Coolier - 新生・東方創想話

境界の、とある朝

2004/06/19 05:24:25
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幻想郷の境界に存在する、とある屋敷にて。

      紫「・・・・・・・。」

『八雲 紫』は、空を見ていた。

      紫「・・・・・・こんな時間に、目が覚めるなんてね。」

朝。
紫がこの時間に目覚めることは、まず無いはずだったが・・・。

      紫「眩しいわね。」

空は、憎々しいくらいの快晴。
真夏の暑さは薄らいだとはいえ、それでも暑いのは確かである。

      藍「あれ?紫様が起きてる?」

紫の式神『八雲 藍』が、洗濯物を抱えつつびっくりする。

      紫「おはよう、藍。」
      藍「おはようございます、紫様。今日は無駄に早起きですね。」
      紫「春眠暁を覚えずだけど、残暑眠は朝の光を覚えたらしいわ。」
      藍「紫様、日の光なんざ見てたら、眼が潰れますよ。・・・よいしょ。」

 ドサ

藍は、すでに乾いた洗濯物を床に置く。

      紫「私は土竜じゃないわ。たまには、日光浴も悪くないでしょ?」
      藍「悪くないけど、暑いのは勘弁してほしいですよ。」

紫が普段、この時間帯に眼を覚ますことは無い。
一日十二時間睡眠、加えて夕方から夜にかけてしか行動しない。
まるで、夜行性の生物のようである。
夜行性の生物なのかもしれないが。

      藍「紫様、朝食はどうします?」
      紫「いただくわ。朝ごはんなんて、何ヶ月ぶりかしらね。」
      藍「『何年』単位になるかと、記憶しておりますが。」
      紫「そうだったかしら?」
      藍「そうですよ。じゃ、作るからちょっと待って下さい。」
  
喋りながらも、洗濯物をたたむ藍。
相当、手馴れた様子である。

      紫「・・・・・・ふぁ~・・・・・。」
      藍「おや、もう一回寝られますか?」
      紫「欠伸というのは、脳に新鮮な空気を送り込む行為よ。何か勘違いしてない?」
      藍「してませんよ。それじゃあ、私は食事の準備しますから、これ、箪笥に片付けてください。」
      紫「・・・私を使うなんて、あなたは何時からそんな自堕落になったのかしら?」
      藍「自堕落とは心外な。運動不足な主人を気遣っての、式神の思いやりですよ。」
      紫「ふう・・・。その思いやり、有難く受け取ろうかしら。」
      藍「助かります。」

紫が洗濯物を片付け、藍は炊事場へ向かう。

      藍「パンと米、どっちにします?」
      紫「お米でお願い。」
      藍「わかりました。」

 グツグツ・・・・

米を炊く音がする。

      紫「あら?お米はもう洗ったの?」
      藍「玄米を水につけておいたやつを使ってます。」
      紫「水につけておくと、どうなるの?」
      藍「甘味が増して、美味しくなるんですよ。」
      紫「ふうん。」
      
 トントントン・・・・

野菜か何かを、包丁で切る音が響く。

      紫「あなたの式は、元気かしら?」
      藍「元気過ぎて困ってます。あいつは、いささか悪戯好きでして。」
      紫「かわいい盛りね。」
      藍「いやあ、まったくです。」
      紫「そういえばあの子、昔のあなたによく似てるわね。」
      藍「そうですか?」
      紫「そうね。例えば、ヒトを驚かすのが大好きだったり、それとか・・・。」
      藍「あ~!待って下さい、その先は言わなくていいです。」
      紫「つまらないわね~。」
      藍「もう・・・・。」

