Coolier - 新生・東方創想話

妖夢と楼観剣に斬れぬもの

2007/05/10 07:13:41
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※このお話にはオリジナルのキャラクタや設定が多分に含まれます。
 そういったものが少しでも不快に感じられる方には推奨できません。







精神を集中させる。

心がどんどん、どんどん澄み渡って。

「・・・・・・。」

目の前の滝の落ちる音、

草陰に潜む虫の声、

空をめぐる鳥の囀り、

そう言ったものを、全てはじき出して、

まるで、そこに立つ彫像かなにかのように、

静かに。

―ごとっ

かすかな物音。

それは、滝の上から、

巨大な岩石が落下してくる音。

その者は気付かない。

滝の落ちる轟音でさえ、

その精神の壁に阻まれて届かない。

岩が落ちる。

一直線に、

その者を目指して。

その者は気付かない。

岩が激突する、

その刹那―――



「はっ!!」



裂迫の気合とともに、

一閃。

背負った長刀を抜き放った。

―ゴトンッ!!

すっぱりと、

まるで岩が自らそう望んだかのように斬れる。

同時に、世界に音が戻って。

激しい滝の音、

草陰からの虫達の声、

空をめぐる鳥の囀り、

「・・・・・・。」

―チンッ

抜き放った刀を納める。

小柄な身長に似合わぬ長刀。

だが、その少女の凛としたたたずまいが、

その長刀には何よりも似合っている。

「・・・・・・だめだな。」

その少女、魂魄 妖夢は、

先の鮮やかな手つきにすら納得がいかないように眉を潜めた。

駄目なのだ。

この程度では、

私の主は守れない。

そう、痛感したばかりだった。

先日、白玉楼に踏み込んできた侵入者達は強かった。

結界の使い手。魔法の使い手。あるいは、時間の使い手。

強かった。

あの、自らの主である西行寺 幽々子様ですら、

彼女達に敗れ去った。

情けない。

あれほど自分の無力さを呪った事はなかった。

主君の身を守れずして、何が剣士か。

私には、この楼観剣と白楼剣を握る資格すら―――

「・・・・・・!?」

―ごとっ

僅かな音。

考え事に集中していたせいで、反応が遅れた。

再び落下してきた岩石が、

妖夢の頭上に落下してきて、

「くっ!!」

とっさに、楼観剣を振るう。

集中力のまったくない、

一閃とは到底呼べぬ剣筋。

―キィィィイイン...

