Coolier - 新生・東方創想話

私が式神になった理由 中

2007/01/29 03:41:13
最終更新
サイズ
16.28KB
ページ数
1
閲覧数
619
評価数
0/19
POINT
800
Rate
8.25
綻びた封印から脱出すると其処は異界だった。
異様に不味い空気と灰色の建物が地上を所狭しと埋め尽くしている。
起きて早々、私は最悪な気分になった。
固まった筋を解しながらの体操は気持ち良いが、それ以上に不愉快だ。
クダラナイ物が多すぎる。こんなに無駄を好む生き物があるか?

ずっと、考えていた。

どうやって、復讐しようかと。
私を封印した退魔の家系に、恨みを抱いていた――――はず。

ため息が出る。
まさに今の気持ちを正直に吐露した形だ。

こんな世界は要らない。
どうにでもなってしまえ。

幾百年を共にした積層の怨みは、世界の穢さから生じた脱力と無関心に負けたのだ。

「…どうでもいい」

口にしても、何故か胸は晴れない。
自分の手を下すほどでもない、こんな醜い世界は見捨てるに限る。

胸が苦しいのは、何故だろう。

鼻を瘴気の風が撫でた。

そこで初めて私は理解した。
この胸が爛れるような苦しさの正体を


この世界に居場所が無いのだ。

闇に跋扈する魑魅魍魎や人の心に住み着く妖怪の気配さえ感じられない。

自分が捨てたと思ったのは誤魔化しで、結局 本当は




――――私が世界に捨てられたんだ。





その後、数ヶ月。
九つの狐尾を持つ少女が至る所で目撃され続ける。
しかし、その姿は富士の霊峰――――青木ヶ原樹海を最後に消滅した。










目蓋が薄いと思った。
まるで太陽の真下にいるような、照度に藍は眼を覚ます。

「ここは…?」

辺り一面が、発光一色。
柔らかい光に遮られ、自分の手ぐらいしか見えない。後は手触りのみ。
体に蓑虫のように巻きつけられている毛布みたいな何かをそのままにして、体を起こそうとした。
っ。
唐突に走った痛みに歯を噛み締める。
全身が砕けていて、少しでも動かすとバラバラに崩れるような激痛。
仕方なく、先ほどまでと同じ体勢を取った。
藍の体は、その体勢がいたく気に入ったらしい。
証拠に寝転がると苦痛は嘘のように消えてくれるのだ。
もう少し、自分の言う事を聞いて欲しいと不満を抱くが、思い通りに動かせないほどに痛めつけられた肉体が、幽香を思い出させる。

どうやら、自分は助かって、寝てしまっていた事になる。
そこまで考え、ふと気づく。

幽香が?
自問するが、返答は「まさか、そんな訳が無い」だ。
あまりの滑稽さに嘲笑が零れる。
だって、あの妖怪が求めているものには、私では到底こなせない。


「……」

気に入らない。
初めから、あの分かりきったような眼が不思議と印象的だ。
…ま、良いや。そんな事じゃなく、今はもっと大事な事がある。
視界が遮られても耳は何とも無いらしい、幸いだと思う。
だから、この布擦れの音はソコに何かの気配を感じれて良かった。
言葉が通じるかは、不明だが藍は堂々とした声で呼びかける。

「そこに居るのは、何だ?人間か?なら、悪いが消えてくれ。後でそれなりの礼はする。妖怪なら目的は何?少しでも敵意を感じれば即殺す。さぁ――――答えろ」


驚きか、恐怖か。
藍には分からないが、息を呑んだ音は耳に届いた。
その反応は藍を安心させるには十分な効果があった。
不都合があっても、殺せば良い。
藍は相手の気が弱いと感じたのだ。
それならば、余程の実力じゃない限りは何とかなる。

「?」

違和感で藍は首を傾げる。
何故なら、返事はない。

しかし、粘りつくような嫌らしい含み笑い
悪気がある答えに、藍は結論を素早く出す

「……妖怪、だな。そうか、なら仕方ない」

面倒だ。
体が動かないが、殺す手段は幾つかはある。
しかし、紙に垂らした墨汁のように不安が胸に広がっていく。
殺したら、絶対に後悔するような予感がした。
まるで見透かしたタイミングに、藍はようやく返事を得る。

