Coolier - 新生・東方創想話

永遠の苦行。不死の幸福。半獣の懊悩。

2007/05/28 03:59:46
最終更新
サイズ
19.66KB
ページ数
1
閲覧数
850
評価数
10/47
POINT
2620
Rate
11.02
前回までのあらすじ。
輝夜が慧音をおもしろがったり。
妹紅がおかしいんじゃないかと疑問に思ったり。
それでも慧音は妹紅を愛してるんじゃないかと思ってみたり。
そんなお話でした。

以下は輝夜×慧音×妹紅なお話です。それでもこのド阿呆の作品が気になる方はどうぞ一読ください。
                以下月齢一周分先
                   ↓





























狂っていたら狂っていたで、それはそれ。狂気が正気なれば、正気が狂気に見えるだけの話。
そも、正気とは真っ当な人間にだけ適用される言葉であるからして、蓬莱山輝夜というニン
ゲンモドキに用いる意味はない。

長く生きた分、人から見た正気を装う事も出来る。狂っていようと智恵はあるのだから。
上白沢慧音から見れば、蓬莱山輝夜はまさに正気を装った狂人であろうし、藤原妹紅へ疑念
を抱くのも、常識的な思考を持っていれば至極当然。

それでいて直、狂人を愛せるというのならば愛してみるといい。
上白沢慧音が藤原妹紅から、蓬莱山輝夜から受ける感情や印象に耐えうるのであれば、愛し
てみるといい。
例えその先に上白沢慧音が、人間としての精神を保っていられるか疑わしい未来があろうと
も、愛してみるといい。

蓬莱人とは咎人である。
人の考えつかぬ、暇つぶしという名の快楽を、存分に味わわせられる。
上白沢慧音の長い長い人生に、思い返せば直ぐ目蓋の裏に見える情景を、与えられる。

上白沢慧音の覚悟が如何程のものか。

―――それにもし本当に蓬莱人を理解しえる存在なれば、自分にももっと、興味を持ってく
れるのでは、ないだろうか。

「……永琳、なんだか私ね、人が恋しくなったのよ」
「……」
「永琳、貴女がどう、とかそういう意味ではないの。貴女には常日頃から感謝しているわ。
愛しているもの。私の為に何でもしてくれる、素晴らしい従者だもの、貴女を邪魔に思った
事など一度もないわ。それでも―――」
「妹紅が羨ましいのですね」
「全面的に真っ当な人間から理解されようとは思わないけれど、少しでも理解しようと努力
する、あの慧音って子の心は……美しいわ」

永琳の腕の中、輝夜は夢うつつに言葉を紡ぐ。子供が親に縋りつくようにするその姿は、と
ても傍若無人な月の姫には見えない。
結局のところ、蓬莱山輝夜がその狂った心を開ける存在は、八意永琳のみである。
今も目を瞑れば思い出せる情景。

月の死者を無表情で鏖殺する、永琳の面影。

永琳もまた、あの頃は輝夜を愛していた。一体誰が罪悪感のみで人を殺すものか。愛故に全
てを狂わせて、月から身を隠している。その愛は正気か狂気か。今となっては輝夜の知る由
もないが、純粋に嬉しかった事を、良く覚えている。
自分勝手な、感情のみで他人を殺害する行ないを正当化はしないが、数多の時を越えるとや
はり意識も薄れるものである。

一瞬一瞬を大切に生きる。蓬莱山輝夜の根底にある、否定出来ない自分への戒め。
当時は考えもしなかった、命の重さ。人との繋がりの大切さ。
一瞬一瞬を大切に生きようとも……罪は消えず。積みあがるのは罪悪感と、真っ当な人間、
いや、命の期限がある、天寿を得る事の出来る生命に対しての、恋心だ。

輝夜も有限なれば、永琳をもっと深く愛せただろうに。
永琳も有限なれば、輝夜をもっと深く愛せただろうに。

蓬莱の人とは、それだけ背負うべき罪が大きく重いのだ。




1 慧音先生




「こんにちは♪」
「……」
「……」

上白沢家の食卓は凍りついた。食事のマナーに五月蝿い慧音が、箸を取りこぼし、食い意地
の張った妹紅が口まで運んだ沢庵をポロリと床に落とす。
そりゃあ誰だって驚く。小さなちゃぶ台二人対面で座っていたのに、突然横に蓬莱山輝夜が
居たら沈黙もするだろう。
朝も早くから、狂気の姫は降臨した。

