Coolier - 新生・東方創想話

宝物 4

2007/06/13 05:26:24
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「ん…うん…?」

 アリスは目を開けた。いつの間にか、あの時のことを夢に見てい
たらしい。

「…あー、やな夢見たわ…」

 目をこすりながらアリスはつぶやいた。ここに来るまでそんなに
たくさん歩いた感じではなかったのだが、疲れていたのだろうか。
それともお腹がいっぱいになってほっとしてしまったからだろうか。

「……?」

 自分の肩の辺りにある重みに右を見ると、魔理沙が自分に身をも
たれかけさせてすやすやと眠っていた。背が低めの魔理沙の頭はア
リスの肩の辺りにちょうどよく収まっている。

「いつもこの背の低さを感じないのはその態度の大きさゆえなんで
しょうね…」

 アリスははぁとため息をついた。

 まったく忌々しい、とつぶやきながら目の前に落ちている魔理沙
の帽子を念動力で引き寄せようとして…

「ま、魔理沙!ちょっと、前見て前!」

「…んあ…なんだよ…せっかくいい夢見てたってのに…って…おお」

 いつの間に現れたのか、2人の目の前には小さな石造りの家が建
っていた。

「……どうだみたかアリス。私に間違いはないだろう」

「さっきまで巻物見直してた癖に」

「お、扉に手形のへこみがあるぜ。おそらくここに手を当てるんだろうな」

「…あなたって本当に便利な耳をしているのね…」

 跳ねるように立ちあがって扉にとりつきいろいろ調べている魔理
沙の方に目をやると、片開きのその扉には確かに手を当てるように
なっているへこみがあるように見えた。仕方なくアリスもよっこら
せと立ちあがり、荷物をまとめてから扉に近づく。

「…両方とも右手、か。2人して手を当てろってことかしら」

 本来扉の取っ手がある部分には右手の形のへこみが2つ並んでつ
いていた。

「2人で来いって言ってたからな。まぁそういうことなんだろう」

「うん。…じゃ、いくわよ。せ~の…」

 …と窮屈に身を寄せ合いながら2人が手を当てると、へこみの部
分がぱあっと光り、扉がすうっと内側に開いていった。

「内開きの扉の家ってのも珍しいな」

「いきなりこっちに開いてきても困るでしょ。…それにこんな仕掛
けを扉にしてるんだから、この小屋は挑戦のためだけに作られたも
のみたいだし…」

「……暇人だな…。あの巻物が誰にも解読されないまま終わったら
どうするつもりだったんだ?」

「変人であることは確かね。ミリシスってそんな奴だったっけ…?」

 開いた扉から中に入ると、奥に扉がある部屋となっていた。大き
さはちょうど小屋の大きさと同じくらいだろうか。部屋の内壁は外
壁と同じ石造り。調度品などもなく、石壁で囲まれた殺風景な空間
といった感じだ。窓がないのに明るいのは、魔法がかけられている
せいなのだろう。

「…で、思わせぶりにある石柱…か」

 そして、部屋の中央にぽつんとある、腰の辺りまでの高さの黒い
石柱の前に立って魔理沙はつぶやいた。石柱の前の床には御丁寧に
ここに立てと言わんばかりの白い足跡のしるしがついていた。

 足跡の上に立って見てみると、石柱の上面部には、丸い小さなへ
こみが縦横等間隔に並んでいた。ある特定のへこみに対して特定の
種別の魔力を流すことで、仕掛けを動かすというタイプのもののよ
うだ。

