Coolier - 新生・東方創想話

河童の川流れ

2007/08/26 00:00:03
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<注意>風神録のキャラが登場します。


























川の水面を、ガチャガチャと音を立てながら少女が流れてくる。
身の丈四尺(120 cm)ほどの小柄な少女だ。
水色のワンピースに身を包み、頭に緑の帽子をかぶり、背中には大きな大きな緑のリュックサック。
すきまから工具がいくつもはみ出している。
そして、服のポケットがパンパンに膨らんでいる。
これまた工具だ。
小さな小さな体に一杯一杯の工具を巻きつけて、河童、河城にとりは川を漂っていた。
河童は一般に泳ぎの達人である。
にとりも、百間(181 m)の川をものの数分で泳ぎきる事が出来る。
そんな彼女が、なぜ川を漂っているのか。
それは、酔っ払っているからである。
ついさっきまで、彼女はある天狗と酒を酌み交わしていた。
その天狗の名は犬走椛。
妖怪の山の守備隊員である。
椛とにとりは友達だった。
中国語で言うと朋友だった。
一般に、山の妖怪は仲が良い。
その中でも、椛とにとりはちょくちょくと大将棋を指しては酒を飲み、相撲をとっては酒を飲む仲であった。
今日も、二匹は酒を飲んでいた。
いつもの獣道のいつもの屋台で、二匹は酒を飲んでいた。

初夏の森の獣道に、奇妙な歌声が響いていた。
勃ち上がーれー勃ち上がーれー勃ち上がーれーち○ちんー♪
君よーこすれー♪
「おい、人が気持ちよく酒を飲んでる時に下品な歌を歌うんじゃないよ。焼き鳥にして食っちまうぞ、こら」
「ちん!?」
「にとりん、落ち着いて。でも、焼き鳥は賛成だな」
「ち、ちん!!」
ミスティア・ローレライの商う屋台で、今日も二匹の妖怪が酒を飲んでいた。
椛とにとりである。
ツマミはもちろん、この屋台名物の焼きやつめうなぎ。
やつめうなぎの肝煎り。
そしてもろきゅう(きゅうりの上にもろみを載せた料理)。
かっぱ巻き。
これで全てである。
もともと、この屋台にもろきゅうとカッパ巻きは置いていなかった。
しかし、椛に誘われてにとりが初めてこの屋台に来た時、
「女将さん、もろきゅうちょうだい、もろきゅう」
「ごめんなさいね。もろきゅうは置いてないの♪」
「え……無いの? もろきゅう、無いの? じゃあ、かっぱ巻きは?」
「それもないわ♪」
「…………」
「……あはは、にとりん、気を取り直してー。ここの焼きやつめうなぎは美味しいんだから」
「……もろきゅうの無い屋台なんかで酒が飲めるかあ!」
 と言って怒り狂い、暴れたのでもろきゅうとかっぱ巻きを置くようにしたのである。
 こういうところに気を配る辺り、ミスティアは意外に客商売が向いていた。
 にとりはもろきゅうをつまんでいた。
 すっげえ嬉しそうな笑みを浮べてつまんでいた。
 これほど喜ばれるのならば、もろきゅうを置くのも悪くない。
 そう、ミスティアは思った。
「女将さん、なんか曲を頼むよ。できれば渋いので」
「判ったわ♪」
 ミスティアはやつめうなぎを焼きながら楽しげに歌った。文とにとりはツマミをつまみながら、静かに耳を傾けた。
 
