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真実の竹取物語 月の姫の物語~プロローグ~

2007/08/25 01:27:33
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月の姫の物語~プロローグ~



 幻想郷の竹林の中に永遠亭は存在した。 
 綺麗な星空が竹の間から覗く、永遠亭の自室の窓から空を眺めていた。
 月は生憎満月ではないが、とても綺麗な十六夜だった。
 毎月行われる、例月際は昨日滞りなく終わっている。
 明日、人里に売りに行く薬の準備も終わった。
 特にやり残した事は無い。後は寝るだけ。
 しかしどうにも眠くない。
 だからと言って、やりたい事も思いつかない。
 仕方が無いので、紅魔館から薬の配達料として貰った(同じ本が二冊もあると邪魔になるからと)外の世界の本を読んでいたが、さっぱり頭に入らない。

「しょうがない。お師匠様はまだ起きているかな?」

 眠れないなら仕方が無い。
 手段としてあまり好まないが、眠り薬でもお師匠様に頂こう。




 お師匠様のお部屋に向かおうと、長い廊下を歩いていると不意に声を掛けられた。

「草木も眠るこんな夜更けにどうしたのかしら?イナバ」

 声は、縁側から少し離れた所にある茶室からだった。

「輝夜様?」

 声の主だと思われる名前を呼ぶと、不機嫌そうな声が返ってきた。

「貴方の事を私以外にイナバと呼ぶ者が居るのかしら?それとも貴方は飼い主の声を忘れてしまったのかしら?」

 私は慌てて、弁解する。

「申し訳ございません。このような夜更けですし、襖でお姿が見えないものですからっ」
「静かにしなさい、イナバ。眠っている因幡が起きてしまうでしょう」

 輝夜様に注意され、慌てて口を手で塞ぐ。

「そんな所に居ないで、こちらにいらっしゃい」

 お言葉に従い、茶室の襖を開けて中に入ろうとすると、輝夜様の膝で気持ちよさそうに眠る兎が一羽。

「輝夜様・・・それは?」

 思わず、聞いてしまった。
 
 いくら実質的な主がお師匠様だといっても、輝夜様が表向きは永遠亭の主である。
 その輝夜様に恐れ多くも膝枕などしてもらう者など、この永遠亭には存在しない。否、存在してはいけないのである。
 気持ちよさそうに眠る兎は、永遠亭の兎をまとめるリーダーの因幡てゐだ。

「昔話をしている内に眠ってしまったのよ。こうやって見ると本当に可愛いわ」

 輝夜様は、てゐの癖のある髪をなでながら満足そうな顔をする。
 私は部屋に入り、輝夜様の前に正座し注意する。

「輝夜様、そのように兎に接されては困ります」

 輝夜様は主であるにもかかわらず、兎達に些か気安く接されることが度々ある。
 その度に注意を申し上げるのだが、笑って相手にしてくださらない。

「どうしてかしら?私はこの子達の飼い主なのだから、愛でたとしても何の問題も無いはずよ?」

 意地の悪そうな顔を見せながら、私の目を見つめてくる。

「確かにそうかも知れませんが・・・」

 反論をしようとするのだが、輝夜様に見つめられると思わず口籠ってしまう。
 そんな私を見て、クスクスと笑われる。

「それで、こんな時間にどうしたのかしら?」

 輝夜様が、私のくしゃくしゃの長い耳を弄び、時々頬を擦り付ける。
 何でも兎達の中で、私の耳が一番さわり心地がいいそうだ。

「目が冴えてしまって・・本でも読んで眠くなるのを待とうかとも思ったのですが、どうにも集中できなくて」
「それで、永琳の所で薬を貰おうと思ったの?」
「はい、本当はあまり薬の力には頼りたくはないのですが」
「あら、仮にも薬師に弟子入りしながら薬を嫌うなんて。貴方は良い薬師になると、永琳は言っていたけど見込み違いだったみたいね?」
「薬師だからと言って、薬好きとは限らないと思うのですが・・・」

 私は楽しそうに話をする輝夜様に必死に反論する。

「あら、貴方は自分で試しもしない薬を他者に飲ませるというの?薬師というのは、薬の良し悪しも確かめずに、患者に薬を飲ませるのね。怖いわ。いつか私も実験台にされてしまうのね。」

 最後の方は、かなり嘘臭い泣き真似をしながら顔を袖で隠した。

「というのは、冗談だけれど。そういえば、イナバは一体何の本を読もうとしていたのかしら」

 輝夜様は一方的に話を打ち切り、新しい話題に切り替える。

「紅魔館から貰ったのですが、外の本ですね」

 外の本と聞くと、輝夜様は今まで以上に興味を示された。

「紅魔館から本何て・・・よく貰えたわね?しかも、外の本だなんて。それでタイトルは何て言うのかしら?読み終わった後で構わないから、貸してくれないかしら?」
「既にもう一冊同じものがあるそうですよ。二冊あっても仕方ないとの事なので、薬の配達料代わりに貰ったんですよ。私はまだ当分読む事がないと思いますから、明日にでも部屋にお持ちしますよ」
「そう?なら、明日の朝にでも持ってきて頂戴。部屋にある本はすべて読んでしまったから、少し困っていたのよ」

