Coolier - 新生・東方創想話

霧雨邸の悲劇

2007/05/16 10:32:20
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 序幕






 うーん、と伸びを一つ。ついでに欠伸も一つ。霧雨の銘を冠した魔法使いが、部屋の中から姿を現した。
鏡に映った横顔は、年頃の少女のもの。肩よりやや長く伸ばした金髪にすばやく手を入れると、そのまま服を脱ぎ始めた。と言っても別にどこぞの狐よろしくスッパになって喜ぶわけではない。ではなぜかというと、理由は一つ。ただの着替えである。そうして少女が下着だけの姿となったときのことである。
どかーん、と。
何か、不穏な物音がした。しかし少女は慌てずに、いつも着ている白黒の服を手にとって袖を通す。ここは魔法の森だ。爆発音など、別段怪異でもない。大方、アリスあたりが徹夜明けの実験に失敗でもしたのだろう。
軽く顔を洗って水気をタオルで拭き取ると、片髪のお下げにリボンを結び、黒い帽子を引っ掛ける。最後に鏡を覘いてウインク一つ。いかなる時も、身だしなみはチャーミングに。
いかん、これじゃ狐だぜ。
なんとなく頭に浮かんだ四面楚歌な考えを振り払い、朝食の準備に取り掛かろうとキッチンへ移動。森の奥が見える窓のカーテンを開ける。シャッと小気味良い音がした。
さあ。今日も普段と変わらない、霧雨魔理沙の一日が始まる。はずだったが。
ずどおおぉぉぉぉーーーん。
『魔理沙ァァァァァァァーーーーー!』
「おいおい、ありゃ何だ?」
窓から見える光景に、しばし呆然。次いで、頭痛が襲ってきた。
「まさかとは、思うが………。ここに来ないよな、アレ?」
霧雨魔理沙は一人暮らしである。そして、昨日は誰か人を泊めた覚えは無い。よって、この問いに答えは返ってこない。だが、ソレの言動を見れば一目瞭然であり、故に現実は無情であった。
果たしてそれは、直後に事実となって霧雨邸にのしかかる。轟音と共に、壁の一部が崩壊したのだ。魔術防御されているはずのこの邸だが、びゅうびゅうと吹き込む風は、そんなものは気休めと言わんばかり。
唖然とする魔理沙は、やけに冷静にこう思った。
「事件は時と場所を選ばない、か……」
どうやら、始まったのは少しばかり常と異なる一日のようであった。






霧雨邸の悲劇






第一幕   霧雨邸






「何なのよ、これは………」
私はそう言った。何というか、意識せずとも声が出てしまった、とでも表現しようか。思わず、目に付いた物を手当たり次第に壊してしまいたい衝動に駆られるが、グッとこらえる。
「これが破壊衝動………。私の妹はこんなモノと闘っていたのね」
「とりあえず、そのセリフは壁を壊す前に言ってくれ」
間髪入れずに、魔理沙の言葉が返ってくる。どうやら、壁を破壊したことをまだ怒っているらしい。
「あんまり怒ると、美味しくなくなるわよ?」
「何の話だ?」
「血」
すぱーん。
「痛いじゃない」
箒で殴られた。思いっきり。しかも掃くほうで、顔面を。
「五月蠅い!どこの世界に突然やってきて家をぶっ壊す馬鹿が居るんだよ?」
「ここに居るじゃない」
私は指差した。無論、自分を指すようなボケはしない。指し示したのは相手。そう、魔理沙である。
「おい。私が何時、何処で、何でもって、誰の家を壊したって言うんだ?」
「来る度に、門前で、マスタースパークで、私の家を壊してくれてるじゃない」
私は容赦なく言い放つ。腕を組んで、相手を睨みながらのその行為は、誰が見ても威厳に溢れているだろう。惜しむべくは、相手を見下ろせていないこと。私よりも魔理沙のほうが背が高いのだ。
「あれは門だぜ。壊してるのは家じゃない」
うわっ、言い切りやがった!
「屁理屈言わないの!」
今度は私が殴る。ばこん、となかなか景気のいい音がした。
「痛ててて。おい、何するんだ?」
「はあ……。もういいわ」
私は無駄に脇道に逸れてしまった話を、本題に戻すことにした。
「さあ、魔理沙。パチェのところから持っていった本を返してもらおうかしら」



