Coolier - 新生・東方創想話

私たちはここに在る 後編

2007/01/27 22:05:25
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「……ただいま」

ルナサは普通に玄関から家に入った。
ドアの開く音だけが屋敷に響いた。静かだ。
まだ誰も起きていないのだろうか。
なるべく音をたてないようにリビングへと向かった。

「あ、ルナ姉おかえりー」
「おかえり姉さん」
「おかえりなさーい」

リビングに入ると、元気な声が聞こえてきた。

「あら、二人とも起きてたの。それにしては静かで――――ん?」

ここで、ルナサの頭に一つの疑問が浮かんだ。
今、声が三種類聞こえなかったか?

「も~遅かったじゃないルナサ姉さん。待ってたんだからっ」
「ああ、ごめんなさ…………って何をしてるんですか幽々子嬢」

ソファの上にはもう一人いた。
幽々子が頬を膨らませ、駄々をこねるように体を揺すっていた。

「少しはご自分の年齢を……」
「あら、何か言ったかしら」
「……なんでもありません」

まぁこの人は知っているから構わないだろう。
ルナサは二人へと視線を戻した。

「あのさ、二人とも」

口調が自然と早くなる。
決意が揺らぐ前に話してしまいたいのだ。

「ちょっと話があるの。落ち着いて聞いて」

ルナサは一度目を閉じて呼吸を整えた。
自分の鼓動が驚くほど大きな音で聞こえてくる。
落ち着け、私。
目を開けた。

「実は」

また鼓動が激しくなった。
落ち着け、落ち着け。

「実は……あの……その……」

ルナサの口からはそれ以上の言葉が出てこなかった。
代わりに、全身が震え出してきた。
私よ、お願いだから落ち着いてくれ。
千切れんばかりに握り締めた掌が痛む。
もはや鼓動以外聞こえなかった。
駄目だ……私……

「いや、なんでもな……」
「姉さん!」

力強い声。ルナサ驚いて顔を上げた。

「…………」

二人は無言で頷いた。
その表情からは、果てしない覚悟が感じられた。
……そうか。
ルナサはようやく理解した。

「……ごめん」

この鼓動は三人分なんだ。だから大丈夫だ。
体の震えは止まった。呼吸も落ち着いてきた。
もう大丈夫。
ルナサは改めて二人に向き直った。

「実はね」



ルナサは伝えた。
一文字、一文字、大切に伝えた。
レイラが亡くなってから随分経った……
生みの親をなくした騒霊は力を失う……
そして目的も失った私達は……
全て、伝えた。

「……そっか」

聞きながら二人は静かに頷いていた。
なんだ、私よりずっと落ち着いてるじゃないか。
こんな時だが、ルナサはとても微笑ましく感じた。

「あのね、姉さん」

メルランが遠慮がちに口を開いた。

「実はそのこと、さっき聞いたの」
「ごめんなさいね」

ルナサが驚きの言葉を発するより前に、申し訳なさそうな声が聞こえてきた。

「あの様子じゃ言えないと思って……」

ルナサは彼女がここにいる理由を理解した。
幽々子は、真実を伝えようとしてくれたのだ。
自分が伝えられなかった、妹たちに。
確かにあの時の自分は話せなかった。実際、一度は逃げた。
しかし。

「余計なお世話だったようね」
「そうですね」

ルナサはなんとなく可笑しくなり、くつくつと笑った。笑えた。
幽々子も笑っていた。微笑んでいた。

「でもね、私嬉しいよ」

リリカも笑っていた。
まさに満面の笑顔だ。

「だってルナ姉の口から直接聞けたんだもん」
「そうそう、やっぱり姉さんが言ってくれないとね」

メルランも微笑んでいた。
彼女もまた、大きな笑顔だった。

「あなたたち……」

視界が歪んできた。
これは消滅の前触れなのか? 今この瞬間に無くなるのか?
いや違う。頬をつたうこの暖かさはきっと…………
ルナサは両腕を広げて二人を抱き締めた。

「ちょ、ちょっと姉さん苦しいよ」
「あはは」

ルナサも負けないぐらいに笑った。精一杯笑った。
涙は止まらなかったけれど。
笑った。



「ねぇ……コンサートやらない?」
「え?」

リリカから突然の提案。
戸惑ってしまう。

「いや、でも……」
「姉さん、考えてみて」

今度はメルランが口を挟んできた。
真剣な表情だ。

「確かに私達はレイラのために生まれてきた。レイラのために演奏してきた。でも」

メルランは一度、手元の楽器を撫でた。
修理したばかりのトランペット。我が子のように優しく撫でる。

「私達はそれだけの存在かな?」
「うっ……」

それだけ。
ルナサには返す言葉がなかった。

「違うわよね? 私達は私達。騒霊だけど、意志を持つ者」
「ルナ姉は好きだからヴァイオリンを弾くんでしょ? 少なくとも私はそうだよ。演奏が大好き」

……そうだ。

――――なんでルナサ姉さんはヴァイオリンを弾くの?

