Coolier - 新生・東方創想話

紅の門番

2007/06/04 01:05:30
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中国が弱くてやられキャラだと思う人は読まない事をお勧めします
上記に当てはまらず興味のある方は読んでくださると嬉しいです





























「きゃ~~~!!!」
紅魔館に響き渡る悲鳴。
正確に言えば、紅魔館の門にて響き渡る悲鳴。
「悪いな、今日も通して貰うぜ。」
黒と白の魔法使いが今日もまかり通る。

「へぷちっ!!」
悲しき紅い門番を打ちのめして。
「あうぅ・・・・・・また給料が減るぅ・・・・・・」
地面に叩き付けられたまま紅魔館の門番は嘆く。
「またやられたの?中国。」
そんな門番の頭上から声が掛かる。
「うあ・・・咲夜さん・・・・・・」
紅魔館にてメイド長にして紅魔館の主であるレミリアの側近も勤める十六夜咲夜だ。
「まったく、貴女と来たら・・・・・・これで何度目?」
「あうぅ・・・・・・」

返答はせずに唸る。
と言うか、返答できない。
何故なら既に覚えてないくらい撃破されているのだから。
暫くして、今度は遠くから派手な音が聞こえてくる。

「はぁ・・・図書館に到着したようね。」
黒くて白い魔法使い、霧雨魔理沙の目的はヴワル魔法図書館。
そこにある膨大な数の書物こそが彼女の目的。
以前の紅霧異変の時に訪れた際に目をつけたようで、
事あるごとに、紅魔館を訪れては書物を「借りて」行く。
しかし、実際は図書館の主であるパチュリー・ノーレッジすら撃退して、
「強奪」していくのである。
彼女曰く、
「お前達は私よりも寿命が遥かに長いんだから、私が死んでから回収すれば良いだろう。」
との事だ。
彼女の言う事も一理あると言えなくもない。
確かに、本の所有者であるパチュリーは既に人間よりも遥かに長生きしており、
これからもまだ生き続けるだろう。
しかし、だからと言ってその道理がまかり通るかといえば恐らく否だろう。
人間の寿命が虫のように短いならいざ知らず、普通に60年以上は裕に生きる。
いくら長生きするとは言え、魔理沙の年齢を引いても40年以上も貸し出すなど許可できないだろう。
仮に貸し出せるにしても、持ち主から「強奪」するのは許される事ではない。
そのあたりのいわゆる「常識」が霧雨魔理沙には通用せず、
結果、毎度のように弾幕合戦の後に強奪されると言うのが相次いでいる。

「し、しかしですね、咲夜さん。」
「何?言い訳かしら?」
門番、紅美鈴は立ち上がって咲夜に抗議をする。
「仮にも相手は咲夜さんを始め、この紅魔館の名立たる方々を撃退した事のある相手ですよ?」
「だから止められなくて当然だと?」
「当然とは言いませんが・・・・・・もう少し温情を下さりませんか?」
控えめに美鈴は言う。
「確かに、一理あるわね。」
「ですよね!?」
美鈴の顔がパッと明るくなる。

「けど。」
しかし、咲夜直ぐに厳しい表情になる。
「それでも止めて見せるのが門番の役目じゃないかしら?」
「う・・・・・・・」
「それとも貴女は今後ずっとあの白黒を素通りさせるとでも言うつもりなの?」
「い、いえ!そんな事は・・・・・・」
「倒せなくても少しは削ってみなさい。そうすれば本は盗まれずに済むのだから。」
「え?本を盗まれなければ良いんですか?」
「正確には少し違うわ。貴女が削ったおかげで霧雨魔理沙を撃退できたのなら、考えるわ。」
「うぅ・・・・・・難しいですよ・・・・・・・」
「弱音を聞く気はないわ。しっかりやりなさい。ああ、給料はまた引いておくわよ。」
そう言うと咲夜は突然目の前から消えた。
彼女の能力「時間を操る程度の能力」で時間を止めて移動したのだろう。

