Coolier - 新生・東方創想話

真っ紅なアンテルカレール【番外編:飛ぶ夢を暫くみない】

2007/02/17 03:44:31
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――――――――隠れん坊?私と?

――――――――うん。だめ?

――――――――駄目じゃないけれど。無知はすごいわね。命知らずな子だわ

――――――――え

――――――――ああいいの。いつかわかるでしょう。それまでは…









――――――――私と、遊びましょうか








【飛ぶ夢を暫くみない】

おやすみなさいと耳元に囁いた。それが別れの言葉だった。

[Reimu]

身体に力を込めたって無駄だ。
見えない羽など以ての外だ。
むしろイメージすべきは枷なのだ。
お前の腕を縛り、足を大地に括り付け、肩を押さえつける大きな重し。
髪の一本、指の一つまでを捕らえて離さない楔。
それを外せ。
さすれば後は望みのままに、その身は宙を舞うだろう。

幼少時、私はなかなかうまく飛べなかった。だからという訳でもないが、甘言など貰った覚えはない。優しい言葉どころか、そんなものは視線にすら込められたことがなかった。ただ繰り返されたのは巫女としての役目だ。在り方だ。心構えだ。なに、こうして思い返せば辛いことなどほとんど無かった。ただ、同じくらい楽しいこともなかっただけで。

いつまでたっても修行に身の入らない子に未来を託すのは、なるほど心配で仕方がなかったことだろう。才能がないわけではなく、精神の問題というのは、果たして無能よりも質が悪いと言えるのか。いずれにせよ、飛ぶことは――――――――浮かぶことは殊更不得手だった時季があった。今にしてみれば信じられない話であるが。
実のところ、自分でもどれほど拙い飛行していたのか覚えていない。記憶とはいつでも今にしか無い癖に、今ではない。まして子ども自体とは異界だ。あの世界に自分がいたことがときどき不思議でならない。あれは本当に自分なのだろうか。今も交流がある知り合いも、記憶の中とは違う気がする。

例えばあいつ。

そう思い出しかけ、いや待てあれはそもそも記憶ではないと思い直す。いくら私が子どもだったからと言って、あれが私にそんな優しかったことなどあるわけがない。そもそも、出会ったのはもっと後だったはずだ。それまではせいぜい、人の口から噂に上るのを伝え聞いたぐらいだったはず。あるいは、残された巻子にちらほらと、あいつを思い起こさせる記述を見たことがあるぐらいで、幼いときなどは知りもしなかったはずだ。

あの、胡散臭い妖怪のことは。

「相も変わらず、胡乱な奴ね」

いくら神出鬼没とは言え、人の思い出にまで出張って来ないで欲しい。危うく捏造された記憶を本当の思い出にしてしまうところだった。幼少期からあいつと知り合いなんて冗談じゃない。あんなものは子どもの成長に、確実な悪影響をもたらすと思う。想像だけでウンザリしそうだった。

そうだ。

あいつが、あんな声で私を呼ぶはずがないし、そんな優しく笑うはずがない。

神経を逆撫でる問答もなく、からかう笑いもなく、はぐらかすような言葉も、妙に余裕のあるあの視線も無く。あいつが、子どもの遊びに付き合うわけが――――――――

「ああもう。っさいなぁ…」

子ども時代とは異界なのだ。

だから、全てはまやかしなのだ。

たとえ、同じように思えたとしても。

そんなはずは、ないのだ。















【暗転】



待っていなさいと言われたのに、何故かそれが出来なかった。稚拙な浮遊を完全にしようと、いつになく真剣になった時のことだった。



足場の悪いそこでバランスを崩した。恐怖を感じる間に世界は縦に流れていく。ぎゅっと目を閉じた私を抱き留めたのは、堅い大地ではなく、それとは対極にやわらかな、あの二本の腕だった。


「――――――――と。危なっかしいことね、次期の御子は」


呆れると言うよりは、とても楽しそうに。


「…だ、れ?」

死にかけた恐怖などすっかり失せて、私は目の前の存在に問いかける。子ども故に細い胴には、彼女の腕がぐるりと巻き付いて、もう何処にも堕ちる心配は無さそうだった。

「あら」

意外そうな声。いや、残念そうな、だろうか。

「わからないのかしら、博麗の巫女」

その言葉の後、ずるりと彼女の“下半分”が現れた。その膝に私を座らせて、彼女は宙に腰掛ける。まるで、見えない椅子がそこにはあるように。ひたと向けられた目は、人離れした叡智の片鱗を魅せ、視線は心臓を掴もうとするみたいに降ってくる。