ルナサには覚えがあった。
まだ幼い頃、四女レイラがそう尋ねてきたのだ。
あのとき、自分は迷わずに答えた。

――――そうね……やっぱり好きだからかな?


「だからやろうよ。私達の最……コンサート!」
「姉さん!」

最後とは言わない。
そんな二人の優しさ。
ルナサは立ち上がった。

「……うん、やろう」

私は演奏が大好き。

「やろうか! 私達の最高のコンサート!」
「おー!」



***



三人に残された時間はあまりにも少なかった。
一刻も早く開催したいところだが、そんなに急に貸してくれる会場はない。
頭を抱えていると、幽々子が申し出てくれた。

「明日はちょうど桜も満開でしょうし……」

問題は解決。四人は早速出発した。
彼女たちの屋敷から白玉楼までは、飛べば数十分程度である。大した距離ではない。
しかし今日に限って風が強かった。今の三人の体にはかなりの負担だ。

「くっ……」

三人はそれでも必死に飛んだ。歯を食い縛り、飛び続けた。
全速力で。だがおそらく普段の半分もスピードは出ていない。
体が重い。

「はぁ……白玉楼ってこんなに遠かったっけ?」

前を行っていたリリカが息をついて足を止めた。

「ゴホゴホ……姉さんちょっと待って……」

後ろでメルランが苦しそうに咳き込んでいた。
ルナサもかなり苦しかった。やはり体力は相当に落ちている。
無理矢理に動かしていた体に力が入らなくなり、ついにルナサも立ち止まってしまった。
三人のぼやけた視界には、まだ白玉楼は見えてこない。
やはり無理なのか。私達にはもう演奏する力など残されていないのか。
諦めという文字が頭を掠めた。その時だった。

「ルナサ!」

名前を呼ばれた。

「メルラン! リリカ!」

ルナサは前方へ目を凝らした。
一人の少女が飛んで来るのが見えた。

「妖……夢?」

妖夢だ。魂魄妖夢。
だがその姿は、いつもとはかなり違っていた。
あちこちに乱れた銀髪。涙や鼻水で濡らした幼顔。
刀を背負わず、薄い寝巻き一枚の姿。
よほど急いで来たのだろう。体のあちこちに傷が出来ていた。

「妖夢! こんなところで何を……」

慌てて駆け寄った幽々子を押しのけるようにして、妖夢はルナサの胸に飛び込んだ。
ルナサは押し倒されそうになりつつも、なんとかその小さな体を受け止めた。

「嫌だっ!」
「え……」
「嫌だ! 消えちゃ嫌だ!」

妖夢は叫んだ。ルナサの体を揺さぶりながら叫んだ。
それはすぐに泣き声に変わる。

「消えちゃ嫌だ……嫌だよ…………」
「妖夢……」

切ない気持ちの中で、ルナサは感じた。
胸の中で泣き続ける妖夢。
体は自分よりずっと小さいのに、その気持ちはとても大きい。
消えないで。ずっと一緒にいて。
痛いぐらいに伝わってくる強い想い。
ルナサは泣きじゃくる妖夢の頭に手を乗せた。

「うん、大丈夫……」

何が大丈夫なのかはわからないけれど。
優しく、やさしく抱き締めた。

「大丈夫だから」

三人も同じだった。
消えたくない。ずっと一緒にいたい。
レイラがいなくても、私達には大切な人がいる。
ただ目的もなく演奏していた私達に、お声をかけてくれた幽々子。
ちんどん屋となった私達の演奏に耳を傾けてくれた、多くの人々や妖怪。
そしてそんな私達を姉のように慕ってくれた、妖夢。
私達の大切な友人、いやそれ以上の存在。
だから。

