Coolier - 新生・東方創想話

或る夜の怪談。

2007/08/15 23:19:59
最終更新
サイズ
6.17KB
ページ数
1
閲覧数
1819
評価数
41/96
POINT
5950
Rate
12.32







 ――ねえ、誰かに見られているような気がするの。



 何かが聞こえたような気がして、宇佐見 蓮子は脚を止めて振り向いた。視界の端に丸い月が見える。空は明るくて、影絵のように長く長くかげが伸びていた。
 誰もいない。
 二人のほかには。
 音はない。
 二人のほかには。
「……メリー?」
 口から出たのは、友人の名前。秘封倶楽部のパートナー。メリー――マエリベリー・ハーン。隣を歩いていたはずの彼女は、いつのまにか立ち止まっていた。後ろにおいていかれている。顔を伏せ、地面だけを見つめている。
 影を見ている。
 影を、見つめている。
 あるいは、
 空から目をそらしている。
 月から目をそらしている。
「どうしたの? メリー」
 不審に思ったのだろうか。蓮子は踵を返し、立ち止まるメリーの傍へと歩み寄る。
 かつん、
 かつん。
 誰もいない音のしない夜の街に、蓮子の足音だけが響き渡る。
 かつこん、
 かつこん。
 それ以外に音はない。日付の変わった夜の街は、既に眠りについている。人が、そして街が。誰もが眠りについている。死に絶えたように静かな街の中、生きているものは秘封倶楽部の二人だけ。
 その二人を、
 月だけが見ている。
「具合悪いの?」
 かつん、かつこん。
 足音が止まる。手を伸ばさなくても届きそうなほどに近い距離。すこし屈めば、俯くメリーの顔をのぞきこむことだって出来ただろう。けれど、蓮子はそうしなかった。前に立ち、メリーが顔をあげるのを待つ。
 ただ、じっと。
 彼女を、待つ。
 メリーは答えない。俯いたまま、身じろぎもしない。ゆるやかな呼気の音が聞こえるだけだ。
 蓮子は「ふぅ」とため息を吐いて、片手で帽子を押さえながら空を仰ぎ見た。黒く暗い蒼色の空。雲はなく、月と星がよく見える。今が何時か、此処が何処か。蓮子の瞳に明瞭とそれを告げてくる。
 いつもの街。 
 いつもの時間。
 変わったところは、何もない。
 何もない――はずなのに。
「ひょっとして、おなか空いたとか?」
 その言葉に、メリーはふるふると首を横に振った。そこだけは否定しておきたいらしい。
 反応があったことが嬉しくて、蓮子はつい、
「パスタ二皿とピザ二枚にサラダまで食べてまだおなか空いたの? ひょっとしてメリー、新しく大食いの能力とか見つけ、」
 たの、とはいえなかった。俯いたまま繰り出されたメリーの右ストレートが、狙い違わず蓮子のおなかに突き刺さったからだ。
 ぼすん、といい音がした。
 言葉を無理矢理に遮られて、蓮子はニ、三度きつそうに喘いだ。何か文句を言おうかとも思ったが、ぷるぷると震えるメリーの拳を見て言うのをひかえる。今余計なことを言えば、間違いなくニ発目がくるだろう。
「冗談よ」
 それだけ言って、くの字に折れた体を真っ直ぐ伸ばす。ぎゅっと握られていたメリーの拳がほどけていく。
 再び、静寂。 
 静かな、夜の街。
 蓮子は何も言わず、
 メリーは。
 マエリベリー・ハーンは。