再び、両断される岩。

その切れ味は、見事。

だが、

「そんな、なんてこと・・・。」

妖夢は愕然とした。

剣士としてあるまじき、最低の一閃。

迷いが生んだ、最悪の結果。

中ほどでぽっきりと折れた楼観剣が、

恨めしげに妖夢の姿を映していた。



         * * *



「すみません、幽々子様。」

力なく頭を垂れる妖夢。

その前に、折れてしまった楼観剣が置かれていて、

「妖夢。」

「はい。」

「あなたが何をしてしまったか、わかるわね。」

「はい。」

「妖忌があなたに授けた剣。わかっていますね。」

「・・・はい。」

「顔を上げなさい。」

幽々子の声音は、やや冷たい。

妖夢は顔を上げる。

いや、体を起こしただけ。

顔は相変わらず、下を向いたままで。

楼観剣に向けられたままで。

その顔は、見るに耐えないものだった。

「妖夢。」

「はい。」

「あなたの顔を見ればわかります。わざわざ子供のように叱る必要もないでしょう。」

「・・・・・・。」

「後悔は必要ありません。反省なさい。それで十分。」

「・・・はい。」

「今回の一件は、あなたに大きな教訓を与えたはず。必ず生かしなさい。」

「はい。」

「以上です。しばらく時間を与えます。他の仕事は休みなさい。」

「幽々子様・・・。」

「頭を冷やしなさい。今のあなたに一番必要なことです。」

「はい・・・。」

幽々子は音もなく立ち上がる。

妖夢は幽々子を見ない。

その視線は、楼観剣に向けられたままで。

幽々子は静かに部屋を出た。

妖夢と、折れた楼観剣だけが、部屋に残された。



         * * *



「お疲れ様、幽々子。」

ないもないはずの中空からひょっこりと顔が飛び出した。

「・・・ふぅ、馴れないことはするもんじゃないわねぇ~。」

付き合いの長い親友、八雲 紫のからかうような顔を見て、

幽々子は引き締まりきっていた容貌をへらっと緩めた。

いつもの、ふわふわとした雰囲気に戻る。

「立派な主っぷりだったわよ?」

「ふふっ、惚れ直した?」

「惚れ直したわぁ。」

二人でふざけ合いながら廊下を歩く。

しばらく歩いて、

妖夢の残してきた部屋から十分に離れたところで、

ふっと、幽々子の顔に心配の影が落ちる。

「あの一件、よっぽど効いてるみたいね~。」

「そうね。ああいうヘマをする娘じゃないはずだけど。」

「確かに私はやられちゃったけど、気にすることないのに~。」

「そんな器用なことができる娘じゃないでしょう?」

ふぅ、とため息をつく。

正直、剣を折ってしまったことはあまり気にしていない。

それは、妖忌のことを考えれば軽々しく許せるようなことではないが、

それは妖夢と妖忌の問題であって、自分が口を出すべきことではない。

今の妖夢を叱る権利があるのは妖忌と、妖夢自身だけだ。

それ以上に、妖夢のことが心配だった。

今回の件が妖夢の心、あるいは生き方を深く傷つけてしまうこと。

そっちのほうがよっぽど怖い。

「じゃ、幽々子。お礼は二人分の高級酒で頼むわ。」

「・・・まだ何も言ってないわよ?」

「言わなくてもわかるの。親友でしょう?」

「・・・・・・そうね。妖夢の件、頼むわ。」

「ええ、私もあの娘は気に入っているもの。」

紫はすっとスキマに引っ込んでいった。

完全に居なくなる寸前に、手をひらひらと振って。



         * * *



「お師匠様。」

「うむ?」

「楼観剣にも斬れないものがあるのですか?」

「うむ。ある。」

「それはなんなのですか?」

「妖夢はなんだと思う?」

「えっと・・・、空気ですか?」

「いや、斬れる。」

「では、火や水ですか?」

「それも斬れる。」

「空とかは?」

「はるか高みにある空気を空と仮定するならば、斬れぬことはない。」

「では・・・、えっと・・・?」

「なに、お前ならばいずれは答えにたどり着くだろう。」

「そうでしょうか?」

「自分でたどり着かなければ意味がない。それを教えることはせぬ。」

「・・・はい。」

「精進を怠らねば、いずれ悟るだろう。」

「はい、必ず!!」



         * * *



妖夢は、すっと目を開けた。

「・・・・・・夢。」

一筋、頬を伝ったものを拭う。

折れてしまった楼観剣。

結局、答えは見つからぬまま・・・。

いつの間にやら眠ってしまったようで、

外はすっかり暗くなってしまっていた。

「幽々子様に、ご飯を・・・。」

体を起こして、部屋を出ようとする。

こつっ、と足に何かがぶつかった。

暗がりだったので、まったく気付かなかった。

「これは・・・?」

それは、お膳だった。

きっちりと、丁寧に作られた夕食。

それに、二つ折りの手紙が添えられていて、

『仕事は休みなさいと言ったでしょう。 幽々子』

なんて、書いてあって。

自分が、食事の支度をしようとしたことがまるで筒抜けで。

妖夢は、泣き笑いのような表情になる。

「・・・すみません。」

幽々子は居ないので、手紙に謝った。

丁寧に一礼して、食事をもくもくと食べ始める。

明かりもつけぬまま。

食器の立てる音だけが部屋に響く。

美味しかった。

いつも作っている自分には、少し及ばない味。

それでも、はるかに美味しかった。

食べ終わって、再び一礼する。

落ち着いた。

もう大丈夫。

ようやく思考が冷静に周り始める。

自分になにができる。

自分がすべきことはなんだ。

ゆっくり、ゆっくり思考が周り始めて、

「ようやくいい顔になったわね、妖夢?」

誰も居なかったはずの部屋。

唐突に声が広がって、

「紫様。いつもお世話になっております。」

「あら、もうすっかり元気みたいね。」

急に気配が沸いて、

いつの間にか部屋に紫が立っていた。

「本日はどのようなご用件で?」

「あなたに朗報が。」

「私に、ですか? 幽々子様ではなく?」

「ええ、だってその楼観剣はあなたのものでしょう?」

すっと、足元を指差す紫。

無残に折れてしまった楼観剣。

「・・・・・・どういうことでしょう?」



「せっかくだもの。直したくはない?」



―ガタンッ

あわてて立ち上がったせいで、お膳に足をぶつけてしまった。

そんな痛みは、妖夢の脳にはまったく伝わらなかった。

「直るのですか!?」

「だって、刀でしょう? 打ち直せばいいだけの話よ。」

「打ち、直す・・・。」

妖怪が鍛えたと言われる楼観剣。

そうだ。

作られたものならば、直せるはず。