 君達よ♪
 龍神はいつも♪
 君のことを♪
 見つめているよ♪
 いつでも今日も♪
 見つめていたのは♪
 君達よ♪

「良いねえ。涙が出やがる。そんな調子で何曲か頼むよ」
「はーい♪」

 ああ紅に山燃えて♪
 世は豊饒の穣りなり♪
 人妖たちは舞い踊り♪
 天に龍の立ち出づる♪
 秋の輝く夕べなり♪

パチパチと拍手の音が響いた。
椛とにとりが叩いているのだ。
「良いねえ良いねえ女将さん、最高だよ。それにしても女将さん、龍神様を見た事あるの?」
「私はないわー」
「私も龍を見たのは幻想郷が結界で囲まれた時だけだねー」
「こぉらぁ椛ぃ、龍って呼び捨てにするんじゃないよ。尻子玉抜いちまうぞ、こら」
「ちょっとお客さん。食べ物を扱ってるんだから汚い事はやめてよね」
「尻子玉は汚くなんかないやい!」
「勘弁してよー。そういえば、にとりんは今でも龍神様に会ってるんだよねー?」
「よく会うほどの仲じゃないけどな。一年に一回は物を捧げてるよ」
「何を?」
「そんなの決まってるじゃないか。尻子玉だよう」
 にとりはふふんと得意げに言った。
「尻子玉って一体なんなのー?」
「判り易く言うなれば、溺れた人間の魂だ。人は溺れ死ぬと魂が尻から抜ける。それが龍神様は大好物なんだなあ」
「ええ、そうなの! やった! スクープだ! にとりんその話詳しく聞かせて! 文様に報告するの!」
と椛がにとりにせっつくが、
「嘘だよ、ばーか。あっさりと騙されるんじゃねえよ」
とにべもない。
「がーん。……じゃあ尻子玉って本当は何なの?」
「それはひ・み・つ・だ。そんなことより女将さん。もう一曲頼むよ。渋いの」
「判ったわ♪」

 ふるさとは遠きにありて思ふもの♪
 そして悲しくうたふもの♪
 よしや♪
 うらぶれて異土の乞食となるとても♪
 帰るところにあるまじや♪
 ひとり都のゆふぐれに♪
 ふるさとおもひ涙ぐむ♪
 そのこころもて♪
 遠きみやこにかへらばや♪
 遠きみやこにかへらばや♪

「ふるさとは遠きにありて思ふもの、か」
 にとりがしみじみとつぶやいた。
「遠きにありて思ふものだねー」
 椛も、またしみじみとつぶやいた。
「椛は何処の国の生まれだったっけ?」
「伊予だよ。石鎚山の森の中で生まれ育ったのー」
「あたしは筑後だ。小さい頃は筑間川(筑後川)でのんびりと泳いでた。と言っても今も小さいけどな」
「確かにねー」
 にとりの上背は四尺(120 cm)ほどしかない。
 小柄な椛と比べても一回り小さい。
比較的大柄なミスティアと並ぶとその小ささが一層際立つ。
「筑間川はな、でっかい川だった。川幅三十間(540 m)、山のてっぺんから海に出るまで三十六里(144 km)。そのすみずみまでひとかきで行けた。それが今じゃなあ」
「私も一度で良いからおもいっきり野山を駆け巡ってみたいものだねー」
「だよなあ」
 屋台を、重たい空気が覆った。
 椛とにとりの二匹が、今はもう帰ることの出来ない故郷のことを想っているのだ。
 幻想郷。そのあまりに小さな世界で椛とにとりは暮らしている。
 外の世界に、想いをはせながら。
「お客さん方、元気を出しなさいよ。ここもそんなに悪い所じゃないじゃない」
「それもそうなんだけどなあ……。まあいいや、飲もう! 今日は飲もう! 女将さん。アツアツのやつめともろきゅう、それととびっきりの酒を頼むよ!」
「あい、すぐにあがるからねー♪」

 こうして、椛とにとりは酒を飲んだ。
 浴びるほど飲んだ。
 河童も天狗もウワバミであるが、それでも倒れてしまうくらい飲んだ。
 ミスティアの屋台においてあった酒が一本も無くなってしまうまで飲んだ。
 酒が無くなったところで、二人の酒宴はお開きとなり、にとりはこうしてガチャガチャと音を立てながら、川の水面を漂っている。
 川を流れるような河童は、一般に間抜けと言われるが、にとりはこうしてゆらゆらと水面を漂うのが嫌いではなかった。
 ゆらゆらと水面を漂っていると、自分の体が母なる水と一体になるような気がして気持ちが良い。
 このまま、湖まで流れてみるのも面白いかもしれないとにとりは思った。
 しかし、幸せな時間と言うものは長くは続かないものである。
 ゆらゆらと漂う彼女の行く手を阻む無粋なヤカラが現れたのだ。
「大ちゃん、見て見て! 間抜けな河童がおぼれてるよ!」
「チルノちゃん! 笑ってないで助けてあげないと!」
 湖を根城にするじゃりん娘二人組み、チルノと大妖精である。
 彼女達の目から見て、にとりは溺れているように見えた。
 誰が見たってそう見える。
 体中に山と工具をくくりつけて川を流れていたら、控えめに見ても溺れているようにしか見えない。
 むしろ、殺妖事件? と思ってしまっても仕方が無い。
 だが、にとりは普通の女の子ではなく、普通の河童であった。
 おぼれているなどと勘違いされる事は許せなかった。
 妖怪弾頭河城にとりはすぐに発火するのだ。
「ブルァ!」
「「きゃっ!」」
「この私が溺れるだって? 馬鹿にしてくれやがって。お前らなんかこうしてやる!」
 にとりがポケットから何かを抜いた。
 そしてー

 ZAP! ZAP! ZAP! ZAP!

