Coolier - 新生・東方創想話

紅魔館慰安会

2007/09/07 15:03:26
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 ピンチとは最悪の結果を迎える一歩前の事だと思う。

 彼女達は己の欲望を抑える事が出来なかった。その欲望は抑えるにはあまりにも強大すぎた。
 だから彼女達は生贄を選んだ。そして、彼女はその欲望の捌け口としてあまりにも適格すぎた。
 故に選ばれた。己の強大すぎる欲望をぶつけ、発散させるために……。

「はぁ、はぁん、はぁぁ……な、なんで……アタイが、こんな目に……」
「ほら、早くしろよチルノ、後がつかえてるぜ」
「そうね、酷だとは思うけどこっちもそれなりに持たされたし」
 魔理沙とアリスがチルノを欲する。
「ふぁあ、はぁん……そ、そんな……事、言われても……」
「申し訳無いとは思いますが……」
「こっちにも事情があるので」
 妖夢と鈴仙がチルノを求める。
「も、もう……限界、だよぅ」
「弱音を吐く暇があったら、やる事をやりなさい」
「ごめんねチルノちゃん。でも私も、もう我慢できないから」
 咲夜と美鈴がチルノを急かす。
「ほ、本当に……なんでアタイだけが、こんな目に……」

 ピンチとは最悪の結果を迎える一歩手前の事だと思う。
 ならば、この哀れな氷精はどちらなのだろうか?
 欲望を晴らさんとしている者達に囲まれ、一方的に欲望を受け続けている。
 限界を超えそうなこの状況が最悪の結果なのか。それとも今はまだピンチで、限界を超えたその先が最悪の結果なのか。
 どちらにしろ、そんな事を考える余裕はこの氷精には無かった。
 いや、正確には与えてくれなかった。なぜなら彼女達の欲望は尽きることが無く、今なお氷精を求め続けているのだから……。

「もう、無理……これ、以上は……」
「何言ってんだ、こんなんじゃまだまだだぜ」
「幻想卿最強なんでしょう? 頑張りなさい」
「い、いくら……最強でも、無理な物は、無理……」
「最強とは己の限界を超え続ける物ですよ」
「だからもう少し頑張って頂戴ね」
「そ、そんな事言っても……はぁ、はぁ、もう何回やったか、数え切れないわよ……」
「どうせ逃げれないのだから、観念して言うことを聞きなさい」
「そうですよ。チルノちゃんが頑張ればその分早く終わるし」
「はぁ、ふぅん……ほ、本当に……無理なんだって、これ以上は……」

 氷精は本当に限界であった。
 八月の炎天下の中、一心不乱に彼女達の欲望を受け続けたのだ。むしろよくここまで耐えたと言うべきかも知れない。
 しかし、それももはや風前の灯火である。そして、その灯火は欲望と言う名の暴風に飲み込まれ、潰えた。

「もう、これ以上……これ以上……氷を作るのは無理--!!」
 今年の夏は暑い。

 始まりは些細な出来事だった。
「咲夜、カキ氷を作って」
「カキ氷、ですか?」
「そう、カキ氷」
 咲夜は考える。
「カキ氷と言うと、あのカキ氷ですか?」
 己の知識に間違えが無ければカキ氷とは氷を細かく砕いて器に盛り、上からイチゴなどのシロップをかけた物である。
「咲夜の考えるカキ氷がどんな物かはわからないけど、多分そのカキ氷で合ってると思うわ」
 咲夜はとりあえず自分の考えるカキ氷と己の主が考えるカキ氷を同一の物とした。そして、新たな疑問を考える。 
 カキ氷を作れと言うからにはカキ氷を食べるのだろう。誰が? 無論、普通に考えれば言い出したレミリアだろう。
 咲夜はレミリアの事を普段の言動や見た目などから大人だと思ったことは無い。だが、その言動の裏には必ず深い意味があり、自分の数倍の年月を生きている彼女のことを子供だと思ったこともない。
 自分にとって信用し、敬愛し、尊敬する我が主。なのだが、その威厳たっぷりの主がよりによってカキ氷。
 紅茶にケーキを優雅に嗜む彼女はとても絵になる。
 だが、この暑い中イチゴシロップがかかったカキ氷を嬉々として食べるその姿はどう見ても子供である。それ以外の何者でもない。
 ましてや溶ける前に食べきろうとして頭痛なぞに悶絶しようものなら─―いや、言うまい。せめてイチゴシロップではなく血ならばそれなりに絵になる。とってもシュールな絵に。
「お嬢様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「いいわよ。何かしら?」
「食べたいのですか? カキ氷」
「……」
「……」
 第三者からすれば絶対に居合わせたくない雰囲気を作り出す従者と主。
「フ……」
「フ?」
「フ、フランがね、前に食べてみたいって言っていたような気がするの。ううん、言ってた、言ってたのよ」
「妹様が、ですか」
「え、ええ、そうなの。それでね、妹の我が侭を聞いてあげるのも姉としての器だと思うわけなのよ」
「そうゆうことですか、わかりました。すぐに作って妹様の元へお持ちします。でわ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい咲夜」
「ええ、わかっておりますわ。お嬢様」
「え? まぁ、わかってるならいいけど」
「妹様にはキチンとお嬢様のお気持ちと伝えとおきます」
「ちょっと待った咲夜!! そうじゃないの、いやそれも大事だけどそうじゃないの」
「他にも何か……ああ」
「わかってくれた? 咲夜」
「急いで食べない方がいいとも伝えておきます。機嫌を損ねられるといろいろと面倒なので」
「う、うん。それも大切だけどね、もう一つ大切な事があると思うのよ」
「もう一つですか?」
 はて、と首を傾げ、やはりシロップの代わりに血を垂らしたほうがいいのだろうか、と真剣に考える咲夜。
「あ、あのね咲夜。一人分作るのも二人分作るのも大して変わらないと思うのよ。私は」
「ええ、まあ」
「そ、それでね、物はついでなんだけど……」
 徐々に聞き取りづらくなっていく声にはぁ、と相槌を打つことしか出来ない咲夜。
「で、出来れば……の分もお願いしたいのだけど……」
 まったく聞き取れない主の声に悩む咲夜。
 誰の分だろうか? パチュリー様? いや、パチュリー様へなら紅茶とケーキや本を読みながらでも食べれるサンドイッチなどの方が喜ばれる。
 ならば美鈴か? ますますありえない。彼女はこの暑い中外で仕事をしているのだ。差し入れでカキ氷を持っていってあげればさぞ喜ぶだろうがお嬢様が美鈴をそこまで気にかけてるとは思えない。
 ああ、でも持っていってあげればきっと満面の笑みで喜ぶだろう。慌てて食べて頭痛に襲われる所まで容易に想像できる。うん、後で個人的に持って行ってあげよう。シロップは何がいいだろうか? シンプルにみぞれかイチゴか? いや、ここはシロップでは無くアズキもいいかもしれない。まぁ、どれでも彼女は喜んでくれるだろうが。
「ねぇ咲夜、聞いてる?」
 主の声で妄想、もとい想像の世界から幻想卿に帰ってきた従者。
「申し訳ありません、お嬢様。少々考え事をしておりました」
「そう見たいね。後半、少し顔がにやけてたわよ」
「それはそうと、お嬢様、申し訳ありませんがカキ氷は妹様と誰の分と?」
 華麗なる話術で強引に話題を戻す瀟洒な従者。
「え、そ、それはね……」
「はい」
 今度こそ聞き逃さないよう細心の注意を払う咲夜。
「こ……」
「こ?」
「紅魔館全員よ!!」
「はい?」
 突如ナイスアイディアを思いついた顔をしている主と我が耳を疑っている従者。
「全員分、ですか?」
「そう。全員」
「えっと、全員分ですか?」
「ええ、そう。全員」
 あまりの話の飛び具合に同じ質問をする従者と同じ返答をする主。
 ご存知の通り紅魔館に住まう者、特にメイドの数は計り知れるものではない。
「お嬢様? 何ゆえ全員分も?」
「え? そ、それはね、えーと……そう!! 最近暑いじゃない?」
「ええ、八月ですし」
「それでね。この暑い中、紅魔館に尽くしてくれた従者達の労をねぎらう為、みたいな?」
「なぜ疑問系なのかはわかりかねますが、そういうことならすぐに準備いたします」
「ええ、おねがいね。それとシロップを用意する時は練乳も忘れちゃだめよ。多めに用意してね。多めよ、多め」
「わかりました。お昼ごろには準備が整うかと」
「そう、楽しみにしてるわ」

