Coolier - 新生・東方創想話

ある晴れた日の事

2007/06/25 09:47:47
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 空は蒼く、雲は風に流れ、花はその身に陽光の慈愛を受け、されど穏やかな春とは云い難い、快晴。
 季節は梅雨。雨は天恵みではあるモノの、三日と続けば心の具合が悪くなり、一週間と続けば心がカビていく
――そんな比喩すら適当となってしまう時期だ。煎餅は倍以上の速さで湿気ってしまうし、髪を整えようにも湿
気が邪魔をする。しとしとと響く雨の音は心安らぐものではあるが、我慢出来るのは二日までだ。美人の顔はな
んとやら、雨も三日も降れば見飽きてしまう。
 
 そんな、誰もが心の具合を悪くしているこの季節に広がる晴れ間だ。人はこぞって外へと出掛け、日の恵みに
感謝する。一時の晴れ間が一時であると知っているからこそ、その一瞬を大切にしていく。
 人生とは時間の経過、時間の経過とは一瞬の連続だ。その刹那を大事にしていなければ、きっと人生というも
のはつまらないに違いない。雨が降る日に外へと遊びに行けない子供のような――そんな人生はきっと誰しもが
送りたくはないだろう。
 
「良いお天気ですねー」
 
 誰もが外へと出かけているというにも拘らず、その空間だけが切取られたかのように、静かな草原に二つの影。
 膝枕で休む少女と――それを呆れたように見つめる少女。
 とても絵になる情景ではあるのだが、場違いな画面。
 何故ならそこは、悪魔の住む館の眼と鼻の先。普通の人間であれば立ち寄ろうともしないような、そんな場所
なのだから。
 
「そうね――で、なんで私の膝で眠ろうとするのかしら?」
「いやー、太もも気持ち良いですし?」
「疑問文に疑問文で返さない。減点方式だからマイナスに下方修正ね」
「――いつもながら容赦がないですねー」
 
 呆れたように膝で眠る少女を見つめていた少女の名は、十六夜咲夜。
 うとうとと幸せそうな笑みを浮かべる少女は、紅美鈴。
 
 咲夜は「はぁ」と溜息をつき、空を見上げる。思わず緩んでしまった頬を美鈴に悟られない為に。空は蒼く、
雲は風に揺られ流れて逝く。穏やかに流れて行く時間。
 唐突に降って湧いた休暇を持て余していたところを、奇しくも休日であった美鈴に誘われたのだ。
 曰く、「ワーカーホリック気味の咲夜さんに私からのプレゼントです」だそうだ。
 実際のところは、美鈴もまた暇を持て余していたのだ。休日とは言え昼まで眠って過ごし、怠惰に一日を終え
る――身に染み付いてしまっている習慣は、朝は普段通りに覚醒を促し、日課の演舞を行い、身の回りの細事を
片付けてしまえば、なにをするにしても自由だった。人里に出てウィンドウショッピングなどという選択肢を取
ろうとしていたところ――同じく暇を持て余している咲夜を見つけ、今へと到っている。
 
 咲夜のほうは言うまでもない事だった。時間というものを操る彼女にとって、時間とは常に意識しておかなく
てはならない事であり、意識するまでもなく傍らにあり続けるものであり、無意識の内に従ってしまっているも
の。起床から美鈴に誘い出されるまでの間、寸分違わずいつもと同じ「日常」を行っていた。
 
「それにしても咲夜さん、働きすぎじゃないですか?」
「私がやらなくちゃ誰がやるのよ」
「メイドはいっぱい居るじゃないですか」
「門番を完全に任せられる?」
「えー、あー……」
「……でしょう?」
 
 くすくすと笑い合う。
 
「妖精さんたちももうちょっとしっかりしてくれると良いんですけどねー」
「今の時期に晴れの日を願うようなものね」
「雪の間違いじゃありません?」
「いいえ、晴れよ」
「少しは――」
「期待が持てる、つまりはそう言う事ね。飽きるまでは従順だもの」
「流石紅魔館のメイド長。言う時はびしっと言いますねー」
 
 風が流れるように、二人の笑みは穏やかに通り過ぎて行く。
 久しぶりに顔を出す太陽は何時も以上に張り切っていて、日差しは強い。それでも先日までの雨により、風は
涼やかだから、随分過ごしやすい。
 他愛もない会話が穏やかに流れて行くにはうってつけの気候。
 