「確かに初めましてと言えるものね。それじゃあ改めてまして、博麗の巫女。私はシガナイ妖怪の一つ。恐らくは、長い付き合いになるでしょうね」

そう言ったその妖怪は、“なんとなく”とても強そうに思えた。

「はじめ、まして?」
「あら怖い顔。妖怪は嫌い?」
「どう、かな…考えたことないから」

それでも、とりあえず退治しておくものだと言われている。
その事を思い出し、私は彼女を見つめ直した。

これに、勝つ?

肩に余分な力が入る。無理そうだと思った。少なくとも、今はまだ。

「考えたことがないねぇ。ああ、ある意味でそれは模範解答と言えるわね、博麗の巫女。そう、安心したわ。不甲斐ないばかりではないようで。そうでなくては困りものだわ」

よくわからないが誉められたらしい。手を頭に乗せられる。撫でられた。とても気持ちがいいけれど、それは振り払わなければいけない気がした。けれど私は動かなかった。それは、あと数年後に採るべき選択だと思った。

「それにしても」
「…?」
「貴女のお目付役は、私ではないのだけれど、ねぇ。“あれ”は何処に行ったのかしら」
「あれ?」

あれとは口うるさい指南役のことだろうか。ならば、今日は不在だ。だからこそ珍しく、暇を持て余して自主的に修行なんぞをしてみる気になったのだ。やはり、妙な気紛れなど起こすものではない。

「ふうん。なら、私と少し遊んでみる?博麗のみ…」
「れいむ」
「あら?」
「“ハクレイのミコ”では少し長いでしょう?」
「……そうね。なら、巫女で」

彼女は、何故か霊夢とは呼びたがらなかった。

私を地面に下ろすと、彼女は笑って私の服の皺を伸ばしてくれた。その手を掴む。

「ねえ」
「なにかしら」

隠れん坊をしようと思った私は、どうしてもそれを聞いておく必要があった。

「なまえ」

私が知っていたルールは、相手の名前を言ってから「みいつけた」と叫び、触れなければ無効というものだったから。

「あなたの、なまえは、なに?」

考えてみれば、何よりもまず訊いておくべき事だったのだが……

「名前…そう、名前ねぇ。……いいわ。本当は今日は教えるはずではないのだけれど。どうせ忘れてしまうものね。いい?一度しか言わないわよ?」

私の質問に、その人は笑って

「私は――――――――」






だから、全てはまやかしなのだ。












【BGN】


耳の中には、まだあの音が生きている。

なんどもなんども繰り返した。
手を止めてしまえば、恐ろしい何かに気づいてしまいそうで。
恐ろしい何かに、壊れてしまいそうで。
なんどもなんども繰り返した。
その度に、もう聞こえないはずのその声が、肌を撫でて、耳に食い込んで染みついた。
なんどもなんども繰り返した。
念入りに念入りに繰り返した。
その度に、唇から意図しない言葉が漏れてゆく。
悪いのは、自分じゃない。
自分のはずがない。

すべては、この化け物が悪いのです。


あの夜、か細いその声に耳を閉ざして、私は何度も手を振り上げた。


すべては、この化け物が悪いのです。

すべては、この化け物が悪いのです。



耳の中には、まだあの音が生きている。















【酔いどれ日和】



香の薫りがした。
それを嗜むといった雅なものではなく、暗に人が死んだことを示すあの匂い。

見つけた遺体の、お別れの儀に霊夢は参列していた。

初対面が死体という哀れさもあって、つい流れで葬儀にまで関わってしまったが、よく考えればそんな義理は何処にもない。全くもって面倒だが、一応は喪に服して、物忌みでもするべきだろうか。それもいいかもしれない。ついていないあの里人の為にも、それぐらいをしても罰は当たるまい。むしろしないとどこかの閻魔が五月蠅そうだ。徳を積めとも言われたことだし、帰って早速禊ぎでもしようか。