 こうして紅魔館カキ氷慰安会は始まった。
 咲夜の指示の元、メイドたちは会場の準備や里への買出しと大忙しだったが自分達の慰安会と知って俄然やる気十分であった。
 いつもこうなら咲夜の悩みは激減するのだが、そうはいかないのが現実だろう。この慰安会で今後の仕事もやる気を出してくれればいいのだがと思うが、同時にそうはいかないんだろうなと諦めをつけている咲夜であった。
 ちなみにメイドたちの提案により買出しはシロップ類だけではなく、スイカやメロンなどの果物も買い物リストに加えられていた。勝手に。
 こうして順調に進められているように思われたカキ氷慰安会だが、割とすぐに問題がおきた。
 氷が無いのだ。
 やはり、いくらなんでも人数が多すぎる。全員分のカキ氷を作るにはかなりの量の氷が必要なのは自明の理だった。
 が、割とすぐに解決案が見つかった。意外なことに解決案を見つけたのはメイド長の咲夜でも知識人のパチュリーでも無く、門番の美鈴である。
 そして、その解決案とは割と単純なものだった。紅魔館の外の湖にいる氷精に氷を作ってもらうというものである。
 日ごろから門番としての仕事柄、湖にいる氷精と面識がある美鈴がゆえに誰よりも先に思いついたのだろう。
 氷精との交渉も美鈴が行ない、即座にオーケーサインが帰ってきた。どうやら美鈴は以前から氷精に氷をわけて貰っていたらしい。
 ちなみに、この事を知った咲夜は美鈴にカキ氷差し入れ作戦があまり効果的では無いことを知り、他に何を持っていけば美鈴が喜んでくれるか本気で熟考しはじめ、美鈴が『咲夜さんの差し入れなら何でも嬉しいですよ』と声をかけるまで全体の作業が止まったのはお嬢様には内緒だ。
 かくして準備を終え、慰安会は開かれた。