「ん~…」

 へこみの先に巡っている魔術回路を探って、正しい魔力の流し方
を調べようと試みたが、どうやらこの回路、根元の所で閉じてしま
っているらしい。

「…こっちの扉は開かないわね。まぁ開いても外に出るだけでしょ
うけど」

「お」

 …と思ったら、いきなりぱっと回路が開いた。見ると、アリスが
反対側の扉の方を調べていた。

「アリスアリス、ちょっと今立ってる所、なんかしるしないか?」

「え?…あ、白い足跡があるわね」

「おお。じゃアリス、そこに立ち続けてくれ」

「あ…そっちが連動してるって訳ね」

「さすが察しがいいなアリス。んじゃ頼むぜ」

「はいはい了解…これでどう?」

「いいぜ。ちょっとそのままな…さて、と…」

 唇を舌で湿らせながら腕まくりをして、魔理沙は魔術回路に取り
掛かった。


 …2分後。

「ねえ、魔理沙、まだー?」

「ん?もちっと待ってくれ。……ええと、こう……かな?」

 魔理沙は今まで探って得た回路の情報を元に、正しいと思われる
手順で魔力を流していった。

 どばー。

 …すると、天井から落ちてきた水によって、ずぶ濡れのアリスが完成した。

「………」

「おお。なるほど。んじゃ、こう………」

 ごおおおお。

 天井から噴き出した炎によって、くろこげのアリスが完…

「おお、なるほ…」

「なるほどじゃないでしょっ!!」

 かろうじて炎から身をかわし、くろこげにならずに済んだアリス
はだんだんと床を踏み鳴らしながらまくしたてた。

「もう交代よ交代っ!このままじゃ命がいくつあっても足りないわよっ!」

「なんだ。せっかくこれから面白くなるところなのに…」

「私は面白くなくなるの!いいから早く交代しなさい!」

 ごねる魔理沙を睨み付け、びしょぬれになった服を絞りながらア
リスは無理矢理場所を交代させた。

「全く、魔術回路の探索なんて授業で嫌というほど習ったじゃない
の……って、なによ、これ…」

 場所を交代し、早速回路の探索に入ったアリスは、一目見てその
困難さを思い知った。魔力が流れる回路の一部が絶縁されておらず、
そばを流れる他の回路と干渉するようになっている。回路同士の干
渉の影響を考えると、その組み合わせの多彩さにアリスは気が遠く
なった。

「アリス~、ちゃっちゃと頼むぜ~」

「う…うるさいわね!こんな回路すぐ解いてみせるからおとなしく
待ってなさい!」

 スカートから覚え書き用の筆記用具を取り出すと、アリスは慎重
に1つ1つ回路を調べ始めた。外したとはいえ、魔理沙が2分程度
で回路を動作させたというのは神業としか思えなかった。

「……ったく、規格外にも程があるわよ…」

「なんか言ったか~?」

「いいから耳に栓でもしてなさい!今あなたと話す口は私にはないの!」

「そっちからしゃべったんじゃないか…」

 1つ1つ、着実に。それぞれの回路が他の回線に及ぼす影響の度
合いと回路の接続状況を逐一記しながら、アリスは回路と格闘と続
けた。

 ………

 ……

 …

 …そして、30分程が過ぎただろうか。

「お~い、まだか~?」

「…各々の回路の探索は既に済んでるから、後は正しい魔力の流し
方を解析するだけよ。後ちょっとなんだから我慢なさい」

「…んなこと言ったってもう暇つぶしの種もないんだが…」

「さっきみたいに居眠りしてればいいでしょ」

「見てたのかよ…」

 石柱から目を離さずに言葉を交わすアリスを見ながら魔理沙は毒
づいた。今までずっと回路の探索に神経を向け続けていたはずなの
に、こちらの動きが目に入っている。どこに目がついてるんだとい
うこともあるが、それより目を疑うのはその並列思考能力だ。全然
関係のない2つ3つのことを平然と同時に行うことができるその姿
は、目の前のことに集中してしまうと周りのことが一切目に入らな
くなる魔理沙にとって人間業には思えなかった。…まぁ、実際人間
ではないのだが。

