Coolier - 新生・東方創想話

蓬莱人と店主。その参

2007/04/07 05:22:12
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太陽が眩しい昼下がり、
香霖堂を訪れる者が一人存在した。店ではあるもののなかなか客が来ないため、
ほとんど霧雨魔理沙と博霊霊夢の暇潰し場所となっていた。
しかし今まさに香霖堂のドアを開けようとしているのはその二人の内のどちらでもない。

彼女は一体何本あるのか、というぐらいの量の尻尾を揺らしながら
香霖堂のドアを開けて中に入っていく。

「失礼する。店主は居るか?」
「ん、ああ、居ますけど………お客様?」

霖之助は本を読むのを中断し、カウンターから顔を覗かせる。
昨日の夜からずっと本を読んでいた。
徹夜である。

突然現れた客を彼は不審に思った。
理由は当然、大量に生えている尻尾である。
どう見ても妖怪である。狐の尻尾に見えるが………。

「客でなければなんだというのだ。
私は八雲藍。あなたは一度私の主に会っていると思うが、わかるか?」
「ああ、たしか紫さん……だったっけ」
「その通り。ちょいと紫様におつかいを頼まれてな」
「そうかい。買いにきたの? 売りにきたの? いや、おつかいっていうんなら買いに来たのだろうね」
「そう、買いにきた」

そう言うと藍は、うーん………と考え込む。

「ええと、あれだな、携帯電話………なんだっけな、ブイ七丸なんとかっていう、
携帯電話機を、あなたは先日見つけて拾った筈だが」

ギクッ、なんて音は実際立ててはいなかいが、霖之助は内心焦った。
ああ、確かに拾ったな。確か、妹紅とかいう人に会った次の日だろうか。
いつものように店の周辺を探索していた霖之助は、奇妙な長方形の機械を見つけた。
地面から拾い、手に取り、自分の能力をそれに使った。
触れれば、その物の名称と用途が分かる程度の能力。

見てみたところ、「V702NK」が名称。
用途は、電波を使い遠くに居る相手と会話する、だとか
電卓にもなるとか時計にもなるとか……その他も機能が多数あり、とても便利なものだったが、
どのボタンを押しても全く機動しなかった。燃料が切れているのだろう、と思い
店主は店の奥に放置していたのだが………。

「どうして、それを知ってるのかな?」
「幻想郷内で紫様が知らないことはない」

まるで自分の事のように、えっへんと胸を張る藍。
きっと主人のことが大層好きなのだろう。霖之助は思った。

「そうかい。それで、譲って欲しいと? 別に構わないけど、当然料金は頂くよ」
「物々交換でもいいか?」
「ああ、あれに見合うだけのものならね」

藍は懐から一枚の札を取り出す。

「それは?」
「あなたが触れて確かめてみるといい」

札を霖之助に渡す藍。
触れた瞬間にそれの名称と用途が頭の中に流れ込んでくる。
【どこでもスキマ 紫製】………。まあ名称なんかどうでもいい。

「なるほど。望んだ場所に隙間を開いてすぐそこに行ける、という代物か。しかも二回分」
「その通りだ。どうせあの携帯電話機はあなたが持っていても仕方が無いだろう?
宝の持ち腐れだ、と紫様は言っていた。だから私が使ってあげよう、と」

店主は思う。なんという短絡的な思考だ、と。
しかし言ったらすぐにでも殺されそうなので心の中で言っておいた。

「ふむ、これはなかなか便利だね。けど、どうやって使うんだい?」
「札を手に持ち、行きたい場所を強く念じるだけでいい。
しかし間違っても『白玉楼の扉の中に行きたい』なんて考えるんじゃないぞ、
霊が入り込んできて大変なことになるからな。紫様が力を込めた札ならば、
雲の中だろうが冥界だろうが、どこにでも繋げるスキマを作ってしまうだろう」

言われなくてもそんな馬鹿なことはしない。

「なるほどなるほど。使い方も簡単でいいね、それに僕は約束を守る人種だよ、安心して」
「ならば交渉成立か?」
「そうだね」

店主は店の奥に行き、一つの小さい木箱を持ってくる。
一応機械ということで丁寧に扱っていたのだろう。

「まいど」
「ああ、それではな。ところで、そちらの方から油揚げの匂いがするのだが………」

藍は店から出ていった。両手に木箱を持って。ご機嫌そうに口に油揚げを咥えて。
珍しい客だったな、と思いつつ、自分が寝ていないことを
思い出す。外の世界の本は面白い。故に寝るのを忘れ、ついつい読み耽ってしまう。
欠伸が出た。眠い、寝よう。
決断は早かった。霖之助はすぐさま布団に潜る。眼鏡は枕の横に。
その時、コンコン、と二回入り口のドアがノックされた。
さっきの狐妖怪が忘れ物でもしたのだろうか、と思い店主は外した眼鏡を掛け、
どうぞ、とドアの向こう側に向かって言った。