 お嬢様の開会のお言葉。
「でわお嬢さま、皆にお言葉を」
「それより咲夜、練乳はちゃんと用意してくれた?」
「ええ、言われた通り多めに。ですからお言葉を」
「わかったわ。……えーコホン。皆、ご苦労様。これより紅魔館慰安会を始めるわ。紅魔館に尽くしてくれる皆のために私からのプレゼントよ、適当に楽しみなさい。……こんな感じでいいかしら?」
「ええ、ご立派です」
「そう。それじゃ咲夜、カキ氷作ってきて。イチゴシロップに練乳を沢山かけたやつ。沢山よ、沢山」
「承知しております。例の妹様の分ですね。直ちに」
「え? いや、そうじゃなくてね。それも大切だけどそうじゃなくて……」
 パーフェクトなわりになかなか主の心中を察してくれない従者。一方、メイド達は思い思いに盛り上がっていた。
 和気藹々とカキ氷を満喫する者、後にどんな苦しみを味わうか知っていながら早食い対決をする者、かき氷ではなくスイカやメロンを食べる者。
 中でも盛り上げっていたのが会場の隅にある氷置き場。そこでは氷製作を引き受けた氷精が傍から見るとかわいそうな子に見えるくらいのハイテンションで氷を作っていた。
「こんな沢山の人たちがアタイの力を必要としている。やっぱりアタイってば最強ね!」
 色々と突っ込みどころ満載であったが煽てておけばどんどん氷を作ってくれるので誰も何も言わない。哀れ氷精。
「はーい、みんな順番にねー。慌てないでねー」
 その横でカキ氷を作って配る美鈴と売り子メイドたち。ちなみにシロップは自分で好きな物をかけるセルフサービス式だ。シロップに紛れてタバスコが置かれているのは妖精特有の茶目っ気だろう。
「わぁー。めーりんすごーい」
「あ、妹様。妹様もカキ氷を食べに?」
「うん、そうだけど。ねぇめーりん、どうやったら氷がそんなふわふわになるの?」
 余談だがカキ氷は比較的に目が細かい方が美味とされている。その点、美鈴の作ったかき氷はまるで雪のような目の細かさだ。普通のカキ氷機では到底作れる品ではない。
「これはですね、こうやって作るんですよ」
 美鈴は適当な大きさの氷を手に取り、勢いよく殴りつけた。すると氷が粉末――雪のようになり崩れる。
 明らかに人が真似できることでは無かった。
「秘密はですね、まずこう拳を立てて氷に一撃目を入れて、その瞬間に拳を折ってニ撃目を入れる。すると衝撃は抵抗を受けることなく伝わって氷は……」
「? なんかよくわかんない」
「あはは、妹様に教えるにはまだちょっと早かったですね。そんなことより溶ける前にカキ氷召し上がってください」
 美鈴はさっき砕き雪のようになっている氷を器に盛り付けフランドールに手渡す。
「ねぇ、めーりん。カキ氷、二つ欲しいんだけど。だめかな?」
「二つ、ですか?」
「うん。お姉様にも持っていってあげるの」
「つまり、お嬢さまの分ってことですか?」
「そうだけど、ダメかな?」
 美鈴は思った。あの妹様が、あの妹様がお嬢さまの為に! 少し前まで狂気の妹と呼ばれ、誰とも関わりを持とうとしなかった妹様が!
「だ、だ……」
「ダメかな?」
 顔を俯かせ、わなわなと震えている美鈴を上目遣いで覗き込むフランドール。
「ダメなわけ無いじゃないですか! この紅美鈴、感動しました! あの妹様が……妹様が、お嬢さまの為に……」
「ど、どうしたの? めーりん」
 目から涙を流し、歓喜に震える美鈴を今度は心配そうに見上げるフランドール。
「妹様! お二人の分は私が全身全霊をこめてお作りします。それはもう容量限界の特盛りで!」
「う、うん。ありがと」
 お礼を言い、特盛りのカキ氷を受け取るフランドール。
「シロップは何がいいかなー」
「妹様が選んだ物ならお嬢さまは何でも喜びます。でも、しいて言うなら練乳は多めにかけるともっと喜ぶかと」
 なぜかパーフェクトメイドより門番の方が主の好みを知っていた。
 門番がパーフェクトメイドをある一点において上回った瞬間である。出来れば違うところで上回りたかった。
「そっかー。じゃあ私はレモンで、お姉様は……これにしよ! お姉様喜んでくれるかなー」
 ええ、喜んでくれますよ。きっと。美鈴は心の中でそう告げ、フランドールを見送った。
「すみませーん。カキ氷一つ下さーい」
 そんな美鈴をよそに、いつの間にか順番待ちのメイド達が長蛇の列となっており、後方で『こちら最後尾ではありませーん』『先頭三列は手を上げてくださーい、列通りまーす』『カキ氷の最後尾こちらでーす』なんてやり取りが聞こえてくる。わかる方はこれだけでわかるだろうがそれだけ壮絶な行列だと思ってもらいたい。わからない方はわからないままのあなたで居て欲しい。
「って、うわ、いつの間にこんな大手に! こら、そこの売り子メイド! 変な氷像彫って遊んでないで手伝いなさい」

「大盛況ね、レミリア」
「あら、こんなタイミングで遊びに来るなんて、ついてるわね。霊夢」
「いや、あんたが今日はこうゆうイベントがあるからいらっしゃいって誘ったんでしょう」
 なんとか咲夜に自分の意思を遠まわしに伝えようと頑張っていたところ、あらかじめ――具体的には咲夜たちが準備をしていた時に誘っておいた霊夢がやってきた。
「にしても便利ね、あの氷精」
 八月にこれだけの人数が一箇所に集まれば、その体感気温と湿度は想像を絶する物になるだろうが、氷精の作り出す大量の氷のおかげで割と快適なのだ。
「帰りに家の分の氷も作って貰おうかしら」
「交渉してみる価値はあるんじゃない?」
 本人の知らないところでパーフェクトの名に変な傷を付けられた咲夜が答える。ちなみにこの事を本人が知ったとしても相手が美鈴なら別にかまわないだろう。もしくは私を傷物にした責任を、とか言い出すかもしれない。
「でもそれは帰りに、今はカキ氷をいいただくわ」
「そう、じゃあさっさとあの列に並んできなさい」
「……。咲夜。私ね、ここでは意外とVIPな方だと思ってたのよ」
「そうね。お嬢さまのご友人だし、今日だってお嬢さま直々の誘いで来たのだからその認識はそう間違ってないわ」
「理解があって嬉しいわ。でね、そのVIP気味な私がカキ氷を食べたいなぁ、とか思ってるわけ。それで主の顔を立てるのが優先な従者としてそこら辺どうかなと?」
「最後尾にはプラカードがあるからそれを目印にしなさい」
「ケチ! ちょっと主特権とかメイド長権限とかでカキ氷一個貰って来てくれてもいいじゃない」
「お冷ならすぐに用意するわよ」
「ただ食いしに来て何いってるのよ」
「だってお呼ばれされたし。カキ氷食べれるって」
「ええ、食べれるわよ。あそこに並べば」
「私みたいなか弱い少女があそこへ行ったら間違いなく生きて帰って来れないわ」
 咲夜は思う。いったい誰がか弱い少女だ。
「いったい誰がか弱い少女よ」
「今、思ったことそのまま口に出したでしょ」
 それを心の中に留めて置く理由は咲夜には無かった。