そう思って腰を上げると、例の亡くなった者の遺族らしい老婆が進み出た。簡単な言葉を交わす。悔やみの言葉を投げると、礼が返った。見つけてくださってありがとう。そう言われた。別段大したことはしていない。薪を求めて彷徨いていたら、そこに死体があったのだ。それだけだ。無惨な姿の、あれが。

なおも礼を重ねようとするのを、やわらかに止めて帰る旨を伝える。空腹も覚えていたし、何よりも眠い。それにあれは、あの死体は――――――――目を閉じて、頭を切り換える。どうでもいいことだ。



帰り道は暗かった。風が冷たい。そう言えば薪を拾っていないことを思いだし、ちょっと憂鬱な気分になる。

「―ん?」

何か遠吠えのようなものを聞いた気がした。気のせいだろうか。探ろうかと思いかけ、今日はもう面倒事はこりごりだと考え直す。ここら辺は魔法の森が近い。あの辺りを好んで彷徨く者はそういないし、『博麗の巫女』が出張っていく必要はないだろう。

「魔理沙とアリスなら、なんの心配もいらないわけだし」

むしろ、二人は厄介事そのものだ。

「あーでも、アリスの方がまだおとなしいかしら、そう言えば」

比較対象が悪すぎるからかもしれないが。いずれにせよ今日はもう疲れている。さっさと帰って眠る。これに限る。



「って、私は思いながら帰って来たってのに…」
「あら霊夢。今晩は。良い夜ね」

月に叢雲、花に風。憔悴しきった巫女の住処には、神出鬼没のスキマ妖怪、というわけか。
いや、それはさすがに可笑しい。こんなだから人も寄り付かないのだ、この神社は。


「本当に。いなくていい時にいるわね、あんたは」
「そして、いて欲しい時にはいない?」
「そんな時はないけどね」
「そう?本当に?」

くすりと笑われる。なんとなく癇に障る笑いだ。

「ねぇ」
「なによ」
「今日の霊夢は、血の臭いがするわね」
「ああ。やっぱりわかるんだ」
「ふふ」

正直、この手の話はあまりいい気がしない。

「何だかお腹が空いたわ」
「奇遇ね。私も倒れそうなほど減っているの」

ついでに倒れそうなほど疲れている。だから帰れ。あんたに構っている暇は――――――――

「気の毒だったわね。あの人」

――――――――ああそうか。なるほど。わざとか。

「また、覗き見?」

悪趣味なことだ。

「さぁどうかしら。実はずっと霊夢の傍にいたとしたら?」
「ああうん、わかった。とりあえず動くな」

むしろ避けるな。

「冗談よ」
「どうだか」
「そんな顔しては駄目よ。嫁入り前の娘なんだから」
「あんたがさせてるんでしょーが」

何しに来たんだ、このスキマは。

「愛想の無いところは相変わらずだけど…まぁ、こうしてみると、霊夢も成長したわね」
「なにしみじみと言ってるのよ。そりゃあ、この年で縮んだりはしないけど」
「最近は、前より少しは役目に力入れてるみたいだし」
「あのね、育ての親か何かみたいなこと言ってるけど、私のライフワークはあんたみたいな妖怪退治なんだけど」