「見られているような気がするの」


 ようやく――口を開いた。
 それは二度目の言葉だったけれど、先の言葉を聞きそびれた蓮子にとっては初めての言葉だった。
 だから、反応はありきたりだった。
「……は?」
 いつも通りにわけのわからないことを言うメリーに対し、蓮子はいつも通りの反応を返した。即ち、小さく首を傾げたのだ。
 とっぴょうしもないことを言うのも、
 わけのわからないことを言うのも。
 秘封倶楽部にとっては、いつも通りで。
 だからこそ、蓮子はいつものように首を傾げて、続きを待つ。メリーの言葉の続きを。
 けれど、繋げて吐かれた言葉は。
「いいえ、見られているわ。気がするんじゃない――見られて、いる」
 蓮子にとっては、より不可解なものにすぎなかった。
 自己完結するようなメリーの言葉に、蓮子の眉が八の字になる。わけがわからない。意味がわからない。理由がわからない。メリーの言葉は、蓮子に話し掛けるものというよりは、自分自身に言い聞かせるような――独り言のような、呟きだった。
 声は、かすかに震えていた。
 恐怖か――それ以外の何かによって。
 ――見られている。
 メリーは、そういった。その言葉を元に、蓮子は想像をめぐらせる。メリーの発言から理解できない以上、自分の想像によって事実を埋めるしかなかった。
 ――何に? あるいは、誰に?
 くるりと、辺りを見回した。周りには誰もいない。夜の街にはだれもいない。
 何もない。
 二人以外には。
 誰も――何も。
 見てはいない。
 メリーを見ているのは、蓮子だけだ。
 二人だけの――夜の、町。
「誰も……見てないわよ」
 そう、言った。
 けれど、メリーは再び首を横にふった。それは違うと、見られているのだと、彼女は無言で主張する。
 わけが、わからなかった。
 それでも不思議と、彼女が嘘を言っているとは思わなかった。思えなかった。マエリベリー・ハーンが、こういったことで嘘をついたりしないのだと、宇佐見 蓮子は信用していた。
 信頼していた。
 ――だから、問題があるとすれば、私の想像のほうだ。
 そうあたりをつけ、蓮子はもう一度想像をしなおす。自分の見落としている可能性を全て拾いながら。
 答えは、意外なほどにあっさりと出た。
 単純すぎるほどに――身近な答えだった。
 宇佐見 蓮子が、月と星を見て、時間と場所を知るように。
 メリーの目は。
 マエリベリー・ハーンの瞳は――境界の隙間を、見るのだから。


 ――向こう側から、見られている?


 そう、思い至って。 
 同時に、確信した。
 それ以外には、ないのだと。
「メリー……あなたには見えるのね。見られていることが」
 こくりと。
 今度こそ――メリーは、首を縦に振った。
 そうして、
 メリーは。
 ゆっくりと、
 ゆっくりと、
 恐る恐る、
 畏れるように。

 顔を――あげた。

 目が、あう。
 顔をあげたメリーの瞳と、メリーを見つめていた蓮子の瞳が、真っ直ぐにぶつかる。見てしまう。見てしまう。見てしまう。見てしまう。見てしまう。宇佐見 蓮子は見てしまう。マエリベリー・ハーンの瞳を。境界の隙間を覗く彼女の瞳を。彼女の瞳に映るものに、吸い寄せられるように、宇佐見 蓮子は見てしまう。
 マエリベリー・ハーンの見る世界を、見てしまう。
 彼女の瞳には。
 宇佐見 蓮子が映っていた。自分自身が映っていた。そしてその向こうに広がるものが。雲ひとつない夜の空が。空に浮かぶ月が。空に浮かぶ星が。
 そして。
「あ、あ、あ――――」
 その空いっぱいに広がる、巨大な瞳が二人を見つめているのが――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
         (<、,,>:::::::::::::::::::::::::::: 、
      ~〈/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::)
       〃:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::<、    ど ロ こ
     ~そ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::,)   も リ の
  、_ ,, /::::::::::::::::::::::::、,ゝ===く:::::::,:::::ヽ  め コ
    `V::::::::::::::::::::、_γ      `ヾ,_ < ! ン
     l::::::::::::::::::::::く(   r,J三;ヾ   )> く,
 ~v,ん:::::::::::::::´:::::::=; {三●;= }  ,=ニ `/l/!/⌒Y
     l:::::::::::::::::::::::::::::ゝ≡三=イ ´::::゙:::::::::::::::::::::::::::::::
 、m,.. ,ゞ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
 ´  ~ ヘ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
人比良
http://allenemy.fc2web.com/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2400簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
ちくしょう吹いた
3.100名前が無い程度の能力削除
くそ、やられたw
4.70名前が無い程度の能力削除
そうきたかwwww
5.70名前が無い程度の能力削除
ちょっとまてwwwww
8.100名前が無い程度の能力削除
やられた、とか言う前に。
ベアード様がみてる。ということは。
メリーと蓮子はロリコンということかぁぁぁぁぁぁ!!
9.20名前が無い程度の能力削除
オイwww
11.90名前が無い程度の能力削除
盛大に吹いたwwwwwww
12.70秘密の名無し削除
このやろてめぇwww
14.80名前が無い程度の能力削除
やってくれましたねwww
15.90名前が無い程度の能力削除
あとがきの言葉はこの作品を見ている者に対しての言葉だろうな
18.70名前が無い程度の能力削除
は、謀ったな人比良ー!www
19.90名前が無い程度の能力削除
これはやられたwwwwwww
24.80名前が無い程度の能力削除
こんなに安心させてくれるバックベアード様やっぱすげえ!
25.70名前が無い程度の能力削除
世もふけてきたというのに盛大に噴いた
そんな自分に腹が立つッ
26.70名前が無い程度の能力削除
この手のネタに絶対引っかかるまいと思っていたのに。やられたぜ……w
28.無評価名前が無い程度の能力削除
ベアード様なにしてんのwwwww
29.80無を有に変える程度の能力削除
ホラーだと思って読んでたのにww
30.80名前が無い程度の能力削除
台無しだ!!www
32.80名前が無い程度の能力削除
お前って奴はwww
33.100名前が無い程度の能力削除
このオチは読めねえw
34.100印度削除
ちくしょう・・ちくしょおおおおおー!! (AA略
36.80削除
怪談だと思ったのに!思ったのに!やられたwww
38.100名前が無い程度の能力削除
ちくしょうwwwwwwwwwwwww
40.100名前が無い程度の能力削除
いい意味で騙されてしまったwww
41.100名前が無い程度の能力削除
ベアード様は強力な妖怪だ…妖怪が上から覗き込んで二人を眼力で昏倒させようとしているというのに、怪談に登場する妖怪として正しいのに!