「お姉様ー、カキ氷持って来たよー」
 どうにか楽してカキ氷を食べようとする巫女を従者が軽く受け流している時、フランドールが山盛りのカキ氷を両手に持って来た。
「え? フラン、持ってきたって、まさか私の分も……」
「うん。練乳いっぱいかけてきたよ」
 そう言って、山盛りのカキ氷をレミリアに手渡すフランドール。
「こ、これを、私の為に?」
「そうだけど? い、いらなかったな?」
 顔を俯かせわなわなと震えるレミリア。この時、フランドールは思う。あれ? なんかこれさっきも見たような? デジャブである。
「フラン……大好きよフラーン!」
「ふぇ! お、お姉様! 急に抱きついたらカキ氷がこぼれ……フギャ!」
 急にフランドールに抱きつくレミリア。妹を抱きしめる姉と書けばそれなりに聞こえは良くなるかも知れないが、いかせん妹の背骨がゴギゴギミシミシと鈍い音を立てているのが戴けない。
「お姉ちゃんはあなたがこんなに優しい子だったなんてしらなかったわーー」
「お姉様! 折れちゃう! 折れちゃいけない物が折れちゃうーー」
 レミリアの中で目覚めてはいけない感情が目覚めかけていた。カキ氷のせいで。
 ちなみに、この姉妹の抱擁を目撃したメイドが一瞬にしてここでは書き綴れない様なベットの上のエロスな世界を思い描いてしまい、鼻血を噴出し咲夜が想像した血をたらしたカキ氷を実際に製作してしまったのは別の話。
「お嬢さま、もうそこら辺に。妹様の関節が曲がってはいけない方向に曲がり始めてますわ。カキ氷も溶けますし」
「そうよ、レミリア。このままじゃフランの潰れちゃいけない物が潰れちゃうわ。あと、カキ氷食べないなら私に頂戴」
 二人の声で我に返ったレミリアはフランを放し、改めて礼を口にする。
「ありがとうねフラン。お姉ちゃんはすごく嬉しいわ」
 自称が今だに私では無くお姉ちゃんになっているら辺、まだ完全に我に返ったわけでは無さそうだ。
「う、うん。それよりお姉様、カキ氷食べよ」
「ええ、そうね。ありがたく頂くわ」
「お嬢さま、よかったですねぇ」
「そうね。ところで咲夜、私にもカキ氷を持ってきてくれる人が欲しいんだけど」
「本当に、よかったですねぇ」
「咲夜、ついに無視?」
 今だ悪あがきをする霊夢をよそに、カキ氷を食べようとする姉妹。
 目をキラキラと輝かせながらカキ氷をスプーンですくい口に入れるフランドール。
「うわぁ、カキ氷って冷たくておいしいね」
「フランはカキ氷を食べるのは初めてだったわね。それじゃ私も頂くとするわ」
 やっと自称が元に戻ったレミリアもカキ氷をすくい、口にいれる。この時、誰も気づいていなかった。練乳まみれの中に潜んでいるイチゴシロップとは似ても似つかない毒々しいまでの赤いシロップに。いや、それはシロップでは無かった。
「んぐぅ!」
 スプーンを咥えたまま滝の様な汗を全身から噴き出たせるレミリア。
「な、なにこれ! こんな物食え……」
「どうしたの? お姉様」
「うぐ! な、なんでもないのよフラン。とっても美味しいわ、このカキ氷」
「よかったー。めーりんがね特別に大盛りにしてくれたんだよ」
 出来ない。自分の為に持ってきてくれたかき氷をフランの目の前で突っ返すなど出来るわけが無い。
 かくして、レミリアの戦いが始まった。フランドールの思いがこもった練乳たっぷり大盛りタバスコカキ氷との戦いが。

 どれ位経っただろうか。フランドールが自分のカキ氷を全て食べ終え、レミリアは今だ半分ほどしかその量を減らしてはいない。
 霊夢はカキ氷を諦め、かわりにスイカやメロンを食い漁っていた。
「ふう、美味しかったー。それにしてもお姉様、今日は随分食べるの遅いねー」
「え、ええ。せっかくフランが持ってきてくれた物だからゆっくりと味わいたくて……」
 全身から汗を流しながらも表情一つ変えずに答えるレミリア。
「ふーん。そりより咲夜、私おかわりが食べたいんだけど」
「妹様、食べ過ぎてはお腹を壊してしまいますわ。代わりに紅茶とクッキーをご用意いたしますので」
「うん、わかったー」
「さ、咲夜! 私の分の紅茶も一緒に用意して頂戴!」
「は、はぁ。しかし、カキ氷に紅茶は合うでしょうか?」
「ええ、合うと思うわ。このカキ氷には特に」
「あ、咲夜ー、紅茶入れるなら私にもお願い」
「霊夢、あなたいつの間に戻ってきたの?」
「スイカとか全部食べつくしちゃったから」
 ちなみに、霊夢が食べた総数は約スイカ三玉、メロン五玉にも及ぶ。スイカよりメロンの方が割合が多いのはやはりメロンイコール高級という先入観の生み出した結果だろう。
「まぁ、お嬢さまの招いた客人である以上、お茶くらいは出すわ。でわお嬢さま、妹様。少々お待ちください」
 言うと同時に姿を消す咲夜。
「ほんとに便利ね、あんたのところのメイドは」
「でしょう」
「ところでレミリア、気のせいかも知れないけど一つ聞いていい?」
「なにかしら?」
「唇、腫れてない?」
「……気のせいよ」

 レミリアが咲夜の用意した紅茶でカキ氷を全て胃に流し込み、ようやく一息付いた時にそれは鳴り響いた。
「カキ氷完売でーす!」
 美鈴の声である。無料で配っているので完売とは言わないのだが、なんとなくそんな空気だったのだろう。ついでに言うと、氷はチルノが作り出しているため大量にあるのだがシロップが残ってないのだ。タバスコのビンは今だ健在だったが。
「アタイったら最強ねー!」
「チルノちゃん、もう氷は作らなくていいから。こら! そこのメイドたちも片付けるの手伝いなさい……って、なんか知らないうちに1/144ハイグレードミニチュア紅魔館の氷像が立ってるー!」
 遊んでいるメイドを叱り付け、片づけを始めさせる美鈴。しかし、目を離すと『次はマスターグレード、いやいっそパーフェクトを』などと言いながらまた氷で遊び始めるのでなかなか作業が進まない。このままでは1/60紅魔館が出来上がってしまう。

「やっぱり咲夜じゃ無いとあのメイド達の管理は無理ね。美鈴は優しすぎるから」
「ええ、ですがそれが彼女のいいところでもあります。現に今日も私からの差し入れなら何でも嬉しいと言ってくれまして……」
「いいから、その話はいいから。それよりも早く美鈴のところへ行って手伝ってあげなさい。このままじゃ何時までたっても片付かないから」
「わかりました。でわ、今すぐ美鈴の元へ向かい美鈴の手伝いをしてきます。美鈴のために」
「うん、もう何も言わないから早く行きなさい。それと咲夜、氷精にここへ来るよう伝えといて頂戴」
「氷精にですか? わかりました」
 でわ、と言い残し姿を消す咲夜。
「あんた、チルノなんて呼びつけてどうするのよ?」
「これでも紅魔館の主よ。身内が世話になったら礼を述べるのは当然でしょ」
「ちゃんとやることはやってんのね。ま、帰りに氷もらうつもりだったし、ちょうどいいわ」
「ついでに私の部屋の分も貰おうかしら? あったら涼しいし」
「それはそうとレミリア」
「なに? 霊夢」
「チルノがくるまでに唇、直しときなさい」
「……だから気のせいよ」

