Coolier - 新生・東方創想話

短冊に同じ願いを

2007/07/08 08:36:26
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今日は7月7日、七夕です。
もちろんここ博麗神社にも笹が飾られ、さらさらと風に揺られ中々の風情を醸し出しています。
まあ、もっともその横では七夕にかこつけて開かれた宴会にやってきた面々がワイワイガヤガヤと騒ぎたて、さながら
百鬼夜行の様相を呈しています。

―――申し遅れましたが私は九代目阿礼乙女の稗田阿求と申します。
何で私が神社の宴会にやって来たのかというと、幻想郷縁起に掲載した面々の事を取材するためです。
人間と妖怪の新しい関係を~なんて謳ってしまった以上、私自身がもっと彼女らの事を知っておかなければなりませんし。
そういうわけで、彼女達の考えを端的に示す“短冊に書かれた願い事”を覗き見させて貰って、彼女達の内面への理解を
深めていきたいと思います。



そういうわけで私は宴の輪から離れ、笹飾りの方へと歩いて行きます。
手に持ったみかん箱は踏み台代わりです。………言っておきますが背が足らないわけではありません。ずっと短冊を見上
げていると首が痛くなりそうなので、そうならない様に持ってきただけです。なので勘違いしないように。

笹飾りの下に来ると、早速みかん箱の上に上り短冊のチェックを始めます。
え~と、どれどれ。今のところ吊るしてある短冊はチビッ子連中の物が多いみたいですね。まあ、チビッ子と言っても皆
私よりも年上なんですけどね。
………………あ、今「お前もチビだろ」とか思った方は満月の夜には“後ろ”に気を付けた方がいいと思います。

そんな事より短冊を読んでみましょうか。
この汚い字、と言うか既に模様の域に達している物が書かれているのは誰の短冊でしょうか。

『はやくふゆになってレティがかえってきますように ちるの』(阿求:訳)

………とても人間には再現できない文字なので、思わず翻訳してしまいました。
ついでに名前が例によって“さるの”だったのも直しました。
内容についてはどうという事も無いでしょう。以外にも先のことを考えているだけ妖精にしてはマシだと思います。

はい、次。その隣にある短冊は、と。

『いつまでも冬にならずに、ずっとチルノちゃんと2人っきりでいられますように ※※※』

素晴らしい友情ですね。前の短冊と合わせてプラスマイナスゼロ。お互いに足りない部分を補い合っていますね。
何故か名前の部分が滲んで読めませんが、これも運命でしょう。


続いてこちらの3枚を見てみましょう。

『ミスティアやルーミアが物欲しそうにこちらを見るのを止めてくれますように リグル・ナイトバグ』

『商売繁盛 あとルーミアが屋台の鰻のついでで私を齧らなくなりますように ミスティア・ローレライ』

『リグルもみすちーの屋台の鰻もみすちーも、みーんな美味しく食べられますように ルーミア』

ふむ、こちらも素晴らしいコンビネーション。食物連鎖のあり方をみごとに表していますね。
しかしこんな事を書くような状況でありながら、未だに他の2人と付き合いつづけているんですねあの蛍は。きっと
よほどの御人好しかドMのどちらかでしょう。


今度はこちらの短冊。寄り添う様に飾られた藍色と橙色の2枚。
………色だけで誰が書いた物か分かりますが、とにかく見てみましょう。

『橙がいつも健やかにありますように 八雲藍』

いいですね~。まさに子を思う母の言葉です。さすがあの主の下で苦労してるだけありますね。
で、その子供の方はというと………

『早く一人前になって、藍様のお手伝いが出来ます様に 橙』

ああ、やはり子は親の鑑。とてもいい子に育っています。よかったですね。
………………ん?2枚とも何か小さく裏に書いてありますよ。なになに…

『テンコーーーーーーーーーーーー』

『藍様のせくはら癖が治りますように』

………前言撤回、素晴らしい反面教師とでも言っておきましょうね、はい。


あ、こちらの紅い短冊はレミリアさんですね。運命を操るあの方でも願い事はするんですね。
えーと…

『あの子が、私の大切なフラン・ドールが無事に帰ってきますように レミリア・スカーレット』

ん?なんでしょうね、これは。妹さんの事ですよね?行方不明なんて噂は気いた事ないですが………。
ちょと良く分かりませんね。


続けて他の紅い短冊も見てみましょうか。

『名前を下さい 小悪魔(仮名)』

『名前を呼んで下さい 紅美鈴(本名)』

うわぁ………………。何と言うか、言葉に出来ないです。
どちらも不憫ですが、名前が無いのとあっても呼んで貰えないのとどっちが不幸なんでしょうか。
まあ、私も名前の事についてはあまり考えたくないので気にしないでおきましょう。阿⑨とか。
それにそんな事言ったら、次の十代目御阿礼の子の方が不憫でしょうから。
多分、今までのパターンから考えると阿斗とかでしょ?その子の代で稗田家が滅亡しそうな名前ですね。



ええと、後は………おや、霊夢さんが短冊を持ってこっちにやって来ますね。
既に酔いが回っているのか、フラフラしていますが鼻歌なんか歌って上機嫌です。

「ふーん♪ふーん♪…あら、あっちにいないと思ったら、あんたも短冊を飾りに来たの?」
「ええまあ、そんなところです。霊夢さんもですよね。いったいどんなお願い事を?」
「ふふーん、これよ、これ」

おや、以外とあっさり見せてくれました。という事は逆にあまり面白さは期待できそうもないですね。
せいぜい「参拝客が増えますように」とかいったところでしょうか。
どれどれ…