「失礼するよ」

その声は先程まで居た、八雲藍の声では無かった。
魔理沙でも無いし霊夢でも無い。
一瞬、「誰だ?」と思った霖之助だったが、すぐにその人物はドアから顔を出した。

「こんにちは、今日はいい天気だな」

入ってきたのは、三日ほど前に出会った彼女だった。
死なないのに死にかけていた、それなのに減らず口を叩いていた、
蓬莱人。藤原妹紅であった。

「やあ、こんにちは。君は………藤原妹紅さん、だよね」
「妹紅でいいよ。そういうお前は森近霖之助だったか?」
「森近でも霖之助でも香霖でも、好きなように呼んでくれていいよ」

香霖ってのはアダ名か? 可愛いな。と笑いながら言う妹紅。

「立ち話もなんだし、折角椅子もある。座ったら?」
「それじゃ、お言葉に甘えよう」

妹紅は霖之助と向かい合うようにしずしずと椅子に座る。手は膝の上に置いてあり、
背筋はピンと伸びている。なんだか……意外と上品な娘だな。霖之助は思った。

「どうした? こーりん」
「いや、別に………香霖が気に入ったのかい?」
「ああ、可愛い響きじゃないか。こーりんこーりん」

楽しそうに話す妹紅を見て、霖之助も笑みを漏らす。

「ところで妹紅、どうして僕がここに居るって分かったんだい?」
「んーとね、霊夢ってわかるだろ? 博霊神社の巫女の。あいつに聞いたんだ。
あいつなら色々と知ってそうだったからな」
「へえ……でもなんでわざわざ?」
「礼を言い忘れてたからな。それに失礼なことを言ったのに謝ってもいない。
あれは善意だったんだろ? 香霖のさ。だから、ありがとう。そして済まなかったな」

頭を下げる妹紅。霖之助は少し慌てた。

「いや、気にして無いよ、だから頭を上げてくれ。そうだ、折角来てくれんだから、
お茶でも飲んでゆっくりしていきなよ。緑茶は飲めるよね?」

妹紅は「ああ」と一言漏らした。
霖之助は手際良く茶の葉とお湯を用意する。

「ところであのドリンクは飲んでみたかい?」
「ああ。効いたよ、とても。ありがとうな」
「そうか、それは良かった」

妹紅はちょっとした嘘を吐いた。
実際は『とても』ではなく『ちょっとだけ』である。
しかし善意で薬を譲ってくれた香霖に対してその本音を言うのは、妹紅には憚れた。
良い蓬莱人である。
霖之助は淹れ立ての茶をテーブルに二つ置いた。ありがとう、と妹紅はまた礼を言う。
礼儀正しい蓬莱人である。

「本当はお茶菓子でも用意したいところなんだけど、生憎、どこぞの
黒白魔法使いがいつの間にか平らげてしまうんだよ」
「マスタースパーク?」

「黒白魔法使い」という言葉に対する妹紅のレスポンスがこれだった。
ド派手な魔法、いや魔砲だから鮮明に覚えているのだろう。

「なんだ、知り合いだったのかい?」
「別に知り合いって訳じゃないよ、ちょっと一戦交えただけさ。
そういう香霖とは、どういう関係なわけ?」

妹紅は音を立てずにお茶を飲みながら言う。
やはりどこか気品が漂う。霖之助はまた思った。どこかの貴族だろうか?

「魔理沙はよくうちで暇潰しをしたり、アイテムの修理を頼んできたり、
いきなり妙なキノコを大量に持ってきたり……そんな感じだよ。妹みたいなものかな?
まあ、客も全然来ないし、こっちとしても暇を潰せていいんだけどね」
「ふぅん。じゃあ私もちょくちょくここに来てもいいのかな?」
「遊びに来るぐらいなら構わないよ。ただし弾幕ごっこは外でやってね」

霖之助は前に霊夢と魔理沙が店内で喧嘩をして、弾幕まで放っちゃったりして、
店の中が滅茶苦茶になったのを思い出した。

「そうか、助かるよ。私の唯一無二の親友は寺小屋の先生をやっていてな、
彼女は忙しいから、私は独りの時が多かったんだ………。もう随分永く生きているから、
結構慣れたけど、それでもやっぱり独りは寂しいからな………」
「こんなところで良ければ、いつでも来るといいよ」
「ありがとう、香霖」

