Coolier - 新生・東方創想話

―ある夜―

2007/01/24 07:24:01
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もうすぐ夜が明ける。
現と虚が曖昧な時間は終わり、
現と虚は明確な基準を持つ陽光の下、分かたれる。
本に落としていた視線を上げて時計を見る。
時計の針は5時10分前を指していた。
「そろそろ寝ようかしら」
レミリア・スカーレットは誰に言うでもなく呟きながら今まで読んでいた本に栞を挟み、ぱたん、と閉じた。
夜の女王の時間は終わり、太陽の世界が始まろうとする曖昧な時間帯。
レミリアはこの時間帯が嫌いではなかった。
本をベッドサイドの机に置こうとした時にそれは聞こえてきた。
「いやぁぁぁああぁぁぁぁ!!!!」
空間を切り裂くような悲痛な少女の悲鳴。あるいはそれは世界に向けた絶望の叫びかもしれない。
「フラン・・・」
少女の叫びは続く、世界を破壊しつくすまで・・・



「フラン。またうなされているの?」
フランがうなされるのはいつもの事だった。
何度正気を失えばこの苦しみから解放されるのだろう・・・
「フラン・・・」
ベッドの中で激しくもがいているフランの髪を手で梳いてやる。
今のレミリアに出来ることはそれくらいしかなかった。
フランの首は自身の爪で傷つけた傷から血が溢れ、全てを拒むように閉じられた目蓋から涙がとめどなく流れ落ちてくる。
自分にはそれは止められないのだ。レミリアは悔しさで握り締めた手のひらから血が流れているのにも気付かなかった。
フランが何をしたというのだろう?
フランがこんな苦しみを受けるいわれがあるとでもいうのか?
いつもの出口の無い迷路がレミリアの頭に広がる。
その迷路は突然の波紋によって破壊された。
「っ!!」
それは突然だった。
それまで何も無かった空間に光の粒子が収束し、それは触れる物をすべて燃やし尽くす光弾となって四散した。
「くっ!」
レミリアは自身の右手から紅い霧を引き出し、それにぶつけた。
光弾と紅い霧が触れた瞬間。高圧の爆発と光が紅魔館を揺さぶった。



「お姉様ぁ!!」
フランは飛び起き、はぁはぁと荒い息をついた。
大丈夫。夢だから。全部夢だから。
そう自身に言い聞かせる。
「・・・え?」
目が焦点を結ぶと、そこに広がっていたのは夢の光景の延長だった。
破壊された自分の部屋。
彼女の正気が揺さぶられる。
「あはは・・・あは・・・また・・・壊しちゃった・・・」
「まったく、世話の焼ける子ね・・・」
「え?」
瓦礫の山の上にレミリアが立っていた。
その右肩から下が血の紅に濡れている。
「お姉・・・様?」
「どうしたのフラン?」
彼女は飄々とした様子でベッドの傍までやってきた。
「あ、ああ・・・私・・・お姉様を・・・」
フランの正気が揺れる。
ぎゅっと暖かい感触。
大好きな匂いに包まれる。
「大丈夫、私はここにいるわ」
「お姉様・・・」
フランはレミリアに抱きしめられていた。
血の匂いと大好きな匂いの中でフランの狂気は消えうせていた。
「お姉様、もう大丈夫よ」
「そう?・・・まったく、どうするの?これ。また咲夜に文句を言われるわ」
レミリアはふざけた調子で言いながらフランを離し、ベッドに腰掛けた。
「それは・・・そうね。魔理沙が来たことにすれば良いわ」
「そうね、そうしましょうか」
フフッとレミリアは微笑み、乱れたフランの髪を撫でた。
「さてっと。どうするの?この部屋じゃ今日は眠れないわね」
「・・・お姉さまの部屋で一緒に寝て良い?」
フランは心の中でクスッと笑った。レミリアがこのセリフを言わせようとしているのが見え見えだったからだ。
「しょうがないわね・・・良いわよ。でも服は着替えないとダメよ。血で汚れちゃうもの」
「うん」
「ほら、早くしなさい。・・・そうそう、明日は早く起きなさい。夜桜を見に行くのだから」
「・・・え?」
「博麗神社の夜桜が綺麗だと霊夢が言っていたからね。・・・分かった?」
「・・・うん」