◆◆◆
 
 
 
発端は、パチェの「魔理沙が本を返してくれないの」という一言だった。
数日前に食卓に上ったその言葉を受け、小悪魔が魔理沙宅を強襲した。が、そこは強力な魔術防御で護られている上に、魔法の森そのものが自然の壁の役割を果たしている霧雨邸である。天然ボケ、かつ方向音痴という典型的ドジっ娘の小悪魔では、そもそも邸に辿り着くことが出来ずに魔法の森をさまよった挙句、川に落ちて溺れかけたところを通りがかったアリスに助けられて、紅魔館まで緊急搬送された。
続いて送り込んだのは、役に立っているのかいないのか、今一つ判別がつきにくい中華の星。ご存知、紅美鈴である。紅魔館切っての肉体派の彼女は、こういった取立て役に適
任かと思われた。しかし対魔術の能力に穴があったか、美鈴はものの見事にトラップにつかまり、強制送還される。
こいつらには任せておけんと、次はパチェ御本人が出撃するも、紅魔館から出る前に喘息の発作に見舞われ、敢えなくドクターストップ。
更には、万全な対策を練って飛び出したはずの瀟洒なメイド長十六夜咲夜ですら、戦略的撤退を余儀なくされた。咲夜曰く、「久々に、『純粋に逃げるため』だけに時を止めました」とのこと。
「さすが魔理沙ね。蒐集品は誰にも渡さないという凄みがある」
いくらなんでも、ここで終わってしまっては紅魔館の名折れ。とはいえ、パチェや咲夜でも歯が立たない相手である。生半可な戦力では、陥落は難しい。
ちなみにフランは出さない。というより、出せない。なぜなら、紅魔館のメンバーで最も魔理沙に懐いているからだ。下手に行かせると、言いくるめられる危険性がある。敵の戦力を増強させる結果になったら、目も当てられない。
以上を踏まえて。当主である、この私自らの出陣と相成ったのであった。
思い立ったら即行動。人間の動きが一番鈍くなり、かつ油断しているであろう朝方に奇襲をかけることにした。戦術はスナイパー作戦。具体的には、霧雨邸がぎりぎり見える位置まで近づいて、そこから全力で神槍『スピア・ザ・グングニル』を投擲し、ピンポイントで直撃させる、という大胆かつシンプルな力押し作戦だ。しかも、投げると同時にグングニルに飛び乗り、自身もろとも突貫した。咲夜が言うには、これはその昔、タオなんたらとかいう有名な殺し屋も移動手段に使っていた由緒ある方法だとか。
ともあれ、奇襲は成功し、私は霧雨邸侵入を果たしたのである。



