Coolier - 新生・東方創想話

メイド長いまだにメイド

2007/03/07 11:41:33
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 歴史上のいかなる偉人にも必ず下積みの時代というものがあった。
 才能があったとしても下積みが無ければただの役立たずとすら言える。
 下積みなくしてそれを活かすことはできないのである。
 当然どんな職業であったとしてもそれはあるわけで、現紅魔館のメイド長である十六夜咲夜も例外ではない。
 つまり何が言いたいかと言えば、彼女にもメイドの時代があったのである。
 
 これは彼女がただのメイドであった頃のお話。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
「はぁ……」
 
 ついため息が出てしまう。こんな所で何をしているのだろうか、という気持ち。
 吸ったことは無いがきっと煙草でも吸いたいという気分はこういうものなのだろう。吸うつもりもないけれど。
 彼女――十六夜咲夜が現在座り込んでいるのは彼女自身も今まで見たことがないくらいに立派に洋館の庭だ。
 何故こんなところにいるんだろう、と深く疑問に思う。
 メイド服である。別に潜入のためにこれを着ているとかそういうのではなく、現在彼女は完膚なきまでに紅魔館の新米メイドなのだ。
 場違いだ。ひどく場違いだ。
 その感覚は決して気のせいではないだろう。
 この屋敷には数多くのメイドがいるがそのほとんどが彼女のように人間ではなく、ほとんどが妖精、残りも妖怪とかそういった類の人物ばかり。
 だいたいこの屋敷の主人からして吸血鬼だ。人外魔境ここに極めり。
 そんな中でせこせこと働いている自分の現状が不可解でたまらないのが今の正直な感想だった。
 
「こんにちは」
「――っ!?」
 
 背後から突然声をかけられて咲夜は思わず飛び退く。
 気が抜けていたとはいえ、何の気配も感じなかったことに対する驚きが大きい。
 視線を向けてみればそこには見覚えのある姿がある。確かいつも門の所に立っている人だ。
 たしか名前は――
 
「えっと、中国さん?」
「……紅美鈴です」
 
 見たまんまで言ったらやはり違っていたらしい。
 
「申し訳ありません、まだ全員の名前を覚えることが出来ていないものでして」
 
 目上の者に対する礼は嫌というほど叩き込まれたので形式だけはそれに従って、礼をしながら謝罪をする。
 ここにいる殆どのメイドは自分のことで精一杯な連中だけだが、中には真面目にそれ以外に気が回るのもいるのだ。
 見た目彼女はそのタイプのようだし、万が一メイド長に報告されでもしたらまた雷が落ちてきかねない。
 
「あ、別に気にしなくていいですよ」
 
 が、当の彼女は特に気にした様子もなくのほほんと笑っている。
 
「あと、敬語じゃなくていいですよ。そういう堅苦しいのは苦手ですから」
「そういうあなただって敬語じゃない」
「私のは職業柄の癖みたいなものですから、無問題です」
 
 無問題なのかどうかは分からないが、敬語じゃなくて良いというのは彼女としてもありがたいことだった。
 敬語など今までろくに使ったことがないので、これでも結構苦労しているのだ。
 
「それでその美鈴さんが何か用?」
「いえいえ、大した用じゃないんです。一人で黄昏てたものですからちょっと気になって」
「ふーん」
 
 にこにこと微笑みながら言う美鈴からは邪気の類は感じられない。
 嘘がよほど上手いか、素のどちらかだろう。
 
「あなた門番よね?」
「はい。四六時中…というわけではないですが、侵入者に対して時に礼をもって、時に月に代わってお仕置きをする門番ですよっ」

 何で月に代わってなのかとか、そのポーズは何なのかとか疑問点は残るが、とりあえず門番だというのは分かった。
 なら、これから長い付き合いになることだろう。
 
「そういう………えっと」
「…咲夜よ。十六夜咲夜」
「咲夜さんはこんな所…というのもあれですが、何でここに?」
 
 その疑問も最もだ。
 この紅魔館はもともと大きな湖の近くにあることもあって比較的涼しい。
 それもあって今はまだ秋の始めとは言え、館の中ならともかく外は既に上着を着込まなければ凍えそうな程度には寒い。
 故に自然とこの場所は紅魔館でも有数の行きたくない場所となっているわけである。
 メイド達による庭の掃除の譲り合いも日々の光景となっていたりする。
 そして、反省させるのに丁度いいということでこの場所の掃除が言い渡されるのも少なくないのである。
 
