Coolier - 新生・東方創想話

紫陽花とかたつむり

2007/05/22 13:28:41
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 竹林の音が変わった。ざわざわと葉が擦れあう音が消えて、静謐な時間が訪れる。
 そして、一瞬の後、今度は小さな水音。庭の池へと水滴が落ちた音…一つ…二つ…そしてそれは増えていく。竹林のざわめきも、その響きを変えて戻ってきた。周囲に静かな騒音が満ちた。

「雨…かしら?」
 巻物から手を放す、それはころころと転がっていく。何のことはない、暇つぶしに読んでいた物語よりも興味を惹かれただけ、もう百度は読んだであろうその物語は、一字一句まで間違えずに諳んじる事が出来る。なんとなく気分転換がしたかった。
昼なのに部屋はぼんやり暗くて、ちょっと気分が滅入っていたのだ。曇りよりはまだ雨の方が風情がある。
 視線をずらせば、薄く外を遮る障子の向こうに小さな水滴が見えていた。障子に小さな模様ができて、それがどんどんと落ちていく…不思議と面白い。
 私はゆっくりと立ち上がって、障子へと手をかけた。小さな軋みの後、それは滑らかに滑り出した。
 


 雨が降っている、暗い空から絶え間なく。
 雲が動いている、ゆっくりだけど絶え間なく。
 竹が少しだけ頭を下げて、しっとりとした風情を醸し出していた。



 私は黙って縁側へと出た。足元の畳が板に変わり、よどんだ空気に流れが出来る、外は暖かくもなければ寒くもなかった。
 ぼんやりと空を見た。屋根と竹林の狭間、分厚い雲の向こうには、永遠に帰ることのできない故郷がある。間にある雲より厚く、私と故郷は隔てられている。
 一瞬の後、手を伸ばしている自分に気づいた。ああ…なんて無駄な事を、未練はとうの昔に消したはず、愚かなことはやめよう。
 ゆっくりと手を下ろした。それはあるべき位置へと戻り、単衣の感触を伝えてきた。
 
 再び空を見る。暗い雲から、水滴は数えきれず、次々とやってくる。雨はだんだんとその勢いを増していた。
 それは途切れることなく降りそそぎ、あるものは敷石にはじけ、あるものは池の水へと同化し、そしてあるものは地面へと消えていく。大地がゆっくりと濡れていく。
 気づけば敷石は黒く染まり、池の波紋は水面を覆い尽くしていた。

 ごく短い時間…私にとっては一瞬よりも短い時間、その間に周囲の景色は大きく変わっていた。風にゆらめく竹林も、天を睨む花々もそこにはもういない。雨にうなだれる姿だけが視界に映りこむ、紫陽花だけがその景色に映えていた。
 この雨はいつかやむだろう、やまない雨などないのだから。でも、雲が晴れ、雨は消え、空に太陽が戻った時にも、私は変わらずここにいる。
 この水滴が地にしみて、そこから湧いて空へと昇り、再びここに降りてくる事があっても、私は変わらない。雨が幾度となく形を変えている間も、私の姿は変わることがない。

 一歩前に出る。庇から少し身体がはみ出した、小さな水滴が私にぶつかって、少しずつ濡らしていく、ちょっとだけ髪が重たくなっていくのを感じた。足に冷たく固い感触があった、そういえば靴を履いていない。
 少し顔を上げたら、頬に水滴がぶつかってはじけた。下は竹の葉、水滴の残骸は音もなく落ちて、その合間に消えていく。
 さらに足を踏み出す。固い石の感触がなくなって、まとわりつくような竹の葉の感触があった。足がゆっくり沈み込んで、じわりと水が滲んできた。不思議と心が弾んでいた。
 素足で外に出たことに、永琳は何か言うかしら?一瞬そんな事が思い浮かんだけど、別によかった。ここには永琳以外に誰も私を見る者はいない、私が永遠に変わる事がないように、それもまた変わらない事実。姫らしく振る舞う必要はない、たった一人の従者以外、誰も私を見ることはないのだから。
 そう言いつつ、自分が昔通りの生活をしているのが少し可笑しかった。結局、子どもの頃に身に付いた生活というのは、いくつになっても変わることはないのだろう…そう、いくつになっても。