             ◆◆◆



「あー、言いたいことは分かった」
魔理沙はそう言って、ビーカーを置いた。テーブルの上には、シャーレが幾つか。
「つまり、本を返せと」
「ええ、そうよ」
私もそう言って、ビーカーを置いた。因みに、先ほど破壊した壁面は謎の一枚板を立てかけて臨時修復してある。
先刻から二人してビーカーだのシャーレだのを持っているが、別に実験をしているわけではない。少し前に私がお茶をせがんだところ、こともあろうに魔理沙はビーカーに緑茶を、シャーレにお茶請けを入れて持ってきたのだ。本人曰く「これしか空いてる食器が無かった」らしいが、そもそもこれらは食器ですらない、と私は思う。
「まあ、構わんぜ。ここにあるから持っていけ」
私の言葉に応え、魔理沙は居間らしき部屋を指して言った。しかし、そこには混然としたカオスの具現が広がるのみで、私が求める本が一体何処にあるのか、まったく分からない。先ほど私が破壊衝動に囚われる原因となった光景だ。要するに、私にこの混沌の窮み
から、自力で本を発掘しろと言っているらしい。
「冗談じゃないわ。こんな中に入るなんて、考えたくもないわよ!」
いつ六本足の黒いのが出てくるか分からないような処には足を踏み入れたくない。
「こんな中とはなんだ」
魔理沙はご立腹のようだ。まあ、自分の家がこんな場所呼ばわりされたのだから無理もないのかもしれない。だが。
「文句があるのなら、ここを片付けてからにして頂戴」
私はそう言って部屋を指した。すると魔理沙はややばつが悪そうに頭を掻いて、こう言った。
「そうだな。だが今日は無理だ」
「どうして?」
「慧音のところに行く予定があるからな」
「慧音って、あの半獣の」
「ああ」
瞬間、私の脳裏にピピーンと光が走った。
(たしかあいつは歴史を操る程度の能力を持っていたわよね………。それを使って本を取り返せるんじゃないか)
「一つ聞きたいんだけど、いいかしら?」
「おお、何だ?」
「慧音のところへ行って、何をするつもりなの?」
私が言ったとたん、魔理沙は黙ってしまった。なにやら恥ずかしそうに俯いている。ややあって、魔理沙が口を開いた。
「なあ」
「何よ?」
「笑わないか?」
うっすらと頬を朱に染め、恥らうその姿はとてもあの霧雨魔理沙とは思えない。不覚にも、一瞬可愛いと思ってしまった。一瞬だけ。
「笑わないわよ」
悶えていても埒が明かないので、続きを促すことにした。
「実はな……」
「ふむふむ」
「慧音に……」
声が小さくなる。私は耳を近づけた。
「慧音に、何?」
魔理沙はしばらく逡巡したが、やがて意を決したように言った。
「慧音に部屋を何とかしてもらおうと思ってさ」
「…………」
「…………」
「アハハハハハハハハハハハ!」
「えーい、笑うな!」
直後、魔法の森に私の笑い声と魔理沙の叫び声が響き渡った。






第二幕   竹林、ハクタクの住家






「ねえ、慧音」
「ん、何だ?」
「私、いやな予感がする」
「奇遇だな、私もなんだ」
夜通しかけて蓬莱山輝夜の襲撃を乗り切った藤原妹紅が、上白沢慧音の家でお茶を啜っていた。
二人とも、疲れた顔をしている。これから先に、もっと疲れる出来事が待っていることなど知る由もなかった。
合掌。



             ◆◆◆



「あれが慧音の家ね?」
「あれが慧音の家だぜ」
互いの顔を見遣り、笑みを交わす二人。周囲ではかさかさと竹の葉がこすれる音がする。
私たちは今、慧音の家の近くにある竹藪に身を潜めていた。どうやら、中には妹紅もいるらしい。正面から入っていくと面倒なことになりそうだな。よし!ここは一つ、景気付けのマスタースパークでも――。
「って、何物騒なもの構えてるのよ?」
ミニ八卦炉を構えた私に対し、レミリアがそんなことを言ってくる。
「何って、ミニ八卦炉だぜ。お前だって見たことあるだろ?」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「五月蠅いぞ!」
ばこーん。
喚きたてるレミリアに足払いをかけて黙らせた。顔面から地面にダイブする吸血鬼。なかなかレアな光景だな。
「大声出すな、気付かれるだろ」
そう言って懐から符を取り出した。
「ちょっ、魔理沙。マスタースパークなんて、どうするつもりなの?」
「決まってるだろ。ぶっ放す」
「何処の世界に、いきなりマスタースパークで家を襲う馬鹿がいるのよ!」
「グングニルよりはマシだと思うんだが?」
「アレはいいの!ピンポイントだから」
「なんだそりゃ」
身勝手なレミリアの言葉を聞き流す。しかし、なんでこいつはここまでついてきたんだろうか?謎だ。っと、せっかくいるんだし、有効活用するべきだな。
「まあいいか。それよりレミリア」
「何?」
「耳を貸せ」
私はちょっと思いついたことをレミリアに言ってみた。それを聞いているレミリアの顔がだんだんと変わってきた。その瞳に、次第に悪戯っぽい光が浮かぶ。私は、それを見て満足げに頷いた。