「……地獄目」

「なによ地獄目って。…っと。これでいいかな…」

 見直しをして、アリスは自分の計算が間違っていないことを確認
した。

「…待たせたわね。じゃ、魔理沙、行くわよ」

「おう、むちゃくちゃ待ったぜ。とっととやってくれ」

「…『今来たところだぜ』とか言いなさいよ、ったく…。1、23
4……5、6…と。流したわよ」

 タイミングをずらしながら6つの魔力を別々の回路に通し、アリ
スと魔理沙は反応を待った。

「………」

「………」

「………何も起きないぜ」

「あれ…?間違ってるはずは…」

 と。びーびーびーとアラームが鳴り始め、部屋の光が真紅に変わ
った。

「……おお」

「やばっ、間違えた…!?魔理沙っ、そこから離れて!」

「んー?大丈夫だろ?別に何も起きないみたいだし」

 せっぱつまったアリスの言葉に、天井を見上げながら、のんびり
と魔理沙は応える。

「ばかっ!何か起きる前だからアラームが鳴ってるんでしょうが!」

「大丈夫だって。心配性すぎるぜ、アリス」

 そこから微動だにせず、こちらに向かってにかっと笑ってみせる
魔理沙。

「この、大馬鹿っ……!!」

 アリスは魔理沙に飛びつこうと走り出し……

「お、扉が開いてくぜ」

 ずしゃーーーーーー。
 魔理沙の所まで豪快にヘッドスライディングしていった。

「うーむ、これほど見事なスライディングは初めて見た」

「…いたひ」

 ふと気がつくと、アラームも鳴り止んでおり、部屋の光も元に戻
っていた。どうやら、操作を行った後、操作者がその場を離れるこ
とが扉を開く条件だったようだ。

「ミリシスかどうかはわからないけど、この部屋作った奴、ひねく
れ者すぎるわよ…」

「まぁまぁ、扉が開いたんだからいいじゃないか。それより、この
扉、やっぱりだぜ」

「え?あ……」

 魔理沙の言葉に、鼻を押さえながら開いた扉の先に目を向けると、
そこには外の景色ではなく、別の部屋の姿があった。

「別の所に繋がっているというわけね…」

「ああ。ここまで凝った仕掛けをしているということは、ひょっと
するとひょっとするぜ…」

 目をきらきらさせ、頬を紅潮させながら魔理沙はつぶやく。

「ま、ここまでやってスカを引かせるってのはさすがに意地が悪す
ぎだしねぇ…。ところで、さっきはなんでアラームが鳴っているの
にそこから動かなかったのよ」

 服をぱたぱたやりながらアリスが聞く。おそらくかなり長い時間
この部屋に人が入ったことはないはずだが、それでも実際アリスの
服には汚れ一つついていなかった。…いまだ完全に乾いてはいなか
ったが。

「あーそのことか?そりゃ簡単だ。アリスがあれだけうんうん唸り
ながら長いこと考えてたんだ、万が一失敗しても私に危害が加えら
れることはないだろうからな」

「な……ばっ、馬鹿なこと言ったって手に入れた宝は山分けなんだからねっ!!」

「おーい、慎重にいかないと危ないんじゃないのかー?」

 そっぽを向きながらすたすたと次の部屋へと進むアリスを追いか
けて、魔理沙もドアをくぐり抜け、先へと歩みを進めた。


          - * - * -


「~~♪」

「……はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ………」

 …それからいくつかの部屋を越え。長い長いまっすぐな廊下を魔
理沙は意気揚々と、アリスは下を向いたままとぼとぼと歩いていた。
廊下の両側の壁には蝋燭がかかっており、アリスたちが近づくと自
然に灯がともり、通り過ぎてしばらくするとふっと消えるようにな
っており、自分達の周りだけ明るく、その前も後ろも漆黒の闇とな
っていた。そんな中、アリスの疲労困憊した息遣いと、2人の足音
だけが廊下に響いていた。

「おいおいアリス、運動不足なんじゃないか?いくら魔法使いとい
っても体が資本だぜ。部屋に篭って陰気に研究に明け暮れるばかり
じゃなくてたまには外に出た方がいいぞ」

