Coolier - 新生・東方創想話

博麗≠霊夢

2007/07/10 04:50:24
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博麗霊夢は夢を見た。
起きてみれば涙が出ていた。
連日のように夢を見ては涙を流していた。

「何でなのよ……。何で、泣くのよ……。」

夢は儚く、そして泡のように溶けて思い出せない。
だが、この連日のように流れ出る涙はただの涙ではない事を、
霊夢は直感で感じ取っていた。


「顔、洗おう……。」
霊夢はふと呟くと、よたよたとした足取りで顔を洗うための井戸に向かう。
夜も深いこの時間、季節は夏が近いとはいえ、まだまだ井戸の水は冷たい。
「ふぅ……。」
冷たい井戸水は霊夢の瞼を癒してくれた。
ふと月を見上げる。
今日は満月だった。
妖怪達が意気高揚する日。
霊夢の友人であるあの白黒の魔法使いも、また妖怪退治に励んでいるだろう。
「もどろ……。」
霊夢はさっきよりははっきりとした足取りで、寝室に戻り、布団にもぐりこんだ。


望郷に駆られる事はない。
霊夢は博麗神社の巫女であり、幻想郷を中立の視点で見定める巫女だ。
それゆえに、なぜ寝るたびに恐怖ではない涙が流れるのか、
霊夢にはわからなかった。
「ん……。」
朝日がやさしく霊夢の顔を撫でてくれる。
また泣いていたのか、微かに頬には湿り気が残っている。
ゆっくりと起きて、着替えを持って湯浴みの場へ向かう。
霊夢は、最近毎朝湯浴みをするのが日課になっていた。
涙ではれぼったい瞼をすっきりさせるためである。
湯浴みを終え、着替えを済ませたら、次は朝食を作る。
味噌汁、干物、ご飯と作っていく。
一人分では無く、三人分を作っているのだが、それには理由があった。
「おっはよー!」
「おはよう。」
伊吹の鬼、伊吹萃香が帰ってくる。
彼女もまた、幻想郷に住むことになった、人の世から忘れ去られたものである。
博麗神社に居を許してもらってはいるのだが、
毎夜夜雀のところで飲んだくれてつぶれて寝ているのだ。
だが、霊夢はそれはそれでいいと思っていた。
「いやー、昨日は盛り上がってさー。」
「また飲んだくれてきたの? よく続くわねぇ。」
「お酒はみんなで飲んだほうが楽しいからねー。
 鬼の世だけじゃあ、視点が一定でつまらないし。」
「それには同意するけどね。
 ほらほら、作ったから持ってけ。」
萃香を足で台所へ追いやり、自分の分を持ってこさせる。
鬼を足蹴にするなー! などと聞こえてくるが当然のごとく無視である。
「そろそろかしらねぇ。」
霊夢は自分の分をちゃぶ台において、そこから覗く空を見る。
「れーいーむー!」
白黒の魔法使い、霧雨魔理沙である。
「満月の晩の次の日は必ずたかりに来るわね、あんたは。」
霊夢は辛辣な物言いをするが、魔理沙は意に返す様子はない。
「おお。昨日もまたいっぱい妖怪を退治したからな!
 幻想郷を平和にする事へ貢献しているお礼だと思ってくれ。」
「私の仕事を奪っておいてよく言うわよ。
 台所においてあるから自分で持ってきなさい。」
「おう。それじゃ失礼するぜ。」
箒を慣れた手つきで玄関に立てかけ、魔理沙は家の中へと入る。
「お、萃香じゃないか。最近はいつもミスティアの屋台に入り浸ってるそうだな?」
萃香の頭をたたきながら、魔理沙が口を開く。
「入り浸ってるわけじゃないよ。あそこはいろんな存在が来るから楽しいんだよ。
 って言うか頭をたたくな!」
萃香はちび萃香を向かわせるが、あっさりとよけられる。
そのまま魔理沙は台所へ向かい、自分の分を持って居間へとやってきた。


「いただきます。」
満月の次の朝は、大体いつもこの3人で朝食をとる。
魔理沙は自分の武勇伝を語り、萃香は昨日の出来事を語る。
それを霊夢が相槌を打ちながら聞く。
これが博麗神社の普段の朝だ。
魔理沙がふと、霊夢の顔を見て口を開く。
「それにしても霊夢。」
「何よ?」
魔理沙の口の横にはご飯粒がついており、霊夢は少しだけ微笑ましく思った。
「なんか最近、悩んでるのか?」

