Coolier - 新生・東方創想話

帰還の道は程遠く? ―序章―

2007/05/27 14:08:32
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この小説は幻想郷に存在しない人物の視点で描かれた物です。
オリジナルキャラという設定が肌に合わない方は、スルー推奨です。
















「ヤバい、完全に迷った」
首筋に伝う汗を感じながら、ポツリと漏らした。
視界を巡らすも、辺りは真っ白な霧に覆われ一メートル先も見えない有様だ。
まさに五里霧中、しかも今は夜中と来たものだ。

ここは静岡、富士山の裾野、富士演習場である。

年に一、二度行われる、二夜三日の検閲訓練。
簡単に説明すると、野戦の訓練を三日の間、ほぼ不眠不休で行うのである。
その一連の部隊活動を、上級部隊のお偉いさん方が見て、評価する事を用語で検閲と言う。
そして自分の任務は10名程の分隊の一員として、防御陣地の一角で敵の攻撃に備える事だった。

一日目は陣地を構築、富士の山(と上官)に見下ろされながら、エンピを片手に穴を掘る、ひたすら掘る。
陣地がなんとか形になった時には、日はとっぷりと暮れていた。
非常に疲れた、が、交代で不寝番があるので僅かな仮眠で休むほかに無かった。
二日目は初っ端から雨が降ってきた、富士山は根元から雲に覆われている。
天気予報でおおかた予感していたが、やはり嬉しくはない物だ。
雨晒しの中、陣地の水かき作業に奮闘していると、とうとう敵の斥候部隊と接触した。
散発的な銃撃戦が数回行われた後、迫撃砲による支援が入ると敵方は撤退した。
辺りが落ち着いた頃には日は傾き、いつの間にか雨は上がっていた。
そして、雨上がりの霧が立ち込め始めたのだ。

敵の本格的な襲撃は夜中だろうと予想されると、それに備えて僅かな小休止が与えられた。
二日前にボイルされた缶飯が配られる。赤飯と鳥もつ野菜煮だった、最悪だ。
カッチンカッチンに固まった赤飯と、やけに塩辛い鳥もつ野菜煮を食べ終えると、便意を催してきた。
先輩から許可を得ると、判定官を尻目にエンピ片手に陣地を離れる。
陣地の丘を下り、適当な茂みを探すと用を足すべく、大地にエンピをつき立てた。

 ・・・・・・

用を足し終えて痕跡を偽装し終えると、予想よりも霧が深い事に気がついた。
辺りも刻々と闇に染まり始めている。これは早く戻らねば。
視界が悪くなるのは明らかな為、直線的なルートを選んである。
真っ直ぐに進めば陣地へと戻れるはずだったのだが・・・。

ここで状況は冒頭へと戻る。

腕時計を見ると、十時前だった。はぐれて数時間が経っている。
視界は暗くも、一面白に覆われていた。
何も見えなくては地図とコンパスは役立に立たず。
ライトで道を照らそうにも、霧に反射するお陰で余計に見えなくなる。
通信手段が無いかと模索するも、無線機は只の一兵である自分の手元には無い。
戦闘訓練という状況上、大声を張るのは躊躇われたが、意を決した呼び声は闇へと吸い込まれるのみであった。
思い切って携帯電話を取り出すも電波は圏外、演習場周は電波が非常に悪いのは有名だ。

それにしても変だ。自分の方向感覚を疑うにしても、精々100メートルも離れなかったのだ。
茂みが多いとはいえ春先のこの季節、枯れたすすき野は背丈を茂みは稀で、迷うなど考え難い。
それに演習場が広大だとはいえ、ここでの訓練は既に何度も経験しているのだ。
すべてはこの霧のせいだろう、夜の霧は朝方まで待たなければ晴れる事はまず無い。
下手に動いて敵と遭遇など目も当てられない。思わずその場に座り込もうとしたその時。

   ―――タタタタタッ・・・パパパッ・・・・・・タタタタタタタタッ・・・・・・―――

背後、遠くから銃撃戦の音が響いた。
きびすを返して振り向き駆け出そうとした。石につまずいて、そのまま倒れこみ・・・。



          ―――地面に“スキマ”が出来ていた―――



                  ・



                  ・



                  ・



         ―――あら、ごめんさないね。ふふっ・・・―――



そんな声を、聞いたような気がした。



 「・・・い、起きろ」

薄らぼんやりとした意識でそんな声が聞えた。

 「おい、人間」

意識を戻した刹那、自分は跳ね起きた。
マズい、あんな所で倒れて、早く戻らなければ。
傍に落ちたライフルとエンピを掴むと、声の主へと視線を向けた。
そこには、紅い瞳と銀色の長髪と、リボンが印象的な少女が一人、佇んでいた。