「輝夜、あんた何してるの」
「何をしているように見えるかしら?」
「慧音、何してるんだろうこれは」
「………………。朝食を食べていたら突然輝夜が現れた。だから現れただけで何もしていな
い、で、暫定的な答えとするしかあるまい……」
「あら質素な朝食ね。あ、麦飯は好きよ?」
「……何しに来たんだ?」
「何しに来たように見えるかしら?」
「けーねぇ……何しに来たんだろう……」
「………………。憶測で答えは出せない。慎重にならざるを得ない、としか」

輝夜姫はちゃぶ台に肘を付き、ニコニコとしたまま何する風も無く二人を観察している。
妹紅は思った。同じ蓬莱人でも更に宇宙人の転生体である輝夜はきっと別次元を生きている
のだろう、と。
慧音は思った。やっぱり蓬莱人は絶対おかしい。妖怪も沢山いるが、その中でも飛びっきり
の変人なんだと。

「……。妹紅、取敢えず食べてしまうといい。私はこれから寺子屋だから」
「あ、うん。でもこの阿呆をどうしよう」
「いつも通り殴り合えばいいのでは。幾らでも戦って構わないが、家の中と里に迷惑の掛か
る所では、戦わないで欲しい」
「あら寺子屋? そうだったわね、慧音は先生ですものね」
「そうだ。恥ずかしながら人里の守護者でもある。害為すならば、容赦はしない」
「慧音に迷惑なんて掛けないわ。嫌われたら嫌だもの」
「ちょ、ちょっと輝夜。あれ、本気だったの?」
「冗談なんて言わないわ。暇つぶしの為なら冗談だって本気にするけれど」
「んがー!! 慧音は渡さないからな! 輝夜表にでろぉぉ!!」
「了解ー。それじゃあ慧音、先生頑張ってらっしゃい♪」
「それは私のセリフなのに!! むきーーー!!」

妹紅は輝夜を引き摺って表に出て行く。本当に変なものに目をつけられたものだ、と慧音は
唇を噛むような仕草で困った表情をする。
ふと、その唇で数日前の事を思い出した。男だろうが女だろうが魅了する魔性。
脳裏に蘇る蓬莱の姫は、どのように卑下し難癖をつけようとも「美しい」以下にはならない。

「はぁぁぁぁぁぁぁ……」

思い出すと頭がぼうっとする。これは自分の意識ではない。あの女が刷り込んだものだ。
必要なものを得る為には、どんな卑怯な手段にも出るらしい。実に狂っている。
慧音は頭を振り、妹紅妹紅妹紅もこたんと不思議な呪文を唱えた後、ごちそうさまと締めく
くった。輝夜の呪詛は強力でなかなか意識から離れてはくれないが、妹紅の事を考えていれ
ばそれも和らぐような気がする。

慧音は悪くない。だが、罪悪感は拭えなかった。
最近認識を新たにし、自分は死ぬまで妹紅に付き合うのだと決めたばかりであるのに、と。





「で、田吾作氏は傾斜の多い幻想郷に灌漑農業を普及させたのです。皆さんのお家も農家が
多いでしょうが、それはこの田吾作氏が地下水を汲み上げて水路を作ったからこそなんです
ね。その後皆さんのご先祖様が智恵を絞り、溜池や水路の整備を行いました。質問はありま
すか?」
「はい先生」
「なんでしょう」
「窓の外で先生を熱く見つめているのは誰ですか」
「……」

昼も過ぎた頃……。
今更人外に常識を問う程無粋ではないが、慧音はやめて欲しいと思った。
門下生達は校庭に犬がやってきたが如くはしゃぎ出す。
放って置いて教室に乱入されるのはもっと避けたいので、仕方なく構ってやる事にする。

「……輝夜、妹紅はどうした」
「リザレクション三回した所で伸びたわ。だから此方の様子を見に来たのよ」
「今は授業中だ。皆が気にするから、帰ってくれ。他にする事はないのか?」
「あるわ。ひきこもりだなんだなんて言われるけれど、一応内職に励んでいるのよ?」
「それは驚きだ。姫としてのプライドはどこへ行ったのやら」
「暇だもの。何かして潰した方が有意義よ。まぁ、永琳の手伝い程度だけれど」
「ならそれに励め。私は忙しいのだから」
「いいじゃない。ちょっと見学させなさいよ」
「……。喋らない遊ばないと誓うならば構わない。違反した場合叩き出す」
「いいわ」