「あはっ。今日は最悪最低。どうして、会う人全てが私を人外扱いするのかしら。今日はまったくついていない。一日大殺界かしら」

語尾が丸みを帯びているような、滑らかな感触。女性特有の綺麗な響きを強調した声だ。
不満を洩らすという言葉使いだが、耳に嫌悪感もなく、馴染んでいくのが藍には不思議でならない。
今、眼が見えない。
だけど、彼女がどんな容姿と性格かは予想がつく。
今すぐに予想通りか、確かめられないのが残念と思って、そんな事を考える自分が面白いと思った。
だから、軽やかに藍は笑う。可笑しくて笑ってしまったのだ。

「…貴女までもが、私を笑うつもり?嗚呼、こんなに陰湿な虐めを受けたのは初めてよ」

嘆く声に、だけど嬉しそうな余韻を感じる。
一瞬前までの苛立ちが問答無用に霧散していく。
なんだか、この人間とは気が合いそうだ。

「自己紹介が遅れたね。私は藍。種族は”妖獣”九尾の狐だ。お前の名前は?」

「え?……そう、ね。私は人間で名前は紫。八雲 紫って名で宜しくお願い」

「なんだ、それ偽名?」

愉快そうに藍は微笑み。
忘れてたのか、覚えていないのか。

再度、体を起こす。
瞬間

「っあ、くぅ」

短いが、確かに悲鳴をあげる。
藍は、自分の愚図を呪いながら背中から倒れるように床に伏した。

「駄目よ。まだ、動かないで。今は首の傷に妖力を回してるから今夜一杯はずっとそのまま。ついでに、ホワイトアウトしてる視界も同じく、だから安静にしてなさい」

「……」

有り難い忠告に耳を傾ける余裕など、藍には無い。
想像を絶する痛みに、先に言って欲しかったと、畑違いにも文句を垂らしてしまう。

「はいはい。説明する前に動いたのは貴女。けど、手間が省けたわ。その分、お話も出来るし、ありがとう」

意外と大物らしい。
藍が悶絶してる姿に一切動じない声。
慰めは要らないけど、痛み止めぐらいは欲しい、と切実に願うのだ。

「ええ。どの薬草が効くのか分からないから作らなかったわ。それに面倒だから。指定してくれれば採ってきますよ」

「あ、ああ。じゃあ今から言う物を頼む」

十二種類の薬草の名前を告げると、彼女は颯爽と部屋から出て行った。
相手が人間にも関わらず、つい懇願してしまったと気づいたのはその後だった。
良かったと思う。二重の意味で。

善悪とか、そういう低い次元じゃない人間が助けてくれて。

と、

今、羞恥で悶々としながらも、つい体を動かして苦痛に歪ませて、我慢したりと気が狂ったような百面相を見られないで。

そう、彼女には。

結局、藍は終始。窓辺の隙間から、鴉天狗が覗く気配は察せられなかったのだ。
その新聞が出回るかはまた別のお話。








高密度な部屋から出て、紫は火照った頭を夜風で冷ます。
あんなに妖力が高いと、閉鎖的な場所にはキツいものがある。
窓辺から盗撮してた黒羽の少女を見つけたけど、面白そうだから無視しとく。
けど
思ったより、扱いが難しい。

九尾の少女、藍。


私が夢と信じてこの世界に入り込んでから、早一週間。
さすがに能天気と言われる私でも焦ってしまう。このまま死ぬまで、なんてのはまるで悪趣味だ。
三流シナリオにも程がある。
最初は、此処で骨を埋めるのも良いと考えた事もある。
しかし
どうしても、帰りたい理由ができたのだ。



向こうの世界から見ていた夢で、確かにこの幻想郷と呼ばれる光景に迷い込んだこともある。
その時に竹林で真っ赤で空間が歪むような熱量の不死鳥を見たのだ。
けど、夢から覚めてたら、見慣れた部屋の嗅ぎ慣れた生活臭。
後日、蓮子に夢の内容を告げると、彼女なりの私見を述べてくれた。