 「あんた、その格好は外の人間だな」

その物言いに疑問を覚えつつも、真っ先に浮かんだ問いを投げ掛ける。

「君は、何故こんな時間に?ここは自衛隊の演習・・・」

完全に予想外な状況に戸惑いつつ、なんとか繋げた言葉はそこで途切れた。
愕然と、首を、視線を巡らせる。
霧の晴れた世界、360度、そこは竹に覆われた竹林であった。
自分の記憶の中に、富士の演習場に竹林など、無い。

驚愕のままに視線を彼女の方へ戻すと、既に十歩ほど離れていた。

 「ついて来な、案内するよ」

彼女はズボンに手を入れたまま、身を翻して歩き始めた。
数秒、本当に付いて行って良い物かと考えた後、ぐうの音も出せずに付いて行くしか無かった。

最初の数分は無言で付いて行ったが、聞きたい事が沸々と湧き上がる。
だが、足を速めても互いの距離は全く変わらない、執り合う気は無いとその背中が語っていた。
ふと時計を見ると、時間は二時を回った所だった。

話しかける事は諦めて素直に歩いていると、不意に彼女が立ち止まる。
合わせてこちらも立ち止まる。すると彼女はこちらに向かい、目の前で立ち止まった。

 「それ、貸して」

思わず身構える。実弾は無いとは言え、流石に銃を触せる事は出来ない。

 「違う、そっちそっち」

エンピを指差すと、彼女はうんうんと頷く。
どうしたものかと思いつつも、ゆっくりとその柄を差し出す。
彼女は片手でそれを受け取ると、品定めのように見つめる。
へえ、と感心したかのように漏らし、元の位置へ歩く。
傍にエンピを置いた彼女は、おもむろにしゃがみ込み、なにやら手で地を掘り始めた。
追い付いてその手元を覗き込むと、そこには筍が生えていた。

程なくして、筍つきでエンピが帰ってくる。

再び歩く事数分、ようやく竹林を抜けた。
夜はまだ明ず、眼下に広がるは集落だろうか。

 「一つだけ灯りの点いた家があるだろう、そこを目指せ」

それだけ告げられると、彼女は竹林へと戻って行った。
あらためて見ればこの竹林、何とも言いがたい、怪しい雰囲気である。
結局、彼女の言われた家へ行くしかなかった。

戸を叩く前に迷彩の鉄帽を脱ぎ、銃を背中に掛ける。
迷彩服はどうにも出来ないので、これが最大級の気遣いだ。
それにしても家の灯りは本当に小さく、少なくとも蛍光灯の類ではない。
他の家に関しては、灯りすら無いので選択の余地は無いのだが・・・。
意を決して木製の戸を軽く二度叩き、ごめんくださいと声を掛ける。
人の気配がするのにそう時間は掛からなかった。
中から出てきた女性は、流石に怪訝な顔である。
さて、どう説明したら良い者かと思ったが、彼女は先ほどの筍を見ると、察したかのように表情を崩す。

 「ああ、外の者か。聞きたい事もあるだろうが、先ずは入るといい」

しかし、そう簡単に入る気にはなれなかった。何しろ先程から言われるがままである。
彼女たちはさも当たり前のように話すが、手の平で弄ばれているようで何とも煮え切らない。

「や、すいません。やはり結構です」

踏み止まり、思い切って言葉にする。

 「待て、混乱しているのだろうが、どうか落ち着いてほしい。
  説明は・・・」

「夜分遅くに失礼しました」

その言葉を遮る様に告げて足早に家を後にしたのだが、どうも追って来る気配がする。
ふと時計を確認すると午前3時、丑三つ時は越えたろうがこの夜更けに背後から追って来る女。
早歩きはいつの間にか駆け足となっていた。
戦闘装備での駆け足は相当キツい、元から疲労の濃い体ではなお更だ。
だが、今はこの集落から早く抜けたかった。直に夜明けだ、とにかく朝を待つ。
明るくなりさえすれば、一人でも何とかなるだろう。
だから、今はなんとしても逃げ切りたかった。
そうだ、訓練の間に迷うなんてヘマをした挙句、民間人の世話になる等もっての外。
銃を担いだ自衛官が郷に下りたなんて、マスコミの良いネタである。
さっきの竹林だって・・・なにかの間違いだ。間違いの筈なのだ。