結局輝夜は教室に居座る事となった。慧音が強く言えば勿論引き下がっただろうが……邪険
に扱う事が憚られてしまった。
輝夜は慧音から座布団を受け取ると、教室の一番後ろに陣取る。

「先生」
「はいなんでしょう」
「あの態度が大きい人は誰ですか」
「宇宙人だ。変な質問をする子供を食べるように躾てあるから、無駄な質問はしないように」
「こえーーこえーーー」

はしゃぐ子供達を諌めて、授業へ戻る。
だが、やはりあの女の視線が気になって仕方が無い。こうなると解っていた筈で今更だが。

「……それで、田吾作氏の功績を称え、人里の東にある祠に祀っているのです。博麗神社の
末社という形式になっていますが、実質豊穣祭等を取り仕切るのは人里の博麗総代となって
いますね。近年では信仰心の低下が叫ばれていますが、村民個人単位での信仰心は、幻想郷
が結界で隔離される前と変わりないと言われています。問題といえば、博麗の巫女の信仰心
ですが……」

ちらちらと視線を向ける。輝夜は……笑顔だ。慧音の頭の中を見透かすような笑顔。
思わず溜息を吐いてしまう。輝夜に関わってからこればかりだ。
しかしタイミングが悪い。顔を赤らめたまま、輝夜に視線を向けたままの溜息は、門下生達
の噂のタネになってしまう。

(けーね先生が真っ赤だぞ……)
(あれ?他の人と同居してなかったっけ?)
(きっと、新たなるライバルなんだよ……慧音せんせおっぱい大きいし)
(男子意味解んない)
(意味なんて解られてたまるかよ)
(慧音はね、ただいま楽しい楽しい狂気の愛憎劇真っ最中なのよ)
(まじかよー。慧音先生は長生きそうだけど色恋沙汰はどうなんだろう)
(慧音を目的に殺し合いをしているらしいわ)
(すげー。愛憎劇すげー。しかも女の子同士ってどうなの?)
(慧音先生は罪な女だ……)
(えぇ全くね)

「そういえば、明日は満月だったな。輝夜、後で此方に来なさい」

教室は全て凍りついた。




2 かぐや姫の心底




「輝夜……」
「慧音……」
「今日の歴史は、なかった事に……」
「わわ、わかった、わかった。わかったわ、うん。だからその肩を掴む手を離してぇ」
「鎖骨をへし折る技、なんていったっけ」
「そんな格闘漫画のマニアックな技名しらn……いだだだ」
「まったく……」
「はぁ……永遠でも肉体は痛いのだから、加減して頂戴よ……」
「馬鹿者にしてやる加減などない。大人しくしていろといったのに。約束を守らん奴は嫌い
だな、私は」
「まぁ、嫌われたの? 嫌われてしまったのね私は」
「そうだ。二度と来るな」
「えー」

一日の授業が終了し、二人は人里へ出ていた。然るべき制裁は加えるものとして加え、慧音
は先を歩き出す。適当にあしらうと後を引いてしまう。輝夜を調子に乗らせるのは良くない。

「あ、ちょっと? 私この辺りは知らないのよ?」
「飛べば良いだろう」
「姿形人なのだから、人里くらい人らしくしたいわ」
「大丈夫だ。巫女も魔女も空を飛ぶ。まぁ二人共変わり者扱いだがな」
「それじゃあ困るわよ。人里に馴染めないじゃない?」
「何故に?」