「ちょっとメイド長と言い合いになってね」
 
 別に隠すようなことでもないのであっさりと答える。
 
「…あのメイド長ですか?」
「この館にメイド長が二人いるんでなければそのメイド長よ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 事は数刻前、特に事件らしい事件はなくいつも通り家事の類は済ませてしまおうと自分の事で精一杯の妖精達はさておき余裕のある者達は館を動き回っていた。
 いつもの通りにメイド長がメイドの一人一人事細かに指示を与えていく。
 それは毎日ほとんど変化はないが、毎日少しだけ違う指示だ。彼女が発見した問題点を指示しているのである。
 その光景をじっと眺めていた一人のメイドが手を上げる。つい最近メイドとして働き始めたばかりである咲夜である。
 メイド長は視線を咲夜のほうに向けて「どうぞ」と意見を述べる許可を与える。
 咲夜は言った。
 
 今のメイド長のやり方には無駄が多いのではないでしょうか。
 確かに常に全体に目を回せているメイド長の手腕は確かに認められるものですが、多少の違いは現場の方が判断するべきではないかと。
 あまりに細かい指示を与えると逆に現場のメイド達が動きにくくなるのではないでしょうか。
 それでも気付いていない様子だったら口を出せば宜しいのでは?
 
 メイド長は暫くの沈黙の後で口を開いてこう言った。
 
 そうですわね。あなたの言う通りかもしれません。
 では、そう言うあなたに今日から庭の掃除を任せますので現場の判断とやらでご自由にやってくださいな。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「というわけ」
「…あのメイド長にそんなこと言ったんですか?」
「ええ、何故かご立腹のようだったけど」
 
 そりゃあ、そんなにオブラートにも包まずはっきりと批判されれば怒りもするだろう。
 
「私間違えたことは言ってないつもりよ?」
「…えー、まぁ、確かに間違えてはないかもしれないんですけど。メイド長も頭が固い人だから…その…」
「?」
 
 どう言ったものか、と悩んでしまう。
 どうもこの咲夜という少女には、そういう行為がメイド長にどういう心境にさせたとかいうのがすっぽ抜けてしまっているらしい。
 世の中正論ならばどういうことをしても良いというものではないのだ。
 
「あ、それならこんな所で油売ってても良いんですか?ここの庭は半端な広さじゃないから早く終わらせないと日が暮れちゃいますよ。終わってないのが見つかったら次はどんなところに回されるか分かったもんじゃありませんよ」
 
 ここは吸血鬼の住む館、紅魔館。恐怖スポットも満載である。
 それこそこの場所よりも精神衛生上別の意味で行きたくないと言う場所もあるのだ。
 
「ああ、掃除ならとっくに終わってるわよ」
 
 咲夜の言葉に「へ?」と美鈴は固まる。見回してみれば確かに目に見える範囲では掃除されているように見える。
 そんな短時間で終わるような量ではないはずなのだが。
 
 
「随分と楽しそうですわね」
 
 
 突然背後から聞こえてきた覚えのある声に咲夜はぎょっとなる。
 いつの間にかそこにいたのは噂のメイド長。
 やはりまったく気配を感じなかった。ここは隠密者の巣窟なのかと疑いたくなる。
 
「メイド長、こんにちは」
「紅さん、ご機嫌よう。お勤めご苦労様です。……それから、十六夜さん」
「…はい」
 
 咲夜の顔があからさまに曇る。これはいつもの小言パターンだ。
 
「メイドたる者いつでも粛然としてなさいと言ってるでしょう。メイドの品格で主人の質も問われるのですよ?」
「はい、申し訳ありませんでした」
 
 少なくとも不平不満は表に出さず咲夜は素早く立ち上がって姿勢を正す。
 それを見ながらメイド長は満足そうに頷く。
 
「分かれば良いのです。……それと、レミリアお嬢様がお呼びです。すぐにお行きなさい」
「…お嬢様ですか?」
 
 今度は声色からも明らかなほどに嫌そうにする。
 あのお嬢様から呼ばれて良い目にあった記憶などない。
 だいたい本人が暇潰しと明言している。暇潰しに付き合わされるほうも良い迷惑だ。
 