 雨はもう強くなることもなく、ただただ降り続けていた。
 視界が水滴に埋もれ、ただでさえ重い衣装は、水を含んでさらに重量を増す。少し遅れて、身体に冷たさが伝わってきた。

「風邪…ひくかしら」
 独語する、こんな身体になっても病からは逃れられない。それはなんとも不思議なこと、身体の時は確かに止まっているはずなのに、病という変化だけは現れるのだ。
 もしかすると病というものは生きているという事実そのものなのかもしれない。死んでいれば病にかかることはない、病とは生きている証、そうすると、私は病から逃れるということはもうないのだろう。死という逃げ道はとうに閉ざしてしまったのだから。
 
 単衣を引きずりながら、私は庭を歩く。きっと、落ち葉や泥がついて洗うのには苦労するだろう、永琳から小言を言われるかもしれない。
 でも別にいい、どんなに時間がかかっても、私にとってそれは瞬きするような時間、永琳にとってもそうだろう。
 私の未来に終わりはなく、だけど既に終わっている。その不確定な時間の中には、決まった時間など何の意味もなさない。永遠の中に存在する時間は無限、どんなに長い時間も、有限である限り、その中では果てしなく零に近いのだ。

 紫陽花の葉の上を小さなかたつむりが歩いている。ゆっくりゆっくりと…貴方にとって、この時間はどれほどの長さと価値を持つのかしら?

 髪が肌に貼り付く感触がある、不愉快なはずなのに、今日は何故か心地よい。何故かしら?首を傾げ、そして考える…答えはすぐに見つかった。
 雨の日に、傘もささずに外に出るなどという経験はなかった。それは私にとって初めての体験、だから、そこで見つけたのは、久しく感じることがなかった『発見』という感触だった。
 それに気づいて、たちまち楽しい気持ちは消え去った。一瞬で心が濁る。
 私はまた一つ見つけてしまった、私が知らないことを見つけてしまった。これで、私が知らないことはまた一つ減ってしまった…
 さっきまで新鮮だった景色は、いつの間にか見飽きたものとなり、色あせる。たちまち興味が削がれた。纏った衣装がただ重たくなった。



 絶え間なく雨が降り、私を濡らす。周囲は薄暗く、心惹かれるものはなにもない。かたつむりはいつの間にかどこかへと消えていた。主を失った紫陽花の葉は、ぼんやりと雨を流す。滴がたまり、足元へと落ちた。
 私はゆっくりと手を伸ばし、紫陽花の枝に触れた。固い感触が手のひらへと伝わる、それにゆっくりと力を込めた。嫌がるように枝がしなり、自身にかかった暴力を吸収する。
 だけど私は力を緩めない、枝は大きく歪み、そしてそれが限界に達した時に軽い音を立てて折れた。せめてもの抗議のつもりなのか、その反動で私に数多の水滴が襲いかかり、ぶつかる。非力な弾幕が終わった時、紫陽花はまた黙って雨を浴びていた。
 私は彼女の抗議に遭うまでもなくびしょ濡れで、その手には薄紫の花が握られている。別に採ってどうしようというのは考えていなかった、ただ、なんとなく手を伸ばしてしまった。もしかしたら、紫陽花が羨ましかったのかもしれない。
 私と同じ…一つの場所にしかいられない紫陽花、だけど、それは永遠ではない。二つの牢獄に閉じこめられた私よりも、まだ幸せだ。
 
 紫陽花をゆっくりと持ち上げる。
 雨に濡れていても…いや、そうであるからこそ美しいその花は、動けないという点において私と同じであり、そしてある点において私と対極にある。

 一瞬であるから美しい、花が咲き、そして雨に濡れた時にだけその美しさを最大限に発揮する存在。一生の内、本当に限られた時間だけ輝く存在。
 人が最も輝く時とはいつなのだろうか?生まれた時?若い時?それとも死ぬ間際?まぁ人それぞれかもしれない、だけど必ず人は最も輝く瞬間を持っているはずなのだ。
 でも私にはそれがない…いえ、正確に言えば、最高に輝く瞬間を夢見て、それを目指すことはできない。なぜなら、私はこの瞬間が永遠なのだから。
 この紫陽花はまもなく枯れる、花瓶に生けておいたとしても、やがて枯れて美しさを失う。全ての生き物がそうであるように、命を終えて朽ちていく。
 でも、私にはそれがない。永遠に朽ちることはない、そして、転生することもない。再び輝くこともない。ならば私は生きていないのか?それとも生きながらにして死んでいるのか…私は今まで出せたことのない答えを求め、思考を重ねる。その時、突然雨が止んだ、その感触がなくなった。