「明日の演奏会……来てくれる?」

妖夢が顔を上げた。しかし首は縦に動かなかった。
妖夢はわかっているのだ。それが最後になることを。
そして、もう二度とこうして抱き合えないことを。
ボロボロになった顔。
赤く腫れた目からは、なおも涙がこぼれ続けている。
ああ、この子は本当に泣いているんだ。
私達のことを心から思い、悲しんでくれているんだ。
この手を離したくない。ずっと握り締めていたい。
でも
でも……

ルナサはもう一度聞いた。

「来てくれる、よね」

いやいやと首を振る妖夢を、再び抱き締めた。
大丈夫、大丈夫……
約束するから……

わずかに、妖夢の首が縦に動いた。

「ありがとう」

ルナサはゆっくりと妖夢を引き離した。
先程より随分落ち着いたようだ。
あとは幽々子に任せることにして、妹達に向き直った。
今、やるべきことは一つだ。

「よし」

ルナサが目で合図をする。
二人が力強く頷いた。

「いくぞ!」

三人は渾身の力を振り絞り、飛び出した。
目指すは白玉楼。
体力は残っていない。速さも出ない。それでも。
限界。不可能。諦め。
そんな言葉は、忘れた。





***





――――私にはわかりません――――

――――どうして、どうして――――

――――ルナサ――――メルラン――――リリカ―――





虚空のステージ。
目の前に広がるのは、広大な白玉楼の庭。
春になると、いつも満開の桜が出迎えてくれる。
最初に演奏したのはいつのことだっただろうか。
ここに来てから何十年――何百、何千年?
幾千の時を、今日まで演奏し続けてきた。
ずっとずっと、存在してきた。

だから今日も弾こう。

今日も歌おう。

騒ごう。

それが私たちだから。
プリズムリバー三姉妹は、そういう存在だから。

ルナサは会場を見回した。妖夢の姿は確認できない。
残念だったが、悲しい顔はしなかった。
ここにはいなくても、音は届く。
自分たちの演奏はどこまでも届く。
きっと妖夢にも聞こえるはずだ。
自分の魂は、きっと……

「ねぇ……」

リリカが呟く。
その呼びかけは、どちらに宛てたものなのか。

「……はい、姉さん」

メルランがルナサにマイクを差し出した。司会者は今日も彼女だ。
ルナサは軽く頷いて、マイクを受け取った。

「あ、あー……」

わざとらしくマイクテストをしてみる。そして、大きく息を吸い込んだ。
この一声から全ては始まる。

「本日は突然の開催にも関わらず、多くの方々にお集まり頂き、誠にありがとうございます」

ちょっと堅苦しすぎただろうか。
ルナサが横を見ると、二人とも笑っていた。
どういう意味で笑っているのかわからないが、大丈夫だろう。
もう一度息を吸い込んだ。

「今日は一曲だけです。ですが、精一杯演奏させて頂きます。曲名は」

この曲しかない。
初めて三人で作詞作曲し、そして一番多く弾いてきたこの曲。

「Feast of Prismriver」

静かに目を閉じた。
時が止まる。





長い時間が経った。
しかし演奏は始まらない。会場がざわめき始める。
ルナサは苦しんでいた。
ヴァイオリンを持つ手に汗が滲む。
つま先のあたりが僅かに震える。
体が思うように動かない。
そして集中が途切れ、別の感情が入り込んでくる。
これは消滅に対する恐怖か。身体に対する不安か。
怖い。今すぐ逃げ出してしまいたい。
その大きな感情が心を支配し、彼女を押し潰そうとした。その時だった。