 程なくして、姉妹と巫女の元に氷精が訪れた。
「呼ばれたとおり来てやったわよ」
「あなた、名前はチルノと言ったわね」
「そうだけど、何の用よ?」
「コホン。チルノ、この度は我が紅魔館の催しにたいする力添えを感謝し、今後とも円滑、かつ友好的な関係を築いていきたいと願うわ」
「え、えと……つまり、どゆこと?」
「つまりレミリアが言ってるのはね、今日は手伝ってくれてありがとう、これからも仲良くしましょうって事よ」
「おお、わかりやすく言ってくれてサンキュー! いいわ、アタイの力が必要な時はいつでも言いなさい」
「そう。じゃあ早速、氷でも貰えるかしら? 部屋にあると快適に寝られそうだから」
「あ、それは私の分もお願いね。神社に持って帰るから」
「ふ、あの巫女や吸血鬼までもがアタイの力を……やっぱりアタイったら最強ねー!」
 言うが同時に特大サイズの氷を作り出すチルノ。そして彼女達の前に現れる氷山の一角ような氷の柱。
「はぁはぁ、どう? こんぐらいあれば足りる?」
「まぁ、後で部屋に運ばせるからいいけど……」
「こんなにでかく無くとも……どうやって神社まで持っていこうかしら?」
「ふん、これくらい朝飯前よ」
 その割には肩で息をしているがそれは仕方が無い。今日、チルノが作り出した氷の総量は十トンをとっくに超えている。しかも、最後に一度で一トンほどの氷を作り出したのだ。流石に疲労の色が見える。
「割るか、切るかして小分けにしたのを持って帰ればいいんじゃない?」
「そうね、というかそれ以外の手がちょっと見つからないわ」
「分ける方法は……そうね。フランちょっとレーヴァテインでこれ適当な大きさに……って、フラン?」
 そのフランドールであるが先ほどからチルノの周りをクルクルと飛び回っている。
「あんた、さっきからなによ? 人の周りをクルクルと、そんなにアタイが珍しい?」
 フランドールは無言でチルノの周りをパタパタと飛び続ける。その目を決してチルノから離さず。
「あ、あんた! 黙ってないで何とか言ったらひゃう!」
 当然チルノの顔に急接近してきたフランドール。チルノの顔を目の前にし、その目を見続ける。
「フラン、客人に失礼よ」
 姉として妹を躾けるレミリア。しかし、その言葉はフランドールの耳には入っていないようだった。
 今まで生きてきた中で、こんな見ず知らずの相手に顔を急に接近させられたことが無いチルノは少し混乱していた。
「あ、う、な、なに? なんなのよ」
「す……」
「す?」
 やっと口を開けるフランドール。
「すごいねー! 今の、どうやったの?」
「は?」
「魔法? 魔法だったら私も勉強すれば出来るかなー? でも私、魔法苦手だからなぁ」
「え、えっと……」
「パチュリーだったらわかるかな? 教えてもらおうかなー」
「そ、その、これは、ま、魔法じゃ……」
 フランドールの豹変ぶりについていけないチルノ。
「フラン、今のは魔法じゃないわ。彼女は氷精といってその名の通り氷の妖精。だから氷を作り出したのは魔法じゃなくて力、能力よ。勉強する事はいい事だけど、彼女と同じ能力を持つことは出来ないわ」
「ええー、私も氷欲しかったなのにー」
 こうしてまた一つ知識を蓄えたフランドール。しかしそれと同時に目標が討ち砕かれ、肩を落とす。
「氷ならここに沢山あるから持って行きなさい」
「でもそれはお姉様と霊夢の分だから……」
「なら彼女にまた作ってもらうように言えばいいわ」
「え? ちょ、ちょっとこれ以上は……」
「うん。じゃあそうするー」
「だから待ちなさいって! いくらアタイでもこれ以上はちょっと無理かなーって……」
「えー、私も氷欲ーしーいー」
 瞳を潤ませながらチルノに抱きすがるフランドール。俗に言う駄々っ子だ。
「そんな顔で抱きついても無理な物は無理……」
「あ、冷たい……」
「へ? 何言って……」
「ひんやりしてて気持ちいい……」
 氷精の体温はかなり低い。無論、氷ほどでは無いが夏場は抱き枕に持って来いだろう。
「うぅー気持ちー」
「あんたちょっと離れな……っていだだだだ!」
 姉と同じく力加減を知らないフランドールの抱擁に悲鳴を上げるチルノとその身体。
 ちなみにこの抱擁を目撃したメイドが再びベットの上のディープでエロスな世界を思い描き、鼻血を噴出し片付けの手間を増やすことになり、メイド長に叱られたのは別の話。
「レミリア、そろそろフランを離させた方がいいんじゃない? チルノの身体から鈍い音がしてるし」
「そうね。フラン、それは今日から抱き枕にしていいから今は離しなさい」
「はぁい」
 レミリアの言葉に従い、名残惜しそうにチルノを離すフランドール。
「はぁ、潰れるかと思った。って、勝手にアタイを抱き枕に……」
「そうと決まれば、咲夜ー」
「お呼びでしょうか、お嬢さま」
 例によって唐突に姿を現す咲夜。
「うん、片付けの方は?」
「今しがたメイドの粗相により手間が増えましたが、殆ど終えています」
「一つ頼みがあるの」
「何でしょうか? 私としては最後まで美鈴の手伝いをしたいとこですが。美鈴の為に」
「……うん。至福の時を邪魔して悪かったわね」
「いえ、もしここでお嬢さまの頼みを無碍にしてしまったら美鈴に怒られてしまいますので」
「そう、って言うか私の言うことを完璧に従順していたのは私への忠誠心じゃ無かったのね……」
「滅相もありません」
「まぁよくないけど今はいいわ。それより今日の夕食はそこの氷精の分も用意して頂戴。後、着替えも」
「何そのお泊りコース! 勝手に決めな……」
「畏まりました。それじゃあチルノ、あなた食べれない物やアレルギーとかある?」
「え? まぁ、強いて言うなら極端に熱いものとかは……って、勝手に話を進めな……」
「わかったわ。それじゃまず着替えから用意するわね」
 でわ、と言い残し姿を消す咲夜。
「さて、話がまとまった所で、フランは夕食までその子と遊んでなさい」
「まとまってないわよ!」
「はーい」
「あ、遊ぶ前にちょっと待ちなさいフラン」
「ん? なに霊夢」
「あの氷の塊を適当に叩きって欲しいんだけど、得意のあれで」
「いいよ。ちょっと待っててね」
 返事と同時にフランドールの右手に現れる歪な杖。
「霊夢たち少し離れててね。それじゃいっくよー」
 杖を握り締め、氷へと跳ぶフランドール。
 そして氷へ杖が振り下ろされる時、歪な杖は禍々しい炎の魔剣へと姿を変える。
 あとは瞬く間だった。数回、魔剣が舞ったと思えばすでに巨大な氷塊は十七分割にされていた。
「こんな感じでいい?」
「そうね、これくらいなら何とか持って帰れるでしょう」
「なんならメイドの一人や二人付けるわよ」
「いえ、遠慮しとくわ。代わりに籠か何か借りれるかしら? 大き目のやつ。氷入れるのに」
「これくらいの大きさの籠でいいかしら、霊夢」
 またもや突然、姿を現す咲夜。その手には買い物籠を握っている。
「まぁ、いいけど……。よくそんな大きさの籠があるわね」
 その大きさ、実に大の大人が四、五人入れそうである。
「食材なんかの買出し用よ」
 恐るべし紅魔館のエンゲル係数。
「それじゃあ一通り用が済んだし、そろそろ御いとまするわ」
 咲夜から買い物籠を受け取り、手ごろな大きさの氷を中に入れ始める霊夢。
「あらそう? ゆっくりしていけばいいのに」
「今日はこの後、魔理沙とアリスが家に来るのよ」
「それじゃあ、しかたないわね」
「この後、二人の惚気話を聞かされ続けると思うともう少しここに居たい気分だわ」
「ご愁傷様ね」
 ため息をする霊夢を目にし、苦笑するレミリア。
「ところでお嬢さま。そこの氷精の着替えを見繕い終わりましたんで夕食の準備まで美鈴を手伝いに行きたいのですが」
「……ここに居ても大して変わらないみたいね」
「……そうね」
 行ってきなさいと指示するレミリアと有難う御座いますと礼を述べ姿を消す咲夜。
「お姉様、もう遊びに行っていい?」
「ええ、構わないわよ」
「構わなく無くない!」
 フランドールに連れて行かれそうになるチルノ。本人は拒絶を表現しているつもりだろうが実際には肯定してしまっている。
「えぇー、遊んでくれないのぉ……」
 チルノに強く断られ顔を曇らし今にも泣きそうなフランドール。実際には強く肯定してしまっているのだが。
「うぅ、そんな顔しったて……」
「チルノ、私の妹はあなたと違ってあまり友人が多くないの」
 レミリアはチルノの側まで歩み寄り、その手を取る。
「だ、だから何よ」
「姉としてはあなたの様な友人の多い子と友達になって欲しいわ」
 真剣な瞳でチルノの目を見つめるレミリア。
 ちなみにこの二人の見詰め合う姿を目撃したメイドがベットの上の以下中略――メイド長の手間が増えたのであった。
「いいじゃない、それくらい。レミリアが身内以外の人に頼みごと何て滅多に無いわよ」
 ちょうどいいサイズの氷を物色しながら言付けする霊夢。
「ダメ……かしら?」
 今度はレミリアまでその表情を曇らせる。
「わ、わかったわよぅ! 友達になればいいんでしょ、友達に。それぐらいお安い御用よ!」
 ついに折れ、開き直ったチルノ。それを見て『あんな状況じゃ断れるわけ無いじゃない』と思う霊夢だった。自分も少しばかり加担したくせに。
「ほ、ほんとに!」
 チルノの言葉を聴き、いっきに表情を明るくするフランドール。
「決まりね。それじゃ夕食までフランの部屋で相手してあげて夕食は七時からよその後の入浴だけど暑いお湯がだめならあなた用に水風呂も用意させるわ寝るときはフランと一緒に添い寝してあげてねそれじゃ後はよろしく」
 そして、チルノの返事を聞くや否やこの後のスケジュールを言い渡すレミリア。
「それじゃあ私の部屋へレッツゴー!」
「あっれー? ひょっとしてアタイ騙されたー?」
 紅魔館の主たる者、演技の一つや二つマスターしているのだ。
 こうしてフランドールに襟を掴まれ、部屋へ連行されて行くチルノだった。

