Coolier - 新生・東方創想話

願いと正義と在り方と -2-

2007/07/28 03:43:46
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 博麗神社に妖怪が集まってくるのはいつもの事。
 弾幕ごっこを挑まれる事も日常茶飯事であり、遊びであっても戦いである為に命の危険が無い訳ではない。
 今回は鈴仙と妖夢が偶々、私を倒そうと挑んできただけ。
 普段の延長でしかない。
 襲われれば迎え撃つだけである。
 そんな普段の延長の中、気になる事があった。
 二人の瞳に宿った良くないモノ。
「あれは、たしか――そう、魔理沙と初めてやりあった時かしら……」
 あの時、神社に来た変な技師と男前な女侍も確か、その瞳に同じような――
「ふぅん、つまり、そういう事……」
 勝手に抜け出してドコに行ったかと思えば、またこんな事を……
 となれば、私が向かう先は……
「と、その前に」
 眼下に倒れる妖夢の傍らに降り立つ。
「脱力した人間って結構重いのよ?」
 そんな文句を一人呟いて、気を失った妖夢を担いで、母屋に戻る。
「霊夢、大丈夫だった?」
 鈴仙を寝かせ終えたルーミアが駆け寄ってくる。
「えぇ、袖はボロボロになっちゃったけどね」
 そう笑って返し、ルーミアに刀を回収してもらう。
 二人で妖夢を布団に寝かせると、私は新しい巫女服に着替えなおす。
 今度は御祓い棒も準備する。
「あれ、どこか出かけるの?」
「うん、それで二人を看ててくれるかしら?」
「うん、いいよ~」
 日光が強いからね、とルーミアは付け足す。
 ちなみに、ルーミアはどんな光をも打ち消す闇を展開させられる。
 けれど、神社で能力を行使しないのは、参拝客が来た時に驚かないようにと配慮し、そう教えたから。
 ……参拝客が来た為しは無いのだが。
 私は袖をまさぐり、御札を一枚取り出しルーミアに手渡す。
「はいコレ」
「……おふだ?」
 二人とも霊気を浴びせたから祓われてるとは思う。
 けれど、万が一にも二人に襲われたらルーミアじゃ手も足も出ないだろう。
 その保険に、結界を張れる御札を手渡した。
「一応よ、一応。 その御札を持ってるだけでいいから」
「うん」
 こくりと頷くルーミアの頭を撫でて、霊夢は縁側から空へと飛び立つ。
「気をつけてねー」