だが、

「・・・直せる人を、知りません。」

もともとこの楼観剣は、師の妖忌から授かったもの。

しかし、妖忌は刀を誰から授かったのかは言わなかった。

それを知るはずの妖忌は、もう居ない。

落胆に肩を落とす。

なくしたものは、そう簡単には戻らない、か・・・。

「知ってるわよ、私。」

けろっと、紫はそんなことを言い出して、

「その刀、楼観剣と白楼剣を打った刀鍛冶の妖怪。知ってるわよ。」

「本当ですか!?」

「ええ、本当よ。って痛い痛い・・・。」

「あ、ああ、すみません。つい・・・。」

思わず掴んでしまっていた紫の肩をぱっと離す。

そんなに力を込めたはずはないのに、紫は大げさに痛がって、

「じゃあ、明日。一緒に会いに行きましょうか。」

「是非!!」

「痛い痛いってば・・・。」

「ああ、すみません!!」

どうも、楼観剣のことになってしまうと自制が・・・。

「ふぅ・・・。それじゃ、明日までに必要なものを用意しておきなさい。」

「は、はいっ! ・・・でも、必要なものとは?」

元気よく返事をしたのはいいものの、

心当たりはまったくない。

そもそもその妖怪を、自分はまったく知らないのだ。

手土産でも持っていけばいいのだろうか。

紫は去り際、やはり手だけをひらひらと振って、

「覚悟よ。」

そう、短く言い残した。



         * * *



翌日。

妖夢と紫、

二人は森林の中を歩き、あるいはふわふわと飛んでいて、

「そろそろよ。」

「・・・はい。」

妖夢の手に緊張の汗がじっとりとにじみ出る。

道中で、その妖怪について聞かされた。

名は『桜華』。

『あらゆる武器を生み出す程度の能力』を持つ妖怪。

驚くべきことに、その妖怪は1000年近くも生きているという。

武器は争うためのもの。

平穏を乱すためのもの。

その力を危険視した紫が、その妖怪を封印したのだという。

倒滅ではなく、封印。

それはすなわち、八雲 紫ですらそれを倒すには至らなかったということ。

これからその妖怪に会いに行く。

会うということは、封印を解くということだ。

「大丈夫でしょうか。」

「どういう意味で、かしら?」

「話の通じる相手ならいいんですけど・・・。」

自分は楼観剣を直してもらいに行くのだ。

素直に楼観剣を直してもらえたなら、それで何も問題はない。

最悪のパターンは、その妖怪が暴れだしたときだ。

紫ですら倒しきれなかった妖怪。

1000年近くを生きる化物に、生きて帰れる保障などない。

いや、断言しよう。



本気になられれば殺される。



それは間違いない。

そんな化物と戦えるほど、自分は強くない。

ましてや、楼観剣の代わりに用意してきたこの木刀などでは・・・。

余りにも心もとない木刀を握り締める。

いや、自分はいい。

自分の意思で行くのだ。

覚悟も用意してきた。

もっと不安なのは、自分が倒れ、紫が封印しきれなかったとき。

その化物が、幻想郷で暴れまわること。

それにより、幽々子が危険にさらされること。

それがなにより、怖い。

話の通じる相手ならよし。

だが・・・、

「さて、ね。本当は私のことを、殺したいほど憎んでるかもしれないわね。」

なぜか、紫の顔にさっと悲しげな影が映って、

「さあ、着いたわよ。」

しかしそれは、気付くまもなくすぐに打ち消されて。

紫が指差したのは、森の中にぽっかりと空いた広場。

そこにはなにもない。

「ここですか?」

「ええ、そうよ。」

紫が指をぱちんと鳴らすと、

―ビシッ!!

空間に亀裂が入った。

亀裂のおかげでようやく気付くことができた。

畳を何枚も重ねたような、異常なほど分厚い結界。

これほど厳重な結界は初めてみる。

いや、そもそも必要ないはずなのだ。

結界は、紙より薄い厚さでも十分すぎるほどの強度を持つ。

それが、この厚さ。

八雲 紫が、これほどの結界を用いて封印している化物。

鳥肌が立った。

「・・・妖夢? 入るわよ?」

「えっ、ああ、はい!!」

いつの間にか、人一人分空いた結界の隙間で、

紫が手招きしていた。

あわてて後を追いかける。

結界の中には、小屋が一つ立っていた。

外からはまるで見えなかったのに・・・。

まるで当然のように小屋が立っている。

煙突からもくもくと煙が立っていて、

結界がなければ、気付かないはずはないのに。

「・・・・・・結界を破るなんて、どこのバカだ。」

ハスキーな声が聞こえた。

紫のものではない。

それは、小屋の中から聞こえて、

―がちゃっ

扉が開いた。

妖夢はごくりと喉を鳴らした。

一体どんな化物が顔を出すのか。

だがそれは、予想に反して、

女性だった。

見た目、ごく普通の女性。

見た感じの年齢は紫と同じくらい。

長身で、スレンダー、よりもう一段階くらい細い、華奢すぎる体格。

左目に刀傷らしき跡が残っていて、常に伏せられている。

長い桃色の髪を邪魔にならないようにまとめていて。

「この結界を解けるのは私だけでしょう? 久しぶりね、桜華。」

「・・・紫、か。どういう風の吹き回しだい?」

桜華、と呼ばれたその女性の右目が剣呑に細められた。

あまり、友好的とはいえない表情に見えるが・・・。

「頼みがあるのだけれど、聞いてもらえるかしら?」

紫がスキマを開いて取り出したのは、

楼観剣。

その刃をすらりと抜くと、

それは中ほどで折れてしまっていて。

「・・・・・・入んな。」

もはや睨みつけるような視線で、低く言う。

怒っている。

絶対に怒っている。

それに紫は涼しい顔で、

「じゃあお言葉に甘えて。」

悠々と、桜華とともに小屋の中に入っていって。

一人残された妖夢は、

「・・・虎穴に入らずんば虎子を得ず、か。」

改めて覚悟を決めた。



         * * *



中は工房だった。

火の焚かれたかまど。

刀を鍛えるための槌。

おおよそ鍛冶に必要そうなものが、床中に散乱していて。

壁一面に、刀が掛けられている。

その一本一本が、とてつもない名刀だと、わかる。

そう、感じさせられる雰囲気があった。

「白楼剣も出しな。持ってきてるんだろ?」

ぶっきらぼうに、手を突き出してくる桜華。

「は、はい!」

妖夢が白楼剣を帯から外すと、

あっという間にそれを引ったくって、

抜く。

「・・・ったく、どんな使い方してやがる。それとも原因はあの若造か?」

刀身をさっと検めると、再び鞘に戻して。

あの、若造?

