Coolier - 新生・東方創想話

とものいえをたずね(中編)

2007/04/07 07:59:33
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 なんだかとてもながいながいはなしをしてしまったきがしてはずかしくなり。・・・ふときがつくと、いつのまにか少年はこくりこくりとふねをこいでいた。
 がくりとそのからだがくずおれたので、そっと『司書』がそのからだをささえてあげて、
そのままかれはねむってしまう。
 わたしが反射的にくちびるにひとさしゆびをそえると、うなずいてかの女は、おんなのすがたをとった悪魔は少年をつれてその居間をでてゆき、かれの寝室へはこんでいった。
 ・・・さて、わたしもねることにしようか。
 われにかえるとはずかしい。
 おもったよりも熱中してかの女のことをはなしてしまっていたのだったよ。
 それでこのいえのあるじのへやをさがす。
 へんなつくりのいえだったが、なれるとすなおにみつかった。
 かしのきのとびらをひらくとかの女のへやがひろがり、わたしはあしをふみいれる。
 むっとするような、どんなにかたづけられててもひとがながくすまないといついてしまうにおいがみたされている。
 ほんとうになんねんもこのへやにはあるじがおらぬのだな。
 つくえのうえにはぼうしがひとつ。
 くろいとんがりさんかくな、かの女のぼうしだ。
 まどをあけるとすでに太陽のするどい仕打ちはきえうせて、やさしいつきとほしのやからだけがそらをみたしていた。
 みちきったよるのあかりとくらいかぜがまじりあい、ようやっとへやにいのちがふきこまれてゆく。
 かぜにあたったぼうしがゆるりとゆれながらつくえのはしからこぼれおち、くろいとんがりさんかくのそれはころんところがりわたしのあしもとまでやってくる。
 こしをかがめてひろってあげる。
 (これじゃまほうつかいというより、わるい魔女のぼうしだろうに)
 あのこのおきにいりであった。  
 ふきつないろをしたとんがりぼうしをアタマにかぶり、不敵で陽気なわらいごえをあげながらそらとぶまほうつかいをおもいだしたので、ついおもいだしわらいをする。
 ベッドは師がいつかえってもよいようにきれいにととのえられていて、それは少年なりの供養のしかたであったのだろう。
 ぼうしをもったままわたしはそこにこしかけてうつらうつらとしてしまう。
 すこしながくあるきすぎたし、すこしながくはなしすぎもした。
 つかれてしまったので、それにねるためのふくもなかったから、スカートがしわになるかもしれないけどもそのままのかっこうでねてしまうことにした。

 ★

 むかしむかしのことでした。
 ひゃくねんがにかいまわってさらにもうすこしふるいことですから、やはりむかしのことでしょう。
 ひとりの少女がおりました。
 とてもあたまのよいこで、けどこの世界をすこしきにいらなくて、じぶんのユメをもとにして、いまいるばしょとおんなじようなモノをつくろうとしたおんなのこでした。
 けれどもそれはどこかおかしくてまちがっててきみょうなかんじで、、、だから結局うまくいきませんでした。
 なにがいけないんだろう?
 おんなのこはそうかんがえて、その原因をさぐろうとしたのですけど、ヒトであるかぎりはシぬまでのあいだにそれをしらべつくすことができるとはとてもおもえませんでした。
 ですからまものと盟約をむすんでヒトではありえないほどのながいながい、まるでせかいのおわりのはてのさきまでみとおせるほどのながいとしつきをいきられるほどのいのちをてにいれて、かの女は魔女とよばれるようになったのです。