  § § §


「ん~、ふふ~♪」
 紅魔館の地下室から、少女の嬉しそうな鼻歌が食器の音に混じって聞える。
 少女――フランドールは嬉しそうにソレをフォークでつつく。
 柔らかなスポンジに、ホイップクリームとイチゴの乗った可愛らしいショートケーキ。
 ホイップクリームは彼女用に特別なモノが混ぜられピンク色に染まっています。
「さっくやの~つーくった、けーきッ、けーきッ」
 即興のケーキの歌を口ずさみながらフォークで一突きすると、口の周りが汚れるのも気にせずその小さな口でカプリと頬張る。
「もぐもぐ……、んぅ~♪」
 口いっぱいに広がるイチゴの甘さと鉄の香り。
「やっぱり咲夜の作ってくれるケーキは最高ね」
 パク、モグモグ。
 案の定、口の周りをベタベタにしてフランドールはお皿を空っぽにする。
「けぷッ」
 口の周りを袖で拭うと、フランドールは席を立つ。
「さーて、今日は何しようかな?」
 お姉様は……、どうせ「お勉強はどうしたの?」とか言って私を部屋に閉じ込めるよねぇ
 じゃあ、咲夜……、も、お姉様と一緒に居るから同じかぁ
 フランドールは遊べそうな相手を探していてふと思い出す。
「そーだ、パチェの所であーそぼっと」
 そういえば最近パチェと遊んでなかったし、うん、そうしよう。
 フランドールは嬉々として、同じく地下にある大図書館へと向かった。
「パチェ~、いる~?」
 図書館の奥、パチュリーの書斎にひょっこり顔を出すが、姿は見当たらなかった。
「あれ、居ないや……。もしかして寝てるのかな?」
 更にその奥の寝室を覗き見ると、予想通りパチュリーが。
 ベッドに倒れこんでそのまま眠った様子で、パチュリーは気持ち良さそうに寝息を発てている。
 ようやく遊び相手を見つけたフランドールは、満面の笑みでパチュリーを揺さぶります。
「あは……ッ、パチェ~、あーそーぼっ」
「ぅ……、うぅ……」
 眠りを妨げられたパチュリーは不機嫌そうな顔で寝返りを打って、フランドールから離れる。
「うーっ、あそぼっ、あそぼうよッ」
 フランドールはより強くパチュリーを揺すります。
 しかし、徹夜続きで眠りたいパチュリーは呻きます。
「んぅ……、ねか、せて……」
 しかし、フランドールには聞えません。
 更に大きな声で、パチュリーを起そうとします。
「ねぇ、いいでしょ? おきてよーっ」
「……」
 フランドールの呼びかけに、ゆっくりとパチュリーが起き上がる。
「あ、パチェ……」
「……ッ」
 大喜びするフランドールの頬に、パチュリーの平手が飛ぶ。
 パシンと乾いた音が、寝室に響く。
「……煩い」
「……ッ」
 へ……? な、なんで……?
 突然の事で、フランドールは放心したまま打たれた頬を抑え、
 ペタリとしゃがみ込んでしまう。
「……寝ている人を、ムリヤリ起す人がいる?」
 目にクマをつけたパチュリーはフランドールを鋭く睨み付ける。
「……ぁ、ぅ……」
 パチュリーの怒りが、無意識の内に彼女の周りに火花となって現れる。
 な、なんで……、私、叩かれたの……?
 理解できないフランドールは、叩かれたショックもあり、ジリジリと後ずさります。
 パチュリーはベッドから降りると、逃げるフランドールに一歩近寄ります。
「どうしてわざわざ起すんですか……?」
 そ、そんなに怒らなくても……
 気圧されたフランドールは素直に答えます。
「あ、遊びたかったから……」
 しかし、不機嫌なパチュリーはきっぱりと言い切る。
「遊びたいのなら一人で遊んでいればいいでしょ、いつもみたいにッ」
 そう言われたフランドールの表情が瞬く間に紅潮します。
「う、煩いッ、煩い煩いッ! 遊ぶ位いいじゃないのよ!」
 なんで、どうして今日はそんなにも怒るのよッ
 フランドールは立ち上がると憤然として言い返す。
「私はただ、パチェと一緒に遊びたいだけなのッ!」
「……迷惑ですから、一人で遊んでください」
「イヤだ! 遊んでくれないと……」
 フランドールは手を開いて両腕を突き出す。
「……『きゅっ』てしちゃうよ?」
 可愛らしく『きゅっ』と言うが、両手を向けられたパチュリーの表情は険しくなる。
 物の壊れやすい目を手の中に作り出し、それを潰す事で対象を破壊する。
 フランドールが恐れられる破壊の能力である。
「……やめなさい、私を脅すの? きっと後悔する。それでもいいの?」
「ふん、いきなり叩いた事は許してあげるわ、だから遊んでよ!」
「……やめなさい、今日は諦めた方がいいわ きっと不幸になる。それでもいいの?」
 魔女の二度目の静止に、フランドールは苛立ちを覚える。
「イヤよ。私が遊びたいんだからパチェは素直に付き合えばいいのッ」
 フランドールの手のひらに、小さな魔力塊が浮かびあがる。
 物の緊張した部分――壊れやすい目である。
 しかしパチュリーは脅しに屈せず、再三に渡って能力の行使をやめるように説得する。
「……やめなさい、これが最後よ きっとあなたに返る。それでもいいの?」
 なによ、なによ、なによ、なによ、なによッ
 ギリリ、と歯軋りの音がします。
 血走った目で、フランドールは眼前の魔女を見据える。
「いいわ、もう知らないッ、壊してから遊んでやるわッ」
 フランドールは広げていた手のひらの小さな魔力塊をきゅっと握り潰す。
「――ッ」
 握った瞬間、小さな爆発音と共に、両腕が肘から先に掛けて爆ぜ飛ぶ。
「――ぎゃぁあッ」
 血や肉片、骨の破片が周辺に飛び散り、血溜まりを作り、少女はその中に崩れ落ちる。
「ぁ……、うぁ……、ぁ……、ぁ……ッ」
 少女はガタガタと震えながら、消えうせた両腕を見つめる。
 どうして――?
 どうして、私の両腕が――
 私――『壊す側』――の両腕が、壊れて――?
「言ったでしょ? やめなさい、と。あなたに返る、と……」
 それは呪詛返し。
 再三に渡る静止の言葉は、勧告であり、契約であり、呪詛である。
 魔女の再三の言葉に逆らえば、それは魔女との契約を承諾する事になる。
 そうなればどんな呪詛であれ、契約の通り、その効果は術者に『返る』事になる。
 ピチャリ、と血溜まりに足を踏み入れたのは――百年の魔女。
「壊すと宣言しながら、両手だけ。妹様は随分とお優しい……」
「ヒ……ッ」
 クスクスと笑うパチュリーにフランドールは後ずさります。
 自分の最も得意とし、周囲から畏怖された能力。
 姉であるレミリア・スカーレットですら手に負えない『破壊』の力。
 落ちてきた隕石ですら粉々に砕くその力を、返された。
 両腕を奪って逆らうことの愚かさを知らしめるだけだったのにッ
 ただ、一緒に遊びたかっただけなのにっ
「さぁ、聞き分けの無い子にはオシオキが必要ね……」
 冷酷なその言葉に、フランドールの目から涙が零れる。
「ひ……ッ、ひ、は……」
 ズリズリと後ずさるが、背中にドン、と壁がぶつかる。
「ぁ……、や、やだ……、ヤダ、ヤダ……」
「さぁ……」
 パチュリーの手の中に、小さな炎が灯り、フランドールの前に掲げられる。
 普段ならどうという事の無いモノでも、恐怖に怯えた精神状態では、全てが恐ろしくなる。
 フランドールは首を左右に振って、懇願します。
「ヤ、いやだ……、ぁ、た、たすけ……」
 しかし、パチュリーの手の中の炎は渦巻き、焔を上げて大きくなる。
「ダメよ……、これは躾ですから……」
 パチュリーの瞳が妖しく輝き、燃え盛る炎がフランド-ルに迫る。
 フランドールは半狂乱になって、声を荒げて泣き叫びます。
「うわぁぁあああッ、おねえさまッ、たすけて、たすけてよ、おねえさま――ッ」