「頑張れー!」

会場に大声が響いた。
観客が一斉に声の方向を向いた。
三人も目を開けてそちらを見た。
そこには、あの黒白――――霧雨魔理沙がいた。

「お前らの最高の演奏、聞かせてくれー!」
「そうだ、頑張れー!」

別の一人も叫んだ。
それを皮切りに、会場のあちこちから声があがった。
頑張れ、負けるな。
それはあっという間に全体へ広がっていった。

「いつもの曲やってくれー!」
「お前らの演奏を聴いてからでないと、成仏できねぇよ!」
「大丈夫、頑張ってー!」

いったい何が起こっているのだろう。
突然の騒ぎに、三人は茫然としていた。

「魔理沙……」

ルナサは魔理沙を見た。視線が合った。
魔理沙は何も言わずに親指を立てた。
ルナサは笑った。そして頷いた。

「……ありがとう」

会場の盛り上がりは最高潮に達していた。
三人は、自分たちがやるべきことを理解した。再び目を閉じ、楽器を構えた。
会場が静まった。



張り詰めた空気の中で、ルナサは考えた。
先ほどの感情は恐怖か。それとも不安か。
それともその両方が、自分を押しつぶそうとしたのか。
いや――――どちらでもない。
恐怖や不安などあるはずがない。
まだ消えていないから。
だから大丈夫なんだ。
私たちはまだ、ここに在るのだから。
魔理沙のあの笑顔が頭に浮かんだ。
あの日もらった勇気と、信じる心。
妹達を、そして自分を信じる心。
私たちは大丈夫だ。
妖夢にもそう言ったじゃないか。
大丈夫なんだ。
私達は存在している。騒霊プリズムリバー三姉妹は、確かにここに在る。
大丈夫。










私たちはここに在るから――――










時が動き出す。
静かに目を開ける。
棒を叩く音が、三回。

宴は始まった。





***





「妖夢」
「………………」
「見なさい。彼女達の姿を」
「………………」
「その目で、見届けなさい」

彼女達の、最期を。

「幽々子様……」

でも、大切な存在だから。

「私……私っ……」
「妖夢……」

――――最期?

そんなの
嫌ですよ

「私は……」
『妖夢ちゃん』
「!」

聞こえた。

『いつまで泣いているの?』
『ほんと、妖夢ちゃんは泣き虫ね~』

「あ……」

妖夢の耳には、確かに聞こえた。
三人の声が聞こえた。

『目を開けてごらん』

妖夢は目を開けた。
光が見えた。
一面に広がる満開の桜。
そして。

『ほら、歌おうよ』

あの曲。
あの日聞いた、あの曲。
初めて感じた、あの気持ち。
聞こえてくる。
妖夢は立ち上がった。目を閉じた。



『ねぇルナサ、この大きなヴァイオリンはなんていうの?』
『ああこれは……コントラバスね。低くて大きな音が出るの』
『ねぇ、ちょっと弾いてみてもいいかな』
『妖夢に出来るかしら。けっこう力要るのよ』
『私だって伊達に庭師はしてないよ。……この魂魄妖夢に弾けない楽器など。殆ど無い!』
『ははっ、何だそれ』
『あー、ルナサが笑ったー』
『え、お、可笑しいかな?』
『ううん。かわいいよ』
『……もう妖夢ったら』
『あはは』


『ふー』
『メルランお疲れ様。はいタオル』
『あら~ありがとう妖夢ちゃん』
『なんか今日の演奏は一段と激しかったね』
『そうね~今日は妖夢ちゃんが聞いていてくれたから張り切っちゃったわ』
『そうなんだ。すごく良かったよ!』
『ありがとー。じゃあ次は妖夢ちゃんの番ね』
『え、私が?』
『そうよ。ほら頑張ってー』
『うーん……えいっ』
『そうそう上手ー! やっぱり妖夢ちゃんは天才ね!』
『そ、そんなこと……みょん』


『~♪』
『リリカ、今日は嬉しそうね』
『うん、だって今日は一日中妖夢と遊べる日じゃん。嬉しくないわけがないよ』
『それもそうね。たくさん楽しもうか』
『じゃあ早速これー!』
『えっとこれ……何?』
『じゃーん、お手製アコーディオン!』
『え、自分で作ったの?』
『そうだよ。弾いてみる?』
『うん! それじゃ……わっ!』
『あはは、引っかかったー!』
『こらリリカー!』