不思議な事を言い出すものだ、と慧音は思わず振り向く。
輝夜は……”慧音が一番困る”笑顔でいた。

「これから慧音の家にご厄介になるからよ」
「―――――――――――――――はぁ?」

慧音の顔が崩壊した。あまりに驚きにその整った凛々しい顔が崩れ去る。

「だって条件が不平等だわ。妹紅だけ貴女と同棲だなんて。飛んだって竹林から結構距離が
あるのよ、永遠亭は」
「見え透いた嘘を。須臾の力を使えば一瞬だろう」
「あら解った? でも同じよ。物理的な距離はあるもの」
「断る。それに妹紅が許さないだろう」
「ふふ、言うと思ったから今日それについて決着つけたんじゃない。本気を出したらもこた
んったら三回もバラバラになったわ」
「なっ―――貴様……」
「今更怒るほどでもないでしょう、妹紅は死なないのだから」
「くっ……それで朝から現れた訳か……まったく、狂気の沙汰だな」
「妹紅の、あの憎悪に燃える表情、見せてあげたかったわ。でも意外とすんなり認めたわよ。
あの女だって、暇つぶしの仕方くらい弁えているもの」
「わ、私は! 妹紅の糧にはなろうが、貴様の餌食になるつもりは、ない!」

誰が貴様などと……。
そう掴みかかろうとした所で、止められた。

「も、妹紅?」
「慧音、ごめんよ。負けちゃったからさ」
「何を言って……」
「まぁまぁそんなに怒らず。適当にあしらって置けば飽きて帰るよ」
「しかしだな……」

妹紅に止められた慧音が尻込む。
止めずに、一緒になって否定してくれれば良いものを、何故同意するのか。
慧音は、解らない。

「ほらね、妹紅も良いって言うのだから。妹紅の意見は否定しないでしょうね?」
「いや……だから、その……」

慧音には、解らない。
永遠を生きる人間の考えが。まさかココで、たった数日でまたも問題を提示されるとは思い
もしなかった。確かに、意味不明なのだ。意味不明は意味不明で許容しようと、そう決めた
筈ではあるが……やはり、人間としての、真っ当な感情がこれを否定する。
自分は……妹紅のものである。
しかしその妹紅が、言うのだ。恋敵と暮らせと。
意味不明理解不能、めちゃくちゃだ。
勝敗どうあれ、そもそもそんなものを賭けて戦うな、と説教してやりたい。

(あぁもう。こんな感じでずっと振り回されるのか、私は……)

倫理と理性。人間的な部分が強い慧音には、それは重荷である。
だが一度決めた事を簡単に曲げるほど軽薄でもない。二律背反的な想いが十重二十重と纏わ
されて行く感覚だ。
自分がもっと適当な女だったなら、とありもしない幻想を抱く。所謂逃避だ。
幾ら逃げても、現実は目の前にあるのだが。

「はぁ……永遠の無職二人を養うのか……内職でも始めるかな……」
「あらやだ、持参金はあってよ?」

そんな悩みを知ってか知らずか、輝夜は懐から当面働かずとも食べていける程の飯の花を取
り出した。

「えぇ、輝夜あんた、まぁた永琳からかっぱらって……」
「冗談。私、本気だもの。ちゃあんと内職して貯めたお小遣いですぅ」
「輝夜、家は向うだ」
「はぁい♪」

輝夜は、妹紅に対して……あっかんべーを繰り出す。妹紅に精神的ダメージが多大に与えら
れたのは、言うまでも無い。




「慧音ったら料理も上手なのね。益々興味が湧くわ」
「ぐーやんそれ私の煮っ転がしだぞ」
「誰がぐーやんよ。このただ飯喰らい」
「むきーーーー!! 表でろぉぉぉ!!」
「妹紅騒ぐな。お前の分もあるから」
「うぅ……肩身が狭くなった……」
「あべこべもココまで来ると開き直るしかないな、私も。妹紅、お前が連れてきたんだろう」
「そうでした……」

妹紅はこそこそと夕食を抓み、幅を利かせ増長した輝夜がまさに肩で風を切る勢いだ。慧音
といえば、口では開き直る言っていても、未だに悩む。もうここ最近悩んでばかりで、そろ
そろ知恵熱で湯が沸かせるのではないだろうか、と新たな悩みを生んでいた。