 めざめるとすこしさむかった。
 まどをしめるのをわすれていたのでよわいひざしがへやのなかにはいってきた。それですこしはやくおきてしまったのだとわかった。
 なにかをぎゅっとにぎっていたが、それはフトンのやわらかなかんじではなく、フィルトをかたくかためてうえからロウをぬりつけたもののてざわりだった。
 みてみるとトンガリぼうしだとわかった。
 すこしぼうしがへこんでしまったのでかたちをととのえてやると、なかからなにかがはらりとおちた。
 ベッドからおりてそれをひろいあげてみると、しろいかみのけだった。
 ぼうしにからまっていたのだろう。
 それでまたむかしをおもいだした。(なんだかいろいろおもいだしてばかりだ。)
 かの女のきれいなきんいろのかみにしろいものがまじってきたのをはじめてみたときはザマあみろとおもい、それがはんぶんぐらいをおおったときはおおいにあわて、すっかりまっしろになったときはそのしろいつややかさにうっとりしたものだった。
 それとあの目。
 くろくあかくきんいろにかがやくひとみが、こりかたまった縞メノウのようなそいつが、まっしろになってみえなくなったのをしってわたしはないた。
 きれいにみがかれたおおつぶのほうせきをひとつうしなったようなきがしたのだ。
 もっともかの女はそんなことにはおかまいもなく、すきかってにしゃべくり、すきかってにいきつづけて略奪量もかわらないペースでやっつけてかたほうだけのこった目をわたしのほうにむけながら、
 「せかいがはんぶんだけすけてみえるゼ」
 たのしそうにそれをつげたものだった。

 おきたばかりでどんなになっているかわかったものじゃないから、かの女のへやにおいてあるすがたみのまえにたつことにした。
 そこにはながいかみをたらした、おきたばかりであまりみだしなみのよくない格好をしたおさない少女がたっていた。
 かみのみだれとふくのしわ、やっぱりくしゃっとなってしまったがそれをなおしてへやをでる。

 居間にもどるとすでにまほうつかいの弟子はあさげのしたくをしているところだった。
 『司書』が食卓のまえでうんうんうなりながら目録にチェックをつけていた。
 あのあと少年を床におさめたあとでこのいえのどこかにおいてあるわたしの本と、もってきた図書目録をつきあわせてもれがないかたしかめていたのだろう。
 こういうときに悪魔はねむらなくてもいいからいいなとおもう。
 どうにもそとにでるたびに、いつもいろんなものにないものねだりしているじぶんにきがつく。
 やれやれ。
 『司書』をねぎらうつもりでこえをかけるとかの女はむずかしいかおをしていた。
 どうしたのかとこえをかける。
 するとかの女はいちどだけまほうつかいの弟子のほうへちらりとかおをむけたあと、目録の一部をゆびでなぞった。
 そこにはわが略奪者が『かりて』いったひづけと書庫ナンバーと題名がかかれていた。
 いまから数年まえ、たぶんあの少年がかの女からレクチャーをうけていたころのぶぶんである。
 わたしはそれをおってゆき、そうして『司書』とかおをあわせ、くちをへのじにまげて、「ええっと。・・・」
 こまったかおをした。
 したくをおえた少年はつくえのうえにめしとみそしる、つけものにやきざかなをならべていく。
 いいにおいだがなんだかしまらないかんじでもある。これがまほうつかいの弟子と魔女がかこむあさげであるのか。
 しかしこのやまのようにもられためしはなんであろうか?
 「いや、先生がいっぱいたべないといいまほうつかいにならないぞって。ふつう、これぐらいは魔女でもたべるんだぞって」
 そういやあのおんな、としをとってもたべるほうだけはまったくおとろえなかったな。
 しかもまほうつかいのくせに和食派だったし。
 「すみませんがこのはんぶん、いやはんぶんのはんぶんにしてもらえませんか。魔女はこんなにたべません。あさもひるもよるでさえ」
 「はあ。やっぱりそうですよね。先生のほうがへんなんですよね」といいながらちゃわんのなかをへらしてくれた。
 やれやれ。
 いろいろとおもいだしてばかりである。