息を切らして夜道を走る。とにかく逃げる。
ふと、唐突に夜の闇が深くなる。と、いうより暗室に跳びこんだような感覚。
森に入った訳でもないのに月明かりすら届かないというのは・・・

「きゃあ!?」「うおあっ!?」

予想もしない衝撃に足を取られ、思いっきりこけてしまった。

「っづう・・・」

ぐらぐらする頭を抑え、先程の声を思い出す。どうも女の子のような・・・

 「あー、にんげんだー」

人間?意味が解らない。いったい何を喋っているのだろうか?
と、仰向けの体制に被さって来る重みと感触。それは疑いようも無く女の子の物で・・・

 「いただきまーす」

その意味に躊躇する間もなく、左の肩口に激痛が走った。

「ぐあああああっ!?」

まさか、噛み付いているのか!

「ぐあ、離せ、くそ、このおっ!!」

何も見えない闇の中、自由な右手だけで少女を引っぺがそうとするも、片腕ではどうにも成らない。
何しろ、少女はその小柄すぎる体からは想像も出来ないような怪力なのだ。
左腕から胴体へと回された腕は自由を奪い、確実に体力を奪ってゆく。
噛み付かれた肩口からはどくどくと血が溢れ、少女はそれをうっとりするような息遣いで呑み込んでいた。
引き剥がすことを諦めた右手は腰周りの装備を弄る。
腰に下がるは銃剣。だが、最後の良心でそれを抜くのを留めた。
続いてシュアファイアの感触、必死の思いでそれを取り出して肩口の少女へと向けた。
この光源ならどんな者も目を逸らさずにはいられない筈だ。

 「んんんっ!?」

ぐもった悲鳴、映し出される少女の顔、驚いたタイミングは全く同じだ。
なにしろ、その姿は正真正銘、少女のものであったのだから。
そしてその子は心底嫌そうな声で飛び退いた。

 「うあーん、目がいたいよー・・・」

泣き顔の少女は傍目にもおぞましい闇を纏い、ふよふよと空へ消えていった。

危機は去ったようだが、もう訳が解らない。解りたくも無い。
これはたちの悪い夢か何かなのだろうか?
肩からの出血は止まらず、疲労困憊、体も相当弱っている。
もう立つ事もままならず、意識もだんだんと薄れてきた。
このまま寝たら死ぬかもしれないが、迫り来る睡魔にはどうも勝てそうには無かった。
意識が飛ぶ前に感じたものは黎明の空と、呆れたような誰かの声だった。


 「まったく、世話を焼かせてくれる・・・」





                                 ― 序章・終わり ―








※用語等説明
 富士演習場・・・だだっ広い。場所にもよるが、やたら起伏のある草原って感じ。
 エンピ・・・シャベルの一種、シャベルよりも先端部が尖っていて穴掘りに適している。
 斥候・・・偵察兵みたいなの、でも結構手ごわい。RPGとか容赦なく撃って来る。
 判定官・・・敵でも味方でもなく、冷徹に部隊の評価を下す役の人。また、被弾判定のプロでもある。
 夜の霧・・・マジでヤバイ、本気で迷える。
はじめまして、初投稿になります白河と申します。
普段の生活でこんなんあったらどうかなあ、なんて妄想を膨らませていたらこんなんなりました。
というか、導入部だけで結構気力使いました。
ええ、なんか色々とごめんなさい。
白河
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コメント



0.840簡易評価
1.無評価俄ファン削除
硬くても美味しいんですよねあのレーション赤飯。
食べつづけるときついですけど………。
>うあーん、目がいたいよー
ルーミアかわいいよルーミア……。
拙者続きがたのしみで御座る。
2.100俄ファン削除
ふんがー点数ー;;
5.90名前が無い程度の能力削除
これは続きがかなり楽しみ。本職の方ですか?
気になったんですが訓練での迫撃砲ってどういう代物なんでしょう?
銃弾なんかはゴム弾とかペイント弾とかあるかと思いますが、迫撃砲って爆発したら材質がなんであれ危なすぎる気がするんですが…