ピタリ と霊夢の箸が止まった。

「図星か。」
魔理沙は心配そうに霊夢の顔を見る。
「最近妙に空元気で振舞うし、気づいてないとでも思ったか?
 その瞼の腫れといい、悩んでるようにしか見えないぜ。」
「あんたには関係ないでしょ?」
霊夢は少し苛立ったように言う。
「関係なくはないよ。」
萃香がフォローを入れる。
「最近霊夢の表情が晴れないのはわかってたし、何より思いつめてる感じがしたしね。
 一人で解決したいだろうから、最近ミスティアの店に夜は通いつめてたけど。」
「……だからなんだって言うのよ!」
バン! と強くちゃぶ台を叩く。
三人ともほとんど食べ終わっていたため、干物の骨が若干浮かんだ程度に終わった。
「苛立ったってしょうがないだろ?」
「そうそう。目尻に涙を浮かべて苛立たれたって、説得力に欠けるよ?」
霊夢の目尻には確かに涙が浮かんでいた。
「こ、これは……。」
急いで霊夢は涙を拭う。
「少し霊夢は抱え込みすぎだと思うぜ。」
「もう少し話してくれてもいいのにね。せっかくなんだし。」
霊夢は肩を震わせ、怒鳴った。
「五月蝿い五月蝿い五月蝿い!
 出てけ! 出てってよ!!」
霊夢が針と御札を構えたのが見えたので、
二人は急いで入り口へ向かい、萃香は魔理沙の箒につかまって飛んでいった。
霊夢は肩で息をしながら、呟いた。
「……五月蝿いのよ……。
 本当に……。」
誰もいない居間に、嗚咽する声だけが虚しく反響した。


萃香と魔理沙は退散した後、しばらく神社の上にいた。
二人とも心配そうな顔をして、神社から飛び立っていった。
今は霧雨亭に向かう途中である。
「あれは重症だな。」
「そうだね。霊夢は本当に抱え込んでばっかりなんだから。
 博麗の巫女ってだけで、あそこまで苦しまなきゃいけないもんなのかねえ。」
「博麗の巫女は、常に中立であり、常に孤独の中に生きる必要がある。
 って何度も聞かされたことがあるぜ。」
「誰に? 霊夢から?」
「いや、霊夢からじゃないぜ。誰だったかな……。」
魔理沙は少し考え込む。
「あぁ、思い出したぜ。」
「誰?」
「萃香はまだ会った事がないぜ。
 だけど、神社の池に行かなきゃなんだよな。」
「池? 池になんかいるの?
 まさか河童とか?」
「まぁ、会えば解るぜ。」
魔理沙は箒を方向転換して、神社の裏手へと向かった。

「この池だぜ。まだ埋まらずに残ってたな。」
「埋めるって酷いね。
 でもこんな池に何がいるの?」
「萃香、ちょっと戸隠山投げでなんか投げてくれ。池に。」
魔理沙は意地の悪い笑顔を浮かべている。
「いいの? まさか願いを叶えてくれる女神様とか言うんじゃ?」
「まぁやってみれば解るぜ。」
「あいよー。力符『戸隠山投げ』!」
スペルカード宣言をすると、萃香は手に石や岩などを萃め始める。
「いっくよー!」
「おー。」
掛け声と共に、巨大な塊が池に向かって投げられる。
巨大な塊が池に着水する瞬間、何かの力によってあらぬ方向へ弾き返される。
「お? なんだ今のは。」
萃香は目を丸くする。
「やめんか! ここは神聖な池じゃぞ!?」
池から亀が浮かび上がってきた。
顔には立派な髭が生えている。
大きさはゾウガメより少し大きいぐらいか。
「玄爺、久しぶりだぜ。
 最後に会ったのは魔界へ向かったときか?」
「おぉ、お主か。霊夢様は元気にしておられるかの?」
「その事についてちょっと相談に来たんだ。」
萃香は要領を得ないという顔をしている。
「魔理沙、その亀何?」
「ん? ああ、紹介が遅れたな。
 これは玄爺。昔霊夢が空を飛べなかったときに利用してた空飛ぶ亀だぜ。
 で、玄爺。こいつは伊吹萃香。自称鬼だぜ。」
「自称って言うな! 私は鬼だ!」
「ほう。しばらく見ないうちに幻想郷に鬼が帰ってきたのかの。」
萃香は少しだけ寂しそうな顔をした。
「今幻想郷にいる鬼は私だけだよ。
 他の皆を迎え入れる事はできなかった。」
「そうか。昔は鬼退治にも、わしは駆り出されておったからの。
 懐かしい話じゃ。」
玄爺は頷きながら思い出に浸っていた。
魔理沙は咳払いを一つする。
「あー、玄爺。そろそろ本題いいか?」
「おぉ、そうじゃった。」