「弱音・・・かぁ・・・・・・そう取られちゃうんだろうなぁ。」
大きくため息をつきながら美鈴は呟く。
「また給料引かれるのかぁ・・・・・・・」
その後がっくりとうなだれて、再び門の前に立つ。
そして、その日もやはり本は「借りて」行かれたのだった。


「咲夜。」
館内に戻ってきた咲夜は声を掛けられた。
「お嬢様。」
声の主はこの紅魔館の主にして幻想郷でも最強クラスの力を持つ吸血鬼、
レミリア・スカーレットその人だった。

「中国の所に行ってきたの?」
「ええ、また失敗したようなので。」
「まぁ、当然といえば当然よね・・・・・・」
呆れもせずにレミリアは呟く。
「咲夜、正直に思ってどう?中国は門番として有能だと思う?」
唐突にレミリアは尋ねる
「はい。彼女は門番としては非常に優秀だと思っています。少なくとも本来は。」
「あら?解かってるのね。」
「はい。そして現状は彼女にとって厳しいものであるという事も。」
「そうね。今は中国にとってこの上なくきつい状況よね。」
「しかし、そうは言っても罰は罰です。」
「ふぅん・・・・・・ところで、今のあいつの給料って幾らくらいなの?かなり引かれてるようだけど。」
「ご心配には及びません。一週間は食べていけるだけの給料は与えております。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・一週間?」
「はい。」
「咲夜。ウチの給料って月払いよね?」
「はい。」
「・・・・・・・・・・・・一週間?」
「はい。」
「それはいくら何でも・・・・・・」
「いえ、ここで甘くすれば付け上がります。罰は与えるべき時にしっかりと与えるべきです。」
「そ、そう・・・・・・・」
(今度差し入れでも持って行ってあげようかしら?)
心の中でこっそりと美鈴に同情するレミリアだった。


数日後
「わきゃ~~~!!!」
再び吹き飛ばされる美鈴。
「通して貰うぜ!中国!!」
「私は中国じゃありませむぎゃ!!」
抗議の声を上げつつ地面に落下した。

「うぅぅ・・・・・・これ以上給料減るとまずいよぉ・・・・・・・・・・」
既にかなりまずい気もするが。
「はぁ・・・それにしても皆して中国中国って・・・・・・」
体を起こし、顔を上げて空を仰ぐ。
「皆私の名前知ってるのかな?」
はぁ・・・と溜め息をつく。
「咲夜さん辺りに聞いて「知ってるわよ?中華人民共和国でしょ?」とか言われたらどうしよう・・・」
ふふふふ・・・と、他人が見たら間違いなく引くであろう笑みを浮かべる。
「はぁ・・・・・・最近、私全然役に立ってないなぁ・・・・・・」

ズズゥゥゥゥン・・・・・・!!

「あ、パチュリー様もやられちゃったかな?」
呟きながら音のした方を見る。
そしてそれを肯定するかのように空飛ぶ黒いものが図書館から飛び出していく。
「あちゃ~・・・これで減給確実だなぁ・・・・・・」
まるで他人事のように呟く。
すでに諦めの境地に入っているのかもしれない。

「ん?」
そこでふと妙な事に気づいた。
「あの箒・・・・・・」
魔理沙が乗っている箒から煙が出ているのだ。
恐らく無理をしたか、パチュリーの攻撃を受けたかのどちらかだろう。
どの道、あれでは満足に飛行はできそうにない。
そう思っていると、案の定、魔理沙は湖を越えた所にある森へと落下していった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
美鈴はしばし考え込む。
そして、

「ねぇ、そこの貴女。」
「は、はい?」
美鈴は近くに居たメイドに声を掛ける。
「悪いけど、暫く門番代わってもらえる?ああ、誰か来たら咲夜さん呼べば良いから。お願いね。」
「え?え?え?」
頼む、と言うより一方的に押し付けて美鈴は魔理沙が落ちていった場所に向かう。


一方魔理沙は、
「ってて・・・・・・まずったぜ・・・・・・・・・」
地面に座り込んで呟いた。
高高度から落ちたのだ。
ある程度箒を操作して衝撃を和らげられても無事に済む訳はない。
そして「まずった」の一番の理由は怪我や箒の損失でなく、