  § § §


 まったく、どうして?
 どうしてここの住人は静かにできないのかしら?
 苛立つパチュリーの脳裏に、忘れていた夢の言葉が蘇る。
『私が――、静かにさせるしかないでしょ?』
 そうよ、静かにするように躾けないと……
 うん、これは躾けよ。
 いつもいつも問題ばかり起して私を振り回す……ッ
 安眠を妨げ、静寂を打ち破る愚か者は、ちゃんと躾けなければ……
「ダメよ……、これは躾ですから……」
 泣き叫ぶフランドールに触れようとした瞬間に、その場から忽然と消え失せる。
 こんな芸当ができるのは……
「……邪魔しないでくれるかしら?」
 背後を振り向くと、気を失ったフランドールを抱き抱えるメイドが一人。
 メイド――十六夜咲夜はフランドールを抱いたまま、ゆっくりと立ち上がります。
「パチュリー様、少々厳しすぎるのではありませんか……?」
 静かにさせる為の躾を、 咲夜は邪魔をするのね……
「耳障りな鳴き声を出す口を焼くつもりだったのに……、あなたもついでに躾けた方が良さそうね」
「あら、咲夜の躾けはしなくていいわよ。私が直接躾けるから」
 咲夜の背後から現れたのは、大きな翼を持つ小さな少女――レミリア・スカーレット。
 友人であり、紅魔館の主人、その人である。
「……レミィ」
「パチェ……、これはやりすぎじゃないかしら?」
 愛称で呼び合うほどの二人の間に、緊張が走る。
「私は解らせようと思っただけよ。それが言葉では無理だと判断しただけ」
「……ッ、確かにあの子は中々いう事を聞かないけど……、でもッ」
「レミィ、いいからフランドールを渡して。でなきゃ、私は安眠できない……ッ」
 レミリアはパチュリーを見据えたまま、咲夜に命令を下します。
「……咲夜、フランを寝かせてきなさい」
「はい、お嬢様」
 その返事と共に、咲夜はフランドールと共に姿を消してしまう。
 きっと時間を止めてこの場から離れたのだろう。
「さぁパチェ、眠れないのなら、私が寝かせてあげるわ」
 レミリアは大きな翼を広げて、全身に魔力をみなぎらせる。
 そのその行為……、それは、つまり……
「……レミィ」
 レミィだけは……
 信じていたのに……
「そうなの……」
 親友だった吸血鬼の少女を見据える。
 解ってくれると思っていたのに……
「あなたも……」
 親友だと、思っていたのに……
「私の邪魔をするのね?」
 悲しそうに呟くと、魔女は懐から緋色に輝く液体の入った小瓶を取り出した。


  § § §


「ん~っ、おいひいわね」
 手入れされた庭園を眺めながら、のんびりとお茶を楽しむ。
 心身ともにリラックスできる静かな娯楽。
 冥界は白玉楼の主人、西行寺幽々子はお茶請けに用意されたお饅頭を美味しそうに頬張る。
 ちなみに、餡はこしあん。
「はぁ、おいしいですねぇ」
 同じく、お饅頭を頬張り、熱めのお茶をズズズ、と飲むのは死神の小野塚小町。
 彼岸で渡し守をしている彼女がなぜ冥界でお茶をしているかといえば、理由はこうだ。
「小町、次の霊を連れてくる前に、白玉楼までコレを届けに行ってきなさい」
 と閻魔さま――四季映姫・ヤマザナドゥにお使いを頼まれたのだ。
 届けるものは手紙。
 土地拡張の事など、細かい事が書かれている、らしい。
 行って帰ってくるだけであるが、閻魔さまは裁判以外の仕事にも追われているようで、
 丁度霊を運んできた小町に、白羽の矢がたったのだ。 
「いいですね、それを届けたら速やかに仕事に戻るんですよ!」
 と去り際に言われたけれど、怠惰を好む小町である。
「わざわざお疲れ様ね、お茶でも飲んでく?」
 と幽々子に言われれば、即決即断。という訳である。
「そういえばここに来る途中、いつもの庭師が見当たらなかったけど?」
 いつもなら階段まで飛んでくるのに……
「あぁ、妖夢にはお使いに行ってもらったのよ」
「へぇ、あたいと同じってわけだ」
「んー、そういえばあの子まだ帰って来ないわね……、行って帰ってくるだけなのに」
「おや珍しい、あの真面目そうな子がサボりかい?」
 まぁ、お使い帰りはついつい遊びたくなるものだよねぇ
「それはサボりの先輩の勘かしら?」
「げほッ、けほけほッ」
 飲んでいたお茶を詰まらせ、小町はむせ返します。
「いやいや、あたいはサボってるわけじゃないんですよ? 四季様が働き過ぎないようにこうして調節してるのさ」
「それじゃあ、もう暫くは?」
「自殺者がいないか巡回してたって事で、もう暫くはくつろごうかなぁって」
 ぽむっと両手を合わせて幽々子が喜ぶ。
「そうなの? それは良かったわ~」
「へ? それはどういう意味……」
「妖夢が居ないからね、お客様が来た様なの」
 お客さま?
 幽々子が庭先に視線を向けたので、小町も釣られてそちらを向く。
「うぇ」
 思わず声が漏れる。
 いつの間に……?
「暢気な癖して、随分鋭いのね……、勝手にお邪魔するわ」
 庭先に浮かぶのは、本と人形を手にした――メイド。
 あたいの知ってるメイドはナイフ持ってたけど、本と人形ってのも、おかしな組み合わせだね……
「あらあら、家ではメイドの募集はしてないわよ? それとも転職したの?」
「ある意味戻った、と言ったほうがいいかしら? まぁ、そんな事はどうでも良いわ」