魔理沙と萃香は、今現在の霊夢の様子について玄爺に聞かせた。
玄爺は話が進むにつれて、表情がどんどん曇っていった。
「……やはりそうであったか。
 わしの責任でもあろうな。これは……。」
玄爺は俯いた。
自分が言い聞かせてきた事が、
やはり幼い霊夢には大きな釘になってしまっていた事を悔やんでいた。
「玄爺は昔から博麗神社を見てきたから仕方がないと思うよ。
 だけど、今はもう幻想郷も変わってきたと思うんだ。
 だから、昔のしきたりも確かに大切だと思うけど、
 新しい風を作ってもいいと思うんだけど。」
萃香は幻爺に提案した。
玄爺ほど長くは生きてはいないが、それでも萃香は鬼である。
他の人間や妖怪と比べれば、長くは生きている。
「まぁ玄爺が駄目と言っても、私達はやるけどな。
 私は霊夢が好きなんだ。」
「私もだよ。なんだかんだで、鬼だけど受け入れてくれた霊夢が好きだよ。」
二人は軽く顔を赤らめながら言った。
玄爺しばし考えた後、口を開いた。
「わしは少し視野が狭すぎたようだ。
 お二人に霊夢様をお任せしてもよろしいか?
 わしの失態を償わせるような事をお任せして、大変に心苦しいが……。」
魔理沙と萃香は互いに目を合わせ、玄爺に振り向いた。
「任せておいてくれ。」
「鬼は嘘をつかない。必ず何とかしてみせる。」
玄爺は、ゆっくりと頭をたれた。
「霊夢様を、お願いしますぞ……。」
二人は笑顔で頷くと、池を後にした。


「……。」
霊夢は布団にもぐっていた。
布団にもぐって、泣いていた。
幻想郷を見守る巫女であれ。
常に中立であれ。
幻想郷に住まうものとは必ず距離を置け。
それは年端も行かない少女にとって、どれだけ苦痛だっただろうか。
恐れではない。
望郷でもない。
ただ、耐えれなかったのだ。
楽しそうに遊ぶ魔理沙や、自由に生きる萃香が羨ましかったのだ。
それがいつの間にか、霊夢の心にストレスとして蓄積していった。
そのストレスが、霊夢に夢を見せ、涙を流させたのだ。

魔理沙と萃香は、寝室で布団にもぐっている霊夢を発見した。
「霊夢、霊夢。」
布団の上から魔理沙が体をゆする。
「何よ。あっち行ってよ。」
霊夢は突き放そうとする。
「霊夢……。」
魔理沙はそっと、布団の中に入って霊夢を抱きしめる。
霊夢の体が強張る。
萃香も反対側から、霊夢を抱きしめる。
「何なのよ、二人して。
 あっち行きなさいよ。
 行けって言ってるのよ!」
霊夢は魔理沙と萃香の腕に針を突き刺す。
本気で突き刺したのか、針がかなり深くまで刺さっている。
二人は顔をしかめたが、だけど離そうとはしなかった。
「泣きながら言うもんじゃないぜ。」
「霊夢は一人でがんばりすぎたんだよ。」
二人は離れないように、霊夢を優しく抱き続けた。
「……がんばったもんな、霊夢。」
魔理沙は優しく、霊夢の頭を撫でてやった。
「私は……、幻想郷の巫女なのよ……。」
「関係ないよ。霊夢は霊夢だもん。
 霊夢はもっと、甘えていいんだよ。
 遊んでいいんだよ。笑っていいんだよ?」
「……ぅ……ふぇ……。」
霊夢はゆっくりと泣き出した。
そんな霊夢を、魔理沙と萃香はずっと抱きしめ続けてあげた。