             ◆◆◆



「恋符『マスタースパーク』!」
轟!
「な、何だ!」
「必殺『ハートブレイク』(×5)!」
爆!
「妹紅!?」
半分が吹き飛んだ慧音の家に、二人の怪しい影が躍りこんだ。片や恋の魔砲使い、片や紅い悪魔。幻想郷最凶にして最悪の組み合わせが乗り込んできたのである。私はと言えば、初撃のマスタースパークをまともに食らった上、第二波の槍に貫かれて身動きがとれなくなってしまっていた。蓬莱人は十字架に磔にされましたって、冗談にしては質が悪い。
「お前ら、一体何なんだ!」
慧音が叫ぶ。
「霧雨魔理沙。普通の魔法使いだぜ」
「レミリア・スカーレット。カリスマ溢れる病弱っ娘よ」
二人が答えた。無い胸を張って、得意そうにしている。どうでもいいが、この場合は『一人と一匹』なのだろうか?
「そういうことを聞いてるんじゃない!何処の世界にいきなり人の家を破壊して住人を槍で磔にするやつらがいるんだ!」
「ここにいるぜ」
「パチェが言ってたけど、存在しないことの証明は難しいんだって」
慧音の激昂もどこ吹く風、この二人には通用しないようだ。
ここで、私の頭に一つ疑問が浮かんだ。
「ねえ、あんたら」
「何かしら?」
可愛らしく首を傾げるレミリア。幼さの中にも気品を漂わせたその仕草は、はっきり言ってとてもあの亡霊なんか比べ物にならないほどのカリスマ性を匂わせている。伊達に自分で「カリスマ溢れる」なんて言ってはいない。ちょっと悔しいけど。
「何で磔なわけ?」
そう、それだ。この二人は、私が不死であることを知っている。家ごと吹き飛ばすほどの気合の入りようなら、即座に二、三回殺されてもよさそうなのだが。
「おいおい、殺すのは拙いだろ」
「そうそう」
「流石に最低限の良識は持っていたか」
やや感心したような慧音。だが、何かが引っかかる。
「何故殺すのは駄目なんだよ?」
「だって……」
「下手に殺しちゃうと、復活して自由になっちゃうじゃない」
「はあ?」
その返事に、私は口を開けたまま固まってしまった。
「だから、無駄に殺すよりも生きたまま拘束したほうがいいと思ってな」
「生きてはいるからリザレクションで新しい肉体を創造できない。でも身体の自由そのものは利かない。そんな状態がベストなのよね」
「つまり、化けて出るかもしれない死刑よりも、生きてはいるが監禁されていて何もできない無期懲役のほうがむしろ安心だと。こういうことか」
「こら、慧音!何納得してるの!?」
腕を組んでうんうん頷いている慧音につっこむ私。
「おお、元気だな」
何故かは知らないが、笑顔の魔理沙に箒でつつかれた。
「さて、慧音。頼みがあるんだが」
「まるで自分達の暴挙が無かったかのように平然と話をするのはやめてくれ」
おお、ナイスだ慧音!
「じゃあ、無かったことにすればいいじゃない。貴女の能力で」
「おお!その手があったか!」
ポンッと手を打つ慧音。では早速と何やら怪しい動きで踊り始めた。ゆらゆらと上半身を揺らしながら、右へ左へ行ったり来たり。正直、すんごく怖い。夢に出てきそう。見ようによっては、ハクタク時より怖いかもしれない。魔理沙とレミリアも、思わず引き気味になっている。
「お、おい……。何なんだありゃ?」
「聞かないで。頼むから」
「そう………。貴女も苦労してるのね」
などと会話をしている最中も、慧音の謎のダンスはどんどんボルテージが上がっていく。
そして。
「レキシ、イタダキマァァァーーース!」
大きく髪を振り乱した慧音が、更に怪しさを増した動きでくるくると回り始めた。どこからか、「灼熱の、ハクタクダンス♪」とかいう怪しげなフレーズまで聞こえてくる。
「おい、慧音。慧音!」
「駄目ね。完全にトランス状態に入っちゃってるわ。まるで咲夜みたい」
「あ~あ。ああなったら、一刻は戻ってこないよ」
各々の思いを他所に、ダンシング白沢は踊り続けていた。






