Coolier - 新生・東方創想話

春萌えて夏の盛りは一時ぞ秋に実りて、冬に死ね

2007/05/16 10:17:49
最終更新
サイズ
4.4KB
ページ数
1
閲覧数
687
評価数
5/28
POINT
1400
Rate
9.83



束の間の夢を観る。人間の決めた月日にすれば長いけれど、妖怪にしてみればほんの数瞬。
瞬きする間の幻想。
けれど、いつからだろう。
こんなにも、夢を観ている事がもどかしくなったのは。








春告げ精は残酷で、束の間の栄華を容易く打ち壊す。人は春の陽気に浮かれて笑い、私は
また長い眠りにつく。
温かい陽気を睨みつけ、咲き誇る花の色を嫌悪する。
けれどそれも少しの間。後は何も考えず、硬くなってイライラする心を静める。眠りにつ
く頃には心地は良くはなるけれど、遠くなる冬が名残惜しい。
名残雪を枕にして、冷え切った洞窟の中冷蔵される私。出来れば、と。長い眠りに幸せが
ある事を望む。








動植物が腐れて漂う腐臭が立ち込める。あぁ梅雨なのだなと、なんとなく夢の中想う。
心地が悪くて寝返りをうち、消えて失せた雪の残骸に懐かしさを覚える。
湿った空気に肥え始める菌類が、この頃の敵だ。








やがて一番苦手な季節が来る。
勿論私は寝ているけれど、夢の中でも暑さにイライラ。夏を象徴するものを夢の中で叩き
割り始める。スッキリしたらまた深い惑ろみに嵌り、イライラしたらまた同じように象徴
を叩き割る。
悩みといえば。
叩き割る対象のレパートリーがなくなって来て、マンネリ化して来た事ぐらいか。

そんな時は一人の妖精を思い出す。
無邪気でイタズラばかりする、学習能力の無い、一人の妖精だ。
けれど想う。
妖精にしては、力が強い。春の気を持つ妖精が多い中、一人だけ仲間外れ。
馬鹿で単細胞で畏れを知らない困った子だ。
けれど、その純粋な存在に、私は想いを募らせる。
ひんやりとして冷たい体。けれど笑顔だけは春。自然を写した鏡は、私にニッコリと微笑み
かけて、こう言うんだ。

「アタイは寒いのが好き。だからレティが好き」

利己的なのね、って返せば、勿論答えは一つ。

「それはおいしいの?」

まったく、馬鹿馬鹿。可愛いったらありゃしない。
こんな夢を観る。何度も何度もあの子の顔が浮かんでは消え浮かんでは消え。
夢の中なのに恥かしくなる。
でも私も好きだから、何度も何度もホッペにキスする。あの子は意味も解っ
ていないけれど、あの子もお返しにと何度も何度もキスしてくれる。
するとひょっこり現れるのが―――あの子。








やっと不愉快な時期が過ぎる。草木が朽ちて命は息も絶え絶え。
吹きすさぶ木枯らしが奏でる生命の悲鳴が、私の季節が近いのだと知らせてくれて、酷く嬉
しくなる。でもまだ私は外には出られない。
私が出るには暑すぎるもの。朽ちて朽ちて朽ちきって、最後に止めをさしてやるんだ。
だからあともう少しだけ。
あともう少しだけ夢を観る。

「レティ、意味も解らない子にそんなことしないで」

まぁまぁ。妬きもち?でもこの子も嬉しがってるし、私も嬉しいもの。いいじゃない。

「ダメなものは、ダメ」
「じゃあ本人に聞いてみましょう。嫌かい?」
「あたいは……」

なんだ。
解ってるじゃない。顔まで真っ赤にして。そんなに熱を上げたら、解けてしまうよ。
おいでおいで、私が冷ましてあげるから。

「うぅぅぅっぅ~~~!!」

ふふ。あっちの子も顔が真っ赤。
だってね?私は雪女だもの。冷たいんだよ?
それは、この子を除いて全てに平等。海も空も山も木も草も、みーんなに冷たい。
それにね、いいじゃない?
貴女はずっとこの可愛らしい子と一緒にいれるけれど、
私ったらちょっとしかいれないんだから。だからいいじゃない、何回キスしても。私が満足す
るまで、一杯可愛がっても、いいじゃない?
あらダメ?
え?取り合うの?苦手だなぁ、弾幕ごっこ―――。








何もかもが凍りつくのが気持ちいい。
山も川も谷も家も動物も人間も妖怪も、寒さに萎縮して閉じ篭る季節。
明日は冬か、明日は冬か、まだかまだかと眠っていた日々にオサラバする。他の季節を足蹴に
して、春告げ精を模した雪だるまに弾幕をぶち込んでやる。
気分爽快すっきり爽やか。

みーんな死んだ。

生きとし生けるもの全てくたばった。大きく息を吸い込んで、我ここにありと叫ぶこの快感。
あっはっは、ざまあない。
今年の冬は絶好調。深々と降り積もる雪が私を歓迎していて、イキモノを阻む冷気が私に語り
かけてくる。
今年は寒う御座います、今年は寒う御座います。
ああそうだね、寒いね。とっても気持ちいい。手当たり次第に氷つかせて、この里全部埋めて
やろうか。

―――でもでも。

そんな事はしていられない。人間なんてどうでもいい。死んだ自然など興味ない。
私が生きていられる時間は少ないから。
ほんの瞬きの間、目を開ければまた憎憎しい春告げ精が現れるから。
だからだから、私はまっすぐ飛んで真っ直ぐ落ちる。


大好きな大好きな、氷の妖精に逢う為に。

「チルノちゃん。チルノちゃん」
「レティ!!!」
「チルノちゃん、元気だね」
「今年の冬も、めいっぱい遊ぶからね!!!」
「うんうん」

私は早速、夢で観たとおり、チルノちゃんのほっぺにキスをする。
チルノちゃんは……あらあら、やっぱり。
顔が真っ赤だ。知ってたんだ。

「おおお、おかえりレティ!!」
「うん―――ただいま」

そんな愛しい妖精の女の子の、真っ赤になった顔を、私は目一杯抱きしめる。

今年からは、いっぱいいっぱい、キスしてみようかな。
創想話五作目です。
最近は気温の変化に落差があって、寒いと感じるときがあります。
そして東方に心奪われた俄は、寒い=レティとなります。
病気です。でもこの病気が心地いい。

ここまで読んでくださった方に大感謝です。


*誤字修正しました。
俄ファン
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.990簡易評価
3.80名無しの誰か削除
うん、面白い。あとチルノがやたらかわいい

いいなぁ、レティ
8.90名前が無い程度の能力削除
あぁぁ、かわいい・・・すごくかわいいです。w
心がほんわかしてくるとても良い話でした。
11.無評価俄ファン削除
>やたらかわいい
馬鹿ほど可愛いのは何ででしょうね……チルノかわいいですチルノ。
>心がほんわかしてくる
そのような空気を感じ取っていただければ本望で御座います。
でも冬になるまでチルノは大ちゃんやら鴉やらと御戯れ。チルノ、恐ろしい子。

ご評価いただき、誠に有難う御座います。ニンニン。
14.50椒良徳削除
もっとレティの感情が黒々と渦巻いていた方が私の好みなのですが、それを言うのは私のわがままか。読むだけで鬱になるような作品が読みたい。
23.100名前が無い程度の能力削除
面白かったですw
29.90名前が無い程度の能力削除
レティさんかわええなぁ