 雨は止んでいない、雨音は絶えていない、だけど私にかかる水滴だけは消えていた。気づけば傘が差しかけられていた。ほっとするような気配を感じて、私は言った。
「永琳…」
 そこにいたのは私の従者、覚えられないほど長い間、共に時を過ごし、そしてそれ以上の時間をこれから共に過ごすであろう私の親しい人。
「傘も差さず…どうなされたのですか?」
 いつも通りの優しい言葉、高ぶった思考がゆっくりと落ち着いていく。
 私は黙って紫陽花を掲げた、それは少し揺れて、水滴を落とした。手に持った紫陽花は、折られる前となんら変わらないように見える。
 地面へと水滴が落ちたとき、私は言った。
「雨と…紫陽花を見ていたの。傘を叩く雨音が煩いから、差さないで」
 適当な嘘。気がつけば、誘われるように庭に出ていたなんて言えなかった。
「…お邪魔でしたか?」
「あ…いえ、いいわ、もう飽きたから帰ろうと思っていたのよ」
 永琳の声に、自分が彼女へ皮肉をぶつけていたことに気づいた。それを誤魔化すかのように、私は踵を返す。
「戻りましょう、ここにいても濡れるだけだわ」
 我ながら勝手で、無理矢理な言葉、私は既にぐっしょり濡れていた。身体中が重かった。でも、心はもっと濡れていた。自分が逃れ得ない牢獄へと入れられている事に気づいて、心はその深奥に至るまで…濡れていた。
 服はやがて乾くだろう、そして心も乾くだろう。でも、その意味は全く異なる。心が渇いたなら、その時私は私でいられるのだろうか?
 私は歩く、傘も追ってくる、ここだけは雨はやんでいる。永琳がいるのを感じて、なぜかほっとしていた。

 見れば、母屋は雨に半分隠れていた、屋根からは幾筋もの白い川が流れ、地に注ぐ。知らぬ間にずいぶん雨の中を歩いていたらしい。自分の行動がなんともいえず可笑しかった。
 自分を嘲笑いながら歩を進める、一歩、二歩…裸足で来たせいで、どこか切れたのかもしれない、足が少し痛い。死なずとも怪我はするのだから本当におかしい、私の身体はどうかしている。いえ、身体だけじゃないのかしら?
 さっきまでしんみりと考えていた反動だろうか、変な思考が脳を駆けめぐって、思わず笑い出したくなった。楽しいから笑うのではなく、とんでもなく辛いから出る笑い。頬が弛む、唇がぴくりと動作する、思わず口元を手で覆おうとして、やめた。
 どうせ永琳はわかっている、そして他の誰もわかっていない、わかるはずがない。なら、思いっきり自分を嘲笑ってやろう。
 私の身体は死なない、だけど、心はいつか死ぬだろう、身体が死なないことに、心が耐えられなくなった時に…そう、この嘲笑いが止まらなくなったら、きっと私は死んでいる。



「その紫陽花は生けるのですか?」
「え?」
 その時、何気ない問いが来て、私は足を止めた。同時に思考も止まる。一瞬で心が平静を取り戻した。傘が一瞬慌てたように動き、そして私を再び覆った。ぽたぽたと水滴が振り落とされた。

 雨が降っている、永琳が待っている、傘は私をしっかりと覆っていた。

 私は振り返らずに紫陽花を見た。
 咎なくして手折られた紫陽花は、私の手に握られている。一瞬、自分がまた罪を重ねたような気がして暗鬱な気持ちになった。
「え…ええ」
 長い長い時間の末に、私は意味もなく頷く、でも、それが耐えられないような気がして、首を振った。自分の見える所で、この花が枯れていくのを見たくなかった。そう、酷く無惨な気持ちになりそうだったから。
「ごめんなさい、いいわ。その…」
 でも、捨ててしまって…という言葉は出せなかった。私の気まぐれでその命を縮めた花、それを捨てるのは二重の罪になる気がしたから。
 私は紫陽花を持ったまま固まった、まるで、紫陽花に自由を奪われたかのように。