『魔理沙と友達からさらに1歩進んだ関係になれますように 博麗霊夢』

意外と達筆ですね。御札とか自分で書いているんでしょうし、当然といえば当然なんでしょうが………。
………じゃなくて!!えー、どういう意味でしょうねコレは。まだ当年とって十とちょっとの歳の私に見せるからには
私が想像しているような、いわゆるそういう意味ではないと思いますが………。
え?なんで私がそんな事知っているのかですか?
そんなの阿礼乙女ですから当然です。こらそこ、耳年増とか言うな。そういう事言う人は満月の夜には(ry
そう、そんな事より今は霊夢さんの願い事の方ですよ。ちょっと聞いてみましょう。

「えーと、霊夢さんこれは、その………」

………なんて聞けばいいんですかね。
いきなり「魔理沙さんと××したいんですか?」なんて聞くのは、いくらなんでもないと思いますし………。
しかし、悩む私をよそに霊夢さんは1人勝手にペラペラ喋ってくれました。

「ああこれね、本当はずっと魔理沙と一緒にいて、あの子が食べ頃になるまでは…って思ってたんだけどね、なんだか
 もう正直我慢の限界で………。それにこのところ悪い虫が増えてきたみたいだから心配で心配で………。それでこの際
 だから青い果実もまた乙なもんかなーって思うのよ。でね、竹林の薬師に頼んでこの薬を作ってもらったの。ね、ほら
 これよ、いいでしょ?これをちょちょいととお茶に混ぜるだけで…ふふ。そういうわけで今夜皆が帰った後か、明日に
 でも魔理沙が来たときには使ってみようと思ってるのよ。本当は今すぐにでも使いたいんだけど、やっぱり初めての時
 くらいは2人きりがいいし…。あ、それとも魔理沙の家に行って使った方がいいかしら?その方が邪魔が入りそうにな
 いしね。ふふふ…あー、楽しみだわ。待っててね、魔理沙」

紅く染まった頬に手を当てくねくねと体を動かす霊夢さんは、見た目は恋する乙女でしょう。
ま、やろうとしてる事は犯罪なんで何とも言えませんが………。というか、そこまで用意周到ならわざわざ短冊に願い事
書く必要ないと思うんですが、そのあたりどうなんでしょうね。

「え?だってこの方がロマンチックじゃない。相思相愛ながらも今まであと1歩が踏み出せなかった2人が、願い事を
 切欠についに結ばれる………ってな感じで。魔理沙は結構そういうの好きだし」

相思相愛…って肝心の魔理沙さんの気持ちが思いっきり無視されてますね。
でも、そんな事気にした様子も無く霊夢さんは短冊を笹に結び付け―――

「ちょっと待ちなさい、霊夢」
「紫?」
「あ、紫様」

そんな彼女を制止したのは、境界の妖怪八雲紫様です。

「なによ紫。別に巫女が願い事しちゃいけない、ってわけじゃないでしょう?」
「ええ、願い事をするだけなら自由よ。でもね、さっきのアレは駄目ね。貴方と魔理沙は今以上に近付いては駄目なの。
 貴方だって分かっているのでしょう?幻想郷のためにも博麗の巫女は常に中立でいなければならない、って」
「そんなの知ったこっちゃないわ!!今は幻想郷よりも魔理沙と××する方が大事よ!!そもそもあんたには関係無い
 じゃないの。例え魔理沙に△△で○○した上で☆☆しようとも私の勝手じゃない!!」
 
うわ………なんかすごい事いってますよ、この巫女。とても私の年齢では口に出来ないような言葉を大声で叫んだ上に
それが幻想郷より大切だって、あんた。これじゃあ幻想郷はお先真っ暗ですね。
あ、いやいや、まだ紫様がいらっしゃいますね。頭の切れる方ですし、この方なら上手く霊夢さんを説き伏せてくれる
でしょう。そう考えるとこの胡散臭い微笑みも頼もしく思えます。人(妖怪)は見た目で判断するもんじゃないですね。
ささ紫様、どうかこのトンでも巫女に1つビシッと言い聞かせてやって下さいな。

「あのねぇ、霊夢。たしかに誰かを好きになるのは、その人の自由よ」

いいですね、さすがです。先ずは相手を全否定するのではなく、認めるところはきちっと認める。これが正しい説教の
あり方ですよね。

「でしょ?あんたもそう思うなら………」
「でもね、魔理沙はだめよ。わかるでしょう?」
「なんでよ!?なんで、魔理沙がだめなのよ!?」

そう、そして一方的に話しつづけるのではなく、相手にも喋らせるのが大切です。誰しも頭ごなしに説教垂れられても
真面目に聞く気にはなれないものですから。さすがです、さすがは―――

「だって魔理沙は私が食べる予定なんだもの。ほら短冊も書いてきたわ。
 『魔理沙を食べたい―――無論、性的な意味で 八雲紫』ね、いい願い事でしょ」

―――何考えてるか分からないだけありますね、このスキマ。見た目通り、いやそれ以上の胡散臭さでした。もう妖怪は
見た目で全て判断していいんじゃないでしょうか。

「ちょっと待て!!なんであんたが魔理沙を!?」
「なんでと言われてもねぇ…。さっき言ったでしょう?『誰かを好きになるのは、その人の自由よ』って。あなたも同意
 してたじゃないの」
「いや、そうだけどさ。でもあんたと魔理沙とじゃ、そもそも接点がほとんど無いでしょ?せいぜい神社で偶然遭うか
 宴会の時くらいのものじゃないの」
「そんな事ないわよ。私は割とよくあの子の家にも行ってるわ」
「え!?うそ!!?何それ、私聞いてないわよ!!」
「そりゃ言ってないもの。でも、別に教えてもらわなくとも知る方法はあったのよ」
「………どうやってよ?」
「それは私よりその子に聞いた方がいいんじゃなくて?」
「………………え!?私ですか!?」

