものか。

どうせ自分は蓬莱人だ。

死にはしない。

なら、こんな化物と戦える機会を逃すほうがよっぽど惜しい。

輝夜とやるまえに、こいつとやるか・・・。

妹紅は弾幕を永琳の背に向けて放とうとして、

「1分以内に失せろ。治療に忙しい。」

永琳の警告が飛んだ。

妹紅を無視して、鈴仙を抱えて立ち上がる。

眼中なしってわけか・・・。

ならその気にさせてやる。

さらに炎の勢いを上げて、



「貴様の非礼を見逃してやると言った。

 死ねない体であることを後悔したくないなら今すぐ失せろ。」



炎の熱の中でも凍りつくかと思った。

それほどに冷たい永琳の警告は、

斬り付ける様に妹紅に向けられた。

動けない。

永琳の言葉の剣が、妹紅の全身の筋肉をズダズダにしたように動かなかった。

炎は吹き消されたように消えてしまった。

指一本動かせなくなった妹紅を置いて、永琳は歩き出す。

鈴仙を抱え、まるで隙だらけのように見えるその背中は、

まるで地獄の入り口のように見える。

おそらく触れれば還って来られない。

戦わずして勝敗は決着した。

・・・・・・かに見えた。

あまりに場違いなその明るい声は、

その場にいた二人を衝撃でよろめかせるほどだった。

「おっす、妹紅。待った?」

輝夜だった。

永琳の表情が一瞬にして驚愕で埋め尽くされた。

「ひ、め・・・?」

「駄目よ永琳、妹紅いじめちゃ。私だけの権利なんだからさ。」

あるはずのない姿を見て呆然と立ちすくむ永琳を尻目に、

妹紅はいち早く我に返った。

ようやく見つけた。

にぃ、と妹紅の口の端が釣り上がる。

「探したよ輝夜。」

「悪いわね妹紅。デートの約束何日もポカしちゃって。」

「なに、構わないさ。これから三週間分まとめて殺してやるからさぁ!!」

妹紅の炎が噴火したように一斉に噴出した。

まさに噴火だ。

一気に温度が上げられた熱波が押し寄せる。

「はしゃいじゃってまったく。ほら永琳、なにぼさっとしてるのよ。」

永琳と妹紅の間に立ち塞がるように動く輝夜。

妹紅から視線を外さずに声だけで永琳に言う。

永琳もようやく我に返った。

「姫、私が食い止めますから今からでもお逃げください。」

「冗談。永琳が戦ったらイナバは誰が治療してやるのよ?」

「姫!! いい加減に―――」

ついに怒声を張り上げる永琳を、輝夜はさらに押し留める。

「駄目よ、永琳。

 妹紅が不老不死になったのは私のせい。

 妹紅に恨まれているのは私。

 けじめをつけられるのはイナバでも永琳でもなく、私だけなんだから。」

ぐっ、と永琳は唇をかみ締めた。

ここで、自分が口を出す権利はない。

だが、それでも・・・。

「あのね、永琳。その娘を助けられるのは永琳だけでしょう?

 まだカードゲームで一度も勝ってないのよ。

 その娘をカードゲームのできない体にしたら許さないからね。」

輝夜は、そう言い含めるように。

永琳はそれに、ようやく頷いた。

「・・・わかりました、姫。ウドンゲを治療したらすぐに戻ってきます。

 姫、死んだりしたら私のほうこそ許しませんからね。」

そう言い残して、永琳はついにその場を立ち去った。

これで鈴仙についてはもう心配はいらないだろう。

あとは、妹紅ととことんやりあうだけだ。

「さて、腕も再生したことだし。始めようか。」

「今日はとことん付き合ってあげるわ。降参は受け入れないわよ、妹紅!!」

廊下は一瞬にして虹色の弾幕で埋め尽くされた。



         * * *



手早く鈴仙の応急処置を完了する。

時間がない。

とにかく急がなければ。

輝夜は今まで不老不死だったせいで、身を守りながら戦うことに慣れていない。

対して、相手の妹紅は不死身だ。

妹紅が疲れ果てるまで、輝夜が死なずに持つとは思えない。

可能な限り早く救援に向わなければ、輝夜は殺される。

鈴仙はもう心配ないはずだ。

今は意識がないが、すぐに戻る。

急いで輝夜のものに向わなければ・・・!!