「凄い猫の被りようだったね、レミリア」
「妹の為なら猫でも犬でも被るわ」
 ふーん、と返しながら出来立ての友達を引きづる拉致加害者と無駄な抵抗を続ける拉致被害者を見届ける霊夢。
「それじゃ今のその顔も作り笑顔?」
 楽しそうに笑う妹とその友人を見届けるレミリアの顔は、まるで親鳥が自分の下を去って行く雛鳥を見届けるような哀愁を感じさせた。
「これが演技だったら私は大女優になれるわね……」
「……そうね」
「でも、これは我が侭な感情よね。私があの子にしてきた事はこれくらいじゃ償えない……」
「そうね、その通りよ」
 優しい言葉を期待したわけでは無いだろうが、こうもはっきり言われると感情を抑えきれないのか顔を俯かせるレミリア。
「そして、これからもあなたはあの子の幸せを第一にしなくちゃいけない。たとえあの子が嫌がることになっても」
「そうよ、わかってるわ。そんなこと……」
「だからあなたがその感情を持つことは間違ってる。」
「わかってるって言ってるでしょう……」
「わかってないわね。わかってたらそんな感情は持たないわ」
「わかっていても無理な物は無理なのよ」
「だからわかってないのよ。そもそも私が何のことを言ってるのかがわかっていない」
 わかってる。わかってるつもりだ。なぜなら彼女は、何時いかなる時も最愛の妹の事で悩み、苦しめられてきたから。
「霊夢、これはあなたが関わる事じゃない。これ以上は聞くに堪えないわ」
「それじゃあ、これで最後にするわ。私が言うあなたのわかっていない事は……」
 これで最後と言う言葉に、最後の良心を捧げ霊夢の言葉に耳を傾けるレミリア。
「この先、何があろうとあの子はあなたを姉として慕い続けるって事よ」
「れい……む?」
 予想していなかった言葉に動揺を隠し切れないレミリア。そんな彼女をよそに霊夢はこれで最後という言葉を破る。
「だってそうでしょう? あんないい子が自分の為に尽くしてくれるあなたを嫌いになるわけが無いじゃない」
「そう……ね。そうだといいわね」
 俯き、表情を隠しているが霊夢にはレミリアがどんな顔をしているかわかった。
「そうよ、絶対。それじゃ、私はもう行くわ」
「絶対、ね。私でも見えない運命なのによく言い切れるわね」
「私の勘は当たるの、それじゃまた。ああ、そうそう……」
 歩き出した霊夢が歩を止め、レミリアに振り返る。
「なに? 霊夢」
「その涙は、演技って事にしといてあげるわ」
「……そうね、そうしてくれると助かるわ」
「あなたも早く戻りなさい、メイドにそんな顔見られたくないでしょ? それじゃ今度こそまた」
 そういって再び歩き出す霊夢を見送るレミリアだった。