 それよりも、とメイド風の少女が続ける。
「ねぇ、少し遊びましょ? 折角死人嬢と死神が居て、『私』が来てあげたのですもの」
「それはいいけれど……、あなた、憑かれてるわね?」
 幽々子の、少女を見る目が鋭くなる。
「それはそうよ。 私のご主人様は悪霊なんだもの」
「あ、悪霊!?」
 なんでまたそんな物騒な者の従者になるのか……
「でもいいの。あの人は私の実力を正しく評価し、私を頼ってくれたんだもの」
「そうなの……」
 メイドの格好をした少女が嬉しそうに手にした本と人形を掻き抱く。
「それで、何をして遊ぶんだい?」
 正直弾幕ごっことかは面倒だからイヤなんだけど……
 あたいの嫌そうな顔をみて、メイド少女は微笑む。
「大丈夫、あなた達は何もしなくていいわよ」
「へ……?」
「――私のお人形があなた達を襲うだけだからッ」
 キっと目を見開くと、少女は手にした人形をこちらに投げつける。
「――っ!」
 それと同時に、あたいは幽々子さんに押し倒される。
「な――?」
 その刹那、投げられた人形は轟音と共に爆発四散する。
 凶器と化した人形の破片が周辺を傷つけ破壊する。
「ひッ」
 大した規模では無いが、私を庇った幽々子はまともに爆風を受けていた。
「ゆ、幽々子さんっ?」
「ふぅ、大丈夫?」
 煙幕の中顔をあげた幽々子さんは何とも無い様だった。
 あ、そうか……、亡霊は物理的には傷つかないんだっけ……
「ほら立って、すぐに来るわよ……っ」
 あ、そういえばあの少女も居るんだっけ……
「ひぃん、四季様の言うとおりすぐに仕事に戻れば良かったよぉ……」
 泣き言を呟きながら鎌を手に立ち上がるも、少女の姿は無くなっていた。
 その代わりに、武器を手にした人形がゾロゾロと姿を現す。
「うわわっ、こ、こいつらは……?」
「きっとあの子の人形ね、武装してこの数……、まるで軍隊ね……」
 そんな事を話している間に、人形達は二人を包囲する。
 手にした赤黒い槍や剣を構えると、人形達は一斉に踊りかかる。
「くぅッ」
 小町は銭の弾幕を放って人形達を迎撃する。
 扇状に放たれた銅銭は飛び掛る人形達を打ち据えてその前進を阻む。
「そっちは大丈夫?」
 声を掛けた幽々子も、死蝶を舞わせ、群がる人形を食い止める。
「えぇ、でも――数が多いよっ」
 人形達は恐ろしいほどに統率の取れた動きで間合いを詰めようとする。
 接近されちゃあ向こうの間合いだ。
 群がられては象ですら蟻の前に敗北する。
 それを幽々子も承知していて、小町と背中を合わせてお互いの前面に集中する。
「そういえば幽々子さんはあいつの事知ってるみたいだったけど――っ」
「魔法使いで人形遣いのアリスよ。でも、どうして……?」
「以前に何かした覚えは?」
 大きな盾を持つ人形数体が、銭弾の弾幕に耐えながらジリジリと距離を詰めてくる。
「――このッ」
 その盾持ちだけを狙い、銀の銭群を浴びせ、盾を砕く。
「私には無いわ、それに悪霊の知り合いなんて居ないし……」
 味方を盾に、蝶の群れを突破した人形が幽々子に肉薄し、繰り出された赤黒い槍が肩を掠める。
「――もうっ」
 しかし、単体で人形が叶う筈も無く、即座に扇の一撃で叩き落される。
「幽々子さん、大丈夫かいッ?」
「えぇ、一体だけ……、でも……この人形、危険よ……ッ」
 その意外な言葉に思わず振り返る。
 肩に傷を負った幽々子は、圧倒的な密度で人形を阻んでいるが、状況は膠着している。
 確かに、あの量の蝶を突破して傷をつけるなんて、随分――
 ――あれ?ちがう……。
 ふと、自分の考えに違和感を覚え、即座に気がつく。
「幽々子さん、ソレ……」
 危険なのは、その突破力でも、統率力でも、味方を盾にする知恵でも無い。
「えぇ、この人形……、私を、傷つけることが出来る――ッ」
 幽霊、亡霊を物理的に傷つけるのは不可能だ。
 それが、それだけが私達の勝機でもあった。
 どんなに数を用意しようが、打倒する手段が無ければそれらは路上に転がる石以下である。
 あたいには逃げ切る手段もあるし、傷つかない幽々子さんが居る時点で、意味の無い消耗戦でしか無い筈だった。
「って事は、この人形達全てにそれだけの魔力が篭められているって事?」
 受肉した存在が霊的存在に干渉するには、同じく霊的な力が必要になる。
 剣や槍に魔力を込めるなり、魔力弾――弾幕を当てるなり。
 つまり、この人形達は、それを持っている――?
「いいえ、人形が弾幕を張らないという事は、人形全てに操作以外の魔力を注ぐ事が無理だという事よ」
 ……確かに、人形達は弾幕を放ってこない。
 手に持った武器で攻撃してくるばかりだ。
 では、どうして――?
 その刹那、銭の豪雨を乗り越えた人形があたいに向けて飛び掛る。
「――ッ」
 大鎌を一閃させてこれを両断し、即座に弾幕を張ってその隙を埋める。
「でも、幽体を傷つけるなんて――」
 この人形達の装備なんてとても上等な魔法装備とも、曰くつきの武具とも思えない……
「兎に角、このままじゃ物量に押されてしまうわ……」
 幽々子の言葉通り、壊しても、倒しても、すぐさま増援の人形が現れる。
 湯水の如く現れる人形に、二人は初めて戦慄を覚えた。