「…十六夜さん?」
「はい、直ちに向かわせていただきます」
 
 メイド長の詰問するような目付きから逃げるように咲夜は素早い身のこなしで館の中へと向かう。
 その後ろ姿を見ながらメイド長は深くため息をつく。
 
「…まったく、あれで従順ささえ身につけば良いメイドにもなれるものを」
 
 最初来た時の粗暴さに比べれば遥かにまともではあるが、それでも長年メイドを続けている彼女からすればまだまだだ。
 本当は付きっきりで指導したいくらいなのだが。
 
「あなたがそこまで認めるのも珍しいでねー」
「…美鈴さん、貴女の仕事は門番でしょう。こんな所で油を売っていていいのですか?」
 
 したり顔でにこにことしている美鈴に対してコホンと照れ隠しのように咳払いをしながら言う。
 当の美鈴は相変わらずにこにことしたままで「そんなヘマはしませんよ」と返した。
 
「門の前にいなくたって誰かが近付いてるかくらいは手に取るように分かりますよ」
「…まぁ、貴女が言うのならそうなのでしょう」
 
 メイド長はこの門番のことを十分なほどに信頼している。
 でなければ、門番という役目を彼女一人に任せているはずがない。
 
「まったく、お嬢様もどうして毎日のように彼女と長話をしたがるのか。やって頂きたいことは山ほどありますのに」
 
 メイド長は再びため息をつく。
 そんな彼女の姿を見ながら美鈴は美鈴でこの人は真面目過ぎるんだよなぁ、としみじみと思っていた。
 彼女は有能か無能かで問われれば間違いなく有能である。
 でなければこの紅魔館のメイド長など勤まるわけがない。
 統率能力は十分であるし、細かな気配りも出来ると言う妖怪にしてはかなり珍しい部類だろう。
 実際難物揃いのこの紅魔館のメイド達をよく纏め上げている。
 
 が、この館の主であるレミリア・スカーレットにとってはどうなのだろうか。
 レミリアはどちらかと言えば奇を好んで常をあえて避けようとするタイプだ。
 そのレミリアにとって今の紅魔館は好ましい形であるのだろうか。
 もしかすると、そのために人間である咲夜をメイドとして雇ったのではないだろうか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 咲夜は少なくとも見た目だけは整った形で紅茶を淹れる。
 カップには血のように紅い(実際血が入っている)紅茶が注がれる。
 
「ふふ、メイドも大分板についてきたようね」
 
 その動作を見つめながら彼女は心底嬉しそうに言う。
 見た目こそ十を少し超えた程度の少女だが、実際には五百年近くを生き続ける吸血鬼であるこの紅魔館の現当主レミリア・スカーレットその人である。
 
「でも、紅茶はまだまだまね。ようやく及第点といったところかしら」
「…はぁ」
 
 そうとしか返すことが出来ない。
 言われたとおりの手順でポットやカップを暖めるのも忘れてない。
 自分の間違いならとにかく何が悪いのか分からない。これはもしかして新人いびりとかそういうものだろうか。
 そんなことを考えている咲夜の事を見ながらレミリア楽しそうに微笑んでいる。
 
「良い?手順だけでは駄目なの。それは最低限守るべきものだけど、あくまで最低限よ。それより上を目指したいのなら自分独自のものを見つけなさい」
「……はぁ」
 
 咲夜は同じ言葉を鸚鵡のように返す。
 言いたいことは分かるが、ただの味のついた水にそこまで執着する理由が分からないのだ。
 こういう館で暮らせば暮らすほど自分には気品とかそういうものに向いてないと思う。
 
「…何度も言いますが、やはり私はメイドに向いてません」
「あら、それは大変」
 
 全く大変だとは思ってなさそうな口調だ。
 
「でも、人間耐える事で成長するって言うじゃない?」
「限度があります」
 
 大体吸血鬼に人間のことについて語られても説得力の欠片もない。
 
「じゃあ、咲夜は此処の何が嫌なのかしら?」
 
 挙げればそれこそいくらでもある。
 これまで自分が無縁だし嫌だと思っていた総てがここにあるのだ。
 しかもどういうわけか自分がその中で働いている。
 
「その問題点を解決する手が一つあるわよ」
 
 レミリア悪戯っ子のような微笑みを見せる。
 彼女がそういう笑みを見せる時はほぼ確実に周りに厄介が振りまかれる時だ。
 そのことを短いながらに嫌というほど理解できている。
 
「実に簡単な話。貴女が一番上の立場になれば良いの」
「……はい?」
 
 レミリアのその言葉に脳の理解が追いつかない。
 暫くして何らかの結論に辿り着いたらしく、両手をポンと叩く。
 
「紅魔館乗っ取りですか?」
「ふふ、やれるものならやればいいけど、そう簡単にはあげないわよ?私は来る者は拒むつもりはないけど、二度と歯向かう気にならないくらいには叩きのめす主義なの」
 