「いい所を全部持ってかれたって感じね。霊夢」
「あなたじゃ立場的にああもはっきり言えないでしょ? 咲夜」
「私や美鈴、パチュリー様の三人でなら言えたかもしれないわ」
「あら、それじゃあ余計なお世話だったかしら?」
「いえ、そんな絶好の機会が来るまでお嬢さまを苦しめるなら、これでよかったかもしれないわ」
「そう、ならよかったわ。それじゃあ、お仕事がんばって」
「ええ、言われなくても。それと言うかどうか悩んだんだけど言わせて貰うわ」
「なに?愛の告白なら間に合ってるけど?」
「今この場に美鈴が居なくてよかったわね。もしあらぬ誤解を招こうものならこの屋敷から返さないとこだったわ」
「それで、言いたい事って?」
「……そんな馬鹿でかい買い物籠持ちながらじゃイマイチ締まらないわよ」
「……あんたが用意したんでしょ」
「ごめんなさい。まさかあんな話になるなんて思わなかったから……。やっぱり言わない方が良かったかしら」
「そうね、その方がよかったわ」
 色々と台無しである。
 こうして従者はどでかい買い物籠と巫女を見送った。

 以上が氷精の不運の初日であった。
 と言ってもこの後、フランドールの部屋でレーヴァテイン白刃取りなどのスリル溢れる遊びを満喫し、テーブルマナーを間違える度メイド長に叱られる夕食を味わい、ドライアイス入りの低温火傷しそうな水風呂に入り、寝るときは身体から鈍い音のするフランドールの抱擁に包まれながらとなった。
 余談だが夜中にチルノがトイレに行こうとし、たまたまメイド長の部屋の前を通った時、中からベットの軋む音と門番の卑猥な声が聞こえたがチルノには中で何が行われているかわからなかった。さらに余談だがその後、この部屋の前を通ったメイドがベットの以下略。

 そして同時刻。博麗神社に遊びに来た魔女っ子コンビは部屋にある特大サイズの氷を見てどうしたのかと訪ねる。
 特に隠す理由も無いので今日あったカキ氷の食べれないカキ氷慰安会とそこにいた氷精の話をする。
 ちなみに、勝手に神社に入り込んできた鬼っ子が氷を使い自前の酒を氷割りを作って満喫していた。
「私たちもカキ氷食べたかったぜ」
「行ってもカキ氷は食べれなかったけどね。スイカやメロンばっかで」
「わたしは食べれないよ~」
「うっさい。酔っ払い」
「まぁ、カキ氷はともかく、この氷は便利そうね」
「そうだな、明日あたり貰いに行って見るか」
「そうね、私も欲しいから一緒に行くわ」
「ん? 別に私一人でいいだろ。今はもうほとんど一緒に住んでるような物だし」
「ちょ、ちょっと魔理沙! 霊夢の前で何を……」
「別に隠すことじゃないだろ?」
「そ、そうだけど……」
「私の知らないうちに随分進んだようね」
「あ、あうぅ」
「霊夢にはわたしがついてるよ~」
「はいはい、そうね」
「まぁ、そういうわけだから私一人で行ってくるぜ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。それじゃ私が魔理沙を使いっぱしりにしてるみたいじゃない」
「でもなぁ」
「そ、それに人形達を使えば重くないし」
「それじゃ今度は私がアリスを使いっぱしりにしてるじゃないか。それに私のほうが足は速いぜ?」
「それはそうだけど……結構重そうよ、あれ」
「ならやっぱり二人で行くか」
「そうね、二人なら軽いし速いわ」
「そうだな、二人ならな」
「霊夢~なんかこの部屋急に暑くなったよ~」
「二人とも、せっかく貰ってきた氷が溶けちゃうから他所でやってね」

 翌日、紅魔館を訪れた魔理沙とアリスに、そして咲夜に紅魔館全体分の氷を作らされたチルノ。そしてこの様子をたちの悪い新聞記者の天狗に見つかり噂は幻想卿中に広がり、今やチルノの下には氷を求める者達が集まるようになった。
 魔女っ子コンビ、狐と兎と庭師とメイドの従者達、中には人里の分も分けてくれないかと言うハクタクまでやってくる始末だ。
 かくして来る日も来る日も体力の限界まで氷を作り続けるチルノ。
 氷精は思う。来年は絶対に誰の頼みも聞かないと。がんばれチルノ、これで君はまた一つ賢くなった。でもきっと来年には忘れてしまってるだろう。哀れ氷精、秋はすぐそこだ!



 番外編

「今日は忙しかったなぁ。咲夜さんが居なかったら片付け絶対に終わんなかっただろうし、後でお礼言いに行こうかなぁ。でもこの時間に咲夜さんの部屋に行くと朝までいろんな事されちゃんだろうなぁ」
 さてどうしたものかと、夜中の門の前で頭を傾げる美鈴。
「考え事? 美鈴」
「ひう! き、急に姿を現さないでくださいよ! 驚くじゃないですか」
「驚かしに来たのよ」
「うぅ、なんで私はこんな人を……」
「何か言った? 美鈴」
「いえ、自分の理想と現実は違うんだなぁと、ところで何か用事ですか? そしてさっきから手にしてるそれは何ですか?」
 美鈴の言うとおり咲夜は現れた時からバスケットを抱えていた。
「え? ええ、これなんだけど……」
 そういうとバスケットの中身を美鈴に見せる咲夜。その中身は大きめの氷と器が二つにシロップが入ったビンが一本。
「カキ氷……ですか?」
「ええ、そのつもりなんだったんだけど……流石にこの時間だと冷えるわね。また今度にでも……」
「咲夜さん、言ったじゃないですか。私は咲夜さんの差し入れなら何でも嬉しいって」
「……美鈴。ホントにあなたは優しすぎるわね」
「数少ない取り柄です。ところでよくシロップが余ってましたね。私が見たときはタバスコしか無かったんですが……」
「これは私のお手製よ」
「わざわざ作ったんですか?」
「ええ、私もあなたも今日は忙しくて食べてないでしょ? だから……」
「そうですか、わざわざありがとうございます。それじゃ行きましょうか」
「行くってどこへ?」
「どこって、咲夜さんの部屋に決まってるじゃないですか」
「美鈴、それが何を意味するかわかってる? なんか今日は自分を抑えられる気がしないわよ」
「いつも抑えてないじゃないですか。寝不足上等ですよ」
「甘いわね。徹夜よ、徹夜。一睡もさせないわ」
「……少しだけ後悔してます」
 無い胸を期待で膨らませるメイドと不安に掻きたてあげられながらも笑顔の門番はゆっくりと館内へ歩き始めた。