  § § §


 西行妖の下、魔法使いはそこにいた。
 巨大な魔法陣の上、大量の人形に囲まれて佇んでいた。
 赤黒い武器を手にした人形の小隊が屋敷へと向う中、
 赤々と輝く魔法陣からは同じ数の人形が、赤黒い武器を手にして姿を現す。
「さぁ、いつまで持つかしらね……」
 赤く染まったメイド服に身を包んだアリスは楽しそうに微笑んだ。


  § § §


 長い長い永遠亭の廊下。
「えーりん居る? ……ここにもいないかぁ」
 廊下を進み、適当な部屋を覗いて確認しては、次の部屋を覗く。
 ほんの少しだけ不機嫌そうに、永遠亭の姫――輝夜が呟く。
「もぅ、永琳ったらどこに行ったのかしら……」
 今日はアイツをからかう日だって言って置いたのに。
「一緒にからかおうと思ってたけど……、一人で行っちゃおうかしら?」
 そう思い玄関に向かうと、丁度てゐと鉢合わせる。
「あ、姫さま……、お出かけですか?」
「えぇ、永琳を見かけたら言っておいてくれるかしら?」
 言わないと後で小言を言われるからねぇ
 しかし、てゐからは意外な言葉が返ってくる。
「あ、永琳さまなら竹林に出かけましたよ?」
「えぇッ、なんで私をおいていくのよっ」
 むーっ
 もう、待ってなさいよ永琳!
 永遠亭を飛び出し竹林へと踏み入り、いつもの場所へと向かう。
 いつもの場所と言っても、名称なんて無い。
 ただいつも、妹紅をからかい、殺しあっている場所。
 だから――いつもの場所。
 その場所へ竹林の中を、道無き道を進む。
 長いスカートを汚さないように、宙に浮いてふわふわと進む。
「でも、一体どうして永琳は先に行ったのかしら……?」
 別れ際にてゐが言っていた。
 ――姫さまの為だそうですよ?
 それが今一解らない。
 妹紅との事で私の為になる事……
 私としては楽しければいいんだけれど、もしかして何か仕込んでるのかしら?
「んー……、本人に聞けばいいか」
 先を急ごうとした矢先、独特な香りが鼻腔を刺激する。
「これって……ッ」
 その香りに輝夜は表情を変えると、長いスカートを翻して空中を疾駆する。
 それは錆びた鉄のような、とてもとても嗅ぎ慣れた香り。
 その香りがするという事は――
「……一体、何をしているのよッ」
 竹林を突き進むと、匂いが強くなり、そして――