「昨日の夜は雷が凄かったですよねー。そろそろ梅雨が明けるって知らせなのかな?」
「洗濯物を干すスペースには困らないけれど、やっぱり天日干しが一番だものね。早く明けて欲しいわ」
「でもお嬢様は陰干しじゃないと怒りますよねー。一度怒られちゃったんですよ、服が熱いって」
「いくらなんでもそれはないでしょう?」
「あっ、判ります?」
「専属だもの、当然よ」
「信頼関係、って奴ですねー。微笑ましいと言うかなんと言うか。お嬢様は最近如何ですか?」
「貴女の冗談を聞いたら減給は避けられないくらいには好調ね」
「――ああ、お元気そうでなによりぃ……」
「安心なさい。別に言いつけやしないわよ」
「流石咲夜さん!」
 
 ヒシッっと抱きつく美鈴。
 ヨシヨシと子供をあやすかのように頭を撫でる咲夜。
 
「む――細いですよね、咲夜さんって。やっぱり」
「そうかしら?」
「ちゃんと食べないと大きくなれませんよー?」
「顔が近い、美鈴」
「今更恥ずかしがるような仲でもないと思いますけど?」
「暑苦しいのよ」
 
 ムギュッと膝に推し戻される美鈴は不満そうに「けちー」などと呟いている。一体何がケチなのだろうか、と突っ
込まないところが瀟洒(?)なメイドの矜持なのだろう、多分。
 
 
 太陽が紅く染まるまでの間、ずっと他愛もない話は続いていた。
 昨日の夕食は美味しかっただとか、図書館で見つけた本の話、妖精メイドたちに対する愚痴や、日常の四方山話。
 何一つとして有益な話ではなかった。何一つとして有益な話ではなかったからこそ、笑い声は絶えなかった。
 
「もう夕暮れ時ね。そろそろ帰らないといけないかしら」
「そうですねえ。戻りましょうか、咲夜さん?」
「だからなんでそんなに顔が近いのよ」
「偶に咲夜さんをからかってみたくて」
「そんな事くらいじゃ私の頬は染まらないわよ?」
 
 紅い赤い夕陽が沈む。
 紅い館へと戻る二人の影は長く、重なって。
 
 そんな、ある晴れた日の出来事。
 えー、初めまして。庵野仲人と申します。
 ヤマもなくオチもなく、どこかでネタ被りがあるかもしれないのですが、こう言うダラダラとした「二人」の
休日が書いてみたくなったので、勢いに任せて書いてみました。
 読んで下さった方には、万の感謝を。
庵野仲人
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コメント



0.700簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
なんか好きな雰囲気でした
3.70名前が無い程度の能力削除
こういう雰囲気いいなあ。
欲を言えば、もうちょっと長くした方がよかったかなと。
7.100名前が無い程度の能力削除
近過ぎず、ベタ付かず、実に良い距離感ですね。
次は是非膝枕の上下を逆に(ぉ
8.無評価庵野仲人削除
 こんな形のレスは書いたほうが良いのか、悪いのか。
 まあ、そんなコトは悩むまでもなく、感想を下さった方には感謝すべきから。
 匿名で評価してくださった方にも感謝を。 
 
>名前が無い程度の能力 ■2007-06-25 02:35:56 様
 
 コメントしていただき有難う御座います。
 雰囲気だけを重視してみただけあって、気に入って頂けたのは嬉しい限りです。
 
>名前が無い程度の能力 ■2007-06-25 10:13:30 様
 
 コメントしていただき有難う御座います。
 えー、どういえば良いのか判りませんが、楽しい時間は速く過ぎ去ってしまうように、休日と言うのは時間的に物足りない、そんな寂寥感が出せればなと思った次第ですので。
 とは言え、読み返すと本当に短いのでもう少し長く書けばよかったと思います。ダラダラと長くするのではなく、密度を上げるように描写すればグダグダな雰囲気も出ないでしょうから。――グダグダでも悪くないかもしれませんが。
 またなにか書いてみるつもりですので、その時はご期待に添えるものを書き上げたいと思います。
 
>名前が無い程度の能力 ■2007-06-26 10:07:00 様
 
 コメントしていただき有難う御座います。
 膝枕の上下を逆に――考えさせていただきますw
 距離感に関しては意識していなかったのですが、気に行っていただけたならなによりです。
 百合っぽいのも嫌いじゃないですけど、こんな感じの方が好きですね。
 
 
 しかし、点数が付くと言うのは面白くて良いですね。なんだか励みになります。
 普段は読まれているかも判らないものばかりを書いていますから余計に。感想も中々もらえませんしね。癖になりそうです。