いやいきなり話しが振られたので、少々反応に時間が掛かってしまいました。
えーと、紫様が魔理沙さんの家に行っている事と私の間に何の因果関係が………。

「ちょっと、あんた!!どういう事よ!?さっさと答えなさいよ!!」

霊夢さん痛いです、そんなに強く肩を掴まないで。あ、こら揺するな。考えが纏まらないから。
えーと、えーと、えーと………たしか、えっと………………そうだ、あれだ。あれならいつも懐に………あった。

「こ、これです。これが答えですよ」

そう言って私は懐から1冊の本を取り出す。持ってて良かった幻想郷縁起(稗田阿求:著)。あなたも1冊どうですか?
え?宣伝禁止?いいじゃないですか少しくらい。これが売れないとお小遣いが増えないんですよ。

「………これが?」
「はい、そうです。って霊夢さんには1冊差し上げませんでしたっけ?取材のお礼代わりに」
「ああ、そういえば貰ったわね。食べ物じゃなかったから、そのままどっかに放り込んじゃったんだと思うわ。
 あ、でもだいじょぶよ。たしか焚き付けにはしてないはずだから」
 
ちくしょう、なんてこった。私とご先祖様達の汗と涙とその他いろいろの結晶をぞんざいに扱いやがって。
フォローもフォローになってないし………。いいや、もう。この巫女には何も期待できないのは先刻承知済み。
取り合えず私は目的の頁を開いて目の前の巫女に突き出す。

「ほら、ここの事ですよ」
「…えーと、『境界の妖怪 八雲 紫』…って別にこいつの紹介を読んでもしょうがないじゃないの」
「違いますよ。ここです、ここ」
「『目撃報告例』?ああ、そういえばあなたが取材に来てたわね…。あ、魔理沙の話しも載ってるんだ。何々…
 『いつも家の中から現れるのは勘弁して欲しいぜ。ちゃんと玄関から入ってこれないのか』
 やっぱりあんたどこでも似たようなもんなのね。魔理沙だって迷惑がってるみたいだし、いい加減に………って
 あれ?“いつも”………?」
「ね?ちゃんと書いてあるでしょう?」
「た、たしかに………。いやでも百歩譲ってこれが本当だとしても、あんたが魔理沙の家で何をするっていうのよ!?」
「特に何するわけでもないわ。一緒にお茶を飲んだり、お酒を酌み交わしたり、御飯を作ってあげたり」
「御飯!?ってあんたが!?魔理沙に!?」
「ええ、そうよ。これでも家事は得意なのよ、普段しないだけで」
「そうか…どおりで最近ウチにたかりに来る回数が減ってると思ったら………。よもやあんたの仕業だったとはね」
「ふふ、そういう事よ。おかげであの子もだいぶ懐いてきたし、そろそろ収穫時かなと思ってね」
「で、でも魔理沙と一緒にいた時間は私の方がずっと長いわ。ぽっと出の年増に横から掻っ攫われてたまるもんですか」
「あらあら、どれだけ過ごしたかよりもどう過ごしたかの方が重要なのよ。そんな事も分からないなんて、ガキねぇ」
「そう?でもガキはガキなりにわかったわ。少なくともあんたに魔理沙を渡すわけにはいかないって事だけはね」
「奇遇ね、私も年長者に対する礼儀も弁えない輩にあの子を譲る気はないわ」
「そう、引く気は無いって事ね。妖怪の癖に博麗の巫女に歯向かうなんて上等じゃないの。
 でもね、これだけは言わせてもらうわ―――」
「なる程、やる気みたいね。でもいかに博麗の巫女とはいえ、愛に目覚めた今の私に勝てるかしら?
 分からない様だから、何度でも言わせてもらうわ―――」

「「魔理沙(の貞操)は私のものよ!!」」



「あの~、お2人とも………」
「「何よ!!?」」

うわ、怖っ。2人揃ってこちらに振り向き、血走った目でギロリと睨んでくる。
まったく、私は善意で止めてあげたんですから、そんなに睨まないで下さいよ。

「い、いえ、その、後ろをですね」
「「え?」」

今度は揃って反対を向く。………見事なシンクロ、この2人結構息があってるんじゃ?
2人が振り向いた先には

「………………………」
「「ま、魔理沙!?」」

現在(一部で)人気沸騰中、三角関係の渦中の最後の頂点、霧雨魔理沙その人ですね。ついでにその他の宴会の参加者も
集まって来ています。そりゃ、あれだけ大声出してればねぇ………。
魔理沙さんは………一目見て茫然自失の状態と分かりますね。まぁ、そりゃショックでしょうよ。長年供にいた友人と
最近知り合って良く世話を焼いてくれた友人が、公衆の面前で自分の貞操を賭けて争っていたんですから。

「お、お前ら………」
「あ、ち、違うのよ魔理沙。その、ね、今のはお酒の上の冗談、っていうか………。え~と、ともかくその、そういう
 わけなのよ。あ、でも魔理沙が心配だったのはホントよ、嘘じゃないわ。
 だからお願いだからそんな目で見ないで、ああ、なんかクセになりそう………」
「そ、そうよ、そう言う事なのよ、魔理沙。私はちょっと霊夢のおふざけに付き合ってあげてただけなのよ。だからね
 貴方をどうこうしようなんて、これっぽっちも考えてないわけじゃないけど考えてなかったと言っておくわ。
 ね、そういう訳だからその目をやめて頂戴、………ちょっと気持ちいいから」

あー、魔理沙さんの見下すような視線を受けて身悶えしているこの2人が、幻想郷を維持している人間と妖怪だと言った
ところで、誰も信じてくれないでしょうね。集まった皆さんも茫然としてます。文さんだけは写真撮ってますけど。
あ、観衆にチビッ子達はいないみたいです。先程藍さんや慧音さん達が向こうに連れていきましたから、ご安心下さい。