ルナサ

メルラン

リリカ



みんな――――大好きだよ



「Feast of Prismriver!」





 儚い夢が 浮かんで消えた
 
 空を見つめる 私たち
 
 悲しいの 風が呼びかける

 虚ろな記憶が はじけて消えた

 空を見つめた 私たち

 苦しいの 雨が呼びかける

 そう なのかな

 何も見えない曇り空
 
 それでも それでも
 
 いつか 虹がかかるから――――

 さぁ歌おう 宴の始まりだ

 音楽の鳴るところ 幻想の向こうへ

 今日の祭を一緒に

 さぁ騒ごう 私たちの出番だ

 光の行くところ 空の向こうへ

 虹の川を一緒に渡ろう

 そこにはきっと何かがある

 さぁもっと もっと もっと

 宴はまだこれからだ 





妖夢は思い出していた。
あの楽しかった時間。一緒に過ごした年月。
彼女たちはいつも笑っていた。そして自分も笑顔になれた。
そして今も、笑えている。
最高に楽しい瞬間。
だから、騒ごう。
今を楽しもう。
大きな声で、大きな笑顔で。
小さな手を叩いた。大きな音が出た。
小さな口を開いた。大きな声が出た。
体が浮き上がるように感じた。
それぐらい楽しい。
手を伸ばす。三人がいる。手を繋ぐ。
そして踊りだす。躍りだす心。
花弁が舞い上がった。空が桜色に染まる。
そのうちの一つが、ちょうど妖夢の鼻のあたまのところに乗っかった。
ルナサが笑う。メルランが笑う。リリカが笑う。妖夢が笑う。
皆が笑っていた。
楽しい、楽しい。
これ以上にない瞬間。
だから、笑える。
楽しいから――――





「……以上で、演奏を終了とさせていただきます。ありがとうございましたっ!」

三人が頭を下げると同時に、割れるような拍手が会場に鳴り響いた。
生者も死者も、どこか浮き足立つような春。
幻想郷一の演奏者、プリズムリバー三姉妹。
彼女たちは、最後までやり遂げた。
自分たちの大好きなコンサートを。
最高の舞台で、最高の演奏で。
妖夢も我を忘れて手を叩いていた。

「すごい……すごいよ……」

膝から崩れ落ちる。
止まることを知らない涙が地面を湿らせる。
それでも手は止めない。
胸から溢れるこの感動を、少しでも伝えたい。
そして会場内で拍手をしているのは、妖夢ただ一人となった。

「妖夢ちゃん」

自分を呼ぶ声。
舞台上の三人がこちらを見ていた。
程なくして視線が合う。
ぼんやりと見つめる妖夢に、三人が笑いかけた。
同時に、妖夢に流れ込んでくる想い。浮かび上がるコトバ。
妖夢は理解した。そして自分も笑った。
伝わる想い。想いの形、コトバ。





――――ありがとう――――





風が吹いた。
妖夢の視界を花弁が覆い尽くす。
しかし妖夢には見えた。
その世界に架かる、一筋の虹が。
彼女達の魂の輝き。
それが、七色に輝いているのが。



『ねぇ妖夢』
『何?』
『私たちね、幻想郷に来て本当によかったと思うの』
『急にどうしたの?』
『だってここは好きなだけ演奏できるし、それをみんな楽しんでくれる。それに……』
『それに?』
『妖夢たちと……出会えたから』
『え……』
『妖夢やみんなと過ごしてる時って、すごく楽しい。昔じゃ考えられないぐらい、明るい気持ちになれるんだよ』
『そうなんだ。……私もね、三人が来てくれるようになってから、毎日が楽しくなったんだ。それまではいつも剣のことしか考えてなくて……こんなに楽しいことがあるなんて、知らなかった。三人のおかげだよ』
『そう。よかった……』
『うん、だから……』






――――ルナサ、メルラン、リリカ――――


――――なぁに?――――










――――ずっと、一緒にいてくれるよね――――









視界が開けた。
青空が見えた。余韻に浸る人妖の姿も確認できた。
……しかし、いなかった。
舞台の上にも、観衆の中にも、広い白玉楼の庭にも。
幻想郷のどこにも、彼女たちはいなかった。
プリズムリバー三姉妹は、もうどこにもいなかった。

「幽々子様……」

それ以上の言葉は出なかった。
妖夢は、我が主の胸に顔を埋めた。
そして泣いた。ただ泣いた。
幽々子は何も言わずに、その小さな体を抱き止めた。
視線を上げる。
そこには何も無かった。
虚空を、幽々子はしばらく見つめていた。

――――騒霊 虹を架けるは その言霊――――

そして白玉楼は、いつもの静けさを取り戻した。





***





空に広がる白い雲。
それらを抜けて、妖夢は帰路へついていた。
お使いの帰りである。
コンサートが行われなくなってから、既に一年近くの年月が流れていた。
しかし周囲の者たちは何も気づいていない。
三姉妹のコンサートは不定期開催だった。
週に三回ぐらいする時もあれば、十年以上行わない時もあった。
だから今の時点で本当のことを知り得ているのは、妖夢と幽々子だけだった。