 放った。
 一気に放った。
 たまらぬレーザー銃であった。
 こうしてチルノと大妖精の二匹は消失した。
 だが、心配する事はない。
 妖精はすぐに復活する。
 次のチルノは、もう少し上手くやるだろう。
「さてと、いつまでも流れていてもしゃあねえな。酔いも覚めちまったし帰るか」
 こうして、にとりは住み慣れた妖怪の山の渓谷へと帰っていった。

 チルノたちが消失した一週間後、初夏の夜に椛とにとりはまた酒を飲んでいた。
 いつもの獣道のいつもの屋台で酒を飲んでいた。
 人里にも居酒屋はあるし、妖怪も悪さをしなければ自由に出入りが出来る。
 しかし、にとりは人間が苦手であったので、人里の居酒屋ではなく、ミスティアの経営する屋台で酒を飲んでいた。
 この日も、ミスティアは気持ち良さそうに歌いながらやつめうなぎを焼いていた。

 アルカリ、アルカリ♪
 プリティでぴかぴかな♪
 あの桜が紫なのは♪
 土がアルカリだからなの♪
 アルカリ、アルカリ♪

「妙な歌だねえ。けれど、そんなあんたの歌が私は嫌いじゃないよ」
「ありがとう~♪」
「紫の桜って神秘的で綺麗だと思ってたけど、実はそんな理由だったんだねー」
「紫陽花の花の色も同じ理由さな。まあ、綺麗ならそれで良いじゃないか」
 そういって、にとりは酒を飲んだ。
 酒は黄桜だ。
 黄桜でなければならない。
「それにしてもにとりん」
「ん? なんだい?」
「前々から気になってたんだけれど、なんでそんなぶかぶかの手袋をしているの?」
 そうなのである。
 にとりは、手の大きさからするとかなり大きめの軍手をしていた。
 あまった布地が水かきのように見える。
「ほらさ、私は小さいだろ。だからさ、合う手袋が無いんだよ」
「じゃあさー、私が作ってあげようか?」
「いや、いいよ。自分で作るよ。いつも作らなきゃって思ってはいるんだけどね」
「思っているんだー」
「うん。思ってる。思ってはいる」
「やっぱり私が作ってあげよーかー?」
「いや、いいって。自分で作るって」
「にとりん。水臭いこと言わないでよ。私に任せてったら任せて」
「……ああ、そうかい。じゃあ、お願いしようかな」
「ふっふーん、この椛ちゃんに任せなさーい!」
 何でであろうか。
 にとりの胸中に一抹の不安が湧きあがってきた。
 だが、にとりはそれを見ないふりをした。
「やつめ焼きあがったよ♪」
「ありがとう女将さん。ついでに一曲頼むよ。できれば渋いので」
「はーい♪」

 早春の息吹に満ちて息吹に満ちて♪
 六道の猛き腕に勝利わかたん♪
 守れ守れ守れ御家の名誉を♪
 走れ魂魄、闘え魂魄♪

「良いねえ。渋いねえ。涙がでやがる」
「なんだ、変な曲だな。この屋台では霊魂の大安売り中なのか?」
「げげっ! 人間!」
 突然モノクロの服装に身を包んだ少女がミスティアの屋台に現れた。
 普通の魔法使い、霧雨魔理沙である。
「あ、強盗さんだ。こんばんわん♪」
「いらっしゃいませー、人葱♪」
「誰が強盗だ。誰が人葱だ全く」
「人の家に上がりこんで物をとっていく人を強盗って言うんだよ。知らなかった?」
「人が葱しょってやってくる♪ ほらやってくる♪」
「もういい。全く。それにしても、相方の娘は何処に行っちまったんだ?」
「にとりん? にとりんならここに……っていない」
「さっきまでいたよなあ」
「だよねー」
「おっかしいな。隣、良いか?」
「良いよー」
「じゃあ失礼する……っと」

 プニリ

 魔理沙が椅子に座ろうとした所、そんな感触が伝わってきた。
 さっきまで、にとりが座っていた椅子だ。
「いるな」
「いるねー」
「光学迷彩だな」
「光学迷彩だねー。それにしてもにとりん」
 椛が虚空に向かって話し掛けた。
 さっきまで、にとりがいた空間だ。
 そして、確かににとりがいる空間だ。
「なんで人間が来たら隠れるの? 人間なんてただのエサじゃなーい」
「ひどいぜ」
「……ょ」
「はい?」
「喰われたからよ!」
「「はい!?」」