ひとしきり泣いて落ち着いたのを見計らって、3人は起き上がった。
「ありがとう……、魔理沙、萃香。」
「お礼なんていらないぜ。
 私と霊夢は親友だしな。」
「そうそう。私と霊夢も親友だしね。」
魔理沙と萃香は、突き立てられた針を抜こうとしている。
「ごめんね、ごめんね……。
 針刺して、しかもそんなに深く……。」
再び泣きじゃくる霊夢。
「私は鬼だから大丈夫だよ。これぐらい。」
「気にしなくていいぜ。こんなの抜いて絆創膏しとけば治るぜ。」
少し大きめの針を抜き取って、外に捨てる。
「霊夢が落ち着いてくれればそれでいいんだ。」
「うん。元気な霊夢が一番いいんだよ。」
魔理沙は頬に、萃香はおでこにそれぞれ口づけをする。
「ん……。」
霊夢はうれしさで赤くなる。
お返しといわんばかりに、霊夢は二人の頬に口づけをした。
そうして三人は一気に疲れが噴出したのか、そのまま眠りに落ちた。

霊夢は夢を見た。
自分と、魔理沙と、萃香と、三人で仲良く談笑している夢だった。
それは、霊夢にとっては久方ぶりに見る、とても暖かい夢だった。

霊夢は再び夜中に目が覚めた。
涙は流れていなかった。
こっそりと布団を抜け出し、包帯を持ってくる。
起こさないように、魔理沙の腕に包帯を巻いておく。
あのまま眠ってしまったため、処置ができなかったからである。
同じように、萃香の腕にも包帯を巻く。
「これでよし……っと。」
処置を終え、霊夢は包帯を戻して、縁側へ向かった。
今日もよく星が瞬き、空には十六日月がかかっている。
「……嬉しかったな。」
霊夢は呟いた。
「喜んでもらえたなら幸いだぜ。」
「どう? 一杯やる?」
霊夢が後ろを見ると、魔理沙と萃香が起きてきていた。
意地悪そうに笑っている。
「何時の間に起きてたのよ。」
「霊夢が包帯を巻いてくれたあたりからかな?」
魔理沙は答えながら霊夢の隣に座る。
「そのまま寝るなら、私もそのまま寝たんだけど。
 どっか出てくからさぁ。」
萃香も同様に、霊夢を挟み込むように座る。
「まったく……。」
「そう悪態つかないで。ほら、月見酒と行こうよ。」
萃香はお猪口を二人に渡し、伊吹瓢のお酒をついでいく。
珍しく、萃香もお猪口を用意してそこにお酒を入れた。
「じゃ、音頭は魔理沙に頼もうかな?」
霊夢はお返しといわんばかりに意地悪く言う。
「こいつはしてやられたぜ。」
魔理沙は笑いながら、お猪口を向ける。

「新しい関係に、新しい霊夢に乾杯。」

チンッ とお猪口を合わせた音が境内に鳴り響いた。
4度目になります、瞑夜です。
先回の作品の評価、大変ありがとうございました。
この場を借りてお礼申し上げます。


さて、今回の文章ですが。
霊夢を年頃の女の子と見ての作品です。
もう少し、自分を外に出せるようになれたらこんな感じになれるかな?
そんな思いをこめて書いてみました。

先回の分より更に砂糖分は低めですが、お口に合えば幸いと思います。
それでは、また次回があればお会い出来るよう、願っております。
瞑夜
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コメント



0.800簡易評価
5.100創製の魔法使い削除
中立故に孤独……
そんな霊夢の心を救ったのは一人の親友である魔法使いと居候の鬼…

どうか、霊夢に幸せな日が続く事を祈ります


素晴らしい作品でしたw
6.40椒良徳削除
感動の超大作というには文章量も文章力も足りません。
こういう話は嫌いではありません。
しかし、貴方の文章力では、貴方の表現したい事を十分に表現できていません。
結果として、読者は十分に文章にノルことが出来ない。
いろいろと勿体ない作品です。
もっと精進しましょう。
10.60名前が無い程度の能力削除
大作というより小粒の良作といった感じの内容でしたのでこの点数で。
11.70名前が無い程度の能力削除
素直にいい作品だと思いました。
ただ、もうちょっと霊夢に思い悩ませたりして引っ張った方がよかったかな、と感じます。