 てをあわせてごちそうさまととなえると、少年はおそまつさまでしたと茶をだしてくれた。
 やくたいもないはなしをしたあと、さっき『司書』がむずかしいかおをして指摘したことがらを少年にたずねてみた。
 ふたつみっつの質問をして、そうしてそれへの少年のうけごたえをきいてみてすぐにわかった。
 おもわずあたまをかかえこんでしまう。
 「どうしたんですか?」
 わたしはどうきりだしたらいいものかかんがえたが、適切な表現がうかばなかった。
 「なんともいいにくいのですが」
 少年はじぶんがなにかしでかしてしまったかとおもったのか、かたいひょうじょうをしながらわたしのほうをみつめていた。
 わるいのはあなたではなくてあなたの先生、あのおんなのほうで。
 「とてもいいにくいのですが、あなたのおそわりかたは、その。断片的というかなんというか、その。・・・」
 少年はまだかおをかたくしている。
 「すみません。正直にいいます。あなたの先生、つまりあのまほうつかいはすんげえじぶんの趣味にかたよったおしえかたをしていたんで、あなたの勉強したことはなんだか、とってもおかしいです」
 じぶんでもいってることがへんだとおもった。いみのわかりにくしゃべりかただったかもしれない。
 「え?」
 「いえ、だからあなたの勉強したことは初歩を断片的にやったあとでいきなりアデプト、達人がかいたマニアックな論文の解釈をおそわったようなもので。・・・ええとごめんなさい。こういういいかたはあれなんですが。・・・」
 「体系的ではない?」
 わたしと悪魔はうつむいておしだまってしまった。
 悪魔でさえわかるほど、そうなのだった。
 あのおんな、ほんとうにわたしの図書館からかりたものだけでこの少年の教育をしていやがったのだな。はてしなくはらただしい。
 「けど、師はおまえはほんとうにできがいいって」
 「ええ。あなたができがいいのはみとめます。こんな時系列で、ええとこれはかりていったひづけをおさえていてそこから推察しているのですが、それでもアトランダムというか師の趣味でえらんだようなテクストで勉強してそこまで理解できるというのは。・・・ううん。・・・なんというか才能のむだづかいというか。・・・いやほんとうになんていえばいいのか。・・・そのむだではないのだけど、いやいやいや。・・・」
 少年はうつむいてだまってしまい、なにかいってやらねばとおもいことばをさがしているあいだに、
 「やっぱそうっスか」
 じごくのそこからきこえてきそうなこえでつぶやいた。ことばづかいがいきなりぞんさいになったきがする。
 「・・・なんとなくそんなかんじしていたんっスが、やっぱあのばばあ、ぼくにすんげえ適当におしえてたのか。・・・」
 少年はてきせつな理解をしたようだけれども、これへのフォローはなにもできない。
 かおがまっかになってぶるぶるふるえている。
 なんでこんなどうしようもないことばっかりのこしたままあのおんなは地上世界からきえていったんだろう。地獄におちて反省していろ! いや天上地獄にいたとしても反省するべきである。ほんとうにまったくはらただしい。
 少年をなだめすかして小一時間。
 しまいにはかれのもっているちしきのアナとなっているぶぶんをおしえてやることを約束し、どうにかこうにかおちついてくれた。
 それにしてもわたしもやすうけあいしたものだ。
 この徒弟制度のきびしいあやしげな分野で第二の師となってやろうなんて茶のみばなしできめてしまうのだから。
 けどそれもいいか。
 かの女のいえにくることのいみができたのだから。


 なんとか少年がおちついたようなので、『司書』とふたりで目録のつきあわせをおこなう。
 ひるもおわって日がかたむいたころになってようやっとおわった。
 「あの、すこしやすみませんか?」
 少年がこのいえのおくにある書庫までやってきてそうこえをかけてきた。
「さっきはすみませんでした。あんなところをおみせしてしまって。・・・」
 ほんとうに恐縮したようすだった。
 「いいんですよ。あなたの先生ののこしたことはわたしがひろえばいいだけのことだし。ところで」
 「なんでしょう?」
 「このいえにあるほんはあそこのでぜんぶですか?」
 「ええ。さっきみせたぼくのへやのと先生のへやにあったのとここのですべてです。なにか?」
 「いえ。もうすこししらべてみましょう」
 「なにかみつからないものでも?」
 少年が不安そうにたずねかえしてくる。
 「・・・」
 わたしはそばにいる悪魔にむかって、村にいって荷台と人足をかりてくるようにめいじた。
 あしたのあさきてもらうようにといって、前金となるきんのつぶをいくばくかもたせてやる。
 それからふたたび少年のほうにふりかえり、「もうすこしだけしらべてみます」とかれにこたえた。
 めいかくなこたえはいつもきちんとしらべてからおこなうべきなのだし、それだけのじかんはいつもたっぷりとあるのだから。