 雨は止む気配がない、半ば透き通った傘は、不思議な模様を頭上に浮き上がらせ、刻々とその姿を変えていた。



「羨ましいのですか?枯れる花が…」
 しばしの沈黙の後、永琳の言葉が届いた。さっき思い至った結論と全く同じ言葉、はっとして、私はうつむく、それが返事だった。
 永琳が黙り込む、私も何も黙り込む、傘を叩く音だけが雄弁だった。



「姫と…」
「え?」
 雨音の中に聞き慣れた声が混じった、反射的に問い返す。
「姫と紫陽花の違いは、何でしょうか?」
 永琳の言葉に私は答えない、でも、彼女も答えは期待していないのだろう。答えを期待しているのは…私。
「人と植物、不老不死と有限の命…」
 永琳の顔は見えないはずなのに、丁寧に丁寧に数えていく優しげな表情が視界に見えた。
「…そして、それ自身の在処」
「え?」
 理解できない不思議な言葉で、彼女の言葉は止まる。私は答えを待った、全く想像できない次の言葉を…怖さの中に不思議と心の高鳴りを感じながら。



 雨音が弱まったように感じた、気のせいかもしれない。明るくなった気がした、やっぱり気のせいかもしれない。でも、そう感じた。


 たっぷりの時間が…久しく感じたことのない長さを感じさせる時が過ぎ、永琳が口を開く、一瞬、私の心が高鳴った。
「姫、紫陽花は見えているもの、それが紫陽花です。でも、姫は今見えている身体が姫なわけではありません。そして…」
 そこまで聞いて、彼女が言おうとしていることを了解した。
「心は成長するとでも言いたいのかしら?」
 永琳の先回りをしたつもりで、私は口を開いた。彼女は言葉を止める。
 こういう時、自分が嫌になる。せっかく私を慰めようとしてくれている彼女に意地悪をしている、なぜだろう、自分でもわからない。以前そう言ったら、永琳は笑ってこう言ってくれた。「私の事を信頼してくれている証ですね」と…今もって、永琳のあの言葉は謎だった。
 でもそれはまあいい、永琳は私の質問になんと答えるのかしら?今はそれだけが気になった。予想外の答えが欲しかった、ありきたりでなく、そして私を納得させてくれるような…彼女なら、その答えを知っている気がしたのだ。
「それもあります」
 一瞬の沈黙の後、答えが聞こえた。私は振り返る、いつもより少しだけ真剣で、いつもよりもっと優しそうな微笑みが見えた。
 失望と期待、答えを半分認めた永琳に、私は先を促す。その時、手のひらから紫陽花の感触が消えた。思わず私は彼女の目を見た。

 雨はやはり弱まっていた、雲が薄くなっていた、もうすぐ太陽が顔を出す。小さな確信が嬉しかった。

「姫、こういう変化も…いいと思いませんか?」
 永琳は左手に傘を、そして右手には紫陽花を持っていた。とびっきりの優しい笑みを浮かべながら。そして、その紫陽花を歩いていたのは…
「かたつむり?」
 葉の裏にでも隠れていたのかしら?そこには、さっき見たかたつむりがいた。薄紫の花の上を、のんびりと進む。それはとても…
「いいわね」
 あまり似合っていたので、思わずつっけんどんな答えを返してしまった。ちょっと恥ずかしかった。
 でも、私の表情に気がついたのだろう、永琳が口を開く。
「一人で輝くよりも、二人で輝く方が、二人で輝くよりも、三人で輝く方が…」
 微笑みながら、彼女はゆっくりと詠う、紫陽花をくるくると回していた。気づけば雨は止んでいる、日射しが紫陽花に反射して、雨の中よりも輝いて見えた。また一つ小さな発見、でも、今度はなぜか悲しくない。
 紫陽花の葉に輝く小さな水滴、その中に世界が映り込む。小さな世界は、日射しを浴びてきらりと光った。
「紫陽花が…一つのものが変わらなくても、寄り添うものが違うだけでこんなに違う」
 永琳はそう言って傘を下ろした。水滴が地に落ちて、消えていった。
 私はそこで気がついた、永琳は本当に私の考えが判っていたのだと、紫陽花が羨ましい…その本当の理由まで。