「ああ、もう!まったく。そういうことは早く言ってください!」
「起きてすぐに言ったじゃない」
「・・・せめて前日に言ってください」
咲夜は夕方(彼女達にとっての朝)から大忙しだった。
なにせ彼女の主人が急に「今日は花見に行くのだから準備をよろしくね」と言い出したからである。
「良いじゃない。花見の時間は有限でも、咲夜の時間は無限でしょう?」
その諸悪の根元である彼女の主人はのん気に紅茶を啜っている。
「レミィ。私も行くの?」
レミリアの隣に座って手元の本に視線を落としていたパチュリー・ノーレッジがレミリアに視線をあげて聞いた。
「もちろん。あ、拒否権はないから」
「・・・言うと思ったわ」
はぁ、とため息をひとつ。視線をまた手元に移す。
「・・・さてと。あとはフランお嬢様のお夕食をお作りしてっと」
「ああ、それは良いわよ。いらない」
「・・・お嬢様」
キッと咲夜がレミリアを睨む。けしてレミリアには逆らわない咲夜らしからぬ行動だ。
「そんな言い方、酷すぎますよ」
「・・・ああ、何か勘違いしてるわね。私は”アイツも連れて行くからいらない”という意味で言ったんだけど?」
「・・・え?良いんですか。その、フランお嬢様をお連れしても」
「ああ、別に。フランも行きたいって言ってたし」
「そうですか。じゃあ、そろそろフランお嬢様を起こさなきゃいけませんね」
「あ、それは良いわ。いらない。”私がやるから”って意味でね」
レミリアは残っていた紅茶を飲み干すと立ち上がって言った。



「綺麗・・・」
桜吹雪―そういう言葉があることは本で知っていたが実際見るのは初めてのことだった。
桜がひらひらと風に泳ぎ、優雅に舞っている。
吹雪は紅魔館の窓から見たことがある。しかし、こんな桜色の吹雪は紅魔館の窓からは見えなかった。
「綺麗でしょう?」
「霊夢・・・」
いつの間にかフランの隣には霊夢が立っていた。
「桜はどうして美しいか、分かる?」
フランは無言で首を横に振り、否定を示した。
「狂気を秘めているからよ」
「狂・・・気?」
霊夢はこくっと頷き、桜が舞い散る空を見上げた。
「月もそうね。人は狂気に魅せられるの。日常と非日常の境界、それは狂気よ」
霊夢は意味深げにフランの瞳を見つめた。
「それは力の弱いものにはとっても危険なもの・・・だけど、力の強いものには大切な絆にもなるのよ」
「チカラ・・・」
「ええ、力。物理的なものでも、魔法的なものでもない。意志の力」
「何やってるの?ほら、フランもこっちにきて飲みなさい」
背後からレミリアの声が聞こえた。
咲夜もパチュリーも飲まないので退屈したのであろう。
「ほら、呼ばれてるわよ。呼んでくれる人がいるってとても素敵なことじゃない?」
霊夢は片目を閉じて悪戯な表情を作った。
「・・・霊夢。行こう」
フランは霊夢の手を取って駆け出した。
自分を抱きとめてくれる人の下へ・・・



これから何百年、何千年経っても変わらない真理がある。
それは、レミリアがフランの姉であり、その姉は妹を愛している。ということだ。
それは春になったら桜が咲くくらい、当たり前で、素敵なことなのだろう。
どうも初めまして。新参者ですが、どうかよろしくお願いします。
ほうらいやまかぐよ
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コメント



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8.80名など捨てた削除
吸血鬼姉妹のイイ話
13.90蝦蟇口咬平削除
魔理沙、普通に身代わりかよw
15.無評価名前が無い程度の能力削除
途中までの展開に凄く見覚えがあるんですが・・・
16.無評価名前が無い程度の能力削除
台詞と状況、行動がここまで被る事ってのはあるのかなぁ……。
次があれば、その時は是非貴方の「オリジナル」を見せていただきたいです。

その他の部分に関しても、少し唐突すぎるように思えます。
難しいとは思いますが、もっとキャラクターをじっくりと書くことによって、
物語というのはいくらでも良いものになっていきます。

マイナスという事も考えたのですが、
こちらの勘違いかもしれませんのでフリーレスにて。
17.無評価ほうらいやまかぐよ削除
どなたかの作品を見て書いたわけではなく、オリジナルのつもりなのですが、
先に同じようなシチュエーションのSSを書いたお方がいらっしゃって、
それで不快な思いをされた方がいらっしゃるのでしたら謝罪いたします。