 館内に入った従者二人を窓から見つめる主。
「念の為に子供の名前でも考えておこうかしら」
「参考までに聞くけどどんな名前にするつもり?」
「男の子だったら美夜、美鈴の後任の門番にするわ」
「ミツバチみたいな名前ね」
「女の子だったら咲鈴、咲夜の後任のメイド長ね」
「隙間妖怪とか花の妖怪と被るわね」
「どっちがいいかしらパチェ?」
「苗字が十六夜か紅かにもよるわ」
「それもそうね。というか紅咲夜とか十六夜美鈴って新鮮ね。どっちになるのかしら」
「まず間違いなく十六夜でしょね」
「あら、どうして?」
「咲夜は自分の名を大切にしているわ。誰かさんからの貰い物だからって」
「……そう」
「咲夜は美鈴ばっかり見てるわけじゃないのよ。ちゃんとあなたのことを信用し、敬愛し、尊敬しているの」
「わかってるつもりよ」
「わかってないわね」
「今日は何回それを言われるのかしら」
「安心してレミィ。私は霊夢みたいに焦らさないから」
「それは助かるわ」
「私が言うあなたのわかってない事はね、今日霊夢が言ったことよ」
「それなら霊夢に聞かされたわよ」
「そうじゃないわ。今日霊夢が言ったことはね、本当は私たちがあなたに言わなくちゃいけなかった」
「パチェ……」
「一番近くに居た咲夜があなたの考えを理解してあげなければいけなかった。対等に意見を言える私があなたの勘違いを教えてあげなければいけなかった。妹様の思いを知っていた美鈴がそれをあなたに伝えてあげなければいけなかった」
 パチュリーの言葉は自虐だった。しかしレミリアはなぜか自分が責められているような気がした。
「だから二人の分まで謝罪するわ。ごめんなさいレミィ、不甲斐ない友人で」
 頭を下げるパチュリーを前にしてレミリアは気づく。
「それは違うわ、だから顔を上げてパチェ」
「レミィ……」
「パチェの言うことだからそれは正論なのかもしれない。でもそれを言ったら私はフランの思いに自ら気づかなくちゃいけなかった。みんなが伝えようとしてくれてる思いに気づかなくちゃいけなかった。だからおあいこよ」
「……ありがとう、レミィ」
「おあいこだから礼はいらないわ」
「そうだったわね。ところでレミィ」
「何かしら?パチェ」
「この妹様が差し入れてくれたカキ氷、残していいかしら?」
「だーめ、フランの心が篭ってるのよ。無下にすることは許さないわ。」
 フランドールが慰安会に来ていなかったパチェリーの為にわざわざ差し入れてくれた品なのだが、すでに述べているようにシロップは咲夜お手製の以外は全て使い切っていた。もはやシロップではないある一本を覗いては。
「それに私はその三倍は食べたわ」
「あなた、自分以外の犠牲者が欲しいだけじゃないの」
「そんなことないわ。フランの優しさをみんなにも知ってもらおうと」
 今頃従者二人は、美鈴が砕いた氷に咲夜が作ったシロップをかけて仲良く分け合っている頃だろう。もしくは部屋に入るなり咲夜が美鈴を襲っているか。

 こうして紅魔館カキ氷慰安会は幕を閉じた。
わずかに季節外れ
おかしいなぁ
構想は六月からあったのになぁ

美鈴の技は人差し指でつぼを付き粉々にするやつとどっちにしようか迷ったんですけど1/2は前回やったので今回は極めるとはどうゆう事かにしました

誤字脱字などありましたら指摘下さい

冒頭でチルノのけしからん姿を思い描き、メイドと同じ末路を辿ったやつ挙手w
ぶちうさ
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コメント



0.2400簡易評価
3.60名前が無い程度の能力削除
フタエノキワミ、アーッ!!

後半だんだんgdgdになってきたのが残念でした。もっとプロット練れば締められたと思いますよ。
4.80ピースケ削除
咲夜さんの美鈴に対する愛が見れて満足です
6.80名前が無い程度の能力削除

わかっちゃいても、考えちゃうもんですよw
9.70名前が無い程度の能力削除
幻想卿……。
11.40翔菜削除
>まずこう拳を立てて氷に一撃目を入れて、その瞬間に拳を折ってニ撃目を入れる

何と言う二重の極み……これは間違いなくMYOUOU。
個人的にはカップリングは一部ちょっと蛇足だったようにも。
12.50名前が無い程度の能力削除
こちらで地の文より会話文の比率が高いSSって珍しいね。結構驚き。
その会話文、軽妙でテンポは良いんだけど、誰が誰に話してるのかわかりづらいのが残念。
13.90鬼干瓜削除
瀟洒なセリフで美鈴大好きっぷり垂れ流してる咲夜さんカワユス

せめて練乳なければ喰えそうだな、タバスコカキ氷(何
17.90時空や空間を翔る程度の能力削除
タバスコ練乳カキ氷・・・・・(汗・・・
がんばった・・・・うんうん・・・

美鈴さん、何処で二重の極みを会得したのか興味深々。
25.90名前が無い程度の能力削除
ここまでストレートに美鈴に好意を示す咲夜さんみたことねぇ!
27.50名前が無い程度の能力削除
冒頭のチルノの描写を序章と捉えるならば、回想であるところの紅魔館慰安会がメインに据えられているのは違和感があると思いました。一人目の人が「後半グダグダ」と感じられたのも、もしかしたらこれが原因なのではないでしょうか。
でも咲夜さんの行動原理が偏りまくっていたり霊夢が我が侭だったりというのは普通に楽しめて面白かったです。
>潜入概念
正しくは先入観または固定観念です。なお潜入観、固定概念でも誤りです。
>襟をを掴まれ
>美鈴がそれををあなたに
32.90名前が無い程度の能力削除
お姉ちゃんは頑張った。⑨も頑張った。良い慰安会でした。
42.無評価名前が無い程度の能力削除
誤字報告。
×幻想卿
○幻想郷
47.70名前が無い程度の能力削除
カキ氷今年食べなかったな・・・
もう厳しいな季節だな・・・
57.100名前が無い程度の能力削除
夏と言えば、かき氷。
でも、真冬に読んでも美味しかったですw