というのは、おそらく妖忌のことだろう。

あの妖忌が、若造と呼ばれるほど若いときに、

この二振りの刀は渡されたのだろうか。

「直るかしら?」

「3時間ってところだな。適当に時間つぶして来い。」

「た、たったの3時間ですか!?」

「・・・文句あんのか?」

「い、いえ・・・。」

どうにも喧嘩腰だが、これが桜華の人柄なのだろう。

それに、腕はいい。間違いなく。

「それじゃ、3時間後にまた来るわ。」

「さっさと出て行け。邪魔だ気が散る。」

妖夢たちは出て行くまでもなく放り出された。

ばたんっ、と勢いよく扉が閉められて、

完全に閉め出される。

「・・・相変わらず乱暴なんだから。」

紫は口を尖らせる。

「でも、話のわかる人でよかったです。」

剣の修復はあっさり引き受けてくれたようだし。

緊張していたのも要らぬ心配だったか。

だがそれに紫は、

「3時間後、同じ台詞が吐けるかしらね・・・。」

ぽつりと、そう漏らして・・・。



         * * *



3時間後。

どこか散歩に行っていた紫は珍しく、時間きっちりに戻ってきて、

―がちゃり

と、再び小屋の扉が空いた。

桜華が外に出てくる。

腰に楼観剣と白楼剣、

それからさらに、見たことのない二振りの刀を背負っていて。

そして、槌。

とてつもなく長い、

槍と見まごうばかりの長い槌が肩にかけられるように持たれていて。

「定刻通りね、流石だわ。」

「お前が定刻通りとは珍しいな。」

紫と桜華がまったく正反対の掛け合いをする。

本当に、たった3時間で打ち直してしまったらしい。

「さて、始めようか。」

唐突に、桜華はそう言って、

「・・・始める、ですか?」

妖夢が目を丸くして聞き返す。

桜華はゆっくりと妖夢に背を向けて距離を取って、

「試験だ。この剣を持つにふさわしいか。

 妖忌の若造にはこの試験を経て、楼観剣と白楼剣を授けた。」

瞬間、

妖夢の体が緊張で凍りついたように動かなくなった。

殺気。

力ずくで頭を抑えられるような、凄まじい殺気。

「殺す気で来い。死にたくなければね。」

桜華が、妖夢に向き直る。

構えはない。

ただ、無造作に立っているだけ。

しかし、



殺される。



あれに戦いを挑めば殺される。

あれに背中を見せれば殺される。

あれと、対峙した瞬間、殺される。

「・・・う、あ。」

手が痙攣する。

恐怖で。

絶望で。

勝てない。

あんな化物に、勝てるはずがない。

「どうした、立ってるだけじゃ終わらないぞ。」

桜華が、一歩歩く。

妖夢は飛び退るように二歩下がった。

怖い。

紫の得体の知れない怖さとはまた違う。

ストレートに叩きつけられる恐怖。

(くそっ、しっかりしろ!!)

妖夢は、唇を噛み切った。

鋭い痛みが走るが、思考がようやく戻る。

楼観剣と白楼剣を取り戻すには、戦うしかない。

「くっ、・・・いやぁぁぁあああ!!!」

妖夢が駆ける。

腰の木刀を抜き放ち、一瞬で桜華に肉薄する。

それに、桜華は驚いたように片眉を上げて。

反応しきれてない。

いける!!

妖夢が木刀を横薙ぎに一閃して、



―ぶつんっ



妖夢は、倒れていた。

離れたところに、槌を担ぎ上げる桜華が見えて、

「うぐぁ!!」

頭に割れるような激痛が走る。

押さえると、ぬるりと嫌な感触がした。

殴られた、のか?

わからないが、多分、

木刀を振るった瞬間に一撃をもらったのだ。

その一撃に、妖夢は一瞬気を失って、ここまで吹っ飛ばされた。

「いや、余りに遅くて驚いた。妖忌の若造のほうが何倍もマシだったな。」

妖夢は立ち上がろうとして、

しかし体が動かない。

がくがくと震えて、力が入らない。

脳を思いっきり揺さぶられたからだ。

「しかし、今の一撃。とっさにポイントをずらしたな。見所はあるか。」

当たり前だ。

そのままもらっていたら、頭がかち割られて中身をぶちまけていた。

ほとんど無意識に、殺気に対して体が反応していただけだが。

しかし、まだ動けない。

くそっ!

動け、動け動け動け!!

よろよろと、妖夢が立ち上がり、

「おまけに根性もある。それだけじゃあ合格点はあげられないがねぇ。」

桜華は、妖夢が完全に立ち直るのを待っている。

なめられている。

完全に。

当然だろう。

この化物が本気になったら、目が覚めるのは三途の河原だ。

だが、

(そこに必ず、隙が生まれるはずだ。)

相手のおごりにつけ込む。

弱者が強者に勝つための唯一の手段。

再び、妖夢が突進する。

「馬鹿の一つ覚えが。」

その妖夢に、桜華はゆうゆうと迎え撃とうとして、

―ダンッ!!

妖夢の突進の速度が3倍に跳ね上がった。

一回目の突進は、こちらの実力を読み違えさせるためのフェイク。

わざと加減した速度で切り込んだのだ。

「ちっ!!」

完全に読み違えた桜華が、

長い槌での攻撃をあきらめて腰の白楼剣を抜く。

短い得物でなければ、対応は間に合わない。

「っだああああ!!」

妖夢の渾身の突き。

狙うは桜華の喉、

ではなく、

―かつっ!!