 雨が止んで、風が生まれた。光が差して、地面が輝いた。私は呆然と立ちすくんでいた。



「姫」
「え?な…何?」

 呆然としていたところに声をかけられて、私は思わず反駁した。永琳が微笑む、いつの間にか傘は畳まれ、頭上には太陽が輝いていた。白い雲がきれいだった。
 あれほど分厚かった雲は、一体どこに行ったのだろう?絶えることなく降っていた雨は、果たしていつの間に消えたのか、あれは永遠ではなかったのかしら?
 水面は平静を取り戻し、あれほどたくさんあった波紋は、いつしか完全に消えていた。所々に見える水たまりも、日射しをはね返して世界に輝く。目に見える全てが優しく光っていた。

「お客様ですよ」
 その時、再び永琳の声。私の思考は、停止状態から脱して、今度は混乱し始めた。お客様?何で…誰が…ここに?
 混乱はとどまることを知らず、思考停止より尚悪い。
 
 私が戸惑うのを喜んでいるかのように、永琳は黙って私の手を引いた。
 両手がふさがっているせいで、永琳の暖かな手のひらは少しだけ、二人の間には紫陽花が挟まっていた。それがなにか悔しくて、落とさないように慌てて別な手に持ち変える。
 かたつむりは平然と花の上を歩いている、その落ち着きが少し憎らしかった。水滴をのせて輝いている、小さな殻は綺麗だった。
 その時、手のひらに力がかかって、私は前へと引っ張られる。思わず踏み出した足が、水たまりに入り込んだ。水面に小さな揺らぎができて、ぽちゃんと静かな音がした。
「え…ちょっと…待ってよ永琳」
 私は、まるで小さな子どもみたいな声を上げて永琳を見る。相変わらずその表情は柔らかかった。まるで、小さな子どもを見守るようなそんな顔…
 その時、昔のあの言葉をもう一度思い出して、ようやく意味が判った。少し不愉快だったけど、だけどとても嬉しかった。
「お客様はかたつむり?」
 わざと子どもっぽい声で言ってみた、何十年…いやもっともっと長い時間、そんな昔の記憶が、鮮やかに蘇った。
「いいえ、可愛い兎さんです」
 聞こえてきた声は私をあやすみたいで、そして少し弾んでいて…とても嬉しそうだった。握った手から、あったかな気持ちがしっかりと伝わってくる。
 
 永琳はゆっくり歩いていく、私は黙ってそれについていく…見上げれば青い空に白い雲、そして、一本の虹が輝いていた。





 それは、私がてゐというイナバに逢った日のこと、私の止まっていた時が、少しずつ動き始めた日のこと、雨上がりの、世界がきらきらと輝いていた日のことだった。



『おしまい』
 
読んで下さった方々、ありがとうございました。
雨を見ていたら、ふとこんなお話が思い浮かんで書いてしまいました。
不老不死になると、どんな気持ちになるのでしょう?そんな質問を自分にしながら書いた小さな物語です。少しでもお楽しみ頂けましたなら幸いです。

あと、実は以前から創想話には別なPNで投稿させて頂いたりしていたのですが、今回は新しい作風に挑戦してみたいと思いまして、勝手ながら別なPNで投稿させて頂きました。しばらくしましたら元に戻ります、しばしの間ご容赦を。
それではこれにて失礼致します。

六月五日
改訂版投稿いたしました。
ということで、ご指摘を元に、出来る限り(といっても少しでしたが)改善してみました。色々なご指摘、ありがとうございました、心よりお礼を申し上げます。
このお話は、いつものほのぼのコメディー(自己分類orz)とは違った、優しくて綺麗なお話を目指してみました。いつものがほわほわとしているのに対し、こちらはす~っと心に染みてくるようなものが目標だったりします。…うまく説明できないやorz
何はともあれ、これからはこうしたお話もちょこちょこと書いていければなぁ…と思います。PNは統一しますが、題名でそれらしい区別をつけようかと。
それでは、また次回作で。