 すこしつかれたのでそとにでてやすむことにした。
 少年がやすむようにといったときにすなおにやめておけばよかった。しらべものをしているとおもったよりもつかれるものだ。
 いっぽんみちのきえたさきにむかって太陽はもえつきながらおちてゆきつつあった。
 太陽はきょうのしごとをなしおえて、ようやっとじぶんのすみか、まっさかさまに地獄のそこへおちていこうとしているところだった。
 そして地獄のそこでつみとがのすべてをもやしつくしてくさったせかいののこりかすをきよめつくすのだ。
 そのたそがれどきのみちをとおくからなにかがやってくる。
 はじめはつかいにだした悪魔かなとおもったがちがう。
 ひとのすがたをしたべつのなにかだった。
 「おひさしぶりです」
 それはくちをひらいた。
 ひゃくねんいじょうむかしにであったモノだった。
 きんいろのかみとあおいめをしたそれは、まるで少女のようなすがたをしてる。
 「それはあなたもおなじじゃないですか」
 それはわらいながらこちらにちかづく。
 たそがれどきのあいまいなひかりのくっせつで、そいつのすがたかたちをすべてみとおすことができない。
 まるで亡霊のようだった。
 「それはあなたもおなじじゃないですか」
 それはたちどまり、わらいながらいった。
 きれいなこどものこえだった。
 こいつはこのいつわりのいのちに愛着をおぼえる。そうしてであうたびによろこびにふるえたこえで、 
 「それはあなたもおなじじゃないですか。魔女よ」
 「かの女は、ここをすまいとしていたあのひとは未熟すぎたのです。だから、わたしやあなたとはことなる」
 ものごとのありようを選別し分別する。
 わたしはそいつをあざわらう。
 「いまだに完全ないのちはつくりだせないようですね。『にんぎょうつかい』さん」
 「いまだにせかいのキズをみつけだせないようですね。『せかい』さん」
 わたしたちはおたがいにあいてのことを認識した。
 「・・・さて『にんぎょうつかい』さんはなんでふつうのまほうつかいのすみかにやってきたのですか? たしかあなたはどこかのもりのなかで、いまだつくりだすことのできないでいたイノチをなにものにも、神にも悪魔にも偶然にもたよらずにおのれの力量のみからつくろうとしていたのでは?」
 くすくすと、むかしをおもいださせる不愉快なわらいごえをあげながら、
 「あら『せかい』さんこそ。むかしの実験の結果をまだきいてませんよ。まだ結果報告にはいたらないのですか? たしかあのまもののすみかで研究をつづけてらっしゃるとはきいてましたが」
 まったくもって。
 「あなたにわたしのやっていることをきかれるおぼえはありませんね。ところでもういちどだけききますが、なんでただのまほうつかいのいえに『にんぎょうつかい』さんがいらっしゃるので? わたしはここに本をかえしてもらいにきたのだけど。たしかあなたはだれにもなにもかさない、かしもつくらない。その存在のありようだけで無欠性をほこっているのだから、だれかとなにかを交流することはないとおもっていたのだけれども」
 不快だ。
 「そうですね」
 「そうですね。わたしはなにもかしをつくらないし、あいてにもつくらせない。そんなしみったれたことはもとからしないんですよ」
 「すべてあげてしまうかすべてうばってしまうか? それなら無欠で完璧ではないですか? そうはおもいませんか?」
 逆光のなかでかの女はほほえんだ。
 「まったくもって不快だ。はやくここからきえうせろ」
 魔女であるわたしはのろいのことばをはいた。
 ことばのとおりにかの女はここからきえうせた。
 こっぱみじんとなったかの女のむくろはこなとなり、かぜにさらわれてここからきえうせた。
 「まったくひどいですね」
 どこからかこえがきこえた。
 「まったくひどいですね。あいもかわらずに。これでもわたしはあなたのはじめの師であり、あなたにすべてをあたえてあげたつもりですが」
 「すべてをうばうつもりででしょう? まったくありがたみをかんじませんわ」
 「それと、あなたのからだにくぎがうまってしまえ」