 口元は笑っているが、目が笑っていない。
 咲夜的には割と本気だったのだが、どうやら違うらしい。
 当主の座が違うというのなら、必然的に残される立場は――
 
「…まさか?」
「そう、そのまさか。あなたがメイド長になってしまえば良い」
「冗談じゃありません」
 
 本当に冗談ではない。
 メイドでさえその窮屈さにうんざりしてるのにメイド長になんてなった日にはストレスで死にかねない。
 
「そうでもないわよ?私はこの館の運営に関しては細かい口出しはしないことにしてるの。私の好みに外れない限りはね」
 
 それはメイド長になればある程度は自由にやっていいということ。
 つまり、今の環境が嫌だというのなら自分で変えてしまえとレミリアは言っているのだ。
 
「…お嬢様、一つ聞いていいでしょうか?」
「何かしら?」
「何故お嬢様は私に構われるのですか?」
 
 これはこの館に来てからずっと疑問に思っていたことだ。
 十六夜咲夜は人間で、レミリア・スカーレットは吸血鬼だ。
 これはどう足掻いても埋まらない差であり、どうしたところでレミリアにとって咲夜はちっぽけな存在に過ぎない。
 にも関わらず、レミリアは咲夜に対して多大に興味を持っているように接してくる。
 それは、本当に純真な興味だ。同情とかそういう類のものならば見分ける自信が彼女にはある。
 だからこそ余計に分からないのだ。
 
「咲夜は私の力を知ってるわね?」
 
 咲夜は無言で頷く。
 紅魔館の当主のレミリア・スカーレットはある能力を持っている。
 それは『運命を操る能力』。
 妖怪の中ではまだ幼い部類に入る彼女が畏怖されるのは絶対的な身体能力もあるが、その能力による所が大きい。
 本人曰く、咲夜がここで働くことになったのもその能力の所為だという。
 本当はもっと別の道を歩むはずだった咲夜の運命を変えたのだということらしい。
 
「貴女には分からないだろうけど、運命が見えるから分かる美しさがあるの。貴女のは今までも見た中でも極上の部類よ」
 
 咲夜はどう返事をしたらいいものか分からない。
 そもそも彼女は運命などまるで信じていない。
 運命を操るというこの吸血鬼の少女を目の前にしても信じる気など全く無い。
 咲夜が半ば嫌々とはいえ今ここにいるのは、あくまで自分の意思だ。運命なんてわけの分からないもの故ではない。
 実際そうレミリアにも告げている。
 
――あなたはそれで良いのよ。
 
 それを聞いた時、彼女は心底楽しそうにそう言ったのだ。
 
「私はね、貴女の紡ぐ運命が見てみたいのよ。ただ、それだけ」
「……それはお嬢様の暇つぶしですか?」
 
 しばらくの沈黙の後で咲夜の疑問に対して、レミリアは極上の笑みでこう答えた。
 
「ええ、勿論。今の私にとっては最高の暇つぶしね」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「―――」
 
 視線の先には眩いばかり青空が広がっている。
 多少肌寒いのを除けばこの庭はなかなかの特等席だ。
 メイド長が来たらまた大目玉を喰らいそうだが、やる仕事はやってるしそう問題でもないだろうと勝手に判断する。
 その中を風の向くままにゆらゆらと移動している雲を特に何の目標も無く見つめ続けていた。
 彼女はあの雲のように生きたいと今まで思っていた。
 風の向くまま、気の向くままに生きて死にたい。ずっとそう思っていたのだ。
 しかし、今は皮肉なことにその真反対だ。やれ作法だ、おいしい紅茶の淹れ方だ。面倒なことこの上ない。
 
「ねぇ、美鈴」
「はい、何ですかー?」
 
 気配こそ無いがどうせ近くにいるだろうと思っていたら本当に返事がある。
 実は結構曲者なのではないかと最近疑っている。
 
「正直に言ってほしいんだけど、私は上に立つのに向いてると思う?」
「少なくとも現段階では向いてはないですね」
「……ホントにはっきり言うわね」
 
 どうもこの門番は基本的に嘘はつかない。裏表がないとも言う。
 もっとも、咲夜としては彼女のそういうところが気に入っているのだが。
 
「―――でも」
「でも?」
「面白いとは思いますよ。咲夜さん、今までこの館にはいなかったタイプですから」
 
 咲夜はその言葉にきょとんとなる。
 そして、こみ上げてくるものに耐え切れず大声で笑い出す。
 「何で笑うんですか!」とか美鈴が言っているような気もするが、構ってやるものか。
 面白い。そう、面白いだ。
 すぐに辞めることも出来たのにメイドとして紅魔館に居続けている理由が分かった。
 なんだかんだでメイドというものを面白がっていのだ。
 辛いことが面白いというのも変な話だが、やりたくないとずっと考えていたことをさせられるということに多少なりとも面白味を感じていたのだ。
 