何回礼を言われただろうか。霖之助は流石に気恥ずかしくなる。
別に自分では大したことをしているとは思っていないのだが……。

「香霖、来たぜ」

突如ノックも無く勢いよくドアが開かれる。
噂をすればなんとやらである。張本人、霧雨魔理沙であった。
魔理沙は妹紅を見るなり目を細める。

「………なんであんたがここに居るんだ?」

瞬間、険悪な雰囲気になる。
霖之助は、妹紅と魔理沙の視線の間に火花が散っているのを幻視した。

「居ては悪いのか? 私は香霖の友達だ。遊びにくるのは当然のことだろう」
「そうなのか? 香霖」

魔理沙は霖之助に視線を向ける。
まあ別に妹紅の言っていることも嘘ではないので、小さく頷いておいた。
魔理沙は納得したように大きく息を吐く。
彼女は、妹紅が敵だという認識を持っていたのだ。そして今、その認識は
彼女の頭の中から消え失せた。

「そうか、なら友達の友達は友達っていう公式をここに当てはめるぜ。
私は霧雨魔理沙だ、普通の魔法使いだぜ。よろしくな」
「私は藤原妹紅、ニートでは無いが働いてもいない。こちらこそよろしく」


店主は険悪なムードが去ったことに安堵し、それからもう一人分の湯呑みを用意した。
三人が他愛も無い雑談をしていると、霊夢がきた。
「あら、やっぱり居たのね妹紅」

店主はもう一人分の湯飲みを用意した。

四人が他愛も無い雑談をしていると、魔理沙が突然
「時間だぜ」
言ってエプロンを付けて台所に立った。
夕飯を作る気であった。
霖之助は「またか」とは思ったが口には出さなかった。

「今日は四人分か、結構手間がかかりそうだぜ」
「私の分まで作ってくれるのか?」

妹紅は驚いたように言う。

「当然だぜ。それとも、不死身だから空腹感は無いのか?」
「いや、そんなことはないけれども………」
「じゃあ作るぜ。今日は豪勢に鶏肉で決めるぜ、記念日だ」
「だったら、私も手伝うよ」

妹紅も香霖堂にあるエプロンを付け、台所に魔理沙と並ぶ。
霊夢は「頑張ってね~」なんて言いながら本を読んでいる。
もっとも、それは店主も同じことなのだが。

 
 
結果として、妹紅と霊夢が入れ替わって料理を作ることになった。
野生の獣が住むような場所に妹紅は住んでいたため、料理なんて滅多にしなかったのである。
故に、家事全般のスキルはどこかの瀟洒なメイドと対極の位置にあった。
魔理沙が包丁と人参を渡し、
「まず人参の皮を剥いてくれ」
妹紅は気合いを入れて、それら二つを手に持った。


「皮を、切ろうと思ったのに何故か手を切っていた………」
そういうわけで妹紅は右手から大量出血。
他三人は大層心配し、ワーワー騒ぎ立てたが、「このぐらいなら直ぐ治るよ」
という妹紅の宣言通り、料理が完成する頃には完治していた。その間は包帯を巻いて
流血を防いだ。

「すまないな……役に立たなくて」
 
魔理沙と霊夢が料理をを作っている間、妹紅は申し訳なさそうに
霖之助に言った。

「まあ、これから覚えていけばいいさ。ちょくちょく来てくれるんだろう?」
「あ、うん」
「あの二人に教えてもらえば、すぐ出来るようになるよ」
「そうだといいけど………」

妹紅は苦笑しながら窓の外を見た。
もう暗くなってるな……別に約束をしているわけではないが、
慧音がもし来てくれていたら悪いな…。妹紅は思った。

「出来たぜー」

魔理沙が大きな皿を運んでくる。
霊夢は人数分、茶碗にご飯を盛り、味噌汁も用意する。
味噌の良き香りが、店内に広がった。
妹紅にとってそれは、自分によく和食を作ってくれる、慧音との楽しい時間を思い出す
心温まる香りであった。

結局霖之助は何もしなかった。


「いただきます!」

四人の声が一斉に店内に響き渡る。
今宵の香霖堂は、いつに無く活気に満ち溢れていた。






一応もう少し続きます。
壱からずっと最後まで読んでくれたら嬉しいです。
佐々木慧
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コメント



0.880簡易評価
1.70名前が無い程度の能力削除
途中の霊夢が来てから魔理沙が夕飯を作ることを切り出す迄の部分が
少し急な展開だと思えました。
7.80匿名削除
【太陽が眩しい昼下がり】って、【こんな時間でも、しっかりと起きて】と言うほど速い時間なんでしょうか……
東方は好きなんですが、詳しい設定までは知らないので(^^;
それだけが、引っ掛かりました。
作品自体は面白いと思いますので、頑張ってください。
11.無評価佐々木慧削除
どうも初めまして。
確かにそうですね。ちょっと完成させた後も色々弄ってしまい
gdgdになってしまいました。訂正しておきます
14.50名前が無い程度の能力削除
三角関係が来ると思ったけど来なかったのだけが心残りです。
>料理をを タイプミスかと思われます。
17.90時空や空間を翔る程度の能力削除
和やかな気分になります。
のんびりと時間が流れていて。
続き楽しみにしてます。