永琳は立ち上がりかけ、

「・・・くっ。」

見てしまった。

傷ついた兎たち。

皆、輝夜のために時間稼ぎで妹紅に向っていったものたちだ。

戦っていたのは鈴仙たちだけではなかったのだ。

その者たちの治療も必要だ。

だが数が多い。

すべてを治療していては、輝夜の下には向えない。

見捨てれば、間に合うかもしれない。

だが、そんなことができるのか・・・?

輝夜のために、自らの身を省みずに立ち向かった兎たちを・・・。

「お師匠様、行ってきなよ。」

永琳は顔を上げた。

てゐだった。

「でも・・・。」

「あたしだって伊達にお師匠様とか呼んじゃいないよ?

 鈴仙ほどじゃないにしろ、応急処置くらいならあたしにだってできる。

 鈴仙が起きたら手伝わせるし、大丈夫。」

「でもあなただって軽い傷じゃあ・・・。」

「姫を助けに行けるのはお師匠様しかいないでしょ?

 それにさ、姫ってまだまだいじめがいのある人だし、死んでほしくないよ。

 ホントはあたしが行きたいけど、あたしじゃ役不足だからさ。」

「てゐ・・・。」

永琳はゆっくりと膝立ちになると、

てゐをきゅっと抱きしめた。

「ありがとう、てゐ。行ってきます。」

「・・・・・・うん。」

永琳は駆け出した。

そこに迷いはない。

あるのは、いい弟子を持ったという誇りだけ。

ならば、その弟子の期待に答えなければならない。

輝夜を、死なせはしない。



         * * *



「はぁ・・・はぁ・・・。やるね、輝夜。」

「っ、・・・まあね。今日は絶好調なのよ、私。」

勝負は完全に輝夜が押していた。

既に妹紅は輝夜に四回殺されていた。

その前には鈴仙に三回殺されている。

体力的にもそろそろ限界のはずだ。

対する輝夜はまだ一度も死んではいない。

当然だ。

蓬莱の薬の効果が切れた輝夜では、死ねばもう生き返ることはない。

妹紅と違って一度たりとも死ぬわけにはいかないのだ。

(どういうことだ? いつもより輝夜の動きが臆病だ。)

妹紅はそれに気付いていた。

輝夜が不死身ではない、というところまではたどり着いていないが、

被弾することを極端に恐れているような動きをしていることだけは感じ取れていた。

それも当然。

普段の輝夜は妹紅の攻撃を避けようともしないからだ。

むしろ攻撃の瞬間こそ好機とばかりに回避を捨てて打ち込んでくる。

(なにをびびってる、輝夜!?)

まさか、今更死ぬのが怖いだと?

妹紅は苛立った。

蓬莱人のくせに。

あたしを蓬莱人にしたくせに。

今更死ぬのが怖いだと!?

ふざけるな!!

妹紅が一気に距離を詰めようと突進を仕掛けた。

それを輝夜は落ち着いて迎撃する。

直進できないようなコースで弾幕を放つ。

横に避ける以外に避ける術はない。

横に避ければ、失速したところを狙い撃ちできる。

殺った!!

それに妹紅は、

「舐めるな、輝夜!!」

真正面から突っ込んだ。

「なっ!?」

輝夜の放ったきめ細かな弾幕に左腕を突っ込み、払いのけるように振るった。

当然左腕はただでは済まない。

一瞬にして、まだ付いているのが不思議なほどぼろぼろな姿にされる。

しかし関係ない。

蓬莱人にとってはその程度の損傷など問題にはならない。

まったく勢いを殺さずに直進、妹紅は輝夜に掴みかかった。

「これでくたばれ、輝夜ぁ!!」

「このっ!!」

両者の影が重なった。

そこへ、

「姫ッ!!」

永琳が悲鳴じみた声を上げた。

ようやく戦場に到着したのだ。

だが、間に合わなかった。

決着は着いたのだ。

輝夜と妹紅が至近距離でにらみ合い、

妹紅が笑みを浮かべながら口を開いた。

「・・・やるな、輝夜。今日のお前は、今までで一番強かった。」

「あんたも、ね。まあまあ強かったわよ・・・。」

―ぶしっ!!