「ふーん。まるっきり夢のような世界ってことね」

素っ気無い言い方だけど、荒らがある。
それを察して欲しくてわざと無表情で言ったのだろう。

「夢のような?」

「うん。『ような』、けど何処かに実在する世界。視れたのはやっぱり、その気色悪い眼の所為ね」

「蓮子の方が変な眼よ。ところで、どうするの?」

含みを持たす尋ね方。
ニヤリと犬歯を除かせ、彼女は立ち上がる。

「決まってる!行くわよ、結界の向こうへ」

「そうね、それが私達の」

「そう、――――――――




――――――――。

そう、あの時はアッチからコッチを視ていた。
そして、逆があった。一昨日の晩だ。
多分、この世界に来て分かれた日の後日談だろう

狭い灰色のコンクリートで立てられた旧建築物の『取調室』

そこに蓮子が居た。

眼元は日に焼けたように赤い。涙の跡を、擦ったと分かる。
呆然と、何を語るでもなく虚ろな眼を宙に向けているだけ。
空蝉を思わすほど、生気の欠片も無い。



元気だったのだ。
私が彼女を気に入った理由。その明るさと行動力。何より、猫のような気まぐれで浮かべる満面の笑みが、くすぐったい。
そんな宇佐美 蓮子が好きだった。
だから、コレが私の所為ならば、と決心がついた。

私は何があっても向こうに戻る。


その為にまず、行ったのは里の人間に話を聞く事。

幻想郷には神たる存在、龍が居る。
結界を守る一族の神社
圧倒的な力で結界も破る妖怪
死の令嬢
情報屋の鴉天狗
忘却を無くした有知、阿零の転生

可能性がある、有力な情報について知るが、どれも曰くばかりでその存在は信じられない。
楽観出来ないのもあり、だからより慎重になる。

更に尋ねる。
どうすれば、接触できますか、と。

うーん。
頭を悩ませ、唸る老人はこう言った。
仙狐の眼ならば、見通せるかもしれないのぅ、と。

語尾は風に消えるぐらいの弱音に聞こえる。
顔には、気まずそうな煮え切らない表情を貼り付けて。

信憑性はあった。信じる価値もある。
けど、殺されない保障は無いらしい。

それからは、その妖怪について聞きまわるが、誰しも良い顔はしない。
なにやら、仙狐は雑食と思われる証言ばかり。
森林に実る柿から、油揚げ。無ければ、代わりに人間の肝までも。

それに、丁度最近は偏食気味で歳若い女性しか食わないらしい。
私が、来る二週間まえから気に吊るされた衣服に喰い残したと思われる手足が残されているようになった。

だから、お前さんみたいな女子に進めたくはないんじゃが…。





「って、言われて諦める私じゃないの。だから、これ下さい。無料で」

とある店の店主が眼鏡を部屋の中心に置かれているストーブの火に映しながら、首を振る。

「…僕はね。別にこの店が繁盛しなくても良いんだ」

「だったら」

    かざ
目前に翳される掌。
不気味な雰囲気の持ち主だけど、やっぱり男だった。意外と硬い手を私は両手で包む。

「それでも、此処は店で、僕は店主。そこに置かれている物は商品で貴女は客だ。僕にもそれなりとはいえ、意地があるんだよ。それに、可愛らしいお客様にわざわざ危険を冒させる僕じゃないさ」

「…神社の巫女に仙狐を退治するように依頼したのは貴方だったのね」

一刀両断。
一足飛びの間合いで、店主の言葉を斬り捨てる。
いつもなら、こんな茶番にも付き合うけど、今は駄目だ。
言葉が、捲くし立てるように口から滑り出す。


「貴方は待っている。だけど、博霊の巫女に退治される前に私は私のために仙狐と話がしたいの。戻って、…逢いたいの。待たせているのよ、あの子を。その為に、必要なの」

「やはり、貴女は外の…。いや、悪いと思うけど君には無理だよ。アイツは人間を舐めている、それを許されるほどの力も持っている。どうやって、話をするつもりだい?」

試されている。
この人間と違う存在は、見透かしていて、知っているのだろう。
私は派手に動きすぎた。それに服装と髪色も周囲から浮いている。
幻想郷に溶け込まず、奇妙な質問を繰り返す少女と、至る所で話題になっているに違いない。
それも含めて、私は動いていた。
私の言葉から容姿、魂も例外なく、全てを賭けている。
決意は固い。
何をしてでも帰ってみせる。