「…はぁ、はぁ…大岩に追われ…蜂に刺され…プールに落とされ…
火にあぶられるはめになったのは…一体誰のせいだと思ってるのよ…」

「ん~………私か?」

「悩むまでもないでしょーがっ!!…げほっ、げほっ…」

「ほらほら、疲れてるのに興奮すると体に良くないぞ」

「はぁ…お…覚えてなさいよ…」

 …などとアリスの罵りを魔理沙がいなしながらしばらく進んでい
ると、両開きの大扉で長い廊下は行き止まりとなった。

「おお、やっとついたか」

「ふぅ…意味もなく長い廊下だったわね…」

 どうにか息を整えたアリスは大きな扉を見上げながらつぶやいた。

「とうとうゴールに到着、だな」

「まぁそうでしょうね。全く演出好きな奴だこと」

「いいじゃないか。こっちも気合が入るってもんだ。さあ、開けるぜ」

 魔理沙が扉を押すと、ゆっくりと、しかしなめらかに両扉が開い
ていった。ふんっと気合を入れ、魔理沙は最後であろう部屋にずん
ずんと踏み込んでいく。

「あ~あ~気合入れちゃって。これだから熱血バカは困るわよね…」

 やれやれを肩をすくめ、首を振りながらアリスもそれに続こうと
したとき、ふと扉の側の左側の壁に赤い文字が浮かび上がっている
ことに気がついた。自分の見間違いでなければ、つい先ほどまでは
なかったはずである。先に扉を通り抜けた魔理沙には絶対に見つけ
られない現れ方だった。


-----

 ここまでたどり着けた者に、私は敬意を表する。申し訳ないが、
ここまでの部屋で再度、君達の実力を試させていただいた。ここま
でたどり着けた君達ならば、少なくとも私の本気の挑戦に対し、全
く歯が立たずに命を落とすようなことはないだろう。そのような機
会にめぐり合えたことに対し、私は神に感謝したいと思う。この扉
を越えた先こそが、私の君達に対する真の挑戦の場となる。

 君はここに来てから今まで様々な試験を受けてきて、私が書いた
「命を賭けた挑戦」という文句ははったりであったという印象を受
けたかもしれない。もしそうであるならば、君は正しい。私は殺人
を好む性癖を幸いなことに持ち合わせてはいないからだ。

 …しかし、それはこの先の部屋でも君達が安全であるということ
は意味しない。

 この先の部屋で、私は本気で君達に挑戦する。それが私の望みで
あり、喜びであるからだ。だから手加減というものは、この先では
存在しない。そのことを心に留め、最後の挑戦を受けて欲しい。


 …それでは、君達の健闘を祈る。

-----

「…………」

 …確かにここまでくるうちに、頭の片隅で、アリスは相手はあま
り本気できていないという印象を抱いていた。ギミックの作動に失
敗したりした時に、致命的な罠を発動させることなどいくらでもで
きたはずなのに、せいぜい大岩で潰しにかかることくらいしかして
こなかったからである。正直、少し気も緩んでいた。

「…………」

 ……一瞬、ここで引き返そうかと思った。今は、いつも身に着けて
いるマジックアイテムは最低限のものを除いて家に置いてきてしまっ
ている。まだまだ十分な余裕はあるものの、ここにくるまでに少し
派手に魔力を使いすぎたということもある。自分の限界、本気の本
気の全力を出すことは今の自分にはできない。

「…………」

 この壁に浮かび上がった赤い文字を見ていると、魔法使いとして
のアリスの真実を見通す力が、自分の全力を出すことができない状
況では、ここで引き返すことこそ賢明であると警告を発してきてい
るように感じてしまうのだ。

 …グリモワールを召喚し、それを使えばおそらくなんとでもなる。

 でも、グリモワールは使いたくなかった。アリスにとって、グリ
モワールを使わされるということは、例えそれで負けなかったとし
ても、使わされたということそれだけで完全な敗北を意味している
ということが一つ。そしてもう一つは、どんなピンチに陥ったとし
ても、もう二度とこの大切なグリモワールは使いたくないという思
いからだった。

「…………」

 …しかし、グリモワール抜きでこの状況を打開できるという感じ
がしない。ここまで来て悔しいが…

「……ねぇ、魔理……」

「おおーい、何してんだよ?この部屋何にもないんだ。早く来て仕
掛けを探してくれ~」

 壁に目を向けたまま呼びかけた声をさえぎられ、アリスは魔理沙
の顔を思い出した。

 得意そうに巻物を自分に見せたときの顔。現れた小屋を見たとき
の嬉しそうな顔。この扉を通り抜ける時の、目を輝かせたわくわく
が抑えきれないかのような顔…。

「………はぁ…やっぱり私はお人好しよね……」

 再度壁をちらと一瞥した後、アリスは扉に向かって歩を進めた。

 …扉が閉まった後も、その赤い文字は消えることなく残り続けていた。


<続く>
続きます。
ぽい
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コメント



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5.703削除
セリフ回しが、中々それっぽいです。
ここからどう話が動くのか楽しみです。