な ぜ 笑 い し か 出 て こ な い ん だwwwwwww
42.100名前が無い程度の能力削除
このオチは予想外だったwww絶対怪談だと思ったのにw
43.90削除
やられたよ、こんちくしょうw
シリアスと思ったのに良い意味で裏切られたり
45.80蝦蟇口咬平削除
いや、実際こんなのいたら怖いはずなのにさ・・・ウーロン茶吹いちゃったw
49.100名前が無い程度の能力削除
ちくしょうwwwww
51.100名前が無い程度の能力削除
突然の不意打ちwwwやられたwww
54.80名前が無い程度の能力削除
てっきりゆかりんだと……誰だってそう思うよ!誰がベアード様予想するかよ!
ちぃっくショウ!
55.100みつきひ削除
いつもの人比良さんぽくシリアスなのかーと思った矢先にチクショウwwwww
56.無評価名前が無い程度の能力削除
今日もまたキーボードが一枚壊れることに……
57.無評価名前が無い程度の能力削除
点数…
58.90名前が無い程度の能力削除
紫様よりも怖かったです、ハイ。
61.100削除
ゾクゾクと鳥肌立ってきてたのに全部吹っ飛んだwww
ベアード様すげぇwwwwwwwwwwwwww
63.100名前が無い程度の能力削除
ちくしょう腹筋がwwwww
64.100文字を書く程度の能力削除
何故にロリコン撲滅仕様のベアードwwwww
65.70名前が無い程度の能力削除
バックベアード様自重wwww
73.70名前が無い程度の能力削除
こんなオチ読めるかwwwwww
むせたwwwwww
77.無評価名前が無い程度の能力削除
何やってやがんだwww大統領www
78.100名前が無い程度の能力削除
やられたwwwwwwwwww
79.80自転車で流鏑馬削除
ベアードwwwwwwwww
80.無評価やまびこ削除
・・・・・・・・・っ!!! ・・・・・・・っ・・・・・!
・・・・!! ・・・・・っ!!(喋れないほど大爆笑中
81.無評価Jiyu削除
最後にこわーいAAが出てくると思ったら……まさかのベアード様w
83.100名前が無い程度の能力削除
流石に噴いたわw
91.100名前が無い程度の能力削除
ちくしょう……くやしいのう、くやしいのうwww