乾いた音がして、木刀に白楼剣が食い込んだ。

刃物と対峙しても、突きの先端ならば木刀が切断されることはない。

そして、

「っと、やるじゃないか!」

木刀に食い込んだ白楼剣が抜けない。

得物は封じた。

さらに、

桜華の背後からもう一人の妖夢が飛び出して。

「もらった、現世斬!!」

もう一人の妖夢が木刀を一閃。

しかし、

直後に、ありえない速度で槌が振りぬかれる。

もとから、妖夢の突進を槌で対応できたんじゃないかというほどの速度。

それが背後から飛び出した妖夢の頭に吸い込まれるように、

直撃した。

―ボンッ!!

槌を食らった妖夢の『分身』が消えた。

本体は、こっちだ!!

木刀を捨てた妖夢が桜華に飛び掛る。

妖夢の拳が桜華の顔を目掛けて、



―ドゴッ!!



腹に蹴りが叩き込まれる。

「げふっ!?」

妖夢の体が鞠のように吹っ飛ばされた。

そのまま、地面をごろごろと転がって、

「悪くない戦法だった。迷わず剣を捨てるその機転もいい。

 が、いかんせん、お前自身が弱すぎるな。」

息が、できない。

あばらに数本ひびが入った。

肺が、うまく空気を取り込めない。

「立てよ。まだ試験は終わってないぞ。」

先端の割れた木刀が放られる。

しかし、立てない。

それどころか、指先一つだって動かせない。

むしろ、意識を保ってるのが不思議なくらいで・・・。

「・・・ふぅ。」

桜華のため息。

ひどく、落胆したような色が浮いている。

「この程度か。不合格だな。お前に授ける剣はない。」

不合格。

愕然とした。

私は、楼観剣も、白楼剣も、失ってしまうのか・・・。

一体、何のために・・・。



「次はお前だ、八雲 紫。」



ぞっとするほど低い声。

桜華が、視線の先を紫に切り替えた。

「大人しく再封印は・・・、されてくれないかしらね?」

「寝言は寝てから言え、寝狸。」

最悪だった。

最悪の、結果。

自分は剣を失い、

桜華は紫にその矛先を向けた。

こんな化物が、幻想郷で暴れだしたりなんかしたら・・・!!

すらりと、紫色の柄を持つ刀を抜いた。

見たこともない刀。

どんよりとした紫色の、不気味な刀身が晒される。

桜華が背負ってきたものだ。

妖夢のときは抜かなかった。

桜華は、今度こそ、本気だ。

「さて、どれだけ腕を上げたのかしら、桜華?」

「お前はどれだけ腕を落としたかな、グータラ妖怪?」

―ダンッ!!

桜華が踏み込んだ。

速い。

尋常じゃない速さ。

残像すら見えないような速さで、

しかし紫には笑み。

「あら、速いわ。」

桜華の振り下ろす一閃を余裕の表情でよける。



その瞬間、



紫の表情が強張った。

一瞬で、大げさすぎるほど飛び退る。

「・・・素敵な刀ね、それ。」

紫の髪が数本散った。

「首を狙ったんだがな。あいかわらず勘だけは予知レベルか。」

一瞬すぎて妖夢には何が起きたのか見えなかった。

しかし、これだけは言える。

今の一閃、紫は完全にかわしていた。

なのに、まるで空間を無視したかのように紫の髪を切った。

本当に、あと数ミリで頚動脈に到達したであろう、斬撃。

「新作みたいね。見たことないわ。」

「ああ。『紫閃』という銘だ。」

桜華が、何もないところを払うように刀を振った。

紫がとっさに横跳びする。

紫の着物が、僅かに切れて、

(な、なんだあれは!?)

妖夢は目を疑った。

紫が先ほど立っていた位置。

その中空から、刀の切っ先が顔を出していて。

桜華が再び剣を振るうと、切っ先は引っ込むように消滅した。

「お前の能力を模して作った。『空間を断つ程度の能力』をもつ刀だ。」

そんな、

そんなことが、可能なのか!?

いや、現に、

目の前にその、『紫閃』は存在する。

「空間の隙間を開いて異次元を自由に移動する、だったな。」

「空間を切り裂いて異次元を・・・。本当に私にそっくりね。」

紫の顔を、一筋汗が伝う。

やることはあってもやられたことはあるまい。

神出鬼没の一閃。

(やはり桜華という妖怪は、危険だ!!)

妖夢は歯をかみ締めた。

紫があんなに厳重に封印していた理由がよくわかる。

こいつは正真正銘の、化物だ。

『断つ』という名目がある限り、こいつにはどのような能力も生み出せるに違いない。

自分のわがままで、こんな化物を呼び覚ましてしまったのか・・・!!

「もう一本はどんな刀なのかしら?」

「抜かせてみろ。できるならな。」

再び紫閃を振るう。

今度は、紫の顔面を狙って斬りつけてきた。

その切っ先が紫の眼球を貫―――

「あら、残念。」

―ギィイン!!

寸前で止まる。

紫の眼前に、小さな、小さな硝子のような壁が生まれていて。

「結界はお前の十八番だったな。」

「さすがに結界は斬れないみたいねぇ?」

あと数センチで眼球を貫く切っ先を、得体の知れない笑みを浮かべながら見つめる。

とんでもない。

あっちが化物なら、こっちも化物。

見ている妖夢のほうが背筋を凍らせる一撃に、

紫は顔色一つ変えずに対処する。

次元が違う。

いまさら自分が割り込んだところで、道端に転がっている小石程度にしかならないだろう。

妖夢は決して弱くない。

その妖夢をそう思わせるほど、両者は次元を超越している。

―チンッ

桜華が紫閃を収めた。

「あら、その子のご披露はもう終わり?」

「どうせもう通用せんだろう。」

代わりに、腰の楼観剣を抜く。

「・・・それは勘弁して?」

「断る。」

一瞬、

一瞬で、紫の眼前に踏み込んだ。

「くっ!!」

紫があわてて結界を張る。

四枚重ね。

紫の得意技、四重結界、

―ズバン!!