 魔女はふたたびのろいのことばをはいた。
 ぶすりぶすりというおとがどこからともなくきこえてきた。
 からだのなかからくぎがはえてきてそとにむかってつきだすおとだった。
 ぐじぐじぐじ、ぐじぐじぐじというおとがゆうやけのあかいろだけになったこのみちにひびきわたる。
 ぐじぐじぶちん、ぐじぐじぶちん。
 「ほんとうにひどいこ。なんでこんなこを。・・・」
 「いうな!」
 わたしはおおごえでさけんだ。
 げほりとせきがでる。おおきなこえでさけびすぎた。
 ぜんそくがぶりかえしそうなけはいをかんじた。
 それでもそのつづきをいわせてはいけない。
 きいてしまうとほんとうにいかってしまうから。
 「ほんとうになんてひどいこ。なんでこんなこを。・・・」
 いたぶるようにそいつはことばをくりかえす。
 「うまってしまえうまってしまえうまってしまえ」
 せきのあいまにはきだされたのろいのことばにあわせて、すでにここに存在しないかの女のからだにくぎをさしこんでいく。
 うちからそとへとびでたくぎは、じめんにばらりばらりとほどけるようにおちていく。
 まっかなくうきのなかをきらきらきらきらとかがやきながらおちていく。
 (ティンクルティンクル。ちいさなほしが・・・)
 なぜだかおおむかしにおぼえたうたをおもいだした。
きらきらとあかいほしがばらけながら、
 「こんなにもにくいのね」
 わたしはせきをした。
 せきをしつづけてのろいのことばをはけなくなると、じめんにりょうひざをついてしまうとそいつはそうつぶやいた。
 「ああ、こんなにもにくいのね。そうね。あなたがいまこわしてしまったからだをあたえてあげたこ、かの女もわたしをにくんでた。あなたとおなじいつわりのいのちをもって、けど、わたしとおなじようにいのちを課題としてなにもせずにうごきつづけるにんぎょうをつくりだそうとしたそのこも、わたしのことをしってからはにくみつづけていた。・・・」
 「ねえ? しってる? あなたのこわしたからだにうえつけたイノチの実験作は『まほうつかい』という種族があるってずっとしんじてたの。わたしがつくって、いつのまにかもりにすんでいるじぶんがまほうつかいだってきづいて、けど、それはだれにおそわったわけでもなくしぜんにしっていて、それでこうおもったの。ああ、じぶんはヒトとはちがう『まほうつかい』という種族なんだ。かってにうまれ、かってにそだち、そしていつのまにか思索する。・・・」
 「だまれ」つぶやけるほどには回復した。
 「だまれ。このウツロ」
 あかいじごくのなかでこえとけはいがこおった。
 「あなただけは、こどものすがたからそだてたのだけど。けど、」
 「ウツロはきえるべし」
 「拒否する」
 ウツロはのろいのことばにたいして拒否した。
 「ウツロはみえなくなるべし」
 「すでにわたしのすがたはみえなくなっている。それにいみはない」
 そうではない。そうではなくてもっとべつのことばがひつようなのだ。
 「ウツロのことばはつげられることなし」
 「拒否する。ことばをことばで破壊することはできないから」
 せきがでる。
 「だからわたしはしゃべりつづける。でね? 魔女」
 「わたしはひとつだけかしをあげる。けど、これはぜったいあなただけにしかしないもの」
 それは誘惑するこえで、だからわたしはさからうこともなくそのことばのつづきをきいてしまう。
 「ふつうのまほうつかいのへやにある、わたし、わたしがいのちをあたえた、さきほどあなたがこわしてしまったおんなのこがふつうのまほうつかいにあげたほんを、地図というべきかしら、それをさがしなさい。わたしはあなたの保護者らしく、あなたのやわらかでやさしいところをまもってあげなくちゃいけないのだから。・・・」
 ウツロはさいごにそうつげて、しゃべらなくなった。
 わたしはかおをふたたびじめんにむけて、つかれきってしまったのだが、そのままじっとうずくまっていた。
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