「ほら、阿求。お前も向こうに行っていろ」

私も慧音さんに引きずられて行きそうになりましたが、何とか踏み止まりました。あの人は悪い人じゃないんですけど
どうにも私を子供扱いしようとしていけませんね。

さて、そんな事より魔理沙さんはこの2人に対してどういう答えを返すんでしょうね。
私なら、そうですね………ま、このまま一生下僕として仕えさせますかね。本人達も満更じゃなさそうですし。

「あ~、霊夢。えっと、その、なんだ、いろいろ突っ込みたいところはあるんだが、まあ私の事を思っての行動だし
 私は咎めたりはしないぜ………たぶん」
「………魔理沙…いいのよ。私、あなたとなら突っ込む方でも突っ込まれる方でもどっちでもオーケーよ」
「いや、それは置いといて。紫も」
「はい、なあに魔理沙」
「その、お前がいろいろ企んでたのはショックだが、今まで世話になったのは事実だからな。それに免じて今回の事は
 チャラにしてやるぜ」
「あら、ありがとう。やっぱりいい子ね、貴方。私は妖怪だけど貴方になら食べられてもいいわよ」
「いや、それも置いといて。
 ま、そういう訳だから、2人とも今日の事は忘れて、また明日から今まで通り普通の関係でやってこうぜ」

そう言って笑顔を見せる魔理沙さん。………上手く締めましたね。
それにしても、自分の事あんな風に思っていた相手と、また明日から普段通りに付き合うんですかね、この人は。
………付き合うんでしょうね。それが魔理沙さんの良いところなんでしょうし。きっとこの2人もそんなところに惚れた
んじゃないですかね。

「「魔理沙………」」

その言葉を聞いた2人は嬉しそうに魔理沙さんの名を呼び

「「それはつまり、今夜は好きにしていいって事よね」」

そろって邪悪な笑みを浮かべました。

「え!?ま、待てよお前ら。そういう意味じゃなくてな………」
「だって“明日から”でしょう?」
「そうよねぇ、言いかえれば今夜は普通じゃない関係でやろう、って事よね」
「いやいや、だから違っ………お、おい待てよ2人とも………」

ま、惜しむらくは相手が話しが通じない程に逝っちゃってたって事ですかね。ご愁傷様です。

「魔理沙ぁ~」

目を爛々と輝かせ、鼻息荒く迫る霊夢さん。

「ふふ、さあ、お姉さんといいコトしましょ」

妖しい流し目を送り、舌なめずりしながら迫る紫様。
そんな2人の前にさすがの魔理沙さんも成す術も無く―――

「ちょぉっと待ったーーー!!!魔理沙とのアレやらナニやらの話をするっていうのにこの私を呼ばないなんて、貴方達
 どうかしてるんじゃないの!!?」

そんな2人の前に何処からとも無く人形遣いアリス・マーガトロイドさんが現れ、立ち塞がりました。
いやいやそれよりも貴方の方がどうかしてるんじゃないですか。というかこの人宴会に来てましたっけ?

「ちょっとアリス、あんた宴会に来てなかったのに何処から湧いて出たのよ?」
「愚問ね。魔理沙の帽子に仕込んだ盗聴器で魔理沙のピンチを知って、慌てて飛んで来たに決まってるじゃないの」

すげー、彼女にとって当たり前なんだ盗聴器って。
私も1個欲しいですね。いや、取材に使うだけですよ、ほんと。

「それより、私が来たからにはもう大丈夫よ魔理沙。何も分かっちゃいないあの2人に、私がビシッっと言ってやるわ」
「お、おお」
「いい事、そこの2人。さっきから聞いてれば貴方達は自分の気持ちを押し付けてばっかりで、魔理沙自身のの気持ちを
 全然分かってないじゃないのよ。今大事なのは貴方達がどうかよりも、魔理沙がどうしたいかでしょう?」
「「だって私の方が魔理沙と………」」
「だってじゃないの!!」
「「………………」」

至極真っ当な事言ってますね、この人。登場時と今のこの人は本当に同一人物なんでしょうか。密かに人形と入れ替わっ
たとかじゃないでしょうか。

「まったくもう。だいたいねぇ、魔理沙が貴方達のものなわけないでしょ。魔理沙が好きなのは、この私なのよ!!」
「………おーい、アリスさん?」
「ほら、必要無いだろうけど短冊も持って来てるのよ」

あ、同じ人ですね。しかし短冊を持って来るなんて、律儀というか何と言うか………。一体何書いたんでしょうか。

『魔理沙が1/1魔理沙人形の型取りをさせてくれますように アリス・マーガトロイド』

………………えーと、良く分かりませんが何やらすごいお願いというのは分かりました。
何故ならこれを見た霊夢さんも紫様も、私同様に一瞬固まったからです。この2人を一瞬とはいえ怯ませるとは、この人
中々やりますね。
魔理沙さんは…既にアリスさんからも離れて成り行きを見守っていますね。早く逃げた方がいいんじゃないでしょうか。
あ、でも下手に逃げ回って幻想郷中にこの争いの事が知れ渡ったら、もうおいそれと出歩けなくなりそうですね。

「さあ、そういう訳だから魔理沙の事は私に任せて、大人しく尻尾を巻いて帰りなさい」
「何が『そういう訳だから』よ、この変態!!つーか、そもそもここは私の家よ。帰るならあんたが帰りなさい」
「そうよ、まったく何を言い出すかと思えば………お人形遊びなら1人でやってなさいな、お嬢さん」
「ちょ、ちょっと、何でいきなり2人掛りで私に向かってくるのよ。今までの流れ通りなら、ここは三つ巴でしょう?」
「別にそんな事はどうだっていいじゃないの」
「よかないわよ!!三つ巴状態からあんた達2人を戦わせて、漁夫の利を狙う作戦なんだから」