「まったく。聞こうと思っていたんだが、妹紅。何故そんな賭けをした」
「い、いやぁ……あはは。あははは、は」

どうやら喋る気はないらしい。視線を輝夜に向けてみる。

「輝夜は」
「だから、暇つぶしよ。妹紅だってそう考えなきゃ賭けないわ」
「妹紅……お前は私を何だと……」
「ご、ごめんごめん。勝てると踏んだのに……」
「掛け金が高いとやっぱり熱くなるのよ。命以外を久々に賭けたから、ね」
「お前卑怯なんだよ。いつもは使わない力使っただろう」
「卑怯? やぁね、負け惜しみって。慧音ーおかわりー」
「はい……。妹紅、金輪際とは言わないが、勝手に私を賭けのタネに使うな」
「しゅびばぜん……でも提示したのは輝夜だし……」
「だったら受けるな」
「うわぁぁんけーねに嫌われたぁ……」
「おほほほほ。いい気味ね。私もさっき嫌われたからこれで五分ねぇ」
「永遠やっていてくれ、もう……」
「ぐーやん殺すぅぅぅ……」
「だからぐーやん言うなダラズ」

食卓の賑やかなこと。
それについては、別段と文句はない。些か勝手は異なるが、慧音とて賑やかが嫌いな訳では
ない。それにあの蓬莱山輝夜の事だ。妹紅の言う通り、飽きれば帰るだろう。
蓬莱人周期でどの程度で飽きが来るのかなどは知らないが。
悩めば悩むほど、なんだか馬鹿らしくなってくる。事実を書き記す事を主とする慧音にとっ
ては、書き物のページが増えるだけだ。何もそこまで深く考える必要もない。

当然理性は反対するが、割り切るもまた理性である。

「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
「ごちそうさまーー!! 輝夜!! 腹ごなしにぶっとばぁす!!」
「あらやだ、これから慧音と一緒に今後について話し合うの」
「妹紅、少し長くなるかもしれないから、お風呂を沸かしておいてほしい」
「話し合いが長くなる上にお風呂!? けーねぇぇ……」
「もこたんぼろぼろね」
「邪推するな。お前達と違って時間が有限な私は一日が大事なんだ」
「はぁい」

納得したのか、妹紅は引き下がる。
慧音は洗い物を済ませると、お茶を持って縁側に出た。




3 終わり無き幽閉。永遠の檻。解放という束縛。




「明日は満月が綺麗だろうな」

十四夜の空は星と月を内包している。天文的なものを見せ付けられると、この幻想郷、そし
て自分が如何にちっぽけかと思い知らされる。
勿論そんな考えに意味はない。自分が居るのは地球の外れの幻想郷で、一個人。一個人は一
個人の人生を真っ当する以外に何も無いのだ。果てしなく馬鹿らしい考えである。
まして人間の作り上げた概念と比べるなど、滑稽甚だしい。
更に言えば、だ。

この隣りにいる、美しき月の姫に比べればきっと、宇宙すらも比べるに値しない。
悩む価値もないのだ。

永遠。永遠は永遠。つまり肉体が滅びようとも、それは精神としてでも十分に存在しえる存
在。物事を形成する何物にも当てはまらない。
妹紅は不死であろうが、蓬莱の薬の根源たる姫はなお不滅。
地球がなくなろうと、月がなくなろうと、宇宙が消滅しようと、きっと存在し続けるのであ
ろう。

慧音は―――ああそうか、なるほど。と思う。

科学者が天文学者が幾ら悩もうとも出ない問の解が、この存在なのだ。何せ永遠なのだから。

「生きる永遠か。難儀だな、蓬莱山輝夜」
「あら、同情?」
「永遠とは生半可な存在ではないと、導き出した所だ」
「そうよ。私ったら生きる神様。崇拝してくれるかしら?」
「ご免被る。私は人間の味方だが、人類終焉に興味はないから」
「次の世代の宇宙に出来た、小さな星の最初に生まれるイキモノに、貴女を選んでもいいわ」
「話が壮大になった」
「えぇ、そうね」

この小さな体が秘める情報や存在の強大さは、常識を歪ませる。
良く、誰が強いかなんて話をするが……そもそもこれは争うべき存在ではない。幾ら死のう
と、それは「在る」のだから。それを倒す事の意味は果てしなく薄い。それでも妹紅はコレ
を殺す。殺して殺して、繰り返す。
意味は、ない。