「こんな所に餌が飛び込んでくるとはな・・・・・・・・・」
人を喰らう妖怪の住処に墜落してしまった事だ。
「餌って言うのは私の事か?」
臆せずに魔理沙は返す。
「お前以外に居るのか?」
「居るかもしれないだろう?」

この窮地を脱する為の策を練るために魔理沙は時間を稼いで見る。
しかし、現実は無情だ。
魔理沙は満身創痍に近い状態の上、魔力の方は紅魔館で殆ど使ってしまっている。
(助かる見込みがあるとすれば、誰かが来てくれる事くらいだが・・・・・・)
絶望的だ。
近くに居ると言えば紅魔館の者だが、普段から荒らしまわってる自分に助けが来るはずなどない。

(まいったな・・・まだまだやりたい事沢山あるんだがな・・・・・・)
魔理沙は現状を冷静に受け入れていた。
即ち、



助からない



という事を。

ガササササッ・・・・・・
「!?」
物音がし、そちらの方を見る。
そして後悔した。

「おいおい・・・私は随分と人気者なんだな?」
魔理沙を喰らう為であろう、更に多くの妖怪が集まって来た。
「お前は名が知れているからな。念には念を入れた方が良いだろう?」
「ったく・・・動けないか弱い乙女によってたかって・・・恥ずかしくないのか?」
この状況において尚強がりを言える魔理沙の精神力は大したものである。
しかし、強がりだけで事態が好転するわけはない。

「遺言はそれで良いのか?」
「ああ、遺言を言わせてくれるのか?じゃあちょっと待ってくれ。」
「どれくらいだ?」
「一ヶ月くらいだ。」
沈黙が走る。
そして









「死ね。」
妖怪がその言葉を発すると同時に他の妖怪たちも一斉に襲い掛かる体制に入る。












「あーーーーーーーーーーーー!!!」




と、突然大きな声が響いた。
全員が一斉にそちらを向く。
「発見発見。」
現れたのは紅魔館の門番、紅美鈴だった。
「中国?」
「中国言わないでください!!」
魔理沙の呟きに素早く反論する。
「はは・・・なんだ?お前も加わりに来たのか?」
疲れたような顔で魔理沙が尋ねる。
「そうですねぇ・・・これだけ妖怪が居るなら私一人増えても問題ないですよね。」
にっこりと笑いながら美鈴は言う。
「顔見知りに殺られるなら悪くない・・・・・・出来れば一思いに頼むぜ。」
魔理沙は美鈴にそう言った。
「なんだ、誰かと思えば紅魔館のダメ門番じゃねぇか。」
魔理沙に最初に話しかけてきた妖怪が美鈴に向かって言う
「実力のほうはアレだが・・・・・・体の方は随分と良いじゃねぇか。」
メスを見る目で妖怪は言う。
「どうだ?こいつを食い終わったら俺様のデザートになってみないか?中国ちゃん。」
そいつを含め、あたりで妖怪たちの下卑た笑いが響く。








ボゴッ!!!

バキャッ!!メキャ!!!

その場に居た者全員が呆気に取られる。
「二つ、忠告する。」
声を発したのは美鈴。
「一つ、私より弱い分際で気安く中国などと呼ぶな。」
魔理沙は驚愕した。
それは自分が見てきた彼女とは全然違うからだ。
「二つ、私は私より弱い男に興味はない。分際をわきまえて発言しなさい。」

気安く中国と呼んだ妖怪は、10メートルを裕に越える距離を吹っ飛ばされて絶命していた。

一撃

腹部に叩き込んだ拳の一撃で木々をへし折りながら吹き飛ばされた。
「ちゅう・・・ごく?」
魔理沙が、本当に本人なのか?と言う意を込めて呼ぶ。
「まったく、ここで貴女に死なれると今日持って行かれた本の回収が難しくなるじゃないですか。」
魔理沙の良く知る「中国」の顔になって美鈴は言う。
「そう言うわけで、紅魔館まで連れて行かせてもらいますよ。」
そう言って魔理沙の方に歩み寄る。
が、