ああ、そうか。どうりでこの2人に対して自身満々かと思ったら・・・・・・・・・。

「「へ~え」」
「え、あ、その、だって仕方ないでしょ?そうでもしなきゃ、あんた達に勝てないじゃないのよ!!」
「ま、いいんじゃない。でもね、こういう戦いでの鉄則が合ってね」
「そう、こういう時には」
「こ、こういう時には?」
「「弱い者から順に潰していくのよ!!」」
「きゃ~~~!!」

………ま、そうでしょうね。さようならアリスさん。貴方の人形劇は嫌いではありませんでしたが、如何せん相手が
悪過ぎましたね。

「………待ちなさい」
 
おや、まだあの2人に立ち向かう人がいるんですか。驚きです。
どなたでしょうか、声が小さかったので良く分かりませんでしたが………。

「同じ魔法使いとして、その子に加勢させてもらうわ」
「パチュリー!?」

パチュリー…パチュリー・ノーレッジさん。紅魔館の客分で図書館の主のような方です。私もあの図書館には興味が
ありますから、彼女とはお近付きになりたいですね。同じ病弱っ娘どうしですし。
たしかに彼女がアリスさんに加勢すれば、あの2人とも渡り合えそうですけど………。

「あら、あなたが出てきたところで何も変わらないわよ」
「そうね、それにその子も貴方にとっては敵なんじゃなくて?」
「………たしかにそうかもしれないわ。でも、完全に敵とも限らない」

…おや、いつの間にか、パチュリーさんの手には1枚の紙片があります。あれが彼女のスペルカードでしょうか。
えーと、何が書いてあるんでしょうかね………と。

『魔理沙に本の賃料を体で払って貰えますように パチュリー・ノーレッジ』

………って、短冊じゃないですかあれ。しかも何だか闇金みたいな回収方法が書かれてますよ。さすが魔女。

「アリス、貴方は魔理沙の人形を作るために彼女のサイズを知りたいのよね?」
「ええ、そうよ。全身のありとあらゆるトコロを測って、完璧な人形を作るつもりよ」
「なら、測ったあとの中身は貰ってもいいわよね」
「いいわよ、人形ができればそれでいいし」

え、そうなの!?中身を愛してるから人形が欲しいんじゃなくて、人形が欲しいから中身を求めてたんですか?
………すごいですね、これが人形マニアというものですか。常人には理解できない域に達してますね。

「そういう事なら交渉成立ね。あの2人を倒して魔理沙を手に入れるまで、力を合わせて戦いましょう」
「ええ、七色の人形遣いと七曜の魔女の力をあの2人に見せてやりましょう」
「くっ………まさかこんな展開になるとは」
「あの人形遣いの事を少しばかり読み違えていた様ね………」

紫様でもアリスさんの頭の中身は理解不能な様です。ま、理解したくも無いですけど。
ともあれ、これで戦力的には互角になった感じですね。霊夢さんと紫様は別にコンビという訳ではないようですから。

ああ、暢気にそんな事考えてる場合じゃないですね。早く逃げないと巻き添えになりそうです。
………逃げると言えば魔理沙さんはどうなさったんでしょうかね?ええと………あ、いらっしゃいました。黒いので
見づらいですが、先程よりもさらに離れた位置で小さくなって震えてます。あ、誰かが魔理沙さんに駆け寄って声を
掛けてますね。ええと暗くて見え難いですけどあの方は………

「ふふ、こんばんは。何だか盛り上がってるみたいじゃない」
「幽香!?あんたまで何しに出てきたのよ」

おや、新たな乱入者でしょうか。幽香、といえば風見幽香さん。花を愛する極悪妖怪で、邪魔する者気に入らない者が
いれば、相手が誰でも容赦無し。
と幻想郷縁起には書きましたが、あの評価は彼女自身の希望によるもので、実際のところはちょっと虐めっ子なだけの
いい人だと思います。太陽の畑で妖精に絡まれている私を助けてくれたりしましたし。

「何しに、ってそうね。短冊を飾りに来た、っていうのはどうかしら?」

そう言って取り出した短冊に書かれた文字は

『花を咲かせるだけでなく、たまには花を散らせてみたい。魔理沙の花を 風見幽香』

………ま、ここまでくれば予想通りですけどね。でも、この方魔理沙さんと接点あるんでしょうか?

「幽香、あんたが魔理沙といたのは昔だけでしょ。その後は最近まで会ってもいなかったらしいじゃないの」
「そうよ、私がこっちに来てからはそんな様子は無かったはずよ」

あ、霊夢さんは知ってましたけど、アリスさんも以前からの知り合いみたいです。過去に何があったんでしょうね。
それはともかく、この2人の言葉からも彼女と魔理沙さんの接点は無いように思えますが………。

「あら、私は割とよく魔理沙のそばにいたわよ。あの子は気付いてないみたいだったけど」
「「え!?」」
「昔ね、そう貴方が初めて魔界からやって来たすぐ後くらいの事だけど、私は魔法を覚えたくなってあの子の後を
 付け回してたことがあるのよ」