 そこに少女は佇んでいた。
 両手を赤く染めて、佇んでいた。
「あら、姫……」
 彼女の足元には大量の赤と、横たわる少女の体。
 美しい銀髪を赤く汚して散らし横たわる少女の胸が、荒い息と共に激しく上下する。
 死に体ではあるが、かろうじて少女は生きていた。
「ちょ、ちょっと永琳……、なに、してるのよ……?」
 しかし、永琳は主人の問いに答えず、まるで子供の様に微笑む。
「うふふ……、姫、見ててくださいね」
「何と私が聞いて――」
「――このォっ」
 永琳が輝夜に微笑んだ隙に、倒れ伏していた少女が跳ね起き、手刀を繰り出す。
「まだ元気なようね」
 簡単に手刀を絡め取ると関節を砕き、少女をそのまま垂直に、空高く放り投げる。
「――くぁっ」
 血を撒き散らしながら、少女の体が上昇する。
 すかさず永琳は弓を引くと光の矢が現れる。
 それを、真上に――少女に向けて放つ。
 放たれた矢は光となり、無数に枝分かれしながら妹紅の全身を貫く。
 思わず私は、投げられた少女の名前を叫んでしまう。
「妹紅――ッ」
 穴だらけになった妹紅が落下する。
 空に浮く力も無いのか、すぐ近くの竹林に、イヤな音を発てて落ちた。
 それを見届けた永琳が、無邪気に微笑む。
「ふふ、どうです? ちゃんと命中しましたよ」
 褒めて、といわんばかりに浮かれる永琳に、私は一喝する。
「どうしてっ!」
「はい?」
「どうして妹紅に手を出したのよ! アレは私の――」
「――遊び相手、ですよね?」
 穏やかだった永琳の気配が一瞬変わる。
 どっか冷めた様な……
 その変わり様に驚きながらも、輝夜は永琳を問い詰める。
「そ、そうよっ、私のモノにどうして手を出したのよ!」
 一緒に遊ぶのなら、言ってくれればいいのに……ッ
 私の怒声に、永琳は微笑んで答える。
「姫の為ですよ。妹紅はもう、姫の遊び相手には相応しくないと思いまして」
「相応しい、相応しくないなんて私が決める事よ。勝手な事をしないで頂戴」
 永琳はほんの少し俯く。
 そんな永琳を無視して竹林に踏み入ると、妹紅の落ちた方向に声を掛ける。
「ふん……ッ ほら、あんたもいつまでも死んでるんじゃないわよ!」
 竹林の奥で炎が燃え上がると、荒い息を整えながら妹紅が姿を現す。
 蓬莱人である妹紅は死なない。
 魂が本体である為、どんなに体を壊されようとも好きな場所に作り直すことが出来る。
 先ほどの炎がその証だ。
 不死鳥の如く、妹紅は蘇生を果たした。
「ハァ、ハァ……ッ、クソっ、今度はお前か、輝夜……」
 不死とは言っても、体力は消耗するし、疲労もし、痛みも感じる。
 今の妹紅は立ち上がるのもやっとな様だった。
 それでも、瞳に宿る闘志は微塵も衰えていないのが彼女らしかった。
「今日は気が乗らないわ。それに聞えてたんでしょ?」
 神宝である燕の子安貝を妹紅に投げる。
 生殖の神秘の象徴であるこの宝は所有者の傷を癒し、力を漲らせる。
 この神宝があれば蓬莱人でも翌日筋肉痛にも悩まされないのだ。
「今日のは永琳が勝手にした事。だからまた明日、改めて殺してあげるわよ」
「はんッ、自分じゃ敵わないからてっきり従者をけし掛けたのかと思ったけどね」
 まったく、口だけは達者なんだから……
 しかし、妹紅がここまで消耗するなんて、永琳ったら念入りに殺し過ぎよ……
 互いに口喧嘩をしつつ、永琳の元に戻ってくる。
 永琳はまだ俯いたままだった。
 永琳の姿を見るなり、妹紅は舌打ちと共に唾を吐き捨てる。
 早く帰れという意思表示だった。
「ほら、帰るわよ!」
「あ、あの……、姫は、お怒りになられましたか……?」
 動揺しているのか、永琳の言葉が不自然である。
「当然よ! もうこんなに不機嫌なのは初めてよ……」
 踵を返すも、永琳は歩き出そうともしない。
 それどころか、顔をあげた永琳から意外な言葉が返ってきた。
「……よかった」
 その言葉に思わず足が止まる。 
「これで私は、姫さまの遊び相手になれたのですね……っ」
 その言葉の意味を、狂気を、私は即座に理解できなかった。
「何を……、言ってるの?」
 その問いには答えず、永琳はゆっくりと私に手をかざす。
「――ッ! バカ、避けろッ」
 その意味を悟り、いち早く動けたのは妹紅だった。
 飛び出した勢いそのまま、私を突き飛ばす。
「きゃッ」
 次の瞬間、永琳の手から放たれた光が元居た場所を焦がす。
「な――ッ!?」
 呆気に取られて、永琳を見つめ返す。
 どうして、私を――?
 どうして、そんな笑顔で――?
 苦虫を噛み潰したような顔で私の前に立った妹紅は永琳を警戒する。
「嬉しい……、『三人で』だなんて……」
 おもちゃを買ってもらってはしゃぐ子供の様に、永琳が喜ぶ。
「――永琳、どういう、ことよ……」
 私は立ち上がり、永琳に問う。
 どうして、私に手を上げたのかを。
「どうもこうも、姫の為であり、私の為ですよ」
「私と……、永琳の、為?」
「はい、姫の新しい遊び相手に、私が立候補したんです」
「そんな、新しい遊び相手だなんて――ッ」
「だって普通に言ってもどうせ、私と一緒に遊べば良いって言いますよね?」
「そ、それのどこに不満があるのよッ」
「それでは私は妹紅と遊ぶ事になるじゃないですか」
「それのどこがダメなのよ!」
「ダメですよ、私は姫と遊びたいのですから。それが、私の為」
 私と遊びたい……?
「つまり、遊び相手の資格を得る為に私を狙ったって訳か……、それも不意打ちで!」
 身勝手な理由で襲われた妹紅は怒りを露にする。
 握り締めた拳からは火の粉が吹き荒れる。
「そういう事。あなたが姫を狙っていたのと同じ理屈ね」
「――ッ!」
 妹紅と同じ――、それはつまり、憎しみ、恨み、怒りという闘争の為の火種。
 私の難題と、彼女の父親の行動、そしてその結果。