それを、まるで豆腐か何かのように斬り捨てる。

首を斬り飛ばそうとするその一閃を、

紙一重でかわす紫。

紫にしては臆病なほど大げさに距離を開ける。

「本当に、その刀は嫌いだわ。」

「この楼観剣で本当に斬れないものは、片手の指で収まるからな。」

紫様の、結界ですら・・!?

妖夢が振るうときは、紫の一枚の結界ですら破れない。

しかし、それは使い手の腕次第だということを知っている。

実際、妖忌は妖夢には斬れない様々なものを斬れた。

楼観剣が本当に斬れないものは、5つに満たないと言う。

―ダンッ

再び桜華が飛び出した。

紫は身を翻してそれを避ける。

スキマを使わない。

いや、使っている余裕すらないのか。

ひたすら、己の身だけでそれをかわしていく。

しかし、速い。

わずかに、桜華の剣速が紫を上回って、

紫の肩がわずかに切れる。

「くっ!」

あせりの浮かんだ声が上がった。

大きく飛びのいて、日傘を桜華に向ける。

―カッ

閃光が奔った。

レーザー。

それが狙い済ましたように桜華に向けて放たれる。

ろくに狙いもつけていないはずなのに、それは精密に桜華の額に向けて、

楼観剣の一閃。

いともたやすくそれを切り伏せてしまう。

妖夢には考えもつかない動きだった。

自分だったら、ぎりぎりでかわして突進する。

だが迂回する手間がない分、桜華の動きほうが有効だった。

その動きに意表を突かれた紫は反応できない。

叩き落すように桜華の蹴りが入って、

「うくっ!?」

紫が地面に落ちる。

なんとか、受身を取って体勢を立て直そうと、

「終わりだ、八雲 紫。」

しかし、そんな暇すら与えずに桜華が楼観剣を振り上げる。

それはさながら、罪人を断頭する死刑執行人のようで、

(紫様!!)

妖夢が体を起こそうとして、

しかし激痛に叩き伏せられる。

くそっ、いつまで言うことを聞かないつもりだ!!

今だけでいい。

今この瞬間さえ動くなら、もう一生動かなくなったって構うものか!!

動け、動け動け動け!!

主君を守れなくて何が剣士だ!!

主君の友人を守れなくて何が従者だ!!

もう二度と、

そんな後悔はするものか!!

「っぁぁぁあああ!!!」

妖夢の体が、弾丸のように飛び出した。

滅多刺しにされるような激痛。

今の衝撃で、あばらが完全に折れた。

だが構わない。

紫と、振り下ろされる楼観剣の間に割り込んで、



―ぴたっ



止まった。

妖夢の髪の毛が数本散る。

結ばれたリボンがはらりと落ちた。

額に冷たい感触。

あと数ミリで頭がかち割られるところだった。

だが妖夢は、瞬きすらせずに桜華を睨み返して、

「・・・・・・何の真似だ。お前は西行寺 幽々子の従者だろう。

 主を守らずして命を捨てるのか。」

桜華が冷たく見下ろす。

思わずすくんでしまう様な、射抜くような眼光。

だが、妖夢はそれを睨み返す。

「―――斬れない。」

ぽつりと、漏らす。

桜華は、眉をひそめて、



「楼観剣では、私の志までは斬れない!!」



今度ははっきりと、叫んだ。

おもわず桜華は、色々な感情が混ざった複雑な表情になる。

「・・・お前の志だと? それは主の幽々子を守ることだろう。」

「そうだ。私は幽々子様が悲しまれるようなことを、黙って見過ごすことなどできない。

 ご友人の紫様を黙って見殺しになどできるものか!!」

「本末転倒だな。お前が死んだら幽々子は誰が守る!?」

「私は幽々子様の盾!! 死んでも幽々子様をお守りし続ける!!!」

妖夢の、怒声が轟く。

しばし、時が流れることを忘れてしまったように静まり返り。

「幸い、私の主は霊界に住まうのでな。私が半霊から全霊になるだけさ。」

にやり、と妖夢は笑って。

なんて、屁理屈。

まるで馬鹿馬鹿しい、子供の論理だ。

だが、

それゆえにまっすぐで、曇りがない。

「ふっ、ったく・・・。」

桜華は呆れたように、ため息を漏らして、

―チンッ

楼観剣を収めた。

へっ、と妖夢は目を点にして、

桜華の殺気はまるで嘘のようにおさまってしまっていた。

桜華はもう、戦う気がまるでなくて、

「楼観剣に斬れないもの、一つ教えてやる。」

唐突に、桜華の拳がもの凄い勢いで迫ってくる。

「へっ!?」

―ガンッ!!