「ふぅ……」

しばらく進むと、冥界と地上とを隔てる門が見えてきた。
その前には、四本の柱が静かに佇んでいる。
ここは三姉妹の練習場所だった。
この辺りでも特に静かであるこの場所が気に入ったらしく、よく演奏をしていた。
妖夢もここで過ごしたことがある。
とても静かで、心が安らぐいい場所であった。
妖夢は柱の上に立った。目を細めて雲の向こう側、遠くを見つめる。

「…………」

幽々子様は言っていた。早く忘れるようにと。
自分たちのように長く生きる者は、全ての別れを覚えていてはきりがないのだと。
しかし妖夢は、その命令にだけは従わなかった。
なぜなら、三人は約束を守ってくれたから。
妖夢は目を閉じた。

『妖夢』
『妖夢ちゃん』
『妖夢ー』

浮かんでくるメロディ。甦ってくる演奏。
それに合わせて、歌う。
大きな声で、大きな笑顔で。

「ルナサ……メルラン……リリカ……」

こうして目を閉じれば、歌える。また楽しい時間がやってくる。
三人はそこにいる。そこにいて、演奏をしてくれる。
だから妖夢は忘れない。三人のことを。
今まで過ごした、素晴らしい日々を。三人と過ごした日々を。

「みんな……」

妖夢の歌声に誘われて、亡霊たちが集まってくる。そして耳を傾ける。
まるで、あのときのように。三姉妹の演奏―――それを聞いているかのように。
妖夢は腕を大きく広げた。

「さぁ、歌おう!」

妖夢が叫ぶと、亡霊たちが一斉に踊りだした。空気が一気に暖まる。
その盛り上がりは、三姉妹のコンサートに少しも負けていなかった。
皆時間が経つのを忘れ、歌い、踊り、笑った。
何より素晴らしい時間を過ごしていた。

「妖夢……」

騒ぎを聞いてやって来た幽々子が、その様子を遠くから眺めていた。
妖夢が心から楽しんでいる姿を見ることができる。それは、彼女にとって最高の幸せだった。

「今年も、ここは騒がしくなりそうね……」

音楽は時代を越え、いつまでも在り続ける。妖夢の心に、人々の心に。
誰かが口ずさめば、そこが会場となる。誰かが歌えば、演奏が始まる。
だから三人は、プリズムリバー三姉妹は、いつまでも在り続ける。いつまでも、演奏を続ける。
誰かが歌う限り。誰かが踊る限り。誰かが笑う限り。
ずっと、ここに在る。
全ての音が失われる、その日まで――――――







宴はまだ、これからだ。






一身上の都合で削除したものを、再投稿させていただきました。
一部手直しした箇所もあります。

何か感想などあれば、ぜひ一言お願いします。

プリズムリバーを書くのって楽しいですね。やっぱり。
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コメント



0.600簡易評価
5.100ry削除
泣いた(つω;`)
8.無評価jem削除
とても良い話でしたTT
9.100名前が無い程度の能力削除
点を入れ忘れてしまいました;;
13.20名前が無い程度の能力削除
なんと言うか、題材はいいと思うのですがどうにも物語にのめり込めませんでした。
文章があざといと言うか、稚拙と言うか、表現不足と言うか。
引き込まれるような物がなく、ただ一方的に流されて行くような、そんな感じです。
思う所があって一度削除した物の再投稿と言う事なのですから、もう少し練り込みが欲しいなぁ。と
14.40名前で呼ばれない程度の能力削除
ストーリーはいいと思いますが、出来ればもう少し詳しく描写して欲しかったかなと。
前編での最初の演奏や、後編でルナサが二人に告げる台詞等、表現が少なかったのが残念です。
ただ、ルナ×魔理のシーンは好きでした。
17.無評価p削除
自分はプリバが好きです。
キャラが亡くなる描写は人それぞれ賛否両論があると思います。
救いようが無く、消える儚さを評価するのであればよく出来た話だとは思います。
ただ自分は、架空のキャラとはいえそれに耐える事ができませんでした。
人生においても様々な別れを思い出してしまい、3日は鬱がリアルで続いちゃいましたw

文章自体は、最後まで苦なく読めましたし(精神的に厳しかったですが
このまま頑張ってもらいたいです。

ですが、プリバが好きに自分にとっては以前読んだ時に
「読まなければよかった・・・。」
と思ってしまった作品になってしまいました。
こんな事を思ったのは、歪んでいる私だけなのかもしれませんが・・・

点数は具体的に付けれません、申し訳ないです。