 ジュ~・・・・・

何かを焼く音。

      紫「ん~・・・。いい匂いね。」
      藍「もうちょっと待って下さい。あと、つまみ食いは駄目ですよ。」
      紫「そこまで飢えてはいないわ。」

そして待つこと、数分。

      藍「出来ましたよ。」
      紫「待ってました。」

藍が、出来たての朝食を運んでくる。

      紫「それじゃあ、いただきます。」
      藍「いただきます。」

手を合わせる二人。

      紫「それにしても、お料理上手くなったわね。」
      藍「何年、お仕えしてると思ってるんですか。」
      紫「『何十年』どころじゃないと思うわ。」
      藍「そういうことです。大体、夕食と夜食は毎日食べてるでしょうに。」
      紫「あら、この玉子焼き、美味しい。」
      藍「でしょう?稀少品の、『世にも珍しい怪鳥』の卵が手に入りまして。」
      紫「ふうん。その稀少品を、贅沢にも玉子焼きにしたのね。」
      藍「こういうのは、素材の味を活かした調理法で食うべきですよ。」
      紫「目玉焼きとか。」
      藍「それもありですが、私はこっちの方が好きなんですよ。」
      紫「生で。」
      藍「稀少品を、一気に『ずる!』って飲むのも、味気ないでしょう。」
      紫「殻ごと丸呑み。」
      藍「蛇じゃないんですから。」
      紫「ピータン。」
      藍「珍品を珍味にしなくても・・・。」
      紫「ところで、その『世にも珍しい怪鳥』って、具体的に何なの?」
      藍「・・・・・さあ?」
            
会話とともに、食事も進む。

      紫「ごちそ・・・・。」
      藍「とと、待って下さい。まだ残ってるじゃないですか。ちゃんと残さず食べる。」
      紫「え~・・・・。」
      藍「そんな顔しても駄目です。」
      紫「ふん。お料理は上手くなったけど、意地悪にもなったわね。」
      藍「昔、ご飯は残さず食べなさいって言ったの、誰ですか?」
      紫「それ、何百年前の話?もう・・・。」

渋々、残りのものを食べる紫。

      紫「ごちそうさま。」
      藍「はい、お粗末様でした。」

食事が終わる。
藍は食器を持って、再び炊事場へ向かう。

 カチャカチャ・・・

食器を洗う音。

      紫「・・・・・ふあ~ぁ・・・・・・。」
      藍「おや、脳に新鮮な空気を送ってるんですか?」
      紫「脳に酸素が足りないの。足りないと脳細胞が死滅してしまうわ。」
      藍「それは一大事。遠慮なく、酸素を補充して下さい。」
      紫「誰に遠慮する必要があるの?」
      藍「植物でも置きますか?光合成で酸素が出ますよ。」
      紫「そうねえ・・・。食人植物とか。」
      藍「そんな物騒なもん、置かなくても。」
      紫「マンドラコラは?」
      藍「どっかの黒白が奪いに来るに決まってます。」
      紫「ドリアードを飼うとか。」
      藍「食費がかかりますから、駄目です。」
      紫「世界樹。」
      藍「家に置けない。」
      紫「全部駄目じゃない。」
      藍「もっと手間のかからない物にしてください。花とか。」
      紫「ラフレシア。」
      藍「だから・・・・。」
      紫「私が世話するわよ。」
      藍「絶対嘘だ・・・・。」

そうこうしているうちに、食器が洗い終わる。

 トントン・・・・

そして、再び包丁の音。

      紫「もうお昼ご飯?」
      藍「さっき朝飯食べたばかりでしょう。食後のデザートです。」
      紫「それは素敵な催しだわ。」
      藍「催しってほどのもんじゃないですけど。」

藍が、何かを運んでくる。

      紫「桃?」
      藍「先日、『仙桃』のいいやつが手に入りまして。」
      紫「美味しそうね。いただきます。」

桃を食す紫。
藍も手をつける。

      紫「ん。よく冷えてるし、美味しい。」
      藍「ええ。その辺の安物とは違うらしいですから。」
      紫「何が違うのかしら?」
      藍「・・・・・年代とか?」
      紫「腐ったりは、してないわよね?」
      藍「それは大丈夫です。きっと。」
      紫「あら?最後の一切れ。」
      藍「紫様。」
      紫「ん?」
      藍「・・・・ジャン、ケン!」
      紫「ぽん!」
      藍「・・・・負けた。」
      紫「自分で挑んでおいて負けるなんて。」
      藍「ジャンケンの勝率は、常に一定なんですよ。今回はたまたまです。」
      紫「負け惜しみなんて、往生際が悪いわ。罰として・・・、あ~ん。」
      藍「・・・?」
       