「ま、待ちやがれ!!なに後から来て勝手なこと言ってやがる!!」
周りの妖怪がそれを許さない。
「邪魔するんですか?」
静かに、静かに美鈴は尋ねる。
「何したか知らねぇが、お前みたいな小娘風情に邪魔されてたまるかよ!!!」
妖怪たちが一斉に美鈴に襲い掛かる。


時間を少し遡って、紅魔館
「あら?中国はどうしたの?」
今回の事でまた叱ろうと思っていた咲夜は、対象の者が居ない事に気づいて尋ねる。
「あ、美鈴様でしたら、代わってくれと言って突然森の方に・・・・・・」
美鈴に交代を強制されたメイドが答える。
「森?それは霧雨魔理沙が墜落した方かしら?」
「そ、そうなんです・・・・・・危険なのに・・・」
「危険?」
「はい。何でも近く紅魔館を襲おうと考えている妖怪達が集まっているとか・・・・・・」
「そう。」
「そ、そうって・・・美鈴様危ないですよ!?」
メイドが咲夜のそっけない態度に噛み付いてくる。
「はぁ・・・・・・貴女、中国の事馬鹿にしてるの?」
対する咲夜は呆れたように尋ねる。
「ば、馬鹿にするつもりはありませんが・・・毎回毎回撃破されてる美鈴様では・・・・・・」
「まぁ、そう思うのも無理ないわね。まぁいいわ。丁度良いから中国に始末して来てもらいましょう。」
「え?な、何をです?」
「勿論、その妖怪どもよ。」
「そ、そんな無茶な!!」
「そう思うのは貴女の勝手よ。」
そう言うと、咲夜は背を向け、
「貴女、私やお嬢様が本当に無能な者を門番なんかにさせて置くと思ってるの?」
とだけ言い残して館内へ戻っていった。

紅魔館館内
館内に戻ってきた咲夜は、事の次第をレミリアに告げた。
「そう、中国が向かったの。」
「はい。私が出向く手間が省けました。」
「何かあの辺りに身の程知らずが集まってたみたいね。」
「はい。ですが、中国により一掃されるでしょう。」
「そうね。」
紅茶を飲みながらレミリアは続ける。
「あの娘は決して弱くない。いえ、どちらかと言えば間違いなく強い部類に入るわ。」
「惜しむらくは、博麗の巫女の定めたルール。」

そう、弾幕合戦のルール。
それこそが紅美鈴の最大の枷なのだった。

「気を操り、肉弾戦を主とするあの娘にあのルールは物凄いハンデになる。」
「あまり得意でない遠距離攻撃を強制され、果ては肉弾戦を禁じられる。」
「ええ、それでは勝てる訳はないわ。」
「そして彼女らが弾幕勝負を仕掛けてくる限り応じなければならない。」
「そうね。でなければルール違反。それは決してしてはいけない事。」
「大半の妖怪は博麗の巫女や自分より強い奴にも安全に挑めると喜んでいるけど。」
「中国のような接近主体の妖怪にとってはこの上ないハンデになってしまいますね。」
「そもそも、本来身体能力の高い妖怪に武術の技と「気」なんて物が上乗せされれば強くて当然。」

元来、妖怪は身体能力が高いので、力任せに戦っても人間の手に負えない事が多いのだ。
それだと言うのに、更にその力に「技」と「気」が乗る。
言うまでも無く戦闘能力は飛躍的に上昇する。
もはや、近接戦闘においては人間の手に負えるものではない。

「まぁ、彼女の場合他に特殊能力のような物がありませんから。」
「小手先に翻弄されるってのがあの娘の負けパターンね。純粋な力勝負ならおいそれと負けないわよ、あれは。」
「私も能力無しで中国と勝負と言われたら、勝ち目は薄いですわ。」
「そうね。そう言えば、同じようにあの西行寺の所の小さいのも相当制限されてるわね。」
「中国と戦わせたら案外面白いかもしれませんわね。」
「良いわね、それ。今度あの亡霊姫に持ちかけてみようかしら?」
二人は優雅に会話を続ける。
美鈴が負けるなど微塵も思っていないのだ。


時間は戻って、森
「ゴ・・フッ・・・・・・」
ドザッ
血を吐いて、また妖怪が倒れる。
「つ・・・強ぇ・・・・・・」
魔理沙は動けぬまま、ただただ美鈴の強さに見入っていた。
「ば、馬鹿な!!紅魔館の門番はザルのはずじゃ!!!」
その言葉を発した妖怪の顔面を美鈴の脚が捉える。

バンッ!!