「殺すわ」

店主は「へぇ」と、平淡な呟きをもらす。

「殺して、従える。魂まで束縛して、手伝ってもらうわ」

「それは、手伝ってもらうとは言わないと思うけどね。分かった、無料で売ろう。だけど、一つ条件があるけど、良いかな?」

その時、店主が何を言うのかが分かった。
意外と面倒見が良い性格だ。

「……大丈夫よ。死んだら帰れないでしょ、うふふ。生きて、謝らなきゃ」

「そう、ですか。分かりました。僕から言えることはもう無いな。では傍迷惑なお客様のご健闘をお祈りするために、餞別を贈らせてもらうよ」

ごそごそ、と服の袖に手を突っ込んで何かを取り出した。

「……なにそれ?」

にゃー、にゃー。
可愛らしい鳴く声。

「猫だ」

にゃー、に、ガッん。

「殴られてみますか?」

「もう殴ったじゃないか!止めて、最後まで話を」

一つ拳を振り上げ
ボコ、
二つ木箱の門で殴って
ゴキ。
三つ短刀の柄で陥没
バス。ゴス。

結局、苦痛で嗚咽を洩らす店主を置いて出てきてしまった。
その翌日、今朝に不思議な老人――――花と狐の妖怪。


そこで、狐は死に掛けていて。

だけど、花は私を見て、脅してくれて。

そして、私は――――


「……」

藍は。
良い笑顔だった。
この世界で、唯一私だけに向けられた笑んだ顔。
利用目的で手当てをした事を知ったら、どうするだろう
それを裏切りと言うかもしれない。

何をしてでも帰る。

葛藤に揺れて、決意が鈍っていくのが分かる。

何をしてでも。
それはつまり、幻想郷に生きる存在を踏み躙ってまで、帰らないといけない。
藍の意思を殺して、好き勝手に使い、捨てる。
そういう意味だ。
帰りたい、だけど、手段を選ぶ余裕がないのは自分の責任。


「……やり方を」

独り言が夜闇に溶けていく。

――――変えてみよう。

言われた薬草を摘んで、私は空き家に戻る。
胸中は複雑なつもりだったけど、意外と単純だった。

夜の寒気に濡れて、重くなった戸を力一杯に横へ引いた。

ずっ、と木製の枠に引っ掛かって開かない。
夕方時はすんなりスライドしたけど、夜だと異様に重たい。
更に二回ほど、体重を掛けて引っ張るが、やはり開かない。
その手応えに不自然な疑問を抱く。

もしかして、結界で追い出されたのかもしれない。
先ほどまでの汚い考えがバレて――――?

不意に、何か擦る音が聞こえた
瞬間
ガラッ。

「…ほら、開けたから入りなよ」

全身グルグルに白い布を巻いた藍が居た。

「なんだ、こんな物も開けられないのか?…っ、寒。こんな寒いのに、ってどうかしたのか?」

両目が視えないのに、彼女の右手は迷うことなく私の冷えた手を持った。

ホント、どうしよう。

視力零の癖に、まるで普通に見えている振る舞いに戸惑いを感じる。

こんな鋭い勘の持ち主に、今の自分がバレないかしら?

「ううん。何でも無いわ」

私は、涙を頬に伝う感覚を無視しながら、中に入って行った。











ことこと。
美味い具合に煮込まれた雑炊を茶碗に盛り付ける。
カボチャが半分液のように溶けており、黄色一色だ。

「わっ!凄い、貴女って凄いのね。才色兼備って言葉の化身かしら?」

茸に緑色の野菜が丁度、良い感じに視覚でも楽しませると評価してくれた。
残念ながら、今の藍には見えない。

それでも、この人間の騒ぎようから、思ったより上手く出来たみたいだ。

「まぁ、料理は暇つぶしも兼ねての趣味みたいなものだからな」

淡々と答えたが、藍は不安だった。眼が見えない分、相手の表情が見えないのは困る。
果たして、今の自分が照れた感情を見せていないか、上手く隠せた自信は無かった。

「…ん。料理って、自分で作ってるの?」

「?なんだそれ。当たり前だろ。自分に作る以外に、どんな機会が有るんだよ」

「……料理。料理ねぇ。ふーん、そっか。だからこんなに美味そうなのね。良いわぁ、明日の朝食は味噌汁をお願いね」

歯切れが悪い言葉に藍は感じる所はあったが、誤魔化すようなに続けられた依頼に鼓動が加速する。
当然、返す言葉がかなり無骨な口調になったのは仕方が無いと思う。

「怪我人に調理させるな。お前が作ったら良いんだよ」

白で染まる景色の向こうで、不穏な気配を感じる。

「…良いの?」

小さな呟き。だけど、そんなに感情が込められた声は久しぶりだ。
町並みの喧騒に呑まれる様な、だけど此処は狭い部屋に二人っきり。
紫の言葉は聞こえたが、理解が出来ない。
藍の反応も含めて、紫は再度呟く。
否、これは――――