紫が、大きく口を開ける。

      紫「ほら、あ~ん。」
      藍「何のつもりです?」
      紫「あ~ん。」
      藍「・・・・・もう。」

藍は最後の一切れを、紫の口の中に入れる。

      紫「ん~。ヒトに食べさせてもらうのも、たまにはいいわね。ごちそうさま。」
      藍「ごちそうさま。」
     
炊事場に、皿を運ぶ藍。
少しして、戻ってくる。

      藍「ふ~。」
      紫「もう疲れたの?」
      藍「まさか。ただ、紫様がこんな時間に目覚めるなど。」
      紫「仕事が増えた、とでも言いたいのかしら?」
      藍「やはり、昨今の異常な月のせいですか?」
      紫「・・・・・・。」

紫の顔が、一瞬だけ真剣になる。
が、すぐに元に戻る。

      紫「まあ、そうね。こんな状態じゃ、朝も昼もおちおち寝てられないってやつかしら?」
      藍「じゃあ、何とかしますか?」
      紫「やだわよ。面倒くさい。他の誰かがやるわ。」
      藍「そうですねえ。」
      紫「それとも藍。あなたが行く?」
      藍「ははは、ご冗談を。」
      紫「本気よ。割と。」
      藍「嫌ですよ。洗濯物干さなきゃいかんですし、掃除もしなきゃ。」
      紫「それじゃあ、駄目ね。」
      藍「まあ、他の誰かに任せましょう。」

二人は、死活問題を他人事のように扱う。

      紫「ふあ~・・・・・。」
      藍「おや、脳の酸素が足りなくなりましたか?」
      紫「お腹一杯になったら、眠くなってきたの。」

紫は、その場にごろりと寝転がる。

      藍「ちょっと紫様、こんなところで寝ないでください。」
      紫「だって、お布団干すつもりでしょ?」
      藍「まあ・・・確かに。」
      紫「だから、『こんなところ』で我慢して寝るのよ。干した後のお布団は気持ちいいし。」
      藍「いや、そういう問題ではなく・・・・。」
      紫「おやすみ~・・・。」

それを最後に紫は、深い眠りへと堕ちた。

      藍「・・・・こんなとこで寝られると、掃除が出来ないんだよなあ・・・・。」
      紫「・・・す~・・・。」

式神の呟き。

      藍「月の異常か。紫様、ほんとに動かないつもりなのかな?」
      紫「・・・・らん~・・・・。」
      藍「?」
      紫「・・・お手~・・・・。」
      藍「・・・わたしゃ、犬か・・・。」
      紫「そうじ~・・・せんたく~・・・・・ん~・・・。」
      藍「はいはい。今やりますよ。」 
    
紫の寝言。

      藍「さて、と。布団でも干すか。」
      紫「・・・行くわよ・・・、月を戻しに・・・。」
      藍「・・・・・何ですと?」
      紫「ぐ~・・・・・。」
      藍「ああ、やっぱり寝言か。」
      紫「・・・・す~・・・・。」
      藍「・・・そうよねえ。紫様が自ら動くなんて、考えられないしなあ。」

紫が動くことはないだろうと勝手に思い、藍は仕事に戻る。
少々異常な、八雲藍の朝であった。

何気に、ほのぼの。

時期は、永夜抄の数日前くらいで。
この二人の日常って、案外こんな感じかなあと、妄想。まあこの話は、非日常的な話なんですけど・・・・。
あちこちで酷い目に遭ってる藍に、せめてもの救いを・・・。私も酷い目に遭わせてる一人ですが。

しかし、前回投稿したやつといい、この手のモノをよく書くようになった気がします。飢えてるのかなあ・・・・。
Piko
[email protected]
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コメント



0.2510簡易評価
5.50名前が無い程度の能力削除
「何ですと?」が個人的にツボ。永夜抄で人気上がるといいなあ…
17.50nagishiro削除
何だかんだ言って想い合っている感じの二人ですね。そこはかとなくラブラブな感じもしたりしなかったり。・・・そういえば橙は・・・
60.100どどど削除
…いいw