派手な音がして頭が砕け散った。
「く、くそぉ!!」
「ふざけんなぁ!!!」
4体が一斉に、前後左右の四方向から襲い掛かってくる。

美鈴は、正面から来る妖怪目掛けて踏み込むと同時に軽めの掌打。
そして、当てた手を爪を立てるように指を立てて相手の腹を鷲掴みにする。
そのまま振り向く勢いで腹を掴んだ妖怪を、後ろで攻撃を美鈴に避けられた妖怪たち目掛けて投げる。
3体の内、最初に美鈴を後方から攻撃しようとした妖怪が避けきれずに直撃する。
残った二体はお互い今まで進行してきた方向と逆方向に跳んで避ける。
が、その内右から仕掛けてきた方の妖怪は着地するところを美鈴に狙われた。
まだ宙に浮いているため方向転換も何も出来ない。
慣性の付いた美鈴の横蹴りが直撃する。

ゴキメキゴキッ!!!

骨を何本もへし折られて派手に吹っ飛んでいく。
間髪を居れずに、避けたもう片方の妖怪へと接近する。
そちらは既に体勢を整えていたので、真正面から突っ込んできた美鈴に右拳でカウンターをあわせた。

メキャッ!!

「!?」
が、砕けたのは己の拳。
美鈴は顔面に食らったはずなのに全くダメージを受けずにそのまま突っ込んできた。
硬気功。
気にて体を硬質化する方法。
気を操る能力を有す彼女にとっては造作もなく、
そして動きながらでもその効果を発する事は難しい事ではなかった。
そして、妖怪の懐に入り、

ゴギッ!メギッ!ドボッ!!

顔面、胸骨、腹部に素早く三連突きを叩き込む。
音から察するに、明らかに致命的な損傷。
そして、投げ飛ばされた妖怪達が起き上がろうとする前に、

ドボォッ!!!

跳躍してから、思いっきり腹を踏みつけた。
上に居たのはその一撃で致命傷。
下に居たのも、這い出ようとした所を頭を踏み潰された。

「私の名前は紅美鈴。三途の川で死神に死因を聞かれたのなら、この名を持つ者に殺されたと言いなさい。」

殺した妖怪たちを見下ろしながら美鈴は言う。

圧倒的だった。
まるで次元が違った。
曰く、ザルの門番。
曰く、出来損ないの妖怪。
それがここに集まっていた妖怪達が聞いていた紅美鈴の情報だった。
だが、実際はどうだ?
目にも留まらぬスピード。
全てを打ち砕く破壊力。
傷一つ負わぬ鋼の防御力。
どれも一級品の妖怪のそれだった。

勝ち目がない

そう判断した残りの妖怪達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「やれやれ・・・もう終わり?」
対する美鈴は暴れ足りないと言った感じだ。
「お、お前・・・・・・本当に中国か?」
魔理沙が再び問いかける。
「だから中国じゃありませんってば!」
そう言い返してくる美鈴は、やはり魔理沙が良く知る「中国」だった。


「お前、強かったんだな。」
森の中、美鈴に背負われたまま魔理沙が尋ねる。
「そりゃそうですよ。これでも紅魔館の門番を務めてるんですよ?」
「じゃあ、なんで私達と戦う時は手を抜いてるんだ?」
「手を抜く?」
「だってそうじゃないか。あれを見ればお前が強いことぐらい解かるぞ。嫌でもな。」
「それは違います。私は何時だって本気です。なんたって給料が掛かってるんですからね!!」
美鈴は給料のくだりを強調して言った。
「嘘をつけ。じゃあなんで毎回私に負けるんだ?」
「そりゃそうですよ。私は遠距離苦手なんですよ。」
「あ・・・・・・・」