妹紅の首から鮮血が噴き出した。

頚動脈。

輝夜は妹紅の頚動脈を切ったのだ。

明らかに致命傷。

これで妹紅は助からない。

そして、

「今回は、引き分けだな。」



輝夜の腹部に潜りこんだ妹紅の右手が、その心臓を握りつぶした。



         * * *



「また来たのかい、あんた。」

三途の川。

死神はもはや常連となった少女にめんどくさそうに一瞥をくれた。

「そういうあんたはまたサボってるのね。」

死神の隣に腰を下ろし、河岸に浮かぶ魂たちを見上げる。

彼らは生きている間幸せだったのだろうか。

それとも死を願ってここに来た者たちなのだろうか。

「お茶くらい出してよ。」

「どうせすぐ戻るんだろう? さっさと帰れ。」

「ん~、今回は長居するつもりだったんだけどねぇ・・・。」

よっこらしょ、と少女は立ち上がり、

着物の裾を軽くはたいた。

追い出されちゃ仕方ない。

「じゃ、もう行くわ。」

少女は歩き出す。

死神は興味なさそうにそれからさっさと視線を外し、

一言だけ、問う。

「あんた、まだ死にたいかい?」

「・・・今はそうでもないわ。」

少女は振り向かずにそう答えて、

その場を去っていった。



         * * *



むくりと体を起こした。

死んだあとはいつも気だるさに襲われる。

軽く首を回しながら、周囲を見回した。

はて、どうなったんだっけ。

ああ、そうだ。思い出した。

永遠亭に乗り込んだんだった。

「よっと。」

妹紅は勢いよく体を跳ね上げた。

だいぶ消耗したし、今回はここまでだろう。

まだ輝夜が死んでいるようならいたずらのひとつでも仕掛けてやろうと思い、輝夜を探す。

輝夜はすぐに見つかった。

まだ死んでいるみたいだった。

永琳に抱きしめられたまま動かない。

「なんだ、そいつまだ死んでるのか?」

永琳は答えない。

顔をうつむかせたまま、ただ輝夜の亡骸を抱きしめている。

その姿に、妹紅はなんとなく嫌なものを感じた。

「・・・お、大げさだな。輝夜が死ぬくらい日常茶飯事だろ?」

答えない。

反応すらしない。

永琳はまるで彫像のように動かない。

「お、おい!」

「姫は―――」

機械音声のような無機質な声が永琳の口から漏れ出した。

「姫はもう不老不死ではない。蓬莱の薬の効果が切れた。

 もう死んでも、生き返らない。姫はもう、死んだ。」

はぁ、妹紅の口から勝手に声が抜けて出た。

なにをいってるんだこいつは。

輝夜はもう不老不死ではない?

輝夜が死んだ?

なにをいってるんだこいつは?

ナニヲイッテルンダコイツハ?

不老不死デハナイ?

輝夜ガ死ンダ?



輝夜が、死んだ?



「な、なに寝ぼけたこと言ってるんだ? 輝夜、おい輝夜!!」

輝夜の亡骸を永琳から奪い取る。

永琳の体にはまったく力が篭っておらず、簡単に奪い取れた。

それをがくがくと揺する。

「ふざけるな輝夜!! 冗談だったら焼くぞ? 焼き殺すぞ!?

 さっさと生き返って続きをやるぞ輝夜!!!」

反応がない。

輝夜の体は凍りついたように冷たいままで・・・。

まるで、まるで本当に死んでしまったかのように・・・。

「輝夜!! 輝夜!!! くそっ、なんで泣けてくるんだよ!!

 なんでお前なんかのためにあたしが泣かなくちゃいけないんだよ!!

 ふざけるな輝夜!!!」

あっという間に視界がにじんだ。

わけがわからない。

なんであたしは、輝夜が死んで泣くのだろう。

輝夜を殺したいほど憎んでいたはずなのに。

ようやく輝夜を殺せたのに。

「ふざけんなよ、輝夜ぁ・・・。お前が死んだらあたしは―――」

その先は声にならなかった。

喉が痛くて、声がかすれる。

なんで、なんで・・・。

口の動きだけがひたすらその言葉を繰り返し続ける。

輝夜はもう、死んだのか・・・。
















































「ぷっ。」

あまりに場違いな声が漏れた。

どこから?