 今まで私と妹紅で成立していた、娯楽の理由、発端がまさにそれだった。
 しかしそれは過去の話だ。
 その昔、彼女達はとある老女と出会い、交流し、別れを経験していた。
 その過程で、二人は既に恨みや憎悪といった負の感情での闘争から脱却していた。
 しかし何故今頃になって永琳がそんな事を言い出すのかがわからない。
「――永琳、すずとの事を忘れてしまったの?」
「あの老婆の事……、忘れる筈ありませんよ。でも私にとって大切なのは姫の相手をする権利を得る事」
「そ、そんな……」
「その為ならどこまででも憎まれ、恨まれても良いわ」
 愕然とした輝夜は力なくその場にしゃがみこんでしまう。
 私は――、そんな関係、望んでなんかいないのに……っ
「どうして……」
「遊んでやればいいじゃないか輝夜、私達を相手にしたいって言っているんだ」
 やられた借りを返したいらしく、妹紅はヤル気満々である。
「でも……、私はそんな事……」
「あーっ、もう、ぶん殴って正気に戻す。それだけだろ?」
 弱気になっている私に、妹紅が一喝する。
「お前の知ってる永琳とは違うんだろ? だったら今のアイツはおかしいと考えるのが妥当じゃないか」
「……そうよね、どう考えても、今の永琳はおかしい……ッ」
 おかしいなら元に戻してあげなきゃ……ッ
「そうだ、おかしいなら元に戻す!」
「――えぇ、そうね」
 私は立ち上がり、まっすぐ永琳を見つめる。
「それでこそ、私の姫です」
 二人に戦う意志有りと判断した永琳は満足そうに頷く。
「二人とも、私が憎いですか? 私を殺したいですか?」
 私と妹紅は永琳から飛び退いて距離をとると、蓬莱の玉の枝と渦巻く炎を出現させる。
「あぁ、憎いね、殺された分殺し返してあげるよッ」
「いいわ永琳、私が正気に戻してあげるッ」
 対する永琳は佇むばかり。
「さぁ、遊びましょう!」
 その言葉を皮切りに、輝夜と妹紅は打ち合わせた訳でもないのに、永琳の左右に回り込む。
「――っ!」
 二人の息の合った動きに永琳は目を見張る。
 その隙を逃す二人ではない。
「くらえッ」「いくわよッ」
 妹紅の掲げた腕には渦巻く業火が翼を広げる。
 私が振るう蓬莱の玉の枝には、色取り取りの宝珠が無数に生み出される。
――不死「火の鳥 -鳳翼天翔-」
――難題「蓬莱の弾の枝 -虹色の弾幕-」
 相手を焼き尽くす業火の不死鳥が、虹色に輝く無限に列なる宝珠が永琳を襲う。
 轟音と共に、周囲に煙幕が立ち込める。
 直撃の瞬間まで永琳が動いた気配は無い。
「――やったか?」
 直撃を確信しつつも、妹紅も輝夜も警戒を緩めない。
 蓬莱人は死なないが、疲労はする。
 不老不死とはいえ、肉体と体力は別物である。
 それは治癒と回復の違いと同じである。
 何度死んでも蘇生可能だが、その度に体力は消耗してゆく。
 容器は直せても、零れた水は戻らないのだ。
 それは当然だ。動く為には燃料が必要だ。
 スタミナ、精神力だけでなく、スペルを起動するための霊力も同じである。
 先ほど妹紅がやられたように、動けなくなるまで攻撃の手を緩めず、疲労させ続ける。
 ソレこそが、唯一の勝利条件である。
 そして二対一ならば攻め続ける事も可能である。
 永琳が逃げようが向かって来ようが、二人の手にはその為の次の一手が準備されている。
 二人が警戒する中、煙幕が晴れて永琳の姿が露になる。
「……そんなッ!?」「バカな……ッ」
 その異様な姿に思わず声を漏らす。
 永琳は直立していた。
 その程度では驚かない。
 無傷である事も、想定の範囲内である。
 永琳は、二人のスペルに耐えたわけでも、相殺したわけでも、避けたわけでも無かった。
「戦術、タイミング、そして直撃しても緩めない警戒。うん、二人共すばらしい……」
 永琳は二人のスペルを受け止めていた。
 一体どのような方法かは解らない。
 しかし現実に、永琳の両肩には渦巻く炎と虹色の宝玉が担がれていたのだ。
「肉体の作り直しは任意の場所を選べますから、無駄に畳み掛けないのも評価しましょう」
 二つのスペルを担いだまま、永琳は饒舌に評価を語る。
 妹紅と視線だけで相談し、畳み掛ける事にする。
「――このッ」
 火鼠の皮衣を呼び出しながら、私は永琳に迫る。
 妹紅も手に炎を渦巻かせて奔る。
「でも、合格点には至りませんね。ほら、これはどうしますか?」
 至極嬉しそうに、私達にそう言い放つと、担いでいたスペルを投げ返す。
「くぅ――ッ」
 大口を開けた火の鳥と、雪崩のような宝珠。
 放ったスペルがそのまま、自らに帰ってくる。
 相手に攻撃をさせるのは良い。
 攻撃を誘い、反撃を入れる為の布石であるからだ。
 しかし、こちらが防御させられる事は、即ち行動を制限されるという事。
 相手に主導権を握られる事になる。
 そうなれば、スペルを相殺するのは下策。
 次善の策は、紙一重で回避、そして反撃――
「回避して反撃――って考えてますね?」
 スペルを避けた先には、既に永琳が待ち構えていた。
「――火鼠の……ッ!?」
 準備していた火鼠の皮衣を宣言するよりも早く、伸ばされた手に胸ぐらを掴まれる。
「ぁぐ……」
 次の瞬間、体が宙に浮いたと思うと、上下が逆転。
「――はッ」
 思いっきりぶん投げられた。その先には火の鳥を避け、間合いを詰める妹紅。
「きゃぁああッ」
「う、うわぁッ!?」
 駆け出していた妹紅と盛大に激突してしまう。
「いったぁ……」
「っ……、早くどけ……ッ」
 そんな妹紅の怒声も、遅すぎた。
 永琳のスペルカードが宣言され、もつれ合った私達の周囲に霧が出現する。
――蘇活「生命遊戯 -ライフゲーム-」
「――ッ!」
 こんな避けられない状況では成す術が無かった。
 私達は、たった一手で主導権を握られてしまったのだった。