第三幕   再びの霧雨邸






「魔理沙よ………。良くここに住んでいられるな………」
「ほんと………。輝夜だって、こんなになるまで部屋をほったらかしにしないよ」
「お前ら、せめてもう少し言葉を選んだらどうだ?」
「受け入れなさい。それが現実よ」
驚きの感情を顕わにする二人に、魔理沙は少しむくれた顔をする。なんというか、可愛い。
「つまるところ、この部屋の歴史を弄くって、整理整頓しろと?」
「そういうことだ」
「無理」
慧音は即答した。その気持ちは私にもよくわかる。カオスだし。しかし、慧音は傍若無人という単語が服を着て歩いているとまで言われる霧雨魔理沙を相手にしていることを失念していたに違いない。
魔理沙は無言のまま符を取り出して掲げた後、声も高らかにこう宣言した。
「魔符『スターダストレヴァリエ』!」
「うおわああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー…………」
轟音を立てて、魔理沙が慧音を弾き飛ばした。悲鳴が森の奥へと遠ざかっていく。ええと、これは確か………。
「ドッペルゲンガー効果、だっけ?」
「何それ?」
「それを言うなら、ドップラー効果、だろ」
聞いたことも無い、という妹紅と、正しいのか合ってるのか判別はつかないが、ともかく別の答えを口にする魔理沙。平然としていることに疑問の声を上げる者は、当然のごとく存在しなかった。私も含めて、だが。
ややあって、森の奥から悲鳴が近づいてきた。
「ぁぁぁぁあぁあぁああああああああああ!」
それはそのまま魔理沙の家に突っ込んだ。爆音が轟き、霧雨邸が揺れ動く。
もうもうと立ち込める煙が晴れると、そこに慧音が目を回していた。額に、見覚えのある小ぶりな剣が突き刺さっている。そこから察するに、アリスの家にでも激突したのだろう。
果たして、木々の間からワンピース姿の魔法使いが肩を怒らせてやってきた。怒り心頭といった様子で、髪の毛が逆立っている。普段の可憐な少女然とした容姿からは、想像もつかないその様子に、私たち一同は呆気に取られた。
アリスはそのまま、倒れた慧音に向かって数体の人形を投げつけた。
「あれは……?」
「リターンイナニメトネスか?拙い!伏せろ!」
どっかーん!
それが、霧雨邸における、二度目の大爆発の瞬間だった。



            ◆◆◆



「言いたいことはよくわかったわ」
爆発の直撃を受けた慧音を介抱しつつ、私は言った。大事な人形を派手に散らせてしまったが、背に腹は変えられない。さようなら、私の特攻隊。貴女達の事、決して忘れないわ。
「で、誰が責任取るのかしら?」
その瞬間、三人の指が慧音を指した。
「こいつが勝手なこと言わなけりゃ、こんなことにはならなかったんだぜ」
魔理沙が言った。
「貴女も原因の一端であることに変わりはないわ。また後日、改めてお伺いするけど」
私が言うと、魔理沙はビクッと身を震わせた。いつもはいい様に振り回されているが、流石に今回はそうは問屋が卸さない。いくら彼女とて、私の怒りが本気かどうかに気付かないほど鈍感ではないだろうから。
「だが、お前の家については、こいつのほうが重罪だぜ?」
「お、おい待て魔理沙!それは逆恨みというんじゃ…」
「残念ね。貴女の味方はここにはいないわ」
レミリアが腕を組んで慧音を見下ろす。その迫力に押され、慧音は妹紅に助けを求める。
「うーん、私にはなんとも……」
「妹紅ぉ~」
恨みがましい目で見るも、妹紅はいたたまれないような表情をして押し黙ってしまった。
「満場一致ね。それじゃあ、貴女の起こした事件の責任、取ってもらおうかしら?」
私が睨むと、慧音は観念したような顔になった。理由はどうあれ、自分が私の家に突っ込んできたことは認めているようである。律儀というか、何と言うか。
多少気の毒な気もするが、だからと言って無罪放免する気はない。何せ、私の家は半壊どころか、土台から無くなってしまったのだから。
「さあ、観念しなさい!」
「た、助けてくれえええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーー!!」