 にとりが語った内容は、あまりに奇妙なものだった。
 元々、にとりは人間が苦手ではなかった。
 むしろ、進んで村のじゃりん子達と相撲をするくらいであったから、好きな方であったと言えよう。
 ちなみに、相撲は百戦百勝であった。
 河童は小柄なのに強い。
 とても強い。
 その日もにとりは、村のじゃりん子たちと相撲でも取ろうかと川をのんびりと泳いでいたのだった。
 だが、そんな彼女の前に一人の悪魔が現れたのだ。
 悪魔は、メイド服に身を包み、さらさらの銀髪を風になびかせて、人の姿をして現れた。
 そして、悪魔は言った。
「あなた、河童ね?」
「……そうだけど、あんたは誰だい?」
 悪魔はそれに答えず言った
「うちのお嬢様がね、かっぱ巻きを食べたがっているの」
 かっぱ巻き。
 きゅうりを酢飯と海苔で巻いたシンプルな寿司である。
 にとりの大好物だ。
「かっぱ巻き。良いね。」
「だから、あなたに死んでもらうわ」
 ナイフ
 ナイフ
 ナイフ
 ナイフ
 ナイフ
 ナイフ
 ナイフ
 ナイフ
 ナイフ
 ナイフ
 ナイフ
 ナイフ
 ナイフ
 ナイフ
 ナイフ
 そして、突然現れたナイフの山。
 何故なのか?
 何故死ななければならないのか?
 かっぱ巻き=河童を巻いたものと思っているわけか。
 そうなのか。
「ちょっと! かっぱ巻きはきゅうりの巻き寿司であって、かっぱを巻いたものじゃないから!」
「知ってるわ、そんな事。」
「ならなぜ!」
「河童の肉の方が珍しくってそそるわ。それにお嬢様も喜ぶ」
「喜ばない! 喜ばないから! っていうか『それに』なのかよ!」
「私はね、完璧主義者なの」
「だからやめてえ!」
 切った。
 切った。
 切った。
 切った。
 切った。
 切った。
 切った。
 切った。
 切った。
 切った。
 切った。
 切った。
 喰った。
 不味かった。
 こうして、河城にとりは死亡した。
 だが、案ずる事はない。
 妖怪はすぐに復活するのだ。
 にとりも、肉片から復活した。
 しかし、人間によって植え付けられたトラウマだけはいかんともしがたく、以来にとりは人間が苦手になってしまったのだ。

「それは咲夜だな。突っこみ所満載だが、咲夜じゃしょうがないな。おい、にとりとやら、気に病むな。狂犬にでも噛まれたと思って忘れよう」
「忘れられるか! 喰われたんだぞ! 人間に! 忘れられるものか! うわあああああん!」
 にとりは泣き出してしまった。
 見えないけど。
 椛はそんなにとりに酒を注いであげた。
 見えないけど。
 魔理沙も焼きやつめうなぎをにとりにあげた。
 見えないけど。
 ミスティアはきゅうりのはちみつがけを作り、にとりの前に置いた。
 見えないけど。
 にとりは焼きやつめうなぎにかじりつき、きゅうりのはちみつがけに舌鼓を打ち、自棄酒をあおった。
 見えないけど。
 こうして、一人と三匹の人妖たちは、東の空が明らむ頃まで酒を飲み、歌を聞き、ツマミを食べ、だべり、酒を飲んだ。
 見えないけど。
 そして、朝日が東の山を照らす時刻に、にとりは川を漂っていた。
 ガチャガチャと工具を鳴らしながら漂っていた。
 この星の始まりより来たりて終わりへと至る悠久の水の流れ。
 その水の流れに身を任せると、母なる地球と一体になれる気がして何とも気持ちが良い。
 このまま、湖まで流れてみるのも良いかもしれない――
 にとりはそう思った。
 しかし、幸せな時間と言うものは長くは続かない。
 彼女の行く手を阻む無粋な連中が現れたのだ。
「大ちゃん見て見て! 間抜けな河童がおぼれてるよ!」
「チルノちゃん! 笑ってないで助けてあげないと!」
 また例の二人組みである。
 にとりは黙ってポケットに手を突っ込んだ。
 そして――

 どぅぎゃん どぅぎゃん

 撃った。
 たまらぬ無反動砲であった。
 残念。
 チルノと大ちゃんの冒険はここで終わってしまった。
 だが、心配する事はない。
 妖精はすぐに復活するのだ。
 次のチルノは、もう少し上手くやるだろう。

 そして、その日も椛とにとりはいつものようにいつもの屋台で飲もうとしていた。
 だが、いつもと違う点が一つあった。
 椛が何か紙袋を抱えていたのだ。
 一体何が入っているのだろう?