「……それで、本気でここで暮らすのだな」
「きっと楽しいわ。貴女だってあまり嫌な顔はしないじゃない」
「永遠亭はどうする」
「永琳だけで回るもの。私は何処へいっても、お荷物よ」
「それには同情しないな。カリスマが足りないんだ」
「あの吸血鬼に分けてもらおうかしら」
「己で築けないカリスマなど、ハリボテのカキワリだ」
「そうね。でも、私から見ると、この世の全てがハリボテのカキワリよ。最悪でしょう」
「価値観を下げてみるといい。一応人間なのだから、人間の価値観まで」
「いいのよ。この腐れた精神構造でも、楽しいものは楽しいの。ハリボテのカキワリでもね、
それを愛おしいと思えるだけの感情はあるのよ」
「だから楽しいと」
「恋敵と暮らすの。愛しい人を巡って殺し合うの。幾ら私が永遠でも……」

―――この機会は、二度とは訪れないわ。

一瞬一瞬を大事に生きよう。
決して終る事のない、不滅の永遠だけれども。
それは存在し、今は人の世にある。
永遠の中、今後―――人類と出会える回数は、何回ほどあるのだろうか。
永遠の中、今後―――上白沢慧音という存在に、何度逢えるのだろうか。
永遠の中、今後―――藤原妹紅という存在と、何度殺し合えるだろうか。
永遠の中、今後―――これほど面白い暇潰しに、何度出会えるだろうか。

故に、一瞬一瞬を大事に生きる。永遠と須臾を操る、人の形をした異形の憂鬱。
終らないからこそ、楽しめる時に、楽しまねばならない。

なぜならば、暇だからである。もし今後暇になっても、思い出せるだけの過去があるならば、
それは一つの幸せではなかろうか。
老人が余生を思い出と共に過ごすように。

永遠の余生を思い出と共に過ごすのだ。

「私は、この永遠の檻から、永遠に出られないわ。咎人だなんておこがましい。何せ私は存
在そのものが、無意味で無価値で無限なんだから。永遠でないだけで妹紅が羨ましい。その
妹紅を理解しようとする、貴女が羨ましい」
「輝夜……」

慧音は、何時の間にか、涙をこぼしていた。
それは否定する涙だったのか。
覚悟する涙だったのか。蓬莱山輝夜は、解らない。
勿論、慧音にも解らなかった。




「話、終ったの?」
「新しい家族の蓬莱山輝夜だ。妹紅は仲良くするように」
「にゃーん♪」
「そうか、ペットとしての扱いで置くんだ。慧音頭良いねやっぱり」
「もこたんなんてただ飯喰らいで私よりペットじゃない」
「このペット舌引っこ抜こうよ……」

慧音は思う。
勘違いしていたと。
輝夜は蓬莱人以前に永遠なのだ。ならばただの蓬莱人である妹紅とは、別物である。
妹紅が狂っているのではないか―――。
どうでもいいと思っていた問題、とするには些かその意味合いは否定出来ないレベルである。
やはり気になっていた。
しかし、答えは輝夜から出されたのである。
聞くべきか迷ったが、今後もこの愛しき狂人と思しきものと暮らしていく上では、知りえた
方が良い情報であった。

『私が嗾けたものだから、妹紅がムキになったのよ。慧音は私を見てくれる筈、あんたなん
かに靡く訳がない。いいさ、一緒に暮らしてやろうじゃないのって。別に妹紅は狂ってなん
か無いわ。究極的にやきもちやきなのよ。もこたん可愛い♪』

………。
勿論、これも永遠の狂人が語る話だ。どこまで信じて良いものかなど、線引きは出来ない。
とはいえ、沸騰する思考を治めるには、体の良い注し水であった。

「まぁどうせ直ぐ飽きてえーりんえーりん騒ぐんだから、いいか」
「それは無いわ、妹紅」
「うっそだぁ」
「慧音は、解ってくれるわ。私達蓬莱人が阿呆でも、それを阿呆として理解して付き合って
くれるわよ。だからちゃんとポイント稼いでおかないと、私が全部掻っ攫うわ」
「え……? つまりどういうこと?」
「私の戯言を、慧音は真剣に聞いてくれるもの。人間の理解者なんて、私は知らないわ」
「半分ハクタクだけど」
「半分も人間なのよ? 今まで妖怪だって私達は解せないと吐き捨て、閻魔だって存在が矛
盾だって怒るに違いない。やっと人間が理解してくれるのよ。私ね、妹紅。久しぶりに嬉し
いわ。本当に久しぶりに。何世紀ぶりかしら?」