妹紅は周囲を見回した。

「ぷくくくくくくっ!!」

すぐ近くだ。

いや、近くも何も、腕の中だ。

ほかでもない輝夜の亡骸の口から漏れ出していた。

「だぁぁぁっはっはっはっは!! 傑作ぅ、傑作だわぁ!!」

輝夜の亡骸が妹紅の腕の中で、腹を押さえながら転げまわる。

わけがわからず、妹紅は呆然とするしかなかった。

永琳も、まったくの無表情のまま輝夜の亡骸を呆然と見つめている。

「お前が死んだらあたしは・・・。お前が死んだらあたしわぁっはっはっはっは!!

 んもう、もこたんプリチー♪」

ぷにゅ、と妹紅の頬を人差し指でつつく。

以前妹紅の時間は止まったまま。

輝夜の亡骸は、

・・・いや、もうそう呼ぶのはやめよう。

輝夜は妹紅の腕の中から、ひょいと飛び起きると、

ぐぐぅ~っと体を伸ばした。

「いやぁ、死んだ死んだ。やっぱりシャバの空気はうまいわねぇ。」

妹紅の体がゆっくりと震え始めた。

「か、か、輝夜・・・? お前、死んだんじゃ、ないのか?」

「死んだわよ。今死んだって言ったじゃない。二回も。」

けろっと、たいしたことでもないように輝夜は答えて、

「こ、こ、こ・・・。」

「こ?」

「こ、ころころころころころ・・・。」

「ころころしたいほど輝夜ちゃんかわいい愛してる?」

「ブッ殺ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおす!?!?」

「あべしっ!!」

妹紅の凄まじく切れのいいアックスボンバーを食らって、輝夜はきりもみしながら吹っ飛んだ。

べしゃ、と見事に美しく顔面から着地した輝夜は、たっぷり三秒さかさまに床に突き立った。

「いったたた、容赦ないわねぇ。生き返ったばっかりなのに。」

「・・・・・・姫?」

永琳が、機械仕掛けの人形のようにきりきりと輝夜に顔を向けた。

「おっす、永琳。」

「・・・姫、本当に、生きて?」

「この通り、生きてるわよ。わっぷ!」

直後、永琳に思いっきり抱きしめられた。

ぎぅう、と渾身の力を込めて締め付けられる。

「ちょ、永琳ギブギブ。締まってるって。」

「姫・・・、姫・・・、姫ッ・・・・・・!!」

ぽたっ、と輝夜の頬になにかが落ちてきて、

輝夜はそれ以上顔を上げるのをやめた。

きゅっと、永琳の背中を抱いて返す。

「・・・ごめん、永琳。また心配かけたね。」

「う、うくっ・・・、姫・・・・・・。」

しばらく、永琳が落ち着くまで誰も口を開かなかった。

やがて、妹紅が居心地悪そうに輝夜に問いかけた。

「・・・で、結局お前の蓬莱の薬の効果が切れたってのは誤情報だったのか。」

それに輝夜は首を振って返す。

「や、薬が切れたのは本当。」

「じゃあなんで生きてるんだよ。」

「不老不死だから。」

「マジでぶっ飛ばすぞお前。」

「もこたん怒っちゃいやん! ひでぶっ!!」

逆トリプルアクセルで着地した後、

輝夜はそのわけを話し始めた。

「まず薬が切れたってのは、私が服用した蓬莱の薬が未完成品だったから。

 作った当時の私がまだ能力を使いこなせてなくて、半端な蓬莱の薬ができちゃったわけ。

 期限付きだった蓬莱の薬の効果が、一週間くらいまえに完全に切れたのよ。」

「じゃあ、お前はもう蓬莱人じゃないのか?」

「もち、じゃなかった落ち着け。人の話は最後まで聞く。

 蓬莱の薬が未完成品だってのがわかったのは、以前私が服用したやつの余りを解析したから。

 ここまで説明すればもうわかるかしら?」

「まさか、姫・・・?」

「そ。その余りものをさっき私の能力を注いで完成させて飲んできた。

 今度は能力も完璧にコントロールして作ったからね。間違いないわ。

 完璧な蓬莱人よ。蓬莱人オブ蓬莱人。」

輝夜は、再び蓬莱人となって悠久の時を生きることを選んだのだった。

「騙すような真似して悪かったわね。でも永琳は自業自得よ?