そこで魔理沙もわかった。
弾幕合戦のルールは「如何に美しい弾幕を描くか」だ。
つまり、弾の打ち合いになる。
それは自然、肉体による接近戦の否定につながる。
美鈴は肉体を用いての接近戦タイプ。
弾幕合戦から程遠い存在と言える。
だが、弾幕合戦で挑まれればそれで応じなければならない。
つまり、このルールがある限り、美鈴はいつもハンデを背負って戦わなければならないのだ。
言うなれば、武道一筋で生きてきた侍が将棋で勝負を挑まれてるような物だ。
勝負になるわけがない。
それでも地力がそれなりにある為、ある程度は戦えるが、
やはり本来の力には程遠い。
その結果がこれまでの「ザルの門番」である。
それが解かってるから咲夜もレミリアも美鈴をクビにしないのだ。

「私の本領は気を用いた接近戦です。そりゃ気で体を硬質化もできますよ?」
「だったら使えば良いじゃないか。」
「使ってますよ!でも、肉体防御と魔法防御は別物じゃないですか。それは貴女の方が詳しいのでは?」
「ああ・・・・・・そうだったな。」
単純に考えれば、いくら鋼のように体を硬くしても、火による火傷は防ぎようがないということだ。
「それに博麗の巫女を殺す訳に行きませんから、霊夢さん相手に接近戦なんて絶対出来ません。」
「私はどうなんだ?私は殺したって問題ないだろう。」
「・・・私の主のレミリア様は幻想郷の人間に手を出すことを禁じられてます。」
「ああ、聞いた事があるな。」
「主が禁じられている事を私がする訳に行かないじゃないですか。」
「ああ・・・お前を使ってやったんじゃないかって言われるもんな。」
「はい。ですから、私は人とは例え接近戦を挑まれても加減をしなくちゃいけないんです。」
「なるほど・・・難儀だな。」
「そう思うならもう力ずくで来ないで欲しいんですが?」
「それは無理な相談だぜ。」
「はぁ・・・そして私の給料がまた減るのか・・・・・・」
そうこう話している内に紅魔館にたどり着いた。


「お帰りなさい、美鈴。」
門の前では咲夜が待っていた。
「あ、咲夜さん!こ、これはですね・・・・・・!!」
「説明しなくても良いわ。見れば解かるもの。」
「そ、そうですか・・・・・・」
「よう、世話になるぜ。」
「まったく・・・襲撃している家に助けられるなんて笑い話ね。」
「まったくだぜ。」
笑いながら魔理沙が返す。

「さて、とりあえず今回取って行った物は返して貰うわよ。」
「ああ、構わんぜ。」
助けられた事もあってか、素直に本を返す魔理沙。
「美鈴、お手柄ね。」
「え?いや、それほどでも・・・・・・」
「今回の功績に応じて一旦給料を元に戻してあげるわ。」
「え?ほ、ほんとですか!!!」
美鈴の表情が明るくなる。

「けど、また門を突破されるごとに下げていくわよ。」
「あうぅぅぅ・・・・・・・」
弾幕勝負では分が悪すぎる。
それが解かってるだけに美鈴は来たるべき未来を憂う。
「しかし、何で私を助けるんだ?そっちに迷惑ばかりかけてるのに。」
唐突に魔理沙が尋ねる。
「あら?迷惑をかけてる自覚はあったのね。」
「それなりにな。」
「ちゃんと自覚して欲しいわね。まぁ、それより、その質問だけど・・・」
一旦言葉を切って、そして繋ぐ。
「パチュリー様曰く、張り合いが無いそうよ。貴女が来ないと。」
「なるほどな。じゃあ治ったらまた弾幕合戦しに行くか。」
「あまり調子に乗らないで欲しいものだけど?」
「善処するぜ。助けて貰うわけだしな。」
「少しは期待させて貰うわ。」
そう言って咲夜が美鈴から魔理沙を受け取って医務室へと連れて行く。

しかして、美鈴はついに気づく事はなかった。
咲夜が自分を「中国」でなく「美鈴」と呼んでいた事に。


その後、傷が癒えた魔理沙が再び襲撃に来た。
「わきゃ~~~!!!」
「悪いな!通るぜ!!!」
そして吹っ飛ばされる美鈴。
「あうぅ・・・・・・また給料が・・・・・・・・・」
地に伏して嘆く美鈴。
その眼前に、

ドザッ!