 れみりゃも揉んで♪
 フランも揉んだのに♪
 大きくならない咲夜のおっぱい♪
 昼も揉んで♪
 夜も揉んだのに♪
 小さいままなの何だか変ね♪

「だから下品な歌を歌うなと。唐揚げにして食っちまうぞこら」
「ちん!?」
「にとりん、落ち着いて。でも唐揚げには賛成」
「ち、ちん!?」
「唐揚げにもしたくなるさ。咲夜と聞いただけで、こう、寒イボがたつんだよ寒イボが」
 そう言って、にとりが自分の体を掻き毟る。
「食べられちゃったもんねー」
「食われたからな」
「食べられちゃったからね~♪ 今日もいっぱい食べていってね♪」
「おうよ、とりあえずはもろきゅうもらおうか。二人前」
「私はそうだね~このやつめうなぎのパイってのをちょーだい」
「判ったわ♪」
「ところでさあ」
 にとりが椛に向き直って言った。
「椛が持ってきたその紙袋、一体何が入ってるんだい?」
「これー?」
「それそれ」
「これはね~」
 椛はにんまりと笑うと紙袋を開けた。
「じゃーん! 犬走椛特製の手袋だよ! にとりんにプレゼントしようと思って持ってきたの!」
「…………」
「にとりん?」
「……ああ、いや、ありがとうな」
 口ではそう言うものの、心ではそう思っていなかった。
 その手袋は、手袋というにはあまりにも不恰好だった。
 そして、あまりにもセンスがえげつなかった。
 配色がまずありえない。
 ところどころに穴が空いているのも解せない。
 いや、編むのに失敗したということなのだろうが、それにしたってこれは無いだろう。
 それは、道端に良く落ちている薄汚れた軍手に良く似ている。
 とても似ている。
 ぶっちゃけこんな手袋をするのは嫌だなとにとりは思った。
 しかし、友がわざわざ手袋を編んできてくれたのである。
「なってない! やり直せ!」
と言えるほどの非道さを、にとりは持ち合わせていなかった。
 だから、にとりは手袋をして――
「……うん、よく出来てるよ。ありがとう、椛」
すっげえ微妙な笑みを浮べた。
 だってそうだろう。
 すっげえキラキラした目で見られたら、どんなに変な手袋でもするしかないじゃん。
 でも、正直嫌だという気持ちは顔に表れるもので――
「やっぱりいやだった? にとりん」
と椛はしゅんとしてしまった。
「いやいや、そんな事無いってば! 嫌な訳無いだろ! うーん、あはは、よく似合ってる!」
 にとりは必死で否定した。
 友情というものは、それを保とうと努力しないと簡単に消え去ってしまうものなのである。
 消え去ってしまうには、二匹の友情は輝きすぎていた。
 だから、にとりはこの手袋をし続けようと心に決めた。
「せっかく椛が手袋を作ってくれたんだ。今日は私のおごりだ。じゃんじゃん飲もう!」
「おやおや? そんなことを言って良いの? 私は本当に飲むよ」
「いいってことよ。じゃんじゃん飲もうぜ」
「いいね。じゃんじゃん飲もー」
「やつめうなぎもじゃんじゃん食べてね♪」
 こうして、椛とにとりの二匹は酒を飲んだ。
 浴びるほど飲んだ。
 椛が飲みすぎるもので、にとりが
「ちょっとはひかえようよ、椛」
と言ったりもしたが、全く効果は無かった。
 結局、屋台の酒が一本も無くなったところで二匹の飲み会はお開きとなり、いつものようににとりは川を漂っていた。
 そして、いつものように
「大ちゃん見て見て! 間抜けな河童がおぼれてるよ!」
「チルノちゃん! 笑ってないで助けてあげないと!」
いつもの連中が登場し

 もうあー もうあー

 超重力弾で消滅した。
 だが、心配する事はない。
 妖精はすぐに復活するのだ。
 次のチルノはもう少し上手くやるだろう。
 多分……

河童の川流れ<完>
 友と酒を飲み語らう時間は何物にも代えがたいものです。
私も、椛やにとりと酒を飲みたいものです。
椒良徳
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コメント



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2.80名前が無い程度の能力削除
なんだこのカオスw
>たまらぬレーザー銃であった。
夢枕フイタw
3.80乳脂固形分削除
なにこの変なにとりw だけど面白いよーw
11.70名前が無い程度の能力削除
パラノイアネタ吹いたw