 正直メイドは今でも嫌だ。辞めれるものならさっさと辞めたいほどだ。
 ただ、今はあの我侭なお嬢様の暇潰しに付き合ってもいいという気分なのである。
 つまるところ、咲夜も何の束縛もない人生に退屈していたのだ。
 退屈な吸血鬼と退屈な人間。
 結局どちらも暇潰しなのだから付き合えるだけ、付き合ってしまおう。
 そう。要は面白ければ何でも良いのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…まったく、また彼女ですか!!」
 
 庭の方から聞こえてくる笑い声の主をカーテンを少し開けて確認したメイド長はそのままの勢いで庭に向かおうとする。
 
「別に良いわ。好きにさせてあげなさい」
「……は?」
 
 それを静止するのは紅茶を飲みながら一服していたレミリアだ。
 
「し、しかし、あのままでは館内の風紀の乱れが」
「私が良いと言ってるのよ。何か問題でもあるの?」
「い、いえ!申し訳ございません!」
 
 地面に頭がつきそうなほどに勢いで謝ってくるメイド長にレミリアを軽くため息をつく。
 まったく、このメイド長は少し真面目すぎるのだ。
 外の世界にいた頃ならとにかく、この幻想郷では神経質になっても得をすることはあまりない。
 それこそ何があったところで何の不思議のない空間なのだから。
 
「――ねぇ、貴女は咲夜のことはどう思う?」
「どう、とは?」
「紅魔館のメイド長として相応しいかどうか」
 
 その言葉を聞いてもメイド長が動揺することはない。
 彼女とてメイド長として長年レミリアに仕え続けていたのである。
 レミリアがどういうつもりであの人間の少女をこの紅魔館に入れたのかくらいは分かる。
 だが、それとこれとは話が別になる。
 
「私から言わせていただければまだまだです。まだ叩き込み足りないことが山ほどあるのですから。こればかりは例えお嬢様の命令であったとしても『今の』咲夜さんにはこの座は渡すつもりはございません」
 
 メイド長の言い様にレミリアはクスリと微笑む。
 辛辣な口調だが、それは期待の現われということだろう。
 何の期待もしていなければそもそも辛辣になる必要性すらないのだから。
 
「そうね。まだまだ、ね」
 
 レミリアは見様によっては不気味とすら取れる微笑みを見せる。
 何かを企んでいる時に必ず見せるものだ。
 それを見つめながらほんの少しだが、メイド長は同情した。
 

 きっと、あの現新米メイドはこれからろくでもない目に合うだろう。
 





 
 
メイドって良いよね
 
続くかもしれない
ゆな
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コメント



0.1540簡易評価
4.70名前が無い程度の能力削除
これは良い新人咲夜話ですね
10.80名前が無い程度の能力削除
サーイエッサー!メイドは良いものです!
それが"完全で瀟洒な従者"の"未熟で煩悶していた頃"の姿なら尚のこと!!
>兎に角
これだと「何がなんでも」とかの意味になってしまいます。「~はひとまず置いておいて」のような意味なのは「兎も角」の方だと思います。
>自分に気品とかそういうものに
「~は~に」か「~に~は」じゃないと意味がおかしくなるかと思います。
14.100適当寧夢削除
このお話の少し後…が読みたい。です。
16.無評価ゆな削除
>名前が無い程度の能力さん
ご指摘ありがとうございます。確かにそうだったので直させていただきました
18.90青鳴削除
咲夜さんの初々しい感じがとても気に入りました。
「春」って感じがします。
美鈴と咲夜さんとのやり取りも良いですね。

>その疑問も最もだ。
その疑問も尤もだ。だと思うのですが…。
合ってるかな。
25.100猫の転がる頃に削除
なんか、始まりって感じだなぁ。美鈴が良い味出してるのもグッドッ!
……こういうのも良いなぁ。和やか和やか。地下はどうなっているのか。
29.70名前が無い程度の能力削除
続く事を期待するのだった
30.90削除
永遠の真理についてわざわざ質問する必要があるのですか、サー!>メイドって最高だよね

かもしれないではなく、是非とも続けて頂きたいと勝手な希望を述べてみますw 個人的に、先代メイド長が気に入り始めていたり。