 輝夜様は子供のように目を輝かせる。

「本のタイトルは“真実の竹取物語”ですね」
「しんじつのたけとりものがたり?」

タイトルを繰り返す輝夜様の顔は、先ほどまでの子供のような顔から一変した。

「ええ、内容は詳しく読んでないので分かりませんが、本当の竹取物語は、残酷で怖い話だとか・・表紙のカバーの本の紹介欄には、書いてありましたが・・・輝夜様?」

 輝夜様は暫く何かを考えていたが、私が見つめているのに気が付くと、いつもの笑顔に戻った。

「どうかなさいましたか?あぁそういえば、竹取物語は輝夜様がモデルですよね?本当は残酷で怖いなんてある筈ありませんよ」

 私は、輝夜様が残酷などと言われた事が、気に障られたのかと思ったがどうやら違うらしい。

「そうかしら?でも大抵は私が竹の中からお爺様に拾われて、月に帰っていくまでしか書かれていないでしょう?その前や後には、何があったか書かれていない」

 輝夜様が言わんとする事が私にも分かっていた。
 
 昔、輝夜様の我儘からお師匠様に“本物”の「蓬莱の薬」を作らせ、ご自身で服用されたのだ。
 その罪により輝夜様は地上へと落とされたのだ。
 その後、輝夜様の罪の一つが償われとされ、減刑される事となり月にお戻りになれる事が決まったが、お師匠様と共謀され、迎えに来た月の使者を全員“殺し”逃亡されたのだ。
 竹取物語には、確かに本当の意味で、真実は何一つ書かれていないのだろう。

「少し読んだだけですが、一般的に知られている竹取物語と、同じ輝夜様が竹の中から拾われるシーンから始まっていましたよ」

 真実の竹取物語と書いてあったが、その内容は一般的な竹取物語と大差はないだろう。
 残酷や怖いと書いてあったから、人が殺されるシーンなどはあるかもしれない。

「そうなの?残念ね。だったら、私が真実の竹取物語でもお話してあげましょうか?私も目が冴えてしまって困っていたのよ」

 輝夜様は本当に眠くないのだろう。
 今日のお昼頃は、珍しくお師匠様が里まで検診に行かれたので、その間の退屈な時間が嫌だからと、夕ご飯までの時間を眠って過ごされていた。
 時間にして五時間。昼寝にしては長すぎるだろう。

「それは、輝夜様が考えられたお話しですか?」

 輝夜様は時々、自作小説などを書いたり聞かせてくれたりする。
 なんでも暇つぶしに丁度よいらしい。
 
 永遠亭の図書室には輝夜様が書かれた本が、私が知る限りでも百冊は存在する。
 その内容は面白いの一言に尽きる。
 私と違って、最低でも千年は生きてこられただけあって、知識量などが半端ではない。
 また、月の頭脳とまで呼ばれたお師匠様が協力されることもあり、色々なジャンルの小説がある。
 私はあまりミステリー小説や、ホラー小説の類は好きではなかったが、永遠亭にきてからは好みの幅が広がったほどだ。

「“真実”の竹取物語と言っているでしょう」

 そう言って、輝夜様は今まで私が見たことの無い笑顔で話し始める。
 その笑顔に、私は今までにない恐怖を感じた。
 私はこの時、辞退しなかった事を後悔した。
 
 語られたのは、玉兎如きの私が知るはずも無い真実だった。

「物語のタイトルは・・・そうね、“月の姫の物語”」

 静かな声で、輝夜様が語り始めた時、辺りは怖いほどの静寂に包まれていた。



続く




初めまして初投稿からいきなり長編に挑戦してしまった愚か者です。今回永遠亭のメンバーにスポットを当てて書いていくことにしています。どれくらい続くのか検討も付かない状態ですが頑張って書いていきたいと思います。誤字や文章として読みにくかったりした場合は遠慮なさらずにどんどんご指摘ください。参考にして、これからの作品に生かしたいと思います。
秘月
秘月
[email protected]
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コメント



0.470簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
「幻想郷の竹林の中にある永遠亭は存在した。」??→「幻想郷の竹林の中に永遠亭は存在した。」のほうが良くないですか??
ごめんなさい。正直これだけでは点数を付けかねます。続きを期待してます^^頑張って下さい^^
4.無評価名前が無い程度の能力削除
プロットって単語知ってる? 見切り発車はロクな結果にならないから止めとけ。あとこの程度の短い作品の連投で作品集埋めるのは迷惑行為だから。
6.80名前が無い程度の能力削除
↑の人と同じで、かなり冒頭には違和感を感じました。
「幻想郷のとある竹林に永遠亭は在った」とするといいと思います。
輝夜とウドンゲの描写はすごくいいと思います。
これからもがんばってください。
11.70名前が無い程度の能力削除
ワクワク!!