終幕






「パチェ!見て見て、これ」
「あっ、この本!取り返してきてくれたの?」
「もちろん」
その晩、私は取り返してきた本をパチェに渡した。パチェはキラキラと目を輝かせて受け取ると、文字通り図書館に飛んで行った。途中、遠くからかなり危なそうな音が聞こえてきたが。
「………大丈夫かしら?」
ちょっと心配だったが、気にしないことにする。まあ、なんだかんだ言っても本当に危なければ気配でわかるし。
私は部屋に戻ると、ベッドに寝転がった。今日あったことを思い出しながら。
「今日は、なかなか面白かったわね」



             ◆◆◆



結局、私は不本意ながら全員の言うことを聞く羽目になった。
最終的に私のせいだと言える出来事は一つしかなかったのがなんとも納得いかなかったが、まあここは私が収めなければ話がどこまでも拡大しそうだったので、しぶしぶだ。
マーガトロイド邸は、はっきり言って酷かった。激突した私自身も驚いてしまった。だが、破壊されているだけなら修復はある程度簡単だ。
そこで歴史喰いの踊りを披露しようとしたら、何故か魔理沙とレミリアに止められた。曰く、「アリスの怒りにこれ以上油を注ぐな」とのことだったが、よくわからん。ただ一つはっきりしているのは、我が上白沢の一族に伝わる伝統の踊りはあまり受けがよろしくないらしい、ということだ。先祖伝来の秘伝を怖がるなど、けしからん。今度しっかりと教えてやらねば。
次は霧雨邸である。
これは非常に骨の折れる仕事だった。何せ、下手に置き場を決めるとマジックアイテムが干渉し合って、とんでもないことになってしまう。加えて、やれキッチンは歩けるスペースを確保しろだの、本は枕元に近い位置に集めろだの、注文が多すぎだ。まったく。私は便利屋ではないのだぞ。
最終的に、レミリアの運命操作まで使って解決した。どうやらマーガトロイド邸から強奪した物品もあったらしく、アリスがそれを取り返していた。紅魔館からの借り物のほうも無事見つかり、ここへきてようやく一同は安堵のため息をついたのだった。



             ◆◆◆



かくして、今回の騒動は終わりを告げた。
この話は、一部始終を陰から覗き見ていた文によって、翌日には幻想郷中に知れ渡ってしまった。
以降しばらくの間、慧音の元には破壊された家屋の修復依頼が大量に舞い込むこととなった。
この件の犠牲者は慧音であると誰もが思っていたが、当の本人はこう思っていたという。
もし、無機物に意思があるのならば、真の犠牲者は、霧雨邸そのものではないか、と。


霧雨邸の悲劇
                                    完
三度の投稿になります、久遠の夢です。
もともと、これは昔恋色マジックに友人のサークルを手伝いに行ったとき、「何か出さないか」
と言われて書いた作品です。配布物だったのですが、そろそろ時効ということで、
今回引っ張り出してみました。
ところどころおかしいような部分もあるかもしれませんが、それは上記の理由によるものです。
ちなみに、原題は「霧雨邸の憂鬱」だったのですが、これだと確実に某ハルヒ嬢との関係を
示唆していると受け取られそうなので、変えました。読んでくださった方なら分かると思いますが、
全く関係無いです。

それにしても、魔理沙とレミリアの組み合わせって、疫病神以外の何物でもありませんね~。
どちらも実力は折り紙つきっていうのも、恐怖に拍車をかけます。
でも、藤原の姫の言うところの「一人と一匹」のこんなに厄介な組み合わせに魅力を感じてしまうのは
私だけではないはず!これからは魔レミの時代ですよ、皆さん!
久遠の夢
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コメント



0.520簡易評価
4.60名前が無い程度の能力削除
う~ん、面白かったのですが・・・「久々に、『純粋に逃げるため』だけに時を止めました」と咲夜さんに言わしめたのが何だったのか??
魔法の森?霧雨邸?魔理沙?
読んだ内ではそこまですごい相手が誰(?)だったのか分かりませんでした。

迷子になった挙句川に落ちちゃった小悪魔と、ある意味その上を行く、紅魔館から出ることすらできなかったパチュリーの図書館組が素晴らしい。
5.無評価名前が無い程度の能力削除
でも一番悪いのは魔理沙だと思うんだ。
一番悪い奴が一番痛い目に遭わないのは
スッキリしないんだ。