それを成長とか言い出すこいつの気が知れない。あと、どさくさに紛れて頭撫でるな。

「あーもう。なんなのよ。先日までは暫く来ない日が続いたと思ったら、ここ最近は皆勤賞だし。そんなに暇なの?なに、藍が反抗期とか?」

だとしたら自業自得だ。

「まさか。あの子はいい子よ。偶に至らないところがあるけれど。もう少し構ってあげるべきかしら」
「放任主義が伸びるタイプよ、きっと」

彼女の気苦労を思って、霊夢は珍しくフォローを入れた。一月分くらいの善行と積んだ気がするが、相手が妖怪なのでひょっとすると悪行なのかもしれない。どうでもいいけど。

「うん。もうどうでもいい。とにかく用がないなら帰れ。有っても帰れ」
「あらつれない。せっかく好いのが手に入ったから、こうして土産に持ってきたのに」

彼女は軽くそれを振る。いつの間にかその手には、一升瓶が握られていて――――――――


「今夜は、好い月夜ね?」


「………………」



釣った紫が悪いのか、釣られる霊夢が悪いのか。



いずれにせよ、永い夜になりそうだった。







秋の月が綺麗な夜に、珍しくも深酒をした。

鬼の不在が杯を増す。

許容を越えて重ねるうちに、酔いつぶれて夢の淵。

まったくもって不甲斐ない。

恐らくだが、かほど平和惚けした博麗は、霊夢を置いて他にいまい。

笑えるほどに面目ない。

それとも、好い時代になったと言うべきか。

祝いに杯掲げようにも、生憎腕が動かない。

柱に身を寄せ月を見る。

月が滲んで、妙に綺麗だ。

「霊夢」

紫の声がした。

「さすがに眠るには…」

秋の夜は寒い。わかっている。でももう目蓋も重いから。

「霊夢」

死にはしないと目を閉じた。

「霊夢」

紫の声がする。

紫の声がする。

 霊夢

 

ああそう言えば、あんたはいつから私を――――――――


 れいむ


うるさいなぁ

あんなに、呼びたがらなかった癖に


あの、偽りの思い出の中では、頑なに呼びはしなかったくせに


――――――――…わね


あるような気がしているけれど、きっと全てはまやかしなのだろう。

それでも、燻り続ける一言がある。





――――――――本当に、初代に似ているわ






あの一言を、今でも時々、夢に、きく。











夢か現か寝てか覚めてか。夢は現、現は夢。夜見る夢こそ現実。なんて。


こちら、歪な夜の星空観測倶楽部です


紫は本当に胡散臭い妖怪ですね。書くのが難しい。でも霊夢も難しい。


>いずれ霊夢の話も書くのですか?
>なにやらわくわくが止まらないですが!
霊夢の話…彼女はなかなか掴みづらいところがありまして。
全てを分け隔て無いってちょっと想像しづらいのです。
今のところ、自分の中では異変以外には無頓着かつ無関心ということにしています。
あとは神社の威信とか?

>【】の中が数字でもなければBGNでもなかったのでおや、と思ったんですが、
>なるほどこれはいいゆかれいむで。って違うか。いや違わないか。
>どちらにせよこの二人好きなんでお腹いっぱいになりました。
BGMは【真っ紅な~】側からして見てれば関係はあまりないという意味なのです。
つまり、この章は本当は番外編と言うべきものです。ので、番外編と付けました。
この二人は、霊夢が全くアクションを起こしてくれないので書きづらいです。
紫はどうやったら捉え所がない感じになるのかと悩みキャラです。好きですけど。
幻想郷を愛しているらしいので、そこを踏まえたいですね。
強いのに異変解決時は霊夢に発破をかけたりとか、博麗の巫女に何か思うところがあるのでしょうか

>あー、貴方様の作品ははじめて読みましたがいい雰囲気ですね
>分量が些か多いですが一気に読んでみたくなりました
えーと、それはつまり、この話以外は読んでいないということでしょうか。
え、それでは流れがわからないですよ?
確かに分量は多いと思いますが、飛ばし読みには不向きな話ですなので…
たまに自分でも矛盾チェックに読むとウンザリしますけど。

>>夢か現か寝てか覚めてか
>胡蝶となって宙を舞い、楽園にあそぶ。
>あれ?霊夢は現とあんまり変わらないような・・・?
楽園の素敵な巫女さんですからね、霊夢は。
彼女の仕事は妖怪退治と掃除と、たぶんお茶を飲むことだと思います。
あとは魔理沙とのお喋りとか?
歪な夜の星空観察倶楽部
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コメント



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2.100名前が無い程度の能力削除
いずれ霊夢の話も書くのですか?
なにやらわくわくが止まらないですが!
3.90名前が無い程度の能力削除
【】の中が数字でもなければBGNでもなかったのでおや、と思ったんですが、なるほどこれはいいゆかれいむで。って違うか。いや違わないか。
どちらにせよこの二人好きなんでお腹いっぱいになりました。
14.100名前が無い程度の能力削除
あー、貴方様の作品ははじめて読みましたがいい雰囲気ですね
分量が些か多いですが一気に読んでみたくなりました
19.90名前が無い程度の能力削除
>夢か現か寝てか覚めてか
胡蝶となって宙を舞い、楽園にあそぶ。
あれ?霊夢は現とあんまり変わらないような・・・?
45.100名前が無い程度の能力削除
グッド
46.100あゆん削除
雰囲気Goodです。ただ詳しい内容が読み取れませんでした(すいません···)