おおぅ、今度はストーカーさんですか。さすが幻想郷、もうなんでもありですね。

「でもね、どうもバレバレの尾行だったらしくて………。結局、逆にレーザーパクられちゃって。あ、今となってはそれ
 自体は全然構わないのよ。むしろ嬉しいくらいだわ、だって私の技に“恋符”なんて付けてくれたんだもの、ふふふ」
「………………私のノンディレクショナルも“恋符”だけどね」
「ま、それはともかく、当時の私はそれじゃ収まりがつかなくてね。今度こそは見つからない様に、ってずっとあの子の
 後を付け回していたの。そうしているうちに、だんだんと気付かれない様になっていってね、魔法も覚えたんだけども
 何だか付け回すのが癖になっちゃてて止められなかったのよ。それで、ずっとあの子のそばにいた、って訳よ。
 どう?さすがに今は四六時中付けてるわけじゃないけど、それでも“一緒にいた時間”ならこの中では1番よ」
「く………」
「それに大切な物を奪われた、って言う事なら、そこの魔女さんとも同じ条件だし」
「む………」
「人形遣いはいいとして………」
「え?ちょっと………」
「そういう事だから、魔理沙は私のものよ。同じ妖怪なら、そこのスキマより強い私の方がいいに決まってるしね」
「………………待ちなさい、それは聞き捨てならないわね。誰が誰より弱いって?」
「あら?もうボケたのかしら?やっぱり寝てばっかりじゃ駄目よねぇ」
「貴方にだけは言われたくないわね、それ。むしろ貴方の方こそ頭の中に向日葵でも咲いてるんじゃなくて?」
「あら、やっぱりボケてるのね。ふふふ、いいわ。そのボケた頭をカチ割って中身を洗ってあげるから」
「その言葉、そっくりお返し致しますわ。頭に咲いた向日葵の種を掻き出して、鼠の餌にでもしてやるわ」
「「うふふふふふふふ………」」

やばい、やばいですよ、これは。今までとは段違いにやばいです。この2人が戦ったらこの辺りの地図を全面的に改訂
しなきゃならなくなりそうです。早く逃げなきゃ、つーか今から逃げても巻き添え必至。なんとかしなくちゃ…と言った
ところで私じゃどうにもできませんよ、なんの力もないですし。
こうなったら誰か………って誰もいない?逃げた?私を置いて?
ええと、もう神様、仏様、何なら悪魔でもいいんで助けてください、お願いします。

「ちょ、ちょと~紫~、待ちなさいよ。そっちの人も、ちょっと待って」
「幽々子様~危ないですってば~」

おお天の助け、いや亡霊なので冥府の助け?ともかく、亡霊の姫、西行寺幽々子様が間に入って下さいました。
彼女なら力量的にも十分ですし、何より紫様とは御友人同士なので説得も可能でしょう。

「なあに、幽々子?今ちょっと忙しいんだけども」
「いえね、私まだ短冊飾ってなかったから」

………なんだそりゃ、なんたるマイペース。あの半人半霊の苦労が偲ばれます。
でも、場の緊張が緩んだので事態は多少の好転を見たんでしょうか。

「ちょっと、そんな事で私達の邪魔したっていうの?」
「いいじゃないの、せっかくの七夕なんだし」
「はぁ、幽々子は相変わらずね。で?どんな願い事をするつもり」
「ほら、これよ。妖夢、吊るして頂戴な」
「はい、かしこまりました。ってこれは………!?」

『霧雨魔理沙を食べたい―――勿論、食的な意味で 西行寺幽々子』

えーと、泥沼化?
しかしこんな時でも「亡霊って人間を食べるものなのか?」という疑問に対する答えを知ろうとこの場に留まり続ける
知識人としての私の性が憎い。

「ちょっとちょっと、何よこれ!?」
「え~?何って言われてもね~」
「なんであんたが魔理沙を………?それに“食的”って何よこれ?」
「あの、幽々子様。私にも分からないのですが、どうして霧雨魔理沙を?」
「いいこと妖夢、あの満月の欠けた夜をよく思い出してごらんなさい。蟲、鳥、獣ときて次は龍だと言った私達の前に
 現れたのは彼女でしょう?」
「はあ、でも幽々子様はあいつを龍料理ではないとおっしゃってませんでしたか?」
「いやいや妖夢。後で聞いた話しなんだけど、小鬼の騒ぎの時にあの魔法使いが使ったスペルに“ドラゴンメテオ”と
 いう名前のがあったらしいのよ」
「え、えと、ではそれが………」
「ドラゴンというのは龍のことらしいわ。つまりやっぱりあの子が龍料理だったのよ!!」
「な、なんだってー!!」

………ちくしょう。命がけで留まった答えが単なる駄洒落かよ。割に合わねー。
最期の記憶がこんな下らない駄洒落で終わる人生なんて嫌だ。だれか助けて、へるぷみー、えーりん。

「はい、呼びました?」

うぉ、ホントに来たよ。さすが天才薬師、八意永琳。この人ならきっと何とかしてくれる気がする。
後ろにいる彼女のおまけたちも多少は助けになるだろう。

「………ねえねえ、ちょっと永琳。この娘なんだか失礼な事考えてるような気がするわ」
「いえ、そんな事ないですよ」
「そうですよ、姫は気にしすぎですって」
「そうかしら?イナバはどう思う?」
「えっ、あ、はい、私もそんな事はないと思いますよ。思いますんで、早く帰りましょうよ………」
「だめよ、まだやる事があるんだから」
「そんな事おっしゃられても、ここは危ないですって」
「安心しなさい。私と永琳なら何があっても大丈夫よ。それこそ死んでも大丈夫」
「私は死んだら終わりなんですってば~」

危ない危ない。このお姫様は中々鋭い。兎―――鈴仙が上の空で助かりましたね。
………それにしても「死んでも大丈夫」ってどういう事でしょうかね。ってああ、また逃げそこなってしまう………。

「で、あんた達も短冊?」
「ええ、そうよ。よく分かったわね」
「いや、もうここまでくればね。で、願い事はやっぱり魔理沙の………?」
「すごいわね、貴方。予知能力でもあるのかしら。ほら、私のはこれ。永琳とイナバのも一緒に飾るわね」

『霧雨魔理沙が蓬莱の薬を飲んで、ずっと私の暇潰しにつきあってくれますように 蓬莱山輝夜』
『姫の願いがかないますように 永遠に使える人体実験用の被験者が欲しいので(兎はもう十分) 八意永琳』
『姫の願い事と師匠の願い事がかないますように 兎以外の座薬の的が欲しいです 鈴仙・優曇華院・イナバ』