輝夜が慧音に抱きつく。あまりにテンションの高い輝夜に呆気を取られた妹紅も、すぐさま
気を取り直して反対側から慧音に抱きつく。

「だだ、だめだってば。慧音は私の」
「もこたんのケチ。いいじゃない一摘み二摘み三摘みくらい」
「ふ、二人とも、く、くるし……あ、だめだ、そんなところ……くぅぅっ」
「きゃー! 慧音が悶えてるわ、妹紅!」
「馬鹿! お前がそんな所触るからだろう!? ずるいぞ」
「えぇぇい! 離れろダブル蓬莱無職ぅうぅぅぅぅ!!!!!」

この最悪で永遠の中の須臾は、きっとすぐさま終焉を迎えるのだろう。
それでも、一瞬一瞬を生きる蓬莱山輝夜からすればそれは、今後迎えるであろう「暇」を埋
める為の、大事な糧となるのだ。

出来るならばこの一瞬を永遠に。
出来ないのならば、せめてこの記憶を、永遠に楽しめますように。


end
表現がくどくなってしまって申し訳ないです。
それでも読んでくださった方は、よっ、大統領です。

小学生の頃、作文が書けなかった私は、出来事でなく
妄想を書きました。すると先生に泣かれました。
俺すげぇ。天才なんだと思ったら、親を呼ばれました。

世の中は上手く出来ていますね。現実を見ろと叱って
くださった先生に感謝します。
でも見てません。

それでは失礼しますー。


追記
とんでも誤字を修正しました。恥ずかしくて死ぬかと思ったにゃん。
ご指摘有難う御座います
俄ファン
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1710簡易評価
2.100ドルルン削除
前回の見て、面白くて50点入れましたがまさか続くとは!
かなりおもしろかったです。
けーね先生可愛いよ!けーね先生!
5.100名前が無い程度の能力削除
妹紅が幼児過ぎるw
9.100名前が無い程度の能力削除
>>ならばただの蓬莱人である慧音とは、別物である。
これは多分誤字ではないでしょうか・・

ぐーやんともこたんに萌えました。けーねはなんかカッコイイ!
10.100ルエ削除
夢や幻想を糧に、今を生きている
むしろ

ごめん少しきつい事言った
次も楽しみにお待ちしております
頑張れもこ
14.90ぐい井戸・御簾田削除
いいなあこれ。こういう妖しい美しさ?みたいなのが輝夜の魅力だと思うのですよ。
15.100SETH削除
いいお話でした

あとがきにもすこぶる泣かされましたw
19.90通りすがり程度の能力削除
まずはお疲れ様でした。
面白さと悲壮さが出てて関心。
言い回しもエッセンスとしてなり立っててグッド。
そして後書きの先生は蹴って良い。
点数は95点と脳内変換して下さい。
(100点は過去1作品に付けましたが、もう少し・・・と言う事で^^;)
良い物をありがとうございました。
益々、次に期待します。

えーりん・・・orz
22.無評価俄ファン削除
>前回の見て
有難う御座います有難う御座います。大好きです。
>幼児過ぎる
わたくしめのイメージの所為でしょうか……。ぐーやんが押し強すぎる
のかもしれません。
>けーねはなんかカッコイイ
美人教師上白沢慧音。DVD予約は明日から。
>夢や幻想を糧に
あれって甘いですけど時折苦いですよね。
>妖しい美しさ
基本的に永夜のキャラってみんな怪しいですよね。ぐーやんちょうあやしい。
えーりんもっとあやしい。
>あとがき
作文トラウマ。略してあやちゃん。
>えーりん・・・orz
えーりんは……(以下は省略された気がします。
毎度毎度ありがとうございますほんと。愛してます。

ご評価有難う御座います。
次作も読んでいただけるだけのものを書きたいと
思います。あんあん。
26.70真十郎削除
>「窓の外で先生を熱く見つめているのは誰ですか」
どの作品でも月のプリンセスって何処かルナティックなんですよね。

>「ふ、二人とも、く、くるし……あ、だめだ、そんなところ……くぅぅっ」
三角関係ステキー!
輝夜の魅力や内面、そしてそれと向き合う人物を描写したSSは初めてでした。
27.80名前が無い程度の能力削除
輝夜が魅力的ですね~なんか新鮮。
もこたんは可愛いからおk。
40.80名前が無い程度の能力削除
蓬莱無職www