 自分と妹紅が服用した蓬莱の薬は完成品だってこと黙ってたでしょう?

 お陰で永琳たちの蓬莱の薬もそのうち切れるものだと勘違いしそうになったわ。

 これはそのことを黙ってた罰ってことで。」

「・・・・・・はい。」

もちろん、永琳が自分のために黙っていたことぐらいわかっている。

永琳は輝夜と永遠に生きるために蓬莱の薬を自ら服用した。

さきに輝夜が死んだのでは、永琳だけが取り残されてしまう。

共に生きるためなのに、輝夜だけがさきに死んでしまったのではその先の永遠を生きていく意味がない。

それは、気が狂うほど恐ろしい絶望だ。

そのことに輝夜が負い目を感じないように永琳はそのことを黙っていた。

それでも輝夜はそのことが許せなかった。

永琳が輝夜を心配するように、

永琳も自分が心配されていることを知るべきなのだ。

「・・・・・・バカだな、お前。せっかく死ねる体になったのに。」

「そうね。バカだわ、私。

 千年生きてていまさらこんなことに気付いたんだから。」

いつの間にか、夜が明けていた。

焼け落ちて穴の空いた壁から朝の光が漏れ出す。

その光を背に受けて、輝夜は舞うように両手を広げた。

「意外と楽しいのよ、生きてるのって。」



         * * *



生きることが私に与えられた贖罪ならば、

永遠に生き続けることで、

いつかこの罪が赦される時が訪れるのだろうか。

きっと、答えはノー。

いくら生き続けたとしても、その罪が赦されることはない。

なぜかって?

当たり前だ。

私は生きるのを楽しんでいる。

楽しいことが贖罪になるなんてことはない。

だから、私はその罪を抱えたまま生きていくのだ。

その罪が赦されることは、おそらく永遠にない。

構わない。

それすら私にとっては楽しみの一つなのだから。







投稿八発目。
皆様、久しぶりor初めまして。卓球読んでくれてる人は(=・ω・)ノぃょぅ!
金曜夜に投下が俺のジャスティス。

今作、一番悩んだのがてゐの扱い。
参考資料がないんだまたこれが。
まあ、僕の中のてゐは大体こんな感じである。
うまいことスポッとはまってくれたのでよかった。

笑いどころがあいかわらずピンポイントなので笑えなかった人はごめん。
シリアスな部分で楽しんでくれぃ。

僕の中では割と良作。
大掛かりな伏線が好きなのでこの話は自分の中ではまあまあヒットです。

それではまた来世ノシ
暇人KZ
http://www.geocities.jp/kz_yamakazu/
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コメント



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3.100名前が無い程度の能力削除
なんかこう、ゾクゾクしました。
内容的にSad endになるかと思ってたので、
輝夜がリザレクションした時本気で嬉しかった自分ガイル。
ハッピーエンドってやっぱいいね!
16.100名前が無い程度の能力削除
うどんげが格好よすぎて悶死した。背筋がゾクゾクきてた
18.100名前が無い程度の能力削除
感動しましたー><。
19.無評価暇人KZ削除
久しぶりに顔出してみて、コメが100点しかついてなくて驚きましたww
こちらこそ100点ごちそうさま。
いい肥やしになりそうです。
21.100名前が無い程度の能力削除
素敵なお話でした。
永い時を生きていると忘れてしまう生きることの大切さ、楽しさ、そして命の尊さ。それらに気付けた輝夜たちはきっと永遠に生を謳歌するのでしょう。
感動しました。
35.100名前が無い程度の能力削除
やっぱり輝夜は魅力的だぜ
42.80名前が無い程度の能力削除
これはなかなかいがった
44.100名前が無い程度の能力削除
永遠亭メンバーかっこよすぎ濡れた
リザレクションの複線もさりげなくてよかったです
52.100名前が無い程度の能力削除
良かった。良かったよマジ