妖夢はまったく反応できずに、

その拳骨を脳天に食らった。

余りの痛みに意識が遠のきそうになる。

「馬鹿だ。お前みたいな馬鹿。馬鹿は死んでも直らない。」

妖夢は、涙でにじんだ桜華の姿を見る。

そこで妖夢は初めて、

桜華が笑っている顔を見た。



「だが、そんな馬鹿は好きだ。」



まるで、仲直りした直後みたいな、

ひどく清々しい笑顔で。

「合格だ、魂魄 妖夢。持っていけ。」

ほいっ、と放り出される二振りの刀。

楼観剣と、白楼剣。

すっと、そこに存在するのが当然のように、

妖夢の小さな手に納まる。

ようやく、元の自分になれたような気がした。

ふぅ、と一息ついた紫が、ぱんぱんと着物をはたく。

「一件落着ね。スキマで送ってあげるから先に戻りなさい。

 私は桜華を再封印してから戻るから。」

「えっ、でも・・・。」

「早く戻って幽々子を安心させてあげなさいな。」

「・・・はい!」

すっと、目の前にスキマが開く。

見慣れた、白玉楼の庭。

それを、潜ろうとして、

「まあ待ちな。」

桜華が呼び止める。

「はい?」

妖夢は首をかしげた。

桜華は、なんだか機嫌の良さそうな顔で、

「合格したんだ。お前にも一振りくれてやる。お前はどんな刀がいい?」

お前にも。

それは、妖忌から授かった楼観剣と白楼剣ではなく、

自分のための、一振り。

私は、どんな刀が欲しい?

私は、何を望む?

私の、望みは?

「私の望みは―――」



         * * *



いつの間にか、ぽっかりと月が浮かんでいた。

ちょうど木々の開けた場所なので、月がよく見える。

桜華が刀を作って渡した後、妖夢は先に戻らせた。

今は桜華の小屋の前で、紫と桜華の二人。

「ふふっ、お疲れ様。」

「ホントだよ、まったく。あんな演技なんかさせやがって。」

演技。

そう、あれは演技だった。

紫と桜華の戦いである。

妖夢の人柄を見極めるために、戦って見せた。

「迫真の演技だったわよ? 本当に殺されちゃうかと思ったわ。」

「よく言う。スキマを使わなかったくせに。

 スキマを使われたら指一本だって触れられるものか。」

「うふふ、バレた?」

二人は、そんな冗談を言い合って。

二人は親友だった。

幻想郷ができる以前からの、親友。

桜華は生前の幽々子とすら知り合いだった。

「どうだった、あの娘?」

「師弟ってのは似るもんだねぇ。まさかまったく同じ台詞を言われるとは思わなかった。

 もっとも、あの時妖忌の若造が庇ったのは幽々子だったが・・・。」

楼観剣が斬れぬものは志、か。

あの時、妖夢が妖忌と重なって見えたほど、

まるであの二人はそっくりだった。

「そうそう、幽々子で思い出したわ。これ、今回の件のお礼ね。」

スキマから、一本の酒瓶を取り出す。

夜桜、と銘打たれた高級な酒だ。

幽々子が用意した二本の酒。

一本は紫の分。

そしてもう一本は、桜華の分だった。

その一本を、桜華に渡す。

「おう、気が利くねぇ。」

一緒にお猪口も渡して、

桜華がぐっとそれをあおるのを、

紫はただ見ている。

「お前も飲めよ。」

「いいわ、私は。あなたと飲む資格は、私にはないもの。」

紫の顔にすっと影が差す。

そうだ。

私に桜華と酒をかわす資格はない。

私は、桜華を裏切ったのだから。



幻想郷。

紫と、博麗の巫女と、そして桜華とで作った理想郷。

桜華が土地を切り拓き、

紫と博麗の巫女が結界を張って作った。

紫と桜華の、理想郷。

最初はよかった。

何もかもが平和で。

お互い、気の向くままに過ごして、笑いあって・・・。

だが、

桜華の作った武器が広まって、

やがて争いが起こった。

武器は争うためのもの。

平穏を乱すためのもの。

それは必然だった。

このままでは幻想郷が滅びてしまう。

しかし、桜華は武器を作ることをやめられない。

武器を作ることをやめるということは、自分の存在意義を否定することだから。

だから、紫は封印した。

親友の桜華を、閉じ込めて。

二人で作ったはずの幻想郷を、自分だけのものにして。

桜華は、一つ工房を用意することを条件に、それに同意した。

そして紫は、

親友の桜華を狭苦しい結界で閉じ込めて、

幻想郷の守護者なんてものを気取っている。



私は桜華を裏切った。

だから、一緒に酒をかわす資格はない。

もう親友と、名乗る資格はない。

「・・・・・・私が、憎いでしょう?」

「聞き飽きた。何千回聞くつもりだ。」

桜華は不機嫌そうにそれに答える。

いまでも、時々結界を潜って会いに行く。

もちろん、手土産の酒を持って。

そして、必ず言う。

私が憎い?

あるいは、

ごめんなさい。

そのたびに、桜華は不機嫌そうになる。

余りにもしつこいものだから、もう不機嫌そうな表情が顔に張り付いてしまった。

もういい加減、それを聞くのもうんざりだ。

「もう二度と、そんなこと聞けないようにしてやる。」

―キンッ

一瞬だった。

桜華が、背中の刀を抜き放って。

最後の一本。

結局、最後まで抜かなかった刀。

それを抜き放って、

凄まじい速さで紫に向けて振るう。

紫にとっては反応できない速さではなかった。

スキマを使えば、十分に回避できる斬撃。

だが、避けない。

その資格はない。

それを紫は、避けずにそっと目を閉じて、

―ザンッ!!