  § § §


 博麗神社をルーミアに任せ、霊夢が向かった先は魔法の森だった。
 ――何故魔法の森か?。
 霊夢の勘と行ってしまえばそれまでであるが、彼女なりの根拠もある。
 それは鈴仙と妖夢の瞳に宿った良くないモノ。
 それは殺気や憎悪とはまた違う意味での良くないモノであり、普段目にすることは無い。
 霊夢はその目をした人物を過去に三人も見ていた。
 一人は技師であり、一人は侍であり、あとの一人は――
「む……」
 回想を中断し、察知した気配に集中する。
 木々の間を抜けて現れたのは数匹の妖精だった。
「また妖精……」
 魔法の森に入ってから頻繁に妖精が突っかかってくる。
 普段も突っかかってくるが、それはイタズラ目的だったりするのが殆どだ。
 今日は普段のそれとは違い明らかな敵意を抱いている。
 姿を晒しても逃げ出さず、向かってくる事からもそれが良く解る。
 これもきっとアイツが――
「って、もうっ、多すぎるわよ!」
 後から後から妖精達が沸いてきて、私の行く手を遮るように群がる。
 これだけ居ては、強引に突破しても道に迷うだろうし、追いかけてきそうで鬱陶しい。
「恨むなら――、私の前に出てきた自分の運命を恨む事ね」
 放たれる弾を避けつつ、大量の札をばら撒く。
 舞い散る御札は引き寄せられるように群がる妖精へと飛来する。
 御札に触れた妖精は『祓い』の力を受けて気をしない、墜落してゆく。
 果敢にも弾で御札を打ち破ろうとする者も居たが、二枚目、三枚目の御札にやられてしまう。
 その様子をみて逃げ出そうとする妖精も出てくるが、博麗の御札は逃がしはしなかった。
 唯一つの例外も無く、この場に居合わせた全ての妖精を撃墜してゆく。
「ふーっ、やっと片付いたわね……」
 倒した妖精はその場に放置して、私は先を急ぐ。
 あれだけの数を倒したから、もう周辺には居ないだろう。
 これで道に迷う事無く魔理沙の家に行ける。
 暗くジメジメとした魔法の森を疾駆して、霧雨邸へと急ぐ。
 暫くすると木々が少なくなり、空けた空間に出る。
 霧雨邸に着いたのだ
「っと、着いたわね……」。
 私は大きく息を吸い込み、今回の黒幕の名前を呼ぶ。
「ほら、出てきなさい、居るんでしょ――、魅魔!」
「おやおや、これは霊夢じゃないか、よく私の居場所が判ったね」
 そんな事も想定済みなのか、不敵な笑みを浮かべて悪霊が姿を現す。
「当然でしょ? あんたに縁のある場所は、封印されていた神社か、ココのどちらかしかないもの」
 クククと魅魔は含み笑いを漏らす。
「それで、今日は何しに来たんだい?」
 私は単刀直入に言う。
「二人に私を襲わせたのはあんたの仕業でしょ。 また陰陽玉が目的なの?」
 悪霊の力は、人を魅せ、魔に誘い道を外させる。
 故に名を魅魔と呼ばれる。
 変な技師も、麗しの女侍も、永遠亭の月兎も、冥界の庭師もその能力の支配下に置かれたのだ。
 前回は陰陽玉が目的だったけれど……
「くれるのなら貰っておくよ?」
「あげるわけないでしょ!」
 私の問いにおどける魅魔だったが、一つ判ったことがある。
 今回は陰陽玉が目的じゃ無いという事。
「兎に角、私の勘と記憶があんたの仕業だと言っているのよ」
 御祓い棒を魅魔に向ける。
「おぉ怖い、……でも正解」
 魅魔は不敵に笑う。
「その勘と記憶は正しい。 確かに私が犯人だよ」
「そう、何を企んで二人を操ったのかは知らないけど、とっちめてあげるから覚悟なさい!」
 悪霊を前にして退治する理由なんて要らない。
 私が巫女で、目の前に居るのが悪霊ならば、それが退治する理由なのだから。
 不敵に笑う魅魔に御札を投げつけ戦闘開始の合図とした。
 御札を前にして、魅魔は迎撃するどころか、まったく動こうとしない。
 悪霊である魅魔には、『祓う』力は相性が悪いと言うのに――
 しかし、その笑みと不動の理由がすぐさま判明する。
 キラキラと光る何かが空から降り注ぎ、御札を打ち破ったのだ。
「ぇ……、星?」
 上空から一斉に降り注いだ無数の星屑。
 星の、弾幕――
「まさか――!」
 急降下してきた彼女は、魅魔と私の前に姿を現す。
「ふふ、お利口さんだね、――魔理沙」
 霧雨魔理沙その人だった。
「でも、その格好は……」
 魔理沙といえば金髪に黒い衣装である。
 しかし、今の姿は――
 赤い髪に、紫のローブ。
 それは、魔理沙が私と初めて出会った時の姿だった。
 魅魔は魔理沙の傍らに歩み寄ると、その頬を撫でる。
「さぁ魔理沙……、今のあんたならあの巫女に勝てるよ……」
「きゃはッ、うん、魅魔様ッ」
 嬉しそうに微笑む魔理沙の目には、鈴仙や妖夢と同じような『良くないモノ』が――
「あんた……、魔理沙にまた……ッ」
 過去に見た『良くないモノ』を宿した三人目の人物こそ彼女――霧雨魔理沙だった。
「あぁそうさ、懐かしいだろう?」
「く……ッ」
 魅魔と魔理沙を同時に相手にするのは流石に辛い。
 どうにかして魅魔を調伏できれば魔理沙も元に戻ると思うんだけど……
「さて、そろそろ時間だ……」
 魅魔の姿が段々と霞んで、体が霧の様に解れてゆく。
「これは……」
 幻影だったの?
 でも、それなら私の勘が働く筈……
「それは魅魔様の分霊よ」
 なるほど、それならば本物と変わりない。
 私の勘がこの場所を示したのも頷ける。
「本体の魅魔様は今頃……」
「こら魔理沙!」
 消えかかった魅魔が魔理沙を一喝する。
「きゃはッ 魅魔様ごめんなさ~い」
 魔理沙はチロリと赤い舌を出す。
「ほら、あんたの力で霊夢を打ち負かすんだよ」
「おっけ~魅魔様!」
 魔理沙の返事を聞きながら、魅魔の分霊は完全に姿を消してしまった。
 ――まんまと罠に引っ掛かってしまったようね……
 追いかけて探したくても、目の前の魔理沙が必ず邪魔をするだろう。
 それなら……
 懐から陰陽玉を取り出して私は魔理沙と対峙する。
「いいわ、あんたを倒して魅魔を追う!」
「倒す? 私を? きゃはははッ」
 対する魔理沙は先手必勝とばかりに、魔法の宝玉を左右に浮かべてレーザーを放ってくる。
「……っ」
 二条の光線を紙一重で避け、博麗の護符をばら撒く。
 放られた護符は意志を持ったかのように魔理沙に殺到する。
 魔理沙の攻撃は威力は大きいけれど、直線的な物が多い。
 御札を撒いて避けに徹するのが堅実な手……。
 魔理沙もそんな事は承知している。
 幻想郷で屈指の機動力を持って、追尾する護符を強引に振り切りる。
 そして、避けるだけでは無い。
 動き続けながら、レーザーで私の行動範囲を制限し、限られた行動範囲に魔力弾を置いてくる。
「きゃはッ」
 魔力弾は当たれば爆発を伴う為、紙一重で避ける訳には行かない。
 が、それが逆に突破口になる。
「このっ」
 打ち込まれた魔力弾に御札をばら撒き相殺、誘爆させて即座に反撃に転じる。
 陰陽玉から大量の御札をばら撒く。
「その機動力、封じさせてもらうわ!」
――夢符「封魔陣」
 霊夢の一喝でばら撒かれた札が意志を持ったかのように飛び回り、魔理沙の周囲を封鎖し閉じ込める。
 しかし、封鎖が終わるのを黙って見ている魔理沙ではない。
「アハハハ、無駄無駄ァ!」
――魔符「スターダストレヴァリエ」
 御札の結界の中、魔理沙の手元と旋回する宝玉から、無数の星屑が全周囲に放たれる。
 札の結界と星の結界がせめぎ合う中、ダメ押しとばかりにレーザーが放たれる。
 御札とはいえ所詮は紙でしかない。
 全うな結界ならば防げるかもしれないが、完成する前で擬似的な結界でしかない為にレーザーで焼き裂かれてしまう。
「……くっ」
 霊夢も負けじと御札を撒き続けて結界を維持しようとするが、その尽くをレーザーが薙ぎ払い、擬似結界の穴を広げる。
 しかし、魔理沙の火力で結界が突破されてしまう事は想定済みだった。
「――今ッ」
 星屑結界の維持とレーザー。
 両手と宝玉の全てを使用するのを待っていたのだ。
 手の中に転がる程の小さな陰陽玉を投げつける。 
 それは瞬く間に大きくなり、結界ごと魔理沙を押しつぶそうと迫る。
「ぐ――っ」
 陰陽玉を迎撃しようとレーザーを照射するが、面に対して点の攻撃では貫通しても、止める事すらできない。
 しかし相手は魔理沙である。
 破壊の魔法に特化した魔女である。
 壁があるなら壊して通るまで。
 破れつつある結界の中、魔理沙はスペル宣言をする。
――彗星「ブレイジングスター」
 莫大な魔力を纏うと巨大な矢となって巨大な陰陽玉を穿ち砕く。
「これまた随分とハデに……」
 あれでは追撃も出来ない。
 纏っていた魔力を放出しながら上空を旋回し、魔理沙が戻ってくる。
「きゃはッ……、流石だねぇ、でも、あたいが勝つ!」
 自信満々に笑いながら魔理沙は道具を一つ取り出す。
「八卦炉……」
 魔理沙の持つ最大の武器である。
 その力は山一つ焼き払える程の大火力。
 人間でその火力を超えるものはおらず、妖怪を相手にしても引けを取らない。
 最大火力を持って来たという事は――、ここからが本番っ
 私は御祓い棒を握り締め、魔理沙を見据える。
「楽しくなりそうね……」
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コメント



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2.50幻想と空想の混ぜ人削除
かついでらっしゃるぅ~。