「貴女は良いの?例えば、視れば潰れてしまう毒々しくも煌々とした爬虫類の炊き込みご飯に、口にするどころか近づくことさえ躊躇ってしまう程の瘴気を発する味噌汁。もし、私が何を作っても、食べてくれますの?責任、取れますか?」

……これは、

「ねぇ?お料理がお上手でお利巧様な藍さん」

脅迫だっ!

「ま、まぁ落ち着け。分かったから、明日はなめこ汁なんてどうだ。あれは私の得意でもある。任せてくれ、いや、任せてください」

憶測だが、彼女は調理に対して酷い傷心を抱えているかもしれない。
あまり、触れないでおこう。

「はぁ~、本当に今日は疲れたわ」

間延びするため息には、激しく同意できる。
昼間の戦闘が真実なら、本当は疲れたでは済まされないはずだけど。

「嗚呼、そういえばなんで花の妖怪さんと決闘してたんですか?」

「ん。それは」

風見 幽香。

アイツには、自分のことも含めて、思うところがある。
第一に出る言葉は、死ねだ。
藍は、この幻想郷で一番幽香を嫌っている自信があった。
嫌悪の理由は個人的で、しかしアイツは『苛立たせる』ソレを自覚して尚、それでも構わないと気にもしていない。


「今日の天気が晴れていたからだ」

「何ソレ?どうしてなの、晴れだとそうなるの?」

何故か、そこに深く突っ込んできた。
藪を木の棒で突付いて、蛇が絡まっていた気分だ。

どうやって、言葉を濁そうか考えると、紫が告げる。

「一つ、話を聞いて欲しい」

その言葉に何が隠されているのか、藍は知らない。
しかし、言葉の重さは伝わってきた。
イメージは蝋燭の火だ。
視界が皆無な今、彼女の気配を感じる。
冷たいようで熱く、大らかだけど鋭さを覗かしていた。
それを決死と呼ぶ。
普通の人間ではまず縁が少ない覚悟に藍は真正面から受け止める。

「良いよ。話して」

「うん、私はね――――


珍しい気だと思っていたが、まさか外の…。

自白するような告白に藍は驚きを隠せない。
戸惑う藍を無視して更に紡がれる言葉


――――外界から来た事。

――――戻りたい。その為に幾日か彷徨っていた。

――――戻る可能性を持つ存在に会うためには、藍の能力が必要。

――――夢で見た親友の泣き顔。


――――そして、

「貴女を無理にでも使役して、帰る手段を探そうとしていたの」


「……」

打ち解けたと言っても、限度がある。
たった一日で許したくなるほどに仲が深くなったわけでもない。

「ごめんなさい」

重厚な衝突音
床に頭をぶつけたのが分かった。
揺れるのは心だ。眼が見えなくて良かった。
きっと空間が歪んで見えたに違いない。


「ごめんなさい」

許すか、許さないかの葛藤。

「……」

そんな物じゃない。
心に有るのは、

「眼が覚めてさ」

藍は尋ねる。
知りたいと願うのは、彼女の答え。

「全然、知らない場所に独りでいるのはどんな気分?」


「……驚いた。それに、なんか自分が浮いていた気がする」


差し支えない適度の答え。
今は、この程度が限界だろう。

「私は寝るから、後の始末はよろしく」

「え、うん。分かった」

手と膝を突いて、自分が寝かされていた布団に潜る。
漠然と濁った空気が満ちていた。居心地が悪いだろうな、と人事のように思った。

「それと、」

え?
戸惑った声音が聞こえる。
藍は紫に背中を向けて寝転がった。

「明日は博霊の神社に行くから、はやく寝たほうが良い」

「……。ありがとう」

背に感謝の言葉を受けて、今日はよく眠れそうだと思った。
上の文がクドイと感じたのでこっちは、ライトな感じです。
上中下じゃなく、起承転結にした方が合っているかも知れないなぁ
下に収まりきるかなぁとか。
暇潰しにどうぞ
設楽秋
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.800簡易評価
0. コメントなし