先程の食物連鎖以来の三身一体コンビネーションアタックです。“蓬莱の薬”というのがどういうものかは分かりません
が、おそらくそれが『死んでも大丈夫』の元なのでしょう。そしてお姫様の願い事がかなえば他の2人の願い事もかなう
という連携プレイは見事の一言です。

………そして、相変わらず私の命は風前の灯です。
これだけの面子が集まっている以上、もう彼女達を止められる存在は他にいないでしょう。
皆さんの間で緊張が高まっていくのが私にも分かります。それとともに始まる私の死へのカウントダウン。
そして、

「わー、みんなーどうしたのさ?ほら、せっかくの宴会なんだから、飲んだ飲んだ!!」

いつものように酔っ払った鬼が空気を読まずに乱入し、極限まで高まった緊張が弾け―――――――――





気が付くと、私は慧音さんに抱えられて夜空を飛んでいました。

「む、気が付いたか。体はどうだ?何処か痛むところは無い?」
「頭が少しくらくらしますが、他は特に………」
「そうか、間に合った様で良かったよ。逃げた様子が無かったから、慌てて引き返したんだ」
「………慧音さんが助けて下さったのですか?」
「まあね、かなり際どいタイミングではあったけど」

暗いので気が付きませんでしたが、よく見ると慧音さんの服はあちこち破れ血が滲んでいます。

「あの、申し訳ありませんでした」
「…まったくだ。だから離れているように言っただろうに」

ああ、あれは私を子供扱いしていたのではなく、身を案じてのことだったのですね。
私は心の中でもう一度「すみません」とあやまる。

「ん?どうした、やはり何処か痛むか?」
「いえ、そういうわけではありませんのでご心配なく。それよりも、このご恩はいずれ改めてお返ししますので………」
「ははは、私が勝手にやった事だから、別に気にする事ではないさ」
「しかし………」
「いいって。そんな事より、せっかく神社まで出向いたのにあんな事になってしまって残念だったな」

あんな事―――後方に見える神社のあった辺りから立ち上るキノコ雲、の方をちらりと見て慧音さんがおっしゃいます。
まあ、実際のところ当初の目的は半分も達成できなかったと言っていいでしょう。
でも………

「でも、私はそれほど残念でも無いですよ。新しい目標も出来ましたし」
「ほう、そうなのか?」
「ええ」

今回の事で私が反省すべきは、少々急ぎすぎたという事でしょう。
人と妖怪の新たな関係を模索するにしても、いきなりあんな人外魔境に飛び込むのは無謀過ぎました。
ハッキリ言ってあの人達の事を理解したところで、それが他の一般の妖怪達に当てはまるとはとても思えません。
そんな連中よりも、普段身近にいる方々―――例えば今回見を挺して私を助けて下さった慧音さんのように、今現在
人と共存しようとしている妖怪達の事を改めて見なおしていくのが大切なのではないでしょうか。
たしかに未来を見るのは素晴らしい事ですが、やはりそれも今があっての事ですし。
差し当たって私としては、この慧音さんの事をもっと知ってみる事にしましょうか。今まではどうも苦手意識があったん
ですよね、この方には。本能的な部分で相容れないというか………。
でも今日からは新しい関係が築けそうな気がしますよ。さて、何を聞いてみましょうか。んー、そうだ、せっかくだから
最初に戻ってこれを聞いてみましょう。

「あの、慧音さん、1つお聞きしても宜しいでしょうか」
「ん、何だ?」
「慧音さんは短冊に何と書かれたんですか?」
「えぇ!?あ、いや、ははは。えーと、特に大した事じゃないさ、うん。それに結局飾れなかったしな」
「あれ、そうなのですか?」
「ああ、飾ろうとしたら折り悪くあの騒ぎになってな」
「なる程。あ、ではまだ短冊はお持ちになったままなのですね。えーと、この辺りのポケットですかね」
「こ、こら!!何してるんだ、お前は!!勝手に人のもの盗ろうとするんじゃない!!」
「いいじゃないですか少しくらい。んー、ないですね。なら、こっちですかね」
「こら、やめろ!!危ないから動くな!!落ちたら大変だぞ!!」

ま、そんな事いわれても、知的好奇心>身の危険 なのは知識人の性ですしね。
あれーこっちにも無いですね。後は………あ、いや、あったあった、ありましたよ。ポケットの奥でクシャクシャに
なってました。引っ張り出してみましょうね。
それにしても何書いたんですかね。あんなに抵抗するって事はよっぽど恥ずかしい事なんでしょうか。楽しみです。

「あ、おい!!止めてくれって、お願いだから。なあ!!」
「慧音さん、危ないですからちゃんと支えていて下さいよ」
「あ、すまん………じゃなくて!!」

残念ながら、私を抱えている事で両手が塞がっている慧音さんには私を取り押さえる術もありません。
頼みの綱の頭突きにしても、私が胸元にしがみついている位置関係上ここまで届きませんし。
ふむ、やはりこの紙が短冊ですね。
えーと、なになに

『caved!!!! ニア阿求 けーね』

………………………………………………。

「みぃ~~たぁ~~~なぁ~~~~」

世にも恐ろしい雄たけびと供に、慧音さんの姿が変わっていきます。半獣の方の変身シーンを見るのは初めてですね
参考になります。しかし変身すると服の色が変わるのはどういった原理なんでしょうかね。何処からともなく現れた
角のリボンの事とともに、今度聞いておきましょう。
しかし、今日が満月だったなんて………慧音さんが普段の姿のままだったので気付きませんでしたよ。もしかしたら
私を怖がらせない様に気を使ってくれていたんですかね。短冊は変身した状態で書いたみたいですし。

え?なんでそんなに落ちついているのかって?
だってこの状況じゃもう逃げられないでしょう?それに今日だけで何度も死にそうな目にあったんで感覚が麻痺して
るんじゃないでしょうか。特に驚きも恐怖も感じません。ああ、でも痛いのはやだなぁ。

「さあ、阿求。覚悟はいいか?先程言っていた恩返しの件、お前の体で払ってもらうぞ」

これが私の追い求めた人間と妖怪の新たな関係なんでしょうか。
そんなの嫌過ぎますね。だからといって今更どうにもなりませんが。
そろそろこうして語る事も出来なくなりそうなんで、最期に私も願い事でもしてみましょうか。
えーと………

『はやくお尻の傷が治りますように 稗田阿求』

caved!!!!
