六月十一日
ご指摘を受け、本文を再度微修正いたしました。
浜村ゆのつ(アッザム・de・ロイヤル)
http://www.rak2.jp/town/user/oogama23/
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コメント



0.760簡易評価
6.60床間たろひ削除
これは実に良い輝夜。
ただ後半ちょっと焦りすぎな気も……もっと上手く情景描写と心理描写が融合してくれたらとか何とか。
レベルが高い作品を読むと、思わず厳しい目で見てしまうのは悪い癖なのですが、もっともっと素晴らしい作品を読みたいが故のわがままと思ってご容赦くださいw
11.無評価浜村ゆのつ削除
>床間たろひ様
アドバイスとご感想、ありがとうございました。アドバイスを受けまして、一部修正致しました。
>>後半ちょっと焦りすぎな気も……もっと上手く情景描写と心理描写が融合してくれたらとか何とか。
ふむむ…確かにそうですね、完成を焦ってしまった部分があったように思います。地の文を中心に修正してみました。
セリフにも手をいれてみたかったのですが…今の私の技量では、まだ力不足なようですorz
これからももっとよいものが書けるよう、頑張っていきたいと思います。
12.50名前が無い程度の能力削除
PNを変えて投稿なさるということは、忌憚なき意見を徴収したいお考えと勝手に想像して、受けた印象をそのまま書きます。
たぶん、ブラウザで見るからなのでしょうが、一文が長くて読みづらく感じました。それは意識済みということなら、無視してください。文庫にするのだったらこれで問題ないでしょう。
全体に流れる、雨の雰囲気、随想としてのしっとりとした情景描写には好感が持てました。紫陽花も好きな花なので。かたつむりが平仮名だったのも、自分的に良かった。
前の方も書いておられましたが、後半の描写が淡白に感じました。特に晴れてからが。
これは本当に個人的な意見になります。
晴れたら、いろいろと変わることがあるだろうに。
例えば葉や花々は色めきを増すだろうに、滴る雫は光線を反射して輝くだろうに。なぜそれを書かなかったのだろう。
雨の時に風景を描くのに使った分量との対比ができていないじゃないか。そう思ってしまいました。
結局、自分が書くならこう書く、という意見になってしまうのですが。雨の時も晴れの時も、もうちょっと自然に対する観察眼を鋭くして欲しかった。
それでこそ、丁寧な心理描写が活きてくるのではないでしょうか。あくまで、随想として捉えるならば、ということですが。
輝夜が見る物全てに飽きてしまっていて、感覚が鈍磨しているという理由なのであれば、そもそもこのお話自体成り立たないだろうし。
長文の感想、失礼いたしました。
13.無評価浜村ゆのつ削除
>名前が無い程度の能力様
ご意見とご感想ありがとうございますww
もちろん、忌憚ないご意見は非常にありがたいです。
>>一文が長くて読みづらく感じました
ふむむ…実は、私の場合これ位が丁度いいと思っていたので…
でも確かに、文庫で読むのとブラウザで読むのでは違いますね。今度はもう少し文の区切りに気をつけたいと思います。
>>後半の描写が淡白に感じました。特に晴れてからが。
ああ、これはまったくもって迂闊でした。読み直してみると確かにそうですね。修正の際にも心理描写にばかり気をとられてしまいまして。
『雨の情景』にばかり気をとられて、とても大事な『変化』の部分がおろそかになってしまったのは我ながら間抜けです。こちらの箇所は、後ほど加筆修正しておきたいと思います。
>>雨の時も晴れの時も、もうちょっと自然に対する観察眼を鋭くして欲しかった。
これは私の力不足ですねorz
最大限注意したはずなのに今読むと穴だらけ…加筆修正の時にできるだけ直すと共に、これからの課題にしたいと思います。