何かが落ちてきた。
「??」
袋に入ってきたそれの中身を確認すると
「・・・・・・袋一杯の米。」

その後、魔理沙は襲撃の度に美鈴に米の入った袋を落していっていると言う。
恐らく、助けてもらった礼と、
給料を減らしている彼女なりの侘びなのだろう。
ともあれ、概ね紅魔館は「平和」である。
しかし、門番の給料は日に日に「恐慌」状態になっているらしい。
今日も紅魔館には門番の嘆きが木霊する。
今回は美鈴の話にしてみました。

妖怪は身体能力が人間よりも高いとの事ですので、そこに更に「技」と「気」が乗れば相当の強さになるんじゃないかな?と思い、今回の話を考えてみました。
彼女も長く生きてるようなので、その技は人間の比ではないと思いますし。

まぁ、勿論レミリアや萃香には到底及びませんが。

好評不評問わず、感想をいただければうれしいです。
華月
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コメント



0.3080簡易評価
5.90時空や空間を翔る程度の能力削除
戦い終えて日が暮れて・・・・・・
美鈴の事を知って気を使う用になった魔理沙
彼女なりに義理を通してますね。
15.100名前が無い程度の能力削除
やっぱり美鈴は可愛くって強くなくっちゃね。細かいところですが、
>下に居たのも、這い出ようとした所を頭を踏み潰された。
「這い出ようとした所で」の方がいいと思いますよ。
紅魔館に幸あれ!
24.50ろびー削除
美鈴SSは好きです。美鈴が強いのは賛成です。名前ネタややられ役は食傷気味です。でも、咲夜さんとお嬢様、美鈴のこと評価しすぎ! いや、強いのはいいんです。いいんですけどなぜかしっくり来ない感じが。何故だ。

>弾幕合戦のルールは「如何に美しい弾幕を描くか」
 弾幕の美しさだけなら、格闘の技量以上に上位クラスの実力持ちだと思うんですがどうでしょう。
55.100名前が無い程度の能力削除
美鈴が強いのは賛成です!! 自分に不利な弾幕勝負ばっかりさせられてても、悲壮感を表に出さずに笑顔を絶やさない大らかさ、心の強さも兼ね備えた理想のお姉さんだ・・結婚したいなぁ 俺が美鈴に勝てるわけが無いから相手にしてもらえないよな~~(泣)
57.無評価名前が無い程度の能力削除
1.弾幕ごっこは挑まれた方が「断る事が出来る。」
2.吸血鬼異変で結ばれた条約は、八雲から人間が供給される代わりに他の人間を「襲わない」事なので、逆に魔理沙が押し込み強盗に来た場合でわざわざハンデをつけて戦うのはどう考えてもおかしい。自衛するなっての?
3.スペカルールは霊夢が楽に異変を解決しようとして考案したもので、全てのイザコザはこれで決着しなくてはいけないなんて決まりはない。
強くて賢い妖怪は幻想郷の存続に便利な為あえてこれをやっている。人間の里は八雲の守護を受けている。吸血鬼は先の約束で人間を襲えない。普通の妖怪達の間では、単純に流行っているのと、風潮として定着しているだけ。
以上の事柄が重なってスペカルールは「妖怪が人間を襲い、人間が妖怪を退治する」手段として幻想郷に浸透しているが、仕事と生活を賭けてまで美鈴が弾幕ごっこに付き合わねばならない義務はない。
69.無評価名前が無い程度の能力削除
また中国か