同時刻、紅魔館。

満月の光が差しこむ部屋のベッドの上、霧雨魔理沙が眠っている。
その金髪を優しく撫でるのは、この部屋の主でもある十六夜咲夜。
月光に照らされた2人の少女は、さながら絵画から抜け出して来たようだ。

………もっともベッドがやたら乱れていたり、周りに丸めたティッシュが散乱していたり、ついでに2人そろって全裸
だったりするのでいろいろ台無しだが。

しかし、本人達にはそんな事は関係無い。
咲夜にしてみれば、数多のライバル達を出し抜いて念願の魔理沙をゲットして美味しく頂いたところであるし、魔理沙の
方も、あの状況下から助け出してくれた咲夜に対する吊り橋効果もあってか、彼女にすっかり身も心も任せきっていた。

ひとまずガウンを羽織った咲夜は、スヤスヤと寝息を立てる魔理沙の寝顔を見つめ1人ほくそ笑む。

「ふふ、まさかここまで上手くいくとはね。お嬢様には感謝しなくっちゃ」

その言葉を聞いていたかのように扉がノックされ、少し間を置いて1人の少女―――お嬢様、レミリア・スカレーットが
入ってくる。

「あの………咲夜。え、と上手くいったのね。おめでとう………って言うのかしら」
「はい、ありがとうございます。これも偏にお嬢様の能力の賜物ですわ」
「そ、そう、役に立ててなによりだわ。でね、満足したなら、そろそろあの子を返して欲しいんだけど………」
「ええ、いいですよ。少し待っていて下さいね」
 
そう言うと咲夜は部屋の隅にある衣装箱の方へ歩いて行き、蓋を開け中から何か大きな物を取り出す。
それは………

「フラン!!」

ぐったりとしたまま動かない、フランドール・スカーレットの体―――

「ああ、フラン。無事で良かったわ」
「お嬢様、せっかくお喜びのところに水を差す様で申し訳無いのですが………」
「何よ!?もうフランは渡さないわよ。今度こそ貴方の手の届かないところへ仕舞っておくんだから!!」
「いえ、そうでなく………人形遊びも程々にしておいた方が良いと思います」

――――――ではなく、彼女を模した等身大の人形だった。通称“フラン・ドール”(命名:レミリア)

「い、いいじゃないのよ!!だって生のフランは私に見向きもしてくれないのよ、私だって寂しいのよ。 
 だいたい貴方だって、ついこの前まで同じような事してたくせに」
「でも、今は本物がいますし」
「それだって、フランを人質にとって私に無理やりそういう運命を作らせたんじゃないのよ」
「ふっ」
「な、何よ!!その勝ち誇ったような笑いは!!」
「そのままの意味ですわ、お嬢様。勝てば官軍と申しますし」
 
最早今の咲夜とレミリアの関係は、ただの主従ではなく勝ち組みと負け犬といった感じになっている。どちらが
どちらかは言うまでもないだろう。

「ほら、お嬢様、あまり騒がれると魔理沙が起きてしまいますから、お部屋へお戻りになって1人遊びに励んで
 くださいまし」
「う、うぅ、うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁんん。フラン~~~咲夜が虐めるの~~~」

フラン人形に向かって泣き喚きながら廊下を走り去るレミリアを見送り、咲夜は扉を閉める。
そして部屋の中へ視線を戻し………

「今晩は、咲夜」
「い、妹様!?いったいいつの間に………?」

魔理沙の眠るベッドに腰掛ける、フランドール(本物)が声を掛けてきた。

「今だよ、お姉様が行っちゃった後。…そんな事より咲夜」
「は、はい」
「なんで魔理沙がここにいるの?」
「その、魔理沙がいろいろな連中から狙われてたので匿っていたのです」
「じゃあ、なんで魔理沙は裸なの?」
「え、えーと、魔理沙の服を洗濯したのですけど、代えになるような服が無くて………」
「ふーん、じゃあなんで―――」

そこで言ったん言葉を切ると、フランドールは魔理沙の首筋にカプリと噛みつく。
そして再び咲夜に向き直り

「―――魔理沙の血の味が今までと違うの?」
「ひっ!!」

恐怖の権化のような形相で睨みつけられ、思わず後ずさる咲夜。

「ダメだよ咲夜、魔理沙は私のなんだから勝手に弄らないでよ」
「あ、あのですね。妹様………」
「イタズラする悪い子にはお仕置きしないとね」
「ですから私の話しを………」
「お仕置きって言ったら、お尻ペンペンだよね」

レーヴァンティンを掲げ、ニコリと笑うフランドール。どうやらこれで尻叩きを敢行するらしい。

「妹様!!ま、待って、待ってください!!それはあまりに無茶です!!」
「行くよ~、せーの………」
 
振り下ろされるレーヴァンティンを前に、咲夜はお仕置きが終わったら七夕の願い事をしようと心に決める。
願い事は勿論………

『はやくお尻の傷が治りますように 十六夜咲夜』

滑り込みセーフ

………しまった、修正したら時間がずれるんだったorz
くると
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コメント



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9.無評価名前が無い程度の能力削除
時間を見る限りぎりぎりアウトです。
でも私の住んでいる地域は8月7日が七夕ですよ。
13.80名前が無い程度の能力削除
小悪魔と美鈴の連打が一番きました。