斬った。

紫を両断せんと、

深々と斬りつけた。

当然だ。

憎いに決まっている。

いつか、こんな時が来ると思っていた。

いや、望んでいた。

こうして、桜華に殺され―――



「で、いつまでその間抜け面を晒しているつもりだ?」



「へっ!?」

紫は、ぱっと目を開けた。

痛くもかゆくもない。

それどころか、服すら切れていなくて。

たしかに、その刀にバッサリ斬られたはずなのに。

「銘は『紫恩』。『虚偽を断つ程度の能力』を持つ刀だ。

 この刀は、思い込みや先入観といったものを断つ。
 
 お前のために作った刀だ。」

―チンッ

その、澄み渡った空のような涼しげな蒼の刀身が鞘に納まった。

思い込みや、先入観・・・?

私のために?

「あたしの目をみろ、紫。」

「・・・ええ。」

言われたとおりに桜華の右目を見る。

澄んだ、綺麗な桜色の目。

私はこの、嘘をつけないまっすぐな瞳がとても好きで、

「お前にはまだ、あたしがお前を憎んでるように見えるのか?」

「・・・・・・いいえ。」

紫は首を振った。

なぜ、いままでそんな勘違いをしていたのだろう。

私はなぜ、この親友を信じられなかったのだろう。

そんなことが不思議に思えるほど、

心が澄み渡っていく。

そして、

―ゴスッ!!

紫ですらまったく反応できない拳骨が落ちた。

「いっっったぁぁぁあああい!!!」

「もっと早く気付け馬鹿。この刀に三年もかかったんだぞ。」

目から火華が出るほど痛かった。

とてつもなく痛くって、

でもそれが、

不思議なほど心地よくて。

涙が一粒、零れた。

「ほら、付き合えよ。月見酒。」

ぐっと、ぶっきらぼうに酒瓶を突き出してくる。

「・・・そう、ね。久しぶりに、二人で飲み明かしましょうか。」

紫はもう一つ分お猪口を取り出して、

静かに、二人で乾杯した。



         * * *



「よ~む? 早く行くわよ~?」

「は、はい! ただいま!!」

近頃、月がおかしかった。

もちろん、妖夢と幽々子は敏感にそれを察知して、

二人は今夜、打って出ることにしたのだ。

妖夢は改めて、自分の武器を確認する。

楼観剣。

白楼剣。

両方持った。

問題ない。

「よ~む~?」

「はい!!」

そろそろ、いくらのんびり屋の幽々子様でも焦れてきてしまっているようだ。

急がなければ。

妖夢はあわてて、自室の障子を開けて廊下に出る。

それから、一度だけ振り返って、

「・・・行ってきます。」

一礼した。

部屋の奥。

掛けてある一振りの刀。

妖夢はこの刀を持ち出さない。

この刀は、刃の潰された模擬刀だからだ。

この刀は誰も傷つけることができない。

『あらゆる災厄を断つ程度の能力』を持った刀。

それは、

『あらゆる武器を生み出す程度の能力』を持った妖怪が作った、



最初で最後の『盾』だった。


投稿6発目。
僕はこのSSを最後に、この東方創想話を卒業しようかと思ってます。
僕なりに納得のいく結論が出たからです。
今まで、僕の小説を見てコメントを下さっていた方々に熱く御礼申し上げます。
小説自体を辞めるつもりはないので、一つでも気に入った作品がございましたらどうぞ。
僕のサイトで東方卓球も連載いたします。

この小説をラーメンに例えると、豚骨ラーメンだ。
具沢山でコッテコテの大盛り豚骨ラーメンである。
この豚骨ラーメンには、店長オリジナルの出汁が使われている。
皆さんがよく知っている、卵やメンマなどの具にもかなり染み渡って、
まったく違った、かなり独特の味になっていると思う。
「こんなのラーメンじゃねぇやい!!」と言う人は多分ここにはいない。
そのために、のれんにそう書いておいた。
このラーメンを食べてくれた人たちは、
ラーメンなら何でも来いと言う人と、一風変わったラーメンが好きな人だろう。
僕はこの出汁のお陰で、ラーメン自体の味がうまくまとまったと思う。
お客さんに出しても恥ずかしくないラーメンに仕上がったと思う。
皆さんはどうだろう?
美味しいと言ってくれるだろうか?
ぺろりと平らげてくれただろうか?
おかわり!と叫んでくれるだろうか?
僕はこの豚骨ラーメンがあなたにとって、
「美味しくてぱくぱく食べてたら、いつの間にかどんぶりがからっぽだった。」
そんなラーメンになって欲しいと願っている。
もし僕のラーメンが気に入っていただけたなら、いくらでもおかわりしてもらって構わない。
僕のラーメンは、いつだってセルフサービスだ。
暇人KZ
http://www.geocities.jp/kz_yamakazu/
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コメント



0.1190簡易評価
2.60名前が無い程度の能力削除
書き方がテンポ、展開の仕方に沿っていて良いと思いました。
ご自身のサイトでこれからも執筆がんばってください。
5.80グランドトライン削除
私にとってこのラーメンはさっぱり味だった。
とんこつラーメンなのにさっぱり味だった。
登場人物の志が直線だと感じたからだろうと私は思う。

…まあそれはそれとして、桜華の性格に漢(おとこ)を見た。
13.90時空や空間を翔る程度の能力削除
『空間を断つ程度の能力』をもつ刀だ。」
あら、私もこの刀の前では苦戦しそうですね・・・・。