ご意見の方、とても参考になりました。
まずいところがわかると、そこを直そうとすることが出来るので…ご意見は本当にありがたいです。
14.無評価名前が無い程度の能力削除
二番目にコメントしたものから追伸です。書き忘れたことをば。
読みづらいと書いたことについては、あまり気にしないでください。こういうのは多数の人からの意見を統計して、平均化してみないと本当のことは分からないものです。一人の意見に左右されて、文体を崩す必要はないと思います。
実際、普通に縦書きで読めばかなり読みやすいのですから。
色々と僭越な事を言ってしまって、申し訳なかったです。
こういった本物の文章のみで挑まれる方は、創想話の中でも少ないので、勝手ながらかなり期待しております。陰ながら応援しています。
16.70ドライブ削除
いい感じの作品だと思います。
不老不死となってしまった人間の想いは、こんな感じなのかも知れませんね。
後半、描写が淡白という感じは確かにありました。しかし、これはこれでいいと思います。前半は、輝夜1人なので、輝夜を引き立てるためにも、描写はあったほうがいいですが、後半は永琳もいるので、永琳との会話をメインとするならば、背景の描写は流してもいいと思います。
と、個人的な意見を長々と失礼致しました。
17.無評価アッザム・de・ロイヤル削除
ご意見とご感想ありがとうございますww
大変参考になりました。
尚、PNは元に戻っています。

>名前が無い程度の能力様
本物の文章などとは恐縮です。ですが、拙くとも、少しでもそれに近づけるよう、努力だけは怠らないようにしたいと思います。
ご指摘を元に、少しだけですが直してみました。まだまだ改善の余地はあるとは思うのですが、今作の改良はここで一区切り置いて、あとは今後の課題にしたいと思います。

>ドライブ様
そうですね、私たちにはその気持ちは想像するしかできないのですが、その一つの可能性として受け止めていただけたのなら幸いです。
あと、後半の描写の部分ですが、結局悩んだ末に、情景描写は増やしつつも、やはり前半よりも軽い形にしてみました。
会話を埋もれさせないようにしつつ、前半とのギャップが出過ぎないように…上手くできたかはわかりませんがorz
18.70椒良徳削除
 こんなことを言うのは無粋だが、……は二個並べて使うものだと思います。!と?の後ろに文章が続くときには後ろにスペースを入れるものだと思います。
>巻物から手を放す、それはころころと転がっていく。何のことはない、暇つぶしに読んでいた物語よりも興味を惹かれただけ、もう百度は読んだであろうその物語は、一字一句まで間違えずに諳んじる事が出来る、なんとなく気分転換がしたかった。
この文章はなあ、何だか読みづらい。個人的な意見を述べさせていただくなれば長すぎる。
すくなくとも、なんとなくの前は句点でしょう。私はそう思います。
>紫陽花の葉の上を小さなかたつむりが歩いている。
おもしろい表現だなあ。かたつむりが這うのを歩くと表現するとは。おもしろい。

 さて、そんなことはおいといて、内容に関して述べさせていただきます。
……いいなあこの雰囲気。文章といい雰囲気といい大変綺麗で良かったです。良い輝夜。良い永琳。良い二人の関係。実に良い。輝夜の感情が丁寧に描写されていて、彼女の気持ちがありありと伝わってきました。優しくて綺麗な話を目指したとのことですが、それは成功しています。なかなかかけるもんじゃありません。凄い。私もこんな作品を書いてみたいものだ。
19.無評価アッザム・de・ロイヤル削除
>椒良徳様
ご意見とご感想ありがとうございました。ご指摘を受けた部分、修正してみました。
小さな心理・情景描写を重ねて、リズム感を出そうと企んだのですが、失敗してしまったようです。私の技量不足ゆえですね、今後、精進していきたいと思います。
文法についてですが、以前もご指摘を受けましたが、web上ではこちらの方が読みやすいかなと思い継続しております。web上での書き方については、情報を集めつつ、今もよりよいものを目指して試行錯誤中ですので、その中での一つのご意見としてとてもありがたく思います。
かたつむりに関しては、そう言っていただけますと幸いです。這うよりも歩く…にした方がやわらかく、優しげな雰囲気が出るかと思いまして。
内容の方、気に入って頂けたようで何よりです。特に、狙いが上手くいったと言われ、小躍りしておりました。
次は、もう少しいいものを書ければな…と思います。
25.100名前が無い程度の能力削除
ok